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『鉱物資源を考える』


鉱物資源を考える(3)

W. どのように利用するか
 1. 一般的な道すじ
 未知の土地に経済的に価値のある鉱床(有用鉱床)を新たに見つけ出し、そこに鉱山を開いて鉱石の採掘、選鉱を行い、最終的に目的産物を得るまでには、多くの工程と莫大な労力・資金・時間を必要とする。表W-1にこれら諸工程の種類と内容とを簡単にまとめて示した。ただし、開発以降の工程に関してはごく簡略化してある。
表W-1 鉱物資源の探査から最終製品産出までの鉱業の諸工程
利用対象 工程 1.探査 2.評価 3.開発 4.採鉱 5.選鉱 6.粗製錬 7.精錬

産物

地質図・鉱床図および説明書

鉱床量計算表

開発計画書 諸施設 粗鉱 精鉱 粗金属 精製金属

鉱物中の特定成分

銅・鉛・亜鉛

アルミニウム

机上調査
 文献調査
 衛星写真調査
 航空写真調査
現地概査−精査
 地形測量
 地質調査
 剥土探査
  (トレンチピット)
 化学探査
 物理探査
 試錐探査
 坑道探査
試料化学分析
鉱床量・品位計算
選鉱・製錬試験
技術的検討
 採鉱法
 粗鉱平均品位
 採掘限界品位
 埋蔵鉱量
 選鉱法
 製錬法
 動力・運搬
 鉱業用水
 気候条件
 立地条件
経済的評価
 需要・供給予測
 価格予測
操業計画
坑内外諸施設の建設

露天掘り

坑道掘り

現地抽出法

→精鉱

→精鉱

→精鉱

→銑鉄

→粗金属

→アルミナ

→粗鋼

→精製金属

金属アルミニウム

鉱物そのもの
工業用鉱物 →     →     →精鉱

岩石そのもの

石炭

花崗岩

→     →→→  →精炭
        ↓→  →コークス

→     →     →石材  

廃棄物
  土砂・
廃石
廃石
坑内水・廃水
尾鉱
廃水
鉱滓・澱物
廃ガス・廃水・廃熱


図W-1 秋田県深沢鉱山黒鉱鉱床開発略史(1965−1978)
資料:谷村昭二郎ほか(1972)、佐藤恭(1973)、伊藤俊弥ほか(1979)および花岡鉱業所(1979, 1986)(別ウィンドウに拡大

 また図W-1に、比較的最近の期間(1965-1973)に探査から始まって生産にまで到った秋田県深沢鉱山黒鉱鉱床の開発経過のあらましを示した。この鉱山では、地表地質調査の開始から最初の出鉱に到るまでに、約9ヶ年の日時とおよそ25億円(当時)の経費とを必要とした。もちろん、地表地質調査開始前に、事前調査のために相当の時間を費やしている。この鉱山では、最初の出鉱以後もなお周辺地域での坑内外の探査が続けられ、現在でも活発に稼行されている。
 最近の例によってごく一般的に言うと、まったく新らしい土地での新鉱山の開発には、現地での探査の開始から最初の出鉱に到るまでには、少なくとも数年ないし10年前後、場合によってはそれ以上もの長年月と、それに伴う莫大な資金とを必要としている。従って、何らかの鉱物資源が現実に足りなくなったからと言ってその時になって慌てても、すぐにそれを得る事はまずむずかしい。常に最少限10-20年先の事までを考えに入れて、それに必要な準備(探査・評価)を普段から怠らずに、ある程度以上の埋蔵鉱量を確保しておく事が、鉱業の維持・発展に不可欠である。

 2.鉱床の探査と評価
 (1) 探査
   鉱床探査の要点は、目的とする鉱種の有用鉱床に対して、「どこに、どんな状態で、どんな品質のものが、どれだけあるか」を出来る限り正確かつ具体的に調べる事にある。すなわち、鉱床はどこにどんな産状で存在しているのか、鉱床・鉱石・母岩の諸性質、特に目的鉱物または目的成分の鉱床内での品位分布および平均品位はどんなものか、そしてその地質学的な存在量(鉱床量)はどれだけか、などをまず明らかにする作業である。例えその存在場所や産状が判り、また鉱石の品質がどんなに良いものであっても、その量がほんの少ししか無い場合や、逆にいかに大量にあっても品質のごく悪い場合などでは、鉱床は見つかっても有用鉱床を見つけた事にはならない。先に挙げた四つの条件の何れをも同時にかつ十分に満す事が、有用鉱床となるためのまず第1の地質学的な必要条件である。
 探査はまず机上調査から始まる。これまでに得られている多くの資料(過去の記録、地質図、鉱床図、研究論文、調査報告、地形図、航空写真、衛星写真など)について、地質学・鉱床学の知識・理論に基づく十分な比較検討の結果から、何を何処にどのような方法で調査するのかの基本方針がまず決められる。その結果に従って、調査地域の選定や調査方法の立案が具体的に行われ、必要な準備が進められる。ついで現地での予備調査あるいは概査に移る。これらで得られた結果が有望と判断されればさらに精査へと進む。予備調査や概査・精査の各過程では、それぞれの場合の実状に応じて必要とされる程度の精しさで、地表地質調査・写真地質調査・物理化学探査(地表・空中または必要に応じて試錐孔中)・試錐探査・坑道探査など各種の方法が情況に応じて適宜選択実施される。これらと共に、採集された各種試料についてその化学組成・鉱物組成・組織構造など各種の性質が測定され、また目的鉱床の出来方についての研究も必要な範囲内で行われる。また調査の進み具合いによっては、採集試料についての選鉱・製錬試験も行われよう。
 これら探査の各段階中のそれぞれ適当な時期に、その時までに得られたすべての資料に基づいて、調査結果の地質学的あるいは必要に応じた技術的・経済的な判断が下される。その結果の良否によって、あるいは探査をさらに先へ進め、あるいはそれ以降の探査を止める。従って、一連の探査活動の中で最終段階にまで達するプロジェクト数は、最初に採り上げられたものの数よりもずっと少なくなってしまう。また、探査の結果鉱床は確かに発見され、かつその諸性質もよく判ったが、例えば鉱床の平均品位がごく低いなどの種々の理由で、その時期の技術的・経済的諸条件の下では当分の間、稼行の対象とはなり得ないと最終的に判断されるような鉱床、すなわち経済限界下の鉱床、である場合も少なくない。このように、探査の成功率は一般的に言って決して良いものではない。
 しかし、この探査という極めて困難な作業への努力を怠れば、新らしい有用鉱床を見つけ出し事はまったく不可能であるのもまた事実である。言いかえれば、私たちが今後とも引き続いて多種の鉱物資源を利用しようとする限り、探査活動を一時と言えども休む事は出来ない。
 探査の最終結果は、目的地域の地質環境や目的鉱床および鉱石の諸性質の詳しい記載(地質図・鉱床図やそれらの説明書など)と共に、目的鉱床の存在量(鉱床量)とその中での目的鉱物・目的成分の品位分布や平均品位のまとめおよび品位別鉱石量などによって表わされる。これらは、次の段階の評価という作業を行うのに当っての最も基本的な資料の一つとなる自然科学的条件である。これは、十分に精しくかつ正確に行われる限り、一つの鉱床に対しては本来不変の資料となるべき筈のものである。
 かつて鉱床探査は、地表に鉱床の一部の露出しているところ(鉱床の露頭)をまず探し出し、そこから鉱床の延長部の地表・地中を追って行くというのが基本的な方法であった。現在でも、まだ地質学的な調査の行き届いていないジャングル地帯や砂漠地帯では、原則的にはこの方法も利用されている。しかし最近では、すでに多くの地域では地表は精しく調査されてしまっていて、この方法は採用し難くなって来ている。従って、地表には露頭のまったくない鉱床(潜頭鉱床)の探査に精力を注がなければならなくなって来た。そのためには、鉱床探査の第1の拠り所となるべき鉱床学の知識・理論の一層の発展が強く期待されると共に、同時にこれに伴う新らしい探査技術の開発もまた重要となって来ている。
 (2) 評価   探査の結果十分にその諸性質や品位別鉱石量などの判った鉱床に対しては、鉱石試料について選鉱・製錬試験の結果をも併せて、その時に与えられている社会的条件の下での開発・操業は、どのようにすれば技術的・経済的に可能となるかを、種々の異なった条件を想定して比較検討し、その何れが合理的なのかが判定される。対象とする鉱床・鉱石に対してどのような採鉱・選鉱方法を採るべきか、またどの程度の操業規模(産出粗鉱量とその平均品位など)が望ましいかなどの鉱業技術的な諸問題の検討はもちろんの事として、そのほか鉱産物の需要・供給・価格などについての将来の見透しなどの経済的条件、その地域の交通・動力など産業活動の基礎条件、さらには関連する法律的あるいは政治的条件など、今後の開発・生産に関連する諸条件の現状を確かめさらにその将来をも予測して、最終的な評価が行われる。その結果としてある適当な操業条件の下での開発・生産が可と判断・評価されれば、それに基づいた具体的な開発計画が建てられる。この鉱床に対する鉱石の採掘限界品位・粗鉱平均品位・可採粗鉱量などの鉱業的諸量は、この評価の際の操業条件次第で、同一鉱床に対しても相当の幅で変わり得るもので、これらは決して一定不変のものではない。

 3.鉱床の開発から製品産出まで
 (1) 開発
   探査・評価の段階を経て稼行の対象と決った鉱床に対しては、そこでの採鉱・選鉱・運搬などの作業あるいはそれに必要な電力・用水の供給などのための、鉱山での生産を行うのに必要な坑内外諸施設の建設が始まり、生産準備の段階に入る。場合によっては、これに関連して相当広範囲にわたる道路・鉄道・港湾などの整備・新設が必要となる事もある。また僻地や砂漠・密林地帯などこれまで人の生活の範囲外であった土地では、生活の基本となる町作りから始めなければならない事も起る。

写真W-1 探査最前線。水もないアンデス6000mの高地における試錐作業(別ウィンドウに拡大

 (2) 採鉱   生産準備が備うと、いよいよ生産(出鉱)の段階に移る。鉱石の採掘方法は、鉱床の大きさ・形態、鉱石や母岩の諸性質、あるいは付近の地形など種々の条件に支配されて、それぞれの場合ごとに異る。ごく大別けにして、坑内掘りと露天掘りとの2種がある。いずれの場合にも一般的には、固態物質としての鉱石を適当な大きさの塊まりに砕いて掘り出す方法である。
 これに対し、比較的最近になって、地中にある鉱床中に適当な方法で強制的に浸み込ませたある種の水溶液を鉱石と反応させ、鉱石中の有価成分をその中に溶かし出し、その後この水溶液を地表にとり出して後、それから目的成分を回収するという化学的現地抽出法が、金属鉱床に対しても大規模に行われるようになって来た。この方法は、これまでの伝統的な方法とは違って、目的物を水溶液として採り出すという点に特徴がある。もっとも、地中にある固態物質を流動化して地上に採り出す方法は、古く1930年代からある種の自然硫黄鉱床に対して開発され、その後塩類鉱床にも応用されて来ている。また銅鉱床の場合には、鉱体内を浸み通る際に鉱石中の銅分を溶解して出て来た坑内水(含銅水溶液)から銅を回収する事は、小規模ながら古くから行われてきた来た。

写真W-2 アリゾナ州 テュソン南方における斑岩銅鉱石採掘のためのストリッピング。鉱石に達するまでに100メートル以上の剥土を必要としている(別ウィンドウに拡大

 坑内掘りにしろ露天掘りにしろ、いずれの場合にも採掘の直接目的である鉱石だけを掘り出すわけにはゆかない。坑内掘りであれば、地表から地中の鉱床に達するための立入れ坑道(水平坑道)や立坑(垂直坑道)・斜坑、作業員や資材・鉱石・廃石などを運搬する坑道、さらには付近に存在するであろう未発見の鉱床を探し出すための探鉱坑道など、多くの坑道を通常の岩石中に掘り抜かなければならない。また露天掘りであれば、表土を除きあるいは鉱床を覆う岩石を掘り起さなければならない。これらはすべて廃石(ズリ)として処理される。露天掘りの場合には、開発のごく初期または余程条件の良い場合を除けば、毎日掘り出される廃石の量は、直接目的である鉱石の量の少なくとも2〜4倍、しばしばそれ以上もの大量に達する。
 坑内掘り鉱山で現在世界で一番深く地中まで探査・採掘の行われているのは、南アフリカ共和国ウィットウォタースランド地方の金−ウラン鉱床(先カンブリア時代の堆積成鉱床)の一部で、地表からの垂直の深さですでに4キロメートルを超えている。日本でごく深くまで掘られた鉱山の1例として愛媛県別子鉱山本山鉱床(塊状硫化物銅鉱床)の場合を挙げておこう。ここでは、付近山頂の露頭部(海抜1,100−1,300メートル)から垂直の深さで約2.2キロメートルまで開発・採鉱され、坑内試錐探査によってさらに240メートルほど下部まで鉱床の連続が確認されている。しかし一般的に言えば、地表から2キロメートルほどよりも深くまで採掘の進んでいる鉱山は、世界的にみてもそれほど多くはない。これは、対象となる有用鉱床自体の連続性がそれほど大きくはない場合も多いが、また一方で、地中深くなるのにつれて岩石温度の上昇や圧力増加のための坑道面の破壊(山はねとか岩はねとか呼ばれる)などの理由で、採鉱および保安上の技術的困難さも大きな原因となっている。
 他方露天掘り鉱山としては、先に名を挙げたアメリカ合州国ユタ州のビンガム銅−モリブデン鉱山の例では、採鉱場であるすり鉢型の穴の大きさは、長径約3.7キロメートル、深さ約0.8キロメートル(1979年夏)にも達し、1904−1977年間にここから掘り出された鉱石は約12.6億トン、同じく廃石は約23.1億トンと記録されている。
 なお、採掘の行われる生産段階に入っても、既発見鉱床の周辺地域では坑内外で探査活動が続けられ、これにより新たに有用鉱床の発見された例も多い。
 (3) 選鉱   鉱石中での目的鉱物や目的成分の濃集度は、一般にはそれほど高くはないのが普通である。金属の源となる鉱石の例として銅鉱石を挙げれば、その現在での粗鉱平均品位は0.5-2%前後となっている。この程度の濃集度では、これを直接製錬して金属銅を得るのにはあまりにも低すぎる。そこで、製錬するのに十分なほどにまで人為的にこれを高める工程が必要となる。工業用鉱物資源のように鉱物そのものの持つ性質を利用する場合や石炭の場合も、この間の事情に変わりは無い。採掘された粗鉱中の目的鉱物・目的成分の濃集度を高めるために、人為的に目的鉱物を集め不用な鉱物を取り除く工程が選鉱である。採鉱場から選鉱工場に供給される粗鉱は選鉱原鉱(または元鉱・給鉱など)と呼ばれ、その最終産物は目的鉱物を集めた分の精鉱と、無価値な鉱物を集めた分の尾(び)鉱とに分けられる。一つの選鉱工場から2種以上の精鉱の得られる場合も極めて多い。
 選鉱は、原鉱中の目的鉱物と他の不用な鉱物との間の各種の物理的または化学的性質の差を利用して行われる。利用する性質の違いによって、浮遊選鉱法(ある特定溶液に対する各鉱物間の表面張力の差を利用)・磁力選鉱法(磁性)・比重選鉱法および重液選鉱法(共に比重)・静電選鉱法(電気的性質)・化学的抽出法(ある特定溶液に対する溶解度)など各種の方法がある。いずれの場合にも通常破砕(あら砕き)と磨鉱(すり潰し)という事前処理によって、大小の鉱石塊・岩石塊を径1ミリメートルないし数10ミクロン程度(重液選鉱法の場合はもっと粗い)の細粒ないし微粉とし、それぞれの選鉱法い適した大きさに揃える。一般的には、出来得る限り目的鉱物のみより成る粒子が得られる事が望ましいが、実際上は、鉱石の組織構造や選鉱法ごとに適した粒度とのかね合いで、どうしても目的鉱物のほかに他種鉱物をも少し含むような粒子、あるいはその逆の関係にある粒子も出来る。目的鉱物を含む2種以上の鉱物種より成る粒子は片刃(かたは)と呼ばれる。
 仮に目的鉱物が黄銅鉱(CuFeS2、Cu-34.8%)であったとしよう。選鉱工程中で原鉱に含まれている黄銅鉱粒子の分離と再濃集とが十分理想的に行われて、まったく黄銅鉱粒子のみより成る銅精鉱が得られたとすれば、その銅品位は35%近くにまで達する筈である。また目的鉱物が輝銅鉱(Cu2S、Cu-79.8%)であれば、この場合には80%近くにまで達する事になる。しかし実際の操業の場合には、精鉱中に片刃がまじったり、あるいは無価値な鉱物粒子との分離も完全には行い得ないから、黄銅鉱を目的鉱物とする浮遊選鉱法の銅精鉱の銅品位は、普通20-30%程度までにしか上らない。これとは逆の事情で、原鉱中の目的鉱物の一部は、他種精鉱や尾鉱中に常にある程度混って逃げてしまう。

写真W-3 秋田県釈迦内鉱山での黒鉱鉱石の浮遊選鉱別ウィンドウに拡大

 選鉱によって目的鉱物が人為的に再濃集される度合いは、目的鉱物の種類やそれを含む鉱石の諸性質、また一方では選鉱方法・選鉱条件の違いなどによって、場合々々により大きく変わる。黒鉱鉱床産銅・鉛・亜鉛鉱石に対する浮遊選鉱法の場合の実例を挙げてみよう。この鉱石は一般的に言って極めて複雑な鉱物組成とごく緻密な組織構造とを持ち、これらの点では選鉱のむずかしい鉱石と言ってよい。さらに、一つの黒鉱鉱床内でも部分々々によって産する鉱石自身の性質が大きく変化する。この点で、黒鉱鉱床産鉱石は大きく黒鉱・黄鉱・硫化鉱・珪鉱などといくつにも別けられている。それらの性質をそれぞれの化学組成の違いで示せば、表W-2のようになる。これによると、例えば各種鉱石中に含まれている黄銅鉱・四面銅鉱(Cu12(Sb,As)4S13)などに由来する銅の含有量でみれば、この例では個々の標本ごとに最高16.7%(黄鉱)から最低0.2%(硫化鉱)まで実に幅広く変わる。また微量成分である銀は、主に含銀四面銅鉱やその他の銀鉱物に由来するが、最高1530ppm(黒鉱)から最低7ppm(硫化鉱)までとこれまた変化幅は大きい。
表W-2 花岡・小坂鉱山黒鉱鉱床産鉱石の化学組成の変化範囲

鉱石の種類
黒鉱(7) 半黒鉱(5) 黄鉱(18) 硫化鉱(3) 珪鉱(7)

化学組成
範囲 平均 範囲 平均 範囲 平均 範囲 平均 範囲 平均
Cu (wt.%) 4.2-1.3 2.2 7.0-3.4 4.5 16.7-3.0 7.4 0.9-0.2 0.4 4.2-0.5 1.9
Pb 27.3-5.0 16.0 1.4-0.1 0.6 1.0-0.1 0.2 0.08-0.06 0.07 0.1-0.04 0.06
Zn 40.7-12.3 22.5 9.4-5.6 7.0 17.9-0.1 2.0 0.5-0.1 0.2 0.4-0.05 0.2
Fe 20.6-1.3 5.3 27.4-12.1 19.9 44.3-27.9 38.9 44.3-39.7 42.4 28.3-13.5 17.9
S 38.0-10.9 23.1 34.9-18.2 27.1 50.0-40.4 45.4 50.6-44.9 48.1 31.9-15.1 19.9
BaSO4 58.3-0.1 23.2 49.0-17.5 36.3 2.7-tr 0.4 tr tr 3.8-0.02 0.2
SiO2 5.2-0.2 2.2 5.7-1.9 2.5 11.1-0.2 1.9 12.5-0.5 6.2 67.4-32.1 56.9
Al2O3など 2.1-0.1 0.8 7.3-0.5 1.4 7.4-0.2 2.1 2.7-1.5 2.2 3.9-0.3 1.8
As (ppm) 4330-30 1030 530-180 280 2310-30 380 370-250 320 430-30 170
Sb 1210-10 290 220-40 60 520-10 230 520-160 320 270-tr 80
Bi 170-10 20 250-80 170 350-30 180 100-40 80 320-30 140
Cd 3300-500 1270 260-tr 200 1310-tr 80 tr tr tr tr
Ag 1530-188 312 173-32 92 88-13 36 30-7 15 14-7 11
Au 8.2-0.7 3.0 1.5-0.3 0.9 1.5-0.3 0.8 0.7-0.3 0.6 0.3 0.3
( )内数字は標本数を示す。平均値は最大値と最小値を除いて計算してある。(立見・大島、1966)

 このように極めて複雑な性質を持つ多種の鉱石を集めて選鉱して得る産物(この場合には精鉱5種と尾鉱)の化学組成は、表W-3に示す通りである。この表を読むと次の事が判る。
表W-3 黒鉱鉱床産選鉱給鉱および各種精鉱・尾鉱の化学組成(小坂鉱山内の岱選鉱場)

産物
Wt% Cu% Pb% Zn% PyS% BaSO4
給鉱 100.0 1.5 1.6 4.9 9.7 10.7
銅精鉱(黄銅鉱、四面銅鉱) 4.5 26.0 3.8 3.1 8.0
鉛精鉱(方鉛鉱) 1.9 3.5 58.1 3.8 4.7 1.0
亜鉛精鉱(閃亜鉛鉱) 8.3 1.1 2.5 55.0 3.7 1.5
黄鉄鉱精鉱(黄鉄鉱) 4.4 0.4 0.3 0.4 50.0 0.5
重晶石精鉱(重晶石) 6.7 0.02 0.02 0.05 0.3 96.5
尾鉱 59.4 0.08 0.09 0.13 2.0 6.6

産物
Au ppm Ag ppm Cd ppm Sb ppm Bi ppm Se ppm Ga ppm In ppm
給鉱 0.84 88 300 570 180 9 8.6 2.5
銅精鉱(黄銅鉱、四面銅鉱) 2.90 534 120 1400 580 10 15.0 14.4
鉛精鉱(方鉛鉱) 15.50 1501 380 6330 180 35 6.1 2.5
亜鉛精鉱(閃亜鉛鉱) 1.26 202 2780 840 260 7 60.0 14.4
黄鉄鉱精鉱(黄鉄鉱) 1.50 72 40 510 130 14 1.4 0.6
重晶石精鉱(重晶石) 0.10 4 280 150
尾鉱 0.13 10 10 330 180 5 2.7 0.3
各種精鉱に付記した( )内は目的鉱物名を示す。(Maeshiro,I., 1978)

 a) まず第1に、目的成分は給鉱中にくらべてそれぞれの精鉱中に大きく再濃集している。(銅の場合1.5%から26.0%へなど)
 b) 各目的成分は、その精鉱中のみならず他種精鉱または尾鉱中に相当量逃げている。
(銅の場合鉛精鉱中で3.5%、亜鉛精鉱中で1.1%など)
 c) 鉱石中の微量成分(表の下段に示されている各元素)がそれぞれ特定の精鉱中に再濃集している。
(金・銀・アンチモンは鉛精鉱中に、カドミウム・ガリウムは亜鉛精鉱中になど)
この特定微量成分の特定精鉱中への再濃集は、それらがもとの鉱石中でどんな産状であったのか、すなわち、それぞれの元素を主成分とする特定鉱物種の微粒として散点していたのか、あるいは他種鉱物の結晶構造中に微量含まれていたのかなどの差によって、選鉱工程中での振る舞いがそれぞれに違う事によっている。
 選鉱工程を通じての目的鉱物・目的成分の再濃集の程度を、黒鉱鉱床産鉱石および斑岩銅鉱床産鉱石からの浮遊選鉱法による場合の精鉱について、表W-4に示す。これによれば、銅・鉛・亜鉛の場合には10-数10倍程度、モリブデンの場合には数1,000倍にも達している。
表W-4 選鉱工程での再濃集率

鉱種

目的鉱物
粗鉱品位(%) 精鉱品位(%) 濃集率(倍)

備考
Cu(1) 黄銅鉱(34.7%)、四面銅鉱(〜40%) 1.5 26.0 17.3  
Cu(2) 黄銅鉱・輝銅鉱(77.8%) 0.2-2.4
(0.78)*
18-46 18-125 大部分は30-85倍
Pb 方鉛鉱(80.6%) 1.6 58.1 36  
Zn 閃亜鉛鉱(<67%) 4.9 55.0 12  
Mo 輝水鉛鉱(60.0%) 0.005-0.06
(MoS2)
(0.022)*
73-97
(MoS2)
1,500-18,000 大部分は
3,000-8,000倍
鉱物名の次の( )内数字は目的成分含有量。
Cu(1)、Pb、Zn−秋田県小坂鉱山内の岱選鉱場の例(Maeshiro,I., 1978)
Cu(2)、Mo−南北アメリカ大陸斑岩銅鉱床の例(Crozier,R.D., 1979)
* 平均値を示す。

 天然産各種鉱石の中には、目的鉱物の濃集度が極めて高くて、選鉱工程を必要としない場合もある。例えば鉄の鉱物資源として現在最も需要な先カンブリア時代楯状地に発達している縞状鉄鉱鉱床の中で、特に2次富化鉱石に富む鉱床の場合には、露天掘りの採掘によって得られる粗鉱(主に赤鉄鉱(Fe2O3、Fe-70.0%)より成る)の平均品位が鉄60-65%にも達している。このような場合には、砕かれて集められた鉱石の塊りの大きさを適当に揃えるだけで、あるいは微粉状のものを適当な大きさ・形のペレットに固めるだけで、それらを熔鉱炉に直接入れて利用出来る。銅鉱石の場合にも、かつては銅品位が15-20%あるいはそれ以上にも達する高品位鉱石を産する鉱床もあって、これを直接製錬して粗銅を得た事もあったが、そのような高品位銅鉱石の産出は今では稀になってしまった。
 (4) 製錬   工業用鉱物や石炭の場合には、選鉱工程で得られる精鉱(精炭)そのものが最終製品として市場に出されるが、金属鉱物資源の場合にはさらにもう一つ製錬の工程を必要とする。これは、目的金属元素を含む鉱物の結晶構造を破壊して成分ごとに分離し、さらに精製して純粋な目的金属を得るという作業で、どのような具体的方法を採るにしろ、極めて多くのエネルギーを必要とする工程である。一般にこの工程は、精鉱(または高品位粗鉱)を処理して粗金属または中間産物を得る工程(粗製錬)と、さらにこれを精製して純金属を得る工程(精錬)との2工程に分けられる。

図W-2 黒鉱鉱床産銅・鉛・亜鉛鉱石からの主産物(Maeshiro, I., 1978の原図を改訂簡略化)
□は製錬諸工程を示す。→は各種精鉱および中間産物の流れを示す。(別ウィンドウに拡大

 この製錬の工程では、粗鉱あるいは精鉱中にはほんの僅かしか含まれていなかった有価成分をも、出来得る限り有効に回収するように大きな努力がなされている。また他種精鉱中に逃げた目的成分も、製錬工程での操作の繰り返しや多種方法の採用などを通じて、出来得る限り残りなく回収するよう種々の工夫が為されている。例えば、秋田県北部地域の黒鉱鉱床産鉱石からは、図W-2におおよそ示されているような複雑な製錬工程によって主目的成分である銅・鉛・亜鉛のほかに11種もの副産物を得ている。これらのうち例えば金は選鉱給鉱中に0.84ppm、セレンは同じく9ppm、ガリウムは同じく8.6ppm、インディウムは同じく2.5ppm、というごく僅かの量しか含まれていなかったのにもかかわらず、この製錬工程を通じて立派に回収・利用されている。なお、図W-2中で太線で示した線の流れは、特に銅分についてのそれが良く判るようにしたものである。

写真W-4 チュキカマタ鉱山の製錬工場別ウィンドウに拡大

 4.鉱業における実収率・必要なエネルギーと廃棄物
 (1) 実収率
   天然に産する鉱床を対象として、そこから採鉱・選鉱・製錬などの鉱業諸工程を経て最終目的産物を得るまでには、各工程ごとに複雑な操作が加えられる。これら各工程・各操作を通じて、すべての事が理想的に行われ、採るべきものは採り、捨てるべきものは捨てるという目的を100%完全に行う事は、技術的・経済的に不可能である。従って、自然の状態での鉱床中にその存在が探査の結果確かめられた目的鉱物または目的成分のすべてを残りなく最終産物として得る事は出来ない。各工程ごとに、最初に存在していた目的鉱物・目的成分の量と得られた最終産物中でのその量とを比較して得られる実収率(回収率)の値は、常に100%よりも小さく、私たちはこれを少しでも大きくしようと絶えず努力し続けて来ている。それでは、現在の鉱業諸工程での実収率はどのくらいなのかを検討してみよう。
 a) 採鉱工程   採鉱工程での実収率は、鉱床・鉱石・母岩などの諸性質や採鉱方法の違いなどによって当然変わる。条件のごく良い場合の80-90%前後から悪い場合の30-40%前後にまで、その変化幅は広い。わが国の鉱物資源に関する資料(日本工業規格JISM1001でいう埋蔵鉱量とそれに対する可採粗鉱量の比)によれば、それぞれの中での含有目的成分量の比として表W-5のようになっている。ここに挙げられた諸例では、採鉱実収率は50-80%程度である。ただしここでいう実収率は採鉱前と採鉱後との間の比ではなくて、採鉱計画を立てた時の埋蔵鉱量(JIS)と可採粗鉱量との比だから、真の意味での採鉱実収率値は上記よりさらに小さくなるだろう。
表W-5 採鉱工程での実収率(日本、1980)
金属鉱山 非金属鉱山
鉱種 調査鉱山数 実収率(%) 鉱種 調査鉱山数 実収率(%)
Fe 9 54.2 石灰石 341 67.0
Fe(砂鉄) 11 47.2 ドロマイト 39 65.3
Mn 9 79.0 カオリン   64.2
Cr 3 71.3 頁岩粘土 9 58.2
W 10 81.4 木節粘土 59 79.3
Cu 29 68.8 蛙目粘土 43 75.2
Pb 8 76.8 白珪石 58 58.4
Zn 8 75.6 炉材珪石 8 45.6
Au 16 62.8 天然珪砂 60 70.1
      蛙目珪砂 36 72.0
      ろう石 67 59.3
      重晶石 3 65.1
この実収率は、実際に採掘した後に算出されたものではなくて、探査の結果判った鉱床の埋蔵鉱量(JIS)と採鉱計画上立てられた鉱区についての可採粗鉱量との間の、含有目的成分量の比を示したものである。(資源エネルギー庁、1981)

 b) 選鉱工程   選鉱工程での実収率も、このような事情に変わりはない。表W-6に浮遊選鉱法による場合の1例を示す。この表のAに示されている結果(各精鉱中の四角枠をつけた数値)は、黒鉱鉱床産鉱石のようにどちらかと言えば選鉱のむずかしい場合としては、良い成果を挙げている例とみなして良いだろう。銅を例にとれば、給鉱中にあった分を100とすれば、銅精鉱中にはその81.8%が集められている。しかし、他種精鉱中にもそれぞれ4-6%前後逃げてしまっており、尾鉱中にすら3.3%も含まれている。実際の操業では、実収率と精鉱品位との間にはむずかしい技術上・経済上の問題があり、特に多種の目的鉱物・目的成分を含む鉱石の場合には、それが著るしい。
表W-6 選鉱工程での実収率
A. 黒鉱鉱床産鉱石(小坂鉱山内の岱選鉱場)
産物 Cu Pb Zn PyS BaSO4 Au Ag

給鉱

100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
銅精鉱

81.8
10.7 2.9 3.9   19.2 30.6
鉛精鉱 4.6

70.0
1.5 1.0   43.3 36.2
亜鉛精鉱 6.4 13.0

92.5
3.3   15.4 21.3
黄鉄鉱精鉱 3.6 2.6 1.3

77.5
  9.7 4.0
重晶石精鉱 0.1 0.1 0.1 0.2

60.0
1.0 0.3
尾鉱 3.3 3.4 1.6 12.6   11.4 7.6
□内数値はそれぞれの精鉱の実収率を示す。

B. 斑岩銅−モリブデン鉱床産鉱石
鉱種 給鉱品位(%) 精鉱品位(%) 選鉱実収率(%)
範囲 平均 範囲 世界 国別平均
範囲 平均 アメリカ
合州国
カナダ チリ−
ペルー
共産圏
Cu 0.2-2.4 0.78 15-46 76-92 84.8 83.9(16)* 87.8(5)* 86.4(5)* 82.2(4)*
Mo 0.006-0.05
(MoS2)
0.022
(MoS2)
42-97
(MoS2)
15-81
(大部分は40-75)
50.8 50.3 62.6 49.8 43.0
* ( )内数字は鉱山数
(A−Maeshiro,I., 1978; B−Crozier,R.D., 1979)

 同表中Bのモリブデンに対する実収率がやや低いのは給鉱中のモリブデン品位のごく低い事が大きな原因の一つとなっている。モリブデン鉱物である輝水鉛鉱(MoS2、Mo-59.9%)は、本来は浮遊選鉱し易い鉱物の一つである。
 c) 製錬工程  製錬工程での実収率の1例として秋田県北部地域の黒鉱鉱床産鉱石に対する実績を挙げるとそれぞれ次のようになっている(Maeshiro,I., 1978)
 銅-90.0%、鉛-86.8%、亜鉛-92.7%、金-83.6%、銀-87.5%。
 d) 選鉱・製錬両工程を通じての実収率   選鉱・熔錬・精錬の3工程を通じての実収率の例としてカナダでの実例を表W-7に掲げる。なお、同表に示した黒鉱鉱床産鉱石に対する数値はMaeshiro(1978)の資料より計算して出した値である。
表W-7 選鉱・熔錬・精錬3工程を通じての実収率
 

カナダ*2

黒鉱鉱床産鉱石*1
 88%  86.9%
76 83.7
亜鉛 79 88.4
ニッケル 79
コバルト 69
73.2
80.6
*1 Maeshiro,I., 1978の資料より計算
*2 McKintosh,J.A. & Cranstone,D.A., 1977

 e) 鉱業全工程を通じての実収率   上に挙げた諸例のように、鉱業諸工程での実収率の値は、場合々々により相当の幅で変わるが、ごくおおまかな見当をつければ、いずれも各工程ごとに50-90%前後とみて良いだろう。ここで仮に、採鉱−選鉱−製錬3工程での実収率をいずれも90%とすれば、全工程を通じての実収率ははぼ71%、またこれを80%とすれば全工程を通じての実収率はほぼ51%となる。前者の仮定は、極めて条件の良い場合と考えて良いだろう。この事をより一般的に言いなおせば、現状での鉱業全工程を通じての実収率は、おおよその見当として70-50%あるいはそれ以下と見積られると言っても良いだろう。これは、地質学的に発見された鉱床中の目的成分全量のうち、実際に工業原料として私たちの生活に役立つ分はその70-50%あるいはそれ以下にすぎないという事を意味している。鉱物資源は非再生資源であり、同じところからは2度と同じものを掘り出す事が出来ないという事情を考えると、私たちは一度見つけた鉱床を出来得る限り有効に利用するために、鉱業技術の発展に一層の努力を注ぎ、これら諸工程での実収率を少しでも高める必要があろう。
 (2) 必要なエネルギー
 a) 製錬工程で必要なエネルギー量
   鉱物資源の開発・利用には、極めて莫大なエネルギーが使われる。まず金属1トンを作るのに製錬工程で必要なエネルギー量の実例を表W-8に示す。これによると、同種の金属1トンを得るのにも、国により相当な幅で変わっている。これは、各国での技術・施設の差もあろうが、また原材料となる精鉱・高品位粗鉱の構成鉱物種や品位の違いなど、地質学的条件の差も加わっていよう。一般的に言えば、各種金属1トンを得るのに製錬工程で必要なエネルギー量は、数100万ないし1億キロカロリー前後、これを重油に換算(重油1リットルはほぼ1万キロカロリーに相当)して数100ないし1万リットルに相当する事になる。ここに挙げた金属中では、チタンが最も必要量が大きく、マグネシウム・アルミニウムがそれに続く。鉄・銅・鉛・亜鉛の場合は相対的にはずっと低い。なお日本の資料は、いわゆるオイルショック以前のものなので、現状はも少し変わっているだろう。
表W-8 主要金属の製錬工程に必要なエネルギー量(×10^6kcal/t)
 

初生

再生

鉱種
日本 イギリス アメリカ合州国 精鉱中の目的鉱物の種類と品位 アメリカ
合州国
A B
Fe 5.13 10.5 3.7 7.2 酸化物、55-65%Fe 1.4
Ni 35.2       硫化物・含水珪酸塩、0.5-5%Ni  
Ti     108.5   酸化物、25-50%Ti 45.1
Cu 5.39 12.5 11.6 11.4 硫化物、20-30%Cu 1.5
Pb 3.59       硫化物、60-70%Pb  
Zn 12.5       硫化物、30-55%Zn  
Al 48.2 58.5 44.2 54.6 水酸化物、15-30%Al 1.7
Mg     78.1     1.6
資料 日本:藤森正路(1972)
    イギリス:Colombo,U. & Gabov,D.(1976)
    アメリカ合州国:A・同上、B・Barsotti,A.(1979)
    再生:Colombo,U. & Gabov,D.(1976)

 b) 鉱業全工程を通じて必要なエネルギー量   次にこれを採鉱から選鉱を経て製錬までの鉱業全工程を通じて眺めてみよう。表W-9に掲げた資料によれば、それぞれの金属1トンを作るのに必要なエネルギー量は、粗鋼−約800万キロカロリー、電気銅−約3,000万キロカロリー、金属アルミニウム−約9,000万キロカロリーとなっている。粗鋼および金属アルミニウムの場合にはいずれも、その大部分は製錬工程で使われているが(粗鋼−88.3%、金属アルミニウム−98.8%)、電気銅の場合には採鉱・選鉱両工程でそのほぼ60%が使われていて、極めて対照的である。その理由は、銅鉱石の場合には採掘される粗鉱平均品位が他にくらべてごく低く、従って採鉱・選鉱の工程で共に莫大な量を処理しなければならない事にある。
表W-9 鉱業に必要なエネルギー量(×106kcal/t)

工程

Fe

Cu

Al
採鉱 露天掘 粗鉱55-65%Fe  0.62(7.6%) 粗鉱0.5-1.0%Cu 15.9(58.2%) 精鉱15-25%Al   1.1(1.2%)
選鉱 浮選               − 精鉱20-30%Cu
ペレット化   ペレット63%Fe   0.33(4.1)              −              −
製錬 アルミナ化
熔錬
精錬
製鋼
              −
銑鉄         5.78(71.2)
              −
            1.39(17.1)
             −
粗銅         7.55(27.6)
電気銅99.9%Cu  3.89(14.2)
             −
アルミナ       11.8(13.0)
             −
アルミニウム    77.7(85.8)
             −

合計
            8.12             27.3             90.6
(Barsotti,A., 1979)

 最近における鉱物資源の年生産量の大きい事から考えると、上に例として挙げた3金属に限っても、それらの全世界生産量に見合うエネルギー必要量がいかに大きな値になるだろう事は、容易に見当をつける事が出来よう。まして、世界の鉱業界全体で使う量を各鉱種ごとに積算すれば、実に莫大な量になるだろう。ある人の試算によれば(Barsotti,A., 1979)、粗鋼・電気銅・金属アルミニウムの3金属についてだけ積算しても、1975年度にはほぼ4,700兆キロカロリーとなり、この年での全世界エネルギー消費量の8%前後にも達したという。
 c) 鉱石品位および構成鉱物種と必要エネルギー量との関係   鉱石から金属を得るために必要なエネルギー量は、その源となる鉱石中の目的成分の含量(品位)が下がれば急激に増す。また同じ鉱種でも、対象となる鉱物種の違いによっても差を生じる。これらの点を次に吟味してみよう。
 今1トンの金属を得るのに鉱業の全工程を通じて必要なエネルギー量をETとし、1トンの鉱石を採掘して選鉱するまでに必要なエネルギー量をEm、精鉱から1トンの金属を製錬するのに必要なエネルギー量をEs、1トンの金属を得るのに必要な鉱石のトン数をTとすると、それらの間には次の関係式が成り立つ。
 ET=(Em・T)+Es
また鉱石の品位をgとすれば、上式は次のように変えられる。
 ET=(Em/g)+Es
ここに、Em・Esは共に各金属についての定数である。例を銅の露天掘り鉱石にとると、
 Em=47,975Kcal/hr、Es=8,715Kcal/hr(石炭換算)と計算される(Page,N.J. & Creasy,S.C., 1975)

図W-3 銅鉱石より1トンの金属銅を得るのに必要なエネルギー量と鉱石品位との関係
1 アメリカ合州国22銅鉱山の平均粗鉱品位、2 トケパラ鉱山(ペルー)、3 チュキカマータ鉱山(チリ)、4 エルテニエンテ鉱山(チリ)(Page & Creasy. USGS Journal of Research 3, 9-13, 1975)(別ウィンドウに拡大

 上の関係を図化し、それに実際の各鉱山の粗鉱平均品位を書き加えたのが図W-3である。これによれば、銅の場合粗鉱平均品位が0.4-0.3%辺りより低くなるのにつれて、必要エネルギー量が急激に上昇して行く事が良く判るだろう。
 前に述べたように、銅鉱石の粗鉱平均品位はこの100年ほどの間におよそのところ銅10%前後から0.4-0.5%にまで下って来ている。これは、関係技術者の大きな努力と社会・経済条件の変化に幸いされて可能となったものであった。しかし、上の資料からすれば、この低下傾向も何時までも続け得るものではなく、少なくともエネルギー上の問題からある限りがあるように思われる。

図W-4 鉱石から金属を製錬するのに必要なエネルギー量と鉱石品位との関係
1 赤鉄鉱鉱石、2 ラテライト型鉄鉱石、3 ボーキサイト鉱石(ただしアルミナよりの場合)、4 アノーソサイト。(Page,N.J. & Creasy,S.C., 1975)(別ウィンドウに拡大

 次に同じ鉱種でも目的鉱物種の違いの場合を考えてみよう。この関係を示したのが図W-4である。まず鉄鉱石を採り上げる。現在鉄の最も重要な鉱物資源である先カンブリア時代の縞状鉄鉱鉱床の二次富化帯に産する鉄鉱石の主要構成鉱物は、鉄の酸化鉱物(赤鉄鉱、Fe2O3、Fe-70.0%)である。これに対して、超塩基性火成岩類などの地表での風化作用に際して構成鉱物中の鉄分が分離・再濃集して生じたラテライト型鉄鉱床(すでに莫大な量が発見されているが、現在では種々の理由でまだ十分には利用されていない)の場合には、その中の鉄鉱物は主に鉄の水酸化鉱物(例えば針鉄鉱、FeOOH、Fe-62.8%)である。また、これら両種の鉱床に産する鉱石は、その組織・構造の点でも大きな差がある。これら両方の原因が重なって、仮に同じ鉄品位の鉱石からでも、それぞれから1トンの銑鉄を得るのに必要なエネルギー量は違っている。後者の場合の方がずっと大きい。また、鉱石品位の低下に伴う必要エネルギー量増加の割合いも、両者の間に大きな違いがある。この関係を図W-4中の曲線@とAとが良く示している。
 金属アルミニウムは現在ほとんどボーキサイト鉱床産鉱石をその源としているが、将来のアルミニウム資源の一つとして、アノーソサイトと呼ばれるほとんどカルシウム斜長石(CaAl2Si2O8、Al-19.4%)より成る岩石が一部の人々により考えられている。図W-4中の曲線BとCとが、これら両者の場合の品位変化と必要エネルギー量との関係を示している。後者の場合の方がより多量のエネルギーを必要とする事は一目瞭然だろう。なお、曲線Bの場合、本来の意味ではベーマイトやギブサイトのようなアルミニウム水酸化鉱物について計算しなければならないのだが、ここでは便宜上中間産物としてのアルミナを基にしてある。
 図中のすべての曲線に通じて言える事は、
 a) 鉱石の品位低下に伴い、これを製錬して金属を得るのに必要なエネルギー量は次第に増し、ある程度以下まで下ると急激に上昇する。ただし、その立上り点は鉱種・鉱物種によってそれぞれ違っている。
 b) 同じ鉱種でも対象鉱物種の違いにより必要エネルギー量は相当に違う。将来利用の望まれている鉱物の場合には、現在利用されているものよりも多量のエネルギーを必要としている。

という事である。(a)は、銅の例でも示したように、粗鉱平均品位をどこまでも下げ続ける事にはエネルギーの上で実際的なある制限がある事を意味している。他方(b)は、今後私たちは低品位鉱床の利用のみならず、これまでは利用していなかった鉱物の新たな利用に進まざるを得ない場合も多いと推察されるが、これにもエネルギー的に問題のある事を示している。これらのような関係は、鉱物資源年生産量がおそらくは今後とも増加し続けるだろう事をも考え合せると、鉱業に必要なエネルギー量は今後とも益々増し続ける一方となってしまうと考えざるを得ない。話をさらに先へ進めれば、将来ひょっとすると、ある種の鉱物資源の存在・性質は地質学的にはよく判っていながら、エネルギー問題のためにそれらの利用は実際上困難となってしまうという状況が起らないとも限らない。
 (3) 廃棄物   鉱業の諸工程で多種かつ大量の廃棄物を生じる事はすでに簡単に触れておいた。これらの環境・生態系に及ぼす影響の著るしい事も周知の事実である。ここではこの問題を少し数量的に考えてみよう。
表W-10 世界の主要鉱産物6種の生産工程で排出される年間固態廃棄物量(×106t)
廃棄物/生産量比
(USA、1975)
1976 2000
生産量 採鉱廃棄物 選鉱廃棄物 生産量 採鉱廃棄物 選鉱廃棄物
採鉱廃棄物 選鉱廃棄物
3.46 2.13 895 3,100 1,900 1,770 6,100 3,800
501 188 7 3,500 1,300 20 10,000 3,800
ウラン 14,235 673 0.04 600 30 0.2 2,800 140
4.45 2.84 107 500 300 410 1,800 1,200
粘土 0.85 526 450 (a) 960 800 (a)
石材 0.073 0.008 6,984 500 50 13,560 1,000 100
    8,519 8,650 3,580 16,720 22,500 9,040
資料:アメリカ合州国政府(1980) 西暦2000年の地球(邦訳第2巻第11章表11-2)
註:1. 1976・2000年度での廃棄物量は、1975年度でのアメリカ合州国での廃棄物量/生産量比実績を基にして試算。
  2. (a)は5万トン以下を示す。
  3. なお、炭鉱廃棄物(年)の量は、アメリカ合州国−9000万トン、西ドイツ−6000万トン、イギリス−5600万トンなど。
  4. 原資料はショートトンで示されているが、ここではメートルトンに換算してある。

 表W-10をよく読んでほしい。この表は鉱業の採鉱・選鉱の2工程を通じて、どのくらいの量の固態廃棄物(廃石や尾鉱、つまり岩石・鉱石の大小の破片や細かな粒子)が全世界で1年間に捨てられてゆくのかを、鉄・銅・ウラン・燐・粘土・石材の6鉱種についておおよその試算をした結果を示している。これによると、これらの鉱種の採鉱・選鉱両工程では、1976年度には全世界でそれぞれおよそ87億トン・36億トン、両者合せておよそ120億トン前後の固態廃棄物が捨てられた事になる。これを新宿地区の高層ビルの一つを升として測れば、およそ1万杯分前後にも相当する莫大な量である。この結果に鉱産物生産量の年生長率の事まで考えに入れて試算を続けると紀元2000年にはそれぞれ225億トン・90億トン、合計300億トン余りとなるだろうと予測している。実際には、鉱産物の種類はここに挙げられた6鉱種に止らず、また特に石炭鉱床の稼行に伴って生じる廃棄物量の大きい事も抜かすわけにはゆかない。もちろんこのほか製錬工程での固態廃棄物もこれに加わる。
 この表の内容には吟味すべき点もある。例えば、この試算に当っての大きな仮定はアメリカ合州国での各鉱種についての生産量と廃棄物量との比についてに調査結果を基にし、それをそのまま全世界の鉱業に当てはめて試算している事である。実際には、自然条件や技術的条件などの差によって、この比が個々の鉱床ごとに相当大きく変わるだろう事は容易に想像がつく。大規模鉱業と中・小規模鉱業との間でも差があろう。もしそうだとすれば、この表の示す結果の解釈や利用に際しては、何らかの注意を払う必要があろう。

写真W-5 アリゾナ州キャスルドーム鉱床の露天掘りと尾鉱
尾鉱処理場の方がピットより大きい点に注意。(別ウィンドウに拡大

 しかしこの試算結果から間違いなく言えるだろう事は世界全体での鉱産物の総生産量に関連して考えるとすれば、おそらく100億トンを遙かに超える莫大な量の固態廃棄物が鉱業の諸工程を通じて毎年生じているだろうという事である。これに加えて、多種・多量の廃水・廃ガス・廃熱も生じている。従って、個々の国にとってもまた世界全体を考えても、これらの諸廃棄物の処理の仕方について十分な注意を払う必要性は極めて大きい。場合によってはもっとき本的に、大量生産−大量消費−大量廃棄の現状を根本から考えなおす機会としなければならないのかも知れない。
 鉱業における廃棄物にはもう一つ別な問題もある。それは放射性廃棄物に関する問題である。わが国には放射性鉱物を含む大きな鉱床が無いために、放射性廃棄物というと直ちに原子力発電に伴うもののみが考えられがちだが、地球規模で眺めればそれは実状に合わない。実際に、ウラン鉱床の採掘・選鉱に伴って生じる各種廃棄物や、燐鉱石または石炭の焼きかすの灰などの中に少量含まれている放射性物質の自然変壊に伴って起る害が広く注目されている。いずれにせよ、放射性廃棄物の生物に対する悪い影響は世代を超えて後の人々にまでも及ぶ事を考えると、問題は極めて大きい。』



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