|
最終更新日:2017年2月18日
地球科学(Earth Science)分野の最大のモデルであるプレート・テクトニクス(Plate Tectonics)は、地球表層の100〜150キロメートル程度の範囲を対象とし、地球内部へプレートが沈み込む深さを考慮しても700キロメートル以内を対象としており、地球半径の約6400キロメートルに比べるとその一部でしかない。また、プレート・テクトニクスにおける水平運動(Lateral Movement)の原動力(Driving
Force)に密接に関係するマントル(Mantle)全体も対象外であるため、このモデルでは説明できない問題が残されている。 したがって、主にマントルを主要な対象とし、核(Core)をも説明できるような、全地球(All-Earth)を対象とした次世代モデル(Next Generation Model)が求められており、その候補の一つとして主に日本人研究者のグループによって提唱されているのがプルーム・テクトニクス(Plume Tectonics)である。 プレート・テクトニクスにおいても、プレート内の火山活動(Volcanic Activity)等を説明するために小規模なプルーム(Plume:煙突から煙が昇るような物質流のイメージ)という概念は用いられていた。その源は、プレートよりも深いマントルに由来すると考えられ、プレートの水平運動に対して固定されていると解釈できるため、例えばハワイ諸島(Hawaiian Islands)の配列などの説明に用いられていた。しかし、三次元地震波観測法(地震波トモグラフィー、Seismic Tomography)の発達などにより、マントル全体の構造が判明するようになると、大規模なプルームの運動こそ重要であるという理解が進み、プルーム・テクトニクスという名称でのモデル化が始まった。 しかし、世界的にはこの名称はあまり用いられていない。ただし、マントル・プルーム(Mantle Plume)という現象についてはかなり共通の認識が持たれて来ている。 |
リンク |
・室戸沖南海トラフ付加体前縁部の高熱流量と地下深部の圧力・浸透率の関係 (224-236p) ●太平洋型造山帯 ―新しい概念の提唱と地球史における時空分布―(115-223p) ・超大陸と日本列島の起源(100-114p) ●活動的大陸縁の肥大と縮小の歴史―日本列島形成史アップデイト―(65-99p) ・インドネシア非火山性外弧のオフィオライト―世界最若オフィオライトの産状と岩石学的多様性―(52-64p) ・古生代日本と南北中国地塊間衝突帯の東方延長(40-51p) ・九州西端部からの四万十高圧変成岩類の発見(30-39p) ・飛騨外縁帯糸魚川-青海地域の地質と変成作用―日本列島地質体最古の沈み込み帯型変成作用と上昇期の加水変成作用―(4-29p) ・特集号「日本列島形成史と次世代パラダイム(Part III)」表層地質からマントル対流起動論へ―巻頭言―(1-3p) |
・マントル熱進化モデルの新展開(1215-1227p)
・第2大陸(1197-1214p) ・日本列島の大陸地殻は成長したのか? ―5つの日本が生まれ,4つの日本が沈み込み消失した―(1173-1196p) ・日本列島の古地理学 ―砕屑性ジルコン年代頻度分布と造山帯後背地の変遷―(1161-1172p) ・プロト伊豆―マリアナ島弧の衝突付加テクトニクス―レビュー―(1125-1160p) ・日本海の拡大と構造線―MTL,TTLそしてフォッサマグナ―(1079-1124p) ・新生代日本列島の火山活動とマントルダイナミクス―この10年における進展―(1063-1078p) ・スラブ起源流体と沈み込み帯でのマグマ生成 (1054-1062p) ★日本列島の地体構造区分再訪 ―太平洋型(都城型)造山帯構成単元および境界の分類・定義―(999-1053) ・構造浸食作用 ―太平洋型造山運動論と大陸成長モデルへの新視点―(963-998p) ・特集号「日本列島形成史と次世代パラダイム(Part II)」表層地質からマントル対流起動論へ―巻頭言―(959-962p) ・Overview of a Special Issue on “Geotectonic Evolution of the Japanese Islands under New Paradigms of the Next Generation (Part I-III)”(947-958p) |
・クロミタイト―不思議なマントル構成岩―(392-410p) ・輸出科学の時代―日本列島の地体構造区分・造山運動研究史―(378-391p) ・付加体の構造侵食による前弧の構造発達(362-377p) ・日本海拡大時の中央および西南日本前弧域テクトニクス(347-361p) ・砂質片岩中のジルコンの年代分布に基づく三波川帯再区分の試み(333-346p) ・三波川変成帯中の新たな独立した広域変成帯の存在 ―白亜紀から第三紀の日本における造山運動―(313-332p) ・日本列島に記録された古生代高圧変成作用 ―新知見とこれから解決すべき問題点―(294-312p) ・日本列島の誕生場―古太平洋の沈み込み開始を示す飛騨外縁帯の520Maの熱水活動―(279-293p) ・日本最古の堆積岩年代472Ma(オルドビス紀前期末)とその意義―飛騨外縁帯一重ヶ根層のジルコンU-Pb年代―(2701-278p) ・南部北上帯古期岩類のLA-ICP-MS U-Pbジルコン年代(257-269p) ・日立変成岩類―カンブリア紀のSHRIMPジルコン年代をもつ変成花崗岩質岩類の産状とその地質について―(245-256p) ・西南日本における海溝-島弧-縁海系の地殻構造―南海トラフから大和海盆北縁まで―(235-244p) ・新生代北部九州のテクトニクス史と火山活動史―背弧火山岩区研究における重要性―(224-234p) ・日本列島下での沈み込みプロセスの多様性(205-223p) ・日本列島下のスラブの三次元構造と地震活動 (190-204p) ・特集号「日本列島形成史と次世代パラダイム(Part I)」―巻頭言―(187-189p) |
プルーム・テクトニクス |
プレートテクトニクス(Plate Tectonics)は、プレートの動きを中心とした理論であるため、プレートの厚さの100〜150キロメートル程度の深さまでを対象にしている。沈む込み帯(Subduction Zone)から沈み込んだプレート〔スラブ(Slab)と呼ばれる〕の沈み込み深度を考慮しても最大で700キロメートル程度である。これは、地球半径約6400キロメートルに比べると、その一部でしかない。また、プレート運動の原動力となっているマントル(Mantle)は2900キロメートルの深さを持つが、それに対しても一部でしかない。つまり、プレートテクトニクスに対しても、マントルの理解無しには十分な説明はできない。そのため、現在では、マントルを対象とし、さらにマントルとの相互作用が大きい核をも対象とすることができるような、全地球(全地圏)に適用可能な新たなモデルが求められている。
その新しいモデルの代表的な例の1つがプルームテクトニクス(Plume Tectonics)である。この名称のモデルが確立している訳ではないし、世界的に通用する段階には達していないが、日本人研究者が中心となって構築されているモデルであるために簡単に説明する。
プルーム(Plume)とは、煙突から煙がスーと1本昇るようなイメージの上昇流を指す。プレートテクトニクスにおいても用いられている概念であり、プレートの下部にあるマントルからプレートを貫いて上昇し、地表に活火山(Active Volcano)を形成するものとされている。プレート内部で起こっている火山活動を説明するために考えられたもので、プレート運動に対して不動な火山源〔マグマ(Magma)源〕が存在することになり、時間の経過に伴って火山列が形成されることを説明できる〔ハワイ諸島(Hawaiian Islands)などが例である〕。
プルームテクトニクスでは、マントルにおける超巨大なプルームの存在が最も重要であると考える。沈み込んだスラブは深さ700キロメートル付近(上部マントルと下部マントルの境界付近でもある)に溜まり、やがて一気にマントル下底(核の上)へ落下する。これは比較的温度が低いため(スーパー)コールドプルーム〔(Super)Cold Plume〕と名付けられている。これとバランスをとるために、他方で温度の高い(スーパー)ホットプルーム〔(Super)Hot Plume〕が上昇する。それから分岐した小規模のプルームの1つが、プレートテクトニクスでのプルームと考えることができる。このような全マントル規模の対流のようすは、地震波トモグラフィー(Seismic Tomography)などによる観測結果からも支持されている。このようなスーパープルームの振る舞いは核(Core)とも密接に関連しており、特に外核におけるダイナモ作用(Dynamo)による地磁気の発生メカニズムの解明を目指した研究も行われている。さらに関連して、地球46億年の地球史全体にわたる地球の進化(Evolution)を総合的に明らかにする研究が、生命の起源(Abiogenesis、Origin
of Life)も含めて、推進されている。
Fig. 1. Towards a new paradigm of Earth science. Our understanding of Earth structure and dynamics has advanced from plate tectonics in the 1960's (left) to a three-dimensional image obtained by seismic tomography in the 1980's & 90's (middle). It is now time to construct an integrated understanding of Earth's dynamics via an interdisciplinary approach to Earth sciences (right). Fig. 2. Hypothesis on global material circulation in the Earth's interior. The oceanic lithosphere born at mid-oceanic ridge subducts into deeper mantle at trench, stagnates at mantle transition depth, avalanches into the bottom of the mantle finally. Chemical differentiation at mid-oceanic ridge, trench, 660 km depth and mantle-core boundary occurs through the global material circulation. The superplume originates at mantle/core boundary and carries light materials such as C, H, O, and S from the outer core to the surface. The episodic activity of superplume may be related to the episodic formation and collapse of the stagnant slabs at 660 km depth. Ishida et al.(1999)による『Superplume Project: Towards a new view of whole Earth dynamics』から |
地震波トモグラフィー |
NASA Tomographic data were used to produce a onvection model of Earth's mantle. 〔McDougal Littell Inc.によるExploring Earthの『Investigations』の『Chapter 4: Earth's Structure and Motion』から〕 |
マントルプルーム |
An example of plume locations suggested by one recent group. Figure from Foulger (2010). Wikipedia(HP/2011/10)による『Mantle plume』から 【参考】Plates vs Plumes: A Geological Controversy |
地震波で見る地球の内部 |
熱対流が作り出すプルーム |
スーパープルームが地上環境を支配する |
|
〔JAMSTEC, ESTOによる地球内部のダイナミズム スーパープルームから〕 |
Fig. 1. Formation and breakup of supercontinents in the last 3.0 Gy. Also shown are times of maximum production rate of juvenile continental crust and proposed catastrophic superplume events. Data from (Condie (1998, 2001, 2002a, b, c and unpublished data). R, Rodinia; P, Pangea; G, Gondwana; N, new supercontinent. |
|
Fig. 2. Distribution of superplume events deduced from time series analysis of plume proxies from Abbott and Isley (2002). Peak height depends on the number superplume proxies and the errors of the age, the latter of which is set a 5My. |
|
Fig. 3. Possible correlations of near-surface global changes with alleged superplume events in the last 3Gy. |
Fig. 6. Patterns of marine family extinctions and originations during the Phanerozoic (after Benton, 1995). Vertical arrows show originations that correlate with superplume events. |
Condie(2004)による『Supercontinents and superplume events: distinguishing signals in the geologic record』から |
〔Gillian R. Foulger氏によるwww.MantlePlumes.orgの『Localities』から〕 |
〔Superplume Workshop Tokyo 2002 at Tokyo Institute of Technology (Jan, 28-31, 2002)の『Session topics』から〕 |
スタグナントスラブ〔停滞するスラブ(沈み込んだプレート)〕 |
〔文部科学省科学研究費補助金特定領域研究のスタグナントスラブ:マントルダイナミクスの新展開の『特定領域 スタグナントスラブとは』から〕 |
第二大陸〔沈み込み帯でマントルへ沈み込んだ花崗岩質岩体(tonalite-trondhjemite-granodiorite、TTG)が主に上部マントルと下部マントルの境界付近に存在すると考えられており、地表の花崗岩質岩体を第一大陸、こちらを第二大陸と呼ぶ。また、外核表面付近に落下したアノーソサイト質岩体を第三大陸と呼ぶ。〕 |
図1 地表から花崗岩質物質がマントル深部へ運ばれるメカニズム.(Part I の表紙を修正) |
図7 第1,第2大陸の分布図.Maruyama et al.(2007)のFig.7を部分的に修正加筆した.第2大陸は,Huang and Zhao(2006)のP波トモグラフィーとプレート沈み込みの歴史を参考にして模式的に図示した.下図は,上図の断面線XYに沿ったものである.第2大陸はアジア大陸の下に最も大量に分布し(Huang and Zhao, 2006),一部は下部マントル最上部にもみられる.アジア東部では滞留スラブの直下にもあり,東縁では日本列島の直下で二つに分裂している.一方,アフリカ大陸の下では,660km深度以浅に選択的に分布する.プレートの沈み込みによって大陸地殻の構造浸食が進み,あるいは島弧の直接的な沈み込みによってTTGが上部マントル最下部に集積して第2大陸を発達させる.その変動が活発に進行中のアジア直下では,一部は上部マントル最上部までTTGが運ばれ,一部は崩落するスラブから剥離して上昇する途上のものがある. |
河合ほか(2010)による『第2大陸』から |