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【さ】
- 彩層(chromosphere)@
『太陽大気層のうち、光球とコロナの間に位置する厚さ数千kmの薄い層で、皆既日食のとき紅色を帯びてみえる部分。温度は4500
K から 2×104 K へと高さとともにゆっくり上昇し、わずか厚さ 100 km ほどの彩層-コロナ遷移層で
1.5×106 K に急上昇してコロナにつながる。光球から放射された連続光が彩層下部の原子やイオンに吸収され、フラウンホーファー線とよばれる多くの暗線を生み出す。構造は非常に不均一で、激しい乱流や電磁流体現象がみられる。Hα線単色像でみると無数の羊毛のような斑紋がみえ、これを羊斑とよぶ。またH、K線では斑点状を呈し、粒状斑とよぶ。彩層で最も顕著な現象は直径千km、長さ1万kmに及ぶ針状のジェット流で、スパイキュールとよばれている。彩層下部からコロナに向う磁力線にそって急上昇する流れで、寿命は平均数分である。コロナの成因と関係しているとみられているがまだ不明な点が多い。』
- 砂嘴(さし)(spit)A
『岬や半島から海へ細長く突き出た砂礫の州。サンドスピットとも。一般にその先端部は多少内湾側に湾曲する。表面勾配は外洋側でやや大きい。砂嘴の形成中に波や沿岸流の方向が変化すると、その先端部の内湾側に小さい分岐の生ずる場合がある。これを分岐砂嘴(recurved
sand spit)という。伊豆半島西岸の戸田湾口や四国小松島の和田ノ鼻などは砂嘴の例であり、清水港を抱く三保ノ松原や北海道根室の野付崎などは分岐砂嘴の例。〔茂木昭夫〕』
- 砂州(bar)A
『砂嘴の一種で、湾または入江をほとんど閉塞するもの。湾口を閉ざすように形成されたものを湾口砂州(bay
mouth bar)、湾の中央のものを湾央砂州(mid-bay bar)、湾の奥に形成されたものを湾頭砂州(bay head
bar)と呼ぶ。宮津湾の中には長さ2kmに達する天橋立の湾央砂州があり、久美浜湾は湾口砂州で閉じられようとしている。〔茂木昭夫〕』
- 砂鉄(iron sand)A
『各種岩石中の副成分鉱物である磁鉄鉱・含チタン磁鉄鉱・イルメナイトなどが岩石の風化によって分離、水流や風に運ばれ淘汰・集積したもの。安山岩質火山岩源(北海道内浦湾沿岸)、花崗岩質岩源(鳥取・島根・広島の各県下)など。含チタン砂鉄は重要なチタン原料であり、日本でも製鉄原料・チタン原料として採掘された。島根県下に砂鉄による日本刀の玉鋼製造の伝統技術がわずかに残る。〔須藤定久〕』
- 三角州(delta)A
『河川が運搬・搬出する堆積物が、湖や海などの静水域に堆積してつくられる低平な堆積地形。低平な三角州平原の海(湖)側の狭い帯がデルタフロントで、砂質な堆積物の活発な堆積で特徴づけられる。その沖合側がプロデルタに当たる。三角州の平面形態は、河川堆積物の量・粒度組成と、河口・海岸の水深や傾斜、波浪や沿岸流による浸食・運搬作用、潮汐の大きさなどによって変化する。一般に、河川の堆積作用が大きい場合は鳥趾状三角州、円弧状三角州となり、海の浸食・運搬作用が大きい場合には、カスプ状三角州が、さらに海側の作用が強いと平滑な海岸線をもつ三角州となる。〔茂木昭夫・平井幸弘〕』
- サンゴ(珊瑚)礁(coral reef)A
『造礁サンゴや石灰藻類などが集積して形成された礁。サンゴ礁はサンゴの幼虫が岩盤などの固体物に付着して広がる。そのため、サンゴ礁の形成は、造礁サンゴの生育条件によって規定される。造礁サンゴは、温度18〜36℃(適温は25〜30℃)、塩分27〜40‰の海水を好み、共生する藻類が光を必要とするから、主として低潮線と深さ30mの間の海底に、また、酸素と種々の栄養塩類を必要とするから、海水の運動の盛んな所に生育する。海水中に泥懸濁する場合は窒息死することがある。サンゴ礁の分布は、赤道を挟んで南北約30゜の間の海域に限られ、特に中部および西太平洋に著しい。サンゴ礁が上へのびていく速さは、年に1cmくらい。サンゴ礁の形態には、基本型として、裾礁(岸礁)・堡礁(保礁)・環礁・卓礁があり、これらの中間型として、エプロン礁・準保礁・準環礁・準卓礁がある。サンゴ礁の外洋側の斜面は、かなり急斜して海底に降りる。礁の外縁に沿っては、しぶきの達する範囲にのみ生育する石灰藻類が形成する高まりがある。これは低潮面上1〜0.6mで、一般に風上側が高い。その後には礁原(reef
flat)と呼ばれる数百mの幅の平坦部が広がり、その内側にやや深い水域(礁湖)があることがあ。〔茂木昭夫〕』
- サンゴ(珊瑚)類(coral)A
『刺胞動物のなかで、特に石灰質や角質の骨格を分泌するグループを指す。分類学上、ヒドロ虫綱のヒドロサンゴ類(アナサンゴモドキなど)、花虫綱の八放サンゴ類(アカサンゴ・クダサンゴなど)・六放サンゴ類(イシサンゴなど)・四放サンゴ類・床板サンゴ類などに属する。サンゴの成長には、水温・光量・水の透明度・塩分濃度などが大きく関係する。サンゴ化石は、示相化石としての側面を強く有している。光合成を行う褐虫藻がサンゴ虫体内に共生する場合、サンゴの成長速度が速まることが知られている。サンゴの骨格の密度変化や同位体変化から、骨格形成や水温などの変動を読み取ろうとする研究が盛んである。また、サンゴ骨格に残された成長線(輪)が、年代編年に用いられている。〔江崎洋一〕』
- 三畳紀〔Triassic(period)〕A
『中生代を三分した最初の時代。ジュラ紀の前。トリアス紀とも。約251〜208Maの約4千万年間である。ヨーロッパではこの時代に海成のアルプス相と非海成層を伴うドイツ相という顕著な岩相の対立がある。後者は下位からBuntsandstein・Muschelkalk・Keuperに三分され、紀の名称はこの三分したことに由来。F.A.v.Alberti(1834)命名。ドイツ相の分布は局部的で、国際対比にはアルプス・ヒマラヤのアルプス相の海成層やカナダ極北部の海成層が標準とされる。本紀は前期・中期・後期(または古世・中世・新世)に三分。古いほうから前期はGriesbachian・Nammalian(Dienerian+Smithian)・Spathianの3期に、中期はAnisian・Ladinianの2期に、後期はCarnian・Norian・Rhaetianの3期に区分。前期はかつてはScythianと一括されたり、Induan・Olenekianの2期に区分されたこともある。またRhaetianをNorianの後亜期とする意見もある。〔市川浩一郎・田中啓策〕』
- 三葉虫類(学名Trilobita)A
『海生節足動物。多くは底生性。背甲は著しく石灰化しているが、腹面は上唇など頭部の一部の腹板を除いて石灰化しない。身体は頭部、胸部、尾部および軸部、両側葉部と縦横に三分化する。頭部は顔線(脱皮縫合線)を境に頭蓋と遊離頬に分かれる。頭蓋の中央の膨らみを頭鞍という。頭鞍はふつう横方向の頭鞍溝によりいくつかの頭鞍葉に分けられる。眼は複眼、ときに有柄眼。胸部の体節間のみ可動であり、身体を屈伸させるだけでなく、防御のために巻き込むことができた。腹部は複数の体節からなるが、尾板と呼ばれる腹部背板は可曲でない。頭部、胸部、尾部を通じて一様な2枝型の付属肢が生じるが、最前方の付属肢は1枝型で触角として機能。ふつう体長2〜10cm、最大で75cm。カンブリア紀早期に出現し、カンブリア紀後期〜オルドビス紀に最盛期を迎え、オルドビス紀末に激減、ペルム紀末に絶滅した。日本からもシルル紀以降の属種が多数産出する。〔図:略〕〔金子 篤〕』
【し】
- ジオイド(geoid)@
『地球の重力場の等ポテンシャル面(水準面)のうち、その位置が海洋上で平均海水面に一致する面をいう。陸地内では精密水準測量、重力や鉛直線偏差の測定を組み合わせて、海洋では重力測定、人工衛星からの海面高測定などによって求める。長波長成分については人工衛星の軌道解析から求めることもできる。地球楕円体に対してジオイドは約20mくらいの凹凸をなす。両者の法線は一致せず、その差は鉛直線偏差を与える。』
ジオイド(geoid)A
『地球を取り巻く重力ポテンシャルの等ポテンシャル面のうち、大洋では平均海水面と一致し、大陸ではその下にトンネルを掘って平均海水面を延長させてできる面をいう。測地学上、物理学的に定義された地球の形としてはふつうジオイドを考える。命名はJ.B.Listingによる。地球内部の物質分布は、地球の形や構造によって不均一なので、ジオイドは不規則な形をしている。この不規則さは、地球楕円体を実際の地球に対して適当な位置に置いたときの地球楕円体面とジオイド面との間の距離Nをもって表される。Nの地理的分布をジオイドの凹凸(undulation
of geoid)という。一般に、大陸ではNは正の値、大洋では負の値となる。ジオイドの凹凸は、三角測量と天文測量の結合による方法、重力異常分布から計算する方法、人工衛星の軌道観測から地球外部のポテンシャル場を求めてNを推定する方法、などによって求められる。第一の方法で求めたジオイドのうち、日本では、熱海景良(1933)、川畑幸夫(1935)の求めたジオイドが有名。Nは最大の中部山地でも+6mほどである。最大の正のNは、ニューギニア付近で+60m、最小はインド西部で−60m。人工衛星による結果では、W.K.Kaula(1963)のものがよく引用される。最大・最小のNの値とその地理的位置はだいたいV.A.Votila(1962)のジオイドと一致している。汎世界的なジオイドの凹凸は、測地学上はもちろん、地球内部、それもマントル上層部などの大規模な物質分布の不均一さを示すものとして、地球内部構造論上からも重要である。〔藤井陽一郎〕』
geoid (ge'-oid)L
『The figure of the Earth considered as a sea-level sutface extended
continuously through the continents. It is a theoretically continuous
surface that is perpendicular at every point to the direction
of gravity (the plumb line). It is the surface of reference for
astronomical observations and for geodetic leveling.』
- 磁気圏(magnetosphere)A
『太陽風が地球に吹きつけると、地球磁場の圧力と太陽風の流れに伴う動的な圧力が釣り合うような形状で境界が形成される。この境界の内側を磁気圏と呼ぶ。昼間側の磁気圏は磁場が押し縮められ、太陽方向に地球の中心から測った磁気圏境界面の位置は、およそ地球半径の10倍である。さらに、太陽方向に進んだ部分には、太陽風が超音速流であるために衝撃波が形成されている。衝撃波面と磁気圏境界面に挟まれた部分をマグネトシース(magnetosheath)と呼ぶ。磁気圏の夜側では、地磁気の磁力線が太陽と反対方向に吹き流されており、その尾の長さは地球半径の数百倍。磁気圏尾部の磁場は、北側では地球に向かい、南側の領域では反地球方向に向かっている。磁気圏尾部の南北の境はプラズマの圧力が高くなっていてプラズマシート(plasma
sheet)と呼ばれ、その北側および南側の領域は磁場の圧力が卓越している部分で、ローブ(lobe)と呼ばれている。磁気圏尾部の断面は、およそ直径が地球半径の40倍の円である。磁気圏は太陽風の動圧が増大したときや、太陽風中の磁場が南向きの成分をもったときに呼応して活発化し、磁気嵐や磁気圏サブストームが引き起こされる。磁気圏の存在は、固有磁場をもった水星・木星・土星・天王星・海王星等でも、科学衛星による直接探査によって確認されている。(図:略)〔町田 忍〕』
- 磁極(magnetic poles)@
『〔1〕磁石の両端は鉄粉を引きつける力がとくに強く、細い棒磁石ではこの能力を示す点がほとんど両端の各1点に集中する。これを磁石の磁極という。磁極と磁極との間にはクーロンの法則に従う力がはたらき、これによって磁極の強さを定義できる。磁極の強さは磁気量ともいわれる。磁極は磁気量の集中した場所である。磁極には正負の別があって、1個の磁石の中の全磁気量は常に0であるから、磁石には必ず正負両種の磁極が存在する。地球磁場において北に引かれる方の磁極を正極または北極、南に引かれる磁極を負極または南極とよぶ。しかしこの逆によぶ場合もあるので、誤解を避けるため、指北極(north-seeking
pole)、指南極(south-seeking pole)とよぶこともある。棒磁石の磁極は正確には拡がりをもち、その中心は両端より少し中に寄ったところにある。
〔2〕地磁気には2種の磁極が定義される。地磁気の永久磁場の内部磁場の水平成分が0で伏角が±90゜となる地球上の地点を地球磁気の極または伏角極(magnetic
dip poles)といい、局部的異常を除けば2ヵ所しかない。北にあるものを北磁極(北極)、南にあるものを南磁極(南極)といい、それぞれ磁石の南極、北極と同等の性質をもつ。現在の位置はだいたい75゜N、101゜Wおよび66゜S、140゜Eである。これに対して、永久磁場を近似した双極子磁場の双極子の方向に平行な直径が地球表面と交わる2点を磁軸極という。現在の位置は78゜.0N、70゜.9Wおよび78゜.0S、109゜.1Eである。磁軸は自転軸に対して約11゜.0傾いている。』
磁極(magnetic pole、magnetic dipole)A
『地表で地球磁場の水平成分が0、伏角が±90゜になる点。これらのうち、北半球にあるものを北磁極(north
magnetic pole)、南半球にあるものを南磁極(south magnetic pole)という。地球の磁場は地芯双極子のつくる磁場からずれているため、磁極は地磁気極(磁北極、磁南極)と一致しない。また、北磁極と南磁極は地球中心に対して点対称な位置にない。一方、地表で垂直成分が0、伏角が0゜になる点を結んだ線を磁気赤道(magnetic
equator)という。また、各点での磁場の水平成分ベクトルを結んで描いた線を磁気子午線(magnetic meridian)という。〔横山由紀子〕』
- 子午線(meridian)@
『地球自転の極に相当する2点を通る大円(またはその半円)。各地の子午線があるが、とくにグリニジ子午線を本初子午線として経度の原点にとる。また天球の北極、南極および天頂、天底を通る大円を天の子午線とよび、日周運動する天球に対して地球(観測点)に固定した基準線として用いる。この場合、天体が子午線を横切ることを通過という。なお、地磁気の磁気子午線は別の性格の定義によるものである。』
- 示準化石(index fossil)D
『互いに離れた地域に分布する地層間の対比や大陸間の対比、地層が堆積した時代の決定に有効な化石をいう。標準化石とも呼ばれる。示準化石としての適不適は、その古生物群の進化様式や古生態などに左右されるところが大きい。一般的には、進化速度が速いこと、短期間に広い地域に分布を広げることができること、局所的な環境変化に支配されにくいこと、多く産出すること、識別しやすい形態的特徴をもっていることなどが理想的な条件としてあげられる。生物進化を理論的なよりどころとしているが、実際には地層の下位から上位への産出化石の変遷を多くの地域で明らかにし、その成果の蓄積から先の条件を満たすものが選ばれる。よく用いられる示準化石として、古生代カンブリア紀からペルム紀の三葉虫類、オルドビス紀とシルル紀の筆石、石炭紀とペルム紀のフズリナ、中生代のアンモナイト、そして新生代古第三紀の大型有孔虫などがある。また古生代からの放散虫、白亜紀からの浮遊性有孔虫や石灰質ナノプランクトン、珪藻類などの浮遊生物、さらに陸上の哺乳類も示準化石としての条件をよくそなえている。〔谷村好洋〕』
- C3植物(しーさんしょくぶつ)(C3 plant)K
『光合成の炭酸固定経路でカルビン・ベンソン回路だけが働いている植物では、最初の炭酸固定産物が炭素数3の化合物(3-ホスホグリセリン酸)であるので、これをC3光合成経路の植物、略してC3植物とよぶ。一部の被子植物を除き、すべての裸子植物、シダ・コケ植物、藻類がC3植物である。C4植物の対語。』
- 地震(earthquake)A
『一般的な意味では、大地が震えること、すなわち大地が震動することを指すが、このような地震動を生じる原因となった地球内部の岩石圏の破壊現象をも指す。したがって、地震の大きさの程度を表す指標は、前者の意味では震度であり、後者の意味ではマグニチュードになる。このため地震の規模(マグニチュード)と表現した場合、本来は破壊現象の規模を意味するが、震度の意味に誤解されることがあるため注意を要する。岩石圏の破壊現象の原因は力学的または熱的なものであるが、火山活動に関係する場合にはこの地震を火山性地震という。一方、急激な断層活動(ずれ破壊)による場合は構造性地震という。構造性地震の根本原因はプレートの相対運動によると考えられている。事実、地震の多くはプレート間地震とプレート境界付近のプレート内地震である。プレート境界から離れた大陸地殻内や海洋プレート内でもまれに地震が発生することもあるが、その発生原因の解明は十分ではない。地震はマグニチュード(M)により、極微小地震(M<1)、微小地震(M=1〜3)、小地震(M=3〜5)、中地震(M=5〜7)、大地震(M>7。特にM≧7.8のとき巨大地震)に分け、震源の深さにより、深発地震(300km以深)、稍(やや)深発地震(300〜60km:上限を80kmとすることもある)、浅発地震(60km以浅:同じく80km以浅とすることもある)に分ける。浅い大・中地震ではその地震だけ単独で発生することはなく、多くの余震を伴うが、前震を伴う例は多くない。一連の地震活動のなかで、特に飛び抜けて大きな地震がない場合は群発地震と呼ばれる。一般に地殻の不均一性が大きいほど、そこでは群発性の地震が起こりやすい。また、大型ダムの貯水や地下核爆発実験などが付近の地震活動を誘発すること(誘発地震)がある。〔三東哲夫・石川有三〕』
→『地震とは』のページを参照。
- 地震断層(earthquake fault)A
『日本では地震に伴って地表に現れたことが歴史的に記録されている断層で、震源断層(earthquake
source fault)に対する地表地震断層(earthquake surface fault)の意味で用いられることが多い。狭義には地震発生に直接関与するものをいうべきであるが、地震に伴う振動で二次的に生じたものも混用する場合がある。〔加藤碵一〕』
- 地震のエネルギー(energy of earthquake)@
『地震を発生させる原因となる地下に蓄積されたエネルギーをいうこともあるが、ふつうはそれが地震波の形で放出されたエネルギーをさす。正確な推定は困難で、推定法によって1桁くらいは変わりうる。グーテンベルクとリヒター(C.F.Richter)は、マグニチュードMの地震によって発生する地震波動のエネルギーE
Jが近似的に
log10 E=4.8+1.5M
で表わされることを導いた。この式によれば1923年の関東大地震(M=7.9)のエネルギーは4×1016
J となり、また全世界で1年間に地震波として送り出されるエネルギーは平均7×1017 J となる。』
- 地震波(seismic waves)@
『地震のときに伝わる弾性波をいう。地表にそって伝わり内部では深さとともに減衰する表面波にはレイリー波、ラヴ波などがあり、それ以外の地球内部を伝わる実体波にはP波(縦波)とS波(横波)がある。波の周期は表面波、S波、P波の順に小さくなる。観測地点での振幅が最大になるのは、近地地震ではS波、遠地地震では距離が小さいときはレイリー波、大きいときはラヴ波である。波の速度は圧力の上昇とともに増加し、温度の上昇とともに減少する。ふつう深いところほど速度は大きくなるが、マントル上部には極小となるところがある。これに媒質の局所的な変化が加わって屈折がおこるほか、地表や地球内部の不連続面で反射、屈折がおこり、このとき波の種類が変わることもある。外核ではS波は伝わらず、またP波の速度もいちじるしく小さいため、震央距離が110゜以上になるとP波が直達しない影の部分ができて、回折波が観測される。地震波の伝わり方を示す曲線は、地球内の不連続面その他の内部構造をしらべる重要な手がかりとなる。』
地震波(seismic wave)A
『地球を伝わる弾性波。地球内部は均一ではなく層構造をなしているので、地表で観測される地震波にはいろいろな反射波や屈折波が含まれる。弾性体(地球)内部を実際に伝わる波を実体波というのに対し、地球表面に沿って伝わる波を表面波という。表面波は多数の反射波・屈折波が干渉してできた表面近くで大きな振幅をもつような波である。これには振動方向と伝搬速度を異にするレーリー波とラブ波がある。実体波には縦波と横波の2種類がある。縦波の伝搬速度は横波のそれより速く、地震記録上では最初に縦波、後に横波の順で現れる。そこで、縦波のことをP波(Primary)、横波のことをS波(Secondary)と呼ぶこともある。〔菊地正幸〕』
- 地震モーメント(seismic moment)A
『P波とS波の初動の押し引き分布からも支持される地震発生に関する弾性反発説によると、地震波を放出させる波源としての震源は、図(略)のように2組の偶力が震源周囲で働くという力学系で表すことができる。この力学系をダブルカップルといい、その強さを一方の偶力のもつモーメントで表し、これを地震のモーメント(Mo)と呼ぶ。転位理論によると、このMoは、Mo=μDSで表すことができる。ここで、μは岩石の剛性率、Dは断層面沿いの平均変位量、Sは変位した断層面積である。環太平洋地震帯のなかで、南米、アラスカ、アリューシャン列島などの地域に起こる巨大地震のなかには非常に大きなMoをもつ地震があり、これらの地震は、従来のように、周期20sec前後の表面波の最大地動振幅から決められるマグニチュードMsでは、地震のスケールの大小が区別できないため、新たに、Moから地震のエネルギーを算出し、それをグーテンベルク-リヒターの式に入れてマグニチュードを出す(この値をMwと書く)という方法がとられるようになった。この方法によると、例えば1960年のチリ地震(Ms=8.5)のMo=2.7×1023N・mで、Mwは9.5となり、これまでで最大規模の地震となる。〔参〕H.Kanamori(1977)、J.Geoph.Res.、Vol.82。〔三東哲夫〕』
- 沈込み(しずみこみ)(subduction)A
『海洋プレートが別のプレートの下に潜り込み、アセノスフェアの中へ入っていく現象。最初、中央海嶺で生産される大洋リソスフェアが除去される場という意味で使われた。沈込みは、マントル内の熱と物質の循環であるマントル対流の現れである。中央海嶺で生産された海洋プレートは、表面で熱を放出し冷やされてアセノスフェアより密度が大きくなり、マントル深部へかえっていく。プレートの沈み込んだ部分(沈込みリソスフェア)をスラブ(slab)と呼ぶ。沈込みに伴って、沈込み帯が形成され、スラスト運動・島弧火成活動・背弧海盆生成などの地学現象が起きる。これと比較して、大陸プレートが別のプレートの下へ潜り込む場合は、プレートの密度が小さいためにマントル中にかえっていくことができず、衝突が起きる。〔瀬野徹三・杉村 新〕』
subduction (sub-duc'-tion)L
『The process of one lithospheric plate descending beneath another.
The term was introduced by Andre(eの頭に´)
Amstutz (1951). The idea of subduction had earlier roots in Otto
Ampherer's concept of a crustal "swallowing zone" (Verschluckungs-zone),
well illustrated by Ampherer and Hammer (1911).』
- 沈込み帯(subduction zone)A
『沈込みが起きる場所。プレートの収斂(束)する境界であり、消費境界とも呼ばれる。沈込み帯の伸長方向と海洋プレートの運動方向とのなす角が収斂角であり、相対的変位速度が収斂速度である。沈込み帯はそれに直交する方向に、海側からアウターライズ・海溝の海側斜面・海溝軸・海溝の陸側斜面・前弧海盆・大陸斜面・前弧隆起帯・火山弧・背弧・背弧海盆などの特徴ある構造を示し、それに伴って地形・重力・地殻熱流量・地震活動・地殻変動などが特徴的に変化する。球面上の凹みは地表トレースが小円をなすので、沈み込むプレートの沈込み口は一般に小円の一部をなす。したがって沈込み帯に付随する地形・地質・地球物理学的特徴は弧状の連なりをなし、弧と呼ばれる。沈み込まれる側が海洋プレートの場合がマリアナ型境界で、伊豆-マリアナ弧のような島弧が形成される。大陸の場合がチリ型の境界で、陸弧ができる。〔瀬野徹三〕』
subduction zoneL
『A long, narrow belt in which subduction takes place, e.g. along
the Peru-Chile Trench or in the volcanic arc belts of the western
Pacific Ocean.』
- 自然堤防(natural levee)A
『氾濫原中を普段の水位で流れている水路(常水路)の両側に洪水時の堆積作用によりできた微高地。洪水時に常水路からあふれた水が氾濫原上に広がると、植生の影響と急に水深が浅くなるために流速が減少して、常水路の両側に運搬土砂を堆積する。このため常水路沿いに高く、外側に向かって緩傾斜をもつ堤防状の高まりを両側に生ずる。一回の洪水によってできる地層の下半部は、氾濫が始まって増水・加速するため逆級化構造を、最上部は洪水末期の減水・減速を反映した正級化構造をもつ。〔高山茂美・川辺孝幸〕』
- 自然淘汰説(natural selection theory)J
『自然選択説。進化の要因論としてC.ダーウィンが樹立した説。ダーウィンによれば、生物の種は多産性を原則とし、そのために起る生存競争で環境によりよく適応した変異をもつ個体が生存して子孫を残しその変異を伝える確率が高い。それで、それぞれの種が環境に適応した方向に変化することになる。この過程を自然淘汰とよんだ。ダーウィンはこの学説をながらく未発表のまま完成につとめ、結局A.R.ウォレスが独立に同様の学説に到達するに至ったため、1858年7月1日にロンドンのリンネ学会において、両者の論文を同一の表題のもとにおいた合同論文が発表され、翌年ダーウィンの著作‘種の起源’(On
the Origin of Species)が著され、それにより進化の観念が一般的に確立された。自然淘汰説は現在までに、特に20世紀における集団遺伝学・分子生物学の発展により基礎づけられ精密化されている。』
- 自発核分裂(spontaneous fission)I
『外部からエネルギーが与えられなくても、自然に起こる核分裂。自発核分裂は、α壊変と同様な量子力学的トンネル効果により起こる現象で、自然壊変の一種であるが、質量数の大きい核種に特異な壊変形式である。たとえば、235Uでは半減期は1017年程度であるが、256Fmでは2.63時間となる。235U、239Puなどではα壊変が主な壊変方式であるのに対し、254Cfや256Fmでは自発核分裂が主な壊変形式となる。』
- 示相化石(facies fossil)A
『それを含む地層の堆積環境を、よく指示する化石。程度の差はあれ、生物はある環境に適応して生活してきたはずであるから、いずれの化石も広い意味では示相性をもっている。しかし、一般には適応範囲が狭いもの(狭温性・狭鹹(かん)性のものなど)ほど、限定された環境条件を示す化石になりうるとして重要視される。ただし、そのような生物でも、死後、まったく違う環境下に運ばれて化石となれば、それを含む地層の堆積環境を示すことにならない。この原地性という点では、直立樹幹化石とか生痕はまちがいないが、生痕化石の場合、それを残した生物の種類、特に生活型がわからないと示相化石として十分役立たない。〔氏家 宏〕』
- ジャイアントインパクト説(giant impact theory)A
『月の成因説の一つ。約45億年前、火星サイズの天体が地球に衝突する事件があり、そのときはぎ取られた地球のマントル物質から月が誕生したとする説。現在、最も有力な月成因説。W.Hartmann
et al.(1975)提唱。〔白尾元理〕』
- 種(species)H
『正式な分類学の部類(種)と、それを例示する単位(特定の種)のいずれにも用いられる語。二名法の系では、種の単位はラテン語の二名で表され、個々の種は一つの属のなかまとなる。1672年に植物についての本を著した博物学者のJohn
Rayは、分類単位としての真の種の基準は、種は決して他の種の種子からは生じなく、交雑は不稔であると述べて、循環論法を完全には避けられなかった。Rayのような創造主義者にとって、交雑不稔は予想できることであった(ビュフォンの唯名論と比較せよ)。ダーウィンにとっては、不稔性の障壁(まったく異なる隔離機構という進化の概念)が進化するのに時間がかかれば、すべての不稔性の程度は発見することができるであろうものであった。
ダーウィンの著作は、種の問題に関しては、種は徐々に進化するという見解で予想されるように、ときには唯名論を示す。別なときに、彼は分類単位と部類を明確に区別する。部類としての種(すなわち、分類学の単位)を定義する可能性については疑問があるが、単位として種が実在することは何も疑っていない。彼は、種に関して実在論を信奉していない。
動物学者は、野生の種の境界を定めるのに、生殖隔離の基準が特に有効であることを見いだした。その点で、生物学的な種の概念には、表現型は同じで、生殖的に他のグループから隔離されているが、それらの間で実際に交雑ができるかその可能性がある集団をなす種のグループが含まれる。その適用における問題点は次の点である。(a)他の集団からの生殖隔離が一つの種の範囲について不完全であるのを認めたとき、(b)輪状種に関するとき、(c)絶対無性生殖種(無配種)について、(d)性的な雄を欠く動物(絶対雌性産生単為生殖)に関して、(e)向上進化について。生物学的な種の概念は、歴史的な動態を組み込むことにも成功しない。それにより、種が系統学的に独特であることを無視する。大部分の菌類、植物、海産の無脊椎動物は、その配偶子を広くばらまき、野外で生殖隔離をつくり上げるのを不可能にする。表現形質(博物館の分類学者のもつ在庫品)が非常に複雑であることは、それらの種を同定するのに役立つ。しかし、同胞種は問題を提起し、その場合、分類は外部形態よりも細胞学的技術(例、DNAプローブの利用)に頼る。しかし、生殖隔離がしばしばそれらの存在を示す最初の手がかりとなる。
最近、生態学的および進化学的な種の概念に関する支持が高まっている。前者は、独立して存在する環境内の地位、すなわち生態的地位(それを占める生物を別々に隔離することは困難である)に注目して分類する。種の分化を生態的地位の変化と同等視するが、必要な変化の範囲は固定しない。後者は、系統学的な種の独自性(無性的および雌性産生単為生殖型に有用な)を強調するが、漸進的な向上進化による分岐的(分枝的)な種分化を重視する。大部分の種は、2種類あるいはそれ以上の亜種か品種を含むらしく(種内変異、半種)、多型的であるといわれる。
統一した種の概念を見つけることが不可能なのは、生殖系の多様性と生体物質の動的な状態を反映しているから、恥ずかしいことではない。種の概念が生物学の学説内で顕著に示されないことも、思いがけないことではないであろう。種は、自然種(化学における元素のように)ではなく、各々が歴史的に一度しか出現せず、消滅してしまえばかけがえのない個別のものと考えられるであろう。もし種が個別のものであれば、種名は固有名であり、それゆえ種の特性は記載されるが、それを特定はしないであろう。それで、分類単位の定義には、すべての生物学の分類単位に必要な特性のリストがなくても、哲学的な用語が必要であろう。』
種(species)J
『生物命名法上の階級の一つで、生物分類の基本単位。現在ひろく一般に支持されているE.W.マイア(1940, 1969)による生物学的種概念(biological
species concept)では、相互に交配しあい、かつ他のそうした集合体から生殖的に隔離されている自然集団の集合体として定義される。種の科学的概念の成立については、歴史的にJ.レーの分類学があり、その後、ながくC.von
リンネの分類学における種の規範が一般的であった。マイアの種概念によれば、同所的に分布する集団が自然条件下で交配し、子孫を残すならば、それらは同種と見なされ、もし両者間で遺伝子の交流が起こらず生殖的に隔離されているならば異種に属すると判断される。異所的な集団あるいは時間次元の異なる集団に関しては、生殖的隔離の存在を直接検証することができないために、さまざまな手段を用いて隔離の有無を推測する。最もよく用いられるのは形態であり、さらに詳しい調査では、集団レベルでの交配・受精の可能性や雑種の発生・妊性(稔性)が検討される。この場合の形態は、生殖的隔離を推測する手段としてのもので、交配・生殖に関わる形質ほど重視される。異所的な集団から成り立つ種には、多くの場合、形態や核型に地理的変異が見られる。こうした種は多型種とよばれる。種の内部で、ある形態的特徴を共有する地域集団が亜種で、その設定基準は主観的である。複数の集団が部分的にしか生殖的に隔離されていないと、交雑帯が形成される。交雑帯をはさんで側所的に分布しあう集団が半種である。異所的あるいは側所的に分布する近縁種の一群が上種で、半種とともに種分化の研究対象となる。生殖的隔離の程度はしばしば連続性を示すので、異所的な集団に関するかぎり、同種か別種かの区別は絶対的な意義をもつものではない。実際上、二つの異所的集団の分類上の地位は、移行的な中間型を示す集団によってそれらが連続するか否かによって決められることが多い。種の類別は歴史的に形態的な観察から始まっており、形態の似た生物の集団を一つの単位と見なし、固有の名前が与えられてきた。こうした素朴な認識を受け継ぐ種概念を形態的種概念(morphological
species concept)とよぶ。しかし形態的種概念には同胞種を区別できないという欠点があり、また種として区別する差異の基準がないために、種の設定は主観的となる。現在慣習的に使われている種は必ずしも生物学的種に対応していない。生物学的種概念は、無性生殖生物や微小地理レベルでの分化が激しい生物に対しては、適用が困難だとする批判もある。これらの生物や化石生物に種を適用するために、生殖隔離だけでなく生態的地位・形態・進化的役割などの基準で種を類別しようとする進化的種概念(evolutionary
species concept)が唱えられている。近年、分岐分類学が発展した結果、系統の再構成の単位としての生物学的種の有効性に疑問が提起されることがある。また、系統学的種概念(phylogenetic
species concept)では、系統再構成の基本単位を目ざして、生殖的隔離ではなく単系統性を基準として種を認識しようとする。また、生物集団のあり方は多種多様であるから、一つの種概念を選ぶのではなく、状況に応じて複数の種概念を使い分け、種を多元的に認識すべきだとする主張もある。』
種(しゅ)K
『生物分類の基本単位として設定されている概念。元来、見て同じ個体群をまとめたもので、最初に形にもとづく種(形態種)が認識され、つづいてその種の生物学的な特性がしだいに明らかにされる。種とはなにかとの問いは昔からのもので、現在でもすべての種を説明できる定義は定まっていない。有性生殖する動物では、生殖的に隔離されているか否かにもとづく「生物学的種」が研究のよりどころとなる。しかし、地球上には未知の種が既知の種の数十倍から数百倍生存すると推定されている。』
- 褶曲(fold)A
『地質学上の非相似変形(槇山次郎、1956)。すなわち、層状構造をもつ岩石の場合によく識別される波曲状の変形形態。褶曲の各部の名称は図(なし)のとおり。岩石内部の各点が連続的で、そのうえ非可逆的な一様でない変位を受けたために生ずる構造形態の変化を意味する。さまざまな基準によって数多くの分類がなされているが、褶曲構造の長軸に直角な断面の形態に基づくものでは平行褶曲と相似褶曲、形成機構(褶曲物質の運動様式)を基準にしたものではすべり面を伴う褶曲(剪断褶曲、フレキシュラル・スリップ褶曲)と流動褶曲、力学的にみた場合には曲げ褶曲(横曲げ褶曲)と座屈褶曲(縦曲げ褶曲)などが基本的なものである。なおV.V.Beloussovは、広域的な幾何学的形態区分として完全褶曲・不連続褶曲・中間褶曲、発展様式からみた運動学的区分としてブロック褶曲・注入褶曲・全般的しわよせ褶曲という分類を提唱している。〔植村 武〕』
fold [struc geol]L
『n. A curve or bend of a planar structure such as rock strata,
bedding planes, foliation, or cleavage. A fold is usually a product
of deformation, although its definition is descriptive and not
genetic and may include primary structures』
- 重晶石(barite)A
『BaSO4 斜方晶系、空間群Pnma、格子定数ao
0.885nm、bo 0.543、co
0.713、単位格子中4分子含む。晶癖板状、柱状、産状は塊状・粒状・繊維状・鍾乳状。劈開{001}完全、{210}やや完全、{010}通常不完全、硬度3〜3.5、比重4.50。ガラスまたは樹脂状光沢、無色・白色、または黄・褐・暗褐・赤・灰色、まれに緑・青色、包有物により着色、透明〜半透明。反磁性。薄片中無色・淡黄・褐・緑・青色など、屈折率α1.6362、β1.6373、γ1.6482、2V(+)37゜、光分散r>v弱、多色性弱。BaをSrが置換、Pb・Caがある程度置換。酸に不溶。中〜低温鉱床の脈石鉱物として、また石灰岩その他の堆積岩中にも産出する。ギリシア語のbaroz(重い)から命名。〔吉井守正〕』
- 重力(gravity)@
『地球上に静止している物体が地球から受ける力。地球の万有引力が主であるが、地球の自転にもとづく遠心力も加わる。遠心力は赤道上で最大であるが、最大値でも引力の1/290にすぎない。航海中の船で重力測定をするときなどにはコリオリ力も問題になる。地球上の各点での重力分布は、ふつう重力加速度で表わされ、標準重力と重力異常の和で与えられる。天文定数としては、地球の質量を単位にとった地心重力定数(大気を含めた地心引力定数)として、
GE=3 986 005×108m3/s2
を採用している。なお、重力という言葉は、地球に限らず一般の万有引力の意味で用いることがある。重力定数や重力場などはその例である。』
重力(gravity)A
『地球が地上の物体を引っ張る力。この力は、その物体と全地球との間に働く万有引力と地球の自転で生ずる遠心力との合力である。物体の質量をM、重力加速度をgとすれば、この力の大きさはMg。単位質量に働く重力の大きさのことを単に重力という。重力を測定するには重力振子または重力計を用いる。その単位はcm/s2、すなわちGalやm/s2である。地球上の重力は地殻構造の不均一、緯度の高低、観測点の高さ、地球の形が完全な球でないこと、などのために変わる。この事実を逆に利用して地球内部の諸情報を得る。〔参〕G.D.Garland(1965)、The
Earth's Shape and Gravity、Pergamon Press。〔藤井陽一郎〕』
gravity [geophys] (grav'-i-ty)L
『(a) The effect on any body in the universe of the inverse-square-law
attraction between it and all other bodies and of any centrifugal
force that may act on the body because of its motion in an
oebit. (b) The resultant force on any body of matter at or near
the Earth's surface due
to the attraction by the Earth and to its rotation about its
axis. (c) The force exerted by the Earth and by its rotation
on unit mass, or the acceleration imparted to a freely falling
body in the absence of frictional forces.』
- 重力異常(gravity anomaly)@
『各地の重力値と標準重力γとの差。重力の観測値に種々な補正を加えた値からγを引いたもの。補正の仕方によって種々の重力異常がある。観測点のジオイド上の高さに対する高度補正だけを行なって得られる異常を高度異常(free air anomaly)、高度補正に加えて、ジオイド上にある質量によって生じる重力の影響を差し引いて得られる異常をブーゲー異常という。さらにアイソスタシーの理論による補正を加えて得られる異常をアイソスタシー異常(isostatic anomaly)とよぶ。ブーゲー異常はジオイドより下の質量分布を反映しており、地下構造の研究に用いられる。ブーゲー異常は大陸では負、海洋では正である。』
重力異常(gravity anomaly)A
『実測重力値またはそれに各種の補正をした値と標準重力との差をいう。補う補正の種類により、高度異常、ブーゲー異常、均衡異常などの重力異常が定義される。これら各種の重力異常は、どういう問題を扱うのかによって使い分けられる。地球の形を求めるには、地球の全質量をその中に含む等ポテンシャル面に沿って重力異常の分布がわかっていなくてはならない。地殻構造の解明のためにはジオイド面上の物質を取り去った重力異常を使う。重力異常から得られる情報は地球内の物質の密度分布に関する知識である。〔藤井陽一郎〕』
- 重力加速度(gravitational acceleration、acceleration
of free fall)@
『物体にはたらく重力をその物体の質量で割ったもの。地球上での重力加速度の標準値は980.6cm/s2で、極ではこれより大きく、赤道では小さい。1Gal(ガル)=1cm/s2を単位として用いる。』
- 樹状図(dendrogram)J
『デンドログラム、樹枝状図。分類群間の類縁関係・派生関係や進化の歴史などを、樹枝の枝分れの形で示したもの。基づいた方法論や枝分かれが示している内容によって、系統樹(phylogenetic tree、evolutionary
tree、phylogram)、分岐図、表型的樹状図(フェノグラム、phenogram)などとよばれるものがある。』
樹状図(じゅじょうず)K
『なんらかの基準を用いて、生物群の関係を枝とその分岐によって樹のような形にして示した図。系統的推移を示す系統樹、共有派生形質を用いて推定した歴史的つながりを示す分岐図、形質分析による相対的類似を示す表形図がある。デンドログラムは同義語であるが、教育用語としては、漢字表記を優先して樹状図を採用する。』
- シュミットネット(Schmidt net)A
『等面積投影に用いられるネット。等面積ネット(equal-area net)とも。ふつうファブリックダイヤグラムの作成に用いられているものは、直径20cmの円の内部に、南北両極を結ぶ大円と、これに直交する小円とが2゜間隔に描いてある。構造要素の方向を投影するときには、その上にトレーシングペーパーを重ねてまず基円を描き、中心をピンで留め、回軸して適当な大円または小円を利用して行う。構造要素の方向は下向きの方向を投影する。〔小島丈児〕』
- ジュラ紀〔Jurassic(period)〕A
『中生代を三分したうちの第2番目の地質時代で、三畳紀より新しく白亜紀より古い。約208〜145.6Maの約6,240万年間。この地質年代の名称はフランス・スイス国境のジュラ山脈に由来し、ユラ紀ともいう。A.Brongniart(1829)提唱。ジュラ紀の生物界の特徴は、アンモナイト類の発展、硬骨魚の出現、恐竜の繁栄、鳥類の出現、シダ植物・裸子植物の繁茂である。気候は全般的に温暖。ジュラ紀当時の地球規模の海陸分布は、パンゲア超大陸を構成した北側のローラシア大陸、南側のゴンドワナ大陸、赤道域のテチス海、その東側にはパンサラッサ海が拡がっていた。テチス海北縁やパンサラッサ海のまわりでは、海洋プレートの沈込みなどの地殻変動が進行した。〔八尾 昭〕』
- 準拠楕円体(reference ellipsoid)@
『一地方の測地系統の基準として、現実の地球との関係位置を指定した地球楕円体をいう。同じ地球楕円体を使う場合でも、国によって地球に対する関係位置が違うので、地球全面にわたって一致した準拠楕円体は得られない。日本では、ベッセル楕円体を基準として次の条件で定めている。1)東京都港区麻布の旧東京天文台における鉛直線は、準拠楕円体の緯度φ=35゜39'17''.5148N、経度λ=139゜44'40''.5020Eの点に立てた法線と一致する。2)旧東京天文台から千葉県鹿野山三角点を見た方位は、準拠楕円体で上記の点から時計の針の進む向きに北から156゜25'28''.442の方位と一致する。3)旧陸地測量部の直下で準拠楕円体の表面は地下24.4140mの点を通る。』
- 純生産(net production)J
『純一次生産(net primary production)、一次純生産。独立栄養生物(光合成生物および化学合成生物)による総生産から、生産を行う生物自身の呼吸をさし引いたもの。生態系内において、消費者や分解者は生産者の純生産に依存して生存・成長している。また生産者自身の成長も、純生産によってまかなわれる。多くの生態系では、光合成生物による生産が系内の純生産の大部分を占める。純生産の量は乾燥重量、有機炭素量、エネルギー量などの単位で表現されることが多い。単位時間あたりの純生産の量を純生産速度(net
production rate、総生産力 gross productivity、一次純生産力 net primary productivity)とよび、単位面積あたりの生産を考える場合には生産量/面積/時間の次元をもつ。』
- 準平原(peneplain)A
『浸食基準面の近くまで削剥された、ほぼ平坦な小起伏の浸食面。どの程度平坦なものを準平原と呼ぶかについて明確な基準はない。W.Penckが提案した原初準平原とW.M.Davisのいう終末準平原とがあり、両者は形成過程が異なる。一般には後者を準平原と呼ぶ。これは、以前に山地であった地域が浸食を受けて、終地形として生じたもので、基盤の地質構造は複雑であるが、平坦面には残留土壌が発達し、その上を流れる河川は著しく蛇行する。準平原面上に浸食から取り残された部分が残丘として残ることもある。準平原が隆起すると隆起準平原となる。〔参〕三野与吉(1942)、地形原論、古今書院。〔高山茂美〕』
- 晶系→結晶系
- 衝上断層(thrust、thrust fault)A
『上盤側が下盤側の岩層にのし上げた緩傾斜(ふつう45゜以下)の傾斜移動型断層。単に衝上とも。thrustは古くから、形態的、運動的、あるいはそれらを含めた多様な意味に使われた。形態的には、1)reverse
faultとまったく同義(B.Willis et al., 1934ほか)、2)reverse faultのうち45゜より低角のもの(F.T.Freeland,
1893; M.Hill, 1947)に、運動的には上盤側が上がった傾斜移動断層(M.P.Billings, 1954)、成因的には横圧力のもとで褶曲とともに発達した逆断層(J.Hall, 1815ほか。古くはこの使い方が多い)など。現在は、最初に述べたように、運動のセンスを表す語として使われることが多い。応力との関係では、この断層のできる条件は、相対的な最大圧縮の方向が水平、最大伸長の方向が垂直(E.M.Anderson,
1951)で、地殻の部分的な短縮の条件を表す。〔小玉喜三郎〕』
- 衝突クレーター(impact crater)A
『小天体(隕石・小惑星・彗星)が高速(数km/s)で衝突することによってできた凹地。インパクトクレーターとも。地球上のものは、しばしば隕石孔、隕石クレーターと呼ばれる。太陽系の固体表面をもつ大部分の天体にみられ、直径1mm以下から2,000km以上のものまである。大気のある天体では大気との摩擦で小天体が減速されるので、衝突天体の直径が、金星で数km以下、地球で数十m以下、火星で1m以下の場合には衝突クレーターができない。月のような大気をもたない天体では、1mm以下の衝突クレーターまでできる。地球上での衝突クレーターの認定は、平面形・構造(シャッターコーン、めくれ上がり構造)・重力、および鉱物の変形、高圧鉱物(コーサイト・スティショバイトなど)の有無などから判断される。地球上には約150の衝突クレーターが知られている。〔白尾元理〕』
- 消費者(consumer)J
『生態系における栄養動態論の観点からみて、生産者の生産した有機物を利用する植食性・捕食性の動物群。A.F.ティーネマン(1918)が最初に使用した。動物と他養植物(菌類や細菌類は含めない)がこれに属するとされるが(R.L.Lindeman,
1942)、ふつうは動物だけを指すことが多い。分解者との境界はあいまいかつ便宜的なので、広く従属栄養生物全体を指すのに用いられることもある。消費者のうち、生産者である緑色植物を食うもの(植食動物)あるいは生産者の死体(落葉・枯枝などを含む)を食うものを第一次消費者(primary
consumer)とよび、第一次消費者を摂食する動物を第二次消費者(secondary consumer)、以下順次第三次・第四次消費者などとよんで区分する。ただし、発育のステージにより、あるいは同じステージにおいても、これらの消費者内の段階を変える種が少なくない。また、物質でなくエネルギー流を中心に考える場合には、化学合成生物を含めて転換者(transformer)の語を用いることもある。』
- 小惑星(minor planet、asteroid)A
『火星と木星の軌道の間にあって太陽を公転している小天体。アステロイドとも。1801年第1番小惑星ケレスが発見されて以来、発見数は年ごとに増え、1994年6月23日までに軌道が確定し登録番号が与えられた小惑星は6028番に達する。実際はおそらく数万個以上あると推定される。これまでにわかった小惑星の大部分は軌道長半径2.1〜3.3天文単位の範囲にあり、その平均値2.8天文単位はチチウス-ボーデの法則の値に一致する。大きさはケレスの直径910kmが最大で、大部分は直径100km以下である。小惑星のなかには、軌道長半径・離心率・軌道傾斜角が互いによく似た値をもつグループがいくつもあり、核と呼ばれている(1918年平山清次が発見)。小惑星の物質組成は、表面の反射スペクトル(波長0.6〜4μm)を組成のわかった地上の各種物質の反射スペクトルと比較して推定し、C型(炭素質隕石に似た暗い表面をもつ)、S型(石鉄隕石に似る)、M型(隕鉄に似る)などに分類される。小惑星と隕石の間に密接な関係があるとされているが、各型が対応する隕石とまったく同じ組成であるかどうかは検討の余地がある。〔小沼直樹・小森長生〕』
- 小惑星帯(asteroid belt)A
『小惑星の多くは火星と木星の軌道の間を公転しており、あたかも帯状に分布しているようにみえるので、これを小惑星帯という。特に大部分の小惑星が集中している軌道長半径2.1〜3.3天文単位の範囲をメインベルト(主小惑星帯)と呼ぶ。メインベルト内の小惑星分布は一様ではなく、木星と小惑星の公転周期の整数比が3:1、5:2、7:3、2:1になる所(共鳴帯)には、小惑星がほとんど存在しない。この部分を発見者の名にちなんでカークウッドの空隙(Kirkwood
gap)と呼ぶ。一方、メインベルト外側の共鳴帯には小惑星が群をなして存在するという逆の関係がある(例えば3:2のヒルダ群、4:3のチューレ群、1:1のトロヤ群など)。こうした小惑星帯内の分布の不均一性は、共鳴点にある小惑星の軌道進化の結果とみられる。なお、小惑星帯からはずれて離心率の大きな楕円軌道を描く小惑星もあり、特異小惑星(地球に近づくものは近地球小惑星)と呼ばれる。〔小森長生〕』
- 食物網(food web)H
『生物群集内で相互に関連する食物連鎖の総体。』
- 食物連鎖→食物連鎖(food
chain)
- 初生(juvenile、primary、primordial)A
『(1)juvenile
地下深所から初めて地表に出てきた物質(ガス・水・マグマ等)につける形容詞。地表付近にすでに存在している同種の物質によって汚染されていない、初源の状態のままであるとの意味。火山噴出物や火成岩については、マグマから直接由来したものをいう。マグマからの水その他の揮発成分に対してE.Suess(1902)が初めて使用。R.A.Daly(1917)はこれに対し内因的かつ二次的なもの(例えば浸透水が火山の熱で熱せられた温泉など)にresurgentの語を用いて区別。
(2)primary
二次的な作用を受けていない「一次的な」の意。分化していないマグマ、マグマから晶出した火成岩、溶液から沈殿した化学的堆積岩、二次的作用を受けない鉱床、これらの岩石や鉱床の鉱物・組織などを表す。この意味で、古くprotogenous(K.F.Naumann、1858提唱)が使われたが今は死語。primaryの語は地質学では本来は「始原の」という意味で、地質年代区分に用いられたもの(G.Arduino、1759)。また、ごくまれに同生(syngenetic)の意に用いられることがある。
(3)primordial
地球生成当時から存在する地殻・大洋・大気などを形容するのに用いられる。「始原」の訳語をふつう用いる。本来はボヘミアの最古の化石含有層、すなわちカンブリア系に対してBarrandeが使用。〔荒牧重雄・端山好和〕』
- C4植物(しーよんしょくぶつ)(C4 plant)K
『被子植物のなかで、光合成の炭酸固定で最初の産物が炭酸数4のジカルボン酸(オキサロ酢酸、リンゴ酸、アスパラギン酸)になる植物(たとえばイネ科)。これらのC4酸はふたたび脱炭酸され、遊離した二酸化炭素がカルビン・ベンソン回路により再固定される。このC4光合成経路をもつものをC4植物とよぶ。C4光合成経路は葉肉細胞と維管束しょう『鞘』細胞が分業的に働き、両者の協同作業によって初めて成り立つ。C3植物の対語。
- シルル紀〔Silurian(period)〕A
『古生代の第3番目の地質時代。広義に、現在のオルドビス紀+シルル紀の意味で用いられたり、ゴトランド紀の名で呼ばれたこともある。Monograptusのような単軸型筆石が全盛で、模式地での分帯はこれによる。模式地は英国ウェールズの東部で、名称は古くその地方に住んでいたシルル族(Silures)に由来。筆石のほかに、Halysites・Goniophyllumなどのサンゴ類、Conchidium・Pentamerusなどの腕足類、コケムシ類、棘皮動物が多い。魚類はしだいに多くなる。植物は胞子ばかりでなく、陸生の下等なシダ類がかなり発見される。当紀の後期はカレドニア造山運動の造山期に相当する。気候は一般に温和。〔中村耕二〕』
- 深海平原(abyssal plain)A
『大洋底で勾配が1/1,000以下の平坦な地域。底質の柱状試料には大陸地域に由来する砂・シルトの級化層が含まれ、これらの堆積物の性質や音波探査の結果、またその位置などから、起伏のある基盤が堆積物によって埋め立てられて生じたと考えられている。深海平原には混濁流の通路である深海長谷がしばしばみられる。北米大陸の東岸沖やアフリカ大陸沖などがその例。〔茂木昭夫〕』
深海平原(abyssal plain)E
『勾配が1/1000以下の平坦な大洋底の地形。通常、コンチネンタルライズの基底に発達する。混濁流で運搬された堆積物(タービダイト)が、小起伏の原海底を埋めて平坦な地形をつくったものと考えられる。同様の地形が、深海の大規模な海山〜海膨の周辺に発達する場合があり、これも同様の成因をもつものと考えられる。』
- 真核細胞(しんかくさいぼう)(eukaryotic
cell、eucaryotic cell)K
『間期に核膜に包まれた核をもつ細胞。染色体構造をもち、有糸分裂をおこなう。小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、葉緑体、リソソームなどの細胞小器官が分化している。原核細胞の対語。』
- 真核生物(eukaryote、eucaryote)H
『染色体の遺伝物質が1つ以上の核に含まれていて(あるいは含まれていた)、二重の核膜で細胞質と分けられている細胞からなる単細胞または多細胞の生物。いくつかの真核細胞は、発生の途中で核を失っている(例、哺乳類の赤血球、師部の師管)。しかし、すべての真核細胞は原核細胞とは異なり、いくらか大きな(80S)リボソームと膜に結合した非常に多様な細胞小器官をもち、一般に原核細胞よりずっと大きく、アクチン、ミオシン、チューブリン、ヒストンなどの特徴的なタンパク質をもつ。ただし大腸菌でも、アクチンに似たタンパク質が見つかっている。実際、いくつかのタンパク質のドメインが原核生物と真核生物が分岐する前から保存されているという証拠があり、分子レベルでこれらの体制の区別を再考する必要性を提示している。しかしながら、有糸分裂や減数分裂を行う原核生物はおらず、真核生物の細胞運動は原核生物とは異なるモータータンパク質を用いている。原核生物と比較せよ。』
真核生物(eukaryote、Eukaryota、Eucarya)J
『被核生物、真正核生物。真核細胞からなる生物群。生物をその構成細胞に核が有るか無いかで二分するときの一つで、原核生物と対置される。単細胞性または多細胞性で、単細胞生物の一部と、肉眼的に認められる大型の生物のすべてとが、これにあたる。』
- 進化論(evolution theory)J
『生物が進化したものであることの提唱、あるいは進化に関する諸種の研究および議論、またはそのうち特に進化の要因論。進化に関する近代的観念は、18世紀中葉よりあらわれているとされる。進化要因論として最初の体系的なものはJ.B.ラマルクの学説で、ついででたC.ダーウィンの自然淘汰説により進化の観念が確立された。そののちネオダーウィニズム・ネオラマルキズム・定向進化説・隔離説・突然変異説などの諸説があらわれ、小突然変異(micromutation)説や全体突然変異説も主張された。現在は、生存闘争の原理を一方の支柱とし、変異とその遺伝に関する現代の知識を他方の支柱とする自然淘汰説が一般的に認められており、これがしばしばネオダーウィニズムの名でよばれるが、生物界の諸現象をひろく照合していく傾向のうえからは総合説(synthetic
theory)とよばれる。分子遺伝学の諸成果や集団遺伝学の諸研究は、特に大きな成果をおさめた。ただ自然淘汰説に対する批判が新たに提起されるなどのこともある。進化論は生命の起原の問題と密接な関係をもち、古くはラマルクが両者を一貫のものとして論じたが、ダーウィン以来は一応切りはなされて論じられてきた。しかし現在では、生命の起原の研究が進展するにしたがって、ふたたび二つの問題が一体化している。』
- 震源(hypocenter focus)E
『地震波の波源のこと。地震の原因となる地球内部の破壊は、実際には点ではなく、ある広がりをもっている。この破壊が生じた領域を震源域(source
region、focal region)と呼ぶ。観測された地震波から求めた震源は、震源域の中で最初に破壊が起こった点と考えられる。震源域は余震の震源分布、地震に伴う地殻変動や津波の状況などから推定される。また、最近では、地震の原因となる破壊はある有限の広がりをもった断層面に沿う有限のくいちがい(ずれ)運動であり、くいちがいはその面上を数km/s程度の速度で広がっていくものと考えられている。このようなくいちがいを生じた断層は震源断層(seismic fault)と呼ばれることがある。地震断層は震源断層が地表に達したものである。なお、観測点から震源までの最短距離を震源距離(hypocentral
distance、focal distance)と呼ぶ。』
- 震源断層(earthquake source fault)A
『地震を発生させた地下の断層。地震のとき発生したり動いたりした断層は地震断層と呼ばれていたが、最近は地表に現れた断層を地表地震断層、地震を発生させた地下の断層を震源断層と呼ぶようになった。〔野村 哲〕』
- 震源パラメーター(source parameter)A
『地震を発生させた断層運動や断層面の形態を記載するのに十分な、いくつかの幾何学的および力学的諸量の総称で、a)断層面積S、b)断層面の傾きαとその走向θ、c)断層面の動きの型(正断層、逆断層、左横ずれ、右横ずれ)、食違いの平均値U(頭に-)、食違い速度V、d)断層面沿いの破壊の進行速度v、e)断層の最初のずれが完了するのに要した時間τ(ライズタイムという)、f)地震によって取り除かれた応力量刄ミ(応力降下量(stress
drop)といい、海溝沿いの浅い地震で3MPa±、内陸部のもので10MPa±)、g)地震モーメントMoなどがある。〔三東哲夫〕』
- 浸食(erosion)A
『地球の表面が雨・流水・風・波・雪・氷河などの外因的営力で削られる作用。浸食作用とも。それぞれの営力に対応して、雨食・河食(水食)・風食・波食(海食)・雪食・氷食という。以上は主として機械的な浸食作用であるが、雨水や地下水の溶解作用による浸食は溶食という。同一地域内の地質や地質構造によって浸食の程度が異なるときは差別浸食という。堆積過程において流水中で一時的に起こる浸食が同時浸食。不整合の有無を考察するとき、浸食作用は重要な要素の一つ。また生活面の浸食は災害になることが多い。〔木村春彦・野村 哲〕』
- 深成岩(plutonic rock)A
『マグマが地下でゆっくりと冷却・固結してできた完晶質粗粒の岩石。代表的なものは花崗岩・閃緑岩・斑れい岩。〔加々美寛雄〕』
- 新生代〔Cenozoic(era)、Cainozoic(era)、Neozoic(era)〕A
『地質時代(生代)区分の大分けでの最新の時代。哺乳類の時代。J.Phillips(1841)が“Cainozoic”の名をG.Arduino(1759)のTertiaryに代わるものとして与えた。第三紀、第四紀に分け、第三紀を古第三紀と新第三紀に分ける。Cainoはrecent、zoicはzoonの意で動物による時代区分。65.0Ma以後。新生代は新しいほうから完新世、更新世、鮮新世、中新世、漸新世、始新世、暁新世に細分。〔石田志朗〕』
- 震度(seismic intensity、seismic
coefficient)A
『震度は二つの意味で使われる。一つは、ある地点での地震動の強さを意味する。地震動の強さを人間が感じた程度、周辺物体の振動程度や被害程度などを参考に判定される。その基準が震度階で、日本では0〜Zに分けられた気象庁震度階が使われている。外国では1〜12に分けられた改正メルカリやMSK震度階が使われている。震度は計器を用いず即時的に決められるため、古くから各地の揺れや地震規模の概要を迅速に知ることができ、地震の速報に広く使われてきた。しかし、人体の感覚に頼るのでは観測地点の制約や個人差を生ずる恐れがあり、気象庁では1990年代から、地震動の周期・変位・速度・継続時間などを考慮した震度計を開発して各地に展開を始め、現在では震度計による震度が基本となっている。もう一つは構造物に作用する地震力を表す震度(設計震度ともいう)で、地震動の加速度値の重力加速度に対する割合を意味し、工学の分野で使われる。これはαh=水平動加速度、αv=上下動加速度、g=重力加速度とすれば、水平震度kh=αh/g、垂直震度kv=αv/g。また合震度K=kh/(1−kv)、設計震度にはαh、αvの最大値を用いる。〔那須信治・石川有三〕』
- 震度階(seismic intensity scale)A
『ある地点での震度を判定するために基準とする地震動の強さを表にしたもの。基準には、地震動の強さを人間が感じた程度、周辺物体の振動程度や被害程度などが用いられる。古来いろいろの震度階が提案され、Rossi-Forel階(10階級)、改正メルカリ震度階(略称MM震度階)、メドベデフ・シュポンハウエル・カーニックが提案したMSK震度階(12階級)などは現在諸外国で用いられている。日本では木造家屋の被害程度などを勘案して、独自の気象庁震度階や河角の震度階が用いられている。また人体には震動を感じないが、地震計には記録される地震を無感地震、人体で震動を感じる地震を有感地震という。〔那須信治・石川有三〕』
- 新ドリアス期(Younger Dryas time)A
『更新世の最後の時期。T.Nilssonがスウェーデンで、K.Jessenがデンマークで1935年に設定。約11,000〜10,300年前の世界的な寒冷期。ヤンガードリアス期あるいはヤンガードリアススパイクとも呼ばれ、この短期間の寒冷化は大洋中の深層流の循環変化に起因するともいわれているが、その原因と機構については諸説があって定まっていない。〔熊井久雄・市原 実〕』
- 人類→ヒト(homo)
- 人類の進化(human evolution)J
『ヒトの進化、ホミニゼーション(hominization)。人類(ヒト)の祖先が現在の大形類人猿の祖先と分岐して、現生人類のように、霊長類のうちでも特異な身体特徴、文化・社会を形成するに至った進化過程。ヒトの起源は一元的である。ヒトの祖先は、1000〜500万年前の鮮新世の頃、チンパンジー・ゴリラなどアフリカの類人猿の祖先と分岐し、直立二足歩行の体制を獲得、いくつかの段階を経て現代の人類に到達した。ヒトの進化には5段階を考えるのが適切である。
(1)第三紀霊長類:ケニアピテクスとアウストラロピテクスの中間に位置する動物。これに該当する化石は未発見。
(2)猿人類:アウストラロピテクス類がこれに属する。頭蓋容量は大形類人猿と同程度か、それをわずかに越える程度。直立二足歩行をとり、犬歯が短小化するが、顔面頭蓋は大きい。その後期地層からは礫石器など粗末な石器が出土するが、これは次の原人類との中間形であるハビリス人(ホモ=ハビリス)に帰属させられる。
(3)原人類:ジャワ原人・北京原人・ハイデルベルグ人などホモ=エレクトゥス類がこれに属する。直立姿勢はほぼ完成するが、頭蓋容量は猿人類と新人類の中間。顔面頭蓋はかなり頑丈で眼窩上隆起が発達。握斧やチョッパーなど、一見して人工品とわかる万能石器をもつ。
(4)旧人類:ネアンデルタール人・カブウェ人・ダーリ人(大茘人 Dali Humans)がこれに属する。脳頭蓋の大きさは現生人類とだいたい同じ。顔面頭蓋ははるかに大きく、頑丈。中期旧石器文化をもつ。死者を埋葬した証拠もあり、精神生活はかなり高いものであったと思われる。ネアンデルタール人はヴュルム氷期に生存し、かなりの寒気に接触したと考えられる。
(5)新人類:現生人類・クロマニョン人・縄文人などがこれに属する。後期旧石器文化を発展させた後、新石器文化を生み出し、牧畜・農耕を開始して今日の文明にいたる。人類の進化には、道具・火・言語の獲得によって、他の動物にはなしえない規模の環境改変と共に進行したという特異性も見られる。』
- 人類紀(Anthropogene、epoch of
man)A
『第四紀の別名としてヨーロッパ、特に旧ソ連圏でよく使われる。地質年代が生物の進化によって区分されることから、人類の時代という意味で一つの紀を立てようとの考えに基づいて提案されたが、国際地質学会連合の地質年代区分には採用されていない。氷河時代もほぼ同様な扱いになっている。〔熊井久雄〕』
【す】
- 水圏(hydrosphere)A
『地球を大気圏・岩石圏などに分けたときの一つ。水圏の中心は海洋であるが、湖沼などの陸水圏を含めたときに水圏という場合が多い。両者は水という流体が存在する点で共通であるが、相違点も多い。純水は4℃で最も重く、海水は氷点で最も重いので、淡水湖は湖底が還元環境になりやすい。また、海水が底に入った汽水湖も同様である。水圏は生物圏と深いつながりをもつが、還元環境下では動物が生活できず、またMnなど金属が溶け出し、異質な環境をつくる。〔角皆静男〕』
hydrosphere (hy'-dro-sphere)L
『The waters of the Earth, as distinguished from the rocks (lithosphere), living things
(biosphere), and the air (atmosphere).
Includes the waters of the ocean; rivers, lakes, and other bodies
of surface water in liquid form on the continents; snow, ice,
and glaciers; and liquid water, ice, and water vapor in both
the unsaturated and saturated zones below the land surface. Included
by some, but excluded by others, is water in the atmosphere,
which includes water vapor, clouds, and all forms of precipitation
while still in the atmosphere.』
- 水晶(rock crystal)A
『無色透明で結晶形の明瞭な石英の一般的な名称。ペグマタイト中などには重量数tに及ぶ巨大な結晶を産出することがある。(図:略)〔嶋崎吉彦〕』
水晶と石英(rock crystal と quartz)C
『西洋では、古代から中世を通じて、水晶を氷の固まったものと考えてきたcrystalが、結晶一般をさすようになり、水晶にあたるものはrock
crystalとよぶようになった。これとは別に、ドイツでは中世以来鉱山家の間で、Quartzeという石が識別されており、これは起源は不明だが中世高地ドイツ語かららしい。最初に書き残したのはアグリコラのようである(16世紀前半)。スラブ系の「硬い」からドイツ語に入ったという説もある。これが珪質の固い石の総称として用いられるようになった。
中国では水精という語が古くからあり、本草学者の中では、さらに水晶・石英の語も用いられた。この言葉もヨーロッパの場合と同じく水の固まったもの、氷の石になったものと考えられたことによる。これらの言葉は形や産状によって使いわけられていたが、その用法は一定していない。
現在用いられているように水晶(精)を六角柱状の結晶のものとしてrock crystalの訳語とし、石英を総称としてquartzの訳語とすることを提案したのは、和田維四郎(明治11年・1878)で、それが現在の我々の用法のはじまりとなった。
水精・水晶ともにスイショウとよむが、その後、水精を用いることは廃れている。』
- 彗星(すいせい)(comet)A
『氷と塵の集合体からなる太陽系天体。ほうき星とも。軌道は楕円・放物線・双曲線の3種類あり、楕円軌道のものは周期彗星、他は非周期彗星と呼ぶ。周期200年以内の短周期彗星とそれ以上の長周期彗星がある。彗星は、塵を含んだ氷の塊からなる核と、それを包み込むコマ(髪の意味)、尾の三つの部分からなる。コマは核から蒸発した物質がつくるガスの衣で、半径105〜106kmに達する。尾はガスと塵の二つの部分に分かれ、太陽の反対側にのびる。ガスの尾(タイプT)は太陽風に吹き流されてでき、長さは108kmを超えるものがある。塵の尾(タイプU)は太陽光の放射圧によってでき、タイプTの尾より短く幅広い。〔小沼直樹・小森長生〕』
- ステレオ投影(stereographic projection)A
『面構造や線構造といった三次元空間の方位データを平面上に投影する方法。目的とする面や線が中心を通る球を仮定し、その球を地球にたとえる。投影すべき面や線と下半球との交わりを北極と結んだときの曲面や直線が赤道面上に描く曲線・点をステレオ投影という。この場合を下半球投影と呼び、逆に南極を使った場合を上半球投影と呼ぶ。実際のデータ解析には、半球面上の大円と小円をあらかじめ投影して作成したステレオネットを使用する。曲面上での方位の関係が正確に投影されるのがウルフネットで、球面上の面積の割合がネット上でも保たれるように投影されるのがシュミットネットである。〔天野一男・小島丈児〕』
- ストロマトライト(stromatolite)A
『シアノバクテリア(ラン藻)などの光合成に伴う分泌物が形成した、一定の形態上の特徴をもった炭酸塩岩のことをいう。バイオハーム(bioherm)を形成することが多い。先カンブリア時代に多く、古生代以降は急激に減少するが、現在でもオーストラリア西海岸のシャーキー湾のハメルンプールなどにみられる。岩体内部に細かい縞状構造や同心円構造が認められ、先カンブリア時代のものは、その形態によって多くの属に分けられ化石帯が設定されている。最古のものは35億年前にさかのぼり、地球大気中の酸素の発生源と考えられている。クリプトゾーン(Hall、1884)、コレニア(Walcott、1914)はいずれもバイオハームの特徴の差に基づく形態属として用いられている。1908年にK.Kalkowskyが、bed
coverを意味するギリシア語のstromaと「岩」を意味するlithを合成して提唱。〔大森昌衛〕』
ストロマトライト(すとろまとらいと)K
『ラン藻類とその分泌物質およびそれに付着した微小粒子などによって生じた固いゼラチン様または石灰石様の層状構造。現在でもフロリダなどの浅海ではストロマトライトが形成されつつあるが、先カンブリア時代の地層から得られるストロマトライトは、当時ラン藻類が大繁殖していた証拠とされる。』
stromatolite (stro-mat'-o-lite)L
『An organosedimentary structure produced by sediment trapping,
binding, and/or precipitation as a result of the growth and metabolic
activity of micro-organisms, principally cyanophytes (blue-green
algae)(Wlter, 1976, p.1). It has a variety of gross forms, from
nearly horizontal to markedly columnar, domal, or subspherical.
The term was introduced by Kalkowsky in 1908 as stromatolith.
Ct: oncolite. Syn: algal stromatolite.』
- スペクトル〔spectrum、(複数)spectra〕I
『【1】光学スペクトル(optical spectrum)をいう。I.Newtonが日光をプリズムで分解して、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の色帯を観測したことが、この語の始まりである。光を分光器で分解したときに得られる成分をスペクトルといい、波長の順に並んでいる。ある系が高いエネルギー準位から低いエネルギー準位に遷移するのに伴って放出される発光スペクトルと、低い準位から高い準位に遷移するのに伴って吸収される吸収スペクトルがある。分光学が進歩して電磁波が解析され、スペクトルとして短波長側から、X線スペクトル、真空紫外スペクトル、紫外スペクトル、可視スペクトル、近赤外スペクトル、赤外スペクトル、遠赤外スペクトル、マイクロ波スペクトルなどに分類された。ふつう電磁波についてスペクトルを表す場合、光の強度または光量を波長の順に並べる。また得られるスペクトルの形から、連続スペクトル、不連続スペクトルに区別され、後者はさらに線スペクトルと帯スペクトルに区別される。光を放出または吸収する系によって原子スペクトル、分子スペクトルとも区別される。
【2】広義には横軸にエネルギーまたはそれに相当する量をとり、そのエネルギーの成分が出現する頻度を縦軸に目盛った図形をスペクトルという。NMRスペクトルでは横軸として共鳴周波数ν、またはH
=hν/γ(γは核の磁気回転比)で換算される磁場の強さH をとる。同様にして音響スペクトル、格子振動スペクトル、質量スペクトルなどがある。』
【せ】
- 世(せい)(epoch)A
『地質学的な年代区分の単位。期(age)より大きく、紀(period)より小さい。中新世・鮮新世などのように用いる。年代層序区分の統に対応する。各世は主に化石群の変化に基づいて区分される。〔坂本 亨〕』
- 星雲(nebula)@
『輝いた雲のように見える天体をいう。可視光で見て、おもにガスが光っているものと、無数の星が光っているものとがある。これらはスペクトル線によって容易に区別される。前者はほとんど銀河面に沿ってみられ、その距離も近く、銀河系に属する天体であって、銀河系内星雲ともいう。惑星状星雲、散光星雲、暗黒星雲などに区別される。後者は数十万光年以上の遠距離、すなわち銀河系の外側にあるので、銀河系外星雲というが、ガス星雲と銀河系外星雲は物理的に全く異なるものであり、近年は、前者はガス星雲、後者は銀河とよぶことが定着しつつある。星雲は星団とともに、通常、ドライヤー星表(略号NGC)またはメシエ星表(略号M)の番号でよばれるものが多い。』
- 生元素(bioelement)J
『生体元素、不可欠元素、必須元素。生物が正常な生活機能を営むために必要な元素。生元素にはすべての生物に共通なものと特定の生物にだけ必要なものがある。炭素、窒素、酸素のようにすべての生命体に多量に含まれる多量元素が生元素であることは明らかであるが、微量元素の場合にはそれが生元素であるか否かを決めるのは容易ではない。生元素であることを証明するには、その元素が欠乏した場合に特定の生化学的変化が生じ、これを加えた場合にその変化が回復することを明らかにする、もしくはその元素を含む生体成分を取り出し、その生理的意義を明らかにする必要がある。現在のところ、約30種類の元素が生元素であると考えられている。』
- 生産者(producer)J
『〔同〕一次生産者(primary producer)。生態系における有機物の生産者としての独立栄養生物あるいは生物群。A.F.ティーネマン(1918)が提唱。栄養段階の最基底をなす。光合成生物と化学合成生物がこれにあたるが、大部分の生態系では、光合成能力をもつ植物(微生物を含む)が有機物生産の大部分を担っているので、これだけを指して生産者とよぶことが多い。』
- 成層圏(stratosphere)@
『気温の鉛直分布を調べると、地表から圏界面までは高さと共に減少するが、圏界面付近に等温層が存在し、その上空では、高度50km付近まで高さと共に気温は増加する。圏界面から気温が極大になる高度までの大気層を成層圏という。テスラン・ド・ボール(L.Teisserenc
de Bort)が発見した(1902)。成層圏の内部にはオゾン層が存在し、オゾンが太陽放射に含まれる紫外線を吸収して大気を加熱するらめに成層圏が生じる。成層圏は、その上空の中間圏と合せて中層大気(middle
atmosphere)とよばれることがある。中層大気の内部には対流圏と異なる大気大循環が生じている。』
stratosphere (strat'-o-sphere)L
『The layer of the atmosphere
extending from 10 km to 50 km, overlying the troposphere;
characterized by a region of constant temperature for the first
several km. Between 20 km and 50 km the temperature increases
with height, reaching a temperature maximum at the stratopause
(approximately 50 km). The temperature of the stratosphere results
from the absorption of ultraviolet radiation by the oxygen and
ozone molecules between 39 km and 50 km.』
- →生態系(ecosystem)
- 生物(organism、living being)J
『生命現象を営むもの。ただし生命は生物の本質的属性と定義されるので、両者の関係はトートロジーとなり、この問題は古くからの論議がある。古代から人間が生物として認識してきたものは、必ずしも単一の属性によって無生物と区別されるものではない。細胞構造・増殖(自己再生産)・成長・調節性・物質代謝・修復能力など種々のものが生物の特性としてあげられてきたが、生物界および無生物界の双方に例外が指摘されるのが常である。ウイルスが生物であるか無生物であるかの議論などは、そうしたところから起こった。今日では、核酸のつかさどる遺伝と、蛋白質のつかさどる代謝の関与する増殖を、生物のもっとも基本的な属性とする意見が有力である。地球上の生物に類似するものが他の天体に発見された場合には、生物の定義には再考察が必要になる。』
生物(せいぶつ)K
『生命をもつものの総称。生命の基本的属性として、遺伝情報の自己複製と伝達、物質およびエネルギー代謝、の二つが重視されている。これに加える特性としては、細胞構造、成長、調節性、自己修復能力などが考えられるが、ある特性の有無だけで生物と無生物とを区別できるものではない。』
- 生物圏(biosphere)J
『ビオスフェア。地球上で、生物がすんでいる範囲。E.Suess(1875)の造語。大気圏(atmosphere)、水圏(hydrosphere)、地圏(geosphere)などの語と対応する用語。地球全体としてみれば、表面のごく薄い層を形成している。生物圏は、水が液状で存在し、かつ光合成が可能かあるいは光合成産物が移動可能な空間に限られている。G.E.ハッチンソン(1965)は生物圏を、生物が生活可能なeubiosphereと、生活は不可能だが、例えば胞子のようなかたちで生存することだけは可能なparabiosphereに二大別し、前者をさらに、光エネルギーを固定しうるautobiosphereと、そこから化学エネルギーを有機物のかたちで得る必要のあるallobiosphereに区分した。後者の典型的な場所は、深海・土壌中・地下水中など(hypoallobiosphere)や高山(hyperallobiosphere)で、有機物は重力により、または空気や水の動きによって運ばれてくる。なお、生態圏(ecosphere)の語もほぼ同義であるが、宇宙空間内の密室生態系などを含める意がやや強い。』
生物圏(せいぶつけん)K
『地球上で地表、海洋、大気圏の下層部など生物活動がみられる領域をさす。地球的規模でみると、ほんの表面の薄い層である。』
biosphere (bi'-o-sphere)L
『(a) All the area occupied or favorable for occupation by living
organisms. It includes parts of the lithosphere,
hydrosphere, and atmosphere.
Cf: ecosphere. (b) All living organisms of the Earth and its
atmosphere.』
- 生物進化(organic evolution)J
『〔1〕進化を広義に宇宙の歴史的変化の全体をさすものとした場合に、そのうち生物界の進化をさしていう。
〔2〕化学進化につづく過程として、それと並列的な概念。』
- 生物体量(biomass)J
『バイオマス、生物量、現存量(standing crop)。ある時点に任意の空間内に存在する生物体の量を、重量ないしエネルギー量で示した指標。個体群や群集について用いられ、特に陸上植物の群落や植物体の一部については現存量の語がよく使われる。』
→バイオマスエネルギー
- 生物ポンプ(biological pump)J
『海洋の物質循環において、海面から深層への炭素の輸送を担う生物の活動全体の総称。炭素以外の物質循環に使われることもある。表層で光合成により生産された有機物の多くは呼吸により無機化されるが、一部は植物プランクトン自身あるいは動物プランクトンの糞粒の沈降として、また、動物プランクトンの日周鉛直移動によって下層に輸送される。海面では下層へ向かう有機炭素量に見あう二酸化炭素が大気から補給されることになる。』
- 生命(life)H
『複雑な物理化学的な系で、次の2つの主要な特性をもつ。(1)核酸の形で分子情報の保存と複製を行う。(2)酵素触媒作用をもつ(ウイルスの場合は単に潜在能力をもつだけである)。酵素触媒作用なしには、系は不活性で、生きてはいない。しかし、このような酵素触媒作用のない系も、生物学的であるとされることもある(例、宿主から離れているすべてのウイルス)。生命系のこれ以外のよく知られた性質として、栄養摂取、呼吸、生殖、排出、被刺激性、運動性などがあるが、いずれも上に述べた2つの特性に何らかの形で依存している。
生命系は進化の歴史をもつ。生命の起原が何であれ、すべての現存の生命体は生きた祖先をもつ。最初の生命系は現在の生命体とはかなり違っていたと考えられる。特に遺伝系(分子情報の保存と実行の様式)は異なっていたであろう。』
生命(life)J
『生物の本質的属性として抽象されるもの。その属性により、個体および種が保存され、長い間に環境との関係において進化が起り、しかも生物が合目的的な存在として成り立ちえている。これらのこと自体を生命の本質的属性とみなすこともできるが、それらを可能ならしめている土台には情報の伝達とエネルギーの方向づけられた変換とがある。このような性格や細胞構造・蛋白質の存在が宇宙のいかなる生命にも(地球外生命が存在するとして)普遍的なものであるかどうかは格言できない。それはさておき、以上によって生命の定義が明確になされているかどうかには、なお問題がある。生命の語なしに生物学の体系を組織することもまったく不可能とはいえないが、生命の語は生物学者によっても慣用されており、生命体、生命現象とか生命の起原とかの語はごく普通に使われている。生命とはなにかについての諸説を生命観あるいは生命論という。古くからの生気論的観念論に対し近世(17世紀ごろから)において機械論が生まれ、また20世紀初めからは全体論、その一種としての新生気論や有機体論、また弁証法的唯物論にもとづく生命論が唱えられた。現在では、生物を自動制御機械と類比することにもとづく新たな生命機械論も有力であり、それは有機体論とも関連づけられている。』
生命(せいめい)K
『生物が生物であると認められるための抽象的概念で、すべての生物の共通する本質的な属性。生物の項も参照のこと。』
- 生命の起原(origins of life)I
『地球上の生命がどのようにして始まったかは自然発生説と地球外起原説に大別される。学界の大勢は1920年代にA.I.Oparinが、また1930年ごろ独立にJ.B.S.Haldaneが提唱した化学進化概念に基づく自然発生説を受け入れている。原始地球をとりまく原始大気に放電、紫外線、熱、放射線などが働いて、大気の主成分であった単純な化合物(かつてはメタン・アンモニア・水蒸気・水素と考えられていたが、今日では二酸化炭素・窒素・水蒸気とされる)からアミノ酸、核酸塩基、脂肪酸、糖などが生じ、これは当時の海に溶け込んだと考える。』
生命の起原(origins of life)J
『生物が無生物質から発生した過程。一般には原始地球上でおきた事象とされるが、古くは生物の自然発生の観念が普通であり、またパンスペルミア説が、現在でも一部の学者により唱えられている。いずれにしろ地球の発展過程の一段階として生起した事象と考えられており、生命の起原に先だつ過程が化学進化であり、それに続く過程が生物進化である。地球上での生命の起原の時期は地球の誕生(46億年前)後約10億年の頃であろうといわれる。それは最も古い微化石が30億年以上前のものであるという事実に基づくものであるが、まだ確実とはいえない。その場所は、強力な紫外線をさけられるほどの深さの海中であっただろうといわれる。かつては、生命の起原以前には地球上に有機物はなく、無機栄養微生物が最初に生じたと考えられていたが、A.I.オパーリン(1924)、J.B.S.ホールデーン(1929)は生物発生以前には地球上に有機物が蓄積しており、当時の大気中には酸素分子はほとんどなく、この蓄積した有機物に依存した嫌気的従属栄養生物が最初の生物であると考えた。この考えが一般に認められるようになったのは1940年頃からである。生命の起原以前に有機物が蓄積したことは、ミラーの放電実験(1953)に始まる多くのモデル実験と、隕石や宇宙空間に種々の有機物が見出されることで支持される。次には、このような化学進化によって生じた生体高分子様物質の相互作用により境界面をもった構造が形成されたと思われる。この段階がどのようなものかについて、オパーリンはそれにコアセルヴェートを想定した。膜構造あるいはプロテイノイドミクロスフェアなどを重視する意見もある。また、生命発生の場として原始地球に豊富にあった黄鉄鉱の表面を想定し、そこでイオン反応の関与する化学合成がおこったとする表面代謝説(G.Waechtershaeuser)が提出されている。具体的にそれがどのようにして自己増殖能をもった生物へと進化したかの解明には距離がある。機能をもつ蛋白質と一定のペプチド構造の合成を確保する核酸の進化およびその関係の発展が問題であり、遺伝コードの起原について種々の説が提出されている。また真核細胞への発展に関しては、L.Margulis(1970,
1981)の提唱した共生説(symbiotic theory)が関心をもたれている。それによれば原始的段階において種々の細胞型が成立したが、そのうち前原生動物型の細胞に呼吸性原核細胞が侵入・共生してミトコンドリアを作り、さらに光合成原核細胞の共生により葉緑体を作ったという。』
生命の起原(せいめいのきげん)K
『約46億年前に地球ができたときには、地球上には生物はいなかったので、原始地球上にすでに蓄積されていた有機物から、非常に長い時間をかけて、物質的情報を複製できる物質系すなわち原始生命がしだいに形成されていったと考えられる。最も古い生命の存在証拠は、30数億年以前の微化石である。』
- 石英(quartz)A
『SiO2 シリカ鉱物。最も普遍的に産出する造岩鉱物の一つで、花崗岩・片麻岩など酸性の火成岩・変成岩中の主成分鉱物として産する。また鉱脈中の脈石として、砂岩・礫岩などの堆積岩中など珪酸に飽和した岩石中に広く産する。低温型石英(α-石英)と高温型石英(β-石英)とがあり、両型の転移温度は常圧下で573℃である。低温型は三方晶系で空間群P3121またはP3221、格子定数ao0.4913nm、co0.5405、高温型は六方晶系で空間群P6222またはP6422、格子定数ao0.501nm、co0.547。双晶が顕著で、双晶面(1010)(注:数字の下の横線は本当は上につける。以下同様)のドフィーネ式双晶、双晶面(1120)のブラジル式双晶、双晶面(1122)の日本式双晶、双晶面(1011)のエステレル双晶などがある。劈開は不明瞭であるが、加熱後急冷すると(1011)、(0111)、(1010)に割れ目を生ずる。硬度7、比重2.65.通常無色、ときに黄・赤・緑・青・黒褐色、ガラス〜脂肪光沢。一軸性正、屈折率ε1.55328、ω1.54418、円旋光をなし右回り(右水晶)と左回り(左水晶)とがある。窯業原料・装飾用・準宝石・水晶発振器などに広く利用。(図:略)〔諏訪兼位〕』
- 石炭紀〔Carboniferous(period)〕A
『古生代後期の初め(3.63億〜2.9億年前)。上・下限については岩相。化石群の差異のため問題が多い。英国の夾炭層(Coal
Measures)に由来(R.D.Conybeare、1822)し、対照的な岩相から二分。バリスカン(ヘルシニア)変動による褶曲・断層・上昇運動は地向斜帯どとに特異性を示し、英国、ヨーロッパの模式地域では下部(Dinantian)は海成層、上部は陸成層。アンガラ地向斜では陸成粗粒岩相で火山噴出物を多く伴う。北米の上部層は海・陸互層相。日本では海成層だけが知られる。上・下部石炭系の境界のズデーテン変動による陸域の増大の結果、世界の主要石炭層を形成。一方、テチス海域の礁性石灰岩、南半球地域の氷成相の発達などは、古地理・気候条件をよく表している。北米では下半のミシシッピ系、上半のペンシルバニア系をそれぞれ独立の系(したがって紀)としているが、これは万国地質学会で公認されたものではない。〔沖村雄二〕』
- 石灰岩(せっかいがん)(limestone)A
『CaCO3あるいは方解石・あられ石を主成分(50%以上)とする堆積岩。あられ石は同質他形の方解石に転移することから、単鉱物岩石として扱われることが多い。全堆積岩の約20%を占めるといわれ、暖かい熱〜亜熱帯、あるいは温帯域(cool
water limestone)の浅海環境を表す生物の遺骸(示相化石)やその砕屑片(石灰質の殻や骨格)が多く含まれ、堆積環境を解析するための重要な情報源(示相岩)となる。一部、無機化学的沈殿によるものもあるとされている。現在も石灰岩は熱帯・亜熱帯地域で生物礁を形成して盛んにつくられており、生物自体が石灰岩形成の枠組み(framework)をした生物からなる石灰岩と、生物遺骸やほとんど同時期の石灰岩の砕屑片が堆積した砕屑性の石灰岩とに大きく二分できる。かつては前者がサンゴ石灰岩(coral
limestone)・ウミユリ石灰岩(crinoid limestone)のように、枠組みをした生物の名前をつけて区別し、後者の場合には砕屑片の粒径だけで石灰礫岩(calcirudite)、石灰砂岩(calcarenite)、石灰泥岩(calcilutite)に分けられたり、skeletal
limestone、oolitic limestone、micritic limestoneのように、主要な構成粒子によって区分し、野外での作業を容易にする区分が主体であった。近年、前者は生物石灰岩(biolithite、bound-stone)として砕屑岩には含められない岩型として区別し、後者では粒径とともに成因や組織、構成粒子の種類(intraclast、oolite、bioclast、pellet、lumpなど)と粒子間隙の性質、すなわち、石灰泥基質(matrix)かセメント(cement)かを組み合わせた分類が広く採用されている(R.L.Folk,
1959,62; R.J.Dunham, 1962)。例えばDunhamの区分では、石灰泥を含まず粒子支持(grain-supprted)のグレーンストーン(grainstone)、石灰泥基質を含むが粒子支持のパックストーン(packstone)、粒子を10%以上含み石灰質泥に支持されるワッケストーン、粒子が10%以下のマッドストーンに4区分される。また、ミクライトと呼ばれる石灰泥岩は、構成粒子による枠組みのある石灰岩に比較してかなり多く、遠洋性(pelagic)石灰質微粒子の生産・堆積は、サンゴ礁と同様、地球環境に影響するCO2の固定量と関係して注目されている。〔礒見 博・沖村雄二〕』
limestone(lime'-stone)L
『(a) A sedimentary rock consisting chiefly (more than 50% by
weight or by areal percentages under the microscope) of calcium
carbonate, primarily in the form of the mineral calcite, and
with or without magnesium carbonate; specif. a carbonate sedimentary
rock containing more than 95% calcite and less than 5% dolomite.
Common minor constituents include silica (chalcedony), feldspar,
clays, pyrite, and siderite. Limestones are formed by either
organic or inorganic processes, and may be detrital, chemical,
oolitic, earthy, crystalline, or recrystallized; many are highly
fossiliferous and clearly represent ancient shell banks or coral
reefs. Limestones include chalk, calcarenite, coquina, and travertine,
and they effervesce freely with any common acid. Abbrev: lst.
(b) A general term used commercially (in the manufacture of lime)
for a class of rocks containing at least 80% of the carbonates
of calcium or magnesium and which, when calcined, gives a product
that slakes upon the addition of water.』
- 石灰泥(lime mud)A
『炭酸塩鉱物の微粒子(一般に方解石・あられ石の粒径4μm以下の堆積粒子であるmicrite。粒径を60μm以下とする主張もある)からなる堆積物。未固結の堆積物に限定せず、石灰岩の構成要素の一つとして、構成粒子の間隙を埋める基質や空隙充填物の石灰質微粒子、砂サイズ以上の粒子をほとんど含まない微粒炭酸塩堆積物(岩)にも適用される。成因説には無機化学的沈殿説と生物起原説があり、後者には初生的生成(石灰藻類によるaragonite
mud、さっ孔性藻類のmicritizationによる生成物、さらに石灰質ナンノ化石の代表であるコッコリスなど)と砕屑作用による生成説がある。J.D.Milliman(1974)によれば、これらの粒子を遠洋性(pelagic)としてまとめると、現在堆積しつつある石灰泥の量は、砂サイズ以上の粒子を主構成とする石灰岩の量の10倍以上である。石灰泥の量は石灰岩の分類(lime
mudstone、lime wackestoneなど)や堆積環境解析の基礎資料として重要。〔沖村雄二〕』
- 絶対温度(absolute temperature)@
『個々の物質の特性に依存しない温度目盛を定義した温度。ケルヴィンがはじめて導入した(1848)のでケルヴィン温度(Kelvin
scale)ともよばれ、数値の後にK(ケルビン)をつけて表わす。国際度量衡委員会総会で絶対零度を
0 K、水の3重点を273.16 Kと定義した(1968)。それぞれ絶対温度T 1、T
2(T 1>T
2)である2つの熱源の間にはたらく可逆サイクルの熱効率は(T 1−T 2)/T 1であるが、実はこれが熱力学による絶対温度の定義となっている。この意味でこの温度目盛を熱力学的温度目盛ともいう。実際に任意の温度目盛と絶対温度目盛との対応をつけるには、気体のジュール-トムソン効果や常磁性磁化を利用する熱力学的方法あるいは気体温度計の目盛に適当な補正を加えるなどの方法がある。絶対温度T
にボルツマン定数 k B をかけたk BT
は物質粒子1個がもつ熱運動のエネルギーの程度である。』
- 絶対零度(absolute zero point)@
『熱力学的に考えうる最低の温度で、熱力学的温度目盛(絶対温度)ではこれを
0 Kとする。国際実用(セルシウス)温度目盛では-273.15℃に当る。熱力学第3法則によれば、有限な温度の状態から絶対零度に到達することは不可能であり、実際には極低温における適当な物質の物性の測定から外挿して絶対零度の状態を推定する。統計力学的にいえば、考える系がその最低エネルギーの状態にあるのが絶対零度である。』
- 絶滅(extinction)A
『生物の系統が子孫を残すことなく消え去ることをいう。大量絶滅は、比較的短い期間内に多数の生物の系統が消え去ること。地質時代区分の多くは、新しい動物群の出現により定義されているが、多数の新しい動物群の出現が可能となったのは、その出現に先行して多数の動物群の絶滅があったからである。したがって、地質時代区分の境界、多くは時代末にさまざまな程度の絶滅現象があった。古生代末や中生代末には大規模な大量絶滅のあったことが明らかになっており、これらを含めて5回の大量絶滅と、より規模の小さい6回の絶滅が知られている。これらの絶滅現象の期間は、短い例で60万年、長い例では400万年程度と見積もられている。原因として、海水準の低下、気温の寒冷化、隕石の衝突、海洋中の無酸素水塊の発達などが提案されているが、十分な説明はまだない。いずれも地球環境の急激な変動を想定している。〔平野弘道〕』
- セルシウス温度(Celsius' temperature
scale)@
『温度目盛の一種。セ氏温度ともいう。記号は℃。スウェーデンの物理学者セルシウス(Celsius, Anders, 1701.11.27-1744.4.25)が1742年に水の氷点を100℃、沸点を0℃として目盛ったのに始まり、後に
1 atm 下の氷の氷点を0℃、沸点を100℃とすることに改められた。中国で摂爾修の字を当てたため摂氏ともいう。』
- 先カンブリア時代(Precambrian age)A
『古生代の始まりよりも古い地質時代。地球の生成(約46億年前)〜5.64億年前までの約40億年間。かつては古生代の初めに生命は誕生したと考えられ、先カンブリア時代と古生代以降の地質時代(顕生代)とは基本的な違いがあると考えられていた。現在では生命の原始型は35億年以上前に存在し、生命体は先カンブリア時代のほとんどに存在したことがわかっている。先カンブリア時代を三分し、46億〜40億年前までを冥王代または創成時代、40億〜25億年前までを始生代または太古代、25億〜5.64億年前までを原生代と呼ぶ。先カンブリア界は、地球上では楯状地・卓状地・造山帯の3地域に露出。楯状地には先カンブリア界が地表に広く数百kmにもわたって露出。卓状地は楯状地に隣接する安定地域である。卓状地の下には先カンブリア界の楯状地の続きが基盤として存在。さらにその外側の古生代以降の造山帯の中に先カンブリア界が認められることがある(例:アパラチア山脈)。また、陸地に近接した海洋地域の一部(例:セイシェル諸島)にも、先カンブリア界の基盤が潜在していることがあるが、大洋底の主要部には先カンブリア界は認められない。セイシェル諸島は、大陸移動によって壊された大陸断片と考えられている。〔諏訪兼位〕』
先カンブリア時代(Precambrian Age)D
『カンブリア紀より古い地質時代の総称で、固体地球の形成から約5.7億年前までの時代である。カンブリア紀以後の地層群(カンブリア系など)には海生の化石が多く発見され、19世紀前半から詳しく地質系統区分が行われていたが、カンブリア系より下位の地層群にはその後も長い間化石が見つからず、化石による層序区分が不可能であった。そのため、カンブリア紀より前の時代は先カンブリア紀として一括されていた。この時代はカンブリア紀以後のおよそ7倍もの長さがあるので、最近は先カンブリア時代と呼ばれるようになった。カンブリア紀以後を総称して顕生累代というのに対し、先カンブリア時代は陰生累代といわれる。
先カンブリア時代は、カンブリア紀以後と違って化石による層序区分が困難なので、放射年代測定の結果によって地層の対比を行い、出来事の前後関係を論じる場合が多い。先カンブリア時代は、前半の始生代(Archaeozoic)(または太古代(Archaean))と後半の原生代(Proterozoic)とに二分される。これは、先カンブリア時代の地層は、どこでも上位の非変成の堆積岩類と、それに不整合で覆われる下位の変成岩・花こう岩類とからなることに始まった区分である。しかし年代測定が進んだ結果、各地のそれらの岩石は、見かけは似ていても互いに対比できず、この区分は層序学的に成り立たないことがはっきりしている。今でもこの区分は便宜的に用いられているが、その場合には、機械的に約25億年前より古い年代のものを始生代、新しいものを原生代とすることが多い。近年では、生物源と考えられるストロマトライトの形態を用いて、生層序区分と対比が試みられ、成功をおさめつつある。また、エディアカラ動物群の現れる時代を、先カンブリア時代末期の紀として他から独立させ、エディアカラ紀とすることも提唱されている。
先カンブリア時代には例外的なものを除くと化石が見つからないと考えられていたが、1953年、タイラーとバーグホーン(Tyler
and Barghoorn)によるガンフリント微植物群の発見以来、各地で単細胞あるいは多細胞の下等藻類の化石が見つかるようになった。また生物源の堆積構造と考えられるストロマトライトも多い。これまでに知られる最古の生物の体化石と一般に認められているものは、南アフリカ、スワジランドから報告された約34億年前の藍藻類らしい球体の化石で、ストロマトライトでは、西オーストラリアから35億年前のものが知られている。また不確実ながら化石らしいものは、西グリーンランドの38億年前の変成岩中からも報告がある。初期の化石はすべて原核生物と考えられるが、約20億年前のガンフリント微植物群には有核細菌らしい化石があり、15億年前頃には真核生物らしいものが、また10億年前頃のビタースプリングス植物群(オーストラリア)には緑藻類らしいものが発見されている。確実な動物化石は約6億年前のエディアカラ動物群まで時代が下がる。しかしそれより前の地層にも簡単な生痕化石があって、動物の出現はおそらく8〜9億年前にさかのぼれよう。
先カンブリア時代の前期には、元来極めて酸化されやすい黄鉄鉱やピッチブレンドなどの鉱物が河川堆積物中に集積して鉱床をつくっており、当時は大気中に遊離した酸素分子がほとんどなかったことがわかる。約20億年ほど前には、酸化鉄の沈殿で形成された縞状鉄鉱層が広く分布する。この集積には光合成する生物が直接関与していたといわれている。約15億年ほど前になると、地表で酸化されてできた赤色土層(レッドベッド)が各地に出現し、植物の光合成によって大気中に酸素分子の集積が始まったことを示している。一方、先カンブリア時代の地層中には、氷河性堆積物や氷食の跡も各地で様々な層準に発見されている。その目だつものは、23〜20億年前頃と8〜6億年前頃にあって、この時期は汎世界的な氷河時代であった。
現在知られる最古の岩石は、36〜38億年前の年代を示す西グリーンランドの変成岩類である。これより30億年前あたりまでの岩石には、緑色に変質した塩基性ないし超塩基性火山岩類(グリーンストーン)が多く、当時の火成活動および地球表層部の状態は現在と相当に違っていたと考えられている。世界各地の先カンブリア時代の岩石がつくる盾状地では、放射年代測定や地質構造の解析から、広域変成・花こう岩の貫入・地層の変形などの造山運動が繰り返し起こって、その部分が古くからあった地塊に付け加わり、盾状地が成長してきたことがわかっている。例えばカナダ盾状地の南部では、ケノーラン(25億年前後)、ハドソニアン(18〜16億年)、エルソニアン(14億年前後)、グレンビリアン(10〜8億年)の4回の大きな変動期が認められている。中国大陸でも、24億年前頃、18億年前頃、8億年前頃のほか、何回かの変動期があった。〔鎮西清高〕』
- 扇状地(alluvial fan)A
『河川が形成した、谷口を扇頂とする半円錐状の堆積地形。沖積扇状地とも。山麓では河床勾配が減少し、川幅が広がり、水深が浅くなって河流は運搬力が減じ、谷口に砂礫を堆積。河道は洪水時に低いほうに移動し、谷口を中心として左右に変遷して扇状の地形を形成。扇状地面の傾斜はそれを形成した河川の平衡曲線に一致するが、砂礫が大きいほど、洪水量が少ないほど勾配が急。扇状地上の河流は洪水時に扇頂から放射状に分流し、各分流は網状流路を描く。〔寿円晋吾・斉藤享治〕』
- 前線(front)A
『地表面付近において水平方向に気温、湿度あるいは風向・風速が大きく変化する帯状の領域。天気図では、ふつう長さが数百km以上に及ぶ、降水を伴う寒気と暖気の境目を前線として表示。寒気が暖気の方向に進むものを寒冷前線、暖気が寒気の方向に進むものを温暖前線と呼ぶが、前線の移動方向は空気の移動方向と必ずしも一致せず、日本付近では温暖前線が暖気のほうに移動する例が多く見られる。ほとんど移動しない前線を停滞前線、暖気が地表面に接していない前線を閉塞前線と呼ぶ。前線には温帯低気圧の発達によって形成されるものと、梅雨前線のように気団の広がりや移動によって形成されるものがある。日本付近では温暖前線が顕著でないことが多い。気候学では月平均地上気温の等温線の間隔が狭くなっている所、あるいは卓越風向が急変する境目を前線と呼ぶが、気象学における前線と区別するため、前線帯ということもある。〔丸山健人〕』
- 潜熱(latent heat)@
『融解や気化など1次の相転移にともなう熱。転移熱ともいう。たとえば融点にある固体物質に熱を加えると、温度は一定で融解だけがおこる。このように温度上昇を生じない熱を、ブラックは潜熱と名づけた(1755)。』
【そ】
- 造岩鉱物(rock-forming minerals)A
『広義にはすべての岩石を構成している鉱物をいうが、ふつうには主な火成岩・変成岩、あるいは堆積岩をつくっている鉱物をいう。主要造岩鉱物と副成分鉱物に分けられる。前者には、石英、長石、かんらん石、輝石、角閃石、雲母が含まれる。石英を除いて、いずれも広い固溶体をつくるのが特徴。後者には準長石、石英以外のシリカ鉱物、十字石、ざくろ石、チタン石、ジルコン、電気石、菫青石、パンペリー石、ベスビアナイト、緑れん石、紅れん石、スピネル、Fe-Ti酸化鉱物、紅柱石、珪線石、らん晶石、蛇紋石、ぶどう石、滑石、沸石、炭酸塩鉱物、りん灰石、黄鉄鉱、グラファイト等々がある。これらの鉱物は一部を除いて酸素と結合しているという特徴があり、さらにその大部分が珪酸塩鉱物である。岩石学とのかかわりでは最も重要な鉱物群。〔赤井純治〕』
- 双極子磁場(geomagnetic dipole field)A
『磁気双極子がつくる磁場と同じ形の地球磁場を地球双極子磁場、または単に双極子磁場という。双極子には数種類あり、地球を球と仮定してその中心においた磁気双極子を地芯双極子(geocentric
dipole、centered dipole)という。地芯双極子には地理極を向いた軸双極子(axial dipole)と、赤道を向いた赤道双極子(equatorial
dipole)がある。一般の地芯双極子、すなわち傾いた双極子(tilted dipole)はこの二つの双極子の合成によって表現できる。軸双極子および赤道双極子のつくる磁場のポテンシャルは、ガウス係数を用いるとそれぞれg01成分と(g11、h11)成分によって表現できる。1990年の国際標準地球磁場のガウス係数を用いると、地芯双極子の傾きは11度となる。地球の中心から少し離れた場所に置いた双極子を偏心双極子(eccentric
dipole)という。これのつくる磁場のポテンシャルは1階と2階のガウス係数計8個を合成することにより近似表現できる。一方、双極子以外の成分、すなわち多重極成分を非双極子成分と呼び、これのつくる磁場を非双極子磁場(non-dipole
field)という。一般に非双極子磁場といった場合の多くは地芯双極子成分を除いた磁場を指すが、軸双極子成分のみを除いたものを指す場合もある。また、偏心双極子成分までを取り除いたものを指す場合もあるので注意が必要。〔横山由紀子〕』
- 造山運動(orogenic movement、orogenesis、orogeny、mountain
building、mountain making)A
『褶曲山脈や地塊山地が形成される運動。地向斜造山運動論の集大成はH.Stille(1936)によってなされた。山脈の形成という点にだけ焦点を絞って造構造運動という用語も使われた。プレートテクトニクスでは、プレートの衝突や沈込みによって断層・褶曲帯を形成する作用を造山運動と呼ぶ。〔天野一男〕』
- 造山帯(orogene、orogenic belt)A
『造山運動の起こった地帯。オロゲンとも。造山運動という語は広狭さまざまに用いられてきたので、それに応じて用法もさまざま。造山帯は変形を受けて褶曲帯をつくる。1970年以前には、カレドニア造山帯とかアルプス造山帯など、広義の造山運動を念頭においた用法が普通で、造山帯はほぼ地向斜帯と同一視されていた。それ以降は、造山帯は主としてプレート境界に当たる地殻変動の活発な地帯と考えられるようになった。〔天野一男〕』
- 走時曲線(travel-time curve)A
『横軸に震央からの距離、縦軸に時間をとり、発震した瞬間から観測点に地震波の各相が最初に到達した時間(走時)と、震央からの距離(震央距離)との関係を示す曲線。震源位置や震源時を求めるために用いられる。標準走時曲線は震源の深さ別に与えられた走時表を、震央距離を横軸、着震時を縦軸に取り図化したもの。地震波(弾性波)の速度は伝播する媒体の密度と正の相関がある。物理探査の分野では走時曲線から萩原の方法(はぎとり法)などによって、地下の弾性波速度分布を求め、地下構造を解析する。〔石川有三・森 直樹〕』
- 双晶(twin)A
『特定な結晶面あるいは結晶軸に関して互いに対称的であるように2個の結晶が結合したもの。2個体がある軸のまわりに180゜回転して双晶ができるとき、この軸を双晶軸と呼ぶ。双晶が一つの面による反射の関係にあるとき、その面を双晶面と呼ぶ。いずれも、両個体に共通な簡単な指数の晶帯ないし格子面である。2個体が一つの面で接合しているとき、その面を接合面と呼ぶ。2個体が双晶面ないし接合面で接触するとき接触双晶、互いに貫入関係にあるとき貫入双晶、3個以上の個体が同じ双晶面で繰り返されるとき繰返双晶、集片双晶、あるいは三連双晶、輪座双晶と呼ばれる。個体間の方位関係を双晶則として表し、鉱物名や産地名をつけて呼ばれることが多い。スピネル双晶・アルバイト双晶・カールスバド双晶・日本式双晶などはその例。成因的には、双晶は結晶成長の過程でできる成長双晶、相転移に伴う転移双晶、すべり現象に伴って発生する機械的双晶に三大別できる。〔砂川一郎〕』
- 続成作用(diagenesis)A
『定着した堆積物が、物理的・化学的・生物学的諸作用を受けて固結し、より固い地層(岩石)に変化していく過程の総称。石化作用とほぼ同義。地表およびその近傍で生ずる現象で、変成作用や風化作用は除く。続成作用の高い段階は変成作用との境界が漸移的であり、100〜300℃付近が境界となるが、一般的に認められた基準はない。バクテリアの活動、特定成分の溶解・移動とコンクリーションの形成、荷重による粒子間隙の減少(圧密作用)、粒子間隙への鉱物の沈殿・成長(セメント化作用)、粒子の溶解や再結晶、火山ガラスの沸石化、イライト結晶度やビトリナイト反射率の増加、などの現象が順次、または並行して進行する。続成作用を幅広くとらえて、そのなかを早期(early
diagenesis)と晩期(late diagenesis)に区別する見解に対し、早期に当たるものに限定してdiagenesisを使い、晩期にはepigenesisまたはcatagenesisなどを使う考えや、続成作用を、堆積直後および浅部埋積、深部埋積、隆起・上昇の三段階としてとらえて、それぞれ、シンダイアジェネシス(syndiagenesis)、アナダイアジェネシス(anadiagenesis)、エピダイアジェネシス(epidiagenesis)と呼ぶこともある。〔公文富士夫〕』
続成作用(diagenesis)B
『続成作用は、堆積物中の粒子が底質に静止した瞬間にはじまり、堆積岩が変成作用または風化・侵食作用をうける直前まで続く、堆積物または堆積岩に作用するすべての物理的・化学的過程として定義されている。継変作用またはダイアジェネシスともいう。
この続成作用という術語は、1868年にオランダのVon Guembel博士によって最初に用いられたが、彼はこれを堆積後に堆積物に作用する過程として広い意味で定義していた。その後、多くの研究者は、続成作用の範囲から変成作用的な段階を取り除こうと考えた。しかし、続成作用と変成作用とを区別することはむずかしい問題であるため、現在でもいろいろと議論がなされている。
Fairbridge(1967)は、続成作用をシンダイアジェネシス(syndiagenesis)、アナダイアジェネシス(anadiagenesis)、エピダイアジェネシス(epidiagenesis)の3段階に分けて説明している(図1:略)。シンダイアジェネシスは、堆積時または前造山運動期における続成作用として定義されている。これは、堆積物中の粒子が底質にふれた瞬間にはじまる初期の堆積状態における続成作用であり、非常にゆっくりと放出される間隙水や吸着水の多量の存在によって特徴づけられる。この変化は、鉱物などの粒子が海水中で移動・沈降する間に始まり、堆積後まで続くものである。アナダイアジェネシスは、堆積物中の粒子または化学的イオンが岩石化されるまでに受ける続成作用の成熟相または圧密相として定義されている。この段階の特徴は、深い堆積によるゆっくりとした圧密とセメント作用である。この結果、岩石は不透水性となり、吸着水および孔隙水は孔隙中にトラップされる。エピダイアジェネシスは、続成作用の進化相または後地殻変動相として定義されている。この段階は、天水の地下深所への侵入およびそれに伴う鉱物の自生により特徴づけられる。したがって、孔隙中の間隙水はこの天水により修正され、ふたたび酸化状態となる。
海や湖などの堆積盆に供給された各種の堆積物は、砕屑性の鉱物や生物の遺骸・岩片などの粒子と水や空気などの流体を含む孔隙から構成されている。堆積物中の粒子・孔隙および流体は、続成作用の進行に伴う物理学的および化学的環境の変化により、その組成や形態・量比などを変えていく。すなわち、圧力・温度および時間の物理学的因子と孔隙流体のpH・Ehやイオンの種類などの化学的因子が重要である。また、これらの因子が総合された地質学的作用は、圧密・破砕・圧力溶解などの物理的作用、酸化・還元・沈殿・セメント作用・転移・再結晶作用・イオン吸着・溶解・浸出・イオン拡散などの物理化学的作用、生物による作孔や破壊などの生物化学的作用である。
堆積岩中の粒子としてもっとも重要なものは、粘土鉱物、ゼオライト、珪酸鉱物および炭酸塩鉱物である。続成作用下における粘土鉱物の転移は、モンモリロナイト→モンモリロナイト/イライト混合層鉱物→イライトである。ゼオライトは、火山ガラス→斜プチロ沸石→輝沸石または方沸石→濁沸石または曹長石の転移系列をもつ。珪酸鉱物は、非晶質珪酸→クリストバライト→石英の順に変化する。また、炭酸塩鉱物は、一般にアラゴナイト→方解石→ドロマイトと転移する。
堆積岩中の孔隙は、堆積物が堆積時にもっていた初生的な一次孔隙と堆積後に形成された後生的な二次孔隙よりなる。炭酸塩堆積物中の孔隙の変化は、埋没深度とは比較的無関係であり、むしろ地層水・海水あるいは天水などの孔隙流体の化学的性質に支配されている。また、泥質岩の場合には、初生的な粒子間および粒子内孔隙が主体であるので、主として埋積荷重圧(overburden
pressure)の増加に伴って孔隙を減少していく。砂質堆積物は、泥質堆積物と炭酸塩堆積物との中間の性質をもつ。
孔隙中に含まれる流体の化学性の続成作用下における変化については、いくつかの事実が知られている。たとえば、海水中のpHは弱アルカリ性であるが、埋積直後の間隙水中ではほぼ中性となり、さらに埋積をうけるとまたアルカリ性に変わる。また、酸化還元電位(Eh)は、海水中および浅い埋積下では酸化環境を示すが、埋積が深まるにつれて還元環境を呈するようになる。化学成分の変化についてはほとんど明らかにされていないが、泥質岩中のCl-およびI-は埋積深度の増加とともに減少し、Ca2+、Mg2+およびSO42-は増加することが認められている。
続成作用の段階区分については、前述したように、多くの考え方がある。しかし、このような段階区分は、観念的には理解できても、実際に堆積物あるいは堆積岩に応用する場合には不便な面が多い。そこで、物理学的因子のいくつかを組み合わせた比較的単純な指数を用いて続成段階を区分しようとする試みがなされている。たとえば、泥質堆積物の孔隙率や自生鉱物の転移温度などがそれである。泥質堆積物の孔隙率が続成段階の区分に用いられる理由は、それが主として埋積荷重圧の増加により減少し、しかもその変化が一般に不可逆的であると考えられるからである。孔隙率を用いた続成段階区分についても多くの意見があるが、最近では孔隙率が80〜30%、30〜10%、10%以下の3段階に区分する研究者が多い。一方、泥質堆積物中の粘土鉱物、ゼオライトおよび珪酸鉱物の転移は、物理学的因子、特に温度に強く支配されている。そこで、これらの自生鉱物の組合せと形成温度により、続成段階をA〜G帯の7つに区分することが提案されている。以上に述べた泥質堆積物の続成段階についての考えかたは、図2〔略:本邦の新第三系泥質堆積物の続成段階と埋積深度、孔隙率、古地温、鉱物転移温度との関係(K.Aoyagi
and T.Kazama, Sedimentology, 27, 1980)〕 のとおりである。〔青柳宏一〕』
- 素粒子(elementary particle)@
『物質構造は、分子→原子→原子核→…という階層に分けてみることができる。素粒子とはこの階層でいえば、原子核の次にくる粒子のことをいう。現在素粒子とされているものは、強い相互作用をするハドロン族、強い相互作用をしないレプトン族、相互作用を媒介するゲージ粒子族の3種に大別される。ハドロン族はさらに陽子、中性子、Λ粒子、Σ粒子、Ξ粒子などのバリオン族、π、K、ηなどの中間子族に細別できる。現在ではハドロン族クォークとグルオンの結合状態であることがわかっている。その意味で陽子やπ中間子などは‘素’粒子ではなくなったが、歴史的な理由で素粒子とよばれている。クォーク族、レプトン族、ゲージ族のことをハドロン族と区別するときには基本粒子とよぶことがある。』
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