黒田吉益・諏訪兼位(1983)による〔『偏光顕微鏡と岩石鉱物〔第2版〕』(18-23p)から〕


はじめに
第1章 偏光顕微鏡の構造と調整
第2章 偏光顕微鏡下で観察できる鉱物の性質
第3章 偏光顕微鏡のための基礎的光学
 3.1 光の一般的性質
 3.2 光学的等方体と光学的異方体
 3.3 光学的一軸性結晶
 3.4 光学的二軸性結晶
第4章 主要な造岩鉱物
第5章 鉱物各論
第6章 火成岩
第7章 堆積岩
第8章 変成岩
付録

 付録1 薄片のつくり方
 付録2 膨潤性岩石の薄片製作
 付録3 土壌など粒子での鉱物鑑定
 付録4 モードの測定法
 付録5 屈折率の測定法
 付録6 ユニバーサル・ステージの使用法
 付録7 ベレックのコンペンセーターの使用法
 付録8 アルカリ長石と斜長石の染色法
引用文献
参考書
造岩鉱物の屈折率と複屈折
造岩鉱物の屈折率と光学軸


第2章 偏光顕微鏡下で観察できる鉱物の性質

 偏光顕微鏡による観察は、その使用する部品の種類によって、次のように分けられる。
 1.オルソスコープ orthoscope (ベルトラン・レンズをとりのぞいた状態のすべてをいう)
  1A. 単ニコル one nicol (上方ニコルをのぞいた状態)
  1B. 直交ニコルまたは十字ニコル crossed nicols (上方ニコルを入れた状態)
 2.コノスコープ conoscope (コンデンサーを入れ、上方ニコル、ベルトラン・レンズを入れた状態、高倍率)
 さて、鉱物の光学的性質を説明する前に、このような偏光顕微鏡によって、どんな性質を観察するのかを、ごく簡単に紹介しておく。

1A.単ニコルによる観察
(1)形
(form)
 自然界に産する鉱物は、その鉱物特有の形をしていることもあれば、なんらかの理由によって、特有の形をしていないこともある。前者を自形(idiomorphic、euhedral)、後者を他形(xenomorphic、anhedral)という。両者の中間的なものを、半自形(hypidiomorphic、subhedral)という。他形であれば、形から鉱物の種類を鑑定できないが、自形であれば、形から判断できる場合がある。
(2)大きさ(size)
 顕微鏡下で、ある鉱物の大きさを大まかに知りたい場合は、第1章の調整の第9項目に書いたように、視野の直径(または半径)がわかっておればよい。また、ある鉱物の大きさを正確に決める場合は、はじめ、接眼マイクロメーター(eyepiece micrometer)で何目盛かを読みとる。次に、接眼マイクロメーターの目盛の実長を、対物マイクロメーター(stage micrometer)を標準にして測定すればよい。通常、対物マイクロメーターには、スライド・ガラスの中央に1mmを100等分した目盛がきざんである。
(3)他の鉱物との関係−岩石の組織(texture)
 ある鉱物が岩石のなかで、どんな形をして、他の鉱物とどういう関係で存在するかは、きわめて大切なことである。たとえば、いくつかの鉱物がはいっている岩石の中で、どういう順序でそれらの鉱物が晶出してきたか、ということもしらべることができる。
 鉱物の形や岩石の組織は、初心者のうちはスケッチをすることが大切である。スケッチをすることによって観察のポイントもわかってくる。
(4)色(colour)
 鉱物には無色鉱物(colourless minerals)と有色鉱物(coloured minerals、mafic minerals)とがある。前者は珪長質鉱物(felsic minerals)ともいう。無色鉱物は薄片にしたとき、無色透明であり、有色鉱物は色づいて見える。ただし薄片下の色は、肉眼で見られる色とはちがう。また、後述の干渉色ともちがう。
(5)多色性(pleochroism)
 ステージを回転させたとき、鉱物の色が変化する現象を多色性という。どのように変化するかは鉱物によって特徴があり、同じ鉱物でも方向によってちがってくる。
(6)へき開(cleavage)
 鉱物にはへき開のあるものとないものがある。あるものでも、鉱物ごとに、その現われる方向や、現われ方の強弱に特色がある。
(7)屈折率(refractive index)
 鉱物の屈折率は1.4ぐらいから3.2ぐらいまでの間で千差万別である。顕微鏡下では、屈折率が0.05ぐらいちがう場合は、一見して区別できる。0.002という小さいちがいでもしらべることができる。薄片はバルサム(あるいはレークサイドセメント)に封じこんであるが、そのバルサムと鉱物の屈折率の差によって、薄片下の鉱物の見え方がちがう。一般にざらざらした感じやはっきりしたりんかくを示すものは、屈折率がひじょうに高いか、ひじょうに低い。なめらかな感じのものは、バルサムの屈折率(1.54前後)に近いものである。2つの物質の屈折率の高低を簡単にくらべるには、両者の境のベッケ線(Becke line)を見ればよい。屈折率の異なる2つの物質の境には、少しピントをずらすと、図2.1(略)のように、光った線が見える。これは絞りをしぼったほうがよく見える。この光った線をベッケ線とよぶが、それは鏡筒を上げると屈折率の高い方へ移動し、鏡筒を下げると屈折率の低い方へ移動する。ステージを上げ下げする型の顕微鏡のときも、薄片と対物鏡の距離が近づくと屈折率の低い方へ、はなれると高い方へ移動する。このことから、すでに屈折率のわかっている鉱物(あるいはバルサム)と比較しながら、ある鉱物の大体の屈折率の見当をつけることができる。

1B.直交ニコルによる観察
(1)干渉色
(interference colour)、複屈折(double refraction または birefringence)
 薄片を白色光によって直交ニコルの下で観察するとき、ステージを回転するにつれて、色づいてみえたり、暗くなったりする。これを干渉色といい、鉱物の複屈折によって生じる。色はきれいなこともあれば、ただ明暗だけのような感じのこともある。ステージを回転しても常に暗くみえる場合には、複屈折の大きさがゼロか非常に小さいことを示している。ステージを回転したとき、白〜灰〜黒というような白黒テレビの感じでみえるものは、複屈折の大きさが小さい。カラーテレビのようにきれいにみえるものは、複屈折の大きさが大きい。鉱物薄片の色や多色性は単ニコルで観察するのに対し、鉱物薄片の干渉色は直交ニコルで観察できる。干渉色は色や多色性とはちがうから、はっきり区別しなくてはいけない。
(2)双晶(twin)
 単ニコルによる観察では、均質な1つの結晶にみえる場合でも、直交ニコルの下で観察すると、干渉色が異なる2つ、あるいはそれ以上の部分に分かれていることがある。これはたいてい双晶によるものである。鉱物によって双晶するものと、しないものとがある。また、その形式も鉱物によって特徴があり、同じ鉱物でも、生成環境によって異なる。
(3)累帯構造(zonal structure)
 鉱物はその個体のなかで、全部が一様の組成でないものがある。この場合も、単ニコルによる観察では、均質な1つの結晶にみえるが、直交ニコルの下で観察すると、干渉色が異なるいくつかの部分に分かれる。その場合、一般には、結晶の中央部と外側とで組成がちがうことが多い。これを鉱物の累帯構造という。化学組成がちがうと光学的性質もちがってくるので、干渉色のちがいによって、累帯構造をみとめることができる。
(4)消光位(extinction position)
 光学的に等方な鉱物を直交ニコルの下で観察すると、暗黒にみえる。ステージを回転しても、つねに暗黒である。ところが、光学的に異方な鉱物を直交ニコルの下で観察する場合、ステージを回転すると明るさが変化し、1回転の間に4回暗黒になるところがある。この暗黒になる現象を消光(extinction)といい、その位置を消光位という。この消光位が、結晶軸(a、b、cなど)の1つやへき開の方向に一致すると直消光(straight extinction)といい、一致しないと斜消光(oblique extinction)という。直消光の場合、消光角(extinction angle)はゼロであり、斜消光の場合、消光角はある任意の値を示す。
(5)伸長(elongation)の正負
 薄片において、結晶が一つの方向に伸長した形をしていて、その輪郭が直線であり、しかもその結晶が直消光を示すか、または小さな消光角を示す場合には、結晶の伸長の正負(zone character)を決めることができる。すなわち、結晶の伸長方向が偏光の振動方向Z'と一致するか、Z'に近いときには伸長は正であるという。伸長方向が偏光の振動方向X'と一致するか、X'に近いときには伸長は負であるという。伸長の正負を決める場合には、後述のように検板を使用して、偏光の振動方向がX'かZ'かを決める必要がある。

2.コノスコープによる観察
 光学的に等方な鉱物(主として等軸晶系の鉱物)以外は、すべての鉱物は光学的に異方である。光学的に異方な鉱物は、一軸性と二軸性に大別され、それらはさらにおのおの正号結晶と負号結晶とに分けられる。これらは、コノスコープにすると観察できるコノスコープ像(conoscopic figure)または干渉像(interference figure)によって識別できる。また、二軸性結晶の光軸角の大小もコノスコープ像(干渉像)から推定できる。コノスコープ像を出す場合には、薄片中の目的の鉱物のうち、できるだけ複屈折の小さいものをえらぶことが必要である。そのようなものは、光軸が薄片にほぼ垂直であるので、光学性の正負や光軸角の大きさを決めるのに便利である。
 また、光軸の方位が光の色によってひどく異なる場合には、コノスコープ像の光軸点の付近に、分散による色があらわれる。赤い光に対する光軸点には赤い光が欠けているので、青味のある色が現われる。青い光に対する光軸点には青い光が欠けているので、赤味のある色が現われる。すなわち、光軸点にあたる位置の両側に、青と赤の色が現われる。一般に、赤色の光に対する光軸角の値が青色の光に対する値よりも大きいときには、r>vという記号で表わし、小さいときにはそれをr<vという記号で表わす。
 コノスコープ像を出すには高倍率にする必要があるので、めんどうくさがって省略する人がある。コノスコープ像の観察によって、沢山の情報が得られるので、気軽にみれるように練習する必要がある。

 以上にのべたように、オルソスコープおよびコノスコープによって鉱物の光学的性質をしらべれば、今まで見たことのない鉱物であっても、鑑定表をみるなり、テキストをしらべるなりして、鉱物名を同定できる。天然の岩石に普通に産する鉱物を造岩鉱物(rock-forming minerals)とよんでおり、その種類はそれほど多くはない。同じ名でよばれる造岩鉱物でも、天然のものは、どこか、少しずつちがっている。たとえば石英という鉱物でも千差万別にみえるから、鑑定がむずかしい。できるだけ数多くの試料を常日頃から丹念に観察することが大切である。』



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