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【た】

代（era）②
『地質学的な年代区分の単位。紀をいくつか集めたもの。これより大きな単位は累代（eon）と呼ばれる。代は年代層序区分の界に対応。ふつう、地質時代を始生代・原生代・古生代・中生代・新生代と分けるが、放射年代に基づく始生代・原生代の細分化が進んでいる。古生代以降の各代の境は、動物群の大きな変化を基準として引かれている。植物を基準とした区分は古植代・中植代・新植代と呼ばれるが、あまり一般的ではない。〔坂本　亨〕』
大気大循環（general circulation of the atmosphere）②
『極と赤道、南半球と北半球、海洋と大陸などの間の大気の大規模な循環現象。緯度約40゜を境に、これより低緯度側では地球表面に入射する太陽エネルギーは、地球表面が放射するエネルギーより大きく、高緯度側では逆になる。このような高緯度と低緯度の熱の不均衡は、大気および海流による熱の輸送によって補償される。すなわち、低緯度の暖気団は高緯度に移動して地球表面に熱を与えて寒気団となり、高緯度の寒気団は低緯度に移動して、地球表面より熱を受けて暖気団となる。大気の運動量などについても同様の輸送が行われる。〔倉嶋　厚〕』
第三紀〔Tertiary（period）〕②
『地質時代最新の新生代もうち、氷河時代より前の時代。G.Arduino（1759）の地殻4区分のうちの第3番目の名（montes tertiarii）が残っていまも使われている。古いほうから暁新世・始新世・漸新世・中新世・鮮新世に区分し、全三者を古第三紀、後二者を新第三紀という。K-Ar年代はおよそ65～1.6×10⁶年。〔石田志朗〕』
第三紀（系）〔Tertiary Period（System）〕④
『ラテン語のtertiarius（第三の）から地層名・地質時代名となったもの。
　18世紀はじめにヨーロッパでは、結晶質の岩石を主とし、金属鉱床を伴う山およびその岩石をprimitiv・primariとかprimaryとかよび（第一期層）、また石灰岩など成層岩からなり、鉱床は少なく化石を含む山をsecondariとかsecondary（第二期）とよんでいた（もちろん、これには時代の差という考えが入っている）。これにつけ加えて、イタリアのアルデュイノが、礫・砂・粘土・泥灰岩などの地層からなる低い山や丘陵およびその地層に対して「第三の」（terziari）とよんだのが始まり（1760年）。彼が1759年に手紙の中で次のように書いたのが翌年印刷された。Monti..primitivi o primari..secondari..e terziari, li monti e colli del terzo ordine, che sta a ridosso del secondo e talvolta anche del primo.（原始期または第一期、および第二期、第三期の山々、第2期のあとまたしばしば第1期のうしろにも存在する第三等級の山や丘）。
　「第一期」・「第二期」はその後すたれ、「第三」だけが現在も使われているわけである（フランス系の学者でprimary、secondaryを用いる人がいまでもまれにいる）。
　これに漢字をあてたのは、『地学浅識』の「第三迩（せき）層」（明治5年・1872）がおそらくもっとも古いと思われるが、ついで稲垣鉄之進の「第三期」（明治13年・1880）および富士谷孝雄の「第三紀」（明治16年・1883）となった。
　皮肉で有名なビアスの『悪魔の辞典』では、第三紀層は「鉄道線路、……かびの生えた長靴、ビール瓶、トマトの罐、酔っぱらった市民、無政府主義者……それにバカ者から成る」となっている。』
第四紀（だいしき）〔Quaternary（period）〕②
『地質時代最後の紀で更新世と完新世に区分。J.Desnoyers（1829）は第三紀に続く紀として第四紀を提案。C.Lyell（1833）は第三紀の後に現世（Recent）を置き、人類の出現以来の時期を指示するつもりであった。また、E.Forbes（1846）はこの時代は氷河で特徴づけられるとした。これらのことから、第四紀の別名として「人類紀」や「氷河時代」という言葉がしばしば使用される。1995年現在、一般に用いられている第四紀の期間はイタリアのブリカを模式地とするおよそ1.6Ma以降。この時代の堆積岩や火成岩を第四系という。〔熊井久雄・小林国夫〕』
堆積岩（sedimentary rock）②
『堆積物が累積して、圧密作用と膠結作用からなる続成作用を受けることにより固結して形成された岩石。水成岩や成層岩はほぼ同義。構成成分の起原により砕屑岩・火山砕屑岩・化学（的沈殿）岩・生物岩に大別されるが、起原の異なる成分の混合したものもある。堆積岩は地球の表面で地質時代を通じて形成されてきたため、各時代の地表の諸現象を記録しており、地表付近の環境の変遷を復元することに役立つ。また、含まれる化石により生物進化の歴史が分離抽出されるので、地史の尺度になっている。堆積岩は石油・天然ガス・石炭・石材などの資源を供給する点でも重要。〔松井　愈・久富邦彦〕』
堆積岩（sedimentary rock）③
『種々の大きさの岩石や生物遺骸の機械的な砕屑物、火山砕屑物および生物化学的・物理化学的な沈積物が、海・湖・河川・風などによりその起源の場所から多少の距離運搬され、種々の環境下に集積・堆積され、その後種々の作用により固化した岩石をいう。
　堆積岩は、地球表層部を構成する岩石圏の堆積のわずか5％を占めるのみであるが、その陸上での分布面積は実に75％と計算されている。したがって、地球の歴史を考える上には、堆積岩中に含まれる生物の遺骸（化石）や鉱物の種類、量などの研究が重要である。また、堆積岩中には、天然ガス・石油・石炭・ウラン・鉄・マンガンなどの有用鉱物が鉱床を形成しており、人間生活の貴重な財産となっている。
　堆積岩の分類については多くの研究者の提案があるが、そのひとつとしてPettijohn（1975）の分類を示す（図：略）。その起源により、破砕岩（漂礫岩など）、火山砕屑岩（凝灰岩など）、一般砕屑岩（礫岩・砂岩・粘土岩など）、蒸発岩（岩塩など）、沈積岩（石灰岩など）、混成岩（凝灰質頁岩など）などに分類することが多い。石灰岩や苦灰岩などの炭酸塩岩は、その起源が多様なので、特別の分類をする。混成岩は、起源の異なる砕屑物が混じりあった堆積物が岩石化したものである。なお、堆積岩の中でもっとも一般的なものは泥質岩・砂岩・石灰岩であり、その比率は80：15：5と計算されている。〔青柳宏一〕』
堆積作用（sedimentation）③
『堆積岩の起源物質である堆積物の母材の形成、その運搬や集積に関するすべての過程の総称をいう。単に堆積という場合もある。堆積物の母材としては、風化侵食された既存の岩石の破片、生物の遺骸、火山から供給された物質、生物化学的または物理化学的な沈積物などがある。母材の運搬および集積は、風、水流、氷河などの作用による。〔青柳宏一〕』
堆積物（sediment、deposit）②
『水中および大気中において、鉱物・岩石の破片や生物遺骸、水中の溶解物、火山噴出物などが機械的に沈積、または化学的に沈殿した集合物。堆積物が固結・岩石化したものが堆積岩。形成過程、構成物の組成、粒度などに基づいて細分されるが、大きな多様性をもつために統一的な分類が困難で、部分的に見解の相違がみられる。基本的な分類として、１）陸源砕屑物（terrigenous clastic）　礫・砂・泥など、２）火山砕屑物（volcaniclastic）　火山灰・スコリアなど、３）生物源堆積物（biogenic）　サンゴ砂・石灰軟泥など、４）化学沈殿物（chemical）　石膏・岩塩などが挙げられる。〔公文富士夫〕』
堆積物（sediment、deposit）③
『種々の大きさの岩石や生物遺骸の機械的な砕屑物、火山砕屑物および生物化学的・物理化学的な沈積物が、海、河川、湖、氷河、風などにより生成場所から多少の距離運搬され、堆積したものをさす。沈積物ともいう。これが固化したものが堆積岩である。
　このような定義で示される堆積物の母材には、実にさまざまな種類がある。まず、主として陸地の侵食により機械的に生成された堆積岩、火成岩、変成岩の破片があり、これらは水流や風などにより運搬され、沈積する。これらを岩屑あるいは砕屑物といい、その粒径により、礫、砂、粘土などとよばれる。次に、火山活動により生じたものがある。火口から直接に放出された火山灰、火山弾、軽石などであり、これらを総称して火山砕屑物（pyroclastic material）または火山岩屑とよぶ。また、堆積の場に生息していた生物の遺骸に起源するものがある。これらには、生息していた場所にそのまま埋積した植物（泥炭など）や動物（さんご礁など）の遺骸と、生息地から運ばれて沈積したものとがある。後者が種量ともはるかに多い。特殊なものとしては、生物化学的あるいは物理化学的に形成された沈積物や沈殿物がある。たとえば、沼沢地において鉄バクテリアの生物化学的な作用によって生じる沼鉄鉱などがある。また、河川、湖沼、海などの水に溶けている各種の塩類が、他の塩類との化学反応や水分の蒸発のために、溶液より沈殿して形成されるものがある。岩塩、石こう、硬石こう、ドロマイトなどの鉱物がその例である。
　堆積物は、運搬・集積される堆積環境に応じてその組成が異なってくる。これは、堆積環境を規制する物理学的条件（流れの方向、速度など）と化学的条件（塩分濃度、Eh、pH、温度）に差があるからである。陸上環境（氷河、河川、デルタなど）で影響する主たる因子は、雨水、地表水、氷河など地表面のものである。内陸盆地（淡水湖および塩水湖）に供給される砕屑物の大部分は河川または氷河起源であり、一般にその組織はかなり均一であるが、化学組成は変化に富む。沿岸（ラグーン、河口など）では、陸（河川、雨、風など）と海（潮流、波浪など）による堆積・侵食作用の両方の影響を複雑に受けるため、堆積物がレンズ状を呈することが多い。海成環境（浅海、深海など）は堆積物の起源とともにもっとも重要で、陸からの距離と海底の深度とに影響された堆積物を生じる。
　現世海底堆積物の研究によると、含有される粘土鉱物としてもっとも一般的なものはモンモリロナイト、緑泥石、イライト、カオリナイトであり、これらの量比は一様でないことが認められている。また、ときには海緑石が濃集して見いだされることがある。〔青柳宏一〕』
堆積盆（堆積盆地）（sedimentary basin）③
『堆積盆地ともいう。地殻の一部に長時間にわたり広域の沈降が起こり、そのため堆積物の集積が行われ、後に堆積岩が地層として発達する盆状の場所をいう。一般に堆積物の層厚は、堆積盆周辺で薄く、中心に向かって厚くなる傾向をもつ。〔青柳宏一〕』
台地（plateau、tableland、platform）②
『地形学では平坦な頂上をもつ卓状の高地（plateau、tableland）。地質学では、大陸の広大な面積を占め、比較的薄い地層が水平またはわずかに傾き、その下に先カンブリア時代の基盤岩類がある地域（platform）。ロシア台地や米国中部の大平原地方はその代表的なもの。広義には基盤岩類が広大に露出する地域、すなわち楯状地を含めることがあり、この場合クラトンと同義。卓状地または卓地と訳す人もある。黄汲清（1959）は、中国東部の台地（中国語では地台）がロシア台地と若干異なるので、中国のものを準台地（中国語で準地台）、ロシアのものを正台地（正地台）とした。〔山下　昇〕』
ダイナモ理論（dynamo theory）①
『ダイナモ（発電機）に類似した機構で地球、太陽、銀河などの磁場を説明する理論で、最も有力とされている。磁場は電流によって作られるが、抵抗による電流の減衰に抗して磁場を維持するための起電力として電磁流体の運動による電磁誘導を考える。必要な起電力を得るためには流体の運動には複雑な条件が課される。微分回転は磁場の子午面内成分から子午面に垂直な成分を作りだす。一方、対流運動は子午面に垂直な成分と子午面内の成分とを転換する。電気伝導性をもつ流体のこのような運動に伴う電磁誘導を起電力にして磁場をつくる作用をダイナモ作用という。ダイナモ作用が成立するためには一般に3次元的で非軸対称な運動が必要とされ、軸対称の運動や2次元的な運動だけでは磁場を維持できない。これを反ダイナモ理論という。太陽や銀河の磁場は微分回転と対流運動とが結合した機構がはたらいていると考えられている。地球磁場では対流運動だけがはたらいているという説もある。ダイナモ作用を考察するときに生成された磁場の流体運動への反作用を無視する理論を運動学的ダイナモ理論、考慮にいれるものを力学的ダイナモ理論という。地磁気についてのダイナモ理論には、磁場の日変化を説明するのにスチュアート（B.Stuart）が提出した電離層ダイナモ理論や、地磁気の成因、その異常分布、永年変化を説明するためにブラードが提出した核ダイナモ理論がよく知られている。』
ダイナモ理論（dynamo theory）②
『地球や惑星の固有磁場を、内部の電磁流体プロセスによって説明する理論。地球や惑星内部の導電性の流体（地球の場合は外核）の運動が磁場と相互に作用し、磁場を維持することが可能となる。1940年代にW.M.ElsasserやE.C.Bullardなどにより基本的概念が提唱された。1954年のBullard-Gellman（ブラード-ゲルマン）ダイナモモデルが一世を風靡したが、後に不完全であることがわかった。ダイナモ理論では、磁場をトロイダル磁場（toroidal magnetic field）とポロイダル磁場（poloidal magnetic field）に分けて扱うことが多い。前者は惑星内部で閉じた、例えばリング状の磁場で、惑星外部からは観測できない。後者は、例えば地球の双極子磁場のように惑星外部でも観測できる磁場である。ダイナモプロセスにおいて重要な素過程はω効果（ω-effect）とα効果（α-effect）である。前者は惑星の自転から生じるもので、この効果によりポロイダル磁場から強いトロイダル磁場が効率よく生成される。後者は渦運動による磁場のねじれが重要で、ポロイダル磁場からトロイダル磁場が、またトロイダル磁場からポロイダル磁場が生成される。〔本蔵義守〕』
台風（typhoon）②
『南洋および南シナ海で発生する熱帯低気圧。同種の熱帯低気圧に、大西洋のハリケーン、インド洋のサイクロンがある。日本の気象庁では、東経180゜以西、赤道以北の太平洋（南シナ海を含む）に発生し、風速17m/s以上に発達したものを台風と呼ぶが、国際的には風速33m/s以上に発達したものをタイフーンと呼ぶ。風速17m/sに達しないものは弱い熱帯低気圧。北太平洋でも東経180゜以東の風速33m/sに発達した熱帯低気圧はハリケーンと呼ぶ。ほぼ円形の等圧線をもち、前線を伴わず、エネルギー源は主として水蒸気の潜熱。年に平均約30個発生し、4～6個が日本に上陸する。〔倉嶋　厚〕』
→ダイヤモンド
太陽（sun）①
『恒星の1つで、太陽系の中心となる。半径は6.96×10⁸m、質量は1.99×10³⁰kgで、これらの数値は天体の諸量の単位としてもちいられることがある（太陽質量の記号としてM◎（内側の丸は黒丸）が用いられる）。銀河系の中心から約3万光年の距離にあり、太陽運動をしている。表面に見える黒点などの斑紋の移動やスペクトル線のドップラー効果から自転が認められ、自転軸によって太陽面の赤道、緯度が定義される。キャリントン（R.Carrington）が統計的に算出した太陽赤道と黄道の傾斜は7゜15'、昇交点黄経は73゜57'である。自転の角速度は赤道の方が大きく（赤道加速という）、緯度をφとしてa－b sin²φで表わされ、黒点ではa＝14.43゜、b＝2.13゜、Ca羊斑ではa＝14.56゜、b＝2.98゜である。赤道での自転周期は約25日、地球から見た値は約27日となる。放射するエネルギーの全量は3.8×10²⁶J/sで、地表に達する量の基準は太陽定数で与えられる。光のほか、X線や太陽電波なども放射される。太陽スペクトルから、スペクトル型G2のふつうの矮星で、有効温度は5800Kと推定される。恒星内部構造論から水素とヘリウム量が推定されるが、水素が他の元素よりもきわめて多く、ヘリウム量には不確定さが残る。太陽大気の重い元素の化学組成は炭素質コンドライト隕石といちじるしい相似性を示し、両者から太陽系元素組成が決められている。
　中心の温度は約1.4×10⁷K、密度は10²g/cm³と計算され、核融合反応によってエネルギーを発生する。内部と表層大気では放射平衡が成立するが、表層の下から半径の約1/10の深さまでは対流層がある。表層には外から順に、コロナ、彩層があり、その内側を反彩層と光球に分けるモデルを用いることもある。対流層の影響は表層におよんで、光球に粒状斑、白斑、黒点、彩層に羊斑などを生じ、コロナには紅炎が現われる。密度は外側ほど減少しているが、温度の低下は反彩層までで、彩層（1万度）、コロナ（150万度）と上昇し、対流層から非熱的にはこばれるエネルギーがこの高温をささえる原因と考えられている。黒点など表面に見える各種の斑紋は、生成、消滅、変動をくりかえし、それぞれの総量はほぼ同様な周期で変化するので、黒点の盛衰の周期を太陽活動周期ともいう。黒点は10³ガウス程度の磁場をもつが、ほかに10ガウス程度の磁場も点在する。極付近には1ガウス程度の一般磁場が存在して、太陽活動とともに変化し、太陽活動の上昇期には中間の0をはさんで極性が入れかわる。太陽の磁場はダイナモ理論で考察されている。太陽活動の盛衰は直接に、あるいはコロナから吹き出している太陽風を通じて地球にも影響を及ぼし、大きいフレアのときには高エネルギー太陽風、γ線、X線バースト、電波バーストなどが観測され、地球では磁気嵐がおこる。太陽から放射される高エネルギー粒子は宇宙線の一部を構成し、太陽宇宙線とよばれる。太陽の年齢は、隕石の年齢などから約46億年と推定され、これからほぼ同じ期間だけ主系列に滞在し、その後、赤色巨星へと進化する。』
太陽系（the solar system）②
『太陽引力の支配のもとに、惑星とその衛星、小惑星、彗星、惑星間塵などの諸天体が太陽のまわりを運行する力学的に調和のとれた系。惑星は太陽を一つの焦点とする楕円軌道を描く（ケプラーの第1法則）、すべての惑星の軌道はほぼ一つの平面に集中する、惑星の公転方向はすべて同一（北から見下ろすと反時計回り）である、隣りあう各惑星の公転周期の比は簡単な整数比になる（尽数関係）、惑星の軌道の配列に一定の数列が成り立つ（チチウス-ボーデの法則）、などの規則性が知られている。他方、金星の自転方向は公転方向と逆であり、衛星の公転方向にも逆向きのものがあるなどの例外性もある。また、太陽の質量は太陽系全体の99.866％を占めているにもかかわらず、太陽のもつ角運動量は太陽系全体のたった2％にすぎず、残りの98％は主に惑星の公転運動が担っているというアンバランスがある。この点は太陽系起原論のうえで大きな問題とされてきたが、まだ十分な説明はされていない。〔平尾良光・松尾禎士・小森長生〕』
太陽黒点（sunspot）②
『太陽の光球面にみられる黒い斑点。光球の温度6,000K に対し、黒点は約4,000Kしかないために黒く見える。黒点は2,000～4,000ガウスの強力な磁場で、エネルギーを運ぶ内部の対流を遮るため低温となる。黒点の直径は約7,000～5万kmに達し、群をなすものが多い。太陽面の黒点の数は太陽活動と密接な関係があり、活動の活発な時期には黒点数が多くなる。黒点数は黒点そのものの数や黒点群の数を考慮した黒点相対数で表すが、その増減の周期は平均11年である。また黒点磁場の極性は22年周期でもとに戻る。〔黒田武彦〕』
大洋底拡大説（ocean floor spreading hypothesis）②
『マントル上昇流により中央海嶺でつくられた海洋底が、マントル対流にのって中央海嶺の両側に広がっていき、海溝部でマントル中に沈み込み消滅するという考え。R.S.Dietz（1961）、H.H.Hess（1962）が代表。海洋底の磁気縞異常の発見や古地磁気層序、地殻熱流量の規則的変化などにより実証。〔端山好和・天野一男〕』
太陽定数（solar constant）①
『地表に達する太陽の放射エネルギーの基準値として用いられる定数。太陽と地球の距離は平均距離をとり、大気の吸収がないとした場合の値を用いる。地表の１cm²の面積に１分間に達するエネルギーをcal単位で表わし、その値は約 2.00 cal/min・cm²とされている。スミソニアン協会では長年にわたって太陽定数の実測を行なっている。大気の吸収をへた実測値は周期的変化をしめす。』
太陽風（たいようふう）（solar wind）②
『太陽の半径の数倍離れたコロナと呼ばれる領域からプラズマのガス圧が高く太陽の重力を超えて、外の空間に向かって高速に吹き出しているもの。太陽風の存在はL.Biermann（1951）によって、彗星の尾が太陽光の放射圧力以外の力を受けていることから予言された。太陽風中のイオンの主成分はH⁺（プロトン）である。次に多いのがHe²⁺（α粒子）で、そのプロトンに対する密度比は、およそ0.05である。ほかに、He⁺、O⁶⁺、C³⁺等のイオンの存在することが科学衛星による直接探査によって確かめられている。地球軌道周辺における太陽風の平均速度は秒速約450km、密度はおよそ2～5個/cm³、数nTの磁場を伴い、地球や惑星の磁気圏との相互作用に重要な役割を果たしている。〔町田　忍〕』
太陽放射（solar radiation）②
『太陽から放射される電磁放射の総称。近似的には5,700Kの黒体放射。エネルギーが最大の波長は0.47μm付近。全エネルギーの約半分は可視光線が占め、残りの半分は赤外線、さらに少量を紫外線が占める。地表面に到達する太陽放射のスペクトルには、大気中の物質（水蒸気など）による吸収帯を生じ、また散乱・反射によってエネルギーは弱められる。〔倉嶋　厚・小森長生〕』
大陸移動説（theory of continental drift）①
『地球上の各大陸が、地質時代を通じて大規模な移動を行ない、相対位置を変えてきたという説。1912年にウェーゲナーは大西洋両海岸線の相似性、古気候学、古生物学などの根拠にもとづき、各大陸は中生代まで1つの巨大大陸をなしており、その後に分裂、移動して今日の形をとったと主張したが、移動を可能にする物理的機構が不十分なため、一般には否定された。1950年以後、古地磁気学の研究結果を説明するために、大陸が移動するという考えが復活し、海洋底拡大説を経てプレートテクトニクスとして統一された。大陸移動の機構についてはマントル対流説などが提唱されている。』
大陸漂移説（theory of continental drift）②
『シアル質の大陸塊（大陸地殻）がシマ中に浮かび、相互に位置を変えて漂移するという説。今日ではリソスフェアがアセノスフェアの上を移動するという考え。古くはA.Snider（1858）やF.B.Taylor（1908）が述べたが、有名になったのはA.Wegenerの論文（1912）と著書（1915）が出てから。彼によると現在の各大陸は石炭紀後期まで単一の汎陸（汎大陸Pangaea）をなしていたが、その後、段階的に分裂・移動して現在のようになったという。大西洋を挟む両海岸線の平行性から考えついたといわれ、グロッソプテリス植物群その他の古生物、石炭～ペルム紀の氷河遺跡、古期岩の構造方向などが主な根拠とされ、また原動力として地球の自転による赤道方向への力（遠心力）と西方への移動力が考えられた。1920年代には世界的に大きな影響を与えたが、主として地球物理学方面から力学的にありえないとして葬られた。しかしヨーロッパと北米の岩石から求めた極磁の位置の変化が大陸の移動で説明できる（S.K.Runcorn、1955）ことから、にわかに復活。F.J.Vine et al.（1963）らによる海洋底拡大説、1960年代後半のプレートテクトニクスの出現によって多くの支持を得、今日に至っている。〔山下　昇・野村　哲〕』
大陸棚（continental shelf）②
『海岸線と大陸斜面の頂部（大陸棚外縁、通常130～140m）の間で、きわめて緩傾斜（約0.1゜）の海底。大陸棚外縁が明瞭でない場合には水深200m以浅とする。約17,000年前のウルム氷期最盛期の海面低下によって大陸棚の概形がつくられたと考えられている。南極大陸周辺では大陸棚外縁の水深が500m程度であり、内側のほうが深く800m以上になることもある。大陸棚は面積で全海洋の17％を占める。佐藤任弘は大陸棚をおぼれ谷型（内湾型・瀬戸内型）、浸食型（波食型・氷食型）、地質構造型に分類している。〔茂木昭夫・中尾征三〕）』
大陸地殻（continental crust）⑬
『That type of the Earth's crust which underlies the continents and the continental shelves; it is equivalent to the sial, and ranges in thickness from about 25 km to as much as 70 km under mountain ranges, averaging ～49 km. The density of the continental crust averages ～2.8 g/cm³ and is ～2.7 g/cm³ in the upper layer. The velocities of compressional seismic waves through it average ～6.5 km/s and are less than ～7.0 km/sec. Cf: oceanic crust.』
対流圏（troposphere）②
『大気圏を細分したとき、最も下層の部分。上限の高さは、地表から、熱帯で16km、寒帯で8km。地表が太陽熱で温められ、軽くなった空気が上昇する。逆に、上空では赤外線として熱を放出するほうが大きいので温度が下がり、対流が起こる。実際の気温は高度ともに減少するが、ポテンシャル温度（温位）はあまり変わらない。平均気温は地表で15℃、12km上空で‐60℃。地表付近が夜間に放射冷却によって冷えると、逆転層（inversion）が生じ、この層で対流が止まる。〔角皆静男・丸山健人〕』
troposphere (tro'-po-sphere)⑬
『That portion of the atmosphere next to the Earth's surface, in which temperature generally decreases rapidly with altitude, clouds form, and convection is active. In middle latitudes the troposphere generally includes the first 10 to 12 km above the Earth's surface. Cf: stratosphere.』
滞留時間（residence time）①
『〔１〕特定の化合物、元素などが１つの系内に滞留している平均の時間をいう。１つの系から特定の他の系へ移動する場合、その移動の方向を指定して滞留時間が定義される。滞留時間の逆数は移動の速度を表わす。地球化学や化学工学では反応を直接支配する重要な因子となる。
〔２〕流通反応系において、反応系物質をふくむ流体が高温や光照射あるいは触媒を充填した反応器の部分を通過するのに要する時間をいう。反応の経過時間に相当し接触時間ともいう。またガスクロマトグラフィーでは、試料を分離カラムの入口に注入してから試料中のある成分が出口から流出するまでの滞留時間をその成分の保持時間という。』
ダーウィン説（Darwin's theory）⑪
『C.ダーウィンの進化学説のうち、ふつうには特に進化要因論をさす。その中心は自然淘汰説である。ダーウィンは、主としてランダムな変異に対して自然淘汰がはたらくと考えた。しかし‘種の起源’初版でも器官の用不用の作用は認められており、ただ後年には獲得形質の遺伝を初期よりも重視している。なおダーウィンは、‘自然は自家受精をきらう’といい、他家受精が自然界において一般的であり、自家受精では生物の性質の退化が起ることを説いた。これがダーウィンの法則（Darwin's law、ダーウィン律 Darwin's rule）とよばれたことがある。』
ダーウィン説（だーうぃんせつ）⑫
『ダーウィンが『種の起源』において提唱した生物進化の仮説。その中心となるのは自然選択説であるが、用不用の考えも含まれている。生物は生存闘争の結果、個体の生存に少しでも有利な変異をもつものが保存され、種内に広がり、これによって新しい種が誕生し進化が起こるとした。』
卓状地(tableland、plateau）②
『水平な硬岩層が削り出された、やや大規模な浸食平坦面で、周辺の低地と急崖で境されるもの。アフリカ大陸、特に南部から東部一帯には、その好例が多い。これとは別に、構造地質学でいう台地（platform）と同義に使われることもある。〔若生達夫・田村俊和〕』
タクソン→分類群
曲流（meander）②
『河川の流路が多少規則正しく屈曲し、S字を連ねたような形を呈すること。蛇行、メアンダーとも。山地河川に生じる下刻しつつある蛇行を、穿入蛇行（incised meander）という。粗大な岩塊・巨礫が河床に集積したバーを避けて下刻すると、河道の側方移動を伴う生育蛇行が生じる。側方移動しないものは掘削蛇行。広い沖積平野上の曲流は自由蛇行。日本のような泥の多い平野の河川は、凝集性の高い後背湿地堆積物によって側方移動が制約される制約蛇行が一般的。〔荒巻　孚・池田　宏〕』
蛇行（だこう）（meander）⑥
『河川の流路が多少規則正しく屈曲し、正弦曲線状、またはS字を連ねたような形を呈すること。曲流ともいう。meanderの語源は、トルコのMeanderes川が著しく屈曲していたことに由来する。山地や丘陵地などに発達する峡谷状の穿（せん）入蛇行（incised meander）と侵食谷を形成しない沖積地上の自由蛇行（free meander）とに区別される。穿入蛇行は、下刻とともに側刻を行い、両岸の谷壁斜面の傾斜が異なる生育蛇行（ingrown meander）と、側刻に比べて下刻が著しく強く、両岸の谷壁が対称的な掘削蛇行（intrenched meander）とに区分される。自由蛇行や生育蛇行では、凹岸側（攻撃斜面）は水流により浸食され、凸岸側（滑走斜面）には土砂が堆積して、寄州（蛇行州）が形成される。その結果、屈曲の度合は次第に増大し、曲流に囲まれた袂（べい）状部は次第に下流側に広がるとともに、袂状部の基部にあたる頸状部は両側の河道が接近して狭くなる。洪水などによって頸状部が切断されたり、袂状部に新しい河道が形成されたりすると、旧河道は放棄され、三日月湖（oxbow lake、crescentic lake）が形成される。（図：略）』
楯状地（shield）②
『基盤岩類が広大な面積を占め、低平な陸地をなして露出する地域。1888年、E.Suessがカナダ楯状地に対して用いたのが最初。語意は西洋で昔用いられた楯。それを伏せると中央部がやや高く、周辺に向かって徐々に低くなる。典型とされるカナダ楯状地やバルト楯状地では、外方へ向かってきわめて緩く傾く古生界が周辺部を覆い、その前面（内側の斜面）がケスタに似た急斜面をなしてグリント（Glint）と呼ばれ、その内側に第四紀氷河時代に由来する湖をたたえる。実例に関するかぎり、大多数の楯状地は先カンブリア岩類からなる。なお、日本語本来の読みでは「じゅんじょうち」と読むのが正しいが、現在では「たてじょうち」という読み方が普通になった。中国では地盾（ティートゥン）という。〔山下　昇・藤原　暁〕』
shield [tect]⑬
『A large area of exposed basement rocks in a craton, commonly with a very gently convex surface, surrounded by sediment-covered platforms; e.g. Canadian Shield, Baltic Shield. The rocks of virtually all shield areas are Precambrian. Syn: continental shield; cratogene; continental nucleus.』
単位格子（unit cell）②
『結晶は構成原子が規則正しく三次元的に配列している。原子配列の繰り返しの周期の最小単位を包含する平行六面体が整然と三次元的に積み重なっていると見ることができる。この平行六面体を単位格子または単位胞といい、その三つの稜の長さと三つの交角の合計六つを格子定数（a、b、c、α、β、γ）という。その結晶の属する結晶系によって独立な格子定数の数は異なる。〔溝田忠人〕』
弾性波（elastic wave）①
『弾性体を伝わる弾性振動の波をいう。無限領域を占める弾性体では、波の進行方向の圧縮・膨張が伝わる縦波と、それに直交する方向のずれが伝わる横波がある。等方性弾性体のラメの定数をλ、μ、密度をρとすれば、縦波および横波の速度は、それぞれ〔（λ＋2μ）/ρ〕^1/2、（μ/ρ）^1/2である。その他、弾性体の表面にそって伝わるレイリー波、層状構造をもつ弾性体の表面を伝わるラヴ波などがある。流体内では弾性波としての横波はおこりｓない。』

断層（fault）②
『岩石の破壊によって生ずる不連続面のうち、面に平行な変位のあるもの。力学的には、岩石の剪断破壊を表す。この不連続面を断層面といい、その向きを走向と傾斜（または倒角）で表す。断層の両側の部分（盤という）の変位（方向と量）を示すのは実移動で、これの各方向の成分に走向移動・傾斜移動などがある。実移動の方向にかかわらず、断層をある特定の断面でみたときの見かけの変位を隔離という。断層は分類の基準によってさまざまの名で呼ばれ、鉛直断面でみた見かけのずれによって正断層・逆断層に（ただし、これらの語には違った定義を与える人もある）、断層面と地層面との幾何学的な関係によって走向断層・傾斜断層などに、実移動の方向によって走向移動断層・傾斜移動断層などに、地域的な地質構造との関係によって横断断層。縦走断層などに、また断層群の分布の形によって平行断層（parallel faults）・放射状断層（radial faults）・雁行状断層・共役断層などに分ける。応力と運動の関係に基づいて成因的に分類したものには、重力断層・衝上断層・走向移動断層などがある（M.P.Billings、1954）。正断層・逆断層をはじめ、古くからの術語については著しい混乱があるので、国際地質学会議（1967）は厳密な幾何学的分類を次のように提案した。

１）移動の方向がわかっている場合	a）strike-slip fault（走向移動断層）	イ　right-slip
		ロ　left-slip
	b）dip-slip fault（傾斜移動断層）	イ　normal-slip
		ロ　reverse-slip
	c）oblique-slip fault（斜め移動断層）	イ　right-normal-slip
		ロ　left-normal-slip
		ハ　right-reverse-slip
		ニ　left-reverse-slip
２）実移動の方向にかかわらず、隔離のセンスによる場合	a）strike-separation fault（走向隔離断層）	イ　right-separation
		ロ　left-separation
	b）dip-separation fault（傾斜隔離断層））	イ　normal-separation
		ロ　reverse-separation

〔参〕J.G.Dennis, ed.（1967）, Intern. tectonic dictionary, Am. Ass. Petr. Grol.。〔小玉喜三郎〕』
→『断層とは』のページを参照。

断層パラメーター（fault parameter）②
『震源断層を記述する物理量。断層面と食違い（すべり）の方向は、図（略）のように、走向φs、傾斜δ、すべり角λの三つの角度で表される。傾斜角の範囲を0≦δ≦90゜とし、断層の下盤側に対する上盤側のずれをすべり方向とする。断層の大きさを表す量として断層面積Sと食違いDがある。断層面を長方形で近似する場合には長辺、短辺をそれぞれ長さ、幅という。震源全体の大きさを表す量として地震モーメント（Mo）があり、Mo＝μDS（μは剛性率）の関係がある。断層の運動過程を表す物理量として、破壊フロントの伝播速度（破壊速度）、食違いの継続時間（ライズタイムτ）、食違い速度（D/τ）などがある。これらのパラメーターは地震波の放射パターンや波形、余震分布などから推定される。〔菊地正幸〕』

【ち】

地温勾配（geothermal gradient）③
『一般に地下の温度分布は深度に対して変化するが、これを単位深度区間あたりの温度変化率として表したのが地温勾配（単位℃/100m、℃/km）である。
　地温分布に勾配が生ずるのは、熱伝導によって地殻中を熱が流れるからである。地球内部には地球創生時に封じ込められた熱や地殻中の放射性元素の壊変により生じた熱が含まれており、これが地表面へ伝播してくる。堆積盆中で認められる深度の増加に伴う地温の上昇は、地殻中を流出してくるこの熱（地殻熱流量）に起因している。
　地温勾配（GG）は熱流量Qと対象とする地質断面を構成する岩石の熱伝導率Kとにより決定される（GG＝Q/K）。東北裏日本地域の堆積盆では3～6℃/100mであるが、表日本では1.5～2.5℃/100mであり、熱流量の差が大きく影響している。〔藤田嘉彦〕』
地殻（crust）②
『地球を構成する大きな成層構造のうち、いちばん外側の層。花崗岩層と玄武岩層とからなる大陸地殻の部分と、玄武岩層からなる海洋地殻の部分とに分けられる。本来、地球内部が溶融状態であると考えられていた時代に、冷却した地球表面の硬い薄皮という概念であったが、現在では1909年に発見されたモホロビチッチ不連続面より上の層を指す。大陸地殻での厚さは30～40km、ヒマラヤやアンデスなどの山岳地域では60km以上にも達する所があるのに対し、深海では海水を除くと10km未満の地域が大部分である。大陸と海洋の地殻では、その形成過程や年代にも大きな違いがある。大陸の地殻の中核部は原始地球の分化により形成され、その後のプレート運動に伴う分裂や付加作用などの変動を受けてきたのに対し、海洋の地殻は中央海嶺で形成され海溝で沈み込む歴史を繰り返してきたので、その年代は古くてもジュラ紀程度である。〔吉井敏尅〕』
crust [interior Earth]⑬
『The outermost layer or shell of the Earth, defined according to various criteria, including seismic velocity, density and composition; that part of the Earth above the Mohorovicic discontinuity, made up of the sial, or the sial and the sima. It represents less than 0.1％ of the Earth's total volume.』
地学（earth science）②
『地球科学とほぼ同義的に使われるとともに、学校教育での科目名としての意味合いが強い。これとの関連で、大学の教育系学部の多くで学科名として使われている。歴史的にみると、最初は幕末の蘭学者によってgeographyの訳語としてつくられ、geologyは地質学と訳されていた。1884年に小藤文次郎はgeographyを地理学、geologyを地学と訳すことを主張。93年の東京地質学会（日本地質学会の前身）の設立を契機にgeologyの訳として地質学が定着した。高校の科目としての地学は、戦後、物理・化学・生物とそろえる目的もあって制定された。これは、地層・岩石・鉱物・化石といった地下に関するものに加えて、気象学・海洋学・天文学の分野も含めており、自然をより広い立場でとらえようとするものである。〔金井克明〕』
地殻熱流量（terrestrial heat flow）②
『地球内部から地表に向かう熱の流れの量。その単位は10^-6cal/cm²sで、これをHFUと記す。地球内部には、地球創生時に閉じ込められた熱、放射性物質の崩壊による熱などがあり、熱伝導・熱放射・熱対流等により徐々に地表に運ばれている。地表付近ではほとんどの熱が伝導で運ばれていると考えられるので、ある場所での地温勾配dT/dZ（T：温度、Z：深さ）と熱伝導率Kを測れば、Q＝K・dT/dZから熱流量Qを求められる。実際の測定は太陽放射の影響を避けるため、陸では鉱山やボーリング孔で、海では深海底で行う。世界の平均値は約1.4×10^-6cal/cm²sで、海と陸とで系統的な差はみられない。熱流量は火山地帯、海嶺等の付近では大きく、シールド地域では一般に小さい。熱流量が大きいか小さいかは、その場所での熱源の多少、熱輸送能力の大小を意味し、さらに種々の造構活動の激しさの目安となる。大陸の熱流量は大部分、地殻中の放射性熱源で説明できるが、海洋地域の熱流の源は現在明らかではなく、地球の造構活動のなぞを解く重要なかぎとなっている。〔金森博雄〕』
地殻の化学組成（chemical composition of crust）②
『地殻での元素の平均含有量は、多い順にO>Si>Al>Fe>Ca等。元素の宇宙存在度と異なる順序は地球の形成と地殻の分化過程の反映。F.W.Clarke et al.（1924）による算出の試みをたたえ、クラーク数とも呼ばれる。以来、S.R.Taylor et al.（1985）などにより数値は与えられているものの、地殻の構成が明らかでないことと各元素ごとに分析試料がまちまちなため、モデルによる細かい数値の異同がある。これらの曖昧さを除き、地殻表層部の化学組成を系統的な試料の統一分析により求める試みもなされている（地質調査所、1995）。〔田中　剛〕』
⇒元素の存在度
地下水（groundwater）⑥
『地表面下の岩石・地層・土壌中の間隙や割れ目を大気圧以上の水圧で満たし、水循環の過程にある水。地層の堆積とともにその中に閉じこめられた化石水（fossil water）、鉱物の結晶内部に取り込まれている水など、水循環に加わっていない水は地下水に含めない。地下水は、それを貯留する岩石や地層の性質によって地層水（stratum water）と裂か水（fissure water）とに分けられる。地層水は地層や土壌を構成する粒子間の間隙を満たしている地下水、裂か水は岩石や地層中の割れ目、節理、空洞などを満たしている地下水である。また、地下水は、被圧状態の有無によって、被圧地下水（confined groundwater）と不圧地下水（unconfined groundwater）とに分けられる。不圧地下水の上表面は大気圧と等しい水圧を有し、地下水面（groundwater table）と呼ばれる。地下水面よりも上の部分には土壌水が存在する。』
地球（the earth）②
『太陽から3番目に位置する太陽系惑星の一つ。太陽からの平均距離　1.49597870×10¹¹m（約1.5億km、これを天文単位と称する）、公転軌道の離心率　0.01671、公転周期　365.2564日、公転軌道上の平均速度　29.78km/s。自転周期　23時間56分04秒、自転の角速度　7292115×10^-11rad/s、公転軌道面の垂線に対する自転軸の傾き（赤道傾斜角）　23゜26'59''。地球全体の形は回転楕円体に近似され、赤道半径は　6378.140km、極半径　6356.755km、平均半径　6371.012km、扁平率　1/298.257、赤道の全周　40075.040km、子午線の全周　4007.880km。地球の全質量は　5.974×10²⁴kg、平均密度は　5.515g/cm³である。太陽系の中では水星・金星・火星とともに地球型惑星のグループを形成する。地殻・マントル・核からなる固体部分と、それを取り巻く水圏（主に海洋）、大気圏が存在する。他の地球型惑星に比べて豊富な水をもち、水惑星ともいわれる。現在の大気組成は、体積比でN2　78.088％、O2　20.949％、Ar　0.93％、CO2　0.04％その他。大気中に遊離酸素が約21％も含まれることが他の惑星と異なる大きな特色である。〔小森長生〕』
Earth⑬
『That planet of the solar system which is fifth in size of the 9 major planets, and the third (between Venus and Mars) in order of distance from the Sun (about 150×10⁶km, or 93 million mi). Major data for the Earth: equatorial radius: 6,378 km (3,963.5 mi); polar radius: 6,357 km (3,941 mi); mean radius: 6,371 km (3,950 mi); equatorial circumference: 40,075 km (24,902 mi); surface area: 5.101×10⁸km² (197×10⁶sq mi).』
地球科学（Earth science）②
『地球の表層部から地球内部までを含めた地球全体を研究の対象とした総合的自然科学。現在の地球の構造や運動を解明するだけでなく、地球の生成から現在までの歴史の解明を目的とする。地形学・地質学・古生物学・岩石学・鉱物学・火山学・地球化学・地球物理学などに分けられる。地球の研究は、最初は石炭の採掘を目的とした地質学から出発したが、地球についての認識が深まるにつれてさまざまな研究分野に分化。各分野の研究は、独自の体系で進められてきたが、すべて互いに密接に関連しあっているので、全体を統合した名称としてこの語が使われるようになった。大気や海水は、地球表層部との相互作用があるだけでなく、地球の歴史のなかで形成されてきた地球の一部であるので、広い意味で地球科学の分野と考えられる。また、地球は太陽系の惑星の一つであるとともに、地球の形成は太陽系の形成の一部でもあるので、特に太陽系を中心とした天文学との関係も深い。〔金井克明〕』
earth science⑬
『An all-embracing term for sciences related th the Earth (analogous, in educational parlance, to “life science”). It is occasionally used as a syn. for geology or geological sciences, but this usage is misleading because in its wider scope earth science may be considered to include such subjects as meteorology, physical oceanography, soil chemistry, and agronomy. The term is generally used in the singular.』
地球磁場（geomagnetic field、earth's magnetic field）②
『地球圏で生成される磁場。地球磁場の強さを表すのに、以前はガウスやガンマを使っていたが、最近は磁気誘導（magnetic induction）もしくは磁束密度（magnetic flux density）の単位であるテスラ（T）を用いる。また、微小な変化を示すときはテスラの10^-9倍であるナノテスラ（nT）が使われる。地球磁場には、地表より下に起原をもつ内部磁場（internal field）と地表より高い所に起原をもつ外部磁場（external field）とがある。外部磁場は主に電離層や磁気圏を流れる電流によりつくられ、内部磁場よりも弱く、一般に変化が速いと考えられている。内部磁場は地殻起原の磁場・誘導磁場・核起原の磁場に分けられる。地殻起原の磁場は地震や噴火時のような変化を除くと、大部分は岩石の残留磁化に起因しており、ほとんど時間変化しない。地殻起原の磁場は数nTから1,000nT程度の強さであり、地域によって大きく異なる。誘導磁場は、外部磁場の変動などによって地殻や海で誘導される電流に起因する磁場である。核起原の磁場は流体鉄を主成分とする外核でダイナモ作用によってつくられていると考えられ、時間とともに変化する。この磁場は他起因の磁場と比較すると非常に強く、全地球磁場の9割以上を占めていることから主磁場（main field）と呼ばれる。主磁場は現在地表では約11゜傾いた地芯双極子磁場に近い形をしており、赤道付近では約3万nT、磁極付近では約6万ナノテスラの強さをもつ。マントル起原の磁場は存在しないと考えられている。これはマントルでは構成物質がキュリー点を超えているために残留磁化をもたないことと、運動速度が遅いためにダイナモ作用がないことによる。〔横山由紀子〕』
地球磁場の逆転（reversal of the geomagnetic field）②
『地球磁場の時間的変動のうち、地磁気双極子の極性が変化する現象。現在のように地磁気双極子のS極が北極側にある正磁極（normal polarity）とその逆の逆磁極（reversed polarity）の状態が交互に起こる。第三紀以降の火山岩のなかに現在の地球磁場方位と逆向きの残留磁化をもつものがあることを発見したB.Brunhes（1906）や松山基範（1929）によって提唱されたが、自己反転磁化の発見により疑問視されたこともあった。1960年代になってA.Cox、R.Dell、G.DalrympleやI.McDougallらは正帯磁した火山岩と逆帯磁した火山岩の放射年代が系統的に異なることを示し、約3.5Maから現在まで正磁極の期間と逆磁極の期間が繰り返されたことを明らかにした。また、海底堆積物の残留磁化や海洋底の縞状磁気異常にもよく一致した極性変化が見いだされ、地球磁場の逆転が実証された。縞状磁気異常から推定されるジュラ紀後期以降の地磁気極性年代尺度では、地球磁場逆転の間隔に特定の周期はみられない。白亜紀には約4,000万年にわたる正磁極の期間が存在したが、最近500万年間の平均的な逆転間隔は約20万年である。逆転に要する時間は数千年～1万年程度と見積もられ、その間の地磁気強度は通常より弱いと推定されている。さらに、仮想的地磁気極（VGP）の移動経路が地域によって異なることから、地球磁場の逆転時には地芯双極子が減衰し、逆向きに成長したと考えられる。地球磁場が逆転または中間的な方位をとった後、1万年以下の短期間のうちにもとの状態に戻ったことを示唆する残留磁化の記録も知られている。このような現象をエクスカーション（geomagnetic polarity excursion）と呼び、地芯双極子が減衰した後、逆転せずにもとの極性に戻ったもの（aborted reversal）とする解釈もある。しかし、エクスカーションが汎世界的な地球磁場の変動であるという確証はなく、磁気層位学上の意義も明確にされていない。〔林田　明〕』
地球楕円体（earth ellipsoid）①
『地球のジオイドの形状を最もよく近似する回転楕円体。その幾何学的形状は赤道半径aと極半径bで定義されるほか、離心率 e＝(a²－b²)^1/2/a、扁平率 f＝（a－b）/a もよく用いられる。幾何学的形状に加えて地球との相対位置を定めた地球楕円体を準拠楕円体といい、測地学的（地理学的）緯度・経度は準拠楕円体の表面に立てた垂線によって定義される。幾何学的形状に加えて地球の質量M、自転角速度ωを指定すると楕円体の重力が定まる。これが標準重力（正規重力）である。
　現在最も信頼できる地球楕円体のパラメターは次のとおりである（測地基準系 1980）。
　a＝6378137m、e²＝0.00669438002290、1/f＝298.257222101、ω＝7.292115×10^-5rad/s、GM＝3.986005×10²m³/s²
なお、日本では近代的測量が行なわれるようになって以来、ベッセル楕円体を準拠楕円体として用いており、測量法によって
　a＝6377397.155m、1/f＝299.152813
と定義する。』
地形（topography）②
『地球の表面形態をいう。その規模から大・中・小地形と、微地形に4区分。大地形には楯状地・卓状地・造山帯、中地形には褶曲山地・断層山地・曲降盆地・地溝、小地形には段丘・扇状地・低湿地、微地形にはガリ・自然堤防などがある。形成機構からは主として地球内部の営力による変動地形・火山地形と、河川・海・風・氷河など外部からの営力による地形に区分。小・微地形は主として外的営力によって形成されると考えることができる。〔中山正民〕』
地形学（geomorphology）②
『地形の由来・歴史・成因を研究する科学。土地あるいは地域の個性（地域性や歴史性）を認め、その成立ちや性質を地形を鍵として解くことで、適切な利用に役立てることを目的とする。第四紀の地形変化を時間の目で調べる地形発達史的研究、地殻変動を読みとる変動地形学、気候条件の空間的差異と時間的変動の影響を重視する気候地形学、地表物質の性質と地形営力から異なる地形プロセスが生ずることを重視した動的地形学（地形営力論）、地中水の働きを重視した水文地形学、生物の働きに注目した生物地形学、さらには地形を統計的・理論的に究明しようとする理論地形学などがある。〔岩塚守公・池田　宏〕』
地溝（graben）②
『ほぼ平行な2本以上の断層によって限られ、その間が相対的に沈降して形成された狭長な地形的凹地。片側のみが断層である場合を半地溝ということもある。E.Suess（1885）が鉱山用語を転用して、紅海やライン峡谷を例として最初に使用。地溝縁辺の断層は多くの場合、傾斜60゜前後の正断層で、数本組み合わさって階段状の地形をなすことが多い。規模の大きな地溝には火山活動を伴うことがある。最近では、地溝という用語は相対的に規模の小さな地形に対して用いられ、東アフリカ大地溝や大西洋中央海嶺の中軸谷のように、大規模でかつ世界的なつながりをもつ凹地には、リフトバレー（rift valley、大地溝）が使われる。〔角田史雄・公文富士夫〕』
地向斜（geosyncline）②
『J.Hall（1859）はアパラチア山脈の古生層が非常に厚いことに着目し、山脈は地殻の撓（とう）曲によって非常に厚い浅海堆積物が形成された所に生ずることを主張した。J.D.Dana（1873）はこれをgeosynclinalと名づけた。その後地向斜（geosyncline）の語が地殻の下方への撓曲によって厚い堆積物を生じたものに用いられるようになった。以後多くの分類がなされているが、基本的にはH.Stille（1936）による正地向斜（オーソ地向斜）が、造山帯に転化する最も大規模なものと考えられていた。正地向斜は、地層が厚く火成活動が盛んで、のちに造山帯の中核部を形成する優地向斜（ユウ地向斜）と堆積物が薄く火成活動のない劣地向斜（ミオ地向斜、副地向斜）がセットになっているものとされた。なお、大陸内にあって造山帯に転化しない沈降域は準地向斜（パラ地向斜）と呼ばれた。ヨーロッパアルプスの研究者は、地殻の撓曲によって形成された深い堆積盆を地向斜と考えた。この場合は地向斜堆積物の下部は深海堆積物で、上部ほどより浅海で堆積した堆積物となる。DanaやStilleらは地向斜形成の原因を地球の収縮に求めた。山脈形成論としての地向斜論は1970年ころを境にして、プレートテクトニクスにしだいにその地位を明け渡した。〔参〕J.Aubouin(1965), Geosynclines, Elsevier。〔清水大吉郎・天野一男〕』
geosyncline (ge-o-syn'-cline)⑬
『A mobile downwarping of the crust of the Earth, either elongate or basinlike, measured in scores of kilometers, in which sedimentary and volcanic rocks accumulate to thicknesses of thousands of meters. A geosyncline may form in part of a tectonic cycle in which orogeny follows. The concept was presented by Hall in 1859, and the term geosynclinal was proposed by Dana in 1973. Differing opinions of the origin, mechanics, and essential features of geosynclines are reflected in various schemes that have been used to define their aspects. Some are based on the tectonic relationship of crustal units, some emphasize mountain-building processes, and others are concerned with the relationship of geosynclinal sedimentation to subsidence. Recognition of the plate structure of the lithosphere has led to appreciation that nearly all geosynclinal phenomena are related to ocean opening and closing (Wilson, 1968). Cf: mobile belt.』
地磁気（geomagnetism、geomagnetic）②
『地球圏の磁気（magnetism）。地球磁場にかかわる諸現象を地磁気現象と呼ぶ。地磁気自体は物理量を指すものではなく、実際の物理量は地球磁場の強さや磁気モーメント等によって表される。しかし、慣用的には地球磁場とほぼ同じ意味に使われることが多く、例えば、地磁気ポテンシャル（geomagnetic potential）という言葉では、地磁気は「地球磁場の」という意味で使用されている。〔横山由紀子〕』
地磁気異常（geomagnetic anomaly）②
『地球磁場の空間的分布のなかで、周囲の平均的地球磁場からの差をいう。磁気異常とも。平均的地球磁場は国際的に決められた国際標準地球磁場（International Geomagnetic Reference Field：IGRF、DGRF、PGRF）が一般的に使われる。IGRFやDGRFは、球面調和関数で表現されていて、次数はn＝m＝10までである。この波長に対応する原因の深さは外核の内側であることから、IGRFやDGRFは核内でつくられた磁場といえる。この磁場を、観測された磁場の値から差し引くと、マントルと地殻で発生した磁場が残る。ところが、マントルは地表地球磁場への寄与がほとんどないことがわかっているので、差し引いて残った磁場のほとんどは地殻で発生した磁場といえる。つまり地磁気異常は地殻がつくる磁場といえる。地殻はマントルと比べてその組成は非常に不均質であり、その結果、短い波長の地質構造に対応する地磁気異常が観測される。地磁気異常は鉱物資源を探査する際に利用する場合がある。正負の地磁気異常間の距離や振幅比は、磁気モーメントの伏角や偏角、それにその場所の地球磁場の伏角と偏角（IGRFで代表されるもの）に依存する。〔伊勢崎修弘〕
地磁気極（geomagnetic pole、dipole pole）②
『地芯双極子がつくる磁場の極。地芯双極子の軸を通る直線（磁軸）が地表と交わる点。磁軸極とも。北半球にあるものを地磁気北極（磁北極）または北磁軸極（north geomagnetic pole）といい、南半球にあるものを地磁気南極（磁南極）または南磁軸極（south geomagnetic pole）という。地磁気極は磁極とは異なり、南北半球の極は地球中心に対して点対称な位置にある。1990年の国際標準地球磁場によると地磁気北極は北緯79゜、西経71゜のグリーンランド付近に、地磁気南極は南緯79゜、東経109゜の南極大陸上にある。〔横山由紀子〕』
地磁気三成分（geomagnetic three components）②
『地球磁場はベクトル量なので三つの独立な成分によって表記できる。この三つの地球磁場の成分を地磁気三成分または地磁気三要素（geomagnetic three elements）と呼ぶ。ある点で真北、東、鉛直下向きにそれぞれX、Y、Z軸をとったときの磁場ベクトルの各成分を、それぞれX、Y、Z成分と呼ぶ。また、全磁場ベクトルの大きさを全磁力F（total intensity）、水平面へ正射影したベクトルの大きさを水平分力H（horizontal intensity）と呼ぶ。このほかに、偏角D（declination）と伏角I（inclination、dip）によるひょうきがある。偏角とは水平分力ベクトルと真北とのなす角度で、北から東回りを正にとる。伏角は全磁力ベクトルが水平面となす角度であり、水平面から下向きを正にとって測る。三成分の表記にはこれらのうち（X、Y、Z）もしくは（H、D、Z）の組合せを用いることが多い。（図：略））〔横山由紀子〕』
地質学（geology、geological science）②
『地球（の表層部）の組成・構造・諸過程ならびに歴史を研究対象とする自然科学の一分野。地質学の観点（方法）によってとらえられるある地域の性質（特徴）を、その地域の地質（geology）といい、欧語では地質学と同じ表現をとる。19世紀中葉までに、層序学を根幹として確立された地質学は、その後しだいに分化し、鉱物学の観点から微視的に岩石を研究し、火成岩・変成岩の生成過程を考究する岩石学がまず独立した部門となり、層序学と構造地質学とが地質学の主な内容（分科）となった。層序学や構造地質学の方法によって地球の歴史を研究する分野は一括して地史学と呼ばれ地質学の主要な分科をなし、古地理学・古気候学・構造発達史・生物史などを包含する。広義の地質学の各分野が独立した今日、狭義の地質学は一般地質学と層序地質学のみを含む意味（古典地質学）に用いられたり、用法によってその意味は一義的ではない。初期の広義の地質学の対象に含まれる各分科を包含する用語として地質科学（geological science）という用法もある。〔絈野義夫〕』
地質学（geology）④
『ギリシャ語のgeo（土地・大地）とlogia（話・論理）から。前者は英語ではgeography（土地の記述→地理学）・geometry（土地の測定→幾何学）・georama（土地を見る→ジオラマ）に見られ、後者は「言うこと」の名詞語尾eulogy（賛辞）・tautology（類語反復）、また「学問」の意の連結形astrology（占星学）・theology（神学）などを作っている。
　もともとこのgeologiaは、中世ラテン語では、神に関する学問・芸術に対して、地上の（すなわち下俗の）ものに関する学問の意で、14世紀に用いたのがはじめである。例えば1687年セッサがナポリで出版した本の題名にGeologiaの言葉が使われているが、この本は占星術者が星や宇宙自身のことでなく、地球が天体にあたえる影響力を論じたものである。
　「地球に関する学問」という意味あいでは、1657年オスロで発行されたデンマーク語の本Geologia Norwegica（ノルウェーの地質）というのがあり、これが印刷された文献では一番古い用法である。もっともアダムスは1933年の論文で、イタリアの博物学者アルドロバンデスが少なくとも1605年以前に、この語をほぼ現代的な意味で用いているとのべている。
　とにかく、はっきりとした学問の一分野として、地質学の語が使われるようになったのは、その英語形geologyが最初であり、オックスフォード大学で物理学を講じたローベルが1611年オックスフォードで出版した本の表題に用いている。彼はその本の内容について「土・金属・準金属に関する今昔の本草家・化学者のすべての研究を総括する鉱物の普遍的な歴史」を扱い、「その場所・成分・名前・種類・温度・有用性・選択の基準・用法・服用の仕方・危険・解毒」をのべるものだといっている。さらに時代が下って1690年、英国サホク州の教区牧師であったウォーレンが「地質学・またはノア洪水以前の地球に関する学問」（Geologia or a Discourse Concerning the Earth before the Deluge）という本を書いているが、彼はこのgeologiaの語の表題に用いたのみで、本文では一度も使っていないという。18世紀に入ってからは1736年ベーリーが「地質学、すなわち地球の記述または論文」（Geology, a Treatise or Description of the Earth）と用いたのをはじめ、マーチン（1738年）、ジョンソン（1775年）、ド・ルック（1778年）、ド・ソシュール（1780年）など数人の科学者たちが用いる。
　とくに、この最後のソシュールはアルプス山脈の初期の研究家であってgeologyが今日のような、はっきりとした学問領域をもつ言葉として確立するのに貢献したという。またロンドンに1807年、地質学会（The Geological Society）が11名の会員で設立されたが、依然、このgeologyおよびgeologistの語は、現在の意味よりはるかに広範に用いられていた。いずれにせよ、学問内容は古いほど広く、かつ漠然としていて、どこから現在の地質学といえるのか、定めることは困難である。
　一方、水成論で有名なドイツのウェルナーはイギリスやフランスで用いられているgeologyは-logyの語尾からもわかる通り、主に思索にたよった論理的な学問を意味しているため適切ではなく、彼のはじめた実証的な学問をGeognosiaまたは英語形geognosy（地察学の訳あり）とよぶべきであるとした。-gnosiaは「事実の記載、知識」などを意味する。この言葉は彼の弟子達に用いられたが、「水成論」の衰退と共に次第に使われなくなった。現在ではgeognosyは地球構造学という限られた分野をさす。geologyの語が決定的に優位になったのはライエルのPrinciples of Geology（地質学原理）（1830～33年）あたりからのようである。
　西洋のgeologyを「地質」と訳したのは、中国の『地理全志』だという（後閑文之助氏による）。また清の同治12年（明治5年・1872）ライエルのElements of Geologyが漢訳されたときには『地学浅識』と訳され、これは日本でも明治12年（1879）に『地学浅釋』として旧幕臣乙骨太郎乙（おつこちたろうおつ）』らが訓点を附して出版している。
　日本語の「地学」は、もともと幕末の蘭学者によって、geographyの訳として作られたものであった。杉田玄瑞の『地学正宗（せいそう）』（嘉永4年・1851）、渡部一郎『地学初歩』（慶応2年・1866）、宇田川榕精『万国地学和解（わげ）』（慶応4年・1868）、松山棟菴の『地学事始（ことはじめ）』（明治3年・1870）などは、その例である。また明治12年（1879）ヨーロッパ諸国の王立地理学協会にならって、日本の貴族・資産家・軍人が東京地学協会を作ったが、これはGeographical Societyである。
　日本では「地質学」の語をgeologyの訳としたのは幕府の蕃所調所にいた蘭学者箕作阮甫（みつくりげんぽ）（1799～1863年）で、彼は『地殻図説』の中で、はじめ地学と訳し、のち朱筆をもって質の字を加えたのは、以上のような事情によるものである。彼にはまた『地質弁証』（文久元年・1861）という題名の書物を出している。この中で、彼はゼオロギーの名義として「地質学（aardkunde）又ゼオロギーの名を其本義に就て考ふるなり地球の全体を統括せる一切天然の史学を云ふ」と述べている。彼の、この訳語は実地の地質調査にあたったライマンの弟子達によってうけつがれ、明治11年（1878）に地質課が設置されて、現在の地質調査所となった。ライマンの弟子達は師の教えを普及するため会を作り、雑誌を発行したが、それを『地質学社』・『地学雑誌』とした。
　一方、明治17年（1884）から東京大学の教職についた小藤文次郎（写真：略）はgeographyを地理学、geologyを地学と訳すべきことを主張し、自分が主宰して地学会を作ったが、これをGeological Societyとしている。彼は、明治19年「地理学ト地学ノ間違」という論文の中で「本邦ニテ訳字ノ不穏当ヨリ　ジヲロジー　ト　ジヲグラフヰー　ノ混雑ヲ起セリ吾人ハ通例　ジヲロジー　ヲ地質学ト」称スレトモ、訳字の意義、不明且ツ不適当ト彼レ是レ小言ヲ鳴ラス輩多ク、抑々地質学ノ質ノ字ハ体質カ又ハ性質（Material or quality）カ仮令両様ニ意義アルニセヨ、地質学ハ体質又ハ他ノ性質而已ヲ研究スル学科ニ非ス、併セテ地球創成ノ始メヨリ今日ニ至ル迄地球ヲ構成スル鉱物ノ変遷及ヒ地上生物ノ進化歴史ヲ構スル学科ナリ、之ヲ概言セハ地球ノ進化史学ナリ、故ニ地質学ナル名ノ不当ナルハ論ヲ俟タス」と述べている。
　このような当時の地学・地質学・地理学の混乱は学問分野の未分化の反映であって、地形・自然地理等が地質学の中でかなりの部分を占めていたからである。
　日本語の混乱の終止符は、明治26年（1893）の帝国大学の学生達による東京地質学会の設立・地質学雑誌の発行によって打たれたといえる。小藤は、この時も強い影響力をもっていたが、あえて「地学」に固執しなかったようである。
　その後、研究の進歩にともなって学問の分化や変化がおこった。自然地理学の独立、物理学の側面からの地球物理学の発展、鉱物学や古生物学の独自の発展など、学問分野のひろがり・分化・相互浸透が激しくなっている。
　教育制度の上では、地質学・鉱物学は明治以来、動物学・植物学とともに博物学の一部として扱われてきたが、昭和10年代に、主として生物学の独自の発展と、物理学からの地球物理学の分離によって変化がおこり、第二次大戦後「地学」の分野がおかれた。これには物理学・化学・生物学とそろえるという教育制度上の目的もあって、当初は内容的に必然性に乏しい部分もあったが、研究の進歩が教育内容に反映されるにつれて、統一性を増しつつあるといえよう。
　逆に学問・研究の上では研究の深まりとともに分化の進行が激しく、一本化は容易ではないが、長期的展望に立てば、その統一像が指向されているといえよう。とくに縁の薄かった天文学と地質学が宇宙物理学の進歩と地球化学の進歩によって、同じ宇宙地球科学をめざすようになったのは、その一例といえよう。
　すくなくとも、細分化された地球関係諸分野の協力は試みられており、国際地質科学連合（International Union for Geological Sciences）などがある。
　このような方向をめざして、たとえばオランダのベンメレンはGeonomy（図：略）という言葉で統一すべきだと提唱している。』
地質年代単元（geological-time unit、geochronologic unit）②
『化石やその他の資料を基に区分された地層や岩体の年代層序単元を基礎として設定された地質年代におけるある期間。地質学の対象とする時代の時間単元。地質年代単元は年代層序単元に対応させて階層的に区分され、高位から、eonothemと累代（eon）、界（erathem）と代（era）、系（system）と紀（period）、統（series）と世（epoch）、階（stage）と期（age）の関係となる。〔柴　正博〕』
地質年代表（geologic time table）②→『地質年代表』
『地球の歴史の全部または一部を、絶対年代に基づく時間軸を中心として、地質年代単元、年代層序単元などの名称とともに、また、生層序区分、古地磁気層序区分、¹⁸δ層序区分などとともに一つの表にしたもの。例えば、〈A geologic time scale〉（W.B.Harland et al., 1989, Cambridge Univ. Press）。〔柴　正博〕』
地芯双極子→双極子磁場
地層（stratum、bed）②
『厚さに比べて水平方向の広がりの大きい層状の堆積物・堆積岩など。ある地層は上下の他の地層と区別され、水平方向にも広がりをもつものとして空間的・層位学的に定義される。日本語の地層という用語は、地層区分の単元の大小にかかわらず一般に用いられる。〔絈野義夫・柴　正博〕』
地層〔stratum（複 strata）、bed〕⑥
『堆積岩の自然の状態における存在のしかたで、厚さに比べ分布のきわめて広い層状の形態を示す。ある地層は実際に野外に存在するものに対応し、空間的にも時間的にもある限定された広がりを意味する。地層は１枚の単層から厚さ１万mに及ぶ複数の単層の集合まで、その規模にかかわりなくさすのに用いられる。順に重なる一連の単層のあつまりは、岩質の変化や対応する地質現象・地質時代などをもとに、いろいろな単位でまとめられ命名される。なお、溶岩流や凝灰岩などの火山岩類も堆積岩からなる地層にはさまれて存在することから地層として扱うことができる。』
チチウス-ボーデの法則（Titius-Bode's law）②
『太陽系の惑星の軌道配列の特徴を説明するために案出された経験則。ボーデの法則とも。1766年ドイツのJ.D.Titiusによって発見され、J.E.Bodeによって広められた。各惑星と太陽との平均距離d（天文単位）は、d＝0.4＋0.3×2ⁿ（n＝－∞は水星、0金星、1地球、2火星、…）で表される。この式から得られる数列は…天王星までは比較的よく一致するが、海王星と冥王星では大きくずれる。この法則はそれほど深い理論的意味はないといわれるが、小惑星と天王星以遠の惑星の発見に果たした功績は大きい。〔小森長生〕』
中間圏（mesosphere）②
『成層圏よりも上、気温が高度とともに下降する高度50～85kmの間の気層。気温は80～90kmで最低の193K程度になる。成層圏との間にそれほど大きな差がないことから、両者を合わせて中間圏ということもある。空気の化学組成は、オゾンが存在するほかは対流圏とあまり変わらない。狭義の中間圏には雲はないが、夜光雲がある。〔角皆静男・丸山健人〕』
中心核（core）②
『地球内部の約2,900km以深の中心の部分。核とも。Fe、Niが多いことからニフェ（Nife）ともいわれた。地震波走時曲線の解析から深さ約2,900kmの所でP波の速さが急に遅くなり、S波の速さが0になる（伝わらない）。S波の速さが0であることや、地球潮汐の研究や、マントル・中心核の境界でS波が強く反射されることから中心核は流体であると考えられた。中心核内でのP波の速さは8～11km/s、密度は9～15g/cm³と考えられている。深さ5,100km付近にも小規模な不連続面があり、これの内側を内核、外側を外核と呼ぶ。内核の性質はまだはっきりわかっていないが、固体であるとする考え方が強い。弾性率や密度から考えて、外核は溶けたFeに多少のSi、Niが混じったものでできていると考えられている。〔金森博雄〕』
core [interior Earth]⑬
『The central zone or nucleus of the Earth's interior, below the Gutenberg discontinuity at a depth of 2900 km. It is divided into an inner core and an outer core, with a transition zone between, and is equivalent to the E, F, and G layers. Since only compressional waves propagate in the outer core, it is a fluid. The inner core, having a radius of approximately 1300 km, is solid, as shear waves have been observed to propagate through it. The magnetic field originates within the core.』
中生代〔Mesozoic（era）〕②
『古生代と新生代との間で、約2.51億年前から約6,500万年前に至る約1.86億年間。古いほうから三畳紀・ジュラ紀・白亜紀に三大別される。爬虫類の全盛時代で、特に恐竜類がジュラ紀・白亜紀に代表的であった。鳥類はジュラ紀に出現し、原始的な哺乳類も生存していた。魚類では硬鱗魚類が代表的で、硬骨類が白亜紀に出現した。頭足類のアンモナイト・ベルムナイトは代表的な無脊椎動物で、いずれも中生代末に絶滅した。トリゴニア・イノセラムス・ダオネラなども特有の二枚貝類である。植物界では古生代末期と中生代初期との間に大きな変遷がなく、白亜紀後半に新生代を特徴づける被子植物が急に繁茂しはじめた。裸子植物の球果類・ソテツ類やシダ類が代表的で、古生代に繁茂した鱗木・封印木・カラミテス類はまったく産出しない。南ヨーロッパ・北アフリカから南アジアにかけてテチス海がほぼ東西にのびていた。中生代を通じてヨーロッパは比較的静穏な時期にあり、テチス海の北側の海は陸棚海で、そこには化石に富む石灰岩・泥灰岩が堆積したが、テチス海は深い海の状態にあり、新生代に著しい造山運動を被り、アルプス・ヒマラヤ山脈を生じた。アジア東部・環太平洋地域では中生代に、中国大陸のインドシナ変動・燕山変動、米国西部のネバダ変動・ララミー変動、日本の中生代後半の変動のような大地殻変動が起こり、大規模な火山噴出や深成岩貫入もあった。〔田中啓策〕』

【つ】

月（the Moon）②
『地球の衛星。平均半径1,738km、質量7.347×10²²kg、平均密度3.34g/cm³、地球からの平均距離384,401km、自転周期27.32日。自転周期が1恒星月と等しいため常に地球に同一面を向けているが、秤動により全表面積の59％が観測可能。月の成因には、親子説・兄弟説・他人説などが提唱されたが、現在ではジャイアントインパクト説が有力。表面は、クレーターが多くて起伏に富む明るい高地と、平坦で暗い海に二分される。月には、直径500km以上の衝突盆地が約30あり、これらの内部に玄武岩質溶岩がたまったのが月の海。月の高地は原始地殻である。
〔内部構造〕　アポロが設置した地震計で月の内部構造が調べられている。P波速度は表面近くの4km/sから深さ25kmの7km/sまでしだいに速くなり、そこから深さ60km（裏側では100km）までは7km/sで一定、それ以深は不連続的に8km/sとなる。この不連続面以浅を地殻、以深をマントルと呼ぶ。地殻は斜長石質の岩石からできており、25km以浅では激しく破砕されているためにP波速度が遅い。マントルは、マグマオーシャンの斜長岩成分が抜けたものである。800km以深を通過する裏側での地震の記録ではS波を欠くことから、この部分が部分溶融しているらしい。金属のコアがあるかどうかは不明で、あったとしても半径500km以下。裏側の地殻が厚いために、月の重心は形の中心よりも2km地球寄りにある。
〔形成史〕　現在、以下の時代区分とその境界となったイベントの年代が適用されている。月の形成→先ネクタリス代→ネクタリスベースンの形成（39.2億年前）→ネクタリス代→インブリウムベースンの形成（38.5億年前）→前期インブリウム代→オリエンタレベースンの形成（38.0億年）→後期インブリウム代→海の玄武岩の大量流出の終了（32億年前）→エラトステネス代→現在までレイをもつ大型クレーターの形成（10億年前）→コペルニクス代→現在。古い時代ほど区分が密なのは、月では古い時代ほど衝突の規模と頻度が大きかったのに対して、最近30億年間は顕著な地質活動がないためである。
〔参〕D.Wilhelms(1987), USGS Prof. Paper, No.1348.〔小森長生・白尾元理〕』

【て】

DNA（deoxyribonucleic acid）⑨
『すべての細胞、いくつかの細胞小器官および多くのウイルスの遺伝物質を構成している核酸。染色体の主要な構成成分であり、プラスミドの唯一の構成成分である細胞中で、（デオキシリボ）ヌクレオシド三リン酸（特にdATP、dGTP、dCTP、dTTP）が酵素的に脱リン酸化および縮合反応してできる重合体（ポリヌクレオチド）。その産物はホスホジエステル結合で共有結合している（デオキシリボ）ヌクレオチドの長鎖である。二本鎖DNAは逆平行の2本の鎖（逆向きに伸びている。図77b参照〔略〕）からなるが、塩基構成は相補的である。相補的塩基間の水素結合、塩基間の電子の相互作用および疎水的な相互作用により、二重らせんが保持される。それぞれの鎖は、糖-リン酸の主鎖とそこから内側に突き出ている塩基からなる。二重らせん中の相補的塩基の積み重なりが、糖-リン酸主鎖中に主溝と副溝とよばれる2種類の溝をつくり出す（図77a参照〔略〕）。二重らせんの両端では、それぞれ1つの5'末端鎖が3'末端鎖と対をなしている。5'と3'は、末端のリン酸基と結合している末端デオキシリボースの炭素原子を示す。通常、核DNAは二本鎖DNAとして存在し、その形ですべての分子情報が蓄えられている（しかし一本鎖DNAバクテリオファージも存在する）。RNAとは異なり、DNAは希アルカリでは分解されない。DNAのヌクレオチド中に多く存在する塩基のうちの2つはプリン（アデニン、グアニン）であり、それらはピリミジンと（それぞれチミンとシトシンと）水素結合を形成する。DNAポリメラーゼによる半保存的な複製の際に、二本鎖DNAの一方の鎖は他方の鎖の鋳型となる。X線結晶学的および化学的データにより、J.WatsonとF.Crickは1953年に、現在も支持されている二本鎖DNAの3次元モデルを提唱した。』
DNA⑪
『デオキシリボ核酸（deoxyribonucleic acid）、あるいはデオキシペントース核酸（deoxypentose nucleic acid）の略称。糖成分がD-2-デオキシリボースである核酸。遺伝子の本体。塩基としてアデニン、グアニン、シトシン、チミンのほか、少量のメチル化塩基、すなわち5-メチルシトシン、6-メチルアミノプリンなどが含まれる。ある種のファージのDNAはシトシンの代りに5-ヒドロキシメチルシトシン、チミンの代りに5-ヒドロキシメチルウラシルあるいはウラシルを含む。ヌクレオシドが3',5'-燐酸ジエステル結合で連なったポリヌクレオチド鎖が2本、塩基間の水素結合により二重らせん構造を形成している。二重らせん（double helix）構造は塩基間の水素結合形成と上下に隣接する塩基同士の積み重なり引力とにより安定化され、らせんを取り囲む水和分子の集りによってその立体構造が保持されている。周囲の相対湿度の変化に応じてDNA繊維の規則構造は段階的に変化する。X線回折図の解析から、5種（A,B,C,D,Z）の型の構造状態が知られている。B型の構造は湿度90％以上（水中状態）に相当し、二重らせん分子の太さは直径nmで、ワトソン-クリックのモデルに該当する。B,C,A型の順に塩基対間隔はせばまり、相対湿度が減少するとらせんは中心軸方向に縮む（表：略）。A,B,C間の変換は可逆的である。他方RNAが二本鎖状態をとる場合にはA型構造にだけ安定化され、湿度による変動がなくてリボース環-2'-OH基と燐酸基間が水素結合されている可能性が高い。プリンとピリミジンを互い違いに連結させた合成DNAは、塩濃度が低い環境下で結晶化させるとD型の構造を示す。一方、高塩濃度下でグアニンとシトシンを交互に連鎖したものを結晶化すると異例な左巻きらせん構造がみられる。この構造は溶液中の塩濃度が変ればB型に変換する。左巻きらせん上では燐酸基間を結ぶ線がジグザグ（zig-zag）状なことから、Z型DNA（Z-form DNA, Z-DNA）とよばれるが、シトシンがメチル化されると生理条件に近い状態でDNA二重らせんはZ型の構造をとりやすく、実在が示され、生体内機能との関連が注目されている。ウイルスゲノムとしてのDNAの分子量は1～200×10⁶で、通例ウイルス粒子1個中に1分子の核酸が含まれるが、環状一本鎖DNAを核酸成分とするファージも存在する。細菌の染色体は1分子のDNAからなると考えられており、大腸菌の場合その分子量は約2.5×10⁹。真核生物の細胞では、DNAの大部分が核、特に染色体に局在し、塩基性蛋白質（ヒストン、プロタミンなど）その他と結合してデオキシリボ核蛋白質として存在する。細胞質とくにミトコンドリア・葉緑体などにも核のDNAとは異なる独自の少量のDNAが存在し、細胞質遺伝の要因となっている。DNAの定量法には燐酸の測定、糖部分（デオキシリボース）の呈色反応（ジフェニルアミン反応・システイン硫酸反応・インドール反応など）、塩基部分の紫外線（257～270nm）吸収によるものがある。組織切片ではフォイルゲン反応による検出法がよく用いられる。現在では、組換えDNA実験技術とDNA塩基配列決定法により、DNA上の遺伝情報が具体的な塩基配列として把握されている。（図：略）』
DNA（でぃーえぬえー）⑫
『デオキシリボ核酸、遺伝子の本体である。通常相補的な塩基配列から成る2本の鎖が二重らせん構造をとっている。それぞれの鎖はアデニン、グアニン、シトシン、チミンのいずれかの塩基をもつ4種類のデオキシリボヌクレオシドがリン酸を介して結合した、方向性をもつ分子である。2本の鎖は逆並行の方向性をもち、相補的な塩基対（アデニンとチミン、グアニンとシトシン）による水素結合で結合している。遺伝情報の担い手であり、正確に複製される。あらゆる体細胞の核に存在して細胞機能を支配し、また生殖細胞を通して子孫に伝達される。』
→『ゲノムとは』の中の『DNAと遺伝子』のページを参照。
DNAワールド（DNA world）⑪
『大部分の生命の遺伝情報の複製や蓄積が主にDNAによって担われるようになった時代のこと。RNAワールドからRNPワールドを経てDNAワールドになったと想定されている。35億年位前の微化石が発見されているので、少なくともそれ以降はDNAワールドであると考えられる。RNPワールドにおいて、RNAゲノムをDNAに転写する逆転写酵素が出現したことが、DNAワールド生成の鍵となった。遺伝情報のRNAからDNAへの移行により、ゲノムは安定化し、多くの情報の集積が可能となり、より高度な生命体が作られるようになったと考えられる。』
鉄隕石→隕鉄（iron meteorites）
テフラ（tephra）③
『火山砕屑物（pyroclastic material）と同義。噴火により火口から放出した物質のうち、噴火時または直後に破砕されたものをすべて含む。空中に高く放出された後降下した降下火砕物（pyroclastic fall）、地表面に沿って流出した火砕流（pyroclastic flow）、およびその中間的なものをいう。噴出時に液体として流出した溶岩流は堆積時またはその後に固結・破砕されてもこれには含まれない。〔歌田　実〕』
デボン紀〔Devonian（period）〕②
『中期古生代の後期（4.09億～3.63億年前、W.B.Harland et al., 1990）。英国デボン州に由来（A.Sedgwick et al., 1839）するが、標準層序区分は中部ヨーロッパが模式地。下位のシルル系との境界は、岩相急変のDowntonian下底（Ludlow Bone Bed）とする意見も強かった。逆に、ボヘミアではPridoli統（Downtonian相当）の上位の筆石Monograptusを含むLochkovianまでをシルル系とする意見もあった。現在では、広域対比に有効な筆石類のMonograptus uniformisの初出現層準、すなわちPridoli統-Lochkovian境界がシルル/デボン系境界とされている。上位の石炭系との境界も地域的な岩相と化石群の差異のため、Strunianの上か下か問題とされていた。現在ではStrunianはデボン系（Famennian）に含め、コノドントのSiphonodella sulcatasの初出現層準からを石炭系とする。この層準はアンモナイト類のGattendorfiaの初出現層準とほぼ一致するが、前者がわずかに下位にある。カレドニア変動によって、陸域の旧赤色砂岩帯・海域のアルデンヌ-ライン帯・地中海帯に分化したが、世界的に同様な海陸分布があり、サンゴのCalceolaや腕足類Stringocephalusなどの汎世界的分布、汽水環境下で大発展した魚類（魚類時代）の特性の世界的共通性が特筆される。〔沖村雄二・永広昌之〕』
テルミット法（thermit process）①
『アルミニウムの酸化のとき発生する多量の熱を利用した金属酸化物の還元法。アルミノテルミ法、ゴルトシュミット法ともいう。金属酸化物にアルミニウムの粉末を混ぜて点火すると、アルミニウムは酸化物を還元して自身はアルミナとなる。このとき発生する高熱により、遊離された金属はただちに融塊となる。炭素を含まない粗金属を作る目的に利用され、クロム、コバルト、マンガン、バナジウムなどの冶金に応用される。』
電磁波（electromagnetic wave）①
『真空または物質中を電磁場の振動が伝搬する現象をいう。マクスウェルは電磁気の諸法則を数学的に美しい形にまとめて電磁波の存在を理論的に示し（1864）、のちには光もまた電磁波であるという光の電磁波説をうちたてた（1871）。真空中の平面波では電磁波は光速度で伝搬し、電場と磁場との振動方向はどちらも進行方向と直角の面内にあって互いに垂直である。ヘルツ（1888）は初めて電気火花により電磁波を発生する実験に成功し、マルコーニ（1895）がこれを無線通信に応用した。一方、可視光のほかにX線、γ線などもやはり電磁波であることが知られた。しかし光電効果やコンプトン効果では光やX線の粒子的性質が現われ、光量子仮説が唱えられて、やがて量子電磁気学によっては波動性と粒子性の2重性は統一的に把握された。種々の電磁波とその波長などについては付録VII（略）。』
電子捕獲（electron capture）⑩
『軌道電子捕獲（orbital electron capture）ともいう。原子核が核外電子1個を捕獲し、原子番号が一つ小さい同重体に壊変する現象。この壊変様式をEC壊変（EC dacay）といい、β壊変の一種である。原子核に最も近いK軌道電子が捕獲されることが普通であるが、L軌道電子が捕獲されることもあり、それぞれK電子捕獲、L電子捕獲という。電子捕獲に伴い中性微子（ニュートリノ）が放出され、さらに捕獲された電子の空孔に外側の軌道電子が移行するため娘核種の特性X線が放射され、またオージェ電子が放出される。』
電子ボルト（electron volt）①
『素粒子、原子核、原子、分子などのエネルギーを表わす単位。記号はeV。電気素量eの電荷をもつ粒子が真空中で電位差1Vの2点間で加速されるときに得るエネルギー。1eV＝1.602×10^-19J（ジュール）＝1.602×10^-12erg（エルグ）。10⁶eVは、ミリオン電子ボルトあるいはメガ電子ボルト（mega electron volt）とよんで、MeV（メブ）で表わす。10⁹eVは、ギガ電子ボルト（giga electron volt）とよびGeV（ジェブ）で表わすが、アメリカではこれをbillion eectron voltとよびBeVで表わすことがある。』
天水（meteoric water）⑥
『雨、雪、雹（ひょう）などとして、地上に降下した大気中の水蒸気起源の水。狭義には雨水のこと。』
天然放射性核種（natural radioactive nuclide）⑩
『天然放射性元素ともよばれることがある。天然には下記に分類して述べるような放射性核種が存在する。元素として放射性核種しかないものも、宇宙も含め極微量まで考えると厳密にはほとんど天然に存在する。通常はテクネチウムTc、プロメチウムPm、ネプツニウムNp、プルトニウムPuおよびそれ以上の超ウラン元素は人工放射性元素としている。
i)　一次天然放射性核種とよばれるものは、宇宙における核種の合成により生成したが、その半減期が、少なくとも10⁸年以上のため、現在もなお天然に存在するもので、²³⁸U（半減期4.5×10⁹年）、²³⁵U（7×10⁸年）、²³²Th（1.4×10¹⁰年）のように壊変系列をなす親核種のほか、⁴⁰K（1.28×10⁹年）、⁸⁷Rb（4.8×10¹⁰年）、¹⁴⁷Sm（1.06×10¹¹年）、¹⁷⁶Lu（3.6×10¹⁰年）、¹³⁸La（1.1×10¹¹年）、¹⁸⁷Re（5×10¹⁰年）などがある。
ii)　二次天然放射性核種とよばれるものは、i)にあげた一次天然放射性核種で放射性壊変系列をなすもののなかに生まれるものである。²³⁸Uの系列には²³⁰Th（7.7×10⁴年）、²²⁶Ra（1600年）、²²²Rn（3.8日）、²¹⁰Pb（22.3年）、²¹⁰Po（138.38日）などがある。また、²³⁵Uの系列では²³¹Pa（3.28×10⁴年）、²²⁷Ac（21.77年）などがあり、²³²Thの系列には²²⁸Ra（5.75年）、²²⁸Th（1.9年）などがある。これらは短寿命核種であってもたえず親核種から生まれ、減衰するが、地球全体としてみると、最初の親の一次天然放射性核種²³⁸U、²³⁵U、²³²Thとそれぞれ放射平衡の状態にある。
iii)　誘導天然放射性核種は地球をとりまく成層圏も含む大気中および地球上の鉱物などのなかで、核反応によりたえず生成しているものである。半減期が5730年と長い¹⁴Cや1.6×10⁶年の¹⁰Beのほか、半減期12.33年の³H、53.3日の⁷Beなどは宇宙線の一次および二次粒子により生成するので宇宙線生成核種とよばれ、このほか³²Si、³⁶Clなども発見されている。地上のウラン鉱物などでは、自発核分裂および天然に生成する中性子による誘導核分裂で生成する核分裂生成物や²³⁷Np、²³⁹Puなども微量ながら天然に生成していることが見いだされている。』
天文単位（astronomical unit）①
『地球の公転軌道の長半径を基準として定義された天文定数で、天文単位距離ともいい、主に太陽系内の距離（長さ）の単位として用いる。記号はAU。１次天文定数の光速度c と光差（光が１天文単位を通過する時間）τAで表わして
　　　１AU＝c τA＝1.496×10⁹ km
の値が採用されている。内惑星の電波測距観測をもとにした地球と太陽の平均距離（長半径）は1.000001AUである。』
電離圏（ionosphere）②
『地表大気の外層で遊離の電子が多く存在する所。90km以下のD層、90～160kmのE層、それ以上のF層に分かれる。D層の遊離の電子は、夜はなくなるので、電波の反射のされ方が昼夜で異なる。対流がないので、気体は重力に抗して分子拡散で移動し、上層にいくほど低分子となる。最後は太陽光によって解離した酸素原子が主成分となるため、平均分子量が約16になる。熱圏（thermosphere）とほぼ同じ範囲。〔角皆静男〕』

【と】

同位体（isotope）⑩
『原子番号が等しく、質量数の異なる核種を互いに同位体という。同位元素、アイソトープともいう。同位体のうち、不安定で放射性壊変を起こすものを放射性同位体、安定なものを安定同位体とよぶ。同位体どうしの化学的性質は基本的に同じであるが、特に質量数の小さい同位体ではときとして化学的挙動に差が見られることがある。天然に存在する元素の同位体組成はほぼ一定に保たれるので、元素の原子量もほぼ一定である。』
島弧（arc、island arc）②
『海溝の陸側に存在する弧状の島列。広義には大陸の山脈も含めることもあるが、それを陸弧と呼んで、島弧と合わせて弧と総称することが多い。それは常に海溝とセットになって存在し、火山帯や深発地震帯などの特徴ある地形・地質現象を伴って島弧-海溝系をなす。プレートの収束境界と位置づけられ、海洋プレートが島弧側のプレートの下に沈み込むことが島弧-海溝系の各種の地学現象の基本的な原因とされている。弧状列島は現在の島弧という点では同義。島弧は地質時代を問わず、現在の島弧と同様な地質現象の現れに対して広く使われる。その点では、島弧では地形的な意味が薄くなり、収束境界に沿った火成活動や構造運動の要素が強調されるともいえる。島弧という語は、地形よりも構造的な意味合いが強いので、広義にはアンデス山脈のような陸弧（continental arc）も含むことになる。また、弧を火成活動の特徴に重きを置いて、火成弧（magmatic arc）または火山弧（volcanic arc）と呼ぶことがある。〔公文富士夫〕』
等面積投影法（equal-area projection、equiareal projection）②
『球面上の等しい面積が投影面上においても等しく表現される投影法。考案者の名をとってランベルト投影法（Lambert projection）ということもあり、またこれを構造岩石学に初めて用いたW.Schmidt（1925）の名をとってシュミット投影法ということもある。ステレオ投影と異なり、球面上の大円・小円は投影面上で円にならない。ステレオ投影におけるウルフネットの代りにシュミットネットが用いられる。投影法は図（略）に示すとおりで、球面上の点PはP'に投影される。球の半径をRとすれば、O'P'はｒ＝2Rsinθ/2となる。ファブリック要素を投影する場合、球面投影の下半球を等面積投影法で示す。〔小島丈児〕』
特殊相対性理論（special theory of relativity）①
『1905年にアインシュタインが、互いに等速運動する慣性系に対する相対性原理と光速度不変の原理とに基づいて構成した体系。歴史的には電磁気学の相対性原理にからむ問題を動機に発見されたが、この体系はすべての物理法則の基礎になる新しい時間・空間論であり、1908年のミンコーフスキーによる4次元空間の導入によって完成された。物理法則はミンコーフスキーの時空の対称性を反映して、ローレンツ変換によって不変な形をもつことが要請される。相対論的力学、相対論的電子理論、相対論的場の量子論などは素粒子物理学の基礎となり、また一般相対性理論、ゲージ理論などへと発展した。』

土壌（soil）②
『多かれ少なかれ腐食によって着色されている無機・有機の地殻最表層生成物。動植物とその遺体、母材、気候および地形などの要因の総合的な作用として歴史的に形成され、たえず変化している自然体で、その生成過程は土壌断面の形態や組成、性質に反映されている（V.V.Dokuchaev、1879の定義）。この土壌観の確立により、土壌学は農芸化学や農業地質学から独立の自然科学の一分野に発展。また、土壌は一定の地理的広がりをもち、緑色植物を生育させる能力、すなわち肥沃度（fertility）をもつ点で、その材料である岩石・地層と本質的に異なる。自然体としての土壌を、その材料である土壌物質（soil material、土質工学などで呼ぶ「土」）と区別するときは土壌体（solum、土壌のA層・B層を合わせたもの）と呼ぶ。〔松井　健〕』
土壌（soil）③
『〔生成と定義〕　土壌という語はいくつかの意味に用いられている。地質学的見地からは、土壌は岩石風化物に多少の有機物が混入したもので、岩石のサイクルにおける固結岩（堆積岩）の材料である。農林業においては、土壌は植物（作物）の根圏であり、養・水分の貯蔵庫および供給庫である。土木建築においては、地表の岩石風化砕屑物で構築の材料や土台になるものは起源を問わずすべて土壌であり、この場合は広く「土」とよばれる。これらの見方は土壌の性格と機能の一面を表しているが、いずれも土壌を静的に、単なる岩石風化物または利用上の資材として捉えたものである。これらの見方に立って公約数的な定義をすれば、「土壌は地表の膨軟な物質で、通常岩石風化物からなり、有機物と可溶性塩類を含み、植物が生育する所」（Webster's Third New Int'l Dictionary, 1971）とすることができるだろう。
　しかし、土壌学で今日最も広く受け入れられている定義は、次のように、土壌を自然史的産物とし、動物や植物と同様の独立した自然体と見なしたものである。すなわち、土壌は岩石風化物が地表のさまざまの環境因子の組合せ（自然地理的条件）の下で物理的、化学的および生物学的作用を受けて、有機物が加わり、時間を経て生成したもので、生成過程と経過時間を反映したいくつかの層位（horizon）からなる一定の形態的特徴を備えるに至ったものである。そして、生成した土壌は生成環境に対応した一定の地理的広がり（分布）をもつ。このような土壌の生成は、あたかも植物が時間とともに成長し、気候や立地条件ごとに特徴的な森林や群落を形成するのに似ている。土壌を独立の自然体と見なすゆえんである。
　岩石風化物は土壌の原料となるもので、これを母材とよび、もとの岩石を母岩とよぶ。
〔土壌生成因子〕　上記のように、土壌生成の過程ではさまざまの作用が働いているが、物理的な営為としては温熱、風、水などによる岩石や粗粒子の崩壊と磨砕、化学的なものとしては酸化と還元、水和と脱水、溶解と沈殿、加水分解、炭酸化合と脱炭酸作用などが挙げられる。生物の作用は、生物が関与した物理的および化学的作用であり、植物根の岩石割目への侵入や生成した化学物質による鉱物の溶解などがそうである。これらの作用はそれぞれ土壌の生成に深く係わっているが、内容からすれば土壌生成作用のひとつ、風化作用として一括されるべき性格のものである。土壌の生成を層位の発達（断面の形成）とする観点からすれば、土壌生成作用としてはこのほかに有機物の分解と集積、溶脱と洗脱、沈殿と集積、動物による土壌物質の混合、構造の形成などが挙げられる。
　土壌生成作用の強度と速度は、母材の内的性質、およびその置かれている環境の諸因子によって規制される。おもな内的因子は母材そのものの諸性質と地形、環境因子は気候、生物（動物、植物、微生物および人為）、および年代（経過時間）である。これら5因子は土壌生成因子（soil-forming factor）とよばれる。
　土壌生成因子のうち、土壌の生成に最も大きく、広範な影響を及ぼすのは気候である。気候、特に温度と雨量、およびこれらの季節変化は岩石鉱物の風化と水文条件を支配し、土壌の生成に直接大きく影響する。高温多雨の下では風化は迅速であるが、冷温や乾燥下では遅い。また多湿の下では風化産物の溶脱と洗脱（流亡）は激しく、酸性化が進み、一方、乾燥地では地下水の蒸発に伴って塩類は地表に析出する。適潤や乾湿が繰り返される条件下では、水による土壌物質の移動は層内に止まり、しばしば明瞭な塩類集積層位の形成がみられる。
　気候はまた、間接的ではあるが、植物を通じて土壌生成に大きい影響を及ぼす。周知のように湿潤気候下には森林が発達し、乾燥気候下には草原や砂漠が出現する。気候はこのように植物の種類と繁茂量を支配し、土壌に加わる有機物の種類と量を決定する。一方、土壌動物と微生物の種類と生育・活動量も気候に影響されるところが大きく、これによって有機物の分解量と残存量は大きく違ってくる。
　植物はまた、それ自体根の働きによって土壌構造の形成にあずかり、地下深所で吸収した養分を地表へ還元するなど土壌中の物質移動にも大きい役割を果たしている。
　生物因子のうち人為とは耕作、施肥、灌排水、伐採、植林など農林業に伴う諸種の作業と管理、および土地造成などをさす。これらの人的営為は、しばしば土壌生成に大きい影響を及ぼすため、独立の土壌生成因子として取り扱われることがある。
　土壌生成に関与する母材の性質は、その堆積様式（残積性、運積性）、粒子の大小と硬軟、組織と構造、鉱物組成、化学組成などである。これら母材の性質の影響は、土壌生成の進行とともに漸次薄れていく性格のものである。しかし、現実には多くの土壌、特に風化作用が穏やかな気候帯では比較的古い土壌でもなおかなり残っており、ときに強く残っている。なかでも鉱物組成と化学組成、特に石英と鉄含量の影響は顕著である。たとえば、花こう岩質土壌は石英粒にみ、粗粒質淡色であるが、玄武岩質土壌は細粒質で遊離鉄に富み、褐～赤褐色である。母材の精粗は溶・洗脱の遅速を左右するが、鉱物組成と化学組成はしばしば生成する二次鉱物（粘土鉱物）の組成を左右し、植物養分の潜在供給力を決定する。
　地形は、排水の良否と地下水の高低を通じて土壌中物質の溶脱と集積、動植物の種類と生育、腐植の集積量などを支配する。そして平坦地か、傾斜面か、あるいは低地かなどによって生成する土壌の性質は大きく異なる。地形の高所から低所へ向かって乾性から湿性の一連の土壌系列が形成されることがあるが、これをカテナ（soil catena）とよんでいる。地形はまた、土壌の侵食にも大きく関係している。
　以上のように、気候、生物、母材および地形の4因子は土壌生成の方向を決定し、時間はその成熟度を決定する。そしてこれら5因子の組合せによって種々の土壌が生成する。土壌はこれら因子の関数ということができる。

**表1　米国の旧分類方式（1949年改訂）**
目	亜　　目	大土壌群（土壌型）
成帯性土壌	１．寒帯の土壌	ツンドラ
	２．森林地帯の淡色ポドゾル化土壌	ポドソル、褐色ポドソル性土壌、灰褐色ポドソル性土壌、赤黄色ポドソル性土壌、灰色森林土壌
	３．熱帯および類縁地帯の森林土壌	各種のラトソル（赤～黄褐色ラテライト性土壌）
	４．森林～草原遷移帯の土壌	退化チェルノーゼム、非石灰質褐色土壌（山東土）
	５．半乾、半湿および湿潤地帯の草原の暗色土壌	プレリー土壌、赤色プレリー土壌、チェルノーゼム、栗色土、赤色栗色土
	６．乾燥地の淡色土壌	褐色土壌、シェロゼム、赤褐色土壌、赤色砂漠土壌、砂漠土壌
間帯性土壌	１．沼沢地、沼地、低平坦地、多湿地の水成土壌	腐植質グライ土壌、山岳湿草地土壌、泥炭土壌、半泥炭土壌、低腐植質グライ土壌、プラノソル、地下水型ポドソル土壌、地下水型ラトソル
	２．排水不良乾燥地帯および海岸堆積物	ソロンチャクまたは塩類土壌、ソロネッツまたはアルカリ土壌、ソロチ
	３．石灰成土壌	褐色森林土、レンジナ
非成帯性土壌	（亜目はない）	リソソル（岩屑土）、レゴソル、沖積土

〔土壌の種類〕　前述のように、気候は直接に、あるいは生物（特に植物）を通じて間接に土壌生成に大きい影響を及ぼしている。このため、同一気候帯では、母材と地形が特に極端でない限り、時間が十分に経てば、その気候-植物帯に沿って同種または類似の土壌が生成する。このような土壌を成帯性土壌（zonal soil）とよぶ。寒帯のツンドラ、寒冷森林帯下のポドゾル、半乾半湿気候下のチェルノーゼム、熱帯のラテライト性土壌（ラトソル）、乾燥地や極帯の砂漠土などがそうである（表1）。わが国の成帯性土壌は、大きく中部地方以北の高山-亜高山帯（亜寒帯針葉樹林帯）のポドゾルとポドゾル性土壌、落葉広葉樹林下の褐色森林土、常緑広葉樹林下の黄褐色森林土、および中部地方以西の低丘陵-台地あるいは沿岸部に分布する赤黄色土である。
　成帯性土壌は、通常緯度に平行に分布する。これを緯度成帯性とよぶが、大陸内部では大地形に沿って南北に緯度成帯性を示し、また同一緯度地域内で地形（高度）に沿って垂直成帯性を示すことがある。わが国のポドゾル性土壌と褐色森林土は垂直成帯性のものである。
　次に、同一気候-植物帯の下にあっても。母材、地形、人為（管理）などの影響が卓越している場合は、局所的にそれを反映した土壌が生成する。このような土壌を成帯内性または間帯性土壌（intrazonal soil）とよぶ。たとえば、わが国の火山灰土は形態的にも、物理的にも化学的にも、そして粘土鉱物組成の上でもきわめて特異な土壌であるが、これは細粒質易風化性という母岩（火山灰）の特異な内的性質を強く反映したものである。また、水田土壌は水田耕作（人工灌漑）という人為を強く反映した間帯性土壌である。地形が関係した間帯性土壌にはグライ土、黒泥土、地下水型ポドゾルなどがあり、乾燥地方の低地（排水不良地）にはソロンチャクなどの塩類土壌が生成する（表1）。
　成帯性および間帯性土壌には、通常その生成過程に起こった土層内物質移動を反映した層位（溶脱層と集積層）が発達している。しかし、急斜面や山腹、氾濫原や沖積地などのように絶えず侵食や母材の搬入が行われる所では、土壌は常に未熟であり、層位は発達しない。このような土壌は非成帯性土壌（azonal soil）とよばれる。レゴソル（岩屑土）、リソソル、沖積土などがそうである（表1）。
〔土壌の分類〕　土壌の分類は、生物と同様、通常段階式の自然分類法で行われる。現在世界中には多くの方式があるが、それらは大きく2つの傾向に分けることができる。そのひとつは土壌生成過程、すなわちその土壌の生成史を基に分けようとするもの、他は土壌が現在もっている諸性質を分類基準に用いようとするものである。さきの成帯性、間帯性などは前者による分類であるが、後者の代表は1975年以降の米国公定法である。なお、最近は土壌の諸性質を数値化し、これによって客観性の高い分類を行おうという試みもなされている。表1に示したのは、1938年以来米国で用いられ、1949年に改訂の後、現在でも習慣的に用いられている生成的分類方式である。後者の同国の現行法はソイル・タクソノミーとよばれ、土壌名にはギリシャ語やラテン語に由来するいくつかの造語要素を組み合わせた新造語が使われている。これは各土壌の定義を明確にし、この分類法の新規性を強調するためとされている。
　わが国の土壌分類は現在、農地は「地力保全基本調査」、林地は「国有林林野土壌調査」の方式で行われており、統一方式はない。1951年制定の国土調査法に基づく分類方式は表2のとおりである。表の土壌亜群と土壌統群はそれぞれ縮尺50万分の1および20万分の1土壌図の作図単位である。土壌統群は、その下位の分類単位である約300の土壌統のうち類縁のものをまとめたものである。〔吉永長則〕

**表2　国土調査法（昭26）の土壌分類表**
土壌群	土壌亜群	土　壌　統　群
岩石地	岩石地	岩石地
岩屑土	高山性岩屑土	高山性岩屑土壌
岩屑土	岩屑土	岩屑性土壌
未熟土	残積性未熟土	残積性未熟土壌、粗粒残積性未熟土壌
	砂丘未熟土	砂丘未熟土壌
	火山放出物未熟土	火山放出物未熟土壌、粗粒火山放出物未熟土壌、風化火山放出物未熟土壌、粗粒風化火山放出物未熟土壌
黒ぼく土	黒ぼく土	厚層黒ぼく土壌、黒ぼく土壌、粗粒黒ぼく土壌、多湿黒ぼく土壌、粗粒多湿黒ぼく土壌、黒ぼくグライ土壌
黒ぼく土	淡色黒ぼく土	淡色黒ぼく土壌、粗粒淡色黒ぼく土壌
褐色森林土	乾性褐色森林土	乾性褐色森林土壌、同黄褐色系、同赤褐色系
	褐色森林土	褐色森林土壌、同黄褐色系、同赤褐色系
	湿性褐色森林土	湿性褐色森林土壌、同暗色性
ポドソル	乾性ポドソル	乾性ポドソル化土壌
ポドソル	湿性ポドソル	湿性ポドソル化土壌
赤黄色土	赤色土	赤色土壌
	黄色土	黄色土壌
	暗赤色土	暗赤色土壌
褐色低地土	褐色低地土	褐色低地土壌、粗粒褐色低地土壌
灰色低地土	灰色低地土	細粒灰色低地土壌、灰色低地土壌、粗粒灰色低地土壌
グライ土	グライ土	細粒グライ土壌、グライ土壌、粗粒グライ土壌
泥炭土	高位泥炭土	高位泥炭土壌
	低位泥炭土	低位泥炭土壌
	黒泥土	黒泥土壌

〔化学性〕　イオン交換：　土壌のおもなイオン交換体は粘土鉱物と腐植である。土壌のイオン交換は、水に溶解してイオンとなる物質の吸着、脱着を通じて、自然界の物質循環に大きな役割を果たしている。鉱物の風化によって放出されるイオン、有機物の微生物による分解によって生ずるイオン、肥料として土壌に施されるイオンが、植物養分として土壌に保持されるのは、このイオン交換によるところが大きい。また、生活環境の維持、浄化、特に地下水、河川、湖沼、海などの水系を好ましくない物質による汚染から守るのに、土壌のイオン交換は、土壌微生物による有機物分解作用と並んで大きく貢献している。
　土壌のイオン交換体に保持される交換性陽イオンのおもなものは、Ca²⁺、Mg²⁺、K⁺、Na⁺、H⁺およびアルミニウムイオンである。このうち、Ca²⁺、Mg²⁺、K⁺、Na⁺は存在すれば土壌のpHを高める働きを示すので交換性塩基ともよばれる。逆にH⁺、アルミニウムイオンは土壌のpHを低くする働きを示し、土壌酸性の本体をなしている。土壌の交換性陽イオン組成は、気候、母材、人為などによって影響される。人為が加わらないときは、日本のように湿潤気候下では、アルミニウムイオン,H⁺＞Ca²⁺,Mg²⁺＞K⁺,Na⁺の順に、乾燥気候下ではCa²⁺,Mg²⁺＞K⁺,Na⁺＞アルミニウムイオン,H⁺の順に含量が低くなる傾向がある。これらの陽イオンの他に、湛水下の水田作土のように還元状態の土壌では、Mn²⁺、Fe²⁺、NH4⁺などが交換性陽イオンとして存在する。
　土壌の陽イオン交換容量の大小は、土壌の陽イオン交換体である粘土鉱物、腐植の種類・性状、含量によって定まる。また、これらの交換体の陰荷電には、一定荷電と変異荷電があり、変異荷電による交換性陽イオンの保持量は、陽イオン種、溶液のpH、イオン濃度などによっても変化する。弱酸性ないし中性の鉱質土壌では、土壌溶液中のイオン濃度は普通10^-1ないし10^-3M程度で、陽イオン交換容量は5ないし60meq/100gの範囲にはいる。
　土壌中で、陽イオン交換体表面と土壌溶液に、各陽イオンがどのように分配されるかは、陽イオン交換体の陽イオン交換容量とともに、陽イオン選択性によって決定される。陽イオン選択性については、次のような一般側がある。
①　荷電数が同一の陽イオンに対する選択性は
　　　Li⁺,Na⁺＜K⁺≦NH4⁺,Rb⁺＜Cs⁺
　　　Mg²⁺≦Ca²⁺,Sr²⁺≦Ba²⁺
の順序で増加する。
②　荷電数の異なる陽イオンの間では、荷電数の高いものが低いものよりも選択的に吸着され、その程度はイオン濃度が低いほど著しい。
③　鉱物の破壊原子価、腐植のカルボキシル基に由来する陽イオン交換基はCa²⁺に対する選択性、鉱物の同形置換に由来する陽イオン交換基はK⁺、NH4⁺、Rb⁺、Cs⁺に対する選択性が著しい。
　土壌の陰イオン交換容量は、陽イオン交換容量に比べて低く、主要交換性陰イオンであるHCO3^-、NO3^-、Cl^-、SO4^2-などの保持量も低いのが普通である。土壌のおもなイオン交換体である粘土鉱物、酸化鉱物、腐植のうちで、陰イオン交換に関与するのは、アロフェン、イモゴライト、カオリン鉱物、緑泥石・バーミキュライト中間体、ギブサイト、酸化鉄鉱物に限られる。これらの鉱物の正荷電はすべて変異荷電で、陰イオン交換容量は土壌溶液のpH、イオン濃度などによって変化する。
　アンモニウム、カリウムの固定：　土壌でみられる陽イオンの固定としては、NH4⁺とK⁺の固定が重要である。これらの陽イオンの固定が起こるか否かは、土壌の粘土鉱物の種類によって左右され、バーミキュライト、層間K⁺の一部が離脱した雲母を含むもので著しい。また、これら陽イオンの添加後、乾燥によって土壌の水分含量が減少すれば固定が促進される。NH4⁺の固定は、NH4⁺の微生物、植物による利用を遅らせることはあっても、多量のK⁺が施されるような場合を除いて、その利用率を低下させることは少ない。
　固定態NH4⁺は、窒素肥料を施さない土壌にも存在し、土壌の全窒素含量の5ないし30％に達する。表層土に比べて下層土でその存在割合が高い。固定態NH4⁺含量が高い土壌は雲母含量が高く、NH4⁺はK⁺と同様にその珪酸塩層間に固定されている。これらの雲母に含まれているNH4⁺、K⁺の植物、微生物による利用は困難である。しかし、洗脱によって土壌溶液のK⁺濃度が低下すれば、雲母の珪酸塩層間のK⁺の溶出が起こる。そのときのK⁺濃度は、黒雲母、イライトではおおよそ10^-4M（約4ppm）、白雲母では10^-5M程度とされている。
　リン酸の固定：　一次鉱物の風化、有機物の無機化、あるいは施肥によって土壌溶液にはいるリン酸イオンは、吸着、あるいは沈殿によって植物、微生物に利用されにくい形態に変化する。これをリン酸の固定（phosphate fixation）とよぶ。リン酸イオンは酸性、微酸性土壌中では、粘土鉱物、ギブサイト、ゲータイトなどの破壊原子価を構成しているAl、Fe原子、あるいは腐植と複合体を形成しているヒドロキシイオンのAl、Fe原子の配位子（水酸基、水分子）を置き換えて結合し、強く吸着される。
　土壌によるリン酸イオンの吸着容量、あるいは固定量の指標として、わが国でよく用いられるのはリン酸吸収係数である。これは200mlの2.5％リン酸アンモニウム溶液（pH7.0）から100gの風乾土壌試料が吸着するPをP2O5のmg数で示したものである。500ないし2500の値をとる土壌が多い。1500以上という大きな値をとる土壌は黒ぼく土で、これについでリン酸固定が問題になる土壌は、酸化鉄含量の高い温帯、熱帯の赤黄色を呈する土壌である。
　酸性ないし弱酸性土壌で、施肥などによって土壌溶液のリン酸イオン濃度が著しく高まると、リン酸イオンを吸着した粘土鉱物、腐植複合体の構造の一部が崩壊して、共存するアルカリ、アンモニウムあるいはアルカリ土金属陽イオンを取り込んだ難溶性のリン酸アルミニウム、鉄化合物が新しく生成し、沈殿する。共存する陽イオンの種類、pHなどによって生成する化合物はさまざまであり、洗脱が進む条件下では陽イオンを失うことによってその形態を変え、ますます難溶性となる。一方、半乾ないし乾燥地方では、炭酸カルシウムを含む、交換性Ca²⁺含量の高い土壌中で、リン酸イオンはCa²⁺と反応して難溶性のリン酸カルシウムを生ずる。これらの難溶性リン酸カルシウムとしては、リン酸水素カルシウムCaHPO4・2H2O、りん灰石Ca5(PO4)3(F,OH,1/2CO3^2-)などが知られている。
　土壌の反応：　土壌の反応、すなわち土壌が酸性、中性、アルカリ性のいずれを呈するかは、土壌溶液のpH（＝log[H⁺]^-；[H⁺]はH⁺のモル濃度）によって定まる。土壌溶液中では、通常の溶液とは異なり、H⁺の大部分は土壌粒子表面ないしはその近傍に交換性H⁺として存在し、溶液中のH⁺濃度は粒子表面から離れるにつれて減少している。交換性H⁺が他の陽イオンに交換されて示す酸性を交換酸性、溶液中のH⁺が示す酸性を活酸性とよんで区別することがある。
　鉱質土壌のpHは3.5ないし10の間にある。土壌のpHは土壌試料に水を加えてガラス電極で測定する。その値は土壌/水の量比によって多少変化する。国際土壌学会では土壌/水比1g/2.5mlを採用している。
　土壌を酸性にする主要物質は水に溶解した炭酸であり、これは有機物の土壌微生物による分解と空気中の炭酸ガスに由来している。この他有機物、あるいは硫黄、窒素を含む肥料などの微生物による分解、あるいは変換の過程で生じる硫酸、硝酸、有機酸などが土壌の酸性化に寄与する。
　年降水量が蒸発散量を大きく上回る湿潤地域では、土壌を浸透する水に含まれている酸性物質に由来するH⁺、およびこのH⁺が粘土鉱物から溶出したアルミニウムイオンが次第に交換性塩基を交換、浸出し、土壌は酸性を示すようになる。pH5以下の強い酸性は、粘土鉱物の同形置換陰荷電に由来する陽イオン交換基に保持されたH⁺およびAl(H2O)6³⁺、および腐植のカルボキシル基からpH5以下で解離するH⁺に起因している。pH5以上の弱い酸性は、前記の同形置換による交換基、解離したカルボキシル基に保持されたヒドロキシアルミニウムイオン、破壊原子価を構成する水酸基、腐植のカルボキシル基からpH5以上で解離するH⁺に起因している。
　交換性塩基、あるいは逆に交換性H⁺とアルミニウムイオンが土壌の陽イオン交換基に占める割合は、土壌の反応と密接に関係している。土壌の交換性塩基含量、すなわち交換性Ca²⁺、Mg²⁺、K⁺、Na⁺の合量（meq/100g）を、pH7.0で測定した土壌の陽イオン交換容量（meq/100g）で除し、100を乗じたものを、土壌の塩基飽和度（％）という。塩基飽和度の上昇とともに土壌のpHは上昇するが、同一塩基飽和度でも、土壌のpHはその陽イオン交換体によって異なり、交換体の陰荷電が一定荷電であれば低く、変異荷電であれば高い。
　酸、アルカリを土壌に加えたときにひき起こされるpH変化は、水に加えたときに比べてはるかに小さく、この現象を土壌によるpH緩衝といい、酸に対しては交換性塩基、アルカリに対しては交換性H⁺、アルミニウムイオンが緩衝作用の主体をなしている。土壌がこのようにpH緩衝能を有することは、植物、微生物の生育・活動に重要な意義をもっている。また、土壌にアルカリ、あるいは酸を加えたときに、添加量と生ずるpH変化の関係を示すpH緩衝曲線は、土壌の反応が植物の生育に不適なときにそれを正すために加える酸、アルカリ量を推定することに利用される。
　土壌がアルカリ反応を示すのは、Na2CO3（pH8.5～10）、CaCO3（pH≦8.5）の存在に起因する。いずれも加水分解によってアルカリ性を示すが、両者の水に対する溶解度の差異がpHの高低を決定している。年間降水量500mm以下の乾燥地域では、洗脱が進まず、土壌の塩基飽和度は高く、母材に比べて高いCaCO3含量を示す層位が生ずる。また、地表からの水分蒸発量が下層への透過量よりも多くなり、土壌溶液に溶解していた塩が表層近くに集積して、塩類土壌を生ずる。土壌試料を水で飽和し、0.5barの吸引圧で抽出した液の電気伝導度が4mS/cm以上の土壌を塩類土壌とよび、このような土壌では土壌溶液の高い塩濃度が植物の生育に障害を与える。
　土壌の反応は、土壌微生物の活動、高等植物の生育に大きな影響を与える。土壌微生物のうちでは、糸状菌がpH適応範囲が広いのに対して細菌、放線菌ではその生育、活動はpH5.5以下では低下する。高等植物では、土壌の反応が植物の生育に及ぼす影響は、植物によって異なるが、土壌溶液中のH⁺あるいはOH^-の直接の影響が主ではなく、植物養分の供給の難易を通じて、また有害成分の発現・消失を通じてその影響が現れる。土壌酸性による障害といわれるのは、大部分がAlの毒性によるもので、これに伴ってFe、Mnなどの過剰、Ca、Mg、Pの欠乏が問題になる。これに対して、中性からアルカリ性の土壌では、Fe、Mn、CuおよびZnなどが難溶性の水酸化物などとして沈殿したり、粘土鉱物、腐植に特異吸着されることによって、これらの金属の欠乏が問題になる。
　酸化・還元：　普通の畑土壌のように、排水のよい土壌では、土壌粒子間隙の空気を通じて酸素が供給され、土壌は酸化状態でその酸化還元電位は550～800mVに保たれている。しかし、排水不良、あるいは湛水した水田作土のように、酸素の供給が水に遮られて不十分となると土壌は還元状態になる。まず、好気性微生物の呼吸によって酸素が消失し、次に条件的嫌気性細菌によってNO3^-の還元、さらにMnO2、Fe³⁺が順次還元されて土壌溶液にMn²⁺、Fe²⁺が現れる。このように酸化還元電位が低下し、嫌気性細菌が生育できる状況になると、硫酸還元菌、メタン生成菌などの活動が開始され、SO4^2-はH2S、S^2-に、HCO3^-などはCH4に還元され、土壌の酸化還元電位は-200～-300mVに低下する。
　土壌の酸化・還元には、このようにいろいろの物質が関与する。土壌に最も多量に含まれている酸化剤はFe³⁺を含む酸化鉄である。Feの酸化・還元は土色に著しい影響を与える。還元状態にある土壌は沈んだ灰、青色味を帯び、酸化状態にある土壌は赤、黄、赤褐色を呈する。これらの色調の斑紋、脈状、管状、点状の沈積物が現れることは、その土壌が酸化・還元を繰り返していることを示す。
　土壌の酸化・還元は、根に対する酸素の供給、および植物養分の形態変化を通じて、植物の生育に影響する。普通の畑作物に対しては、NO2^-、H2S、S^2-は有害で、窒素、硫黄が有効に利用されるには、酸化されてNO3^-、SO4^2-となることが必要である。また、酸化状態では、酸化鉄、MnO2などは難溶性であるが、還元状態ではFe²⁺、Mn²⁺が土壌溶液に溶出し、その過剰による害作用が問題になることがある。リン酸イオンは、酸化状態ではFe³⁺と難溶性化合物を形成しているが、還元状態ではFe³⁺がFe²⁺となって溶出し、これに伴って利用度が高まる。また、酸化状態の土壌に比べて還元状態の土壌では、微生物による植物遺体、腐植などの有機物の分解が緩やかに進行し、土壌有機物の減耗が少ない。〔和田光史〕
〔物理性〕　土壌体内の物質とエネルギーの状態と移動に関する物理的諸現象を総称して土壌物理性という。本質的な土壌物理性の領域は、研究の進展とともに次第に分化し固有の領域を形成している。土粒子の結合と配列を扱う土壌構造、土壌の構成物質で変わる土壌の色、土壌中の物質の存在形態と移動に関わるものには土壌水、土壌空気、土壌温熱、土壌の力学性などが対象となる。さらに土壌物理性の応用分野では、水文、熱収支、土壌侵食、機械作業、灌漑排水、土壌および土層改良などがあげられる。土壌の物理的性質を扱う学問分野を土壌物理学という。土壌物理性を本来土壌のもつ物理的機能の面からみると、次のようである。
①　物質収容機能：　土壌の孔隙の中に、水、空気、土壌生物および施用資材などを収容する機能をいう。土壌は大小さまざまの土粒子から成り立つので、物質を収容する空間を広げることができるし、物質とよく混合することもできる。粒子の配列と孔隙性は、土壌構造の領域に含まれるから、物質収容機能を評価するには土壌の構造特性を知る必要がある。
②　吸着機能：　各種の土粒子のもつ活性界面により吸着される物質の吸着現象をいう。粘土表面における各種イオンの吸着、水分子の水和作用、ガス吸着などがある。
③　保水機能：　種々の孔隙の中に水を保持する機能をいう。この機能があるために土壌は養水分を供給して植物を育て、好適な土壌微生物の住みかとなり、土壌の肥沃度を高めうる。しかも土壌中にはエネルギー状態の異なる水が保持されさまざまな存在形態をとっている。
④　通気・通水機能：　土壌空気の拡散および流動、土壌中の水の浸潤および浸透などの機能をいう。土壌中の孔隙を通り空気が流動する性質を通気性（aeration）という。土壌は通気性をもつので土壌中の空気は適度に外気と交換し土壌生物に必要な酸素を適宜供給できる。一方、雨水や灌漑水が土壌にしみこむ現象、あるいは湿潤な土壌から乾燥土壌に水が拡散移動する現象を湿潤という。植物根に土壌水が移動できるのは土壌の通水機能による。土壌中の余剰水が重力で下降排水される過程および湛水下の水田で起こる水の下降移動は浸透である。土壌中での水の浸透の程度を表すのに飽和透水係数（saturated permeability）が用いられる。
⑤　熱の伝導機能：　外界からの熱エネルギーの供給によって熱を伝導し地温に変化を与える機能をいう。土壌構成物質は、比熱および熱伝導率の異なる固体、液体、気体の3相からなる。しかも固体部分の土粒子の接触状態で熱伝導率が変わる。土壌中の生物の活動は、温度に敏感なので地温を支配する熱伝導を知ることが重要である。太陽の輻射熱、地表面における外気との熱交換、土壌面からの水分蒸発などは土壌-大気系における熱収支と密接に関係する。寒期の土壌凍結層の生長過程および融解過程も熱の伝導性と関係している。
⑥　ろ過機能：　多孔質な土壌で固形微粒子を含む懸濁水を浄化する機能をいう。水文循環の中で土壌がろ材となり懸濁物質を補足する働きは大きい。自然条件下では降雨で分散した地表の粘土やシルトが湿潤の過程で細孔隙や土粒子のまわりに沈積し、目詰りを起こす。また湖沼の底土、湛水したしろかき水田、洪水時の河床などでも懸濁物質のろ過が起こる。溶質イオンの土壌による吸着現象も一種の物理化学的なろ過である。生活雑排水の土壌浄化法は、土壌のろ過機能を活用したものである。
⑦　形体変化機能：　土壌が外部から力学的機動力を受けて起こる変形流動および土壌自身の乾燥、吸湿、凍結によって起こる体積変化をいう。土壌の変形流動は、外力を取り去れば自力でもとに戻る弾性変形と、もとに戻らない粘性流動が具備された粘弾性の力学的挙動を示す。載荷による静荷重（static load）で土壌が圧縮または圧密される現象、踏圧などの動荷重（dynamic load）で起こるせん断応力（shearing stress）は土壌構造の破壊をもたらす。耕うんによる土壌の膨軟化は物理性を改良し植物根の生長を助ける。乾燥による土壌収縮は、土壌に無数の亀裂を与え構造形成を促進する。膨潤性ベントナイトを土壌に与え透水性を抑制する。土塊がスレーキング（slaking）を起こし分散崩壊する性質、土壌が凍結して体積膨張する性質および凍土が融解して土壌が軟化する性質などは自然界で起こる現象である。
⑧　物体支持機能：　土壌に生育する植物、地上の構造物、地面を走る車両の安定性は土壌の支持機能により与えられる。土壌は水分含量の変化により液性体、塑性体、半固体、固体の力学的挙動を示す。この性質をコンシステンシー（consistency）という。降雨後の湿った土壌では、倒木、土砂崩壊、車輪のスリップなどが起こりやすくなり土壌の支持力（bearing capacity）が低下したことを示す。一方、土壌は乾燥すると次第に硬さを増し粘質土では堅硬な土塊となる。土壌の適度な硬さと支持力を得るには、締固め（compaction）による方法がとられる。また、土塊を破壊したり膨軟にするには塑性限界の水分状態下で耕起するのが適当である。〔寺沢四郎〕
〔微生物性〕　生物は、土壌の重要な生成因子である同時にその主要な構成要素の1つである。土壌中には、ミミズ・節足動物・線虫・原生動物などの動物と、細菌・放線菌・糸状菌・藻類などの微生物が生息している。これらの土壌生物は、有機物分解や窒素固定その他のさまざまな代謝作用を通して、自然界における物質循環に重要な役割を演じている。また、その過程で窒素、リン、硫黄その他の植物栄養が供給されると同時に、土壌中にはいわゆる腐植とよばれる土壌固有の物質が生成され、土壌の理化学性との係りを含めて土壌の肥沃度に重要な影響を及ぼしている。また、土壌の生物相は、植物の健全性に直接・間接深い関係をもっている。さらに、近年は農業上の問題だけでなく、農薬や種々の有機質廃棄物および汚水の分解を通して、資源の有効利用と環境浄化のすべてにわたって、土壌微生物の重要性が認識されてきている。

**表3　土の中の動物個体数**（草地土、1m²あたり）
種　　類	個　体　数
有殻アメーバ線虫類クマムシ類ワムシ類貝類小型ミミズ類大型ミミズ類多足類ダニ類ワラジムシ類クモ類トビムシ類甲虫類アリ類ハエ類幼虫	100 000 000 ～ 500 000 000 1 800 000 ～ 120 000 000 500 ～ 16 000 2 500 ～ 7 100 100 ～ 8 500 200 ～ 20 000 30 ～ 2 000 900 ～ 1 700 2 000 ～ 120 000 100 ～ 400 180 ～ 800 1 000 ～ 40 000 500 ～ 1 000 200 ～ 500 1 000
（甲斐、1976）

**表4　土の中の微生物数**（耕地の乾土１gあたり）
種　　類	数
細菌放線菌糸状菌藻類原生動物	1 000万～億の台 100万～1 000万の台 10万～100万の台 100～10 000の台 10～100の台
（甲斐、1976）

①　土壌微生物の数と種類
　土壌中の動物および微生物数は、一般に表3、4に示すとおりである。これら生物の10aあたりの生体重は、畑地では微生物が300～500kg、原生動物10～20kg、ミミズ数kg程度、また、草地では微生物1000～数千kg、原生動物30～40kg、ミミズ300～400kg程度といわれる。これらの生物量は、土壌の全有機物量の2～3％、また、年間の作物生育量の3～10％にほぼ相当する。
　（イ）細菌（bacteria）：　単細胞で核構造をもたず、ミトコンドリアのような細胞内諸器官も発達していない。直径0.5～2.0μm、長さ1～8μmの球状、桿状、らせん状などの形態をとり、1個体の重量は約10^-6μgにすぎない。2分裂により増殖するが、胞子形成細菌とよばれるある種の細菌は、乾燥、高温、低温などに強い胞子を作り、生育条件が不良になると胞子態で休止する。条件が好適になると胞子は発芽して新しい細胞を生ずる。
　土壌細菌の生理的性質はきわめて多様である。細菌は、エネルギー獲得手段の違いから有機（従属）栄養細菌（heterotrophic bacteria）と無機（独立）栄養細菌（autotrophic bacteria）に分けられる。前者は、生命の維持と増殖に必要なエネルギーと炭素源を有機物から獲得する。後者は、エネルギーを光エネルギーから（光合成的無機栄養細菌）か、あるいは無機物の酸化から（化学合成的無機栄養細菌）獲得し、炭素源は二酸化炭素から獲得する。また、細菌は酸素要求性によって好気性細菌（aerobes）と嫌気性細菌（anaerobes）に分かれ、後者は好気的にも増殖できる条件的嫌気性菌（facultative anaerobes）と酸素が増殖を阻害する絶対的嫌気性菌（obligate anaerobes）とに分かれる。
　細菌には、土壌中で有機物分解に関与するのみならず、窒素固定、脱窒、硫酸還元などを行うものもいる。また、化学合成的無機栄養細菌は、硝化作用、硫黄・鉄・マンガンなどの無機元素の酸化にあずかる。このように、細菌は多様な生理作用とその高い活性、さらにはばく大な菌数と急速な増殖力により、自然界における物質循環に重要な役割をになっている。
　（ロ）放線菌（actinomycetes）：　多くの点で細菌と糸状菌の中間的性質の微生物とみなされる。一般に、直径0.5～1μmの隔壁のない細い分枝状の菌糸で生育する。核は細菌と同様に核膜、ミトコンドリアなどの構造をもたず、菌糸の先端が切断（分裂子）、あるいは胞子形成器官上に1個から数個の胞子（分生子または胞子のう胞子）が形成される。細胞壁成分は糸状菌と異なってキチンやセルロースを含まず、ムコペプチドからなるなど、むしろ細菌に近い。有機栄養性で多様な有機物を基質として生育する。キチンの分解にあずかる微生物の大部分は放線菌である。
　（ハ）糸状菌（かび）（fungi）：　一般に直径5～10μmの菌糸を分枝状に伸ばし、この菌糸から柄を分岐させ、その先端に胞子をつくる。核は核膜、ミトコンドリアなどの構造をもち、有性生殖を行うものと無性生殖を行うものとある。
　土壌糸状菌は大別して不完全菌類、藻菌類、子のう菌類、担子菌類の4群からなる。通常、培地上にもっとも多く出現するのは不完全菌類で、有性生殖を行う完全時代が知られていないため、便宜上一括されている糸状菌である。これらはすべて有機栄養性であるが、主たる基質として利用する有機物の種類で糖類糸状菌、セルロース分解糸状菌、リグニン分解糸状菌に分けられる。糖類糸状菌は、普通新たに添加された有機物に最初に急速に生育する糸状菌で、おもに藻菌類がこれにあたる。ついで出現するのがセルロース分解菌で子のう菌類、担子菌類、不完全菌類がこれにあたり、生育は比較的遅い。最後の段階で出現するリグニン分解菌はほとんど担子菌類で、生育は非常に遅い。しかし、自然界での有機物分解は必ずしもこの順に起こるとは限らず、基質の種類や環境条件で分解過程は多様である。
　糸状菌の菌糸の長さは、土壌１g中で数mから数百mに及ぶ。糸状菌は細菌に比べて一般に耐酸性が強く、酸性土壌では特に有機物分解に重要であると考えられている。
　（ニ）藻類（algae）：　土壌中の藻類は直径3～50μmの単細胞、またはその連結状あるいは糸状の形態をもつ。おもなものは、緑藻、らん藻、珪藻で、いずれも水生のものと比較して一般に形が小さく、形態は単純である。緑藻、珪藻は核膜、ミトコンドリアなど核構造をもち、有性生殖を行う。らん藻はこのような核構造をもたず、2分裂で増殖する。多くの藻類はクロロフィルその他の光合成色素をもち、光エネルギーを利用して炭酸同化を行う無機栄養生物である。窒素源としてアンモニア、硝酸を利用する。らん藻のなかには空中窒素固定能をもつものがあり、土壌に窒素を供給し、窒素循環に重要な役割を果たしている。
　（ホ）その他の土壌微生物：　上記のほか、土壌には数種の特殊な微生物が存在する。たとえば、変形菌類（粘菌類ともいう）は藻菌類の原始的なものと考えられるが、多核のアメーバ状で、細菌や有機物の破片を捕食する点では原生動物とよく似ている。粘液細菌も土壌中に生息し、キチンやセルロースの分解に関与する。独立した生物ではないが、ウィルスもまた土壌中に存在し、植物や土壌微生物の生活と深い関係をもっている。あるものは、寄生がなくても土壌中で数ヶ月は活性を保っている。バクテリオファーは細菌および放線菌に寄生するウイルスで、根粒菌を溶菌し、マメ科植物の収量を低下させるものがある。
②　土壌の環境条件と微生物の分布ならびに微生物相の遷移
　水分、養分、酸素分圧、酸化還元電位、温度、pHなど土壌の理化学的性質は微生物に著しい影響を及ぼすが、その度合いは、これらの要因に対する微生物の種類による要求性、適応性、耐性などの違いによっていろいろ異なる。一方、これらの諸要因は土壌の構造性を中心に互いに密接な関係をもっている。また、その土壌の地理的条件、利用形態、肥培管理などによっても土壌中の微生物の種類・数とその活性は著しく支配される。
　土壌中で微生物はきわめて不均一な分布をしていると考えられる。微生物は、一般に土壌孔隙中の液相部位に生息している。好気性で乾燥に強い糸状菌や放線菌は、気相中に気菌糸を張り出している。菌糸が太い糸状菌は大孔隙に、菌糸の細い放線菌はそれより小さいが空気の流通の良好な孔隙まで菌糸を伸ばしている。細菌の大部分は土壌粒子に付着して生活しており、団粒表面の乾燥しやすい部位には、乾燥に比較的強い好気性細菌が、一方、団粒内部の湿潤な部位には、乾燥に弱い好気性細菌と嫌気性細菌が生息していると考えられる。また、土壌粒子を鉱物質部位と有機質部位とに分けると、微生物は主として後者に生息している。このように、土壌内の微細な環境に対応していろいろな微生物が住み分けて生活している（図1：略）。
　土壌中の微生物間には、環境条件の変化に対応してさまざまな相互関係が生み出される。その結果、その条件により適して生活しうる微生物の個体数が他の種類の微生物に比べて著しく多くなり、微生物社会を構成している主要な微生物種または群が変わる。このように、優占する微生物種または群が入れかわって現れる現象を微生物相の遷移とよんでいる。高等植物の場合と違って微生物相の遷移では、一般に極相とよべるような現象をとらえることはできない。また、与えられた外界の条件が消失すると、元の状態に戻るのが普通である。そのために、同じような遷移現象が繰り返し行われることが多い。ただし、微生物にとって異常な条件、たとえば農薬や有機物の多量施用の場合、微生物相がすぐ元に戻るかどうかは不明の点が多い。微生物の場合には、環境に対する適応性が強い反面、環境のわずかな変化に対しても鋭敏に反応し、優占度を変えてしまう特徴がある。そのため微生物相の遷移は短い時間に起こりうる。したがって、どのような環境因子も見のがすことのできない重要な意味をもっている。
　土壌中では種々の物質代謝がいくつもの段階の反応を経てたえず行われている。しかし、自然の土壌ではその物質代謝は緩慢であり、かつ一連の反応が連続的に同時に進行するので、ある特定の微生物種のみが優占することは起こりにくく、微生物相の遷移は明確でない。ただし、落葉・わらなどの新鮮有機物が添加されたり、農薬が施用された場合には、明らかな遷移が観察される。
　土壌内で根の影響が直接及んでいる植物根面から数mmの範囲、すなわち根圏土壌（rhizosphere）には根の分泌物と脱落細胞がたえず供給されるから、これらを基質とする有機栄養微生物が非根圏土壌に比べて増加している。さらに、根圏土壌と非根圏土壌では微生物の種類に相違がみられるばかりでなく、その種類は植物の種類や生育時期によっても変動する。多くの場合、畑地で1つの作物を何年か連作していくと連作障害（growth retardation by continuous cropping）が現れる。これは、同一作物の連作によりその根の影響を受けて根圏微生物相が単純化し、そのために作物の生理的障害や土壌伝染性病原菌による感染が起こりやすくなるからである。連作障害発生の多少と土壌の種類との間には密接な関係が認められ、特に粘土鉱物の質的な差が生産年限と関係があり、2：1型粘土鉱物が多い場合には病原菌の活動を抑制するという報告がある。
③　土壌微生物による物質代謝
　土壌中における有機物の分解は、動物と微生物の密接な連携のもとに進められているが、微生物の有機物分解力は動物に比べてはるかに大きく、有機物分解にもっとも重要な役割を果たしている。土壌中には多様な有機物を分解しうるさまざまな微生物が生息しているが、その大部分は有機栄養微生物である。有機物の給源はおもに動植物・微生物の遺体であるが、なかでも植物遺体の量が最も多く、温帯地域の陸上生態系では一般に3～30t/ha、熱帯の森林では150t/ha程度とみられる。
　有機物中の炭素は、微生物による分解の呼吸や発酵の過程でおもに炭酸ガスとして放出される。植物遺体のC/N比は通常20～150、木質部はそれ以上であるが、分解過程でしだいに低下し、多くの土壌で表土中の有機物のC/N比は10前後になっている。この値は、好気性微生物の菌体のC/N比の平均値とほぼ一致する。一方、土壌中には無機栄養微生物とよばれ、光エネルギーまたは無機物の酸化過程で放出される化学エネルギーを利用して炭酸固定を行う光合成細菌、藻類、らん藻や硝化菌などが存在する。また、有機栄養微生物でも量的にはごくわずかであるが炭酸固定が行われる。土壌中の主として無機栄養微生物による炭酸固定量は無視できないと考えられるが、その推定はまだ十分には検討されていない。土壌中での炭素代謝の概略は、図2（略）のとおりである。
　土壌中で起こる窒素化合物の変化は、ほとんどすべてが土壌微生物の作用で行われている。その変化は、生物遺体などの有機態窒素の無機化、すなわちアンモニア化成作用（ mmonificationまたはmineralization）、アンモニア・硝酸などの無機態窒素が植物・微生物体へ取り込まれる有機化作用（immobilization）；アンモニアから硝酸への硝化作用（nitrification）、硝酸からアンモニアへの硝酸還元作用（nitrate reduction）；大気中の窒素ガスの固定、すなわち窒素固定作用（nitrogen fixation）、土壌から大気への窒素の還元、すなわち脱窒作用（denitrification）、という3組の互いに逆向きの反応がたえず並行して起こっている（図3：略）。
　これらの作用のうち、硝化作用はアンモニアから亜硝酸、亜硝酸から硝酸に至る2段階の酸化過程からなっており、それぞれ亜硝酸菌、硝酸菌とよばれる数種の限られた微生物によって行われる。これらの微生物は硝化菌と総称され、アンモニアまたは亜硝酸の酸化の際に生じる化学エネルギーを利用して炭酸固定を行う好気性無機栄養微生物である。脱窒作用は脱窒菌とよばれるある種の条件的嫌気性の有機栄養微生物によって行われ、還元的状態の土壌中で、硝酸あるいは亜硝酸が還元されてN2OガスまたはN2ガスとなって空気中に放出される。大気中には3.9×10¹⁵トンというばく大な量の窒素が存在するが、これを直接同化・利用しうる生物はごく一部の微生物に限られる。このような窒素固定作用を行う微生物は、通常、独立窒素固定微生物と共生窒素固定微生物に大別される。前者には、好気性のアゾトバクターや嫌気性のクロストリジウムなどの有機栄養細菌と、好気性のらん藻や嫌気性の光合成細菌などの無機栄養微生物がある。また、後者には、マメ科植物の根粒に共生する根粒菌、非マメ科植物の根粒や葉粒あるいは菌根中で窒素固定を行う微生物などがある。
　一般に土壌の全窒素含量は、大きな人為的管理を加えない限り長年にわたってほぼ一定に維持されている。このような恒常性は、土壌中の有機態窒素の無機化作用と、諸種の動植物遺体の加入・微生物体の増殖（すなわち窒素の有機化）・微生物的遊離窒素固定作用・雨水からの窒素化合物の供給などとが、その土壌が置かれた環境下の生態系のなかで平衡を保っているためと考えられる。地球の生物圏全体の窒素量は、脱窒作用と窒素固定作用のバランスに支えられているが、近年の工業的窒素固定の飛躍的増大と化石燃料の大量燃焼によって大気から土壌へ供給される窒素の量が脱窒による土壌から空中への窒素の還元量をこえ、環境への窒素の負荷が大きな問題となっている。
　リンおよび硫黄も動植物・微生物遺体、化学肥料、あるいは雨水により土壌に供給される。有機態のリンおよび硫黄化合物は、細菌、放線菌、糸状菌により分解されて無機態となる。無機態のリン・硫黄化合物は微生物･植物に吸収利用され、それぞれの体構成成分として有機化される。有機態のリンおよび硫黄の無機化条件、あるいは無機態のリンおよび硫黄の有機化条件は、それぞれ窒素の場合とほぼ同じと考えられる。
　土壌中の有機態硫黄は微生物により加水分解されて含硫アミノ酸となり、さらに分解されて硫酸と亜硫酸になる。好気的環境条件では最終的に硫酸にまで代謝される。嫌気的条件では絶対嫌気性の硫酸還元菌が硫酸を還元し、硫化水素を生成する。一方、硫化物、元素硫黄、チオ硫酸などの無機硫黄化合物は、土壌中で化学的（非生物的）にゆっくり酸化されるが、一部は生物的に比較的すみやかに酸化される。無機硫黄化合物を酸化する細菌は、絶対的あるいは条件的無機栄養細菌であるが、ある種の有機栄養細菌や糸状菌もこの酸化に関与する。
　リンおよび硫黄の代謝に関係する微生物も、窒素の場合と同様に土壌の肥沃度と元素循環に直接係る重要な役割を演じている。〔甲斐秀昭〕』
→土壌
→『土壌とは』のページを参照。

土壌水（soil water）⑥
『地下水面よりも上の土壌・地層中の間隙や割れ目に存在し、水循環に加わっている水のこと。土壌水は、地下水と異なり、間隙や割れ目を不飽和に満たしているか、あるいは完全に満たしていても大気圧よりも小さな水圧を有する。粘土鉱物内部にとりこまれている水など水循環に加わっていない水、および気相の水（水蒸気）は土壌水に含まれない。土壌水は、吸着水と自由水とに区分される。吸着水は土粒子表面に吸着されている水で、移動しにくいため、人によっては土壌水に含めないことがある。自由水は土粒子間の間隙に含まれる水で、上下の曲率半径の異なるメニスカスによって保持されている。懸垂水（皮膜水）、毛管上昇によって地下水面直上に保持されている毛管水（支持水）、および重力によって地下水面に向って降下中の重力水（降下水）に区分される。地下水面と地表面との間の土壌水を含む部分は土壌水帯（soil water zone）と呼ばれる。』
土壌生成作用（soil-forming processes）②
『岩石の風化によって生じた母材から、生物および有機物の存在下で、層位分化した一定の形態的特徴を備えた土壌体が生成される過程。土壌生成作用は常に風化作用を伴って進行。土壌生成過程を一定方向に導く相互に密接に結びついた物理的・化学的・生物学的諸反応には一定の組合せが存在、これは基礎的土壌生成作用と呼ばれ、土壌物質の無機成分の変化を主とするもの、有機成分を主とするもの、無機および有機土壌生成物の変化と移動を主とするものの3主要群にまとめられる。基礎的土壌生成作用は、１）初成土壌生成作用、２）土壌熟成作用、３）粘土化作用（シアリット化作用）、４）褐色化作用、５）鉄アルミナ富化作用（フェラリット化作用）、６）腐植集積作用、７）泥炭集積作用、８）塩類化作用、９）脱塩化作用、10）塩基溶脱作用、11）レシベ化作用（粘土の機械的移動）、12）ポドゾル化作用、13）水成漂白化作用、14）グライ化作用、15）擬似グライ化作用、16）均質化作用。その他バーティソル化作用や鉄質化作用などを挙げる場合もある。〔松井　健・永塚鎮男〕』
土壌断面（soil profile）③
『土壌の表層からC層までの垂直方向の切断面である。土壌断面は、母材の堆積状態と土壌生成作用の結果、いくつかの特徴的な層あるいは層位が発達する。これらの層位は、アルファベットの大文字O、A、B、Cなどを使って記載される。O層は鉱質土壌の有機質層位であり、O1層とO2層とに区分される。O1層は植物遺体が大部分原形をとどめ、肉眼で識別できる。O2層は植物遺体の原形が認められないほど分解した有機質層位である。A層とは、鉱質層位で、①鉱質部の最上層で、有機物が集積している層か、②表層ないし、表層に近い層で、粘土、鉄、アルミニウムが溶脱し、風化抵抗性のある鉱物が残留富化した層、あるいは、③前記①、②の特徴をもつが、下位のB層あるいはC層へ漸移する層である。A層はさらにA1、A2、およびA3層に細分される。A1層はA層の最上層で、無機物と混合あるいは結合した有機物の含量が高く、暗色を呈する。A2層は粘土、鉄、あるいはアルミニウムなどの溶脱層で、石英のような風化しにくい鉱物の残留富化した層である。A3層はその下位のB層への漸移層であるが、B層よりもA層の性質が強い層である。B層とは通常A層の下位にある層で、次の特徴のいずれか1つ、または2つ以上をもつ層、①粘土、鉄またはアルミニウムが単独あるいは有機物を伴ってA層から移動集積した層（集積B層）、②三二酸化物（AlやFe2個とO3個が化合したもの）や粘土が、単独あるいは残留富化した層（オキシックB層）、③三二酸化物の被覆によって、上下の層よりも土色の赤味が強い層（カラーB層）、④塊状あるいは角柱状構造などをもつ層（構造B層）。B層は大まかには、一般用語である下層土に相当する。B層はさらにB1、B2、B3層に分けられる。B1層はA層への漸移層であるが、B層の特徴をより強くもつ層である。B2層はB層としての特徴をもっとも強くもっている層である。B3層はB層とC層、あるいはR層への漸移層であるが、B2層の特徴をもつ。A層とB層はともに土壌生成作用によってできた土層で、これらをまとめてソーラム（solum）とよぶ。C層とは、土壌の母材の層で、ほとんど土壌生成作用を受けていない鉱質層位で、A層あるいはB層の特徴を示さない。C層の下に強く風化を受けていない固結岩石がある場合には、これをR層とよび、また嫌気的条件下で、強還元を示す層をG層とよぶ。〔庄子貞雄〕』
土壌断面（soil profile）⑪
『土壌において、表層部から母材に至るまでの垂直断面、あるいは垂直方向の土壌の性質の変化。土壌は垂直方向に理化学性の互いに異なるいくつかの層を分化させるが、このような土壌の生成の来歴を示す土層を土壌層位（soil horizon）とよぶ。土壌断面形態の観察は土壌の生成や性質を調べ、その土壌の分類上の位置を知り、土壌と植生との関係を知るために必要なことである。上からA層、B層、C層を分けてよび、これら鉱物質層の上に有機物層であるAo層（O層）がある場合もある。また、母材の異なった土壌層がある場合、それをD層（D horizon）、還元鉄を含む層をG層とよぶ。』
ドップラー効果（Doppler effect）①
『媒質中を波源あるいは観測者が動く場合、観測者が測定する波の振動数が波源の振動数と異なる現象。1842年ドップラーがはじめて研究した。相対論の効果を無視すれば、1直線上を波源と観測者が媒質に対してv1、v2 の速度で動くとき（波源から観測者に向かう方向を正とする）、波源の振動数をn1、観測される振動数をn2、媒質に静止する観測者が見た波の位相速度をa とすれば、
　　　n2＝n1（a－v2）/（a－v1）
となる。したがって、波源と観測者が近づくときは（v1＞v2）振動数は高く、遠ざかるときは（v1＜v2）低く観測される。光などについては、相対論にしたがって考える必要がある。振動数n の光源から出た光を、光源に相対的に、光の進行方向と角θをなす方向に速さvで運動する人が観測する振動数n' は、β＝v/c として、
　　　n' ＝n （1－β²）^1/2/（1＋βcosθ）
となる。とくにθ＝π/2の場合にはn' ＝n （1－β²）^1/2となる。これを横のドップラー効果という。』
トランスフォーム断層（transform fault）①
『断層の1型。1965年に海洋底拡大説に基づいてJ.T.ウィルソンが提唱した。たとえば南北に走る海嶺の軸が、ある場所で東西にくい違っているとき、このくい違いと関係してできた東西に走る断層がトランスフォーム断層である（図：略）。トランスフォーム断層のうちで、くい違った海嶺の軸にはさまれた部分（図のAA'間：略）では、断層をはさむ変位の不連続が見られ、したがってこの部分では地震がおこる。しかしトランスフォーム断層のそれ以外の部分では、断層をはさむ変位の不連続が見られず、地震もおこらないはずである。実際もこの予想どおりであることを、発震機構の研究によってシークス（L.R.Sykes）が確かめた（1967）。北アメリカ西海岸沿いに1000km以上にわたって走るサンアンドレアス断層もトランスフォーム断層であるとされている。』

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