土壌が有する公益的機能 |
(1)
作物生産機能 |
土壌は、作物の生育に必要な養水分を蓄積、供給するとともに、植物体を支持する役割を有しており、植物の生産装置として重要な役割を果たしている。 |
農地土壌においては、施肥による土壌への養分の供給や有機物の施用による土壌微生物の活性化、土壌の団粒化の促進等により、作物生産機能の増進が図られている。 |
世界の人口が増加する一方で、土壌侵食、塩類集積等の砂漠化により既存の農地土壌の消失が進んでおり、一人当たり農地面積は減少。 |
限りある農地土壌の作物生産機能を高いレベルで維持・保全することは我が国の食料安全保障にとっても重要。 |
(2)
炭素貯留機能 |
土壌は、地球規模の炭素循環、炭素の貯留の場として重要な役割を果たしている。 |
土壌は、表層1mに約2兆tの炭素を土壌有機物の形態で保持しており、これは大気中の炭素の2倍以上、植物体バイオマスの約4倍に相当し、その増減は地球温暖化に大きな影響を及ぼす。 |
植物は光合成により大気中の炭素を固定して成長する。こうした植物体が農地土壌にすき込まれると、有機物中の炭素は微生物による分解により相当程度は二酸化炭素として大気中に放出されるが、その一部は難分解性の物質(腐植物質等)となり、土壌有機炭素として長期間貯留される。 |
この際、耕起等により農地の土壌の表面を攪拌すれば、酸素が土壌中に供給され、土壌微生物の活性が高まることから、その分解は促進され、二酸化炭素の放出が大きくなる。 |
京都議定書では、気候変動枠組条約の目的を達成するため、2008年〜2012年において温室効果ガスを先進国全体で1990年比で5%以上削減することとし、国別に削減目標(日本は6%)を課している。 |
2008年〜2012年(第1約束期間)においては、京都議定書第3条第3項に基づく1990年以降の新規植林等による純吸収量及び同第3条第4項に基づく森林経営・農地管理等による純吸収量を総排出量から控除することが認められている。(ただし、森林経営・農地管理等の適用については各国が選択)。 |
我が国では、農地土壌の純吸収量の算出に必要なデータが十分でないことから、第1約束期間については農地土壌を吸収源として選択していない。 |
各国において京都議定書の温室効果ガス削減目標の達成が厳しい状況となっている中、農地土壌の炭素貯留機能に着目した施策が講じられているほか、次期枠組みづくりに向けた交渉においても農地土壌の吸収源としての役割により大きな注目が集まっているところ。 |
これまでの土壌調査の結果を踏まえると、我が国の農地土壌においては、表層30cmに、水田で1.9億t、畑で1.6億t、樹園地で0.3億t、合計3億8千万トンの炭素を貯留していると試算される。 |
こうした農地土壌が貯留している大量の炭素は営農活動によって増減することから、適切な土壌管理を通じてこれを一定のレベルに維持することが地球温暖化の防止にとって重要な課題。 |
(3)
物質循環機能 |
土壌は、有機物、無機物の分解・変換の場であり、窒素や炭素の循環の中心的な役割を果たしている。 |
特に、農地土壌は、家畜排せつ物や食品産業等から排出される有機性廃棄物を土壌微生物等の活動によって分解し、植物へ窒素を供給するなど窒素循環の中心的役割を果たしている。 |
我が国の食料供給における窒素収支は、食料輸入を通じた窒素輸入が輸出を大きく超過するアンバランスな構造。 |
このような中で、農地土壌には47万t/年の家畜排せつ物由来窒素がたい肥等として還元されているほか、1,136万t/年の食品産業廃棄物のうち約22%が肥料化されて還元されており、窒素の循環利用に貢献している。 |
(4)
水質・大気の浄化機能 |
土壌は、
@ 土壌中の孔隙を利用したろ過による懸濁物質や細菌の除去
A 化学的作用を利用したアンモニウムイオン等の陽イオンの吸着・除去
B 土壌中の生物による分解・代謝による汚濁有機物の除去
等を通じて水質や大気の浄化に貢献している。 |
特に湛水状態にある水田農地土壌は用水等の水質の浄化機能が高く、水田に流入する水質の改善等に大きな効果を有する。 |
なお、土壌は、物理化学的反応により汚染物質であるNOXやSOXを吸着するほか、微生物の作用によってCOを吸収、吸着・無毒化する機能も有する。 |
(5)
生物多様性の保全機能 |
土壌は、多種多様な生物の生息の場となっており、これらの活動が農地土壌の多様な機能の源泉となっている。 |
また、農地土壌は遺伝資源のプールとしての意義を有するとともに、農地土壌中の生物や微生物を保全することは、水田等を中心とした地域固有の生態系の維持・保全にとっても重要。 |
(6)
農地土壌が有する公益的機能 |
この他にも、土壌の機能としては、粘土等工業製品の原料の供給、歴史的・文化的遺産の保存、自然教育の場や教材としての機能等多様な機能があるが、(1)から(5)で示した作物生産機能、炭素貯留機能等の土壌の機能は、適切な営農活動を通じて維持・向上させていくことが可能であり、また、地球環境や地域環境の保全など国民の生活にとっても極めて重要なものであることから、以下、(1)〜(5)の土壌機能を、農地土壌の有する公益的機能*とする。
*作物生産機能については、食料の安全保障を含むことから、これも農地土壌が有する公益的機能の一つに位置づけている。 |
こうした農地土壌の有する公益的機能を、生産コストや農産物の品質への影響等、生産性との調和に配慮しつつ、適切な土壌管理を推進することにより、将来にわたって維持・向上を図っていくことが必要。 |
農地土壌が有する公益的機能と営農活動との関係
|
機能の維持・向上に資する営農活動 (例) |
作物生産機能 |
(1)適正な養分供給
・土壌診断に基づく適正な施肥設計
(2)土壌の物理性・化学性・生物性の改善
・有機質資材の施用
・作物残渣の還元、緑肥の導入 |
炭素貯留機能 |
(1)有機物投入量の増加
・有機質資材の施用
・作物残渣の還元、緑肥の導入
(2)微生物による土壌有機物分解の抑制
・不耕起・省耕起栽培
(3)土壌流亡の防止
・カバークロップの作付け |
物質循環機能 |
(1)土壌微生物の活性の向上
・有機質資材の施用
(2)土壌診断に基づく養分バランスの適正化 |
水質・大気の浄化機能 |
(1)土壌の物理性・化学性・生物性の改善
・有機質資材の施用
・作物残渣の還元、緑肥の導入 |
生物多様性の保全機能 |
(1)生息条件の好適化
・有機質資材の施用
(2)人為的撹乱の抑制
・農薬の使用低減 |
|