坪井誠太郎(1959)による〔『偏光顕微鏡』(51-54,120-122p)から〕



緒言
第T編 予備事項
 第1章 球面投影について
 第2項 結晶について
 第3章 光について

第U編 固態物質の光学的性質一般
 第1章 光学的等方体
 第2章 光学的異方体(その1)光学的一軸性結晶
 第3章 光学的異方体(その2)光学的二軸性結晶
 第4章 総括

第V編 偏光顕微鏡による観察
 第1章 偏光顕微鏡
 第2章 オルソスコープによる観察
 第3章 コノスコープによる観察
 第4章 自在回転台
 第5章 分散法
第W編 光学的鏡検法の活用
 第1章 光学的鏡検による直接の観察データ
 第2章 光学的鏡検法の適用例

補遺
付録
練習問題
問題解答
事項索引
人名索引

116. 光波
 この章では、光について、後に諸物質の光学的性質を取り扱うための基礎として必要な事柄を摘記する。ここでは、光の本性の問題に立ち入ることなく、単に光を一種の横波として説述を進める。
 光波の振動は、その進行方向に垂直な平面内で行なわれる。太陽の光や普通の灯火の光などでは、その振動の様子は一般に複雑である。しかし、そのような複雑な振動も、これを簡単な振動に分解することができ、その簡単な振動の無数の集合として取り扱うことができる。
 上のように分解された最も簡単な光波の振動は単弦運動(simple harmonic motion)として表わされる。すなわち、第116.1図(略)において、点Pが一様の速さをもって、点Oを中心とする円QRQ'R'に沿って運動するとき、その円の一直径ROR'の上に投ぜられたPの正射影P'の運動が単弦運動である。いま、QOQ'をROR'に垂直な直径とするに、PがQから矢の方向に順次にR,Q',R'を経てQに戻り、一回転を完成する間に、P'はOからRに至りOに戻りR'に至りまたOに戻って一振動を完成する。或る時刻におけるP'のOからの距離OP'を、その時刻におけるP'の変位量(displacement)という。変位量は刻々変化し、ORはその最大変位量である。
 上に述べたような光波の振動は、その振動方向に垂直な方向に向って伝播する。これがすなわち光の進行である。第116.2図(略)において、光がOからOO'の方向に進むとき、OO'線上の各点は、それぞれがOにおけると同様な単弦運動を繰り返すのであるが、或る時刻における各点の変位量は、Oのそれから順次に少しずつずれている。たとえば、或る時刻、ちょうどOにおける変位量が0であってその振動が上に向っているとき、OO'上の各点の変位量を図示すれば、波形線OHKLMのごとくである。OO'上の各点は、同時刻において、一般には、変位量、運動の向きおよび速さを異にしている。すなわち、位相(phase)を異にしている。しかし、特定の諸点(たとえば図のLとM)においては位相がたがいに合致している。
 光波については次の諸量がある。
 速度(v) 光波の伝播する速度(velocity)は、一般に媒質によって異なり、また、同じ媒質の中では、光の色によって異なる。スペクトルの赤端に近い色の光は紫に近い色の光よりも速い。しかし、真空の中(普通の状態にある空気の中もほぼ同様)では光の色にかかわらず一定であって、毎秒約3×10^10cmである。これをvoとする。他の媒質の中での光の速度vはvoよりも小さい。
 振動の週期(T) 一振動に要する時間を週期(period)という。光の色によって値を異にするが、同じ色の光では媒質にかかわらず一定である。
 振動数(F) 一秒間に振動する回数を振動数(frequency)という。これも、光の色によって値を異にするが、同じ色の光では媒質にかかわらず一定である。
 波長(λ) 波において同じ位相にある諸点のうち、相隣り合っているものの間の距離を波長(wave-length)という。第116.2図(略)のLMが波長に当る。光の波長は、同じ媒質の中でも色によって差異があり、同じ色のものでも媒質によって差異がある。
 振幅(A) 振動の幅、すなわち各振動点の原位置からの最大変位量を振幅(amplitude)という。第116.2図(略)のKNが振幅に当る。光の強さ(すなわち明るさ、I)は光波の振幅の自乗(A^2)に正比例する。
 以上に挙げた諸量の間には次の関係がある。
     λ=vT=v/F。     (116.1)

 117. 光の色
 前節116で述べたように、光波の週期Tおよび振動数Fは光の色によって値を異にし、同じ色の光では媒質にかかわらずその値が一定であるから、TまたはFによって光の色を示すことができる。また、光の真空の中(空気の中もほぼ同様)における波長をλoとすれば、(116.1)式から
     λo=voT=vo/F     (117.1)』
なる関係が得られ、voが光の色にかかわらず一定であるから、λoの値はTまたはFによって定まる。従って、λoをもって光の色を示すことができる。これが光の色を指定する普通の方法である。たとえば、Naによって得られる黄色光はλo=589.3mμ、Liによって得られる赤色光はλo=671mμである。可視光のλoは約390−760mμの範囲にある。
 λoの単一な光を単色光(monochromatic light)という。これに対し、種々の単色光の混じた混色光(mixed colour light)、すべての可視光の集合である白色光(white light)がある。
 単色光を指定するのに、λoによる外、太陽スペクトルにおける吸収線の記号A,B,C,…によることがある。すなわち、
 A…λo=759.4mμ、B…λo=686.7mμ、C…λo=656.3mμ、D…λo=589.3mμ、E…λo=527.0mμ、F…λo=486.1mμ、G…λo=430.8mμ、H…λo=396.1mμ。

 118. 偏光と不偏光
 すでに述べたとおり、光はその進行方向に垂直な平面内で振動するのであるが、太陽の光や普通の灯火の光などでは、振動がこの平面内で偏ることなくあらゆる方向に行なわれる。これに反し、振動が或る特定方向にのみ限られた光がある。これを偏光(polarized light)という。最も簡単な偏光は、その振動方向が直線上に限られたもの、すなわち直線偏光(linearly polarized light)である。
 偏光に対し、偏っていない光を不偏光(non-polarized light)という。不偏光は、振動方向の異なる無数の偏光の集合とみることができる。
 不偏光をガラス面や水面などに反射させると、一般に多少偏った光が得られる。その振動方向については、A.J.Fresnelに従って、光の進行方向に直角で反射面に平行であるとする。』

第4章 総括
240. 固態物質の光学的性質による分類
 固態物質の光学的性質一般について本編第1-3章で述べたところにもとづき、固態物質をその光学的性質によって分類すると、次の表が得られる。

光学的等方体

  • 光学的性質に、方向による差異がない。一つの方向に進む光は通常光一つのみである。普通は複屈折の現象がない。
非結晶
等軸晶系の結晶

光学的異方体

  • 光学的性質に、方向による差異がある。一般に、一つの方向に進む光は、たがいに速度を異にする二つの偏光に分かれる。その振動方向はたがいに直角である。複屈折の現象がある。

光学的一軸性結晶

  • 光軸が一本あり、その方向は結晶軸cと一致する。一つの方向に進む二つの偏光は通常光および異常光である。
正方晶系の結晶
六方晶系の結晶

光学的二軸性結晶

  • 光軸が二本ある。一つの方向に進む二つの偏光は両方とも異常光である。

斜方晶系の結晶

  • 光学的弾性軸の各々および吸収軸の各々は結晶軸a,b,cのいずれか一つと一致する。

単斜晶系の結晶

  • 光学的弾性軸のいずれか一つおよび吸収軸のいずれか一つは結晶軸bと一致する。

三斜晶系の結晶

  • 光学的弾性軸および吸収軸は一般に結晶軸と一致しない。


241. 基本的光学恒数
 固態物質の諸光学恒数のうちで、次に列挙するものが基本的なものである。一つの物質種についてこれらの基本的光学恒数が各単色光ごとに与えられていれば、その体内の任意の方向における光学的現象を推知することができる。ただし、ここでは旋光性を考慮外とする。
(A)光学的等方体では:
  (1)屈折率(n)、
  (2)吸収恒数(たとえばκ)。
(B)光学的一軸性結晶では:
  (1)屈折率の両極値、すなわち主屈折率(ω、ε)、
  (2)吸収恒数の両極値(たとえばκO、κE)。
(C)光学的二軸性結晶では:
  (1)屈折率の三主値、すなわち主屈折率(α、β、γ)、
  (2)吸収恒数の三主値(たとえばκT、κU、κV)、
  (3)光学的弾性軸X、Y、Zの方位、
  (4)吸収軸の方位。
 光学性(正負)、光軸角、色、多色性、種々の方向における屈折率、複屈折の程度、光線速度、垂線速度、偏光波の振動方向 等は、いずれも上記の基本的光学恒数から、これまでに述べたところによって、導き出すことができる。

242. 光学的観察の趣旨
 与えられた物質試料について光学的観察を行なうのは、その物質種の記載を目的とする場合と、識別同定を目的とする場合と、諸物質種の相互間の異同を明らかにして差別をつけること すなわち 分別を目的とする場合とがある。いずれの場合においても、光学的観察は物質種の特徴と結び付くものでなければならない。そうでなければ、上の目的に対しては意味がないことになる。
 そこで、もし与えられた試料によって前節に挙げた基本的光学恒数を決定することができる場合には、そうすることが望ましい。何となれば、各物質種の基本的光学恒数は、それ自身がその物質種の特徴であって、これを決定すれば上の目的が達せられるからである。基本的光学恒数を直接に決定することができない場合には、適宜な光学的諸現象を観察し、その結果と基本的光学恒数との関連を考えることが必要である。諸物質の呈する光学的現象はその基本的光学恒数を反映しており、従って物質の特徴となり得るのであって、試料についての光学的観察はその特徴をとらえることを主眼として行なわなければならない。これが光学的観察の趣旨である。
 次編においては、主として偏光顕微鏡による光学的観察の方法を述べるのであるが、それによって観察された諸現象を相互に関連させ、また、それらを基本的光学恒数と結び付けるように常に意を用いることは、上の趣旨にそうために、肝要なことである。』



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