アルファベット |
ab initio |
Ab initio |
ab initio(ab initio:元はラテン語なのでイタリックでの表記が正式)は、いわゆる第一原理とほぼ同義の言葉。化学系でよく使われるが、物理学および生物学の分野でも使用される。
“アブイニショ”、“アブイニシォ”のように発音するが、この言葉にぴったりと対応する日本語は存在しない。元々はラテン語で、”最初から”、”初めから”という意味がある。 |
IUPAC(国際純正・応用化学連合) |
International
Union of Pure
and Applied
Chemistry |
国際純正・応用化学連合(IUPAC(アイユーパック):International
Union of Pure and Applied Chemistry)は、1919年に設立された、化学者の国際学術機関である。各国の化学の学会がその会員となっている。国際科学会議のInternational
Scientific Unionsの一つである。
元素名や化合物名についての国際基準(IUPAC命名法)を制定している組織として有名である。
・物理及び生物物理化学
・無機化学
・有機及び生物分子化学
・巨大分子
・分析化学
・化学及び環境
・化学及び健康
・化学命名法及び化学構造表現
の8つの部会があり、理事会と評議会によって運営されている。 |
IUPAC命名法 |
Chemical
nomenclature |
IUPAC命名法(アイユーパックめいめいほう)は、IUPACが定める、化合物の体系名の命名法の全体を指す言葉。IUPAC命名法は、化学界における国際的な標準としての地位を確立している。
有機・無機化合物の命名法についての勧告は2冊の出版物としてまとめられ、英語ではそれぞれ「ブルー・ブック」「レッド・ブック」の愛称を持つ。
広義には、その他各種の定義集の一部として含まれる化合物の命名法を含む。IUPAPとの共同編集で、記号および物理量を扱った「グリーン・ブック」、その他化学における多数の専門用語を扱った「ゴールド・ブック」のほか、生化学(ホワイト・ブック;IUBMBとの共同編集)、分析化学(オレンジ・ブック)、高分子化学(パープル・ブック)、臨床化学(シルバー・ブック)があり、各分野の用語法の拠り所となっている。
これらの「カラー・ブック」について、IUPACはPure and Applied Chemistry 誌上で、特定の状況に対応するための補足勧告を継続的に発表している。 |
あ |
圧力 |
Pressure |
単位面積当たりにかかる力である。国際単位系(SI)における圧力の単位は、パスカル(Pa)である。
P = F / S、すなわち 1 Pa = 1 N / m2
である。 |
アボガドロ定数 |
Avogadro
constant |
物質量
1 mol
とそれを構成する粒子(分子、原子、イオンなど)の個数との対応を示す比例定数で、単位は
mol-1である。イタリア出身の化学者、アメデオ・アヴォガドロにちなんで名付けられており、記号
NA で表す。以前はアボガドロ数(Avogadro's
number)と呼ばれたが、1969年のIUPAC総会でアボガドロ定数に名称が変更された。
なお、これと関連する概念に、0℃、1気圧の気体 1cm3 に含まれる分子の数、ロシュミット数
がある。 |
アボガドロの法則 |
Avogadro's
law |
同一圧力、同一温度、同一体積のすべての種類の気体には同じ数の分子が含まれるという法則である。
1811年にアメデオ・アボガドロがゲイ=リュサックの気体反応の法則とジョン・ドルトンの原子説の矛盾を説明するために仮説として提案した。
少し遅れて1813年にアンドレ=マリ・アンペールも独立に同様の仮説を提案したことから、アボガドロ-アンペールの法則ともいう。
また特に分子という概念を提案した点に着目して分子説とも呼ぶ。
元素、原子、分子の3つの概念を区別し、またそれらに対応する化学当量、原子量、分子量の違いを区別する上で鍵となる仮説である。
アボガドロの仮説は提案後半世紀近くの間、一部の化学者以外にはほとんど忘れ去られていた。 そのため、化学当量と原子量、分子量の区別があいまいになり、化学者によって用いる原子量の値が異なるという事態に陥っていた。
1860年のカールスルーエ国際会議においてスタニズラオ・カニッツァーロによりアボガドロの仮説についての解説が行なわれ、これを聞いた多くの化学者が仮説を受け入れ原子量についての混乱は徐々に解消されていった。
その後、問題になったのはアボガドロの提案した分子という存在が実在するかどうかであった。 分子の実在を主張する側からは気体分子運動論が提案され、気体の状態方程式などが説明されるに至った。
しかし一方で実証主義の立場から未だ観測できていない分子はあくまで理論の説明に都合の良い仮説と主張する物理学者、化学者も多かった。
この問題は最終的には1905年のアルバート・アインシュタインによるブラウン運動の理論の提案とジャン・ペランによるその理論の実証により間接的に分子の実在が証明されることによって解決した。
現在では分子の実在が確認されたことから、アボガドロの仮説はアボガドロの法則と呼ばれており、分子量と同じグラム数の気体が含む分子の数を表す物理定数を彼の名を冠してアボガドロ定数と呼んでいる。 |
アルカリ |
Alkali |
一般に、水に溶解して塩基性(水素イオン指数
(pH) が7より大きい)を示し、酸と中和する物質の総称。
典型的なものにはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物(塩)があり、これらに限定してアルカリと呼ぶことが多い。これらは水に溶解すると水酸化物イオンを生じ、アレニウスの定義による酸と塩基の「塩基」に相当する。一方でアルカリをより広い「塩基」の意味で用いることもある。 |
アルカン |
Alkane |
アルカン(ドイツ語: Alkan、英語:
alkane)とは、一般式 CnH2n+2 で表される鎖式飽和炭化水素である。メタン系炭化水素、パラフィン系炭化水素や脂肪族化合物とも呼ばれる。炭素数が大きいものはパラフィンとも呼ばれる。アルカンが置換基となった場合、一価の置換基をアルキル基、二価の置換基をアルキレン基と呼ぶ。環状の飽和炭化水素はシクロアルカンと呼ばれる。
IUPACの定義によれば、正式には、環状のもの(シクロアルカン)はアルカンに含まれない。しかし両者の性質がよく似ていることや言葉の逐語訳から、シクロアルカンを「環状アルカン」と称し、本来の意味でのアルカンを「非環状アルカン」と呼ぶことがある。結果的に、あたかも飽和炭化水素全体の別称であるかのように「アルカン」の語が用いられることもあるが、不適切である。
主に石油に含まれ、分留によって取り出される。個別の物理的性質などについてはデータページを参照。生物由来の脂肪油に対して、石油由来のアルカン類を鉱油〈Mineral
oil〉と呼ぶ。 |
アルキン |
Alkyne |
アルキン(ドイツ語: Alkin、英語:
alkyne)は、分子内に炭素間三重結合を1個だけ持ち、一般式が
CnH2n−2 で表される鎖式炭化水素の総称である。アセチレン系炭化水素とも呼ばれる。広義には分子内に非環式および環式の
C−C 三重結合を持つ化合物全般を指し、この場合「アセチレン」の語を一般名称として用いる。 |
アルケン |
Alkene |
アルケン(ドイツ語: Alken、英語:
alkene)は化学式 CnH2n (n≧2)
で表される有機化合物で、C-C間の二重結合を1つ持つ。すなわち、不飽和炭化水素の一種。エチレン系炭化水素、オレフィン (olefin)、オレフィン系炭化水素とも呼ばれる。C-C二重結合を構成している2つの炭素を二重結合の炭素と呼ぶ。C-C二重結合はπ結合1つとσ結合1つから成り立っており、このうちπ結合の結合エネルギーはC-H結合のものよりも小さく、付加反応が起こりやすい。例えばエテン(エチレン)と塩素の混合物に熱を与えると
1,2-ジクロロエタンが生成する。 |
イオン結合 |
Ionic
bonding |
イオン結合(ionic bond)は正電荷を持つ陽イオン(カチオン)と負電荷を持つ陰イオン(アニオン)の間の静電引力による化学結合である。この結合によってイオン結晶が形成される。共有結合と対比され、結合性軌道が電気陰性度の高い方の原子に局在化した極限であると解釈することもできる。
イオン結合は金属元素(主に陽イオン)と非金属元素(主に陰イオン)との間で形成されることが多いが、塩化アンモニウムなど、非金属の多原子イオン(ここではアンモニウムイオン)が陽イオンとなる場合もある。イオン結合によってできた物質は組成式で表される。 |
塩
|
Salt |
化学において塩(えん、Salt)とは、広義には酸由来の陰イオン(アニオン)と塩基由来の陽イオン(カチオン)とがイオン結合した化合物のことであり、狭義にはアレニウス酸とアレニウス塩基との等当量混合物のことである。酸・塩基成分の由来により、無機塩、有機塩とも呼ばれる。塩は必ずしも中和反応によって生じるとは限らない。 |
塩基 |
Base |
化学において、酸と対になってはたらく物質のこと。一般に、プロトン
(H+)を受け取る、または電子対を与える化学種。歴史の中で、概念の拡大をともないながら定義が考え直されてきたことで、何種類かの塩基の定義が存在する。
塩基としてはたらく性質を塩基性という。酸、塩基の定義は相対的な概念であるため、ある系で塩基である物質が、別の系では酸としてはたらくことも珍しくはない。例えば水は、塩化水素に対しては、プロトンを受け取るブレンステッド塩基として振る舞うが、アンモニアに対しては、プロトンを与えるブレンステッド酸として作用する。塩基性の強い塩基を強塩基(強アルカリ)、弱い塩基を弱塩基(弱アルカリ)と呼ぶ。また、核酸が持つ核酸塩基のことを、単に塩基と呼ぶことがある。
アルカリ
アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属などの水酸化物あるいはアンモニア、アミンなど、水溶液のpHが7より大きく塩基性を示す物質を総称してアルカリと呼ぶ。アラビアの科学者ジャービル・イブン=ハイヤーンが生み出した概念である(「アルカリ」は灰を意味するアラビア語に由来する)。また、アルカリ性の水溶液やアルカリ金属のことを、単にアルカリと呼ぶことがある。アルカリ性の化合物は、基本的に苦味を呈す。 |
エンタルピー |
Enthalpy |
熱力学における示量性状態量のひとつである。熱含量ともいう。
エンタルピーはエネルギーの次元をもち、物質の発熱・吸熱挙動にかかわる状態量である。
等圧条件下にある系が発熱して外部に熱を出すとエンタルピーが下がり、吸熱して外部より熱を受け取るとエンタルピーが上がる。 |
エントロピー |
Entropy |
熱力学および統計力学において定義される示量性状態量である。当初は熱力学において、断熱変化の不可逆性を表す指標として導入され、後に統計力学により、系の微視的な「乱雑さ」を表す物理量という意味付けがなされた。
更に、系から得られる情報に関係があることが指摘され、情報理論にも応用されるようになった。
物理学者の E.T. Jaynesのようにむしろ物理学におけるエントロピーを情報理論の一応用とみなすべきだと主張する者もいる。
一般に記号 S を用いて表され、統計力学におけるボルツマンの公式
S = k log W
がよく知られている。ここで、W は系が定められたエネルギー・体積の下でとりうる状態の数、k はボルツマン定数である。この定義より、エントロピーはボルツマン定数と同じ「エネルギー÷温度」の次元をもち、単位は
J/K である。 |
温度 |
Temperature |
寒暖の度合いを数量で表したもの。具体的には物質を構成する分子運動のエネルギーの統計値。このため温度には下限が存在し、分子運動が止まっている状態が温度0K(絶対零度)である。ただし、分子運動が0となるのは古典的な極限としてであり、実際は、量子力学における不確定性原理から、絶対零度であっても、分子運動は0にならない(止まっていない)。
温度はそれを構成する粒子の運動であるから、化学反応に直結し、それを元にするあらゆる現象における強い影響力を持つ。生物にはそれぞれ至適温度があり、ごく狭い範囲の温度の元でしか生存できない。なお、日常では単に温度といった場合、往々にして気温のことを指す。 |
か |
界面(⇔バルク) |
Interface |
ある均一な液体や固体の相が他の均一な相と接している境界のことである。この「他の均一な相」が気体もしくは真空であるとき、界面を特に表面(surface)とよぶ(例外もある)。ただし、お互いが完全に混ざり合うことはしない(混ざり合うと界面でなくなる。ただし、界面付近数原子層程度で互いの原子からなる化合物を形成する場合はある)。界面は気相と液相、液相と液相、液相と固相、固相と固相の二相間で形成される。界面を構成する分子・原子は、界面を挟んでいる相から連続的に続いているにもかかわらず、相内部とは性質が異なり、膜のようなはたらきをする。たとえば界面では光線が反射や屈折、散乱、吸収を起こし、界面間には界面張力がはたらく。
エレクトロニクス産業の要請によって固体材料の薄膜やナノテクノロジーを研究する科学分野が重要性を帯びており、特に固体同士の界面は固相界面と呼ばれて界面研究の重要分野となっている。単に界面といえば固相界面を指す場合が多い。
学問上は界面化学および表面物理学で取り扱われる。 |
界面化学 |
Interface
and
colloid
science |
二つの物質が接する境界に生じる現象を扱う化学の一分野。研究領域がコロイド化学と近いため、学会や雑誌などでは両者を合わせて扱われる。
物質の状態により界面化学が扱う現象には以下のような例がある。
1. 固体/固体界面;接着、摩擦、固溶など。
2. 液体/液体界面;乳化、拡散など。
3. 気体/気体界面;界面での拡散が速いため界面現象として扱われることはまれである。
4. 固体/液体界面;浸透、ぬれ、分散、電気二重層、吸着、腐食など。
5. 固体/気体界面;吸着など。表面化学として独立の学問分野を形成している。
6. 液体/気体界面;表面張力、起泡、消泡など。
数ナノメートルから数マイクロメートルの粒子(コロイド)の現象を扱う化学分野は、その界面現象も重要な要素であることから、コロイド界面化学と呼ばれる。
1932年にノーベル化学賞を受賞したアーヴィング・ラングミュアはこの分野の開拓者の一人であり、アメリカ化学会が発行している界面化学の雑誌には彼の名がついている。
界面化学が扱う最も重要な物質として、乳化、分散、表面張力などに大きな影響を与える界面活性剤がある。また、化学工業で行われる触媒反応の多くは、「固体触媒−反応物(液体あるいは気体)」の不均一系で行われる界面反応であり、この観点からも界面化学は極めて重要な研究課題となっている。 |
解離 |
Dissociation |
解離は、錯体や分子および塩などが分離または分裂し、より小さい分子や、イオンもしくはラジカルを生じる一般的な過程である。なお、解離反応は多くの場合において可逆反応である。
共有結合が切断される場合は同意語として 開裂とも呼ぶ。また、塩がイオンに分かれる解離のことを電離とも呼ぶ。
解離の反意語(逆反応)は結合や再結合。小分子への分離の場合には、会合も反意語となる。 |
化学結合 |
Chemical
bond |
分子や結晶中で原子の間を結び付けている力である。多くの簡単な化合物では価電子理論と酸化数の考え方で分子の構造と構成を説明できる。同様に、古典物理学(電磁気学)の理論で多くのイオン性構造が説明できる。分子同士の相互作用は化学結合ではなく、分子間力と呼ばれる。
複雑な化合物、例えば金属複合体では価電子理論は破綻し、その振る舞いの多くは量子力学を基本とした理解が必要となる。これに関してはライナス・ポーリング(Linus Pauling)の著書、The Nature of
the Chemical Bondで詳しく述べられている。 |
化学式 |
Chemical
formula |
化学物質を元素の構成で表現する表記法である。分子からなる物質を表す化学式を分子式(molecular formula)、イオン物質を表す化学式をイオン式(ionic formula)と呼ぶことがある。化学式と呼ぶべき場面においても、分子式と言い回される場合は多い。
化学式が利用される場面としては、物質の属性情報としてそれに関連付けて利用される場合と、化学反応式の一部として物質を表すために利用される場合とがある。
化学式は大きく分けて物質の元素組成を示す組成式と、分子構造を表示する構造式とに分類される。前者はもっぱら化学量論に基づく化学方程式の中などで使われて量的関係を示すことが多く、後者は分子構造を図示したり、反応機構を説明する化学反応式などで反応に特有な構造やそれに関連した性質を示す場合に利用することが多い。
組成式と構造式とは必ずしも合致しない。たとえばリン酸の無水物である五酸化二リンは、組成式的には
P2O5 であるが、構造式からは分子の最小単位がP4O10であることがわかる。
特に有機化合物は異性体が多いために、構造式や示性式で物質を識別する機会が多く、無機化合物では組成式で十分物質の識別が可能であることが多い。
以下に主な化学式の種類を示す。
・組成式
・分子式
・示性式
・構造式
・電子式 |
化学当量 |
Equivalent
(molar
equivalent) |
化学反応における量的な比例関係を表す概念である。化学当量以外にも当量は存在するが、化学の領域において単に当量といえば化学当量を表す。代表的なものとして質量の比を表すグラム当量と物質量の比を表すモル当量とがある。当量を表す単位としては、Eqを用いる。
グラム当量
元素の当量を示す場合、原子量を原子価で除した値のグラム数をグラム当量と呼ぶ。すなわち、相手の原子価1モル相当と結合する原子の質量がグラム当量となる。
グラム当量は倍数比例の法則など化学量論が確立する過程において、酸素と結合する元素の重量で化学反応の量的関係を定義した時代に定義された量である。したがって、もともとのグラム当量の定義は「酸素7.999
gと結合する元素のグラム重量」が各元素のグラム当量である。酸素と反応しない元素に関しては、酸素と反応する第3の元素のグラム当量を介して定義された。
今日においては、元素間の当量関係が取り上げられる古典的な化学論を学習する機会くらいなので、グラム当量を使用することは稀である。言い換えると、今日では物質の量的関係を示す場合は、物質量(いわゆる「モル数」)を使用することが通例であり、重量を使う場面は極めて少ない。
酸・塩基については、(分子量または式量)/価数、すなわち1 molの水素イオンを授受する酸・塩基のグラム数を1グラム当量とし、酸化剤・還元剤については、(分子量または式量)/授受する電子の数、すなわち1
molの電子を授受する酸化剤・還元剤のグラム数を1グラム当量とする。
例えば、2価の酸である硫酸の分子量を98とすると、硫酸の1グラム当量は49 gである。98 gの硫酸は2グラム当量となる。初歩の学習者には質量を表す「グラム当量」と、酸・塩基が授受する水素イオンの物質量、酸化剤・還元剤が授受する電子の物質量に相当する「グラム当量数」との混同が見受けられるので注意されたい。
モル当量
化学反応において、反応物のあいだの量的関係を示す場合にモル当量が用いられる。例えば、炭素と酸素から一酸化炭素が生成する場合は炭素1モルに対して、酸素分子1/2モルが消費される。この量的関係を「炭素は1/2当量の酸素分子と反応して一酸化炭素を生成する」と言い表すが、この場合の当量は質量比ではなく物質量比について量的関係を言い表している。 |
化学反応(本サイトの『化学反応速度とは』参照) |
Chemical
reaction |
原子間の結合の生成、あるいは切断によって異なる物質を生成する変化のことである。
化学変化(chemical change)と同義である。 一般に化学の領域、分野で扱われる。
化学反応は、一個の分子内で起こる場合もあれば、同種あるいは異種の分子間で起こる場合もある。
反応する物質を反応物あるいは基質(substrate)、反応によって生ずる物質を生成物(product)と呼ぶ。
化学反応に伴う反応熱は、核反応に伴う反応熱よりも一般には低い。だが三態間の状態変化のような物理変化に伴う熱よりは高い。
外部からの刺激により(熱や電気など)、化学変化は起きる。 |
化学物質 |
Chemical
substance |
化学物質という言葉は、分野や文脈に応じて以下のような様々な意味で用いられている言葉である。
・原子、分子および分子の集合体や高分子重合体のような、独立かつ純粋な物質。混合物や不純物が多いものは除外される。特に化学が研究対象とするような物質。
・元素または化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物(化審法における定義)。
・人工的、あるいは工業的に合成した物質。天然物に対する概念として用いられる。なお広辞苑は、この意味の存在に言及した上で「元々このような意味はない」と指摘している。ただしこれは主として、英語におけるsubstanceという語が日本語でいう「物質」だけを指す語ではないために、意味を特定する目的で用いられ始めたのがchemical
substanceであるという主張に基づいていると考えられ、chemical substanceに直接対応した「物質」という語を持つ日本語に直訳された時点でそのような意味合いは失われていると言える。よって、訳語として用いられて後に類推や語感によって日本語の「化学物質」という言葉に付与されてきた意味というのが、「原義と異なる」ものとして排除されるべきかどうかには議論がある。
アメリカ化学会が発行している
Chemical
Abstracts 誌で使用される化合物番号(CAS登録番号)が付与された物質の数は約3000万種であり、うち工業的に生産されているもの(すなわち上記3に該当する物質)は約10万種、世界で年間1000トン以上生産されるものは5000種程度とされる。
欧州連合(EU)では新たにREACH
(Registration, Evaluation, Authorisation
and Restriction of Chemicals) を定め評価実施を行っている。 |
化学ポテンシャル |
Chemical
potential
(partial
molar
free
energy) |
熱力学で用いられる示強性状態量のひとつである。
記号 μ(ミュー)で表されることが多い。
化学ポテンシャルは、アメリカの化学者ウィラード・ギブズにより導入された概念である。
化学ポテンシャルは、物質の多寡により系が潜在的に持つエネルギーの大きさの尺度となる量である。
例えば、半透膜で隔てられた二つの系の間に濃度差が有った場合、浸透圧が生じ仕事を為す事が出来る。
また、物質が増減する化学反応では熱の出入り(発熱反応、吸熱反応)を伴う。 このように、物質が存在することにより系は潜在的にエネルギーを持つ。 その系に含まれるある成分の単位物質量あたりのギブスエネルギーがその成分の化学ポテンシャルに相当する。
示強性状態量である化学ポテンシャルと示量性状態量である物質量は互いに共役な関係であり、掛け合わせるとエネルギーの次元となる。 |
化学量論 |
Stoichiometry |
化学反応における量的関係に関する理論である。言い換えると、化学反応は反応系内の個々の分子が反応により決まる形式による組み換えであるから、反応に関与した量は比例関係が成立することから化学反応の量的関係を説明する理論である。速度論反応との対概念の(化学)量論反応については化学反応論に詳しい。
stoichiometryの語はギリシャ語の根源要素(element, principle)を意味するstoicheion
と計測(measure)を意味するmetron
とに由来する。 |
化合物 |
Chemical
compound |
化学反応を経て2種類以上の元素の単体に生成することができる物質であり、言い換えると2種類以上の元素が化学結合で結びついた純物質とも言える。例えば、水 (H2O) は水素原子 (H) 2個と酸素原子 (O)
1個からなる化合物である。水が水素や酸素とは全く異なる性質を持っているように、一般的に、化合物の性質は、含まれている元素の単体の性質とは全く別のものである。
同じ化合物であれば、成分元素の質量比はつねに一定であり、これを定比例の法則と言い、混合物と区別される。ただし中には結晶の不完全性から生じる不定比化合物のように各元素の比が自然数にならないが安定した物質もあり、これらも化合物のひとつに含める。
化合物は有機化合物か無機化合物のいずれかに分類されるが、その領域は不明瞭な部分がある。 |
活量 |
Thermodynamic
activity |
理想系と実存系に存在する誤差を修正するためにギルバート・ルイスによって導入された物理量で、普通a、或いはAと表される。活動度と呼ばれる場合もある。 |
カルノーサイクル |
Carnot
cycle |
温度の異なる2つの熱源の間で動作する可逆熱サイクルの一種である。ニコラ・レオナール・サディ・カルノーが熱機関の研究のために思考実験として1820年代に導入したものである。これによって本格的な熱力学が始まり、熱力学第二法則、エントロピー等の重要な概念が導き出されることになった。
カルノーサイクルは実際には実現不可能だが、限りなく近いものを作ることは可能であり、スターリングエンジンはこれに近い。 |
還元 |
Reduction |
対象とする物質が電子を受け取る化学反応のこと。または、原子の形式酸化数が小さくなる化学反応のこと。具体的には、物質から酸素が奪われる反応、あるいは、物質が水素と化合する反応等が相当する。
目的化学物質を還元する為に使用する試薬、原料を還元剤と呼ぶ。一般的に還元剤と呼ばれる物質はあるが、反応における還元と酸化との役割は物質間で相対的である為、実際に還元剤として働くかどうかは、反応させる相手の物質による。
還元反応が工業的に用いられる例としては、製鉄(原料の酸化鉄を還元して鉄にする)などを始めとする金属の製錬が挙げられる。また、有機合成においても、多くの種類の還元反応が工業規模で実施されている。 |
基 |
Functional
group |
基(き、group、radical)は、その指し示すものは原子の集合体であるが、具体的には複数の異なる概念に対応付けられているため、どの概念を指すものかは文脈に依存して判断される。
分子中に任意の境界を設定すると、原子が相互に共有結合で連結された部分構造を定義することができる。これは、基(または原子団、group)と呼ばれ、個々の原子団は「〜基」(「メチル基」など、"- group")と命名される。
さて、問題の「基」という語は、上に述べた原子団を指す場合と、遊離基(またはラジカル、radical)を意味する場合がある。後者の用語法は、日本語でかつて遊離基の個別名称を原子団同様に「〜基」(「メチル基」など)としていたことに由来するが、現在ではほとんどの場合「ラジカル」「遊離基」と呼ぶ。原語における経緯についてはラジカル (化学)の項に詳しい
原子団に言及するときは、観点によって、ただの分子の部分構造の表象以上の文脈的意味を持つ(役割を含意する)複数の下位概念を使い分ける。
・置換基(substitution group)
・特性基(characteristic group)
・官能基(functional group)
このうち二つ以上で指され得る原子団もあり、いずれかにしか該当しない原子団もある。
置換基は化合物の系統あるいは命名を考える際の部分構造であり、母体化合物(母核;親化合物、おやかごうぶつ)と対になって使用される概念である。化合物の系統を単純な構造の化合物から複雑な構造の化合物へと系統づけるため、共通する構造を母体と呼び、相異なる部分を置換基と呼ぶ。母体化合物が単独で存在するときにはひとつの原子(実際には水素)で占められている箇所を、置換基が置き換えたと考えるのである。特定の種類の母体化合物を各種の置換基で置換してできる一連の化合物群を、その母体化合物の誘導体という。
特性基は、化合物を形式的に特徴づけるものとしての原子団を意味する単純な概念である。単一の特性基または複数の特性基の組み合わせで官能基が構成される。特性基の概念は、IUPAC命名法や化学反応機構を説明する場面で使用される例が多い。IUPAC命名法では、化合物の“端”に位置する、つまり1価の原子団の形で定義され、また炭化水素基は含まない。
官能基は物質の化学的属性(chemical profile)や化学反応性に着目した概念で、官能基というときにはそれぞれに固有の物性や化学反応性が想定されている。言い換えれば、官能基は化合物に特定の化学的な性質を与える役割を果たす。よって置換基と違い、副鎖として炭素骨格と一体化してしまう炭化水素基は含まないことがあるが、定義には揺れがあり、実際には置換基とほとんど同義的に用いられることも多い。また、2価以上の原子団で化合物の“中”に位置する「結合」類も含む。なお、官能基の「官能」とは、もと生物の諸器官の機能を意味する。
ただし、これらの用語の定義は各方面でまちまちであり、上に示したものと異なる定義を採用している(と思われる)文書も散見される。 |
機器分析化学 |
Instrumental
chemistry |
分析機器を用いた内容で、分光学や構造解析学をひっくるめた総称である。
IR(赤外分光法)、NIR(近赤外線分光法)、ラマン分光(ラマン効果を利用した方法)やNMR(核磁気共鳴スペクトル法)、MS(質量分析法)やX線スペクトル法、X線回折法などを取り扱う。
定量分析ではUV,VIS(吸光光度法)、蛍光光度法(蛍光光度計)、AAS(原子吸光法)、ICP発光分析法などを扱い、この他、クロマトグラフィーなどの分離分析法やボルタンメトリーなどの電気分析法も扱う。
その他、DSC等(熱分析装置:分子構造等に応じた、熱エネルギー変化を解析する)や、TOC計による全有機炭素の定量等もある。
また、近年の技術的な進歩に伴い、これらの装置を応用(組み合わせ、複合化)されている装置もある。(例としてはGC-MS等) |
気体定数 |
Gas
constant |
熱力学の定数で、大文字の
R で表される。なお、R の由来については諸説あり明確ではないが、ラテン語の「定数」を意味するRatioに由来する説が有力である。
SI単位に基づく気体定数の科学技術データ委員会(CODATA)推奨値がアメリカ国立標準技術研究所(NIST)により公表されている。
R = 8.314 4621(75) J
K-1
mol-1
(2010年CODATA)
気体定数の測定法としては、低圧の領域で状態方程式から計算する方法もあるが、低圧で音速測定を行い、そこから求めるほうが正確に得られる。 |
規定度 |
Equivalent
concentration
(normality) |
化学において、規定度とは、溶液の濃度を表す単位の一つで、溶液
1L (1dm3 = 1,000cm3) 当たりの試薬の当量数(グラム当量)を表す。当量濃度(equivalent
concentration)、規定濃度とも呼ばれ、容量分析などで用いられる。
溶液の規定度N は、モル濃度ciを等価係数feqで割ることにより定義される。
N =ci/feq
現在ではほぼ使われなくなっており、mol/Lに統一されつつある。計量法では規定度ではなく、モル濃度(mol/dm3)を使用するように定義している。また、工場排水試験方法のJIS規格(JIS
K 0102)では1993年の改正で廃止されている。なお、義務教育における学習指導要領でも扱われない。 |
ギブズの相律 |
Phase
rule |
ギブズの相律(Gibbs' phase rule)は系の自由度を規定する式で、相と成分で次のように規定される。ギブズが発見した式で、単に「相律」ともいう。
F = C -P + 2
F は(示強性変数の)自由度、C は成分の数、P は相の数をいう。
相律の式の中の定数“2”は、温度T と圧力P の二つの示強性の変数から来ている。
なお、相律を相図における幾何学的法則とみれば、三次元におけるオイラーの多面体定理に対応することがわかる。 |
吸収 |
Absorption |
化学における吸収とは、物質がある相 (物質)から別の相に移動する現象、または人為的にそれを利用する方法である。
似た現象に吸着があるが、吸着は物質が2相の界面に集積する現象なのに対し、吸収はバルク中に移動する点が異なる。
吸収も、吸着の場合と同様、ファンデルワールス力などによる物理吸収と、共有結合による化学吸収に分けられ、一般に物理的吸収は可逆的であり、化学的吸収は不可逆的なものが多い。 |
吸着 |
Adsorption |
物体の界面において、濃度が周囲よりも増加する現象のこと。気相/液相、液相/液相、気相/固相、液相/固相の各界面で生じうる。
反対に、吸着していた物質が界面から離れることを脱着または脱離(desorption)と呼ぶ。 |
共有結合 |
Covalent
bond |
共有結合(等極結合、homopolar bond
ともいう)は、原子同士で互いの電子を共有することによって生じる化学結合。結合は非常に強い。分子は共有結合によって形成される(単原子分子は除く)。また、共有結合によって形成される結晶が共有結合結晶である。配位結合も共有結合の一種である。
この結合は非金属元素間で生じる場合が多いが、金属錯体中の配位結合の場合など例外もある。 |
金属結合 |
Metallic
bonding |
金属結合(Metallic bond)とは、金属で見られる化学結合である。金属原子はいくつかの電子を出して陽イオン(金属結晶の格子点に存在する正電荷を持つ金属の原子核)と、自由電子(結晶全体に広がる負電荷をもったもの)となる。規則正しく配列した陽イオンの間を自由電子が自由に動き回り、これらの間に働くクーロン力(静電気力、静電引力)で結び付けられている。一部では共有結合の一種とみなす主張があるが、原子集団である結晶場で結合電子を共有していて、典型的な共有結合は2原子間でしか共有されていないので、計算手法等が著しく異なり混乱を招くので主流ではない。Π結合は分子、あるいはグラフェン内の多くの原子で結合軌道が形成されるので一種の金属結合的性質を持ち、それがグラファイト系物質の導電性の源泉となっている。
金属の場合、最外殻電子など電子の一部は特定の原子核の近傍に留まらず結晶全体に非局在化しており、この様な状態の電子を擬似的な自由電子と呼ぶ。金属の電気伝導性や熱伝導度が高いことは自由電子の存在に起因していると考えられ、それ故、自由電子は伝導電子とも呼ばれる。自由電子の分子軌道はほぼ同一のエネルギー準位のエネルギーバンドを形成し、電子ガスとも呼ばれるような自由電子の状態を形成する。電子は光子と相互作用するので、金属の持つ特性である反射率、金属光沢は自由電子のエネルギーバンドの状況を反映していると考えられている。 |
原子⇒(本サイトの『物理学』参照) |
|
|
元素 |
Chemical
element |
古代から中世においては、万物(物質)の根源をなす不可欠な究極的要素を指しており、現代では、「原子」が《物質を構成する具体的要素》を指すのに対し「元素」は《性質を包括する抽象的概念》を示す用語となった。化学の分野では、化学物質を構成する基礎的な成分(要素)を指す概念を指し、これは特に「化学元素」と呼ばれる。
化学物質を構成する基礎的な要素と「万物の根源をなす究極的要素」としての元素とは異なるが、自然科学における元素に言及している文献では、混同や説明不足も見られる。 |
酵素 |
Enzyme |
生体で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子である。酵素によって触媒される反応を“酵素的”反応という。
酵素は生物が物質を消化する段階から吸収・輸送・代謝・排泄に至るまでのあらゆる過程に関与しており、生体が物質を変化させて利用するのに欠かせない。したがって、酵素は生化学研究における一大分野であり、早い段階から研究対象になっている。
多くの酵素は生体内で作り出されるタンパク質を基にして構成されている。したがって、生体内での生成や分布の特性、熱や pH
によって変性して活性を失う(失活)といった特性などは、他のタンパク質と同様である。
生体を機関に例えると、核酸塩基配列が表すゲノムが設計図に相当するのに対して、生体内における酵素は組立て工具に相当する。酵素の特徴である作用する物質(基質)をえり好みする性質(基質特異性)と目的の反応だけを進行させる性質(反応選択性)などによって、生命維持に必要なさまざまな化学変化を起こさせるのである。
古来から人類は発酵という形で酵素を利用してきた。今日では、酵素の利用は食品製造だけにとどまらず、化学工業製品の製造や日用品の機能向上など、広い分野に応用されている。医療においても、酵素量を検査して診断したり、酵素作用を調節する治療薬を用いるなど、酵素が深く関っている。 |
さ |
錯体 |
Coordination
complex |
錯体(complex)もしくは錯塩(complex salt)とは、広義には、配位結合や水素結合によって形成された分子の総称である。狭義には、金属と非金属の原子が結合した構造を持つ化合物(金属錯体)を指す。この非金属原子は配位子である。ヘモグロビンやクロロフィルなど生理的に重要な金属キレート化合物も錯体である。また、中心金属の酸化数と配位子の電荷が打ち消しあっていないイオン性の錯体は錯イオンと呼ばれる。
金属錯体は、有機化合物・無機化合物のどちらとも異なる多くの特徴的性質を示すため、現在でも非常にさかんな研究が行われている物質群である。 |
酸 |
Acid |
化学において、塩基と対になってはたらく物質のこと。酸の一般的な使用例としては、酢酸(酢に3〜5%程度含有)、硫酸(車のバッテリーの電解液に使用)、酒石酸(ベーキングに使用する)などがある。これら三つの例が示すように、酸は溶液、液体、固体であることができる。塩化水素など気体の状態でも酸であることができる。
一般に、プロトン
(H+)を与える、または電子対を受け取る化学種。化学の歴史の中で、概念の拡大をともないながら定義が考え直されてきたことで、何種類かの酸の定義が存在する。
酸としてはたらく性質を酸性という。ただし「酸性」という語句は溶液の性質として用いるのが一般的であり、水溶液中において水素イオン濃度が水酸化物イオン濃度より大きい場合、すなわちpH<7の場合を指すことが多い。
酸、塩基の定義は相対的な概念であるため、ある系で酸である物質が、別の系では塩基としてはたらくことも珍しくはない。例えば、水は、アンモニアに対しては、プロトンを与えるブレンステッド酸として作用するが、塩化水素に対しては、プロトンを受け取るブレンステッド塩基として振る舞う。
NH3+H2O=(上は→、下は←)NH4++OH-
HCl+H2O=(上は→、下は←) H3O++Cl-
酸解離定数の大きい酸を強酸、小さい酸を弱酸と呼ぶ。また、100%硫酸より酸性の強い酸性媒体のことを、特に超酸(超強酸)と呼ぶことがある。
「―酸」と呼ばれる化合物には、酸味を呈するものが多い。その水溶液のpHは7より小さい。 |
酸化 |
Oxidation |
対象とする物質が電子を失う化学反応のこと。具体的には、物質に酸素が化合する反応、あるいは、物質が水素を奪われる反応などである。
例えば、鉄がさびて酸化鉄になる場合、鉄の電子は酸素(O2)に移動しており、鉄は酸化されていることが分かる。一方、酸素は鉄から電子を奪っているため、還元されている。このように、酸化還元反応は必ず対になって生起する。
目的化学物質を酸化する為に使用する試薬、原料を酸化剤と呼ぶ。ただし、反応における酸化と還元との役割は物質間で相対的である為、一般的に酸化剤と呼ぶ物質であっても、実際に酸化剤として働くかどうかは、反応させる相手の物質による。 |
酸化還元反応 |
Redox |
化学反応のうち、反応物から生成物が生ずる過程において、原子やイオンあるいは化合物間で電子の授受がある反応のことである。英語表記の
Reduction / Oxidation から、レドックス (Redox)
というかばん語も一般的に使われている。
酸化還元反応ではある物質の酸化プロセスと別の物質の還元プロセスが必ず並行して進行する。言い換えれば、一組の酸化される物質と還元される物質があってはじめて酸化還元反応が完結する。したがって、反応を考えている人の目的や立場の違いによって単に「酸化反応」あるいは「還元反応」と呼称されている反応はいずれも酸化還元反応と呼ぶべきものである。酸化還元反応式は、そのとき酸化される物質が電子を放出する反応と、還元される物質が電子を受け取る反応に分けて記述する、すなわち電子を含む2つの反応式に分割して記述することができる。このように電子を含んで式化したものを半反応式、半電池反応式、あるいは半電池式と呼ぶ。 |
酸と塩基 |
Acid-base
reaction |
酸と塩基は、最も基本的な物質の分類の1つ。酸と塩基の定義は時代と共に拡張されており、現代では3つの定義が一般的に用いられている。
酸と塩基を混合すると酸塩基反応が進行する。最も基本的な酸塩基反応は中和反応で、双方の性質を打ち消しあうとともに水と「塩」(えん)が生成する。酸塩基反応の際に授受できる水素イオンの数をその酸・塩基の価数と呼ぶ。
酸・塩基の強さを測る指標としては、規定度・水素イオン指数(pH) ・酸解離定数
(pKa) ・酸度関数 (H0) などが使用される。ただし、酸・塩基の強度は物質と状態(濃度や温度、溶媒など)によって変化し、また酸塩基反応においては反応に関わる物質の相対的な強度によってその物質が酸・塩基のどちらの役割を果たすかは異なる。例えば、水は場合によって酸としても塩基としても働く。
また、酸と塩基には、「硬い」「軟らかい」という表現をされる定性的な性質がある。詳しくはHSAB則を参照。 |
脂質 |
Lipid |
生物から単離される水に溶けない物質を総称したものである。特定の化学的、構造的性質ではなく、溶解度によって定義される。1925年に
W・R・ブロール (W. R. Bloor) によって以下の生化学的脂質の定義がなされている。
・水に不溶、ただしエーテル、ベンゼンなど有機溶媒に溶ける
・加水分解により脂肪酸を遊離する
・生物体により利用される
ただし、上記の定義は現在では数多くの例外が存在し、十分な条件とは言えない。現在の生化学的定義では「長鎖脂肪酸あるいは炭化水素鎖を持つ生物体内に存在あるいは生物由来の分子」となる。 |
脂肪 |
Fat |
脂肪とは脂(あぶら)ともいい、動植物に含まれる栄養素の一つ。通常、脂肪酸のグリセリンエステルの中性脂肪であることが一般的である。有機栄養素のうち糖質(炭水化物)、たんぱく質、脂肪は、多くの生物種で栄養素であり、「三大栄養素」とも呼ばれている。
常温で液体の油脂は油 (oil) であるが、栄養学における脂肪は固体と液体の両方を含む油脂のことを指す。 |
触媒 |
Catalysis |
特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいう。また、反応によって消費されても、反応の完了と同時に再生し、変化していないように見えるものも触媒とされる。「触媒」という用語は明治の化学者が英語の
catalyser、ドイツ語の Katalysator を翻訳したものである。今日では、触媒は英語では catalyst、触媒の作用を
catalysis という。
今日では反応の種類に応じて多くの種類の触媒が開発されている。特に化学工業や有機化学では欠くことができない。また、生物にとっては酵素が重要な触媒としてはたらいている。
1823年にドイツの化学者であるヨハン・デーベライナーは、白金のかけらに水素を吹き付けると点火することに気がついた。白金は消耗せず、その存在によって水素と空気中の酸素とを反応させることを明確にした。スウェーデンの化学者であるイェンス・ベルセリウスは、この白金の作用と同じ原因が他の化学反応や生物体の中にも広く存在するとし、καταλυω(私は壊す)から導いて「katalytische Kraft(触媒力)」と名付けた。
触媒は反応の速度を増加させる。適切な触媒を用いれば、通常では反応に参加しないような活性の低い分子(例えば水素分子)を反応させることができる。しかし原系(反応基質側)や生成系(生成物側)の化学ポテンシャルを変化させないため、反応の進行する方向(化学平衡)を変えることはない。すなわち自発的に進行する方向に反応の速度を増加させる働きを持つ。言い換えれば、自発的に起こり得ない方向への反応は触媒を用いても進行しない。例えば、室温において水素と酸素から水が生成する反応は、反応前後でのギブズ自由エネルギー変化
ΔG < 0 であるため自発的に進行し、白金触媒を用いると反応速度を増加させることができる。一方、水が水素と酸素に分解する反応は室温では
ΔG > 0 であるため、どのような触媒を用いても自発的には進行しない。 ΔG > 0 となる反応を進行させるには生成物を連続的に系外に排出するか、外部から電気や光などのエネルギーを与える必要があり、場合によっては電極触媒や光触媒を利用して反応速度を向上させる(記事 化学ポテンシャルに詳しい)。
触媒の良否は目的物質の収率や鏡像体過剰率で判断され、これらの率が
100% に近いほど良い触媒とされる。また副生成物の種類や量も重要なファクターになる場合もある。触媒活性と耐久性は、ターンオーバー数(TON)、そして単位時間当たりのTON(= TOF)、そしてその活性を維持した時間や使用回数で評価でき、これらが高い触媒ほど優れている。また、反応設計の良否として、原子効率が高いこと、反応条件が穏和であること、後処理において生成物の分離が容易であること、反応全体の環境負荷が低いこと、なども評価基準となる。 |
自由エネルギー |
Helmholtz
free
energy |
熱力学における状態量の1つである。熱力学第一法則から導いた式によりエネルギーの収支を、熱力学第二法則から得た式によりある過程の進行の自発性を扱えるので、十分な物理量を得るという意味でどんな状況をも物理および化学において取り扱える。ただし、実際の応用において便利な式とは、外界の(エントロピーなどの)変化まで計算・計測しなければ使えない式ではない。通常、関心がもたれるのは系で何が起きたかであり、外界の変化は重要ではない。自由エネルギーはある系内における熱力学的関数の変化による平衡と自発性の指標である。
自由エネルギーは1882年にヘルマン・フォン・ヘルムホルツが提唱した熱力学上の概念で、呼称は彼の命名による。一方、等温等圧過程の自由エネルギーと化学ポテンシャルとの研究はウィラード・ギブズにより理論展開された。
等温過程の自由エネルギーはヘルムホルツの自由エネルギー(Helmholtz free energy)と呼ばれ、等温等圧過程の自由エネルギーはギブズの自由エネルギー(Gibbs
free energy)と呼びわけられる。ヘルムホルツ自由エネルギーは F で表記され、ギブズ自由エネルギーは G で表記されることが多い。両者の間には
G=F+pV の関係にあり、体積変化が系外に為す仕事 pV の分だけ異なる。
熱力学第二法則より、系は自由エネルギーが減少する方向に進行する。また、閉じた系における熱平衡条件は自由エネルギーが極小値をとることである。 |
周期表(本サイトの『元素とは』および『元素一覧』参照) |
Periodic
table |
物質を構成する基本単位である元素を、それぞれが持つ物理的または化学的性質が似たもの同士が並ぶように決められた規則(周期律)に従って配列した表である。これは原則的に、左上から原子番号の順に並ぶよう作成されている。周期表上で元素はその原子の電子配置に従って並べられ、似た性質の元素が規則的に出現する。
同様の主旨を元に作成された先駆的な表も存在するが、一般に周期表は1869年にロシアの化学者ドミトリ・メンデレーエフによって提案された、原子量順に並べた元素がある周回で傾向が近似した性質を示す周期的な特徴を例証した表に始まると見なされている。この表の形式は、新元素の発見や理論構築など元素に対する知見が積み重なるとともに改良され、現在では各元素のふるまいを説明する洗練された表となっている。
周期表は、錬金術師、化学者、物理学者、その他の科学者など、無数の人たちによる知の集大成である。元素の性質を簡潔かつ完成度が高く示した周期表は「化学のバイブル」とも呼ばれる。現在、周期表は化学のあらゆる分野にて、反応の分類や体系化および比較を行うための枠組みを与えるものとして、汎用的に用いられている。そして、化学だけでなく物理学、生物学、化学工学を中心に工学全体に、多くの法則を示す表として用いられる。2011年現在の周期表では、発見報告がなされている118番目までの元素を含むものが一般的であるが、未発見元素を含めた172番目までの元素を含む周期表も発表されている。 |
収着
⇒吸収+吸着 |
|
|
状態量 |
State
function |
熱力学において、系(巨視的な物質または場)の状態だけで一意的に決まり、過去の履歴や経路には依存しない物理量のことである。元来は熱平衡状態にある系だけで定義されるものだが,非平衡状態にも拡張されて用いられる。 |
示量性と示強性 |
Intensive
and
extensive
properties |
状態量すなわち状態変数は示量変数(extensive
variable)と示強変数(intensive
variable)の2種類に分けられる。
示量性の定義は文献により、「系全体の量が部分系の量の和に等しくなること」という定義と「系の大きさ、体積、質量に比例すること」という定義とがある。厳密には前者の性質は相加性、後者の性質は示量性として区別する。均一系の状態量は相加性ならば示量性となるが、部分系ごとにその量の密度が異なる不均一系の場合には相加性であっても示量性とはならない。しかし熱力学では部分系として均一なものを取ることが普通であり、部分系においては相加性と示量性が一致するようにできる。従って、相加性と示量性は区別しない流儀の方が多い。
示量性(相加性)を持たない状態変数を示強変数という。示量性状態量と示強性状態量の中には、体積と圧力のように互いに掛け合わせるとエネルギーの次元をもった示量性の量となるものがある。このような関係を(互いに)共役な関係または双対な関係と言う。
それぞれの例には次のものがある。
|
水素イオン指数
(水素イオン濃度指数) |
pH |
物質の酸性、アルカリ性の度合いを示す物理量である。1909年にデンマークの生化学者セレン・セーレンセンにより提唱された。pH(potential Hydrogen, power of Hydrogenの略)という記号で表される。pH の読みはピーエイチ(英語読み)、またはペーハー(ドイツ語読み)である。日本では1957年に pH の JIS
を制定する際に読みがピーエイチと定められ、現在の法令およびJISではピーエッチと定められている。
ふつうは水溶液中での値を指す。なお、1 atm・25 ℃において pH = 7 の場合は中性と呼ばれる。pH
が小さくなればなるほど酸性が強く、逆に pH が大きくなればなるほどアルカリ性が強い。 |
水素結合 |
Hydrogen
bond |
電気陰性度が大きな原子(陰性原子)に共有結合で結びついた水素原子が、近傍に位置した窒素、酸素、硫黄、フッ素、π電子系などの孤立電子対とつくる非共有結合性の引力的相互作用である。水素結合には、異なる分子の間に働くもの(分子間力)と単一の分子の異なる部位の間(分子内)に働くものがある。
水素結合はもっぱら、陰性原子上で電気的に弱い陽性
(δ+) を帯びた水素が周囲の電気的に陰性な原子との間に引き起こす静電的な力として説明されることが多い。つまり、双極子相互作用のうち、特別強いもの、として考えることもできる。ただし水素結合はイオン結合のような無指向性の相互作用ではなく、水素・非共有電子対の相対配置にも依存する相互作用であるため、水素イオン(プロトン)の「キャッチボール」と表現されることもある。
典型的な水素結合 (5 〜 30 kJ/mole)
は、ファンデルワールス力より10倍程度強いが、共有結合やイオン結合よりはるかに弱い。水素結合は水などの無機物においても、DNAなどの有機物においても働く。水素結合は水の性質、たとえば相変化などの熱的性質、あるいは水と他の物質との親和性などにおいて重要な役割を担っている。 |
た |
炭化水素 |
Hydrocarbon |
炭素原子と水素原子だけでできた化合物の総称である。その分子構造によりアルカン、アルケン、アルキン、シクロアルカン、芳香族炭化水素などさらに区分される。炭化水素で最も構造の簡単なものはメタンである。
また、石油や天然ガスの主成分は炭化水素やその混合物であり、石油化学工業の原料として今日の社会基盤を支える資源として欠くべからざる物である。 |
炭水化物 |
Carbohydrate |
炭水化物または糖質(saccharides)は、単糖を構成成分とする有機化合物の総称である。非常に多様な種類があり、天然に存在する有機化合物の中で量が最も多い。有機栄養素のうち炭水化物、たんぱく質、脂肪は、多くの生物種で栄養素であり、「三大栄養素」とも呼ばれている。
炭水化物の多くは分子式が
CmH2nOn で表され、Cm(H2O)n と表すと炭素に水が結合した物質のように見えるため炭水化物と呼ばれ、かつては含水炭素とも呼ばれた。
後に定義は拡大し、炭水化物は糖およびその誘導体や縮合体の総称となり、分子式
CmH2nOn で表されない炭水化物もある。そのような例としてデオキシリボース
C5H10O4 、ポリアルコール、ケトン、酸などが挙げられる。また、分子式が
CmH2nOn ではあっても、ホルムアルデヒド (CH2O, m = n = 1) は炭水化物とは呼ばれない。今日では総称として糖質ないしは糖とよばれる場面の方が多くなっている。
生物に必要不可欠な物質であり、骨格形成、貯蔵、代謝等に広く用いられる。栄養学的あるいはエネルギー代謝以外の糖質の事項については(例えば、化学的、分子生物学的性質)記事 糖に詳しい。
炭水化物は主に植物の光合成でつくられる。 |
タンパク質 |
Protein |
タンパク質(蛋白質)とは、20種類存在するL-アミノ酸が鎖状に多数連結(重合)してできた高分子化合物であり、生物の重要な構成成分のひとつである。
構成するアミノ酸の数や種類、また結合の順序によって種類が異なり、分子量約4000前後のものから、数千万から億単位になるウイルスタンパク質まで多種類が存在する。連結したアミノ酸の個数が少ない場合にはペプチドと言い、これが直線状に連なったものはポリペプチドと呼ばれることが多いが、名称の使い分けを決める明確なアミノ酸の個数が決まっているわけではないようである。
タンパク質は、炭水化物、脂質とともに三大栄養素と呼ばれる。タンパク質は身体をつくる役割も果たしている。 |
電気陰性度 |
Electronegativity |
分子内の原子が電子を引き寄せる強さの相対的な尺度であり、ギリシャ文字のχで表される。
異種の原子同士が化学結合しているとする。このとき、各原子における電子の電荷分布は、当該原子が孤立していた場合と異なる分布をとる。これは結合の相手の原子からの影響によるものであり、原子の種類により電子を引きつける強さに違いが存在するためである。
この電子を引きつける強さは、原子の種類ごとの相対的なものとして、その尺度を決めることができる。この尺度のことを電気陰性度と言う。一般に周期表の左下に位置する元素ほど小さく、右上ほど大きくなる。 |
糖 |
|
多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基 (−CHO) またはケトン基 (>C=O) をひとつ持つ。アルデヒド基を持つ糖をアルドース(Aldose)、ケトン基を持つ糖をケトース(Ketose)と分類する。
一般的には炭水化物(糖質)と同義とされることが多いが、厳密には糖は炭水化物より狭い概念である。糖質化学、分子生物学などでは炭水化物の代わりに糖質ないしは糖と呼ぶ場合が多い。一方、生化学では炭水化物と呼ぶが、徐々に糖質と呼ぶようになりつつある。栄養学では炭水化物のうち、人間によって消化出来ない「食物繊維」を除いた物を「糖質」と呼ぶが、単に糖質のみを指して「炭水化物」と呼ぶ事も多く行われてきた。
糖質の栄養学・エネルギー代謝に関する事項は記事 炭水化物に詳しい。 |
な |
内部エネルギー |
Internal
energy |
熱力学における示量性の状態量の一つ。系の内部の物質のエネルギー状態の表現で、系全体が持っている平均の運動エネルギー、位置エネルギーに対して、内部エネルギーと呼ばれる。
内部エネルギーは U で表されることが多い。 |
熱化学 |
Thermochemistry |
熱化学または化学熱力学は物理化学の一分野で、化学反応におけるエネルギー変化を主に熱の観点から追究する学問である。
「熱化学」という言葉は、化学熱力学のうち、反応熱について扱う部分に用いられることがある。熱の解析には熱力学が応用され、熱力学第一法則、定積条件、定圧条件などが基本法則である。
熱化学の分野を作り上げた人物の一人として、ヘスの法則などで知られるジェルマン・アンリ・ヘスが挙げられる。 |
熱力学(本サイトの『地質温度計/圧力計とは』参照) |
Thermodynamics |
物理学の一分野で、熱や圧力現象を物質の巨視的性質から扱う学問。アボガドロ定数個程度の分子から成る物質の巨視的な性質を巨視的な物理量(エネルギー、温度、エントロピー、圧力、体積、物質量または分子数、化学ポテンシャルなど)を用いて記述する。
なお、熱力学には大きく分けて「平衡系の熱力学」と「非平衡系の熱力学」がある。「非平衡系の熱力学」はまだ、限られた状況でしか成り立たないような理論しかできていないので、単に「熱力学」と言えば、普通は「平衡系の熱力学」のことを指す。 |
熱力学第一法則
(エネルギー保存の法則) |
Conservation
of
energy |
エネルギー保存の法則(the law
of the conservation of energy)とは、「孤立系のエネルギーの総量は変化しない」という物理学における保存則の一つである。しばしばエネルギー保存則とも呼ばれる。
任意の異なる二つの状態について、それらのエネルギー総量の差がゼロであることをいう。たとえば、取り得る状態がすべて分かっているとして、全部で
3 つの状態があったとき、それらの状態のエネルギーを A, B, C と表す。エネルギー保存の法則が成り立つことは、それらの差について、
A - B = 0, B - C = 0, C -
A = 0
が成り立っていることをいう。
時間が導入されている場合には、任意の時刻でエネルギー総量の時間変化量がゼロであることをいい、時間微分を用いて表現される。
エネルギー保存の法則は、物理学の様々な分野で扱われる。特に、熱力学におけるエネルギー保存の法則は熱力学第一法則と呼ばれ、熱力学の基本的な法則となっている。
熱力学第一法則は、熱力学においては基本的な要請として認められるものであり、理論的証明のない経験則であるが、たとえばニュートン力学などにおける、他のエネルギー保存の法則は、理論的に導かれる数学的な定理である。 |
熱力学第三法則 |
Third
law of
thermodynamics |
完全結晶のエントロピーは絶対零度ではすべて等しくなる、という定理。これはつまり、エントロピーの基準値を決めることができることを意味する。統計力学的に考えても、絶対零度では完全結晶の取りうる配置は1通りなので、エントロピーは0と考えて一致する。熱力学第三法則はネルンストの定理(熱定理)と同等といわれている。 |
熱力学第零法則 |
Zeroth
law of
thermodynamics |
「物体AとB、BとCがそれぞれ熱平衡ならば、AとCも熱平衡にある」という原則のことであり、熱力学における重要な法則のひとつである。ここで、熱平衡とは、2つの系が、熱をやり取りできる状態で接しているが、状態変化が起きない状況を指す。
「第零法則」と呼ばれる理由は、熱力学の体系が出来上がった後、 ジェームズ・クラーク・マクスウェルが基本法則の一つとして数えたためである。温度は熱の移動する方向を示す性質であり、第零法則により温度というものが定義できるようになるほか、温度計を用いた温度の測定も正当化される。氷点あるいは沸点の水と温度計(例えば水銀柱)とが熱平衡にある点を基準として、セルシウス度、華氏などの温度が定義された。 |
熱力学第二法則 |
Second
law of
thermodynamics |
エネルギーの移動の方向とエネルギーの質に関する法則である。またエントロピーという概念に密接に関係するものである。この法則は科学者ごとにさまざまな言葉で表現されているが、どの表現もほぼ同じことを示している。
エネルギーの移動の方向と、エネルギーの質についていえば、例えば、液体を、電気的に加熱する時など、エネルギーは一方向にしか移動しないことは自明である。電気エネルギーは冷水を暖めることはできるが、熱水自体からは電気エネルギーは生じない。つまり、電気エネルギーは質の高いエネルギーであるが、温水のエネルギーの質は低い。 |
濃度 |
Concentration |
従来、「溶液中の溶質の割合を濃度という、いろいろな表し方がある。質量パーセント濃度、モル濃度等」(日本化学会編 第2版標準化学用語辞典)と定義されている。然し、濃度をより狭く「特に混合物中の物質を対象に、量を全体積で除した商を示すための量の名称に追加する用語」(日本工業規格(JIS))と定義している場合がある。
後者に従えば「質量モル濃度」と訳されているMolalityは「濃度」ではない。然し、Molalityに「質量モル濃度」「重量モル濃度」等「〜濃度」以外の訳語は見られない。 |
は |
配位結合 |
Dipolar bond |
配位結合(Coordinate bond)とは、結合を形成する二つの原子の一方からのみ結合電子が分子軌道に提供される化学結合である。
見方を変えると、電子対供与体となる原子から電子対受容体となる原子へと、電子対が供給されてできる化学結合であるから、ルイス酸とルイス塩基との結合でもある。したがって、プロトン化で生成するオキソニウムイオン(より正確にはオニウムイオン)は配位結合により形成される。
またオクテット則を満たさない第13族元素の共有結合化合物は、強いルイス酸であり配位結合により錯体を形成する。
あるいは遷移金属元素の多くは共有結合に利用される価電子の他に空のd軌道などを持つ為、多くの種類の金属錯体が配位結合により形成される。 |
配位子 |
Ligand |
配位子(リガンド、ligand)とは、金属に配位する化合物をいう。
配位子は孤立電子対を持つ基を有しており、この基が金属と配位結合し、錯体を形成する。配位する基としてはアミノ基、フォスフィノ基、カルボキシル基、チオール基などがあり、その配位原子は主に窒素、リン、酸素および硫黄である。また、一酸化炭素やカルベンのような炭素原子を配位元素とする配位子も存在する。金属のd電子は一酸化炭素やエチレンのような
π 軌道の反結合性軌道を持つ配位子に対する逆供与が起きる。
また、配位子には配位部位を1か所にのみ持つ単座配位子の他に2か所以上で配位する多座配位子がある。多座配位子によって生成する錯体はキレーションによるエントロピー効果により、単座の錯体よりも安定である。現在の均一系触媒反応ではキラルな配位子を用いた不斉合成が盛んで、様々な不斉多座配位子が合成されている |
バルク(⇔界面) |
bulk |
ある物体、流体のうち界面に触れていない部分を指す。
物体の、界面や境膜、物質表面などと対になる部分であり、ある物質の物性といえばバルク部分が持つ性質を指す。主に界面化学、移動現象論、物性物理などで用いられる用語である。 |
反応速度論 |
Chemical
kinetics |
反応進行度の時間変化(速度)に関する物理化学の一分野である。物体の速度を扱う力学との類推で、かつては化学動力学と呼ばれていた。反応速度論の目的は反応速度を解析することで、反応機構や化学反応の物理学的本質を解明することにあった。今日においては原子あるいは分子の微視的運動状態は、巨視的な反応速度解析に頼ることなく、量子化学などの理論に基づき計算化学的な手法で評価する分子動力学によって解明できるようになっている。それ故、今日の反応速度論は学問的真理の探求よりは、実際の化学反応を制御する場合の基礎論理として利用されている。 |
ヒドロニウム |
Hydronium |
ヒドロニウム (hydronium) とは化学式 H3O+
と表されるカチオンおよびその塩である。H3O+ はオキソニウムイオンの一種であり、オニウムイオンの一種でもある。水やアルコールなどプロトン受容性酸素原子を持つ分子からなる溶液中では酸としてはたらく。溶媒和されたプロトンという見方もでき、実際にはさらに水和された
H9O4+ として水溶液中に存在していると考えられている。
ヒドロニウム塩の例には過塩素酸一水和物
(HClO4・H2O / H3O+・ClO4-) などがある。 |
標準状態 |
Standard
conditions
for
temperature
and
pressure |
物理学、化学や工学などの分野で、測定する平衡状態に依存する熱力学的な状態量を比較するときに基準とする状態である。一般的には気体の標準状態のことを指すことが多い。
標準状態を定める為に、一般には圧力を標準状態圧力(standard-state
pressure, ssp)に等しく設定される。しばしば標準状態圧力における量であることを表す為に°を付けて表される。
現在の標準状態圧力は
p°= 1 bar = 100 000 Pa
である。 なお、1997年より前には標準状態圧力は
1 atm = 101 325 Pa
であった。
標準状態には圧力と共に温度が指定される。 標準状態には基準とする温度の選択によりSATPとSTPがある。
標準状態圧力で、基準の温度をセ氏25度(298.15ケルビン)とするものをSATP(標準環境温度と圧力、standard ambient temperature and pressure)と定義し、基準の温度をセ氏0度(273.15ケルビン)とするものをSTP(標準温度と圧力、standard temperature and pressure)と定義される。 温度は右下の添え字で示される。 気体の標準状態としては、現在は主にSATPが使われる。
1モルの理想気体の体積は、SATPでは24.8リットル、STPでは22.7リットル(1997年より前は22.4リットル)である。
体積を標準状態において測った場合、そのことを明示するために単位を m3N (ノルマル立米)とすることがある。 |
ファンデルワールス力 |
Van
der
Waals
force |
ファンデルワールス力は、電荷を持たない中性の原子、分子間などで主となって働く凝集力の総称。そのポテンシャルエネルギーは距離の6乗に反比例する。すなわち力の到達距離は短く且つ非常に弱い。この凝集力によって分子間に形成される結合を、ファンデルワールス結合と言う。
ファンデルワールス結合
電荷を持たない中性の原子あるいは分子が、主としてファンデルワールス力で凝集している力を、化学結合の区分の一つとしてファンデルワールス結合と呼ぶ。永久双極子(双極子モーメント)を持つハロゲン化アルキルなど電荷的には中性であるが定常的に分極している物質の凝集も、必ずしも典型的なファンデルワールス力ではないが、ファンデルワールス結合の範疇に含める。それ故、ファンデルワールス結合の元になる分子間力という意味で、広義のファンデルワールス力が定義されることが多い。
理論的な(つまり狭義の)ファンデルワールス力は分子間に働く分散力で定義され、等方向性で原子間距離の6乗に反比例する力である。レナード・ジョーンズ型ポテンシャルの長距離方向のポテンシャルが6乗で増加するのは、このファンデルワールス力を表すためである。しかし、現実の分子は理論の想定する球体ではなくそれぞれ固有の構造をとるので、現実のファンデルワールス力も異方性を示す。すなわち分子の近傍においては分子の形状に応じて、つまりどの部分かあるいは方向によって、ファンデルワールス力の強弱が現れる。異方性が存在すると、結晶格子に配置する際に安定な状態が複数取りうるので、ファンデルワールス力の異方性は結晶多形の要因の一つとなる。 |
フガシティー
(逃散能、散逸能) |
Fugacity |
物理化学の分野において、圧力の高い実在気体の化学平衡を扱うときにも、理想気体の化学ポテンシャルの形式が成り立つようにする意図で導入された概念である。
この概念はもとはウィラード・ギブズが
escape tendency という考えを熱力学的平衡に用いたことに由来し、ギルバート・ルイスが導入した。 |
物質量 |
Amount
of
substance |
物質の量を表す物理量あるいは状態量である。
現実の物質は原子、分子、イオン、電子などあるいはこれらの集合体からなる不連続構造をもつ単位粒子から構成されるが、物質量はそれら単位粒子の存在を仮定せずに物質の量だけを表す概念である。
物質量のSI単位はモル(mol)である。表記する場合は、量記号はイタリック体のn
、量の次元の記号はサンセリフ立体の
N が推奨されている。
熱力学的な状態量として見れば示量性状態量に分類される。 |
物理化学 |
Physical
chemistry |
化学の対象である物質、あるいはその基本的な構成を成している化合物や分子などについて、物質の構造、物質の性質(=物性)、物質の反応を調べるために、物理学的な手法を用いて研究する領域に対する呼称。理論的な基礎として熱力学と量子力学、およびこれら2つをつなぐ統計力学を大きな柱とする。
化学は対象とする物質によって有機化学、無機化学などがあるが、物理化学でも対象によって有機物理化学、無機物理化学と呼び分けられている。
物理化学の中の分野としては以下のものがある。
・反応速度論
・電気化学
・量子化学
- 量子力学の考え方を応用したもの。
・分光学
・界面科学
・熱化学
・生物物理化学
・計算化学
・分子動力学法
- コンピュータを使って分子の運動や反応ダイナミックスをシミュレートし予測する。
・分子軌道法
- 分子内の電子を構成原子の軌道で記述する。 |
分析化学(本サイトの『化学分析とは』参照) |
Analytical
chemistry |
試料中の化学成分の種類や存在量を解析したり、解析のための目的物質の分離方法を研究したりする化学の分野である。得られた知見は社会的に医療・食品・環境など、広い分野で利用されている。
試料中の成分判定を主眼とする分析を定性分析といい、その行為を同定すると言い表す。また、試料中の特定成分の量あるいは比率の決定を主眼とする分析を定量分析といい、その行為を定量すると言い表す。ただし、近年の分析装置においては、どちらの特性も兼ね備えたものが多い。
分析手法により、分離分析(クロマトグラフィー、電気泳動など)、分光分析(UV、IRなど)、電気分析(ボルタンメトリーなど)などの区分がある。
あるいは検出手段の違いにより、滴定分析、重量分析、機器分析と区分する場合もある。ここでいう機器分析とは、分光器など人間の五感では観測できない物理的測定が必要な分析グループに由来する呼称である。現在では重量分析も自動化されて、専ら機器をもちいて分析されているが機器分析とはしない。 |
平衡 |
Chemical
equilibrium |
平衡あるいは化学平衡とは可逆反応において、順方向の反応と逆方向との反応速度がつりあって反応物と生成物の組成比がマクロ的に変化しなくなる状態をいう。平衡状態における、反応物のモル濃度積を分母とし、生成物モル濃度積を分子とした平衡状態の構成比を平衡定数と呼ぶ。 |
平衡定数 |
Equilibrium
constant |
化学反応の平衡状態を、物質の存在比で表したもの。通例
K で表され、
a A + b B + c C + d D + … ⇔ α
AB + β CD + γE F + …
という反応では、
K = [AB]α[CD]β[EF]γ…/[A]a[B]b[C]c[D]d…
である。この定義式は、平衡状態における化学ポテンシャルのつりあいから導かれる。
物質の存在比は、分圧、フガシティーや濃度、モル分率などで表される。最も広く用いられているのは、分圧を用いた平衡定数で、圧平衡定数
K P と表される。K
P は、ギブス自由エネルギーとの間で次の式を満たす。
ΔG = -RT ln K P
ここで、G はギブス自由エネルギー、R は気体定数を示す。
平衡定数は物質の存在比を表す量なので、その単位は無次元である。例えば理想気体の化学反応の場合、a
A + b B → c C + d D という反応を考えると、その圧平衡定数は、
K P =(P
C/P 0)c(P D/P 0)d(P A/P 0)-a(P
B/P 0)-b
となり、無次元量になっている。 |
ヘンリーの法則 |
Henry's
law |
気体に関する法則であり、1803年にウィリアム・ヘンリーにより発表された。
「揮発性の溶質を含む希薄溶液が気相と平衡にあるときには、気相内の溶質の分圧pは溶液中の濃度cに比例する」
と定義される。
ラウールの法則は実際の溶液においては溶液中の多量成分(溶媒)については良く成り立つが、少量成分(溶質)においては成り立たないことが多い。
しかし、この場合でも溶質の蒸気圧をp、モル分率をχとすると
p = KH
χ
が成り立つ。KHは比例定数である。
溶質がヘンリーの法則に従うような溶液を理想希薄溶液という。
また溶質が気体である場合、上記の式は溶液中の気体のモル分率と気相での圧力が比例することを意味する。モル分率が充分に小さい範囲ではモル分率は濃度に比例するから、「気体の溶解度は圧力に比例する」といえる。これもヘンリーの法則と呼ばれる。 |
芳香族炭化水素 |
Aromatic
hydrocarbon |
芳香族炭化水素あるいはアレーン
(arene) は芳香族性を示す単環あるいは複数の環(縮合環)から構成される炭化水素である。略号として
AH が使用されることがある。芳香族炭化水素が置換基となった場合の呼称はアリール基 (aryl group) であり、Ar− と略される。具体的にはフェニル基、ナフチル基などがアリール基の代表例である。
芳香族化合物 (aromatic compounds) と同義に使用されることがあるが、広義の芳香族化合物には複素芳香族化合物も含まれる。
芳香族炭化水素は、一重結合と二重結合が交互に並び、電子が非局在化した6つの炭素原子から成る単環あるいは複数の平面環をユニットとして構成されている。最も構造が単純な芳香族炭化水素はベンゼンであり、ベンゼン環として知られている6つの炭素からなる環状化合物である。
その構造が不明であった遠い昔、強烈な臭気を持つものが多かったので、芳香族炭化水素はそのような名前がつけられた。 |
ま |
モル |
Mole |
モル(mole, 記号:mol 英語、ドイツ語それぞれの原音に忠実にカナ表記するとモウル、モールとなる) は国際単位系(SI)における物質量の単位である。SI基本単位の一つである。
現在の1モルの定義は以下の通りである。
モルは、0.012キログラム(12グラム)の炭素12の中に存在する原子の数と等しい構成要素を含む系の物質量である。
モルを用いるとき、要素粒子を指定する必要があるが、それは原子、分子、イオン、電子その他の粒子、またはこれらの粒子の集合体であって良い。
1980年に国際度量衡委員会(CIPM)により以下の補則が加えられている。これはモルの定義の一部である。
この定義の中で、炭素12は結合しておらず、静止しており、基底状態にあるものを基準とすることが想定されている。
化合物分子を構成する成分元素の数の比は整数比をとるので、化学反応を調べる場合、原子の数を調べるのが望ましいが、実際人間の尺度では、数えることができないので、ある原子量の元素の比較的精度よく測定できる大きさの質量の物質量を、物質量の単位とする。
1モルに含まれる構成要素の数をアボガドロ定数という。現在の炭素原子によるモルの定義を「炭素スケール」とよび、過去の酸素基準と分けて呼ぶこともある。 |
モル濃度 |
Molar
concentration |
化学においてモル濃度とは、濃度を表す方式の一つで、溶液1
L中の溶質をそのモル数を使って表したものである。単位は[mol/L]。化学や生化学などでよく用いられる濃度表示法であるが、ほとんどの溶液の体積が熱膨張の影響で温度に依存するため熱力学では使われにくい。しかし、この問題は温度補正係数や重量モル濃度など温度が影響しない方法をとることにより解決される。
直近の国際機関JCGM 200:2012 (VIM3) の用語に従えば、これは、物質量濃度(amount of substance
concentration = amount of concentration = substance concentration
= concentration 濃度)のことである。 |
や |
有機化合物
(本サイトの『有機化合物』参照) |
Organic
compound |
炭素を含む化合物の大部分をさす。例外として、炭素を含む化合物でも一酸化炭素、二酸化炭素、炭酸塩、シアン酸塩、チオシアン酸塩等の単純なものは慣例として無機化合物と分類し、有機化合物には含めない。例外は習慣的に決められたものであり、現代では単なる「便宜上の区分」である。有機物質(organic
substance)あるいは有機物(organic
matter)とも呼ばれる。
歴史的背景から、炭素原子を含む化合物であっても、単純なものは慣例として無機化合物とされる。この例外とされる炭素化合物の具体例を挙げれば、一酸化炭素、二酸化炭素、炭酸塩、青酸、シアン酸塩、チオシアン酸塩などである。 |
溶解度 |
Solubility |
ある溶質が一定の量の溶媒に溶ける限界量をいう。飽和溶液の濃度である。通常、Sという記号で表される。
固体の溶解度は、一定温度で、溶媒100
gに溶ける溶質の質量[g]や、飽和溶液100 gに溶けている溶質の質量[g]などで表す。本来は無名数であるが、一般に[g/100g-溶媒の化学式]等の単位を付して表す。この場合、溶媒が水なら[g/100g-H2O]となる。溶解度は温度によって変化し、固体に関しては、例外もあるが、温度が上がると溶解度が上がるものが多い。
気体の溶解度は一定温度で、1
atm(1気圧)の気体が溶媒1 mlに溶ける体積を標準状態(STP)に換算して表す。この溶解度は温度によって変化し、温度が高くなるほど溶解度が下がる。 |
溶媒 |
Solvent |
固体、液体あるいは気体を溶かす物質の呼称。工業分野では溶剤と呼ばれることも多い。最も一般的に使用される水のほか、アルコールやアセトン、ヘキサンのような有機物も多く用いられ、これらは特に有機溶媒(有機溶剤)と呼ばれる。
溶媒に溶かされるものを溶質といい、溶媒と溶質を合わせて溶液という。溶媒としては、目的とする物質を良く溶かす(溶解度が高い)ことと、化学的に安定で溶質と化学反応しないことが最も重要である。目的によっては沸点が低く除去しやすいことや、可燃性や毒性、環境への影響などを含めた安全性も重視される。また、化学反応では、溶媒の種類によって反応の進み方が著しく異なることが知られている(溶媒和効果)。
一般的に溶媒として扱われる物質は常温常圧では無色の液体であり、独特の臭気を持つものも多い。有機溶媒は一般用途としてドライクリーニング(テトラクロロエチレン)、シンナー(トルエン、テルピン油)、マニキュア除去液や接着剤(アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル)、染み抜き(ヘキサン、石油エーテル)、合成洗剤(オレンジオイル)、香水(エタノール)あるいは化学合成や樹脂製品の加工に使用される |
ら |
ラジカル |
Radical |
不対電子をもつ原子や分子、あるいはイオンのことを指す。フリーラジカルまたは遊離基とも呼ばれる。
また最近の傾向としては、C2, C3, CH2 など、不対電子を持たないがいわゆる オクテット則を満たさず、活性で短寿命の中間化学種一般の総称として「ラジカル(フリーラジカル)」と使う場合もある。すべてのラジカルが活性酸素ではないが一般的にラジカルは活性酸素を意味する。 |
ラウールの法則 |
Raoult's
law |
「混合溶液の各成分の蒸気圧はそれぞれの純液体の蒸気圧と混合溶液中のモル分率の積で表される」という法則である。不揮発性の溶質を溶媒に溶かすと溶液の蒸気圧が下がる蒸気圧降下(vapor pressure depression)の現象について成り立ち、これは束一的性質のひとつである。その名はフランソワ=マリー=ラウール(英語版)にちなむ。 |
リガンド |
Ligand |
特定の受容体(receptor; レセプター)に特異的に結合する物質のことである。
リガンドが対象物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を発揮する。例えば、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体などが顕著な例である。リガンドの代わりにはたらく薬物がアゴニスト、リガンドのはたらきを弱める薬物はアンタゴニストである。 |
理想気体 |
Ideal
gas |
理想気体または完全気体(perfect
gas)は、気体分子(原子)自身の体積、分子間力などの相互作用をともに
0 と考えた場合の仮想的な気体である。
実際にはどんな気体分子にも体積があり、分子間力も働いているので理想気体とは若干異なる性質を持つ。そのような理想気体でない気体を実在気体という。実在気体も、低圧で高温の状態では理想気体に近い振る舞いをする。標準状態では多くの実在気体を理想気体とみなしてよいことが多い。 |
理想気体の状態方程式 |
Ideal
gas
law |
理想気体を有効に記述する状態方程式。次のように表される。
pV = nRT
ここで、p は気体の圧力、V
は気体が占める体積、n
は気体の物質量、R
は気体定数、T
は気体の熱力学温度である。
この式は、気体の法則すなわち次の法則を一般化したものである。
・ボイルの法則…温度一定のもとでは、圧力と体積は互いに反比例する。
・シャルルの法則…圧力一定のもとでは、体積は熱力学温度に比例する。(ゲイ・リュサックの法則ともいう)
・ボイル=シャルルの法則…体積は、圧力に反比例し、熱力学温度に比例する。
・アボガドロの法則…温度・圧力一定のもとでは、気体の体積は分子数に比例する。
実在気体の場合は、気体は近似的にこの方程式に従い、式の有効性は気体の密度が0に近づき(低圧になり)、かつ高温になるにつれて高まる。密度が0に近付けば、分子の運動に際し、お互いがぶつからずに、分子自身の体積が無視できるようになる。また、
高温になることによって、分子の運動が高速になり、分子間力(ファンデルワールス力)が無視出来るようになるからである。 |
理想溶液 |
Ideal
solution |
ラウールの法則に完全に従う溶液のこと。つまり、理想溶液はモル分率に比例して蒸気圧が決まる溶液を指す。一方で、ラウールの法則に従わない溶液を実在溶液という。溶質に比べて溶媒がはるかに大きい場合、ほとんどの溶液は溶質についてラウールの法則がおおよそ成立するので理想溶液と考えても差し支えない。しかし、そうでない場合は活量について考える必要がある。 |
量子化学 |
Quantum
chemistry |
理論化学(物理化学)の一分野で、量子力学の諸原理を化学の諸問題に適用し、原子と電子の振る舞いから分子構造や物性あるいは反応性を理論的に説明づける学問分野である。 |