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『鉱物資源を考える』


鉱物資源を考える(5)

Y. どこで掘られているか、どこに見つかっているか
 1. 主な鉱物資源産出国はどこか
 鉱物資源の地理的分布は極めて不公平で、その産出は世界的に見て非常に偏っているという事は、少なくとも抽象的には、すでに多くの人々の知っている事実だろう。これを具体的に知るために、資料によってその現状を確かめよう。
 表Y-1は、適当に選んだ18鉱種についての1978年度での国別鉱石年生産量の実績を示したものである。ただし、特記したものを除き、他はすべて鉱石中での目的成分含有量で表わしてある。ここには、鉱種ごとの上位5ヶ国の国名とそれぞれの国の鉱石年生産量(それの世界全体に対して占める割合も( )内に付記してある)とをまず明らかにし、次いでこれら上位5ヶ国の鉱石年生産量合計値が世界全体のそれに対して占める割合が与えられている。さらに、中国・インド・ソ連邦・南ア共和国・アメリカ合州国・カナダ・ブラジル・オーストラリアの特定8カ国(これら、8ヶ国を選んだ理由は後に述べる)での鉱石年生産量合計値の同様の値が最後に併記されている。
表Y-1 鉱種別鉱石年生産量上位5ヶ国(1978、18鉱種)

鉱種

単位
(m.t.)

世界

アジア

ヨーロッパ
アフリカ

北アメリカ
南アメリカ オセアニア

左記以外の上位5ヶ国

上位5ヶ国の全体に占める割合(%)

特定8大国の全体に占める割合(%)

中国

インド

ソ連邦
南ア共和国 アメリカ合州国 カナダ ブラジル オーストラリア
Fe   106 477.2     129.3(27.1)   35.1(7.4) 34.7(7.3) 53.3(11.2) 60.1(12.6)   65.6 79.7
Mn 鉱石 106 22.8   1.87(8.2) 8.59(37.7) 5.04(22.1)     1.51(6.6)   ガボン−1.85(8.1) 72.7 85.1
Cr 精鉱 106 9.22     2.18(23.6) 3.06(33.2)         アルバニア−0.88(9.5)、ジンバブエ−0.68(7.4)、フィリッピン−0.54(5.9) 79.6 64.0
Ni   103 821     142(17.3)     23.2(28.3)   86(10.5) ニューカレドニア−105(12.8)、キューバ−37(4.5) 73.4 56.0
Co   103 25.2     1.95(7.7)         1.36(5.4) ザイール−13.3(52.8)、キューバ−1.63(6.5)、ザンビア−1.73(6.9) 79.3  
Mo   103 95.3 1.50(1.6)   9.71(10.2)   55.3(58.0) 16.6(17.4)     チリ−10.9(11.4) 98.6 87.2
W   103 42.1 9.0(21.4)   8.2(19.5)   2.7(6.4)       ボリビア−2.9(6.9)、韓国−2.6(6.2) 60.4 60.1
Ti イルメナイト精鉱 106 3.31     0.40(12.1)   0.58(17.5)     1.04(31.4) ノルウェイ−0.83(25.1)、マレーシア−0.15(4.5) 90.6 65.6
Cu   106 7.66     0.83(10.8)   1.36(17.8) 0.76(9.9)     チリ−1.06(13.8)、ザンビア−0.66(8.6) 60.9 45.8
Pb   106 3.41     0.51(15.0)   0.54(15.8) 0.28(8.2)   0.43(12.6) ペルー−0.17(5.0) 56.6 55.4
Zn   106 5.91     0.74(12.5)   0.41(6.9) 1.07(18.1)   0.49(8.3) ペルー−0.41(6.9) 52.7 50.8
Sn   103 236     33.0(14.0)           マレーシア−58.7(24.9)、ボリビア−32.6(13.8)、インドネシア−25.9(11.0)、タイ−24.2(10.3) 74.0 31.1
Sb   103 65.8 11.8(17.9)   7.9(12.0) 11.5(17.5)   3.2(4.9)     ボリビア−12.4(18.8) 71.1 57.3
Au   106 1217     244(20.0) 700(57.5) 31(2.5) 54(4.4)     パプアニューギニア−23(1.9) 86.3 87.4
Ag   103 10.5     1.40(13.3)   1.19(11.3) 1.31(1.25)     メキシコ−1.46(13.4)、ペルー−1.22(11.6) 62.6 46.8
Al ボーキサイト鉱石 106 82.4     4.6(5.6)         26.1(31.7) ジャマイカ−11.4(13.8)、ギネア−11.3(13.7)、スリナム−4.9(5.9) 70.7 44.3
P 鉱石 106 116.6 4.0(3.4)   24.3(20.8)   47.3(40.6)       モロッコ−17.6(15.1)、チュニジア−3.6(31) 83.0 68.5
K   106 25.8     8.3(32.2)   2.2(8.5) 6.1(23.6)     東ドイツ−3.2(12.4)、西ドイツ−2.3(8.9) 85.6 64.9
生産量値−USBM(1980) Minerals Yearbook 1978-79, Vol. 1。特記しない限り鉱石中目的成分含有量。( )内は全体に対して占める割合(%)。ゴヂック字体の数値は、その大部分または相当部分が先カンブリア時代楯状地の鉱床による。

 この表の内容は、いったい何を私たちに教えてくれるものなのだろうか。それをよりはっきりさせるために、この種資料(1978年度)の得られる金属23鉱種および非金属21鉱種合計44鉱種について調べた結果の中から、大切と思われるいくつかの点を以下にまとめてみよう。
1) 世界上位5ヶ国の鉱石年生産量合計値は、ここに調べた44鉱種のすべてについて、いずれも世界全体の50%を超えている。特に著るしい割合いを持つ鉱種は次のようなものである。なお、これら上位5ヶ国の組み合せは、もちろん鉱種ごとに違っている。
 90%を超す鉱種−Mo、Ti、V、Nb、Zr、硫黄、硼素、リチウム、モナザイト、雲母、ヒル石、石綿、カイアナイト類、酸性白土の14鉱種。
 75%を超す鉱種−Mn、Cr、Ta、Bi、Hg、Au、燐、カリウム、カオリン、ベントナイトの10鉱種。
2) 1ヶ国で世界鉱石年生産量の25%以上を産出する国の名とその鉱種は次のようである。
 100-75%−アメリカ合州国(酸性白土)、オーストラリア(Zr、Ti−ルティル)。
 75-50%−ソ連邦(自然硫黄、リチウム)、南ア共和国(Au、カイアナイト類)、アメリカ合州国(Mo、雲母、ヒル石、ベントナイト)、ブラジル(Nb)、オーストラリア(モナザイト)。
 50-25%−ソ連(Fe、Mn、Cr、V、Hg、Au、カリウム、黄鉄鉱、石綿)、南ア共和国(Cr、ヒル石)、アメリカ合州国(燐、フラッシュ硫黄、硼素、カオリン)、カナダ(Ni、Ta、石綿)、オーストラリア(Ti−イルメナイト、Al)、ポーランド(フラッシュ硫黄)、ノルウェイ(Ti−イルメナイト)、トルコ(硼素)、アルゼンチン(硼素)。
3) 金属・非金属合計44鉱種の鉱石年生産量に関して、それぞれの鉱種の上位5ヶ国として国名の挙った国の総数は58ヶ国に及び、その地域別分布は次のようになっている。
 アジア−15、ヨーロッパ(含ソ連邦)−17、アフリカ−10、北アメリカ−2、中・南アメリカ−11、オセアニア−3.
それらのうち特に多くの鉱種に対して名の挙げられた国は次のようである。( )内の数字はその鉱種数を示す。
 >20鉱種−ソ連邦(35)、アメリカ合州国(25)。
 >10鉱種−中国(15)、カナダ(14)、オーストラリア(12)、南ア共和国(11)。
 >5鉱種−ブラジル(9)、インド(6)、メキシコ(6)、日本(5)、ペルー(5)。
4) 金属・非金属合計44鉱種の鉱石年生産量に関して、前記特定8ヶ国の合計値が世界全体のそれに対して占める割合いの特に大きい鉱種は次のようである。
 >90%−Ti(ルティル)、V、Nb、Zr、雲母、ヒル石、石綿の7鉱種。
 >75%−Fe、Mn、Mo、Au、自然硫黄、リチウム、モナズ石、カイアナイト類、酸性白土の9鉱種。
これに対してこの比の小さい鉱種(40%以下)はSn、Bi、蛍石、長石の4鉱種である。
 このような結果をまとめて眺めてみると、鉱物資源の生産(鉱石・精鉱)が地理的に如何に偏っているのかの実態を改めてはっきり知る事が出来よう。また、ソ連邦とアメリカ合州国の2ヶ国がこの点で他に抜んでて如何に恵まれているのかも判って頂けるだろう。
 なお最後に、次の点を注意しておこう。以上の結果はあくまでも特定年度(この場合には1978年度)での断面である。ここに示されたパターンは、私たちを取囲む種々の技術・経済・政治など諸条件が変れば、それと共に大きく変るかも知れないものである。しかし多分、特に重大な経済的・政治的環境の変化が無ければ、ここ少なくとも5−10年間ぐらいならば、この傾向に大きな変化はないと予測される。

 2.主な鉱物資源埋蔵国はどこか
 次に、地質学的にはすでに調査してあり、かつその品質が良くて開発・生産も可能と評価されている鉱床(有用鉱床)の量、すなわち埋蔵鉱量、は世界中でどのように分布しどのくらいあるのかを調べてみよう。表Y-2は、表Y-1と同じ様式で埋蔵鉱量(1980年度)に関する資料をまとめた結果である。これを言いかえれば、今われわれは鉱物資源に関して使える貯金をどこにどれだけ持っているかと言っても良い。なお、すでに発見された分としては、このほかに経済限界下の鉱物資源量も相当あるし、また海洋地殻上にも同種のものがあるが、これらは共にここでは考えない事にする。
表Y-2 鉱種別埋蔵鉱量上位5ヶ国(1980、14鉱種)

鉱種

世界埋蔵鉱量
(トン)
アジアヨーロッパ アフリカ

北アメリカ
南アメリカ オセアニア

左記以外の上位5ヶ国

世界全体に占める割合(%)
中国 インド ソ連邦 南ア共和国 アメリカ合州国 カナダ ブラジル オーストラリア 上位5ヶ国 8大国
Fe 93.4×109   6.0 30.1     11.7 17.5 11.5   76.6 83.4
Mn 1.36×109     25.7 52.9     2.9 8.8

ガボン−5.1

95.4 92.9
Cr鉱石 3.35×109   0.1 0.4 67.8        

ジンバブエ−29.9、フィンランド−0.7、トルコ−0.1

99.1 68.4
Ni 60.0×106     13.5     14.5     ニューカレドニア−25.0、インドネシア−9.7、フィリッピン−9.5 72.2 38.7
W 2.59×106 51.7   8.1   4.6 10.4     北朝鮮−4.2 79.0 75.6
Mo 9.48×106 2.4   7.2   52.7 6.8     チリ−25.8 94.9 69.1
Cu 494×106     12.1*1   18.6 6.5     チリ−19.6、ザンビア−6.7、ペルー−6.5 57.9*2 29.8*2
Pb 127×106     12.6 3.9 21.3 9.5   14.2 メキシコ−3.9 65.4 65.5
Zn 162×106     6.8 6.8 9.3 18.5   9.9   51.3 61.9
Sn 10.0×106 15.0   10.0           インドネシア−15.5、マレーシア−12.0、タイ−12.0 64.5 33.2
Au 32.3×103     24.2 51.1 4.3     3.7 フィリッピン−1.9 85.2 84.5
Ag 253×103     19.7   18.6 19.7 11.7 12.5 メキシコ−13.0 83.5 70.5
Alボーキサイト 4.72×109   4.2           19.3 ギネア−28.8、ジャマイカ−8.9 72.9 37.1
P鉱石 34.5×109 2.9   13.0 8.7 5.2       モロッコ−53.3 83.1 29.8
埋蔵鉱量値−USBM(1981)。特記したものを除き鉱石中目的成分含有量。各国に対する数値は世界全体に対する割合(%)で示してある。*1:共産圏全体、*2共産圏を含まず。ゴヂック字体の数値は、その大部分または相当部分が先カンブリア時代楯状地の鉱床による。

 この表の示している事実を、さらに鉱種数を増して金属28・非金属7、合計35鉱種について調べた結果を基にしてまとめると、次のようになる。
1) 各鉱種についての上位5ヶ国の埋蔵鉱量合計値は、ここに資料の得られた35鉱種に関しては、そのほとんどで世界全体値の50%を超しており、それ以下の鉱種はCdのみにすぎない。それらの中で特に大きい割合いを占める鉱種は、次のようなものである。
 >90%−Mn、Cr、Mo、Ti(ルティル)、V、Nb、Zr、RE、カリウム、リチウム、硼素の11鉱種。
 >75%−Fe、Co、W、Ti(イルメナイト)、Ta、Be、Sb、Bi、Au、Ag、Th、Mg、燐の14鉱種。
2) 1ヶ国で世界埋蔵鉱量の25%以上を占める国名とその鉱種は次のようである。
 100-75%−ブラジル(Nb)。
 75-50%−中国(W、Sb)、南ア共和国(Mn、Cr)、ザイール(Ta)、モロッコ(燐)、アメリカ合州国(Mo、RE)、ブラジル(Ti−ルティル)、チリ(リチウム)。
 50-25%−中国(Mg)、インド(Th)、トルコ(硼素)、ソ連邦(Fe、Mn、V、Mg、カリウム)、南ア共和国(V、蛍石)、ジンバブエ(Cr)、ザイール(Co)、スペイン(Hg)、アメリカ合州国(重晶石)、カナダ(カリウム)、ブラジル(Be)、ギネア(Al)、チリ(Mo)、オーストラリア(Zr)、ニューカレドニア(Ni)。
3) 金属・非金属合計35鉱種の埋蔵鉱量に関して、上位5ヶ国として名の挙った国の数は43に及び、その地理的分布は次のようになっている。
 アジア−8、ヨーロッパ(含ソ連邦)−11、アフリカ−8、北アメリカ−3、中・南アメリカ−8、オセアニア-2.
それらのうち特に多くの鉱種に対して名の挙げられた国は次のようである。( )の数字はその鉱種数を示す。
 >20鉱種−ソ連邦(30)、アメリカ合州国(24)。
 >10鉱種−カナダ(19)、オーストラリア(17)、南ア共和国(14)、インド(11)、中国(10)、ブラジル(10)。
 >5鉱種−メキシコ(6)、チリ(5)。
4) 金属・非金属合計35鉱種の埋蔵鉱量に関して、前記特定8ヶ国合計値の世界全体のそれに対して占める割合いの大きい鉱種は次のようである。
 >60%−Mn、Ti(ルティル)、V、Nb、Zr、REの6鉱種。
 >75%−Fe、W、Ti(イルメナイト)、Be、Au、カリウムの6鉱種。
これに対してその比の小さい鉱種(40%以下)はNi、Co、Ta、Cu、Sn、Bi、Hg、Al、燐、硫黄、リチウムの11鉱種となっている。
 以上の結果をまとめて眺めると、前項(鉱石年生産量)で得たものと良く似ている。ただし、(4)項の特定8ヶ国に不足している鉱種の数がやや多い事に気付かれるだろう。
 なお、この埋蔵鉱量に関する値も決して一定不変のものではなく、今後の探査への努力あるいは鉱業技術や経済の発展などによってある程度までは変わり得るものである事を想い出しておいて欲しい。上に述べた事はあくまでも1980年度での実績である。さらに、同様の事を経済限界下既知鉱物資源量あるいは潜在鉱物資源量までを考えに入れると、上に得た結果も少し変って来る。また、銅・ニッケル・コバルトなどに関しては、どこの国にも属していない海洋地殻表層部での鉱物資源量が相当大きな役割りを持っている事も、ここにつけ加えて記しておく必要があろう。

 3. このような鉱物資源分布の地理的偏りはなぜ起るのか
 これまで具体的に見て来たように、世界における鉱物資源分布の地理的偏りは極めて著るしい。それでは、このような偏りはいったいどうして起るものなのだろうか。また、これを変える事は出来ないものなのだろうか。これらの点について改めて考えてみる事としよう。実例として鉄をとって考える。
 (1) 鉱床の型式   鉄という元素は、地球全体について考えれば、これを構成する多くの元素の中では最も存在量の大きい元素で、全地球質量の実にほぼ35%をも占めている。次に固体地球の表層部をなす地殻を単元として考えると、これを構成する元素としては鉄は酸素・珪素・アルミニウムに次いで4番目に多く、その大陸地殻存在度は5.00%である。ごく平均的に言えば、火成岩類中には1-10%前後、堆積岩類中には0.1-5%前後の鉄分が含まれている。
 これらの各種岩石中の鉄分は、鉄を主成分としたあるいはこれを副成分ないし微量成分として含む多種の鉱物にその源を持っている。単体としての鉄(自然鉄)は極めて稀にしか産出しない。鉄を主成分とする鉱物としては、次のようなものがある。
 酸素と結びついた酸化鉱物−磁鉄鉱(FeIIFe2IIIO4)・赤鉄鉱(Fe2O3)・イルメナイト(FeTiO3
 酸素と水素とに結びついた水酸化物−針鉄鉱(αFeOOH)・鱗鉄鉱(γFeOOH)
 炭酸と結びついた炭酸塩鉱物−菱鉄鉱(FeCO3
 硫黄と結びついた硫化鉱物−黄鉄鉱(FeS2)・磁硫鉄鉱(Fe1-xS)
 珪酸と結びついた珪酸塩鉱物−カンラン石・輝石・角閃石・雲母などの中で鉄を主成分の一つとする種類。
 このように鉄を主成分とする鉱物の種類は数多く、これらは各種岩石中に広く分散して産出している。
 それでは、これら鉄鉱物が特に濃集して生じる鉄鉱床はどのようにして出来るものなのだろうか。鉄鉱床の出来方による分類(成因に基づく型式)は、研究者の立場によっていろいろに識別・分類されている。岩石のごく普通の成因的分類である火成岩・堆積岩・変成岩の3分法に従えば、鉄鉱床はその何れにも関連して生じている。以下に主な鉄鉱床の型式を挙げてみよう。
1) 正マグマ成鉄鉱床 超塩基性ないし塩基性成層貫入岩体の構成層の一つとして、クロム鉄鉱鉱床・白金鉱床などと共に産するもの。鉄鉱物は磁鉄鉱。実例−南ア共和国ブッシュフエルト成層貫入岩体に伴うもの。
2) スカルン鉱床 主に酸性貫入岩体の貫入接触部付近に生じたスカルン岩体中に鉄鉱物の濃集したもの。しばしばスカルン銅鉱床を伴う。鉄鉱物は主に磁鉄鉱。実例−岩手県釜石鉱山の中生代花崗岩類貫入岩体に伴う磁鉄鉱鉱床。
3) 熱水交代成鉄鉱床 既存の炭酸塩岩層の一部が熱水鉱化流体による交代作用を受けて菱鉄鉱の濃集したもの。実例−かつては鉄の有力な有用鉱床の一つだったが、近年ではごく少なくなってしまった。
4) 磁鉄鉱熔岩流 比較的最近にアンデス山脈中のある火山の噴火活動に伴って、チタンに富む磁鉄鉱より主に成る熔岩流が何回か噴き出した。その一部は鉄鉱床として採掘された。

写真Y-1 磁鉄鉱熔岩流、アンデス山中のエルラコ火山の側面に溢流した磁鉄鉱鉱床。
品質は良いが陸路の運搬距離が長いために、写真でみるように小規模に採掘されたにすぎない。(別ウィンドウに拡大

5) 縞状鉄鉱鉱床 主に始生代から下部原生代(30数億年前から10数億年前までのころ)にかけての累層中に発達する浅海性化学的堆積成鉄鉱床。鉄鉱物に富む色の濃い薄層とそれに乏しく珪酸分に富む灰−白色の薄層とが細かく交互に重なり合って縞状構造を示すのが特徴の一つ。初成鉱床は一般に低品位(20-30%Fe)だが、形成後の広域変成作用・接触変成作用あるいは地表付近での酸化条件下の風化作用などによって鉄に関して2次富化を受けた部分は、高品位(50-65%Fe)の有用鉱床に変っている。鉄鉱物は前者では磁鉄鉱、後者では赤鉄鉱。実例−先カンブリア時代楯状地にはどこにでも知られている。現在での最も重要な鉄の有用鉱床。

写真Y-2 縞状鉄鉱鉱床。オーストラリア Iron Knob鉱床。
名の通り発見時には平原に突出していた。赤鉄鉱化を受け、非常に高品位である。(別ウィンドウに拡大

6) 魚卵状鉄鉱鉱床 前者に対して主に上部原生代以降(およそ10億年前後より後)のより若い地質時代の累層中に発達する浅海−内湾性化学的堆積成鉄鉱床。その鉱石が魚卵状・腎状などの特殊な構造を持つのが特徴の一つ。鉄鉱物は赤鉄鉱または菱鉄鉱。実例−中国竜烟鉄鉱床(原生代下部、赤鉄鉱)、フランスのミネット型鉄鉱床(ジュラ紀、赤鉄鉱)、イギリスのクリーブランド型鉄鉱床(ジュラ紀、菱鉄鉱・赤鉄鉱)など。ヨーロッパで最初に産業革命の起き得た原因の一つには、そこでのこの種鉄鉱床の開発・利用があった。
7) 風化残留鉄鉱床
 a) 前記各種の鉄鉱床または黄鉄鉱鉱床などが地表付近で風化作用を受け、一度溶け出した鉄分が水酸化鉄鉱物として現地に再沈澱して再濃集したもの。鉄鉱物はいわゆる褐鉄鉱
(針鉄鉱などの集合体)
 b) ラテライト型鉄鉱床 超塩基性−塩基性火成岩体が高温多湿の気候条件の下に風化作用を受け、源の岩石中の含鉄珪酸塩鉱物や鉄酸化鉱物などが一度分解した後、それらの鉄分がその場で水酸化鉄鉱物として再沈澱して濃集したもの。鉄鉱物は針鉄鉱・鱗鉄鉱など。しばしば源岩中のニッケル・コバルト分も同時に再濃集している事がある。鉄鉱床としては現在では経済限界下だが、ニッケルなどの有用鉱床としてすでに開発・利用されているものがある。実例−キューバ・フィリッピン・インドネシアなどのラテライト型ニッケル鉱床。
8) 砂鉄鉱床 もともとは火成岩体中の副成分鉱物として少量含まれていた酸化鉄鉱物が、その岩体が広くかつ長期間風化・浸蝕作用を受け、さらにその産物が運搬の堆積作用を経る間に選別・濃集して生じたもの。鉄鉱物は磁鉄鉱、一部はイルメナイト。しばしば錫石・ジルコン・モナザイトなどのいわゆる重鉱物
(比重が大きくかつ風化・運搬作用によく堪えて分解し難い鉱物)を伴う。実例−北海道噴火湾沿岸地域の海浜砂鉄鉱床(源岩は花崗岩類)、インド・オーストラリアなどの砂鉱床(源岩は花崗岩類、鉄鉱床としてよりはジルコン・モナザイト・錫石・イルメナイトなどの有用鉱床として開発・利用されている。これらの場合には磁鉄鉱は副産物)
9) 沼鉄鉱鉱床 新生代ないし現世の温泉水から水酸化鉄鉱物が晶出・沈澱して生じたもの。鉄鉱物は針鉄鉱・鱗鉄鉱など。実例−北海道虻田鉱山の沼鉄鉱鉱床。このほか日本には火山地方に小規模なものがたくさんある。

 このように一口に鉄鉱床と言っても、その出来方(成因)や性質は様々である。火成作用に伴って生じたものもあれば、堆積作用によって生じたものもある。また変成作用に際して鉄分の再濃集して出来たものもある。濃集している鉄鉱物の種類も、その出来方に対応していろいろに変る。一方これを生成時代別に見ればごく古い地質時代に特徴的に生じている型式のもの(例−縞状鉄鉱鉱床)もあれば、逆により若い地質時代に多く生じている型式のもの(例−スカルン型鉄鉱床)もある。これらを別な言葉で表わせば、その要点は、それぞれの地質環境ごとに生じ得る鉄鉱床の型式は異なっているという事である。
 このように、鉄鉱床の世界における分布が例え地理的には一見不規則あるいは出たら目のように見えても、地質学的にはそれなりの理由がある。それらは、それぞれの地域の地質環境によく対応した分布を示している。日本列島について言えば、ここに実際に知られている鉄鉱床は上記9種類のうち、(2)・(7a)・(8)・(9)の4種類だけである。これは、日本列島の持つ地質構造あるいは地史の反映であって、われわれの力では何とも変えようもない天与の自然条件である。
 (2) 鉱床の規模   岩手県釜石鉱山のスカルン型鉄鉱床は、この型式の鉄鉱床としては世界的に見て典型的なものの一つである。この鉱山は残念ながら種々の事情で今では銅鉱山に変ってしまったが、しっかりした記録の残っている1891−1979年間にここから採掘された鉄鉱石の粗鉱量は合計してほぼ5,500万トンに達し、なお1,800万トンの埋蔵鉱量(鉱石量)を残していた。従って、ここに存在の確認された鉄の鉱石量は少なくとも7,300万トン以上となる。ただし、採掘された粗鉱の鉄品位は初期には50%以上もの高品位であったが、近年では30%を切っていた。この釜石鉱山スカルン型鉄鉱床の規模は、同型式のものの中では世界的に見ても大規模なものの一例と見なしてよい。これに対して、先カンブリア時代楯状地の縞状鉄鉱鉱床の場合には、すでに述べたように(第3章)その規模は遙かに大きく、1単位の鉱床で数億トンから10億トンを超す例が、世界各地に知られている。このように、同じ鉄の鉱床でもその型式によって規模は様々である。

写真Y-3 釜石鉱山。佐比内スカルン型磁鉄鉱鉱床の巨大な露頭。別ウィンドウに拡大

表Y-3 世界鉄鉱床の型式別鉱物資源量(UN、1970)

鉱床の型式

鉱物資源量
(×109 t)

備考

1.堆積成鉱床
  a. 縞状鉄鉱鉱床*1
  b. 魚卵状鉄鉱鉱床*2
  c. その他

合計


468.5
144.5
19.6

632.6


59.9
18.5
2.5

80.9


*1:北アメリカ−39.8%、ソ連邦−28.9%、南アメリカ−17.8%、アジア−6.7%、アフリカ−4.2%
*2:ソ連邦−75.9%、ヨーロッパ−14.0%

2.火成鉱床
  a. 正マグマ成鉱床
  b. スカルン鉱床、その他

合計


55.2
30.3

85.5


7.0
3.9

10.9

 

3.風化残留鉱床
  a. ラテライト型鉱床
  b. その他

合計


14.8
10.8

25.6


1.9
1.4

3.3

 
4.型式不詳

38.8

1.9
 

総計

782.5

100.0

 

 世界的に眺めた場合、鉄の総鉱物資源量の中で各型式の鉄鉱床の占める割合いはどのようになっているのだろうか。資料は大分古いが、1970年に国際連合が発表した資料(UN, 1970)によると、それは表Y-3のようになっている。これによれば、1967年当時に見積られた世界の鉄総鉱物資源量のうち実に60%ほどは先カンブリア時代楯状地に産する縞状鉄鉱鉱床によって占められ、その他の型式をも含めた堆積成鉄鉱床全体では80%を越している。すなわち、鉄の鉱物資源の問題を世界的にかつ量的に考える場合には、この種鉄鉱床の持つ意味が極めて大きい。別な言い方をすると、自国国土内に先カンブリア時代楯状地を持つか否かは、その国の鉄の鉱物資源量の大小に大きく関係して来る。なおこの表は古いために、1960年代後半以降大量に発見されたオーストラリア西部での縞状鉄鉱鉱床に関する資料の大部分が欠けている。これらを加えた最近での状況からすれば、縞状鉄鉱鉱床の占める割合いは表Y-3中の値よりももと大きくなっているだろう。
 なお、他の鉱種の型式別規模の変化については、第3章の表V-4を参照してほしい。
 (3) 鉱物資源分布の地理的偏より   これまで鉄鉱床を一つの例として、ある一つの鉱種をとっても、その鉱床の出来方にはいくつもの型式があり、かつその型式ごとにそれぞれが出来るのに都合の良い地質環境が違っている事、およびそれぞれの型式ごとにその規模にも大きな違いがある事を述べて来た。このような関係は、何も鉄鉱床だけではなくて、その他の多くの鉱種についてもまったく同様である。他の一例として、銅鉱床の場合を表Y-4に示しておこう。この場合には、先に記した図V-6をも併せて考えれば、世界的に見た場合斑岩銅鉱床・層準規制銅鉱床・塊状硫化物銅鉱床の3型式のものが、個々の鉱床の規模も大きくかつ型式全体としての鉱物資源量も大きい事が判るだろう。
表Y-4 世界銅鉱床の型式別鉱物資源量(%)

G*1

S*2

P*3

鉱床型式

ソ連邦
先進国と開発途上国

鉱床型式

世界

世界
Tマグマ分化鉱床 A Cu-Ni鉱床 30.6 3.1 層状貫入岩体中のNi・Cu鉱床 2 4.7
B V-Fe-Cu鉱床 0.8      
Uカーボナタイト鉱床   Cu鉱床 0.8      
Vスカルン鉱床   Cu鉱床 2.0 0.6       
W熱水鉱床 A 斑岩銅鉱床 13.1 55.3 斑岩型および関連鉱床 53 52.4
B 硫化物−石英鉱床 2.0 1.2      
C 自然銅鉱床 1.0     3.3
X硫化鉄鉱鉱床   含銅硫化鉄鉱鉱床 21.2 8.8 火山性塊状硫化物鉱床 11 9.9
Y成層鉱床   含銅砂岩・含銅頁岩鉱床 30.3 29.2 砂岩・頁岩型銅鉱床 27 26.9
        その他 7 3.8
*1:Gorbnnov,G.(1974)〔岸本文男、1977〕、*2:佐藤壮郎(1979) 推定埋蔵鉱量+産出量での割合、*3:Pellisonnier,H.(1972,1975)〔矢島淳吉、1976〕

 一方たくさんある鉱種の中には、その産状あるいは型式のごく限られたものある。例えば、クロムがその良い例をなす。これまでに知られたクロムの有用鉱物はクロム鉄鉱(FeCr2O4だけである。またクロム鉱床の型式は大きく分けて二つしか無い。その一つは、超塩基性−塩基性火成岩体に伴う火成源のものであり、他はそれらを源として生じた堆積源の砂クロム鉱床である。この産状からすれば、クロム鉱床の分布は基本的には超塩基性−塩基性火成岩体の分布に完全に支配されていると言ってよい。これを規模の点からみれば、前者中の特に成層貫入岩体に伴うものが群を抜いて大きい。クロム世界埋蔵鉱量(1980)の70%近くを南ア共和国1ヶ国で占めているのは、この国にブッシュフェルト超塩基性−塩基性成層貫入岩体と呼ばれる巨大な火成岩体が存在している事によっている。それに次いで30%近くを占めるジンバブエには、同じくグレートダイク成層貫入岩体が存在している。わが国にも北海道中軸山脈南部地域や鳥取・島根県境付近などには小規模ながら多数の超塩基性−塩基性貫入岩体が存在し、それらに伴うクロム鉱床が開発・利用されたが、残念ながらその規模はまったく小さかった。
 他方、現在世界中には160以上もの大小の独立国がある。これら各国間の国境は、日本のように周囲が海に囲まれて自然環境によっている場合もあるが、その多くはこれまでの人類の歴史の中でまったく人為的に決められて来たものである。極めて率直に言えば、われわれの誠に勝手な陣取り競争の結果の産物にしかすぎない。この陣取り競争の目的の中には、鉱物・化石エネルギー資源の獲得を目指した場合も、古来いくつもの実例を容易に挙げる事が出来る。このようにして決められた各国の現在の領土は、単に位置・面積あるいは地形などに幅広い差があるだけではなくて、それぞれの国の領土の持つ地質環境もそれぞれにまったく違っている。古い先カンブリア時代楯状地をその国土内に広く含んでいる国(例えばカナダ・ブラジル・オーストラリア・南ア共和国など)もあれば、反対に主に若い地質時代の地層・岩体より成る国(日本・メキシコなど)もある。また国土が特に広くてその中に多種の異った地質環境を含む国(例えばソ連邦・アメリカ合州国・中国など)もあれば、逆にその地質構造上限られた地質環境しか含まない国もある。これらは、それぞれの国土に対して自然に与えられた個有の条件である。
 以上二つの理由、繰り返して言えば、(1)鉱床の型式には種々のものがあって、それぞれの出来るのに都合の良い地質環境は互いに違っており、しかも鉱床の規模もまた型式ごとに違っている事、(2)各国領土の地質環境はそれぞれに特徴を持っている事の二つのために、国を単元として鉱物資源の分布(種類と量)を考えるとすれば、それは極めて不公平・不規則となる。しかしこれを地質学的に調べれば、それぞれに十分理由のある天与の条件である。
 なお、それぞれの地域に対してこれまでにどれだけ鉱床探査の努力が為されて来たかも、既知鉱物資源量の大小に大きく関係している。如何に自然条件に恵まれていても、そこへのわれわれの働きかけ(探査活動)が足りなければ、実際には無いのに等しい事になってしまう。

 4. 鉱物資源に関する特定8ヶ国
 これまでに世界における鉱石年生産量や埋蔵鉱量の分布について見て来たように各鉱種ごとにその大部分が少数の特定国に集中している事実をはっきり判って頂けた事だろう。この特定国の組み合せは、もちろん鉱種ごとに異なっている。しかし、何10種にも及ぶ金属・非金属鉱物資源に関するこの種の資料をまとめて眺めてみれば、すでに記したように、ソ連邦とアメリカ合州国とは他の国々にくらべて抜きん出て多数の鉱種についてその上位5ヶ国の中に名を連ねている。それに次ぐ国々は、中国・インド・南ア共和国・カナダ・ブラジル・オーストラリアの6ヶ国である。これら8ヶ国はまた1ヶ国のみで世界埋蔵鉱量の25%以上をも占める特定鉱種を持つ例としても、何回もその国名が挙げられている。このような点で、これら8ヶ国を世界的に見て鉱物資源に特に富む特定8ヶ国と呼ぶ事にしよう。
 それでは、何故にこれら8ヶ国が鉱物資源に関してこのような特別の地位を占めているのだろうか。これには地質学的に考えて二つの大きな理由がある。
 その第一は、上記何れの国々も広い面積の国土を持ち、しかもその中に性質を異にするいくつもの地質環境の土地を含んでいる事である。ただし、インドや南ア共和国の場合には、その国土面積の中で先カンブリア時代楯状地の占める割合いが他にくらべて特に大きい。鉱物資源の産出・埋蔵に関連してこの条件の持つ地質学的意味合いについてはすでに述べておいた。これを一口に言えば、多種の地質環境を持つという事は、多種の鉱物資源を埋蔵あるいは産出する地質学的可能性を持っているという事である。
 次にその第2は、上記何れの国もその国土の中の相当部分が先カンブリア時代楯状地から成っている事である。以下にこの楯状地と鉱物資源との関わり合いについて、少し説明を加えておこう。
 楯状地という地質学的用語は、ごく広い地域にわたって地形に激しい起伏がなく、その地形断面図を画くとあたかも古代−中世の西洋の楯を横に寝かせたような形を想わせるところで、地質学的にはそこを作る地層や岩体はいずれもごく古い地質時代(今からおよそ40億年ほど前から6億年ほど前まで、すなわち先カンブリア時代)に生じたものより成っている地域を言う。カナダ東半部などはその典型的な例をなす。この楯状地地域は、ごくおおまかに言うと、基盤となる大規模な塩基性−中性火山岩累層やそれに挟まる堆積岩層、それらを貫く花崗岩−花崗片麻岩類、さらにそれらを覆う各種の浅海性堆積岩累層より成っており、その相当部分は一度出来た後の著るしい地殻変動による変形・変成作用を受けている。しかし、今から数億年前までにこの地域はすっかり剛塊化してしまい、その後は全体としての緩やかな上下運動かあるいは大規模な裂け目を生じる水平方向の伸張運動などを受けるだけであった。かつては在ったであろう著るしい起伏も、比較的最近の地質時代での引き続いた風化・侵蝕・運搬作用のために、今ではすっかり平坦化されてしまっている。このような性質を持つ楯状地は、現在の諸大陸にはどこにでも存在していて、地質学的にはそれぞれの大陸の中核部を作っている。図Y-1には古生代末に大陸移動が始まる前の現在の各大陸の位置関係をあらまし示す図に、先カンブリア時代楯状地の分布をこれまたごくおおざっぱに書き入れてある。この大陸移動以前の各大陸位置関係は、研究者により意見の差もあるが、ここにはWindley(1983)の図を便宜的に借用してある。なおこの図には、縞状鉄鉱鉱床の分布も主なものだけ記入しておいた。

図Y-1 先カンブリア時代楯状地の分布。
薄墨部−楯状地、太い黒線−縞状鉄鉱鉱床。(別ウィンドウに拡大

 この30億年以上もの長くかつ複雑な歴史を持つ楯状地には、そこにしか知られていない型式でかつ規模も大きな鉱床が何種類か知られている。すでに何回も名の挙げられた縞状鉄鉱鉱床とか超塩基性−塩基性成層貫入岩体に伴うクロム鉱床や白金鉱床などがその良い例である。また型式としては同様のものがより若い地質時代にも産出するが、規模の点では楯状地に産するものに大きいものが多い鉱床としては、堆積成マンガン鉱床・堆積成金鉱床・正マグマ成銅ニッケル鉱床・塊状硫化物銅−亜鉛鉱床・各種ペグマタイト鉱床などが挙げられよう。このような事情で、現在楯状地から産出される各種鉱石の年生産量が世界全体のそれに対して占める割合いは相当に大きい。その実状を示したのが表Y-5である。ここに挙げられた鉱種の中では、ニッケル・金のこの値は著るしく大きい。また、前に挙げた表Y-1および2中の数値がゴジック字体で示されている場合は、その量の大部分または相当部分がこのような楯状地に特有な地質環境によっている場合を意味している。
表Y-5 自由世界鉱石年生産量の上で先カンブリア時代楯状地産鉱石の占める割合(Shank,R.J.、1982)

鉱種

地域

亜鉛 ニッケル
×103t ×103t ×103t ×103t t t
インド 20.1 100 4.0 45 15.6 95 3.1 100 4.6 100
スカンジナビア 77.2 77 74.2 96 168.2 89 6.0 100 2.1 100 166.5 100
アフリカ 1,479.0 97 87.2 49 248.6 89 35.6 100 796.1 99 141.5 42
カナダ 405.2 53 10.1 3 679.9 55 271.8 100 48.7 92 857.7 63
南アメリカ 4.0 <1 25.1 9 35.0 7 5.6 21 7.8 <1
オーストラリア 199.1 79 340.5 90 345.0 76 34.3 75 16.2 100 528.7 79

*1
2,229.6   466.9   1,492.3   347.7   871.8   1,706.8  
西側世界合計*2 6,256.6   2,575.7   4,505.8   618.4   999.1   7,358.9  
上のうち楯状地産の占める割合   36   18   33   56   87   23
数値は各地域の先カンブリア時代楯状地産鉱石年生産量(目的成分含有量)、割合(%)はそれぞれの地域全体の年生産量に対する値。*1:東ヨーロッパ・ソ連邦東北部・シベリア・中国各地域を含まず。*2:計画経済諸国を含まず。

 なお、鉱床として濃集したのはずっと後の若い地質時代の出来事だが、その鉱物の源は先カンブリア時代の花崗岩類であると言う点で楯状地と深い関係を持つ鉱床に、それらの風化産物であるジルコン・モナザイト・錫石・イルメナイト・磁鉄鉱などの砂鉱床あるいは一部のボーキサイト鉱床などがある。他方、以上の諸鉱床とはまったく対照的に、より若い地質時代に多く生じた鉱床としては、タングステン・モリブデン・錫・水銀などの鉱床がある。化石エネルギー資源である石炭・石油・天然ガスの鉱床も後者の良い例と言って良い。
 このように、先カンブリア時代楯状地には各種のしかも大規模な鉱床が多く知られているので、そこは鉱物資源の分布上極めて特徴のある地域となっている。従って、ある国の国土内にこのような楯状地があるかどうかは、その国の鉱物資源の豊富さに大きな関係を持っている。

 5. 残る問題点
 これまで具体的に述べて来たような各種鉱物資源分布の地理的偏り、あるいはそれに関連しての特定8ヶ国の存在などは、世界各国の間に経済的・社会的・政治的に大きな問題をひき起して来ているのは周知の通りである。これに関しては、すでに多くの人々の著書・論文で論じられている。しかしここでは、筆者の能力にも関係して、これら諸問題を考えるのに際して基本的に理解しておいて欲しいと思われる基礎的な自然科学的事実だけを述べるのに止め、これ以上には触れない。
 なおもう一つ別な点をつけ加えておきたい。これまでは各種鉱物資源を全世界的にかつ量的な面から眺めて来たために、勢い大規模なものに目をひかれ勝ちであった。しかし、この事が直ちに中・小規模の鉱床には意味が無いという事にはならない。観点を変えて1国または1地域を単元として考える場合には、その中に存在する中・小規模の鉱床と言えどもすべて天与の大切な鉱物資源であって、これらを十分有効に開発・利用する事は、それぞれの国や地域の人々の社会生活を豊かにするためには、極めて大切な仕事である。特に開発途上国にあっては、その重要性は極めて大きくかつ緊急の課題と言わなければならないだろう。

Z. 鉱物資源の将来
 1. 量的な見透し
 (1) 予測の方法
   すでに度々述べて来たように、近年での各種鉱物資源の生産量または消費量の年々での伸びは極めて著るしい。人々の生活の豊かさの向上や世界総人口の急激な増加などにつれて、利用される鉱物資源の種類も量も、どんどん増し続けて来ている。それでは、自然界に存在するであろう各種の鉱物資源は、この私たちの絶え間無く増し続ける要求に対して、いったいどこまで応えてくれ得るものなのであろうか。ここでは、ごくおおまかにではあるが、その将来を量的な面から検討してみる事としよう。
 今後20-30年先あるいはもっと先までの長期にわたって、鉱物資源に対する年需要量・年供給量およびそれらの伸び率は、どのように変って行くものなのだろうか。これをこれまでの長年にわたる知識・経験およびそこから得られた理論とから予測しようとすると、それには、これに関係する多くの要因を同時にかつ具体的に考えに入れて行わなければならない。世界人口の伸びはどのように進むのか、社会生活の様式はどのように変って行くのか、各種産業の構造・規模はどのように発展するのか、科学・技術の進歩は今後どこまで期待し得るのかなど、算え上げれば主なものだけでもいくつもの重要な事項がある。しかも厄介な事に、これらはそれぞれが全く独立して変り得るものではなくて、その多くは互いに密接に関わり合いながら変って行くものである。従って、これら多くの要因の一つ一つに対してその将来の変化・発展の様子を具体的数値で予測する事は、大変に難しい仕事と言わざるを得ない。
 しかし難しいからと言って放っておく訳にも行かない。これまでにも多くの研究機関や個人研究者によって、この問題についてそれぞれに異ったシミュレーション・モデルが組み立てられ、そこに考えられた諸要因に具体的な見積り値を入れて計算されて、それぞれに何等かの予測が行われて来た。それらの結果は、当然の事ながらモデルの建て方や計算に入れる見積り値の取り方の違いによって、それぞれに異っている。楽観的な結論もあれば悲観的な結論もあろう。
 ここでは、便宜上あえて最も簡単な方法による事としよう。すでに第U章2のところに記したように、鉱物資源の年生産量の経年変化の様子は、長い目でみると第1近似としては指数関数的に生長して来ていると見なす事が出来る。これを前提とすると、十分正確にとは言い難いとしても、ごく簡単な式でかつ僅かの仮定だけで鉱物資源の将来の需要または供給のおおまかな量的予測を行う事が出来る。細かい点は別として、少なくともその大勢を察するのには役立つだろう。
 (2) 需要に対する予測   鉱物資源の需要に対する予測には、それぞれに異なった単元に関して行う二つの場合がある。その一つは、鉱産物の最終製品についての需要量に関して行われる。例えば、鋼・電気銅・金属アルミニウム・過燐酸石灰・セメントなど、各種産業の直接の基礎原料となる物質の年間消費量がどれだけであったか、それがこれまでにどのように変って来たかなどを基にし、さらに将来の産業はどのように発展するだろうかを予測して、これからの需要はどのように進むのだろうかを考える。これに対してもう一つ別の単元は、これらの各種基礎原料を得るのには、鉄・銅・アルミニウム・燐などの各種鉱石や石灰岩などがどれだけ必要とされるかという観点から考える場合である。ここではこの稿の主題に関連して、すべて後者の立場すなわち鉱石の量(大部分についてはその中の目的成分含有量)で考える事としよう。言いかえれば、例えば銅についての将来の需要予測を行うのに、電気銅についてではなくて、それを作る源となる銅鉱石について、すなわち毎年世界各地の銅鉱山から新たに掘り出されるであろう銅鉱石の量に関しての予測を試みようという事である。
 前に述べたように、ここでは各種鉱石の年生産量・年消費量は指数関数的に生長すると考えるので、この場合の将来の需要量は次式で与えられる(第U章2参照)。
 基準年より算えてt年度での年需要量 Pt=Po・eat
 同じくt年後までの累積需要量 Qt=(Po/a)(eat-1)
  Po:基準年での鉱石年生産量(需要量)(トン)
  Pt:t年後での鉱石年需要量(トン)
  Qt:t年間での鉱石累積需要量(トン)
  t:ここに考える期間(年)
  e:自然対数の底数
  a:%で表わされた鉱石年需要量の年生長率の1/100
表Z-1 各種鉱石の需要予測(鉱石中目的成分含有量)

鉱種

単位

基準年*1
需要量
(1978)
Po

平均*1
年生長率
(1978-2000)
100a

需要予測

埋蔵鉱量*1
(1980)
R1980

比較値

年需要量
Pt=Poeat

累積需要量
Q=Po/a(eat-1)

2000年
Pt=22

2030年
Pt=52

2000年Qt=22

2030年
Qt=52

Q2000/R1980

Q2030/R1980
Fe ×109t 0.481 2.6 0.852 1.86 14.3 53.0 93.4 0.15 0.57
Mn ×106t 8.69 2.7 15.7 35.4 261 989 1.36×109 0.19 0.73
Cr*2 ×106t 3.17 3.3 6.55 12.9 102 438 3.36×109 0.03 0.13
Ni ×106t 0.783 3.9 1.85 5.95 27.3 132 60.0 0.46 2.20
W ×103t 40.5 3.5 87.5 250 1.3×106 5.99 2.59 0.52 2.31
Mo ×103t 104 4.5 280 1.08×106 3.91 21.7 9.48 0.41 2.29
Cu ×106t 8.10 3.6 17.9 52.7 272 1.24×109 0.494 0.55 2.51
Pb ×106t 3.19 2.9 6.04 14.4 98.2 387 127 0.77 3.05
Zn ×106t 6.40 2.0 9.94 18.1 177 585 162 1.09 3.61
Sn ×106t 0.251 0.9 0.306 0.401 6.11 16.6 10.0 0.61 1.66
Au ×103t 1.44 1.5 2.00 3.14 37.5 113 32.3 1.16 3.50
Ag ×103t 11.8 1.9 17.9 31.7 322 1.05×106 0.253 1.27 4.15
Al ×106t 14.9 5.2 46.8 223 0.613×109 3.99 4.72 0.13 0.85
P*2 ×106t 125 5.0 376 1.68×109 5.01 31.2 34.5 0.15 0.90
*1:USBM(1981)。*2:鉱石量。

 表Z-1に、いくつかの適当に選ばれた鉱種に対して基準年として1978年をとり、この年での鉱石生産量(実績)と適当に仮定された1978-2000年間での鉱石需要量の平均年生長率との数値から、紀元2000年および2030年での各1ヶ年内に新たに掘り出される必要があると予測される鉱石年生産量(それぞれの年に対応する鉱石の予測需要量)と、それらの各年度末までの期間に年々掘り出されるであろう鉱石の累積量(それぞれの年までの予測累積需要量)とが、上掲の諸式によって試算されている。
 この場合の基本的な問題点は、長い将来にわたっての鉱石年生産量(需要量)の平均の年生長率を、それぞれの鉱種に対して具体的にどのように見積るかにある。この見積り値が違えば、結果はもちろん違って来る。前に述べたように、本来ならば考え合せなければならない数多くの要因を、ここではたった一つの項目で代表させ、しかも長い将来にわたっての平均の値を考えようと言うのだから、これを十分正確に見積る事は容易な事ではあり得ない。一般的に言って、このような場合の見積り値は、確からしさの程度から言ってそれほど正確なものではあり得ないのも止むを得ない。ここでは仮にアメリカ剛州国鉱山局の1978-2000年間に対して見積った値(USBM, 1981)をそのまま借用しているが、これに問題が無いわけではないだろう。人によっては、もう少し違う値を仮定すべきだとの意見も当然あるだろう。この点について銅鉱石を例にとって試算してみよう。表Z-1ではその鉱石需要量の平均の年生長率を3.6%と見積ってあるが、その代りにそれぞれ0.5%ずつ違う4.1%と3.1%という値に仮定しなおして再計算すると、その結果得られる値は、元の値のおよそ10-30%程度違ったものとなる(表Z-2)。従って、試算結果として表Z-1に与えられている数値は、それ自身細かいところまで十分意味がある値ではなくて、ごくおおまかな見当をつける値と考えて欲しい。
表Z-2 予測平均年生長率の違いによる見積り値の差
  年度 需要量の予測平均年生長率
4.1% 3.6% 3.1%

年需要量
(×106t)
2000年 20.0(1.12) 17.9 16.0(0.89)
2030年 68.3(1.30) 52.7 40.6(0.77)

累積需要量
(×106t)
2000年まで 289(1.06) 272 255(0.94)
2030年まで 1.47×109(1.19) 1.24×109 1.05×109(0.85)

 しかしいずれにしても、表Z-1に与えられている数値は、どの鉱種に対しても実に莫大な量と言ってよいだろう。むしろ恐るべき量と言った方が良いかも知れない。例えば、この表の右側の比較値の欄に付記されているように、各鉱種の1980年度での埋蔵鉱量(R1980)と2030年(今からおよそ50年後)までの予測累積需要量(Q2030とを比較してみよう。前者の値が後者の値よりも大きい鉱種、すなわち1>Q2030/R1980、言いかえれば1980年度に持っていた埋蔵鉱量だけで今後のおよそ50年間に予測される需要量を賄い得る鉱種は、ここに挙げた14鉱種の中では僅かに鉄・マンガン・クロム・アルミニウム・燐の5鉱種にすぎない。またこれを紀元2000年までの予測累積需要量(Q2000について考えても、亜鉛・金・銀の場合には後者の方が前者よりも上回っている(Q2000/R1980>1)。すなわちこれらの3鉱種の場合には、1980年度の埋蔵鉱量だけでは今後20年間ほどの予測累積需要量すら賄い得ない事を意味している。これに類する鉱種としては、この表には掲げてないが、他のインディウム・ビスマス・水銀・重晶石・石綿なども挙げられる。ここに試算された予測累積需要量が如何に大きいかがこれでよく判るだろう。
 (3) 供給に対する予測   先に見積った今後20-50年間ばかりでの各種鉱石の予測需要量に対して、供給の方はどのような事情になっているのだろうか。これを考えるのにまず役立つ数値は、私たちが現在持っている各種鉱物資源量の中では各鉱種についての埋蔵鉱量の値であろう。それは、この値はすでに地質学的に発見・調査された鉱床に関するもので、しかもその品位・規模その他の諸性質から判断して開発・利用の可能性が十分にあると評価された有用鉱床についての量だからである。
 需要予測の場合と同様に、鉱物資源の利用は指数関数的に生長するとの立場に立てば、今手持ちの埋蔵鉱量のすべてがすっかり使い尽されてしまうまでの期間の長さ(te年)は、次式で与えられる。
 te=〔ln{(aR/Po)+1}〕/a (年)
  R:基準年での埋蔵鉱量(トン)
 従って、ある鉱種についての基準年での鉱石生産量(Poトン)、埋蔵鉱量(Rトン)およびここに考える期間内での鉱石生産量の平均の生長率(%、100a)とが具体的数値として与えられれば、この長さは容易に試算できる。表Z-3は、この考え方の下にいくつかの適当に選ばれた鉱種に対して試算した結果を示している。便宜上ここでは、基準年での鉱石生産量・埋蔵鉱量および前者の平均の年生長率の値は、前の場合と同様にアメリカ合州国鉱山局の発表した値(USBM, 1981)をそのまま借用してある。ただし、本来ならば基準年鉱石生産量としては1979年度の値を使うべきなのだが、資料の都合上ここでは1978年度分を利用している。こうしても、結果の内容に大差は生じないと考えてよいだろう。
表Z-3 各種鉱石の供給予測

鉱種
基準年
埋蔵鉱量*1,2
R(1980)
基準年
鉱石生産量*1,2
Po(1978)
予測鉱石生産量
年生長率*1
(1978-2000)
100a(%)
予測耐久年数
te=〔ln{(aP/Po)+1}〕/a
R 3R 5R
Fe 93.4×109 0.48×109 2.6 69 107 126
Mn 1.36×109 8.69×106 2.7 61 103 121
Cr*3 3.36×109 3.17×106 3.3 108 141 157
Ni 60.0×106 0.729×106 3.9 36 61 73
W 2.59×106 45×103 3.5 31 56 69
Mo 9.48×106 0.100×106 4.5 37 58 69
Cu 444×106 7.53×106 3.6 34 58 71
Pb 127×106 3.45×106 2.9 25 50 64
Zn 162×106 5.88×106 2.0 22 49 66
Sn 10.0×106 0.278×106 0.9 31 45 107
Au 32.3×103 1.22×103 1.5 22 52 73
Ag 253×103 10.7×103 1.9 20 45 52
Al 4.72×109 17×106 5.2 53 73 82
P*3 34.5×109 0.125×109 5.0 54 75 85
*1:USBM(1981)。*2:鉱石中目的成分含有量。*3:鉱石量。

 この表を読む上では、以下に記すようにいくつかの注意すべき点がある。まず予測耐久年数(寿命)の欄のRに対応する行を見てみよう。ここで各鉱種に対して与えられている年数は、定義通りに、ここに与えられた諸条件の下で基準年に持っていた埋蔵鉱量のすべてが掘り尽されてしまうまでの期間の長さである。つまり、この期間の最後の年には基準年での埋蔵鉱量が0となる、すなわち基準年に見つけてあったその鉱種の各種鉱床のうち実際に利用出来る分(有用鉱床)がまったく無くなってしまう事を意味している。これを言いかえれば、今後何10年もの間、基準年以降には新らしく埋蔵鉱量としてつけ加えられる分がまったく無く、基準年での手持ち量だけで過すとすればこうなるという事である。しかし、実際にはそんな事は起らない。私たちが今後も引き続いて探査活動を十分有効に行うよう努力しさえすれば、まだまだ新らしい有用鉱床を見つけ得るだろう事は地質学的には十分期待出来る。これは、現在では潜在鉱物資源と考えられている分の何程かが、近い将来に発見されて埋蔵鉱量として新らしくつけ加えられる事を意味している。また、鉱業技術の進歩や社会・経済状勢の変化に伴って、これまでは利用し得なかった鉱床が実際に役立つようになる事も起るだろう。これは既知経済限界下鉱物資源量の一部が新たに埋蔵鉱量に格上げされる事を意味する。これらの今後新たに埋蔵鉱量としてつけ加えられる分は、今後の何10年かの間に当然利用出来るものと考えてよい。このような事情から、R欄で示されている数値だけで将来を論ずるのは極めて不十分である。例えば、銅鉱石の寿命は後34年(2012年まで)とそこに試算されているからと言って、本当にその年までに利用し得る銅鉱石がまったく無くなってしまうと速断する必要はまったく無い。このR欄に示されている数値だけで気早く一喜一憂する必要は無い。それとは別に鉱石生産量の平均の年生長率の見積もり値がここに推定されている値より仮に大きくなれば、試算される寿命はもっと短かくなる。もちろん、その逆の場合も有り得る。
 次に考えなければならない重要な問題は、それならば基準年以降の何10年かの間にいったいどのくらいの量の埋蔵鉱量を新らしくつけ加え得るものなのだろうかとの見積りである。これもまた極めて難かしい作業である。そのために一般的に考えなければならない要因がたくさんあると言うだけではなくて、地質学的にもまた鉱業技術・社会経済的にも、それらの要因の関わり具合いは各鉱種ごとにまったく異っている。従って本来ならば、この量の見積りは各鉱種ごとに別けて行われなければならない筈のものである。しかしここでは、ごく簡単に考えてすべての鉱種に対して一様に見積る事にしよう。表Z-3(略)の予測耐久年数の欄で3R・5Rとしたのがその見積り量である。
 3Rとは、基準年での埋蔵鉱量の2倍に相当する量が基準年以降のここで考える期間内に新たにつけ加え得ると仮定した場合を意味している。この場合計算上は、基準年に3Rに相当する埋蔵鉱量があったとするのに等しい。5Rの場合は、同様に考えて4倍相当量をつけ加え得ると仮定した場合である。この表には、この3R・5Rと仮定しなおした場合の予測耐久年数(寿命)が各鉱種に対して試算された結果も示されている。使い得る量が増せば、寿命は当然伸びる。しかし、この場合これらは正比例はしない。Rが5Rになっても、寿命の伸びはせいぜい2倍程度(銅の場合34年から71年へ)にしかすぎない。これは一重に、鉱石年生産量が指数関数的に生長している事に起因している。
 上のように考えるとしても、今後の何10年間に1980年現在の埋蔵鉱量の2倍ないし4倍にも相当する量を新らしく埋蔵鉱量としてつけ加える事は本当に可能なのだろうか。これを考える助けとして、まず3R・5Rの値が如何に莫大な量であるかを、鉱物資源に関する他の値と比較・検討してみよう。
表Z-4 期待増加量の大きさ

鉱種

期待増加量

予測累積需要量

総鉱床量

総鉱物資源量

比較値

3R

5R

Q2030

D

既採掘量(-1979)

埋蔵鉱量(R)

その他
合計(T) R/T 3R/Q2030 3R/T 5R/D
Fe 2.80×1011 4.67×1011 5.30×1010 2.3×1012   9.34×1010 1.04×1011 1.97×1011 0.47 5.28 1.42 0.20
Mn 4.08×109 6.80×109 9.89×108 4.7×1010*1   1.36×109 7.45×109*1 8.81×109*1 0.15*1 4.13 0.46*1 0.14*1
Cr*2 1.01×1010 1.68×1010 4.38×108     3.36×109 2.93×1010 3.27×1010 0.10   0.31  
Ni 1.80×108 3.00×108 1.32×108 3.7×109*1 1.16×107 6.00×107 4.58×108*1 5.18×108*1 0.12*1 1.36 0.35*1 0.08*1
W 7.07×106 1.30×107 5.99×106 6.8×107   2.59×106 4.17×106 6.76×106 0.38 1.36 1.15 0.19
Mo 2.84×107 4.74×107 2.17×107 6.8×107   9.47×106 1.14×107 2.09×107 0.45 1.31 1.36 0.70
Cu 1.48×109 2.47×109 1.24×109 2.7×109*1 2.34×108 4.94×108 1.37×109*1 1.86×109*1 0.27*1 1.20 0.80*1 0.91*1
Pb 3.81×108 6.35×108 3.87×108 5.9×108 1.88×108 1.27×108 1.61×108 2.88×108 0.44 0.99 1.32 1.08
Zn 4.86×108 8.10×108 5.85×108 3.2×109 2.33×108 1.62×108 1.69×108*1 3.31×108*1 0.49*1 0.83 1.47*1 0.25
Sn 3.00×107 5.00×107 1.66×107 9.0×107   1.00×107 2.70×107 3.70×107 0.27 1.81 0.81 0.56
Au 9.69×104 1.62×105 1.13×105 1.8×105 9.0×104 3.23×104 2.90×104 6.13×104 0.53 0.86 1.58 0.90
Ag 7.59×105 1.27×106 1.05×106 3.2×106   2.53×105 5.17×105 7.70×105 0.33 0.72 0.99 0.40
Al 1.42×1010 2.36×1010 3.99×109 3.7×1012   4.72×109 3.31×109 8.03×109 0.59 3.56 1.77 0.006
P*2 1.06×1011 1.77×1011 3.52×1010     3.45×1010 9.5×1010 1.30×1011 0.27 3.40 0.82  
埋蔵鉱量などの鉱物資源量の値はUSBM(1981)による。数値はすべて鉱石中目的成分含有量。*1:これらの場合には、大陸地殻上部に試算された総鉱床量D値に、さらに海洋地殻表層部での既知鉱物資源量をも含む。*2:鉱石量。

 表Z-4には、期待増加量(3R・5R)のほかに、関係する諸量を挙げ、一番右欄に比較値を載せてある。まず第1に、予測される2030年までの需要累積値(Q2030と3Rとの関係を見てみよう。ここに掲げられた14鉱種の大部分に対してはこの比(3R/Q2030の値は1より大きいが、鉛・亜鉛・金・銀に対しては1より小さい。すなわちこの4鉱種の場合には、今後2R程度の新らしい埋蔵鉱量の追加では、今後の50年ほどすら賄い得ない事を意味している。
 次に3Rの値を現在の知識で計上されている総鉱物資源量(T)の値と比較してみよう。この比3R/Tの値は最大のアルミニウム(1.77)から最少のクロム(0.31)まで鉱種により差があるが、この比がより大きい(3R>T)鉱種はここに挙げた14鉱種中の半分の鉱種に及んでいる。ところで、ここに総鉱物資源量(T)として計上されている値の中には、定義に従って、すぐ使える分の埋蔵鉱量のほかに、すでに見つけてはあるが現在では直ちに開発・利用はし難い既知経済限界下鉱物資源量をいずれも多量に含み、また鉱種によってまだ見つけてはいないが地質学的にはその存在が推論される潜在鉱物資源量をも含んでいる。さらに、マンガン・銅・ニッケルなどに関しては、海洋地殻上に知られているマンガン団塊鉱床ほかの分も含まれている。しかも大部分の鉱種では、総鉱物資源量(T)の中で埋蔵鉱量(R)の占める割合い(R/T)は0.5以下である。言いかえると、ここに掲げられた総鉱物資源量のすべてが本当に役立つ(すべて埋蔵鉱量に繰り上げられる)ようにするためには、地質学的にもまた鉱業技術・社会経済的にも、今後極めて大きな努力が払われなければならない事が前提となっている。このような事情からすれば、この3Rという期待増加量の大きさは並々ならぬものである事の一端を知る事が出来るだろう。
 さらに、5Rで示されている期待増加量の値を、大陸地殻上部にその存在が期待される総鉱床量のうちの最小値(D)(ただし、この表ではマンガン・ニッケル・銅・亜鉛に関しては、海洋地殻表層部に知られている既知経済限界下鉱物資源量も加えてある)と比較してみよう。表中の5R/Dの欄に記されている各鉱種に対する値をみれば、多くのものについては10-30%を占めているのにすぎないが、モリブデン・銅・錫・金では60-90%を占め、鉛に到ってはこの試算では100%を超している。総鉱床量の持つ意味(第X章5参照)から考え、また銅・鉛・金についてはそれらの既採掘量の大きさの事まで考えに入れると、これらの5R/D比の値の大きさは驚くべき数値と言った方がよい。さらに前出(第X章)の図X-6を参照して欲しい。この図には、各元素ごとにその各種鉱物資源量と共に、期待増加量5Rの値も打点されている。この場合、単に5Rの値そのままではなく、既知の値に5Rを加算して打点してある。すなわち、今後発見・獲得を期待されるべき5R(期待増加量)にすでに掘ってしまった既採掘量やすでに見つけてしまった既知鉱物資源量の値を加えて打点してある。こうしてみると、その合計値は、金・アンチモン・錫・鉛・銅などではD線またはC線を超えている。銀・亜鉛などもその既採掘量を加算出来れば、これらと同じようになるかも知れない。いずれにせよ、これらの鉱種の場合に5Rの期待増加量を本当に今後発見・利用出来るかどうかは、地質学的に考えてもなかなか難しい問題を含んでいると言ってよいだろう。
 このような事情から考えると、地質学的に判断して埋蔵鉱量を5Rにまで伸す事の十分可能な鉱種は、表Zー4に掲げられた14鉱種の中では、鉄・マンガン・アルミニウムなどの比較的に限られた少数の鉱種にすぎず、一般的にはいろいろ問題があるように思われる。
 その上に、仮に3Rまたは5Rの期待増加量が幸いにして獲得出来たとしてすら、今のような使い方を続けて行く限り、予測される寿命が100年以上と試算される鉱種は、僅かに鉄・マンガン・クロム(5Rを考えれば錫も加わる)のみであり(表Z-3参照)、この表に無い鉱種を考えても、バナジウム・ガリウム・レニウム・白金属・砒素・テルル・マグネシウム・カリウムなどが算え上げられるのにすぎない。100年という年月は、ほぼ3世代の長さに相当する。私たちの孫の世代あるいはその次の世代の時代には、いったいどういう事態になっているのだろうか。私たち人類がその知恵と意志とをよく働かせて、この困難をよく克服するであろう事を心から期待するよりほかにない。
表Z-5 鉱物資源の量の予測に関する指標
鉱種 Q2000/R1980 3R/Q2030 te(3R)(年) 5R/D
Fe 0.15 5.28 107 0.20
Mn 0.19 4.13 103 0.14*
Cr(鉱石) 0.03 23.1 - -
Ni 0.46 1.36 61 0.08*
W 0.52 1.36 56 0.19
Mo 0.41 1.31 58 0.70
Cu 0.55 1.20 58 0.91*
Pb 0.77 0.99 50 1.08
Zn 1.09 0.83 49 0.25
Sn 0.61 1.81 75 0.56
Au 1.16 0.86 52 0.90
Ag 1.27 0.72 45 0.40
Al 0.13 3.56 73 0.006
P(鉱石) 0.15 3.40 75 -
*これらの鉱種ではD値中に海洋地殻表層部での鉱物資源量をも含む。
 (4) 現状でのまとめ   これまでにいろいろな試算を行い、またその結果の解釈を進めるのに当っては、次の事を前提としていた。
 1) 今後とも基礎研究が十分に進んで、鉱床の産状・性質に関する知識・理論が大きく進展し、その出来方(成因)の理解も十分になって、それらの結果が新鉱床探査のための有効な拠りどころとなる。
 2) 上の結果を利用しかつ探査技術の進歩をも加えて、今後とも引き続き探査活動が十分かつ有効に行われ新らしい鉱床がどんどん発見される。
 3) 現状では経済限界下の鉱床も、近い将来での科学・技術の進歩や社会・経済状勢の変化・進展に伴って、その中の相当量がこの20-50年ほどの間には技術的・経済的に実際に利用出来るようになる。
 4) ここに考える期間内での鉱石需要の将来の伸びは、近年での実績と将来への展望とからここに予測された平均の年生長率の値がそのまま保たれた状態で進む−これを言いかえれば、少なくともここ当分の間は、将来、科学・技術の進歩や社会・経済状勢の変化の点で、現在一般に予測されている以上の極端な変革は起きないと想定する。
 上の諸条件をすでに十分に満足させる事自体決して容易な事ではない。特に最後の第4項の見透しは最も難かしい。これが変れば、試算値もまたその結果の解釈も共に大きく変って来よう。
 ここでは、上の前提条件を一応全面的に認める事とした上で、鉱物資源の将来を量的に展望するのに、表Z-5に示されているようないくつかの指標を利用して考えてみる事にしよう。それらは、
 a. Q2000/R1980、 b. 3R/Q2030、 c. te(3R)、 d. 5R/D
の各数値である。
 まず第1に、a)Q2000/R1980比の値は、現在手持ちの埋蔵鉱量(R1980のみで今後の20年ほどの予測累積需要量(Q2000)を満すのに十分かどうかの度合いを示すものである。この値の1より大きいあるいは1に近い鉱種は、今後の比較的短い10-20年程度の期間を考えてすら現在の埋蔵鉱量を急いで増す必要性の強い鉱種と考えてよいだろう。これに該当する鉱種は、表Z-5に掲げた14鉱種の中では、
 Ag(1.27)、Au(1.16)、Zn(1.09)
があり、次の各鉱種もそれに近い。
 Pb(0.77)、Sn(0.61)、Cu(0.55)、W(0.52)
また表外の鉱種としては、
 Bi(1.25)、In(1.12)、Hg(1.00)、重晶石(1.38)、石綿(1.30)
などが挙げられる。
 次に、b)3R/Q2030比の値の1より小さい事は、今後50年間ほどに予測される累積需要量に対して3Rという期待増加量では不十分である事を意味している。この場合には、前者より長期的(30-50年程度)に眺め場合に、その間に埋蔵鉱量を大幅に(3R以上に)増す必要のある鉱種と考えてよい。これに該当する鉱種は、
 Ag(0.72)、Zn(0.83)、Au(0.86)、Pb(0.99)
であり、それに次ぐものは、
 Cu(1.20)、Mo(1.31)、W(1.36)、Ni(1.36)
などである。さらに表外の鉱種としては、次が挙げられよう。
 In(0.60)、Bi(0.77)、Mg(0.86)、Ge(0.99)、石綿(0.46)、重晶石(0.77)
さらに、c)te(3R)の示す年数が50-60年以下となる鉱種は、b)の場合と同様に考えて良いだろう。これに該当する鉱種は、
 Ag(45)、Zn(49)、Pb(50)、Au(52)、W(56)、Cu(58)、Mo(58)、Ni(61)
などで、このほか表外の鉱種としては、
 In(37)、Hg(40)、Bi(43)、Ge(44)、Cd(53)、Ta(57)、RE(62)
などがある。
 以上3種の指標は、一口に言えば、20-50年ほどの近い将来に埋蔵鉱量を増す努力が特に必要と考えるべき鉱種はどれかを示すものと考えてよいだろう。上の三つの場合の例で常に名の挙げられた鉱種は、この表に掲げられた14鉱種の中では、
 Cu・Pb・Zn・Au・Ag・W
の6鉱種で、これらに対する状勢はなかなか厳しい。なお表Z-5に挙っていない鉱種の中では、In・Cd・Bi・Hgなどがこれに相当する。
 最後のd)5R/D比の値の持つ意味については先にすでに述べた。この値の0.25より大きい鉱種としては次がある。
 Pb(1.08)、Cu(0.91)、Au(0.90)、Mo(0.70)、Sn(0.56)、Ag(0.40)、Zn(0.25)
また表外の鉱種の中では、
 Sb(2.42)、Pt族(1.41)、Cd(0.36)、Te(0.36)、Se(0.26)、燐(0.37)
などがあり、特にアンチモンのこの値は異常に高い。
 以上この項でこれまでに考えて来た事すべてを綜合してみれば、たくさんある鉱種の中で今後の20-50年間ほどを考えた場合に量的に特に何らかの問題を持つものがどれであるかの見当をつける事が出来るだろう。後はわれわれが今後新らしい有用鉱床を発見し、あるいは経済限界下の鉱床を有用鉱床に格上げするために、どれだけの努力を払いどれだけ実効を上げ得るのかにかかっている。

 2.人間の自然への働きかけ−鉱物資源の種類と量とを増すための努力
 これからの長期間にわたって、人類がその生活を保ちかつさらに発展させて行くためには、多種多様かつ莫大な量の鉱物・化石エネルギー資源を必要とする事は避けられそうもない。これまでの、特に近年での先進工業諸国でのこれらの使い方にはいろいろな問題がある事は確かで、私たちに反省すべき点の多い事は事実だが、しかし長い将来を見透した場合、すでに45億を超え、21世紀初頭には60億にも達しようとするまでに予測されている全世界の人々の生活を賄うためには、主義・主張あるいは社会態勢の違いなどを超えて、これを避けて通る事は出来ないだろう。そのためには、まず第1にこれら各種の鉱物・化石エネルギー資源の有効な利用に心がけると共に、次いでその種類と量とを増すための努力を今後とも一層続ける事が必要となる。これまでに考えて来た事を基礎に置いて考えるとすれば、そのためにはいったい何を為すべきかを、以下にもう一度まとめて考えてみよう。
 (1) 基礎研究の発展−新らしい探査戦略、戦術の確立   かつては、未知の土地に新らしく鉱床を見つけるためには、何よりもまず目的とする地域をこまめに歩いて、鉱床の露頭を探し出し、そこを基点として周辺に探査を進めるのがその第1歩であった。しかし、その後の長期間にわたる各地での鉱業活動の結果、このような手段の楽に通用する土地は今ではずっと減ってしまった。もちろん現在でも、地表地質調査のまだ十分には行き届いていない地域が世界各地に残っていて、最近でも基本的にはこの方法で大鉱床の発見された例はいくつもあるし、またある限られた地域では今後も暫くの間はこれが続くだろう。しかし現在では、地表に露頭のある鉱床だけではなくて、まったく地中深くに隠れて存在している鉱床(潜頭鉱床)を積極的に探査・発見し、それらを有効に開発利用する必要性が極めて大きくなって来ている。また、鉱床は未発見でもそこの地質環境がある程度以上判っている地域に対しては、そこにどんな種類(鉱種・型式・規模・性質など)の鉱床が存在しているだろうかとの予測も、鉱床学の知識・経験と理論とに基づいて、相当程度にまで行う事が可能になって来ている。
 未知の土地に新らしく鉱床を見つけ出すためには、その為の戦略・戦術を必要とする。ただ無暗に歩き廻りさえすれば良いというものではない。またやたらに試錐をたくさん掘れば良いというわけでもない。極めて直接的に言えば、鉱床探査の第1の拠りどころは、それぞれの地域の地質環境と一般的な鉱床の出来方(成因)とについての知識・経験と理論とである。これらがあってこそ、目的とするある特定鉱種に対する探査の対象地域として何処を選ぶべきか、そこではどのような点に重点を置いて調査・研究すべきか、あるいはどんな調査・研究方法をとるべきかなどに関して、初めて具体的な方針が立てられ得る。
 一方、一見まったく無関係に見えるような地球科学の基礎的研究の結果が、新らしくかつ極めて有効な探査の基本方針として、後に広く応用されるようになる事もしばしば起きている。例えば、構造地質学での最も基本的な研究成果が、探査の基本要因の一つである鉱床はどこにあるかという点に関して、極めて直接的な解決を与えるようになった実例を挙げる事は容易である。かつて鉱床の構造規制と呼ばれて鉱山地質学上の大きなトピックスの一つとなった問題もその良い例であろう。またもっと大きなスケールの例としては、最近でのプレートテクトニクス説の探査への応用もある。
 いずれにせよ、鉱床を直接の研究対象とする鉱床学のみならず、地球科学全般の健全な発展こそ鉱床探査の一番の基礎である。これに基づかないでは探査は良い結果を挙げ得ない。逆説的に言えば、一般的な地球科学の基礎研究の諸成果を如何に有効に鉱床探査に応用し、かつどれだけの実効を収め得るかは、一重に探査関係者の能力と努力とに関わっている。
 もちろん同時に、探査の実施に関連する諸技術、あるいはそれらの基礎となる関連諸科学の大幅な進展を必要とする事は言うまでもない。特に深所に在る潜頭鉱床発見のためには、そのための物理・化学的探査法の確立が強く望まれる。
 (2) 探査活動への努力−潜在資源を既知資源へ   既知鉱物資源量を増すための方法は、言うまでもなく未知地域での探査活動によって、それまでに知られていなかった潜在鉱床を新たに探し出す事である。どの地域でどんな鉱種・型式・規模・性質の鉱床を探査すべきかは、前に述べたように事前に方針を立てる事が出来る。方針が立てば、後はそれを如何に有効に実行するかの努力に尽きる。しかし残念ながら、探査を実施すれば100%の確立でそこに有用鉱床が見つけられるという保証は、現在のところではまだあり得ない。仮に探査の結果幸いにして新鉱床を見つけ得たとしても、それがすぐに利用出来る有用鉱床ではなくて、発見した時期には種々の理由で経済限界下である場合も多い。現に、1980年度に計上されている総鉱物資源量の中で埋蔵鉱量の占める割合いは、ほとんどの鉱種に対して20-50%前後である(表Z-4のR/T比の値を参照)。これに加えて、未知の土地での調査は、多くの地理的・社会的・経済的・政治的などの諸問題に関連して、何処でもまた何時でも望む通りに直ちに実行が可能というわけでもない。最近における探査活動は、炎熱の砂漠地帯や逆に酷寒の極地方あるいは密林のジャングル地帯などと、人里離れた僻地で行われる事も極めて多い。探査関係者の苦労は心身共に大変なものと言わなければならない。
 しかしながら、如何に困難があろうとも、探査活動無しには新鉱床は絶対に見つけ得られない。また、探査活動が始められてから結果を得るまでには、一般の人々の想像する以上に長い期間と多くの資金・労力とを必要とする。何かが足りなくなったからと言ってその時になって慌てて探し始めても、おいそれと良い結果を得る事は期待し難い。従って、鉱業における探査活動は、常に少なくとも10年以上、場合によっては何10年も先の事を考えに入れて、その方針が立てられ可能な限りの努力が続けられて来ている。
 (3) 科学・技術の進歩と社会・経済状勢の変化−経済限界下の鉱床を有用鉱床へ(経済限界下鉱物資源量の埋蔵鉱量への格上げ)   鉱業技術の進歩や社会・経済状勢の変化によって、実際に開発・利用し得るようになった鉱床の量がこれまでにどれほど増して来たかは、その実例をいくつでも容易に挙げる事が出来る。前に述べたように銅鉱石の粗鉱平均品位は、このおよそ100年ほどの間に10%前後から0.4-0.5%にまでと、格段に下げられて来た。これには、一つには銅鉱石の採掘・選鉱・製錬各工程に関する鉱業技術の進歩が大きく関係している。中でも浮遊選鉱法の発達の影響が著るしい。他方、近代産業の基礎原料の一つとしての金属銅および各種銅合金の需要が急速に伸びて来た。これらの事情が重なり合って、それまでは利用し得なかった低品位銅鉱床が大量に有用鉱床に変わり、私たちの生活向上に大きな役割りを果たすようになった。
 科学・技術は将来とも益々進歩するであろうし、また社会・経済状勢も今後大いに変わるだろう。私たちがこの進歩・変化を正しく活用すれば、経済限界下の既知鉱物資源量の相当部分を埋蔵鉱量に格上げし得る事はこれからも大いに期待で出来るだろう。例えば、深海海底にその存在がすでに確認されているマンガン団塊鉱床は現在はまだ実際に利用されるまでには到っていないが、いずれそのうちには採掘・利用されるようになって銅・ニッケル・コバルトなどの有力な鉱物資源として活用されるだろう。
 (4) 新らしい型式の鉱床の発見−総鉱床量の増加   ベリリウムという元素は、ベリリウム金属・ベリリウム銅合金・酸化ベリリウムなどの形で各種の産業に利用されている。この元素は、かつては緑柱石(Be3Al2Si2O8というベリリウムのアルミノ珪酸塩鉱物またはクリソベリル(BeAl2O4という酸化鉱物をその原料として得られて来ていた。これらのベリリウム鉱物は花崗岩質ペグマタイト中にしばしば立派な結晶として産出し、緑柱石の一部は宝石として珍重されている。ベリリウムの鉱床としては、このような含緑柱石・クリソベリル花崗岩質ペグマタイトがこれまでは唯一のものであった。ところが第2次世界大戦後の調査・研究によって、アメリカ合州国ユタ州にある第三紀火山岩累層中に、ごく微粒のベルトランダイト(Be4Si2O7・(OH)2というベリリウムの含水珪酸塩鉱物を相当多量に含む変質凝灰岩層が新たに発見された(Shawe,D.R., 1968)。これはその後の詳しい研究によって、ベリリウムの新らしい型式の有用鉱床である事が判り、1969年以降実際に開発・利用されるようになった。現在では、ベリリウムの平均品位が0.23%程度の粗鉱を年間10万トンほど生産するようになり、アメリカ合州国で最大のベリリウム鉱物資源として注目されている。またカナダでは、フェナカイト(Be2SiO4の濃集した新型式のベリリウム鉱床が閃長岩貫入岩体に伴って産する事が1970年に発見され、近い将来での開発が検討されている(Schiller,E.A., 1985)
 現在ブラジルはニオブ鉱石の世界最大の産出国(1978年度には、世界生産量の74.2%を産出)であり、同時にまた世界最大の埋蔵国(1980年度世界埋蔵鉱量の78.9%)でもある。これは、同国内にパイロクロアー((Ca,Na)2(Nb,Ta)2O6・(O,OH,F))というニオブの含水酸化鉱物がカーボナタイトという特殊な火成岩を母岩として濃集している鉱床あるいはそれを源としたニオブの砂鉱床が比較的最近に見つかり、それらが開発・利用されるようになったためである。ニオブの有用鉱物としては以前はコロンバイト((Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6という酸化鉱物が唯一のものであった。これは主に花崗岩質ペグマタイトや石英脈中に濃集してその鉱床を作っている。もちろん、パイロクロアーという鉱物の存在は古くから知られていたのだが、これが濃集してニオブ鉱床を作るという事実は、第2次世界大戦後に各地で発見され、今ではブラジルやカナダでこの種の鉱床が盛んに開発・利用されるようになった。このカーボナタイトを母岩とするパイロクロアー鉱床も、最近になって知られるようになった新型式の鉱床の好例である。
 これらは僅かの実例にすぎないが、私たちの鉱床に関する知識は残念ながらまだまだ極めて不十分で、これまでにまったくその存在の知られていなかった新らしい型式の鉱床、すなわち在来型のものとは成因・産状・性質・規模などを異にする新らしい型式の鉱床が、地殻中にはまだまだ存在しているのだろう事をこれらが示している。ごく最近での海洋底での銅・亜鉛鉱物を主とするいわゆる熱水成銅亜鉛鉱床やコバルトクラスト鉱床の発見などもその良い例として挙げ得よう。これを言いかえれば、私たちの自然への働きかけはまだ誠に不十分で、新らしい型式の鉱床発見の可能性はまだ十分に残っていると言って良いだろう。
 前に大陸地殻上部での総鉱床量の見積りに当っては、実際に使えた数値資料はすべて在来型の鉱床に関するものばかりであった。上のように新型式の鉱床の存在が確認されれば、必要な数値資料がそれだけ増す事となり、従って総鉱床量の推定値にもよい影響を与える事になる。
 (5) 新らしい用途の開発−普通の岩石・鉱物を鉱物資源へ   まえがきですでに述べておいたように、何が鉱物資源なのかは、それぞれの岩石や鉱物について自然にすでに決ってしまっているものではない。私たちの自然への化学的あるいは技術的な働きかけによって、これまでに使い道のまったく無かった普通の岩石や鉱物に新らしく利用の道が工夫されると、それらは鉱物資源へと変わる。最近のおよそ100年間での科学・技術の進歩はこの方面でも輝やかしい成果を挙げて来た。その具体例を一々挙げるまでもない事だろう。
 ここには、余り人目につかないと思われる例を一つだけ挙げておこう。頁(けつ)岩(シェール)という名の岩石は、泥粒の固まって出来た堆積岩の1種である。ごく古い地質時代から現在に到るまで、また地殻上到る所で、つまり時間的にも空間的にもごく広い範囲にわたって生じているごく普通の岩石である。ところで、ある種の頁岩を適当な大きさの塊りに砕いたものをロータリーキルンと呼ぶ炉の中で高温に熱すると、ちょうどトウモロコシの粒からポップコーンが出来るように、各破片が急に膨張して軽石のように隙き間や穴凹の多い軽い塊りが出来る。良い条件に恵まれると、適当な大きさを持ち軽くてしかもある程度以上の丈夫さのある塊りが得られる。このような塊りは、普通の砂利の代わりにいわゆる軽量骨材と呼ばれてコンクリート用骨材となり、今では広く使われている。砂利よりずっと軽くてしかも必要な丈夫さを持っているので、各建築物を作るのに大変に役立つ。ただし、どの頁岩からでも常にこれが作られ得るというものではない。先程ある種の頁岩と書いたが、この「ある種」の中には極めて複雑な岩石学的・鉱物学的あるいは物理的な特徴が含まれていて、これに合う性質を持つ頁岩はその産出が限られている。また「良い条件」の中には砕き方や破片の大きさ、また熱し方など様々の技術的な問題が含まれている。このような頁岩の利用の仕方は、日本では第2次世界大戦後に広まった。誰が初めてこれを工夫したのかは筆者は不明にして知らないが、ごく当り前の何処にでもある岩石でも、私たちの創意と努力とによってこれを鉱物資源に変える事の出来た一つの良い例と言ってよいだろう。
 (6) 再利用・省資源−限りある鉱物資源を無駄なく有効に使おう   鉱物資源の再利用は、鉄・銅・鉛などいくつかの金属あるいは各種のガラス容器などの場合にはすでに古くから行われて来ており、今後はさらに多くの鉱種に対してこの方面の努力が益々重要となる事に間違いはない。さらに、これが単に物質的な意味で役立つというだけではなくて、前に述べたように鉱業諸工程、特に金属の製錬に必要なエネルギー量の節約にも相当大きな影響を及ぼす事からも、極めて重要である。
 省資源という点では、鉱業諸工程を通じて技術的にさらにこれを高めるだけではなく、その鉱産物の加工や諸製品の製造工程でも事情はまったく同じである。さらに私たちの日常生活でのこれらの利用の仕方にも、このような点に大いに気を配る必要のある事も言うまでもない。
 限りある鉱物・化石エネルギー資源を無駄なく有効に使う事は、後の世代の人々のために現在に生きる私たちの為すべき大きな責務である。

 3.別な問題点−大量消費・廃棄物処理・環境破壊・エネルギー・国際関係   
 これまでに、鉱物資源に関する諸問題の中で地球科学に直接関連する点を主に採り上げて考えて来た。しかし、大切な問題点はそれだけではない。その2・3については、すでにごく簡単に触れておいたが、ここにまとめて改めて考えておこう。ただし、この稿の性格上それらを細かく論ずる事はあえて避ける。
 何よりもまず基本的な問題として挙げなければならない事は、現在の私たちの生活の仕方、すなわち現在の社会や産業の構造が本当にこれで良いのかどうかについての根本的な反省ではないだろうか。私たちは今この大量生産−大量消費−大量廃棄の生活様式に慣れ親んでこれからもそれを安易に押し進めて行こうとしているかのように見える。しかし、それに基づく歪みが自然環境・生態系の破壊その他の形でいろいろに現われて来ており、その影響するところは広くかつ深い。また、鉱物・化石エネルギー資源の量的な将来も決して手離しで安心出来るものでもない。このような事情からすれば、基本的には物の見方・考え方あるいはその現われとしての生活の仕方への反省にまで、今や私たちは追い込まれてしまっているのではないだろうか。
 第2には、より直接的な観点からすれば、鉱業という私たちの自然への働きかけの一つのやり方を通じての自然と人間への影響への反省である。鉱業における大量生産という行為は、これに伴って必然的に自然破壊や廃棄物量の拡大をもたらし、その結果周知のような種々の問題を生じている。しかし一方、将来とも鉱物資源の有効な利用は私たちの生活にかかす事は出来ず、従って鉱業という作業が引き続いて必要なものである事に間違いはない。要は、これら両者の間を如何に上手に調整して行くのかという問題に対して、私たちがどれだけ創意・工夫に努力を尽して行くかにかかっていよう。
 さらに、科学・技術とは離れてまったく社会的な問題となるが、鉱物資源を廻る国際紛争の問題がある。古来多く行われて来た各民族・各国家間の勢力争いの源としては、もちろん宗教・イデオロギーその他種々の文化的要因があったが、鉱物・化石エネルギー資源の獲得もまた基本的要因の一つであった。このような事の起る自然条件としては、すでに述べておいたように、本来すでに与えられてしまっているもので私たちの力ではどうにも変えようもない鉱物・化石エネルギー資源の地理的偏よりという事実がある。私たちは冷静にこの自然条件を正しく見極めた上で、今後ますます増して行くであろう世界総人口を養って行くのに必要な鉱物・化石エネルギー資源を、如何に有効に世界人類のために開発・利用して行くべきかの方策を真剣に考えなければならないだろう。それには何よりもまず、足りない分を互いに補い合う事を、力ずくではなく互いに納得の行く方法で進めて行く必要がある。これを行う事は、もちろん極めてむずかしい事に間違いはない。現実を理想に一挙に近づける事は無理としても、しかしそれに向けての絶え間の無い努力を怠ってはならないだろう。』



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