黒田・諏訪(1983)による〔『偏光顕微鏡と岩石鉱物〔第2版〕』(26-32p)から〕


3.1 光の一般的性質
 A. 光の諸量

 19世紀のはじめに、Young,T.とFresnel,A.の二人が波動光学を確立したのにひきつづいて、Mawell,J.C.(1865)が光の電磁波説を唱え、Einstein,A.(1905)が光の粒子説を唱えたことはよく知られている。たしかに、光は波のように干渉、回折、偏光などの現象を示すし、また、物質と作用するときには粒子のように、エネルギーや運動量のやりとりもする。しかし、結晶の光学的特性は、主に偏光や干渉に関する現象であるから、波動説のみによっても充分説明することができる。電磁波としての光の本質の問題に立ち入らなくとも、単に光を一種の横波として考えれば、ほとんどの現象を理解できる。
 光波については、次の諸量がある。
 速度(velocity、v) 光波の伝わる速度は、媒質によって異なり、同じ媒質の中では、光の色によっても異なる。しかし、真空中では光の色と無関係に約3×10^10cm/secの速度である。実際は、空気中の速度も真空中の場合とほとんど同じである。
 振動周期(period、T) 1回振動するのに要する時間。光の色によってちがうが、同じ色の光では媒質に関係なく一定である。
 振動数(frequency、F) 1秒間に振動する回数。光の色によってちがうが、同じ色の光では媒質に関係なく一定である。
 波長(wave-length、λ) 図3.1(略)のλのように、ある波の形の位置から、その次の同じ形の位置までの長さ。光の波長は、同じ媒質の中でも色によってちがい、同じ色のものでも媒質によってちがう。
 振幅(amplitude、A) 図3.1(略)のAのように、光の進行方向の基準線からの波の高さ。光の明るさ(強さ)は光波の振幅の自乗(A^2)に比例する。振幅の大きいものは明るく、振幅の小さいものは暗い。
 これらの諸量の間には次の関係がある。
     λ=vT=V/F
 この式を真空中の光として表わすと、
      λo=voT=vo/F
 λoは真空中の波長、voは真空中の速度、TとFは媒質に関係しない量であるから、To、Foとは書かない。voは2.998×10^10cm/secで一定であるから、色によって変わるのはTとFで、その変化によってλoがきまってくる。そこで、光を指定するときには“振動数(F)いくらの光”といってもよいが、習慣上“真空中の波長(λo)いくらの光”という表現を用いることが多い。たとえば、
 可視光線の波長 390〜760mμ
 ナトリウム・ランプの橙色 589.3mμなどである。
 次に、よく使われる白色光とか単色光の意味は次のとおりである。
 白色光(white light) 可視光線の全部の波長の光がまじっているもの、たとえば太陽光線などを白色光という。電灯の光は、たとえ蛍光灯でも、いろいろの波長の光がまじってはいるが、全部の波長のものがまじっているわけではない。このように、いくつかの波長の光がまじっている光を混色光(mixed colour light)という。
 単色光(monochromatic light) 特定の波長の光を単色光という。ナトリウム・ランプの橙色はもちろん単色光である。

 B. 光波の合成
 光は何かにさえぎられるか、反射されるかしないかぎり、直進する性質をもっている。光はその進行方向に垂直な平面内で振動する。太陽の光や普通の光は、進行方向に垂直な平面内では、あらゆる方向に振動している。これに反して、ある特定方向にだけ振動する光があり、これを偏光(polarized light)という。
 偏光はその性質から、いろいろの面白い現象を生じる。いま、図3.2(略)のように、O→O’の方向へ進行し、しかもこの本の紙面内に振動する偏光単色光が2本あるとする。両光波の波の形(位相 phase)によって、ある場合は振幅が増大し(1)、ある場合は振幅が減少したり(2)、ゼロになったりする(3)。波長が合致するか、1/2λだけずれていれば、(1)、(2)、(3)のように簡単であるが、適当なずれを示すときは、たいへん複雑になる(4)。このように位相のちがう2本の光が、あたかも1本の光のようにふるまうことを光が合成されたという。もし、波長がちがい、振動方向がちがっていると、合成された光の振動方向、波長、振幅を決めることはたいへんむずかしい。

 C. 光を単弦運動の式で表わす法
 光に関する式のなかで、sinやcosが出てくることがある。これは次のような理由による。
 図3.3(略)において、光がO点から紙面に垂直にすすんでくるとしよう。その振動方向はPP'で表わされ、振幅はOPで表わされる。つまり、光は紙面に垂直にPP'の方向に波うって進んでくる。この波の最先端の点をA'としよう。もし進行しつつあるA'点を紙面に投影すると、O→P→O→P'→O→P→と運動する。このA'の位置を決めるのに、Oを中心として半径OPの円をえがき、その円周上の点Aが一定の方向(たとえば反時計回り)に回っているときの、PP'上へのAの投影点をA'と考えてみよう。
 いま、Oから光がスタートしたとする。A'点はPP'線上をOからPのほうへ動きはじめる。そのときからt秒後のA'1の位置はOA'=OPsin2πt1/Tで表わされる。Tは周期でO→P→O→P'→Oに要する時間。図のように、A'2の場合もまったく同じように表わされる。t/T=1/2、1ならOA'は0で、A'はOの位置、t/T=1/4ならA'はPの位置、t/T=3/4ならA'はP'の位置になる。
 このような表現をすると、時間もうまく表わされるので、しばしば使われる。

 D. 屈折と吸収
 光は媒質によって屈折率が変わるが、一つの媒質の屈折率とその媒質中の光の速度とは逆数関係にある。また、波長と屈折率も逆数関係にある。
     n=λo/λ=vo/v
 n=ある媒質の屈折率
 λo=真空(または空気)中の光の波長
 λ=ある媒質における光の波長
 vo=真空(または空気)中の光の速度
 v=ある媒質中の光の速度
光はまっすぐに進むので、平行な光であれば、どこまで進んでも明るさは変化しないはずである。しかし、実際には媒質に吸収されて、しだいに明るさを減少する。その吸収のされ方は、もちろん媒質によってちがいがあるが、同じ媒質中でも光の色(波長)によってちがいがある。ある物質が青い光をたくさん吸収すれば、その物質を透過した白色光では青い光が減少するので、その余色に近づき赤味を帯びたものとなる。ある物質がどの波長の可視光についても同じように吸収する場合には、白色光を透過させると、その物質は無色に見える。
 光学的等方体では、どの方向に対しても一様に吸収されるので、白色光を透過させると、その物質は方向に関係なく同じ色にみえる。これに反して、光学的異方体では、一般に一つの方向に進む二つの偏光の吸収される程度がちがう。
 一軸性の結晶では、c軸に垂直な方向に振動する白色偏光を通したときに見える色(O)と、c軸に平行な方向に振動する白色偏光を通したときに見える色(E)との二つが両極端の色である。これ以外の方向に振動する白色偏光を通したときに見える色は、OとEの中間の色である。たとえば、一軸性の結晶である電気石(六方晶系)では、c軸に垂直な方向に振動する光を強く吸収してほとんど通さないが、c軸に平行な方向に振動する光をあまり吸収しないで通す。このため、偏光顕微鏡下で電気石をみると、方向によって色がちがってみえる。単色光でみる場合は、単に濃くみえたり淡くみえたりするだけであるが、白色光でははっきりと色がちがってきて、たとえばO=緑褐色、E=淡緑色、O>Eとなる。これが多色性の原因である。
 二軸性の結晶では、ある波長の光がもっとも強く吸収される振動方向と、もっとも弱く吸収される振動方向とは、たがいに垂直である。この二つの方向と、これら両方に垂直な方向とを吸収軸(absorption axes)とよぶ。二軸性結晶のうち斜方晶系のものでは、吸収軸は光学的弾性軸(後述)と一致するが、単斜晶系や三斜晶系の結晶では、吸収軸はかならずしも光学的弾性軸に一致しない。しかしこの不一致は、一般に小さいので無視することができる。通常は、光学的弾性軸をそのまま吸収軸の方向として取扱い、この三つの方向に振動する光の吸収の大小の関係を、たとえばX<Y=Zと記述する。二軸性結晶の多色性は、X、Y、Zおのおのの方向に振動する白色偏光を通したときに見える色、たとえばX=淡黄、Y=Z=赤褐色、をもって記述される。この三つの代表的な色を、軸色(axial colours)という。たとえば、二軸性の結晶である黒雲母(単斜晶系)では、へき開片に平行に入ってきて、へき開に平行に振動する光(Z')は、へき開に垂直に振動する光(X')よりも、より多く吸収される。この場合には、X'=淡黄、Z'=赤褐色というように記述することができる。一軸性結晶でも二軸性結晶でも、一般に結晶をとおる光の各進行方向について、X'の方向に振動する白色偏光を通したときに見える色と、Z'の方向に振動する白色偏光を通したときに見える色とを、黒雲母の例のように記述することができる。

 3.2 光学的等方体(optically isotropic body)と光学的異方体(optically anisotropic body)
 物質の光に関する性質が、その物質内で方向にかかわらず同じである場合には、その物質は光学的に等方であるという。水やガラスのような非結晶質のものや、等軸晶系(cubic)の結晶は光学的に等方である。光学的等方体のなかでは、光の進行する様子は方向によってちがわない。ある特定の波長の光の速度は、どの方向でも同じである。
 等軸晶系以外の結晶では、一般に方向によって光の速度、屈折率、吸収などの光学的性質にちがいがある。これを光学的に異方であるという。光学的異方体のなかでは、一つの単色光源から出た光が一つの方向に進むのに、一般に、たがいに速度のちがう二つの偏光に分かれて進み、この二つの偏光の振動方向は、たがいに垂直である。
 光学的異方体は、これをさらに、光学的一軸性結晶(optically uniaxial crystal)と光学的二軸性結晶(optically biaxial crystal)との二つに分けることができる。光学的異方体では、上にのべたように、ある方向に進む光は、速度の異なる二つの偏光に分かれて進む。ところが、ある特殊な方向では、偏光の速度がただ一つしかない。この方向を光軸(optic axis)とよんでいる。光学的一軸性結晶では、光軸は一本であり、それは結晶軸cに一致する。光学的二軸性結晶では、光軸は二本ある。正方晶系(tetragonal)と六方晶系(hexagonal)に属する比較的に対称性の高い結晶は光学的に一軸性であり、斜方晶系(rhombic)、単斜晶系(monoclinic)、三斜晶系(triclinic)に属する対称性の低い結晶は光学的に二軸性である。
光学的等方体 非結晶質の物質 (例、ガラス)
等軸晶系の結晶 (例、ざくろ石)
光学的異方体 一軸性 正方晶系の結晶 (例、ジルコン)
六方晶系の結晶 (例、方解石)
二軸性 斜方晶系の結晶 (例、かんらん石)
単斜晶系の結晶 (例、普通輝石)
三斜晶系の結晶 (例、斜長石)


 



戻る