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【あ】
- IAA(=indole-3-acetic acid)H
『=インドール-3-酢酸。よく知られた植物の成長物質で、シュートの頂端分裂組織や幼葉鞘の先端で生産される。何種類かのオーキシンの中の一つ。』
インドール酢酸(いんどーるさくさん)K
『indole-3-acetic acidのことで、省略形としてIAAが用いられる。オーキシンと総称される物質の一つであるが、一般にはオーキシンというとインドール酢酸をさすことが多い。ジベレリンとともに最も早く発見された植物ホルモンである。その基本的な作用は細胞の伸長成長の誘導であるが、多彩な整理作用を示し、屈性、カルスの誘導、さらにサイトカイニンと共同で作用して細胞の分化にも働く。』
- IAN(=indole-3-acetonitrile)H
『=インドール-3-アセトニトリル。天然の植物オーキシン。』
- ICP発光分光分析⇒誘導結合高周波プラズマ分光分析
- アプイニシオ分子軌道法(ab initio molecular
orbital method)I
『非経験的分子軌道法(non-empirical molecular orbital method)ともいう。分子の電子状態を理論的に取り扱う方法として最も一般的に用いられているのは分子軌道法である。分子軌道法では、分子の全電子波動関数は各電子の波動関数の積〔パウリの原理を満たすように、実際は積の行列式(電子配置関数)をとる〕の重ね合わせとして表し、さらに各電子の波動関数は空間座標の関数である分子軌道とスピン関数の積で表す。この分子軌道を求める方法には、大きく分けて半経験的分子軌道法とアプイニシオ分子軌道法がある。分子軌道を量子力学の原理に基づいて(ab
initio とはラテン語で“はじめから”という意味)経験的パラメーターを導入せずに求めようというのがアプイニシオ分子軌道法である。アプイニシオ法は莫大な数値計算を必要とするので、1950年代までは水素分子などの簡単な二原子分子やCH4などに対して、R.S.Mullikenや小谷正雄らによって先駆的な研究が行われたにすぎなかった。1960年代に入って電子計算機が使えるようになると、エタンの内部回転障壁の起源の解明に応用されるなど、多原子分子に対しても実用化された。1970〜80年代にかけて、新しい方法論の開発、高速計算機の発達、汎用プログラムの普及によって、半経験的方法をしのいで分子の電子状態の理論計算の中心となった。アプイニシオ分子軌道法では、分子中の電子の運動を量子力学を用いて解くが、多電子系ではその際近似を導入せざるを得ない。分子軌道を基底関数の一次結合で表すLCAO
MO近似が一般的に用いられている。この近似の精度を決める第一の要素は基底関数系の大きさである。最小基底系ではごく定性的な結論しか得られないが、ダブルゼータ基底系、拡張基底系と大きくなるに従い、信頼度が上がる。また、炭素原子上のd関数など分極関数も信頼度を上げるのに必要である。信頼度を決める第二の要素は電子相関のとり入れ方である。最も簡単には電子相関の考慮されていないハートリー-フォック法を用いるが、電子配置間相互作用法、多体摂動論、クラスター展開法などによって電子相関をとり入れることにより信頼度が上がる。』
- アポプラスト(apoplast)H
『植物体や器官の細胞壁の連続体。細胞壁中の物質の移動は、アポプラスト移動またはアポプラスト輸送とよばれる。シンプラストと比較せよ。』
- アミノ酸(amino acid)H
『以下の一般構造式(略:RCH(NH2)COOH)で表される両性有機化合物。
アミノ酸は生体内に単独で、または重合してジペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチドを形成して存在する。各アミノ酸はR基(うち7つは容易にイオン化する)が異なり、ポリペプチド中のアミノ酸配列によって、溶液中で荷電する配列だけでなく、溶液中での立体構造も決まる(酸性、塩基性、非極性のR基の分布は、R基の組成、pH、付近の微細環境に依存している)。一般的なアミノ酸の相対分子質量は、75(グリシン)から204(トリプトファン)まである。3つのアミノ酸、メチオニン、システイン、シスチン(2つの酸化型システインからなりジスルフィド架橋を形成する)のみが、硫黄を含むR基をもっている。タンパク質合成の際には、隣接するアミノ酸のカルボキシル基とアミノ基が縮合してペプチド結合を形成し、タンパク質のN末端とC末端、および特定のR基のみがイオン化できる。一般に約20種類の基本アミノ酸がタンパク質中に存在し、それらは遺伝暗号によってコードされている。転移RNAの結合後の修飾により、遺伝暗号にコードされていないまれなアミノ酸がタンパク質中に存在するようになる。いくつかのアミノ酸(例、オルニチン)は、タンパク質中には存在しない。普通に存在するアミノ酸のほとんどは遊離のカルボキシル基をもち、α炭素原子(遊離のカルボキシル基に隣接しているもの)に遊離のアミノ基が結合しているα-アミノ酸である(プロリンを除く)。アスパラギン酸はピリミジン合成に、グルタミンはプリン合成にそれぞれ必要である。生物は前駆体から必須アミノ酸を合成できないため(必須アミノ酸はビタミンではない)、それらを外界から摂取しなければならない。ヒトの場合、必須アミノ酸はリシン、フェニルアラニン、ロイシン、トレオニン、メチオニン、イソロイシン、トリプトファン、ヒスチジン、バリンである。』
アミノ酸(amino acid)J
『アミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)の両者をもつ有機化合物。アミノ基の水素が分子内の他の部分と置換して二級アミンとなった環状化合物(イミノ酸
imino acidという)もアミノ酸に含める。20世紀の初めE.フィッシャーらが明らかにした。アミノ基とカルボキシル基が同じ炭素原子に結合しているものをα-アミノ酸といい、一般式はRCH(NH2)COOHで示される。天然に得られるアミノ酸の大部分はα-アミノ酸であり、これが互いに水分子を失ってペプチド結合(図:略)を形成したものが蛋白質やペプチドである。αから順次、隣の炭素原子にアミノ基が移るに従ってβ-、γ-、δ-アミノ酸などとよぶが、これらは蛋白質に含まれることはない。生体にはこれらのアミノ酸はわずかに遊離状態や小ペプチドの形で存在している(例:β-アラニン・γ-アミノ酪酸)。一般の蛋白質を構成するものは20種であり、立体構造はすべてL型。これらアミノ酸の略号を表に示す。アミノ酸は、中性すなわちモノアミノモノカルボン酸(例:アラニン・ロイシン「など)、酸性すなわちモノアミノジカルボン酸(例:アスパラギン酸・グルタミン酸)、塩基性、例えばジアミノモノカルボン酸(例:リジン)など、アミノ基とカルボキシル基の数によって分類する。また芳香環・ヒドロキシル基・チオール基を含むものをそれぞれ芳香族アミノ酸(例:チロシン・フェニルアラニン・トリプトファン)・ヒドロキシアミノ酸(例:セリン・トレオニン)・含硫アミノ酸(システイン・シスチン・メチオニン)と分類する。また、アミノ酸は側鎖の極性(polarity)から次の4種に分類される。(1)非極性、または疎水性アミノ酸(例:ロイシン・イソロイシン・バリン・フェニルアラニン・プロリンなど)。これらのアミノ酸は水よりも非極性の環境を好む。(2)中性な極性アミノ酸(例:セリン・トレオニン・アスパラギン・グルタミンなど)。(3)負電荷をもつ酸性アミノ酸(例:アスパラギン酸・グルタミン酸)。(4)正電荷をもつ塩基性アミノ酸(例:アルギニン・リジンなど)。この分類は、蛋白質やペプチドの構造を考察するうえで重要な指標を与える。
アミノ酸の略号表
i |
アミノ酸 |
ii |
|
i |
アミノ酸 |
ii |
Ala |
アラニン |
A |
His |
ヒスチジン |
H |
Arg |
アルギニン |
R |
Ile |
イソロイシン |
I |
Asn |
アスパラギン |
N |
Leu |
ロイシン |
L |
Asp |
アスパラギン酸 |
D |
Lys |
リジン |
K |
Asx |
Asn+Asp |
B |
Met |
メチオニン |
M |
Cys |
システイン |
C |
Phe |
フェニルアラニン |
F |
Pro |
プロリン |
P |
(Cys)2 |
シスチン |
|
Ser |
セリン |
S |
Cys-Cys |
Thr |
トレオニン |
T |
Gln |
グルタミン |
Q |
Trp |
トリプトファン |
W |
Glu |
グルタミン酸 |
E |
Tyr |
チロシン |
Y |
Glx |
Gln+Glu |
Z |
Val |
バリン |
V |
Gly |
グリシン |
G |
|
i)3文字表記。ii)1文字表記。 |
』
アミノ酸(あみのさん)K
『1分子内にアミノ基とカルボキシル基の両方をもつ化合物の総称。アミノ酸がペプチド結合によって直鎖状につながりタンパク質になる。天然のタンパク質に含まれるアミノ酸は20種類である。ホルモンや神経伝達物質のなかには、アミノ酸そのものあるいはアミノ酸を原料としてつくられた化合物がある。』
- アミロプラスト(amyloplast)H
『デンプンを蓄積した無色の色素体(白色体)。例えば、子葉、内乳やジャガイモの塊茎などの貯蔵器官で見られる。』
- アリット化作用(allitization)A
『湿潤熱帯の化学的風化作用の型。岩石が長期(数万年以上)にわたって深層(数m〜10m以上)まで強く風化され、大半の造岩鉱物は分解、分解産物の塩基類や珪酸の大半は溶脱、難分解性のアルミナと酸化鉄が残留・富化する作用。土壌は可塑性や粘性を失い、赤褐色、砂礫状の酸化鉄・アルミナ皮殻となり、植物の生育は困難になる。皮殻中には酸化鉄の結核(豆石、pisolite)や、それが固化した鉄石(ironstone)が多く含まれるのが特徴。〔松井 健〕』
- アルカリ度(alkalinity)I
『水質を示す一つの尺度。試料を酸標準液で滴定して要した体積から、炭酸カルシウムに換算したppmや 1 dm3当たりの当量数
meq/dm3で表す。用いた指示薬によって、フェノールフタレインアルカリ度、メチルオレンジアルカリ度あるいはブロモクレゾールグリーンアルカリ度とよばれる。試料に色がついていたり、酸化力があって指示薬を分解する場合にはpHメーターが用いられる。日本工業規格(JIS)ではpH9あるいは5までの中和に要した酸の量を、それぞれ酸消費量(pH9)あるいは酸消費量(pH5)としている。』
- アレニウスの式(Arrhenius' equation)@
『化学反応の速度定数の温度変化についてアレニウスが提出した式(1889)で、速度定数kは
k=A exp(−Ea/RT)
で表わされる。Tは絶対温度、AおよびEaはその反応条件に固有な定数で、Aは頻度因子、Eaは見かけの活性化エネルギーとよばれる。温度範囲がひろいときはEa、Aともに温度の関数となる。この式は一部の高速反応を除く一般の化学反応のほか、拡散、粘性などの輸送現象や金属のクリープ過程にもよく適用される。アレニウスは反応過程において原系分子と高エネルギーの活性分子の状態の間の平衡を考え、この式の熱力学的説明を行なったが、素反応過程に対する各定数の物理的意味はのちに衝突説および遷移状態理論によって与えられた。しかしいくつかの素反応過程から成り立っている一般の複合反応については各定数の内容は複雑であり、本式を実験式として用いることが多い。』
- アレロパシー(allelopathy)H
『他感作用ともいう。ある植物が、化学物質によって他の種の植物の成長を阻害すること(例、Salvia leucophylla)。』
他感作用(たかんさよう)K
『植物が地下部の根端から特有の化学物質を分泌したり、落ち葉の分解にともなう物質によって他の植物の生育を阻害、または助長する作用。アレロパシーまたは遠隔作用ともいうが、教育用語としては漢字表記を優先し、かつ学術(植)にしたがい他感作用を用いる。』
- アンドソル(Andosol)B
『FAO-Unescoやフランスなどの火山灰土に対する名称である。アンドソルはわが国の黒ぼく土の翻訳名としても使われている。この言葉の由来は、第2次大戦後米国の天然資源局のW.S.Lignonが日本の火山灰土につけた名称Ando
soilによる。これは日本語の暗色土(an-shoku-do)から作られたものである。
今日広く使われているFAO-Unescoの土壌分類での土壌単位として、アンドソルは、次のように定義されている。アンドソルとは、キャンビックB層の上に、おそらくはモリックないしアンブリック層をもつか、オクリックA層とキャンビックB層をもつ土壌であり、その他の特徴土層をもっていない。そして深さ35cmないし、それ以上までに、次の1つないし2つ以上の性質をもっていること、@1/3バールの水分で、細土の仮比重が0.85g/cm3以下で、交換複合体は非晶質物が優勢であること、Aシルト、砂および礫部分には、60%ないしそれ以上のガラス質火山灰、シンダー、あるいはその他のガラス質火山砕屑物が含まれる。アンドソルはオクリックアンドソル(オクリックA層とキャンビックB層をもつ)、モリックアンドソル(モリックA層をもつ)、ヒューミックアンドソル(アンブリックA層をもつ)、ヴィトリックアンドソルの4種に分けられる。〔庄子貞雄〕』
- アンドレアゼンピペット法(Andreasen pipette
method)B
『Andreasenの開発したピペットを用いる粒度分析法。アンドレアゼンピペットの取扱い操作は容易で、結果の再現性も良好であり、さらに粒度分析器としては最も低廉である。そのため、種々の日本工業規格に標準的な粒度分析法として採用されている。この方法の欠点は解析結果を得るまでの手間が繁雑なことと、測定に長時間を要することである。たとえば、1μm以下の粒子の粒度分析には通常数日以上の測定をしなければならない。
アンドレアゼンピペットの標準的な形状を図(略)に示す。直径5cm程度、全高35cm程度のガラス製沈降管に、三方コックのついたピペット細管が挿入されている。細管の内径は1mm程度、ピペットの液だめの体積は10cm3、沈降管にいれる液量は500cm3程度である。粉体試料を分散させた懸濁液を沈降管に入れ、十分振とうした後、ピペットを静置する。温度の変動は結果に重大な影響を及ぼすため、恒温室あるいは恒温槽にピペットを設置する。所定時間に10cm3の標線まで懸濁液を吸いあげ、三方コックをまわしてあらかじめ秤量してある蒸発皿にこれを移す。直ちにピペットの先端より蒸留水を吸い込み、液だめを洗浄して先の蒸発皿に流し出す。蒸発皿に流し出した懸濁液を105〜110℃(粘土試料では65℃が一般的である)で恒量になるまで乾燥する。これにより懸濁液10cm3中に分散している粉体の質量を知ることができる。試料の粒度に応じて、静置後0、3、10、30分、1、2,3、5、8、12時間、1、2、4、8、16日のうちから5〜8点の試料を採取するのが標準的である。
水を分散媒とした通常の方法ではおよそ40μmから0.5μmまでの粒子径について測定可能である。もちろん、水より粘度の大きい分散媒を用いれば、大きい粒子の測定も可能である。また、試料との反応を避ける目的でケロシン、エチルアルコールなど非水系の分散媒もよく用いられる。なお、懸濁液の試料重量濃度が3%を超えることは好ましくなく、1%程度が望ましい。
静止流体中における球状微粒子の落下速度は一定である、という法則に基づいて結果を解析する。そのStokesの式(Stokes's
equation)は
v=(g/18)・[(σ−ρ)/η]・d2
と表される。ここに、vは粒子の落下速度、gは重力加速度、σおよびρはそれぞれ粒子および流体の密度、ηは流体の粘性係数、dは球の直径である。この式により、粒子と沈降速度の等しい球の直径として表される粒子径をストークス径または等価球直径とよぶ。なお、ドイツおよび日本ではアンドレアゼン径という術語が使われることがある。アンドレアゼン径では、ストークス径の球と同じ体積をもつ立方体の稜のの長さをもって粒子径とする。〔井川博行〕』
【い】
- 異化作用(catabolism)H
『異化ともいう。生物体における消化や呼吸など、酵素による分解過程の総称。同化作用の反対語。』
異化(いか)K
『代謝において、複雑な化合物を最終的により簡単な化合物に変化させる過程。このとき遊離されるエネルギーを利用して、ATPを合成し、生物の種々の活動に利用する。異化作用ともいうが、過程を意味するので、教育用語としては異化とする。同化の対語。』
- 維管束(vascular bundle)H
『主に木部と師部からなる長軸方向への通道(維管束)組織。裸子植物と被子植物の茎にある中心柱構造の単位で、葉の付属器官(例、葉脈)にもある。裸子植物の茎では髄を囲んで環状に配置され、単子葉類では茎組織の全体に散在している。
(a)並立維管束。木部の同じ放射軸上で外側に師部がある(被子植物と裸子植物に典型的な型である)。
(b)複並立維管束。木部の外側と内側の同じ放射軸上に2組の師部群がある(一般的ではなく、いくつかの双子葉類、例えばカボチャ類に見られる)。
(c)包囲維管束。一方の組織がもう一方の組織に囲まれている。いくつかのシダ類にあるように、師部が木部を包囲している場合は外師包囲型、ある種の単子葉類の根茎に見られるように、木部が師部を包囲している場合は外木包囲型という。
維管束は、双子葉類のように形成層をもつものを開放維管束、単子葉類にあるように形成層がない場合は閉鎖維管束という。』
維管束(vascular)H
『【植】通道組織を構成したり、生じたりする植物の組織または部分(例、木部、師部、維管束形成層)と関係する形容詞。』
維管束(いかんそく)K
『種子植物とシダ植物の体のなかにある細長い構造で、水の通道を主な機能とする木部と同化物質の通道を主な機能とする師(篩)部とから成る。多くの場合、力学的支持の役もする。管束ともいうが、学術(植)にしたがい、維管束とする。種子植物の茎の維管束では木部が内側で篩部が外側にあるが、植物の種類と部分により、それ以外の型もみられる。葉脈の末端あたりなどには、木部または篩部の一方だけから成る維管束もある。』
- 維管束形成層(vascular cambium)H
『【植】維管束植物の2種の側生分裂組織のうちの一つで、二次的な植物体を形成する二次組織を生じる。維管束形成層の細胞は、高度に液胞化しており、次の2種類の形態がある。(1)紡錘形始原細胞は、縦に長くなった細胞であり、(2)放射組織始原細胞は角張った細胞である。維管束形成層は、一次木部と一次師部の間に未分化の状態で残っている前形成層細胞から発達する。同様に維管束間の部分の柔組織からも発達する。形成層細胞とその誘導体の並層分裂(すなわち分裂中の形成層細胞の間にできる細胞板は茎や根の表面に平行である)によって、二次木部と二次師部を形成する。茎や根の形成層細胞は外側と内側に向かって分裂してゆき、それぞれ師部細胞と木部細胞になる。このようにして形成層から広がって、外側には師部、内側には木部ができ、長く連なった細胞の放射列が形成される。紡錘形始原細胞から形成された木部と師部は、垂直方向へ向いた長軸をもっており、二次維管束組織の軸系を形成する。一方、放射組織始原細胞から生じた細胞は、放射維管束または放射系を形成する。維管束の内部に生じる形成層の部分は維管束内形成層で、維管束の間の部分に生じるものは維管束間形成層である。木の組織では、二次木部および二次師部の形成は、中心柱全体に放射状に広がった放射組織とともに、維管束組織の中心柱を形成する結果となる。二次師部よりも多くの二次木部が形成される。』
⇔コルク形成層
- 維管束植物(Tracheophyta、vascular
plants)H
『維管束をもつ植物。種子をもつかどうかよりも、維管束組織をもつことのほうがより分類学的な重要性が大きいとみなす古い分類体系では、一つの門とした。この門は維管束をもつすべての植物を含むことになり、世界中の陸上植物の大多数を含む。』
維管束植物(いかんそくしょくぶつ)K
『維管束をもつ植物の総称。シダ植物と種子植物に分けられる。』
- 閾(値)(threshold)H
『しきい(値)、限界(値)ともいう。神経や筋肉などの組織において、それ以下では反応が起きない刺激の強度。』
閾値(いきち)K
『生物に刺激が与えられた場合、刺激がある量を越えて初めて生物反応を生じる。この量のことを閾値という。つまり、反応を生じる刺激の最少量のこと。閾値での刺激を閾刺激という。閾は家屋の敷居のことで、越えると反応が現われる境界を意味する。限界値ということもあるが、耐用限界値(生物が耐えられる最大値)、あるいは、許容限界値(投与してもよい最大値)とまぎらわしいので、教育用語としては閾値を用いる。』
- 1次反応(first-order reaction)@
『反応次数が1の化学反応をいい、ふつうは反応速度がただ1種類の反応物の濃度に比例するものをさす。この反応物の濃度がはじめaで、t時間後にa-xに変わったとすれば、その時刻の反応による濃度変化速度は
−d(a-x)/dt=k(a-x)
で与えられる。kは速度定数。この式を積分すると
k=(1/t)log [a/(a-x)]
の関係が得られ、これから実測値xによってkの値を算出し、またはその定数の値から逆に反応物の変化の量を計算することができる。1次反応の特徴は、速度定数が時間の逆数を単位とし、濃度に全く無関係なことである。また反応の半減期、すなわち反応物の初濃度aがa/2に減少するまでの時間は初濃度によらない。四塩化炭素中での五酸化二窒素の分解、水中でのスクロースの転化などは典型的な例である。なお、放射性元素の崩壊も形式上1次反応に属する。』
- 1:1層(1:1 layer)B
『1枚の四面体シートと1枚の八面体シートとが、前者の頂点酸素と後者の片方の表面陰イオンの2/3を共有して接合することによって形成される複合層(図:略』。カオリン鉱物の構成層に相当するので、カオリン層ともよばれるが、このときの組成はAl2Si2O5(OH)4と表される。そのほかAl2の代りにMg3やFe3がはいる場合、Siの一部の代りにAlがはいる場合などがある。珪酸塩であるので、2:1層とともに珪酸塩層とよばれることもある。1:1層の積み重なりによって作られる構造を1:1型構造といい、ときに2層構造(two-layer
structure)ともよばれる。1:1層の四面体側の表面は酸素であり、八面体側は同数のOHであるので、積み重なるときにはOとOHの対が生じて、少なくともその一部には水素結合が形成される。しかし、1:1層は層に垂直な方向が非対称的で極性をもつので、四面体シートと八面体シートがバランスを失って層が湾曲することもある。〔白水晴雄〕
- 一倍(体)(haploid)H
『単相(体)、半数(体)ともいう。(核や細胞などにおいて)染色体が1本ずつで対になっていないことをいう。一倍体の染色体数はnであり、二倍体の2nの半分である。一倍体ゲノムあたりのDNA量はC値とよばれる。一般に一倍体の細胞は減数分裂の産物であるが、一倍体での有糸分裂も見られる。一倍体の細胞は減数分裂することはできない。二倍体の生物は、一般に一倍体の配偶子をつくる。ヒトではn=23。』
一倍体(いちばいたい)K
『染色体が1組だけ、すなわち、1ゲノムだけの個体または細胞。多くの真核生物の体細胞は二倍体で、染色体が2組あり、その配偶子が一倍体である。通常の半数の染色体をもつという意味で、半数体ということもあるが、1組もつのであるから、誤解を避けて、教育用語としては一倍体に統一する。』
- 遺伝形質転換(性)(transgenic)H
『遺伝子導入、形質転換、トランスジェニックともいう。遺伝子操作技術(例、卵へのDNAの顕微注射、プラスミドまたはウイルス由来のDNAベクターの利用)による遺伝子導入によってゲノムが部分的に変化した生物をいい、異なる生物種のDNAが導入されたものをいうことが多い。導入された外来DNAは、宿主のゲノムに組み込まれる。このような動植物は農業上の有用性をもつ可能性がある。この技術は動物の発生の遺伝学的解析で成果を上げている。
- ⇒遺伝子
- 遺伝子型(genotype)J
『ゲノタイプ。
〔1〕生物の遺伝的基礎をなす遺伝子構成を指し、その特性を遺伝的に決定する(W.L.ヨハンセン、1926)。表現型と対置される。環境との共同作用により表現型を決定する。潜在のもの(劣性遺伝子)をも含む。分離によってF2にあらわれる、もしくは期待される遺伝子型の数は、対立遺伝子の数をnとすれば3nで示される。すなわちn=1ならば3、n=2ならば9、戻し交雑の際は2nである。
〔2〕‘種のタイプ’の意味でgenos(種類)とtypos(タイプ)とを組み合わせたもの。アメリカの古生物学者C.Schuchert(1912)の造語。』
遺伝子型(いでんしがた)K
『遺伝形質を支配する遺伝子の組み合わせ。イタリック体で遺伝子記号を表わす。二倍体の生物では、相同染色体上にそれぞれ一つずつの同じ形質を支配する遺伝子が存在する。一般にその遺伝子が優性であれば大文字で、劣性であれば小文字で表わす。遺伝子型を用いれば、交雑実験における子孫への遺伝子の伝わり方や、その表現型が推定できる。表現型の対語。』
- 移動層(moving bed)@
『連続的に塔頂から粒子を供給してゆるやかに降下させ、向流または並流で流体を接触させて、吸着、イオン交換、触媒反応、乾燥などの接触操作を行なう反応装置をいう。滞留時間分布などに関する固定層の特徴を生かしながら、固体の連続操作が可能である。また、反応生成物をクロマトグラフィー的に分離除去して化学平衡を有利な方向に移動できるなどの移動層を用いた操作に特有な利点ももつ。溶鉱炉、石灰炉、固体触媒反応、酵素反応などにおいて多様な装置、操作型式で使用されている。』
- 移流(advection)@
『流れに乗って物理量(密度、濃度、温度など)が運ばれること。水平あるいは鉛直方向の流れによる移流を、水平移流あるいは鉛直移流という。移流の程度は移流項で表現される。移流項は流体力学上の対流項に同じであるが、地球流体力学では、熱対流との混同を避けるために移流項とよぶ。⇒対流。』
- インドール-3-酢酸⇒IAA
- インドール-3-アセトニトリル⇒IAN
【う】
- ⇒ウイルス
- 宇宙線生成核種(cosmic ray produced
niclide、cosmogenic nuclide)A
『宇宙空間での宇宙線による核破砕反応によって生じた核種。F.Paneth et al.(1950)は、隕石中の3He/4Heが大気中のそれに比べて異常に高いことから、3Hあるいは3Heが核破砕反応によって生じたものであることを最初に認めた。主として高エネルギーの陽子(1GeV以上)からなる宇宙線は、高層大気・隕石・月・宇宙塵・人工衛星など宇宙空間に露出する物質との相互作用により核反応を起こし、二次宇宙線と称する低エネルギーの諸種の粒子を派生。なかでもかなり浸透性の高い中性子は、一次宇宙線とともに核破砕反応を主とする核反応にあずかる。半径の十分大きい物体中では表面より50g/cm2ほどで一次・二次宇宙線束の和が最大となり、約100g/cm2ごとに半減する。生成物は標的核より通常質量数の小さな多種の核種からなる。地表の14Cのように熱中性子による(n、p)反応や(n、γ)反応の生成物も多い。隕石の宇宙線照射年代や空間削剥の割合の推定等に利用される。〔本田雅健(行人偏)・松尾禎士〕』
【え】
- ATP(アデノシン三リン酸)(adenosine triphosphate)H
『アデニルヌクレオチド二リン酸。すべての細胞に共通な‘エネルギーの通貨’である。加水分解されることによってエネルギーを供給し、細胞における機械的、浸透圧的あるいは化学的な活動の多くに使われる。末端の2つのリン酸基の加水分解による標準自由エネルギーは、熱力学的に安定な低エネルギーリン酸化合物(糖リン酸など)に比べてより低い負の値を示すが、より高いエネルギーをもつリン酸化合物(クレアチンリン酸、ホスホエノールピルビン酸など)ほど低くはない。しかしこの値は、細胞内のATP、ADPおよび遊離リン酸の濃度に応じて変化し、pHの影響も受ける。高エネルギーリン酸塩(図31参照:略)は適切な酵素の存在下で、低エネルギー化合物に対して末端のリン酸基を与えてそれを失う傾向がある。したがってATPは、中間的なエネルギーレベルを示すことで、細胞中の酵素に触媒されるリン酸基転移反応の共通の中間物質となりうる。ADPおよびAMPとの関係は以下のようにまとめられる。
ATP+H2O⇔AMP+PPi−10
kcal・mol-1
ATP+AMP⇔ADP+ADP
ATP⇔ADP+Pi−7.3 kcal・mol-1
エネルギーの値は、pH 7、25℃、標準温度、標準圧力における標準自由エネルギー変化。
1 kcal=4.184 kJ
細胞は、通常ADPとAMPに比べて10倍程度のATPを含んでいるが、代謝が活発化してATP/(ADP+AMP)の比率が下がると、解糖と好気呼吸が促進される。このようなATP、ADP、AMPがモジュレーターである反応経路では、アロステリック酵素が濃度の変化を検出する。ATPは細胞における化学エネルギーの貯蔵庫ではなく、むしろ化学エネルギーの伝達体あるいは運搬体と考えるほうが適切である。真核生物の細胞では、ATPの大部分はミトコンドリアによって供給される。それ以外の一部のATPは細胞質ゾル中で嫌気的に生産される。また、葉緑体中でも生産されるが、葉緑体の外へは供給されない。ATPは細胞中で何か仕事が行われるときに、加水分解されてエネルギーを伝達する。
ATPアーゼ活性はミオシン(例、筋収縮)やダイニン(例、繊毛や鞭毛の運動)に見られる。膜中のイオンポンプ(例、ナトリウムポンプ、カルシウムポンプ)や巨大分子の合成全般においてもATPアーゼ活性が見られる。結局、生物圏におけるATP生産のエネルギー源は、独立栄養生物の光合成によって捕えられた太陽エネルギーである(一部は無機栄養生物による)。すべての従属栄養生物は、これら独立栄養生物によってもたらされた有機物を呼吸によって酸化することで、自身のATPを合成している。ATPは細胞中の他のヌクレオシド三リン酸(CTP、GTP、TTP、UTP)と同様に核酸合成の材料であり、加水分解によって合成に必要なエネルギーを供給し、AMP単量体をポリヌクレオチド鎖に組み込む。他のヌクレオシド三リン酸もいくつかの別のエネルギー転移反応に利用されていると考えられるが、ATPの広範囲な役割には及ばない。』
ATP(えーてぃーぴー)K
『アデノシン三リン酸の略号。アデノシンにリン酸が3個結合した物質。末端のリン酸が遊離されるとエネルギーが放出され、エネルギーを必要とするほとんどすべての生体反応に用いられる。ATPは生体内のエネルギー通貨とよばれている。1モルのATPの分解につき約7.3kcal(約30kJ)の自由エネルギーが放出される。』
- ATPアーゼ(ATPase)H
『(i)ATPの正リン酸(Pi)部位を切断し、ADPと無機リン酸を生じるか、または(ii)ATPのピロリン酸(PPi)部位を切断し、AMPとピロリン酸を生じるいくつかの酵素群に含まれる酵素の総称。後者の反応は自由エネルギーのより大きな減少を伴っており、酵素反応において‘押し上げ’が必要な場合に利用される。ATPアーゼ活性は、キネシン、ダイニン(両者とも微小管と相互作用)やミオシン(アクチンと相互作用)のような細胞モーター分子や、あるいはミトコンドリアの内膜や葉緑体のチラコイドにおいて見られる(ATP合成酵素と同様)。』
ATPアーゼ(えーてぃーぴーあーぜ)K
『ATPをADPとリン酸に加水分解する酵素の総称。役割としては、このとき生じるエネルギーを利用して、筋肉の収縮、イオンなどの能動輸送(イオンポンプ)などをおこなう。化学反応の面からみれば、このときATPの加水分解しか起こっていないのでこのように命名されている。また、酸化的リン酸化や光リン酸化では酸化還元のエネルギーがATPの化学エネルギーに変換されるが、これはATP加水分解の逆反応である。酵素反応は原則的に可逆反応だと考えられるので、この酵素もATPアーゼとよばれる。』
- ADP(アデノシン二リン酸)(ADP(adenosine
diphosphate))H
『細胞中に広く見られるヌクレオシド二リン酸。エネルギーを生成する異化反応の際にリン酸化されてATPとなり、逆にATPの加水分解によって生成される。』
ADP(えーでぃーぴー)K
『アデノシン二リン酸の略号。アデノシンにリン酸2個が結合した物質。さらにリン酸1個が結合するとATPとなる。エネルギー代謝において重要で、ATPの加水分解によってADPとリン酸が生じ、反応系にエネルギーを与える。逆に、エネルギーの供給を受けて、リン酸と結合してATPと水を生じる。』
- 栄養生殖(栄養繁殖)(vegetative reproduction(vegetative
porpagation))H
『【植】生物体の一部で胞子以外のもの(例、無性芽、根茎、鱗茎、球茎、塊茎)が脱離することによる生殖。発達して、やがて完全な生物体となる。⇒無性、生活環。
【動】⇒無性』
栄養繁殖(えいようはんしょく)K
『栄養器官すなわち茎・葉・根のいずれかから新しい個体を生じること。新しい個体は、通常はもとの個体と同じ遺伝的性質をもつ。栄養生殖ということもあるが、胞子または配偶子による真の生殖ではないので、教育用語としては栄養繁殖を採用する。』
- 栄養胞子(mitospore)H
『有糸分裂の結果形成される胞子。減数胞子と比較せよ。』
- 液胞(vacuole)H
『細胞質内の膜で区切られた部位。植物細胞ではこの膜を液胞膜(トノプラスト)という。未熟な植物細胞には特徴的に多くの小さい液胞があり、細胞の伸長に伴って大きくなり融合して1つの液胞となる。液胞は植物細胞の体積の90%を占めることがあり、細胞質は細胞壁に押しつけられ周辺で薄い膜状になる。その結果、膨圧を生じ、組織の剛性を保つ。液胞の細胞液は、植物の種により、また生理的条件によって、水やほかの物質を含む。塩類と糖は普通に存在する。いくつかの種ではタンパク質が溶解している。イオン(例、Ca2+)は、細胞液に蓄積されて周囲の細胞質中での濃度より過度に高い濃度となり、結晶の形となっていることさえある。オキサロ酸カルシウムの結晶は特によく見られる。細胞液は弱酸性であり、カンキツ類の果実では強い酸性である。液胞はいろいろな代謝産物(例、CAM植物ではリンゴ酸)の貯蔵場所として重要である。液胞はまた、有害な二次産物を除去し、しばしば色素の保持場所となる(例、アントシアニン)。巨大分子の分解にも関与し、その構成要素を細胞へ再びもどす。すべての細胞小器官(リボソーム、ミトコンドリア、色素体)は液胞に入って分解されるらしい。液胞は細菌類とラン藻類には存在しない。』
液胞(えきほう)K
『細胞質のなかで、周囲の原形質から一重の単位膜(液胞膜)で区切られた水溶液(細胞液)を含む袋状構造。一般に電子顕微鏡の観察では、細胞内にみられる袋状構造のうち、大きい球状のものをさすことが多い。成熟した植物細胞では細胞容積の大半を占め、膨圧を生じる。液胞には、細胞の代謝産物などが蓄積されることが多い。トノプラストともよばれるが、厳密にはトノプラストは液胞膜をさすので、教育用語としては液胞を用いることとする。』
- 液胞膜(tonoplast、vacuolar membrane)H
『【植】トノプラストともいう。植物細胞にある液胞を取り巻く膜。液胞内へ特定のイオンを能動輸送し、そこへとどめておく重要な役割がある。』
- EXAFS(エキザフス)I
『X線吸収広域微細構造(extended X-ray absorption fine structure)の略称。図(略)に示したように、物質のX線吸収スペクトルにおいて、吸収端より高エネルギー側の30eVから1000eVあたりにかけて現れる振動構造をいう。この振動構造は、X線によって吸収原子から放出された光電子と、それが周囲の原子によって散乱されてもとに戻ってくる光電子波との干渉効果の結果、吸収原子のX線吸収確率が変動するためであると説明される。EXAFSには物質中における特定の吸収原子の周囲の局所構造に関する情報が含まれており、これを解析することによって、通常のX線回折とは異なり、非晶質・溶存化学種などにおける特定の原子の周囲の構造が選択的に得られる。EXAFSのスペクトルはエネルギーの異なる単色X線を試料に照射し、吸収度を測定することによって得られるが、振動部分の振幅は全体の吸収の数%以下なので、精度の良い測定が必要となる。EXAFSを測定解析することで、非晶質物質の局所構造、溶液中の金属イオンの配位数および配位原子との距離、あるいは酵素内の金属原子周囲の局所構造、担持金属触媒の構造や吸着現象などが明らかにされている。通過X線以外に蛍光X線を測定してEXAFSを得る方法は、透過法での測定が困難な低濃度の試料に適用され、EXAFSの応用範囲を広くしたものと考えられる。また、表面EXAFSとして、オージェ電子などの二次電子を検出する方法や、電子エネルギー損失分光スペクトルから得る方法も開発されている。』
- X線蛍光分析⇒蛍光X線分析
- X線粉末法(X-ray powder method)@
『粉末試料や多結晶試料のX線回折像を用いる物質構造研究法で、各回折線の強度と散乱角から求めた面間隔ととを用いて試料を同定、分析する目的に利用される。回折線に反射指数がつけられるときは格子定数を決定できるが、対称性の低い結晶では困難であって、対称性が高い結晶でも少し複雑な構造の解析にはむかない。集中法X線カメラやX線回折計を使う場合も含まれる。実際にはデバイ-シェラー法とほとんど同義に用いられる。』
⇒『XRD』のページを参照。
- X線光電子分光法(XPS、X-ray photoelectron
spectroscopy)I
『略称XPS。励起光として単色X線を用いた光電子分光法。励起光には、Al、Mgなどを対陰極とするX線源から発生する特性X線(光子エネルギーはAlKαが1486.6eV、MgKαが1253.6eV)を用いることが多い。励起X線の波長によって、価電子準位だけではなく内殻電子準位からの光電子放出も起こるので、内殻電子のエネルギーを調べうるところに、紫外光電子分光法との大きな相異点がある。したがって、光電子スペクトルの各ピークは容易に帰属でき、それから試料に含まれる元素を同定することができる。また、標準試料との比較など、適当な補正方法を適用すれば、元素の定量分析に応用することも可能である。内殻電子の結合エネルギーは化学結合状態によって多少変化する。この現象を内殻電子準位の化学シフト(chemical
shift)という。たとえばS2O32-イオンの2種のS
原子のように、同一元素の原子がいく種類かの異なる化学結合状態に存在する場合には、化学シフトに基づく内殻電子ピークの分裂が観測される。このほか、スピン多重度によるピークの分裂、多電子過程によるサテライトの出現などによる内殻電子ピークの位置や形状の変化は、元素の化学結合状態の判定に利用される。X線光電子分光法は主に固体試料に用いられているが、気体への応用もあり、また、きわめて限られてはいるが、液体試料での測定の試みもある。固体試料の光電子スペクトルに寄与するのは光電子の脱出深度(非弾性散乱を受けずに電子が固体から飛び出すことができる表面層の厚さ)以下の表面層である。したがって表面分析の有力な手法であり、触媒その他、固体表面の研究に広く用いられている。X線光電子分光法の別名としてESCA(エスカ)という名称が用いられることが多い。』
- エピタクシー(epitaxy)@
『1つの結晶が、他の結晶の表面上にある定まった方位関係をとって成長するとき、その状態をエピタクシーという。ギリシア語のepi(=on)taxis(=orderly
arrangement)からきている。結晶構造と格子面間隔の似た結晶の間におころやすく、通常、下地の結晶面と構造的によく符合する結晶面の層が育てられていく。成長する結晶の原子は、多少の表面拡散をしながら下地結晶の原子配列のつくるポテンシャルの谷をうめてゆき、似たような配列を形成すると考えられる。溶液からの析出、電気めっき、表面酸化や蒸着、ガス中成長などいずれの場合も条件が適当であればおこる。半導体ではハロゲン化物の気相からの結晶成長を行なわせ(気相エピタクシャル成長)、比抵抗の小さい基板の上に高抵抗の結晶膜をつくって、ダイオードやpn接合トランジスターをつくる工程の1つとしている。』
エピタキシー(epitaxy、oriented overgrowth)A
『A結晶の結晶面や稜上に、B結晶の微細結晶が一定の結晶学的方位関係をもって析出・成長する現象をいう。エピタキシャル成長とも。白鉄鉱上の黄鉄鉱、赤鉄鉱上のルチルなど天然の鉱物にも例が多いが、電子材料工学の分野でも注目されている。A結晶上にAの微細結晶が成長する場合auto-epitaxyと呼ぶ。一般にA、B結晶間には結晶化学的・構造的類縁性があり、A、B間の構造周期のずれをミスフィット(misfit)と呼び、最大17%のミスフィットまでの結晶間にエピタキシーがみられている。エピタキシーが起こるためには臨界温度が存在し、高温ほど容易に起こる。また、基体結晶の表面状態もエピタキシーの難易に影響する。〔砂川一郎〕』
- 塩基の動態(土壌中の)(behaviour of bases
in soils)B
『プロトン(H+)を受けとることができる分子またはイオンを塩基という。OH-、CH3COO-、NH3などが塩基であるが、Ca、Mg、K、Na各陽イオンは土壌中で炭酸塩のような化合物と関連して存在しているので、普通土壌の塩基といえば上記の4元素をさす。土壌中のこれらの動態は吸着⇔土壌溶液⇔沈殿・結晶の動的平衡関係に基本がある。蒸発が降雨をはるかに上回る乾燥地帯で排水不良のところは、風化産物のうち溶解度の高いNaやCaの塩化物が集積し、塩基飽和状態の塩類土壌(saline
soils)になる。雨量と排水の程度によっては易溶性の塩が溶脱し難溶性の炭酸塩を主体にする石灰質土壌(calcareous
soils)になる。溶脱が激しい場合には塩基類は流失し、土壌溶液のKその他の塩基濃度は一次鉱物や二次鉱物の溶解平衡によって決定されるような希薄なものになり、塩基の少ない酸性土壌になる。
塩基溶脱による酸性土壌は日本に多く、酸性矯正のための炭酸カルシウム施与(liming)と作物養分の補給である施肥が、耕地における塩基動態の主軸になる。しかしそれは添加塩の土壌水分による単なる溶解ではない。たとえば強酸の塩である硫安を土壌に加えると塩は解離してNH4+とSO42-になる。NH4+は陽イオン交換によって粘土に保持される。交換の主体がCa2+のときは、SO42-と化合して石こうが生成され、土壌溶液のCa2+、SO42-濃度は石こうの溶解度に支配されることがある。また好気的な畑ではNH4+の多くは硝酸化成(nitrification)によって次第にNO3-に変化する。このNO3-の増加に伴い生じたH+によって、粘土や腐植に吸着されていたCa2+、Mg2+、K+などが土壌溶液のNO3-濃度と当量的に交換溶出して濃度が上昇し(図1:略)、土壌溶液は陽イオンと陰イオンが1:1になり電気的中性を維持することになる。陽イオン交換が一定の平衡関係で行われていると、Kの活動度比ARK(activity
ratio)が変化しない。ARKは一種の化学ポテンシャルの表示法であるが、液のK+/(Ca2++Mg2+)1/2の比を各イオンの活量の負の対数[pK−(1/2)p(Ca+Mg)]で示したものである。ARKは図1(略)のように一定であるので、K+、Ca2+、Mg2+は相互に規制しあって平衡を維持しながら変動しているといえよう。ただし、平衡の維持は各成分が平衡に十分な量存在しているときに限られる。
塩基の下降移動・溶脱も陽イオン交換と溶液の電気的中性を維持しながら行われている。灌水量を変えて、表面に施与したCa、Mg、K塩化物の下層への移動をみると(図2:略)、NO3-と同じく粘土と親和力の小さい溶存Cl-が浸透水の下降にしたがってピーク濃度の低下と分布幅を広くしながら下層に移動している。このCl-の流れにしたがってCa2+やMg2+も陽イオンの交換を伴いながら、Cl-と当量的に溶脱してゆく。この例ではK+が特異的に上層に取り込まれ、下層に移動・集積したCa2+、Mg2+と対照的な行動を示した。したがってARKは下層で大きくなる。すなわち下降過程で新しいイオン交換平衡に組みかわっている。粘土の性質、塩の種類(硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩など)によって、塩基の移動は多様な動態を示すが、図2(略)の場合のK+の行動は、土壌による陽イオンの選択係数の違いと、灌水による急激な濃度低下によって電気二重層が広がり、近接した二重層が重なり合ってK+の溶出をおさえる‘ふるいわけ効果’(sieving
effect)によるものと思われる。』
- 塩基飽和度(degree of base saturation)B
『土壌あるいは粘土物質の交換基に吸着されている塩基の割合。通常pH7の1N 酢酸アンモニウムによって交換溶出してくるCa2+、Mg2+、K+、Na+の総量(各イオン量を検体乾物重100gあたりのミリ当量(meq)で示す)がCECに占める割合を百分率で示したもの。雨量の多い環境で塩基が溶脱されると、その塩基イオンのかわりにH+やAl3+が交換基に保持され、塩基飽和度の小さい酸性土壌になる。したがって塩基飽和度は土壌酸性の度合を知る上で重要な事項である。しかし図(略)のように塩基飽和度とpHの関係は一定でなく、同じ飽和度でも粘土によって異なる。たとえばカオリナイトがもっている塩基を吸着する陰荷電は、主として結晶表面に露出したSi≡OH→Si≡O-+H+によるもので、pHの上昇によって増加するpH依存荷電である。pH依存荷電は弱酸的性質のものが多いため、塩基飽和度が小さくてもH+の解離が少なく、平衡液のpHは高い。飽和度50%でpH6.2を示す。
一方、モンモリロナイトのように永久陰荷電をもったものは、荷電が強酸的でH+の解離が容易なため、平衡液のH+活量は同じ飽和度のカオリナイトよりも多くなる。そのため飽和度50%でもpHは約4.3にすぎない。塩基飽和度の評価にはもうひとつ別の考慮が必要になる。pH依存荷電をもつ粘土ではpHが低下すれば陽イオン交換容量(陰荷電量)も減少するため、通常のCEC(pH7、1N酢酸アンモニウム法)を基準にして求めた塩基飽和度よりも飽和度は高いことである。このため飽和度は試料とおなじpHの交換抽出液を用いてCECとその飽和度を求めるのが正しい情報になる。
もともとpH7での測定には、H+とOH-の活量が等しい状態にあり、また炭酸カルシウム中和時の最高pHに近いという考えがあった。しかしその理由ならば、炭酸カルシウム飽和の土壌溶液は炭酸ガス分圧を考慮するとpH8.2になるので、pH8.2の交換抽出液を用いるのがよいという意見もある。飽和度の表示には測定法の記載が望ましい。なおモンモリロナイトのような永久陰荷電粘土に富む土壌は、pHによるCECの変化が少ないので上記の考慮は必要ない。永久陰荷電粘土主体の土壌の場合で飽和度が小さいときは、交換性Al3+が多く、このAl3+の加水分解によるH+の放出が酸性の源になる傾向がある。炭酸カルシウムによる酸性矯正は、このAl3+を沈殿させてH+の放出能を失わせることになる。逆にpH依存陰荷電をもつ土壌の酸性矯正には、炭酸カルシウムによるpHの上昇によって生じた陰荷電をCa2+が中和するという自転車操業的な側面がある。〔岡島秀夫〕』
【お】
- 黄土(おうど)(loess)A
『更新性の風成細粒堆積物。ヨーロッパではレス。中国北部、ヨーロッパ、北米、ニュージーランドなど広く世界的に分布し、その供給源は地域によって異なる。ヨーロッパや北米の黄土は大陸氷河周辺地域に分布し氷河成堆積物起原。中国の黄土は北西部の乾燥した砂漠地帯が給源。淡黄色または灰色がかった黄色を示し、均質で微砂まじりのシルトが主体、多孔質・無層理で垂直のクラックが発達、炭酸塩に富む結核をつくる。鉱物組成は石英が50〜70%を占め、少量の粘土鉱物、長石・雲母・角閃石・輝石などを伴う。黄河中流地域では下位から午城黄土(Wucheng
loess、更新世前期)、離石黄土(Lishi loess、更新世中期)、馬蘭黄土(Malan loess、更新世後期)に区分。層厚100m以上。数十枚の古土壌層を挟み、黄土-古土壌層序と呼ばれる。黄土層に大文字Lを、古土壌層にSをつけ、上位から順に、L1、L2、…、S1、S2、…のように呼ぶ。古土壌層は温暖・湿潤な気候下で形成。〔肖 挙楽〕』
黄土(Huang-tu)B
『中国、特に北東部に広く分布する更新世〜現世のレス。一部は西域の砂漠、一部は第四紀の氷河堆積物に起源があるといわれる細粒の風成堆積物。下位の老黄土と上位の新黄土に分けられ、さらにそれぞれが二分されている。前者には2〜6、後者には2層の土壌をはさみ全層厚は50m、ときに120mに達する。粒径は場所により異なるが、黄河中流域で0.05〜0.1mmが平均である。化学組成はSiO2=50〜60%、Al2O3=10〜11%、Fe2O3=5〜6%であるがCaO=5〜10%と高く、しばしば方解石ノジュールを含む。老黄土は紅〜褐色が強く、新黄土は黄色を呈するが、黄河の名称は黄土の懸濁により黄濁することに由来する。また、黄土が侵食され風により運ばれる様は‘黄塵万丈’と表現され、春先にはしばしばわが国に達し、数日間霞がかかったような状態になる。〔歌田 実〕』
- オーキシン(auxin)H
『細胞が活発に分裂や成長しているさまざまな部分(例、茎の成長点、若葉)でつくられる成長物質の一群で、植物の成長のさまざまな局面を制御している。細胞壁の可塑性を増大させて成長を促進する。細胞壁の柔軟性が増すと、細胞は膨圧によって成長する。細胞の膨張により膨圧が減少すると、細胞はさらに水を吸収し、細胞壁が十分な抵抗となるまで成長し続ける。細胞膜の柔軟性の増加は、細胞の代謝が変化し、形質膜を通してH+イオンを細胞の外にくみ出すことによって起こる。この結果生じる細胞壁の酸性化が、細胞壁の伸長を制限している結合の加水分解を誘導し、細胞の膨圧によって細胞の伸長が起こる。これは酸成長仮説とよばれる。しかし、この仮説では、引き続いて植物に起こるオーキシン処理の作用は説明できない。オーキシンには、細胞の伸長に対して2つの異なる作用があると考えられる。一つは酸成長による速く短期に起こる作用であり、もう一つの引き続いて起きる作用は遺伝子発現の調節によるものである。オーキシンは少なくとも10個の特異的な遺伝子発現を誘導する。それらはすべて成長に影響を与えると考えられ、おそらくオーキシンは転写の段階で作用するのであろう。植物におけるオーキシンの遺伝子発現に及ぼす作用は、いくつかの動物のホルモンに見られるものと同様である。オーキシンは約1cm/hで求基的に茎葉を移動し、葉の成長でジベレリンと、また頂芽による葉の成長抑制(頂芽優性)でサイトカイニンと相乗作用する。オーキシンの細胞成長に対する作用は、屈地性、屈光性といった屈曲反応にも関係する。オーキシンはまた、サイトカイニンと関連した形成層の活性化の開始(およびスクロースと関連した維管束組織の分化)や不定根の形成における、細胞分裂促進効果をもつ。オーキシンとジベレリンの相互作用によって、二次師部、二次木部の形成速度が決定される。オーキシンは花芽形成、性決定、果実の成長(花粉管によるオーキシンまたはその合成促進因子の生産を介した作用)、落葉と果実の脱離の遅延にも関係する。
天然に存在するオーキシンとして、インドール-3-酢酸(IAA)とインドール-3-アセトニトリル(IAN)がある。IAAはトウモロコシ、内乳、菌類、細菌、ヒトの唾液、そして最も豊富に含まれるヒトの尿といったさまざまな材料から単離されている。天然に存在するオーキシンに加えて、植物成長制御活性をもつ物質(合成オーキシン)が開発されている。そのうちのいくつかは、非常に大きな規模で、農業および園芸上重要な植物の成長制御の目的に利用されている。例えば、ジャガイモの発芽を抑える、果樹園において果実の落下を防ぐ、パイナップルの開花をそろえる(つまり結実をそろえる)、単為結実果実の生産(例えばトマトのように低い受粉率の危険を避けるために)などがある。オーキシンは、濃度を上げると(それでも比較的低濃度で)成長を阻害し、ときには植物を枯死させる。いくつかの合成オーキシンは植物によって異なる毒性を示す。2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)が、双子葉類には毒性を示すが単子葉類には毒性を示さないことは、おそらく最もよく知られた例であり、穀物の生産や芝生において雑草を抑えるのに利用されている。もう一つの合成オーキシンであるナフタレン酢酸は、挿し木における不定根形成の誘導や、商業農作物の果実落下防止に広く利用されている。』
オーキシンK
『オートムギ幼葉しょう(鞘)の屈曲を調整する物質として、その先端部に見出され、その成長促進作用から成長増加(aux)物質(in)オーキシンと命名された。のちにその本体がインドール酢酸(IAA)と同定された。同様な生理作用を示す物質の総称名であるが、一般にはオーキシンといえばインドール酢酸をさすことが多い。』
- オゾン(ozone)H
『地上20〜40kmの成層圏に層状に存在する気体。成層圏の上方で、短波長の紫外線によって、酸素分子(O2)が2つの酸素原子に分解されたときに生じる。これらの反応性に富む酸素原子は、酸素分子と結合し、オゾン分子(O3)となる。オゾンは長波長の紫外線を吸収し、地球上の生命を紫外線照射の被害から保護している。大気圏のより低層(対流圏)では、窒素酸化物(NOx)や炭化水素、過酸化水素の増加に伴い、一般にオゾンの量も増えつつある。オゾンはこのような物質から光化学反応により合成され、強い光や高温がそれを促進する。オゾンは赤外線照射を吸収することから、温室効果ガスである。オゾン濃度が通常の2.5倍を超えると、ヨーロッパの草本植物に対して、オゾンによる被害が起こる。スクロースの分布が根からシュートに移り、乾燥に関連したストレスが増加する。また、オゾンがエチレンと反応し、有害なフリーラジカルを形成する可能性がある。』
- ⇒オゾン層
- オパール(opal)A
『SiO2・nH2O 非晶質またはそれに近い含水珪酸鉱物。蛋白石とも硬度6、比重2。無色、白、不純物のため黄・褐・赤・緑・青に着色。粉末、塊状。示差熱分析曲線の吸熱ピーク100〜200℃(脱水)。光学的に等方体とは限らない。屈折率n1.459(水分3.5%のもの。水分の含有量により多少異なる)。非晶質または結晶度の悪いトリディマイトやクリストバライト構造からなるものも多い。まったくの非晶質のものをopal-Aという。クリストバライト構造がトリディマイト構造より卓越するものをopal-CTと呼んでいる。しかし、トリディマイト構造のほうが多いものも少なくない。直径200nm程度の球体が最密充填で積み重なり、球と球とのすきまで反射干渉して遊色(虹色)が生まれる。TEM、SEM観察では、針状や板状の形態をなすものもある。偏光顕微鏡下では柱状や水の流れに似た構造が観察される。熱水からの沈殿物で熱水変質した火山岩を交代したり、その空隙を満たす。金属鉱脈の脈石などとして産する。遊色の美しいものは宝石となる。メキシコ・オパールは火山岩の脈中に熱水から沈殿したもので、透明感のある赤色(fire
opal)が多い。オーストラリア・オパールは堆積岩中で地下水から沈殿したもので、緑や紫色のオパール(black opal)が高価なものとされている。19世紀から知られているオパールはハンガリー(現、スロバキア)に産したもので、火山起原である。合成オパールは、有機珪酸を加水分解してできる球状の非結晶の球体を沈殿・固結してつくられる。〔秋月瑞彦〕』
オパール(たん白石)(opal)B
『普通乳白色で、形態的に無定形な珪酸鉱物。化学組成上SiO2に多少のH2Oを含んでおり、H2Oの量は普通4〜9%であるが、多いときは20%をこえる。結晶構造により、@X線回折で幅広い散乱しか示さない非晶質のオパールAと、AX線で4.04〜4.10Åに最強反射を示す不整な構造のクリストバライトから成るオパールCT(クリストバライトは、その立方単位胞における〔111〕方向への原子配列が立方最密充填型のABCABCという3層周期の積重なりになっているが、オパールCTではその中に不規則にABABという六方最密充填型のトリジマイトの積重なりをはさんでいる)と、Bシャープな反射を示すクリストバライト(わずかにトリジマイト層をはさむが)から成るオパールCの3つに分けられる。
熱水作用により岩石中の孔隙に皮殻状をなしたり、脈をうめたりして産出する。また、岩石の熱水変質の産物としてできたり、珪質堆積物の構成成分をなして産する。一方、ある種の生物の骨格や殻をつくり、それに由来したものとして堆積物や土壌の中に含まれ、また火山灰土壌中に円板状の粒をなして産する。しばしば遊色を示し、良質のものは宝石として用いられる。〔長沢敬之助〕』
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