丸山(1994)による〔『新しい地球史』(127-139p)から〕


1 全地球テクトニクス
 現在プレートテクトニクスという考え方は非常に有名です。地球の表面をおおているプレートの厚さはせいぜい100キロメートルぐらいで、地球の半径6400キロメートルに比べると、まるで薄い紙切れのようなものです。プレートは海溝から沈み込みますが、プレートの形が確認できるのは700キロメートルまでなので、プレートが支配する世界は深度700キロメートルぐらいまでです。さらに深いところのテクトニクスは、プレートテクトニクスではなくプリュームテクトニクスが支配しています(図6.1:略)。
 プリュームテクトニクスとは、わたしたちがつくろうとしている、まったく新しい考え方で、地球表層のプレートだけではなく、地球内部のマントルや核などすべてを統一的に説明する「全地球テクトニクス」の中核をなすものです。また、この考え方を導入することによって、地球上のいろいろな現象も統一的に説明できるのです。
 プレートテクトニクスとは
 まず、現在プレートテクトニクスについて概説します。
 プレートは、中央海嶺という線上に生まれ、海溝という線に沿って沈み込んでいきます。プレートは、三次元的にみると板状の形をしています。地球では60〜100キロメートルの厚さをもつ約10枚の固体のプレートが表層をおおい、堅い固体の板として年間数センチメートルの速度で液体のようなアセノスフェアの上を運動しています。
 ところが、球面上でプレートを運動させようとすると、どうしてもひずみが生じてしまいます。そのひずみを解消するために、横ずれ断層ができています。この横ずれ断層がプレートテクトニクスの重要な特徴で、トランスフォーム断層といいます。大洋底の中央海嶺はいくつものトランスフォーム断層によって区切られていますが、この現象は、大西洋や太平洋のどこでも起こっています。
 プレートの境界は、図6.2(略)に示したように、(1)中央海嶺のように開く境界、(2)海溝のように沈み込んでいく境界、(3)トランスフォーム断層のように横ずれする境界、の三つのタイプしかありません。このうち、開く境界である中央海嶺では、地球上の火成活動の80%がおきており、残りの火成活動のほとんどは沈み込み帯でおきています。プレートが沈み込む海溝の背後には日本列島のような火山列が連なります。それに比べて、ハワイのような火山をつくるホットスポットの火成活動は量的にはほんの少しです。
 プレートテクトニクスを計算機のなかで再現するという、スーパーコンピューターを用いた計算機実験は1970年代から多くの研究者によって試みられてきましたが、今までのところ、すべて失敗に終わっています。プレートテクトニクスは、これだけコンピューターが発達している現代においてもなお計算機のなかで再現できないのです。
 プレートテクトニクスからプリュームテクトニクスへ
 ここで新しく提案するプリュームテクトニクスは、プレートテクトニクスという体系自体を一部に含んでしまうような新しい体系です。
 プレートテクトニクスの影響は、表層からせいぜい700キロメートルぐらいまでの深さまでです。それより下、あるいはマントル全体など、地球の大部分はプリュームテクトニクスが支配している領域です。プレートをすべてはぎ取ってしまうと、それはプリュームテクトニクスの世界になります。
スーパーコンピューターを使ったアメリカUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のグループの地球内部についての研究を紹介しましょう。マントル対流の計算をしてみると、対流、特に上昇流ではすべて筒(プリューム)状になります。非常に太い筒から放出される物質は地表近くで傘のように四方に広がり、それは再びマントル内部へ沈み込んでいきます。彼らの計算によれば、5〜6本の巨大プリュームが鎖状に連なり、そこからプレートが生まれ、そして線状に沈み込む、つまり海溝に沿ってマントルにカーテン状に沈み込んでいくという結果になります。
 プレートテクトニクスでは、海嶺という線上で生まれたプレートが海溝という線に沿って沈み込みますが、プリュームテクトニクスでは、円筒状の物質(プリューム)を源にします。つまり、新しい地殻はホットプリュームで生まれて、アメーバ状に360度四方八方に広がっていくのです。これがプリュームテクトニクスの新しい地殻ができる特徴です。
 これに対して沈み込んでいくところでは、プリュームテクトニクスでは筒状の沈み込みと線上の沈み込み(海溝)の二種類できます(図6.3:略)。筒状の沈み込みは、後で詳しく説明するコールドプリュームとよばれる一つの点のまわりに沈み込む、まるでブラックホールのようなものです。
 プレートテクトニクスでは、剛体プレートの運動によるひずみを解消するために、トランスフォーム断層が多数できますが、プリュームテクトニクスでは、リソスフェアが高温であるために剛体ではないので、トランスフォーム断層は形成されません。
 さて、現在の地球はプレートテクトニクスの星ですが、プリュームテクトニクスの星はあるのでしょうか。実は、地球とほぼ同じ質量をもつ金星の表面にはプレートがなく、プリュームテクトニクスが機能しています。しかし、地球においても上部マントルはプレートテクトニクスですが、下部マントルではプリュームテクトニクスです。
 それでは、惑星表層のどのような条件がプリュームテクトニクスとプレートテクトニクスを区分するのでしょうか。
 プレートの重要な定義は、プレートの剛体性です。剛体度を示す剛性率は、同じ物質であれば温度によって決まります。地球型惑星の表層をつくる物質は、どの惑星でも玄武岩なので、どちらのテクトニクスのスタイルになるのかということは、惑星の表面温度によって決まります。

 2 プリュームテクトニクス
 スーパープリュームとコールドプリューム

 地球の内部をトモグラフィーという手法を用いて調べることができます。これは、人間の脳や内臓などを切断せずに調べる断層写真と同じような手法で、地震波を用います。最近10年間のトモグラフィーの技術改良は著しく、地球の内部構造が地震波トモグラフィーで詳しくわかるようになってきました。
 名古屋大学の深尾良夫さん(現・東京大学地震研究所)を中心jとするグループが地震波の縦波(P波)を使って研究した全マントルトモグラフィーの成果をみてみましょう(図6.4:略)。
 はじめに、日本と南アメリカを通るような地球の大円断面で内部構造をみます。マントルの内部に、スーパープリュームとよばれる巨大なマントル上昇流が二か所にあることがわかります。一つは南太平洋の真ん中あたり、もう一つはアフリカ大陸あたりの下部マントルに、大きなプリュームの中心があります。タヒチ島など仏領ポリネシアの火山島は、太平洋のスーパープリュームの真上にあり、これらの火山島をつくったマグマが、このプリュームによるものであることがわかります。
 南太平洋超プリュームは、深度400キロメートルぐらいのところで二本に分岐します。一つは北に向かって伸び、ハワイ諸島ホットスポットにつながりますが、もう一つは南方へと伸び、ニュージーランド南方のルイビルホットスポットを経て南極のエレバス火山ホットスポットに達します。
 それとは対照的に、アジア大陸の下には沈み込んだ海洋プレートがたくさんたまっており、まるでプレートの墓場のようです。日本海溝から日本列島の下に潜り込んだ太平洋プレートの残骸(スラブ)は、深度670キロメートルあたりにたまっているということがわかります。冷たい部分というのは、プレートの成れの果てがたくさんたまっているところです。そこから下に落ちるところでは、プレートの残骸は集まってしずく状にみえます。それはまるで、二階の床にあふれた水が一階の天井から下に落ちるようです。その下にはお冷たい物質があまりなく、プレートの残骸は核の上面にまで達し、集積しています。アジアの下にあるプレートの吸い込み口をコールドプリュームとよびます。
 大量の重いプレートの残骸が深度670キロメートルに一定量たまると、下に落ち始めます。このような現象は地質学的にみてほんの一瞬におき、プレートの残骸は、核の上面に崩落し、集まって四方に広がります。このようにして、大陸の下にたまったスラブが落下するとき、地表では大きなくぼみができると思われます。例えば、アジア大陸では、タリム盆地など大陸内部に現在の海面よりも標高の低い地域があることが実際に知られています。アジアの下のコールドプリュームに対応して、地表には広大な堆積盆地が存在しているのです。
 一方、コールドプリュームと同じ質量の反流がマントル内部のどこかでおきなければいけません。反流とはホットプリュームのことです。下部マントルの質量は一定ですから、コールドプリュームという入口から下部マントルへ大量の物質が流入すると、等量の物質が上部マントルへの出口から放出される必要があります。それがホットプリュームです。アジアの場合、バイカル湖付近の上昇流は、この反流の一つかもしれません。
 二億年前にアジア大陸の中心部では、たまっていた大量のスラブが落下して直径数千キロメートルの巨大な盆地ができました。この広大な地形的くぼみの東側に、世界最大の台地玄武岩がシベリアに噴出しました。この火山活動は、巨大な落下現象の反動として上昇してきたプリュームの産物と考えられます。同じように南半球のゴンドワナ大陸でも、二億年前ころにザイール盆地(アフリカ南部)とよばれる巨大な堆積盆地ができ、それと同時にカルー洪水玄武岩が噴出しました。このように直径が数千キロメートルという巨大な堆積盆地ができる原因や、それに対応するプリュームの活動というものは、従来のプレートテクトニクスによる体系ではまったく説明することができませんでした。
 ところで、上部マントルと下部マントルの境界にたまるプレートの残骸(スラブ)は、ある程度の量に達しないと落下が始まりません。巨大なコールドプリュームのかたまりができ、それが落下するのは、地球の表層の記録からたどってみると、約四億年周期であると推測できます。これは、プリュームの活動がもつ周期性といえます。
 この周期性は、(1)地球上で氷河ができること、(2)プレートのできる速度が速くなったり遅くなったりすること、(3)地球の温度が下がったり上がったりすること、(4)生物が大量に絶滅すること、などに深くかかわっています。
 私たちは、生物の絶滅や火成活動など地球上のいろいろな現象をプレートテクトニクスだけでなくプリュームテクトニクスで、より統一的に説明できるような手がかりを見つけたのです。
 プリュームの構造
 トモグラフィーを使ってプリュームの分布と深度を詳しくみてみると、プリュームには、400キロメートルの深さから発生するものと、2900キロメートルの深さから発生するものの二種類があります。太さ4000キロメートルぐらいの筒が、真ん中あたりで、太さ1000キロメートルぐらいに絞られ、表層近くなってまた広がります。また、上部マントルに達するとプリュームは分岐します。分岐の仕方はかなり自在で、分岐したプリュームの太さは400キロメートルほどもあります。それがさらに上昇してプレートの底に達すると、そのなかのいくらかがプレートの割れ目に沿ってプレート内を上昇し、地球の表面に届くようになります。これがホットスポットとよばれるものです。
 図6.5(略)のように、プリュームの構造は基本的には三段階になっていて、それぞれを一次プリューム(深さ2900〜700キロメートル)、二次プリューム(深さ700〜100キロメートル)、三次プリューム(深さ100〜0キロメートル)とよびます。
 図6.6(略)はホットスポットのタイプを示しています。プレートの下から上昇してくるプリュームの、マグマを含んでいる部分が不均質なため、数珠のように玉がいくつかに分かれている場合−(a)には、上のプレートがどんどん動いていくと、ハワイ−天皇海山列のように、一番北の明治海山から南側の推古海山まで、海底火山がとびとびに線状に並ぶようになります。
 それに対して上昇流が連続的である場合−(b)は、インド洋の東、東経90度海嶺にみられるような、棒状に南北5000キロメートル以上の長さをもつ火山の高まりをつくります。
 また、太平洋の中央部には中央太平洋海山列とよばれる、海底火山が束になったようなところがあります。数珠玉のようなマグマ・ソリトンとよばれる、海底火山が束になったようなところがあります。数珠玉のようなマグマ・ソリトンとよばれるものが、いっぱいまとまって上昇すると、地表では図(略)の(c)のような形になります。これは、洪水玄武岩とよばれ、玄武岩台地をつくり、さらに上に小さな火山がたくさん群がるような形態となります。
 単一ではあっても巨大なプリュームが上昇してくると、ヘス海膨やシャツキー海膨、オントン・ジャワ−(d)、あるいはナウル海盆−(e)のような、一度に巨大な台地玄武岩が形成されることもあります。インドのデカン高原や北アメリカのコロンビア台地のものなどのように直径1000キロメートルをこえる非常に大きな台地となります。世界最大の玄武岩台地は、シベリアにある、2億4000万〜2億2000万年前に噴出したものです。
 このようにプリュームはいろいろな形をしていることが、地表の火山活動の形から読みとることができます。
 プレートテクトニクスとの関係
 太平洋地域のように両側に沈み込み帯(海溝)がある場合には、中央海嶺の位置は南太平洋超プリュームとつながっていません。東太平洋海膨中央海嶺は、過去2億年にわたってプリュームとは無関係に西から東に移動してきたものです。つまり、深部マントルのプリュームと海嶺とはまったく連結していません(結合度ゼロ)。
 それに対して大西洋のように縁に海溝がない場合、プリュームの真上に必ず中央海嶺があります。ここではプリュームと中央海嶺の結合度は100%です。
 インド洋は太平洋型と大西洋型の中間型です。インド洋では、北の縁には太平洋のように海溝があり、南の縁には大西洋のように海溝がありません。この場合、深部マントルのプリュームと中央海嶺との間には直接的な関係がなく、海嶺はマントル深部に対して北側に動いています。』