まえがき
『訳者解説
土壌の分類は、農業生産と強く結びついており、各国の農業事情や地域特性にしたがって、国毎に異なった体系になっている。このような体系では国際的な比較は困難であり、植物や鉱物のように世界共通の言語としての分類体系の確立が求められていた。
FAO-Unescoは1974年に、世界土壌図を作成した。これは組織的に世界の土壌を分類した初めての土壌図である。ここで用いられた凡例は、世界の土壌を同一の基準で分類するものであり、国際基準になることが期待された。その凡例を基準として国際土壌分類照合基準(International
Reference Base for Soil Classification, IRB)が提案された。一方、世界土壌図凡例は1992年に改訂された。これらは、FAOのもと国連環境プログラム(UNEP)と国際土壌科学会議によって統合され、世界土壌照合基準(World
Reference Base for Soil Resources, WRB)として1998年に国際的分類基準として提案された。
WRBの意義は、第1章にも述べられているように土壌科学における国際的な共通言語が作られたことであり、土壌分類の関係者ばかりでなく、土壌と土地の利用者などとのコミュニケーションが容易になったことである。各国はそれぞれの土壌分類体系をWRBに照合することにより国際的な比較ができるし、国際的な土壌データの活用も容易になる。このようにWRBは、技術用語以外で表現された土壌の照合システムとすることと、多くの国家の土壌分類システムを相互に関係づけることの2つの目的を持っている。
WRBの分類法は、最近多くの土壌分類システムで用いられている識別基準をもとに切取り方式により分類する手法を用いている。切取りは照合土壌群について行い、その細分は包括的なリストを提供することが不可能であるため、一般原則を述べている。すなわち分類は、特徴層位、識別特徴および識別物質の存否と組み合わせにより照合土壌群を切取り、一般原則に従いその土壌群に認められている修飾語を付けることによって行う。修飾語の優先順位は、混乱を避けるため厳密に守らなければならない。照合土壌群の切取り法は第2章に、特徴層位、識別特徴および識別物質の定義は第3章に、細分類の原則と修飾語の定義と優先順位は第4章に述べてある。
WRBは1998年の国際土壌科学会議(フランス、モンペリエ)で、公式の分類基準として使用することが決議された。したがって、少なくとも国際土壌科学会議においてはWRBを使うことが今後要請されることが予想される。そこで土壌分類の専門家以外にもこの分類システムを理解して頂くため、翻訳をすることにした。
翻訳に当っては、土壌分類の専門家以外の利用を考慮して、原文の単なる音訳ではなく日本語にすることとした。ただし、照合土壌群名については、国際的活用も考えて音訳とした。特徴層位、識別特徴、識別物質および低次の分類のための修飾語は日本語にした。これらについては音訳等で用語事典等にも既に収録されているものもある。それらとの整合性を図るため、『土壌の事典』(久馬他、1993、朝倉書店)と『土壌肥料用語集』(日本土壌肥料学会編、1983、養賢堂)との対応表を巻末に添付した。日本語は、土壌分類の専門家にとっては馴染みのないものかもしれないが、分類を普及する助けになるものと信じている。また、最適といえないものもあるが、今後さらに洗練されていくことを期待する。
最後に、この書を出版するのに一方ならぬご尽力を頂いた(社)国際食糧農業協会の村尾重信氏と前任者の鈴木 晧氏に謝意を表する。
農業環境技術研究所 中井 信』
序文
謝辞
目次
『第1章 背景
数百年の近代土壌科学を経て、土壌分類の一般的に受け入れられるシステムがまだ普遍的に採用されていないということは、大きな関心事であった(Dudal、1990)。この状況は、土壌が容易に同定できる植物と動物とは異なって、規約によってクラスに分割される必要がある連続体を構成するという事実から一部分は生じている。この状態を正すために、過去20年間の土壌系統学の作業は世界土壌照合基準の開発に集中した。
【歴史】
世界土壌照合基準(WRB)は、FAO主導、国連環境プログラム(UNEP)と国際土壌科学会の支援による国際土壌分類照合基準(IRB)の後継であり、1980年にまでさかのぼる。IRBプロジェクトの意図は、どの既存の土壌分類システムにも関連させることができ、どの進行中の土壌分類作業にも調和させることができるように骨組みの確立に取り組むことであった。最終的な目的は、世界的規模で認められる主要な土壌のグループ分けとそれらを定義し同定する基準と方法について、国際的な合意に達することであった。そのような同意は、情報と経験の交換を容易にし、共通の科学的な言語を提供し、土壌科学の応用を強化し、さらに他の専門分野との意思疎通を高めることになっていた。
カナダにおける1978年の予備議論の後で、3つの会議がソフィアとブルガリアで1981年と1982年に行われ、共通の土壌分類に向かって国際的なプログラムを開始した。16の主要な土壌群の定義草案がつくられた。その土壌群は、発達の弱い土壌、膨潤・収縮土壌、地下水の影響する土壌、塩・アルカリ土壌、石灰質・石こう質土壌、黒土土壌、酸性暗色で浅い土壌、ケイ酸アルミナ質土壌、鉄ケイ酸アルミナ質土壌、鉄アルミナ質土壌、黒ボク土壌、地表水の影響を受けた土壌、ポドソル化した土壌、泥炭質土壌、永久凍土質土壌および人工土壌である。
国際土壌分類照合基準は、1982年にUNEPを通して世界土壌政策を実現するために提案されたプログラムの1つとして開始された。国際土壌分類照合基準が世界土壌図凡例(FAO-UNESCO、1974)を改訂する基礎として使用されることになっていると考えられた。
1982年にインドのニューデリーで行われた、国際土壌科学会(ISSS)の第12回会議はこのプログラムを是認し、第5部門(土壌生成、分類および製図)の作業部会にそれを任せた。
1986年に、ドイツのハンブルクで行われたISSSの第13回会議で、IRBプログラムは議長の責任の下におかれ、コアグループによって補助されるようになった。選ばれた貢献者は、主要な土壌のグループ分けと関連する診断属性の定義をより詳細にして、第二/第三のレベルに細分するための提案を行い、主要土壌分類体系の既存の土壌単位との関係付けを行うように求められた。
1987年のイタリアのローマと1988年のカザフスタンのアルマティ(アルアマタ)で開催された諮問会で、IRBのそれ以上の展開に議論した。1990年の日本の京都で開催された第14回国際土壌科学会議のときの、国際土壌分類照合基準のためのシンポジウムで、その進捗状況が報告された。この段階で、20の主要な土壌グループが世界の土壌被覆の代表として同定された。すなわち、有機、人工、膨潤、黒ボク、グライ、停滞水、鉄アルミナ質、ポドソル、高交換性粘土質、光沢構造、沖積成、石こう、石灰、塩類化、ナトリウム粘土、厚層腐植、modic、風化変質層、およびprimic土壌である。これらの土壌グループ分けを定義するのに使用される属性は、主要な土壌生成過程を反映するように選択された。
そうしているうちに、FAOは世界土壌図改定凡例(FAO、1988)を発行した。この凡例の多くの主要土壌群は]26から28に、土壌単位は106から153に増加した。いくつかの主な変化は、リソソル、レンジナおよびランカーのレプトソルへの合併、ルビソルのルビソルとリキシソルへの分裂、同様にアクリソルのアクリソルとアリソルへの分離、ゼロソルとイェルモソルの削除、およびアンスロソル、プリンソソル、カルシソルおよびジプシソルの導入がある。いくつかの診断基準が改訂され、他のものが新たに定義された(例えば、粘土集積と鉄アルミナ質B層、黒ボク、沖積成、グライ、停滞水、光沢構造、ナトリウム粘土特性)。
1990年の会議までのフォローアップとして、1992年にフランスのモンペリエで協議が行われ、京都のシンポジウムで行われた議論に照らし合わせてIRBの現状を評価した。そこで明らかになったことは、提案された20の主要な土壌グループ分けのいくつかが、非常に幅広く一貫した定義を準備するのが困難とわかった。これらの主要な土壌のグループ分けは、より重要な下位区分をするために分けられる必要があった。20個のIRB単位の京都リストとFAOの改訂凡例の28主要土壌グループ分けを比較すると、それらが別々に2つのシステムを開発することがよいかどうかという疑問が起こった。あるIRB単位がさらに分離すると、一方はもう一つの構成単位とほぼ同じリストに帰着してしまう。その上、IRBと世界土壌図の両者は、ISSSが共催しており、本質的に同じ目標、すなわち世界規模の土壌資源の合理的インベントリーに至るために2つの別々のプログラムを進めるのは不適当であると感じられた。そうした初期の動機は、1974年のFAO-UNESCOの凡例が単に1:5,000,000世界土壌図だけの目的に役立つことになっていたことである。それ以来、凡例は一般化の3つのレベルで世界の主要な土壌を包含して次第に開発され、現在では発展途上国と先進国の両方で広く調査に使用されている。さらに、用語はよく知られていて、広く受け入れられている。
したがって、IRBが今後の活動のための骨組みとしてFAOの改定凡例を採用するべきであることが決まった。より大きい奥行と背景を提供して、既存のFAOの単位に定義と土壌の系統関係の原理を適用することは、IRBの仕事である。2つの努力の併合が、「世界土壌照合基準」という名前のもと、ISSS/FAO/ISRICの仕事として開始された。
改訂凡例が1988年に発行されたとき、FAOはヨーロッパに呼びかけ可能な修正を求めた。WRBはあり得るギャップを確認して、それなりに調整を示唆するのに尽力した。提案された調整は、メキシコのアカプルコの第16回国際土壌科学会議(ISSS-ISRIC-FAO、1994)に草稿の形で提示され、会議とドイツ(1995)、ロシア(1996)、南アフリカ(1996)、アルゼンチン(1997)およびオーストリア(1997)の野外巡検で試験された。
【目的】
世界土壌照合基準の主な目的は、世界規模の土壌資源とそれらの相互関係に関する最新の知識を取り入れて、1988年のFAO改訂凡例に対して科学的奥行と背景を提供することである。ある最新の土壌学的研究を含め、そのシステムの使用を農業ベースから、より広い環境ベースに広げるため、1988年の凡例に一定の重要な改変が必要になっていることが認められた。
もっと具体的には、目的は:
WRBは、主要な土壌型の同定、特徴付け、命名するために、科学者の間のコミュニケーションを容易にする手段として設計されている。国家の土壌分類システムを置き換える意味ではなく、国家のシステム間の相関関係をよくする道具である。それは、国家のシステムを比較することができる共通点として機能することを目指している。また、WRBは土地と自然資源に関心のある人々の共通基盤としても役立つ。
さらに、WRBは、土壌学的構造の確認とその意義付けの道具でもある。それは土壌科学の基本的言語を発展させるのに役立つ:
【原理】
WRBの基礎になる綱領は、1981年と1982年のソフィアの会議で初期に定められて、その開発が委ねられたワーキング・グループによってさらに練られた。これらの綱領は、以下の通りまとめることができる:
FAO凡例の基本的な枠組みは、3番目のレベルで分級をするための2つの分類レベルと指針を持つように作られているが、下位レベルを合併することが決められていた。WRBのそれぞれの照合土壌群は、一つの優先順位に従った可能な限定詞を一覧表に挙げており、利用者はそれから様々な下位レベルの単位を構築できる。WRBのクラス分けを支配する広い原理は以下の通りである:
多くの照合土壌群が異なった気候条件下に産することもあり得ることが認められている。しかしながら、気候特性による分割を行わないことが決められており、土壌の分類は気候データが利用できるかどうかに依存しない。
【世界土壌照合基準の要素】
《WRB照合土壌群》
FAOの改訂凡例を再検討した後、30の照合土壌群が世界土壌照合基準を構成するために認定された。クリオソル、デュリソル、アンブリソルという3つの新しい照合土壌群を含む。グライゼムはフェオーゼムに併合され、ポドゾルビソルはアルベルビソルと改名された。
WRBの30個の主要土壌群は、アクリソル、アルベルビソル、アリソル、アンドソル、アンスロソル、アレノソル、カルシソル、カンビソル、チェルノーゼム、クリオソル、デュリソル、フェラルソル、フルビソル、グライソル、ジプシソル、ヒストソル、カスタノーゼム、レプトソル、リキシソル、ルビソル、ニトソル、フェオーゼム、プラノソル、プリントソル、ポドソル、レゴソル、ソロンチャック、ソロネッツ、アンブリソルとバーティソルである。
クリオソルは、融解と凍結を繰り返すという特異的な環境の下で産出する一群の土壌を識別するためにもっとも高いレベルで導入された。これらの土壌は土壌表面から100cm以内に永久凍土を持ち、融解の時期には水で飽和される。さらに、それらの土壌は凍結攪乱の形跡を示す。デュリソルは、結核の形成や壁状で硬化した層として二次ケイ酸塩の集積がある半乾燥気候下の土壌からなる。アンブリソルは、酸性暗色層を持つか、または黒土層を持ちかつ土壌表面から125cmまでの一部が塩基飽和度50%未満である土壌をいう。それらは、チェルノーゼム、カスタノーゼムおよびフェオーゼムに論理的に対応している。
プリントソルは、改訂版のプリントソルと鉄石固結層を浅い位置に持つ土壌をまとめたものである。改訂版では、後者はレプトソルに含まれていた。世界照合基準では、土壌生成的な層、例えば硬化した石灰層や石こう層または堅くなったプリンサイト等を持つ土壌はレプトソルから除外することが決まった。このことでこれらの土壌を含む照合土壌群が必要になった。浅い位置に鉄石固結層を持つ土壌とプリンサイトを持つ土壌は、通常土地景観の中で異なった位置を占めるのだが、生成的に関係しているため同じグループにすることが適当と思われた。
ポドゾルビソルはアルベルビソルと改名される。ポドゾルビソルという名前はcheluviation(ポドソルを作る)と次表層での粘土の集積(ルビソルになる)という両方の作用が起こっていることを示す。しかし実際には、主要な過程は粘土集積層中での選択的な部位(構造面や孔隙)に沿った粘土と鉄マンガンの溶脱である。アルベルビソルという名前はそのため適当と考えられる。漂白された溶脱層(『漂白層』)、粘土が富化された層(『粘土集積層』)、および『漂白化舌状侵入』の存在を示している。
《WRBの特徴層位、特性と物質》
土壌グループは、「特徴層位」よりむしろ「照合層位」と呼ばれるある特異な土壌層位の組み合わせによって定義されるべきであるということが、以前に同意されていた。照合層位は土壌中に生じることが広く認められる生成的な層位を反映するものとされていた。不幸にも、照合層位と特徴層位の区別は混乱をもたらし、FAOの特徴層位という用語を識別特徴と共に使用することが同意された。加えて特徴土壌物質を定義する必要がでてきた。これらはWRBの特徴層位、性質および物質のわかりやすいリストに一緒に示された。それらは形態的性質と/または分析的な基準によって定義された。WRBの目的と合うように、できるだけ現場判断を助けるために属性が記述された。
《FAOの特徴層位と性質の定義についての修正》
改訂凡例の16個の特徴層位のうち、フィミックA層位だけが残らなかった。この層位は、人為によってできた表層についてあまりに広い範囲をカバーしすぎており、WRBでは園芸人工、砂質人工および人工熟成層位に置き換えられた。
WRBでは、泥炭層位の定義が、最小の厚さを10cmに減らし、また最大の厚さの規定をなくして拡大された。これは定義の二次的利用のためである。改訂凡例では、泥炭H層位は第二レベルで泥炭土壌単位を同定するのに使われたが、WRBでは最上位レベルでヒストソルを定義するためにも使われる。連続した硬い岩石上のヒストソルは、岩石上の非常に薄い泥炭層をヒストソルと分類するのを避けるため、最小10cmの厚さを持たねばならないことが同意された。
FAOの黒土と酸性暗色A層の必要条件であるリン酸含量は、WRBの黒土と酸性暗色層の定義では削除された。例えば中国にあるような厚く暗い色の人工層位もリン酸含量が低く、この必要条件は識別基準とは考えられない。このほかの基準が、黒土と酸性暗色層を人工層位から分けるために見つけられるはずである。
厚層黒土層は、特殊な黒土層として定義されている。黒土層の現在の定義は、チェルノーゼムに典型的に見られる深く黒く孔隙に富む表層の独特な性質を示すには広すぎると感じられた。
明薄表層の定義は明薄A層の定義と同様である。漂白層の色の必要条件は、湿らせたときに彩度がかなり変化する漂白層に適応するように、FAOの漂白E層と比べ少し変えられた。そのような状態は南半球の土壌にしばしば見られる。
粘土集積層の定義は、改訂凡例の粘土集積B層とは異なっており、構造の水平・垂直表面と孔隙中の粘土皮膜の割合が1%から5%に大きくされた。このことで、薄片中で最低1%の配向粘土を持つという以前の必要条件と対応がよりよくなると期待される。
現座観察で明瞭でない場合に岩石的不連続を識別するためのガイドラインが、粘土集積層の記述に加えられた。それは、粘土を除いて計算された粗砂、細砂とシルトの百分率(国際粒径組成、または米国農務省(USDA)などのその他の分級法を用いる)、またはレキとそれより粗い画分の変化によって識別できる。どの主要粒径画分でも最低20%の相対的変化があれば岩石的不連続の基準と見なす。しかし、粘土の増加が土壌体の一部にあり、しかも上部の層がより粗い土性であることが明らかである場合のみ、このことは考慮されるべきである。
粘土集積層の記述に関する修正はナトリウム粘土層に対しても適用される。
FAOの風化B層の定義は、少し修正されて、「最低8%の粘土を持つ」という必要条件を削除した。この条件は、例えば北欧諸国の河成−氷河成堆積物に見られるような、良く発達した構造B層と、粘土含量が低いシルト質壌土またはシルトの土性を持つある土壌を、カンビソルではなくレゴソルへ分類させている。カンビソルをアレノソル(WRBでは壌質砂土かそれより粗い土性の土壌と定義されている)から区別するこの条件は必要がないため、WRBの風化変質層のために提案された定義には使われなかった。
ポドソル性集積層の定義には大きな変更があった。これはソイルタクソノミー(Soil Survey Staff,
1996)のポドソル性集積物質の定義に関する最近の修正に沿ったものである。色の必要条件が加えられ、シュウ酸塩抽出のアルミニウム+1/2鉄が0.5%以上という制限が用いられ、シュウ酸塩抽出液の光学的密度が0.25以上の値が導入された。さらにポドソル性集積層の上限は10cmの深さに定められた。
シルト−粘土比0.2以下は鉄アルミナ質層の定義から削除された。この基準は厳しすぎると感じられ、シルト画分が2−50から2−63μmに増やされている(FAO,
1990)。他の値(シルト−粘土比0.7以下または細シルト−粘土比0.2以下)が提案されているが、まだ同意には至っていない。
石灰層と石こう層の定義にはいくつかの変更があった。WRBの提案では、それらは石灰/石こうと高石灰/高石こう層に分離された。後者の層位は、炭酸カルシウム当量と石こう含量がそれぞれ50と60%であるが、固結していない。
硫酸層の定義は改訂版と同じである。
これらの特徴層位に加えて、19の新しい特徴層位が提案されている。いくつかはFAOの識別特徴から採用され、その他は新たに定義された。それらを併せてWRBで認められた特徴層位は、合計34になる。新たに定義された特徴層位は、黒ボク、人工、厚層黒土、凍土、ケイ酸硬化、鉄質、落葉、硬化、森林黒ボク、氷成、多腐植質黒ボク、光沢構造、ケイ酸固結、鉄石固結、鉄石、アルミニウム粘土質、亀裂、膨潤、火山ガラス質、および砂漠の各層位である。定義と記載は第3章に示されている。
表層の水田表層とその下の水田次表層の組み合わせは、合わせて最低50cmあれば、湿性耕作によって変質した証拠があるアンスロソルと確かに定義する。それは代かきした層と耕盤および集積次表層も含む。この組み合わせは長期間水田耕作に使われてきた土壌の特徴である。
新たに定義された識別特徴と物質は、漂白化舌状侵入、アルミニウム粘土質と乾燥の各特徴、および人工母材、石灰質、沖積成、石こう質、有機質、硫化物と降下火山堆積物の各土壌物質である。説明と定義は第3章に示されている。
グライ質と停滞水特徴は再定義されている。土性の急変と老朽化特徴のFAOの定義は少し変えられている。また永久凍土と二次石灰に改名された軟粉状石灰は変更されず使われている。
グライ質と停滞水特徴の記述には、「グライ質」と「停滞水色パターン」の存在が導入された。これらの用語は地下水や停滞水による飽和に伴う鉄/マンガン(水)酸化物のある特徴的な分布パターンに対して適用される。グライ質色パターンは、構造体の外側や、根の穴や孔隙に沿って、または土壌中で上に向かうものとして、「酸化形態的」特徴をもつ。一方、停滞水色パターンは、構造体の中心部にある、または水の流れの抵抗性の結果下に向かうものとして、このような形態を示す。
土性の急変と老朽化特徴の記述に関する微変更は、それぞれ土性の変化が起こらなければならない深さの違いと、実効陽イオン交換容量(ECEC)〔交換性塩基と交換酸度の合計〕の計算方法の違いである。
【論議】
《土壌被覆:垂直および水平方向の形態とその機能》
土壌被覆
土壌被覆は、空間的に3次元または時間的に1次元を持つ連続した自然体である。土壌被覆を支配する3つの主要な性質は:
土壌の構造
土壌被覆の形態的な組織は、いくつかの観察上の異なったスケールで現れる:顕微鏡を通して観察される粒子の基本的集合から、土地景観スケールでの土壌学的システムの配置まで。土壌被覆の組織と観察の4つのレベルに対応した4つの構造のタイプは、記述され測定され理解されるために特に重要である:
現在までの土壌学の研究は、主に基本的組織、集合、層位および層位の縦方向の系列についての特徴付けと生成的重要性に関するものであった。土壌被覆の3次元的、空間的構造、そして3次元的な構造の歴史的または実際的な動態に関しては相対的に研究が少ない。そのような研究は、土地景観や生態系のスケールでの動的な土壌実体または土壌単位を理解するため、および土壌圏と、地質圏、水圏、気圏や生物圏といった他の地球構成要素との関係を明らかにするために必要である。
WRBのような形態生成的な土壌の照合システムは、基本的組織、集合、層位そして層位の縦方向の重ね合わせを元にしている。水平方向の分布のための包括的な照合システムはまだ十分な精度で作成されていない。これらの水平方向の分布の存在を認識することは、可能ならどこでも、WRBの要素の定義の中で、ペドロジー的システム(岩石系列、地形系列、時間系列、生物系列、気候系列等)に関するWRBをスタートさせる可能性を開くために歓迎される。
《明らかになった問題点》
WRBの基本理念は、最終的な土壌群が地理的分布と土壌生成的な特徴について一貫性を示すべきであり、さらに望ましくは土壌が分析データよりむしろ形態的表現によって特徴づけられるべきであるということである。提案された土壌群の多くで、このことによって分割と一方で融合が起こった。例えば、FAOのレプトソルは、『地表から30cm以内にあり連続して固結した層……によって深さが限定された土壌』を含む、例えば石灰固結、石こう固結、鉄固結層やデュリパンなどである。これらの層はWRBでは土壌生成的層位と考えられ、それ故そのような層を持つ土壌は適切なグループに分類されるべきである。結局、石灰固結層、ケイ酸固結層、石こう固結層または鉄石固結層の上の浅い土壌は、WRBではそれぞれ、カルシソル、デュリソル、ジプシソルあるいはプリントソルに分けられる。しかしながら、鉄石固結層の上の浅い土壌は、鉄石層を持つ土壌とは明らかに異なった土地景観上の位置に産出するだろうことは強調しておかなければならない。後者は普通凹地または広い平野に出現するのに対して、前者は、例えば高原の頂部を形成する西アフリカの「curiasses」のように、しばしばより高い位置に現れる。
レプトソルは礫含量が非常に高い土壌も含む。この組み合わせは、レプトソルを、共通する性質は有効水含量が低いというだけの、浅い土壌も比較的深い土壌もどちらも含むような中途半端なグループにしていた。より深いレプトソルをレゴソルの方に分けようという提案がなされた。このことはレプトソルを純化させるが、レゴソルを「汚染」する。そのため礫質土壌はレプトソルに残してある。
アンスロソルに当てはまらない人為の影響を持つ土壌の取扱に大きな関心が持たれた。特にポドソル、アンブリソルおよびアレノソルの照合土壌群のなかで、元来の低い塩基飽和度という性質がなくなってしまうほど、施肥と石灰施用によって変化した表層を持つ土壌がある。もし自然状態に放置すれば、時間とともに初めの低い塩基飽和度に戻るだろう。短期間の管理の効果は土壌の分類に反映させないという原則に従い、この種類の土壌はポドゾル、アンブリソルおよびアレノソルに留めておき、『耕作性』と言う修飾語を用いて人為の影響を示す。
改訂凡例におけるある土壌間の境界は、個人の判断に任せられる。FAOのルビソル、アリソル、アクリソルおよびリキシソルの区分は、非常に有用であろうが、その同定は多くを分析データに基づいており、土壌間の違いを現場で判定するのは難しい。ある段階では、ルビソルをアリソルと、またアクリソルをリキシソルと一緒に分類することが提案された。そうすると、アフリカにある二つの非常に異なった土壌を一緒に分類し、西ヨーロッパのレス地帯の肥沃なルビソルとアンデスの山麓やカリマンタンにある極端に酸性で貧栄養なアリソルを一緒に分類する事になり、土壌の地理的分布に関係づけるというWRBの原則に反する。そのため、改訂版での区分は残し、ルビソルとアリソルの区分は主に『アルミニウム粘土質特徴』に基づいて行い、現場での4つの「赤褐色性」土壌をうまく判定できる形態的でそれに関係した基準の検討を継続することにした。そのような基準は、例えば、構造発達に基づいたものになるだろう。
同様の問題がアンドソルとポドソルの間、とくにアルミニウム−有機複合体を主とするアンドソルと漂白層を持たないポドソルの間にある。現場で判断するしっかりした基準は、その地域の地理からもたらされる状況証拠を別にすれば、確立されていない。したがって、この2つの土壌間の明確な区分は、なお分析実験の助けが必要である。
改訂版のフェラルソルとニトソルの間の境界も不十分である。多くのニトソル類似土壌は光沢構造特徴と合わせて鉄アルミナ質B層も持つ;結果的にそれらはフェラルソルにキーアウトされる。しかしながら、フェラルソルの一般概念は、構造の発達が弱く、活性なケイ酸とアルミニウムおよび鉄が少ない土壌である。それと対照的に光沢構造特徴は、構造が強く発達し活性の鉄含量が高い土壌物質に適用される(FAO、1988)。この明らかな矛盾をなくすためにWRBでは、フェラルソルから光沢構造層の存在を除外し、同時にニトソルからフェラルソルへの中間段階の土壌に、『鉄アルミナ質』と言う修飾語を付けられるようにした。
低活性粘土を持つ粘土集積層と鉄アルミナ質層の優先順位の問題については、合意に至った。CECが16cmolc
kg-1以下の層は、その他の全ての要件が合えば鉄アルミナ質となる。しかし、もし、粘土集積層と認定され、しかも上部30cmに10%より多い水分散性粘土を含む層の下に鉄アルミナ質層があるならば、分類目的では粘土集積層が下にある鉄アルミナ質層より優先される。
特に深さについて論議がされていない場合は、標準的な深さ10、20、25、30、40、50、75、100、150、および200cmが使われている。そのような論議では、記述がなされている国レベルの分類システムにおけるその他の深さの値を使用することができる。このことはWRBの一つの主要目的、すなわち各国の分類が対応付けできるように土壌資源を描くための国際的に受け入れられる枠組みの提供に沿っている。
《既存の分類体系との関係》
WRBは、改訂凡例の骨格を指針としており、明らかにそれとよく類似している。その命名法が適用され、必要なところでは設定のルールが適応された。その特徴層位と識別特徴の概念は、特徴土壌物質で補足されて、組み入れられた。
もとのFAO凡例(FAO-UNESCO、1974)は、世界中の多くの土壌科学者の知識と経験を元に作成され、数多くの分類体系から導かれた合意を反映していた。例えば、グライゼム、チェルノーゼムとカスタノーゼムは、旧ロシア分類の灰色森林土、チェルノーゼム、栗色土に由来する。同様に、カンビソルはドイツの「褐色土」とフランスの「褐色土」にかなり一致し、フェラルソルはアメリカのオキシソルとブラジルのラトソルの概念によく追従している。
世界土壌照合基準は、既存の分類システムの上に増築し続けている。アンスロソルは中国土壌系統分類(CSTC Research
Group, 1995)の多くの要素を含んでいる。アンドソルの記述と定義は“Referentiel pedologique〔Refeのeの頭と、peのeの頭には´が付く〕”(AFES、1995)のAndisolsと密接に関係し、ポドソルとフランスのポドゾルとはあまり関係ない。一方、ソロンチャック、グライソル、プリンソソル、フェラルソル、デュリソル、アリソル、アンブリソルとレゴソルについての本来の考えに基づくいくつかの提案は、現在の分類体系にはまだ反映されていない。』
第2章 照合土壌群の検索
『世界土壌照合基準の照合土壌群を記述し、定義するために、土壌特徴、土壌特性および土壌層位を用い、これらを組み合わせて土壌とそれらの関係を定義する。
土壌特性は、野外または実験室で観察または測定が可能であり、あるいは顕微鏡的な手法で分析することができる個々のパラメーターである。土壌特性には、土壌の色、土性と土壌構造、生物活動の特徴、孔隙や土壌生成的な濃縮(斑紋、キュータン、結核等)の配列、および分析測定値(土壌反応、粒径組成、陽イオン交換容量、交換性陽イオン、可溶性塩類の量と性質など)が含まれる。
土壌特徴は、土壌中に産生していることが知られ、現在または過去の土壌生成過程を示すものと考えられる土壌特性の組み合わせ(『結合』)である(例えば、膨潤特徴は、重粘な土性、スメクタイト質鉱物組成、スリッケンサイド、乾時の固い砕易性、湿時の中度の粘着性、乾時の収縮、および湿時の膨潤の組み合わせである)。
土壌層位は、地表面に多少とも平行な3次元的な土壌体である。各層位はある深さ全体に存在する1つ以上の特徴を持ち、それが各層位を特徴づける。厚さは数センチメートルから数メートルまでと多様であるが、最も一般には、およそ数10センチメートルである。上限と下限(『層界』)は判然、明瞭または画然である。土壌層位の水平方向への広がりは1メートルから数キロメートルまで大きく異なる。しかしながら、土壌層位は決して無限ではない。水平方向には、それは消滅するかまたは別の層位に変化する。
土壌は、定義された深さの範囲内に存在する層位の垂直方向の組み合わせ、および土壌層位の水平方向の構成(『連鎖』)により、あるいは起伏を反映した縮尺または土地単位において、それらがないことにより定義される。』
第3章 特徴層位、識別特徴、および識別物質
第4章 照合土壌群の細分類
下位ユニット識別の一般原理
下位レベル単位に対する構成要素の定義
多くの低位の名前を使い定義するための説明
照合土壌群の優先順位
引用文献
付録1 土壌層位の命名
付録2 照合土壌群と土壌2次単位のコード
世界土壌資源に関する報告
付表 和訳対照表(訳者グループ作成)