|
最終更新日:2017年1月17日
偏光顕微鏡(Polarized Optical Microscope、Polarization
Microscope、Polarizing Microscope、Petrographic Microscope)とは、2枚の偏光板〔Polarizer:ニコル(Nicol)とも言う〕*を装着した光学顕微鏡(Optical
Microscope)であり、透過型(Transmitted-light
Type)と反射型(Reflected-light Type)とがあるが、通常は透過型の方を指す。 地球科学分野における主な対象は岩石〔Rock:鉱物(Mineral)の集合体〕である。岩石試料を約0.02〜0.03ミリメートルの厚さの薄片(Thin Section:通常は数センチメートル角程度)に成形し、可視光(Visible Light:白色光)を透過させて、鉱物の光学的性質(Optical Property)を観察する。 また、人工物質(Artificial Material、Synthetic Material:結晶、Crystal)やある種の生物組織(Tissue)に対して用いられることもある。 得られた光学的性質等を既知のデータと照合することで、構成する鉱物を特定(同定、Identification)することができる。また、鉱物の組合せ(Mineral Assemblage)や形状(Form)等(組織、Texture)の観察から、その岩石の成因(でき方、Genesis)を推定できる場合も多い。 偏光顕微鏡は地質(Geology)や岩石・鉱物を研究する分野では、必須の基本的研究装置であり、現在でも広く利用されている。ただし、結晶光学(Optical Crystallography)的な知識および鉱物と偏光(Polarization)についての知識等が必要であり、その知識の違いにより、得られる情報量の差は大きい。つまり、汎用的な技能を身に付けるには数年程度の経験が要求される。 * 一般に2枚の偏光板のうち、下側のもの(挿脱不可:振動方向左右)はポラライザ(polarizer、偏光子)、上側のもの(挿脱可:振動方向前後)はアナライザ(analyzer、検光子)と呼ばれることが多い。 |
リンク |
全般 | 光学性 | 薄片 | その他 |
透過型偏光顕微鏡| 反射型偏光顕微鏡| |
偏光| 屈折率| ベッケ線| 複屈折| 干渉色| 検板| |
薄片| スライド| |
ソフトウェア| 生物顕微鏡| メーカー| レンズ| その他 |
【屈折率】〔ある媒質中の屈折率n、その媒質中の光の速度v、真空中の光の速度voのとき、n=vo/v(=λo/λ)〕
【干渉色】〔異常干渉色とは、波長の違いによる分散の影響が強い場合の干渉色〕
偏光顕微鏡 |
Nikon(HP/2010)による『Introduction to Polarized Light Microscopy』から |
図3-1 透過偏光顕微鏡の外観と構成(BX41-P) オリンパス(HP/2010)による『偏光顕微鏡を基本から学ぶ』から |
観察法 |
※偏光顕微鏡における観察法には2種類あり、通常の方法をオルソスコープ観察(法)と言う。そのうち、2枚の偏光板のうちの上側を抜き下側のもののみ用いる方法を単ニコル(法)(オープンニコル、open nicol)と呼び、2枚の偏光板を用いる方法を直交ニコル(法)(クロスニコル、crossed nicols)と呼ぶ。
一方、試料中の鉱物粒子の光学的性質を詳しく調べる観察法はコノスコープ観察(法)と言う。具体的には、コンデンサーレンズとベルトランレンズと検板(鋭敏色板)を挿入し、一軸性・ニ軸性の正・負や光軸角などを観察する。
光学的等方体(isotropic) 光学的性質に、方向による差異が無い。一つの方向に進む光は通常光一つのみである。普通は複屈折の現象が無い。 |
非結晶質(非晶質、amorphous、アモルファス) | ガラス、など | |
等軸晶系(立方晶系、cubic) | 蛍石(fluorite)、ざくろ石(garnet)族*、など | ||
光学的異方体(anisotropic) 方角的性質に、方向による差異がある。一般に、一つの方向に進め光は互いに速度を異にする二つの偏光分かれる。その振動方向は互いに直角である。複屈折の現象がある。 |
一軸性(uniaxial) 光軸が一本あり、その方向は結晶軸cと一致する。一つの方向に進む二つの偏光は通常光および異常光である。 |
正方晶系(tetragonal) | ジルコン(zircon)、など |
六方晶系(hexagonal) | 燐灰石(apatite)(族)、など | ||
菱面体晶系(rhombohedral:三方晶系、trigonal) | 石英(quartz)、方解石(calcite)、など | ||
ニ軸性(biaxial) 光軸が二本ある。一つの方向に進む二つの偏光は両方とも異常光である。 |
斜方晶系(orthorhombic) 光学的弾性軸の各々および吸収軸の各々は結晶軸a・b・cのいずれかと一致する。 |
橄欖石(かんらんせき、olivine)族、など | |
単斜晶系(monoclinic) 光学的弾性軸のいずれか一つおよび吸収軸のいずれか一つは結晶軸bと一致する。 |
正長石(orthoclase)、輝石(pyroxene)族、角閃石(amphibole)族、雲母(mica)族、など | ||
三斜晶系(triclinic) 光学的弾性軸および吸収軸は一般に結晶軸と一致しない。 |
斜長石(plagioclase)系列、など | ||
* 森本ほか(1975)に倣って、化学的・構造的に関係の深い系列や種の集りを族(group)、単一の固溶体もしくは同形の化合物を系列(series)と呼ぶ。例えば、ざくろ石は複数の固溶体系列が存在するので、族と呼ぶ。 |
オルソスコープ (orthoscope) |
単ニコル (one nicol) |
形(form) | 自形(euhedral、idiomorphic) |
半自形(subhedral、hypidiomorphic) | |||
他形(anhedral、xenomorphic) | |||
大きさ(size) | |||
組織(texture) | |||
色(color) | |||
多色性(pleochroism) | |||
劈開(cleavage) | |||
屈折率(refractive index) |
←ベッケ線(Becke line) ←カナダバルサム(Cnada balsam:屈折率1.54) |
||
直交ニコル (十字ニコル、crossed nicols) |
干渉色(interference color) |
複屈折(double refraction、birefringence)=|ω−ε|(一軸性)またはγ−α(ニ軸性) ←レターデーション(retardation、R) →ミシェルレヴィ(Michel-Levy)の干渉色図表(color chart) →異常干渉色(anomalous interference color) |
|
双晶(twin) | |||
累帯構造(zonal structure) | |||
消光位(extinction position) /消光角(extinction angle) 対角位(diagonal position) |
直消光(straight extinction) 斜消光(oblique extinction) ←鋭敏色検板(sensitive color plate) 長辺//X'、R≒530〜580mμ |
||
伸長(elongation)の正負 (zone character) |
正(length slow)…伸長方向//Z' 負(length fast)…伸長方向//X' |
||
コノスコープ (conoscope) |
コノスコープ像(conoscopic figure) /干渉像(interference figure) |
等色線(isochromatic curves)、 アイソジャイヤー(isogyres) |
一軸性 正号 ω<ε、負号 ω>ε(ω=一定) 二軸性 正号 2Vz(光軸角)<90゜、負号 2Vz>90゜ |
光軸角(optical angle) | |||
分散(dispersion) | ⇒『アスベスト』の中の『分散染色法』などを参照。 | ||
コノスコープ観察では、コンデンサーレンズとベルトランレンズと検板(鋭敏色板)を使用。 |
基礎的光学 |
|
|
図1-7 一軸性結晶の屈折率曲面 |
図1-8 二軸性結晶屈折率断面 |
図4-2 伸長の光学性の判定 |
図2-7 伸長の光学性 |
図4-6 a.一軸性結晶のコノスコープ像のZ'方向 b.鋭敏色検板を光路に入れた時の変化 |
|
オリンパス(HP/2010)による『偏光顕微鏡を基本から学ぶ』から |
|
Figure 2 Interaction of polarized light with an anisotropic crystal (see text). Note that the PLM’s rotating stage (not shown) allows one to place any vibration direction within the sample parallel to the east-west incident light so that its refractive index can be measured. Also note that the analyzer may be inserted for observation in cross-polarized light (XPL) or removed for observation in plane polarized light (PPL). |
Weaver(2003)による『Rediscovering polarized light microscopy』から |
干渉色 |
※異方性の結晶質物質中に入った光は、振動方向が直交する二種類の光に分かれるが、これらの屈折率(速度の逆数、波長の逆数)をn1およびn2とすれば、物質から出たこれらの光の速度差から『遅れ』が生じる。その『遅れ』を『レターデーション、retardation』と呼びRとおけば、これらの屈折率の差(複屈折)および薄片の厚さ(dとする)の二つの変数で表現できる:
R=d・|n2−n1|
光の干渉現象によって、Rは色の違いとして観察できる。このような色は干渉色(interference
color)と呼ばれる。直交する2枚の偏光板を用いる(直交ニコル)と観察できるが、下図のようにRは特有の色を示す人工色である。
干渉色チャート(interference color chart、カラーチャート)では、干渉色の規則的な変化がくり返すため、レターデーションの小さいほうから第1次色(the first order colors)、第2次色、…のように名づけられている。
図2-4 カラーチャート オリンパス(HP/2010)による『偏光顕微鏡を基本から学ぶ』から |
The Interference Color Chart 〔Tulane UniversityのDepartment of Earth & Environmental SciencesのStephen A. Nelson氏による『Geology Courses』の『Earth & Environmental Sciences 212 PETROLOGY』の『Interference Phenomena, Compensation, and Optic Sign』の中の『The Interference Color Chart』から〕 |
像の例 |
※異方性の結晶質物質は、直交ニコル下で(コノスコープ観察による)特有の像を示す。下の図(上)は、一軸性の(c軸に垂直な断面の)場合であるが、2枚の偏光板の振動方向は消光のために黒色に見えるため、十字形の模様(アイソジャイヤー)となっている。十字の中心が光軸であるが、2本の光軸をもつニ軸性の場合(下の図の下)は、もっと複雑になる。
|
Uniaxial Minerals At left is an actual photograph of a uniaxial interference figure. This is a specially-ground slice of calcite. An interference figure for quartz would show isochromes much more widely spaced. In a typical thin section, an interference figure for quartz would show the isogyre but only the first-order white isochrome. |
〔Steven Dutch氏(Natural and Applied Sciences, University of Wisconsin-Green Bay)による『296-492 Crustal Materials Class Notes』の『Crystals and Light』の『Interference Figures』から〕 一軸性の例。光軸(c軸)に垂直な断面である。黒い十字はアイソジャイヤー(isogyres)で、同心円状の部分は等色線(isochromatic curves)である。十字の中心が光軸。 |
|
The optic axes are in the centers of the circles on the extreme
right and left sides of the field. The isogyre is a cross with
a narrow horizontal arm and a diffuse vertical arm. Note: in this photo the isogyre has a dark purplish tone. As viewed with the eye it appears more nearly black. Be careful not to confuse this color with the lighter magenta that will appear in the center later on. |
Dutch(HP/2010)による『Interference Figures』から ニ軸性の例。2本の光軸にほぼ垂直な断面である。左右の円の中心が光軸であり、これらの間の角度が光軸角(optical angle)である。 |
Quartz | |
|
Quartz in thin section is generally very clean looking without many inclusions. It frequently shows undulose extinction (A, right) or slightly yellowish interference colors (B). |
Potassium Feldspar | |
|
Potassium feldspar often shows good cleavage (A, left) and has a "dusty" appearance from tiny alteration inclusions (B). If "tartan" twinning is visible (A, right) the identification is certain. The inclusions often consist of sericite, or fine-grained muscovite, and show high interference colors (B) |
Plagioclase Feldspar | |
|
Plagioclase feldspars also have good cleavage (A, left) and a dusty appearance from inclusions. They often show compositional zoning (A, right), but their most diagnostic feature is prominent lamellar twinning (B). The inclusions commonly turn out to be tiny crystals of epidote (C). |
〔Steven Dutch氏(Natural and Applied Sciences, University of Wisconsin-Green Bay)による『296-492 Crustal Materials Class Notes』の『Rock-Forming Minerals in Thin Section』の『Quartz and Its Look-Alikes』から〕 |
検板 |
※コノスコープ観察において、対角位〔遅い光(屈折率は高い)の振動方向(Z')はNE-SW方向〕に鋭敏色板(530nmのレターデーションをもつ検板)を挿入することにより、干渉色の相加(addition:高次側の青色へ)あるいは相減(substruction:低次側の赤色へ)による色の変化を観察して、一軸性(または二軸性)の正・負を決定することができる。第1・3象限が相加であれば正で、逆が負である。
なお、レターデーションを変化できるものはコンペンセータ(compensator)と呼ばれる。
●位相差1/4λ (株)ルケオ(HP/2010)による『波長板』(検板)から |
●1/4波長検板 オリンパス(HP/2010)による『- 顕微鏡を学ぶ - 偏光顕微鏡を基本から学ぶ -』の『【第4回】偏光顕微鏡の観察法 1.オルソスコープ観察』、『【第4回】偏光顕微鏡の観察法 2.コノスコープ』、『【第5回】コンペンセータ』など |
用語 |
《英和》