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『鉱物資源を考える』


鉱物資源を考える(1)

T. まえおき
 1. 資源はわれわれの創り出すもの
 資源という言葉は、その意味するところあるいは使い方が、人により場合により随分違っている。ごく狭い意味で使う人もいれば、逆に極めて広い意味に使う人もいる。しかしごく普通には、資源と言えば、私たちの日常生活や社会活動を保ちかつそれらをさらに発展させるのに必要な、各種の天然物質や天然エネルギーを指すと言っても良いだろう。それらは、対象となるものの違いあるいは使う目的の違いなどそれぞれの立場に従って、鉱物資源・エネルギー資源・生物資源・水資源とか、また金属資源・非金属資源・食糧資源などと、いろいろに区別されている。ここでは差し当り、このように簡単に考えておく事にしよう。
 ただしここで、資源問題を考える際に基本的に大切と思われる点の一つとして、次の事を記しておきたい。ここでは資源を上のように簡単に考えるとしても、自然界に存在している物質やエネルギーのすべてが、そのまますなわち資源とは考えない。私たちの生活に現在利用されているか、あるいは将来利用出来るかも知れないとの技術的・経済的期待を込めて取り扱われているかなどの点で、それらと私たちの間に利用に関連しての何らかの関わり合いが結ばれて、言いかえれば、人間の自然への何らかの働きかけがあってこそ初めて、それらは資源と呼ばれ得るようになると考える。
 つまり資源になるかならないかは、天然物質や天然エネルギーのそれぞれについて、私たちとの関わり合いとは無関係に自然の状態で初めから決ってしまっている性質のものではなくて、利用を目的とした私たちのそれらへの働きかけがあってこそ初めて得られる性質のものである。従って、そのための私たちの努力の有る無しまたは多少によって、資源の種類や量は増したり減ったりし得るものであって、決して一定不変のものではないと考える。別な言い方をすれば、資源とは私たちの知恵と努力とによって創り出されるものである。
 この事を理解するには、それほど遠い昔にまで遡るまでもなく、ここ僅か100年ほど前の社会の様子と現在のそれとを比較するだけで十分だろう。例えば、石油の存在はすでに何1000年も前から一部の人々によって知られており、僅かながら利用された事もあった。わが国でも、古く日本書紀に“燃ゆる水”の記録がある。しかし、私たちの生活にとって基本的に関わりのある物質としてその重要性が広く認められるようになったのは石油化学工業の発達(原油から灯油や潤滑油の抽出は19世紀半ば、原油精製物質からのプラスティック・人造繊維などの合成は20世紀半ば)や内燃機関の発明(1838年、その実用化は19世紀末)などがあってから後で、100年ほど前の時代での原油採掘量は極めて僅かであった。またウランという元素は、すでに1789年にその存在が化学的に発見されてはいたが、これが私たちの生活に大きく直接関係するようになったのは、周知のようにごく最近の事である。言いかえると、石油やウランの鉱床がエネルギー資源などとして一般の人々にも大きな関心を持たれるようになったのは、この僅か100年ほどの間での出来事にすぎない。しかし、今私たちが利用している石油やウランの鉱床自体は、上の事とはまったく無関係に、今日発見されている場所に何1000万年も何億年も前から、地殻を作る物質の一つとしてずっと存在し続けて来ていたものである。
 これとは逆の例をある。チリ硝石という鉱石(カリ硝石(KNO3)や硝石(NaNO3)などの硝酸塩鉱物の集合体)は、かっては窒素肥料の原料として広く使われて来た大切な鉱物資源の一つだった。ところが、空中窒素固定法の発明(1905年)によりその重要性を失い、今では南アメリカのチリで年間数10万トン程度の鉱石が採掘・利用されているのにすぎなくなってしまった(写真T-1)。日本での例も一つ挙げておこう。かつてわが国は火山活動に伴って生じた自然硫黄の鉱床を源として、硫黄を大量に生産・利用していた。しかし今では、石油精製工業の脱硫工程などで生じるいわゆる回収硫黄の著るしい増加や、硫黄鉱山での鉱石の採掘・製錬に伴う公害問題などのために、国内でのこの種鉱山からの硫黄生産は大分以前に完全に止ってしまった。しかしこれらの事実は、チリ以外の諸国にチリ硝石鉱床がまた日本国内に自然硫黄鉱床が、いずれもまったく無くなってしまった事を意味しているわけではない。これらの鉱床・鉱石に対する技術的・経済的価値がすっかり変ってしまっただけの事である。

写真T-1 チリ アントファガスタ北東方 硝石鉱山の廃墟。1930年頃まで採掘した。(別ウィンドウに拡大

 2. 鉱物・化石エネルギー資源
 (1) 岩石・鉱物の利用
   自然に産する多種類の岩石や鉱物の一部は、すでに随分古くから人類によって利用されて来た。これに加えて、その後の科学・技術・経済の著るしい進歩に伴って、新たに利用されるようになったものの種類も極めて多い。例えば、現在何らかの形で利用されている鉱物(有用鉱物)の種類は、数え方にもよるがほぼ200種に近い。今これら岩石や鉱物を利用の仕方という観点から分けてみると、ごく大分けにして次の4種となる。

 (1) 岩石それ自身の持つ性質の利用   石器・石材・骨材など
 (2) 鉱物それ自身の持つ性質の利用   土器・顔料・耐火レンガ・陶磁器など
 (3) 鉱物中のある特定成分の抽出利用  金属・肥料原料など
 (4) エネルギー源としての利用       発電・熱源など

資源の立場からすれば、(1)・(2)・(3)の源となる岩石・鉱物および(4)の源となるウラン鉱物などを一括して鉱物資源、また(4)の源となる石炭・石油・天然ガスなどは化石エネルギー資源と総称されている。
 これらの岩石や鉱物は、普通地殻の中から掘り出される。しかしその後の処理の仕方は、それぞれの性質の違いや利用の仕方の違いによって、それぞれの場合ごとに異なってくる。なお、通常の岩石や鉱物のような固態物質と石油・天然ガスのような流態物質とでは、採掘方法にも大きな違いがある。その結果、採掘深度を例にとれば、後者の場合すでに地表面下7−8キロメートルに存在するものまで採掘・利用されているが、前者の場合には普通数100メートルないし2キロメートル程度、最も深いものでもおよそ4キロメートルにすぎない。
 (2) 生物資源との違い   生物は生き物というその特質によって、それ自身繁殖する能力を持っている。しかもその1世代の長さは、多くの食用作物では1年、動物や樹木などでは数年ないし数10年程度のものが多く、比較的短い期間内に同じ場所から何回も繰り返して得る事が出来る。また移植や増殖も可能で、これにより人為的に生産地を拡げ、生産量を増す事も出来る。さらに品種改良によって、それらの性質をある程度までではあるが、変える事が出来る場合も多い。このような生物の特質から、生物資源の私たちの生活に及ぼす影響は時代の経過と共に地域的にも量的にも大きく変わって来た。例えば、日本人の常用食品の一つである米(稲)はもともとは高温多湿の低緯度地域原産の植物だが、数1000年前に初めて日本列島に伝わり、今では北海道のような寒冷地にまでその作付けの北限が進んでいる。アメリカ大陸原産のジャガイモやトウモロコシは、16世紀のスペイン人による中南米侵攻以後にまずヨーロッパに伝わり、続いて世界を一周して日本にまで移されて来た。生産量増加の点についても、その具体例を挙げる事は極めて容易である。
 このような生物資源の特質は次のようにも言い変えられ得よう。すなわち、生物資源は天然にすでに与えられているままのものだけではなくて、私たちの努力によっては、例えある限られた範囲内とは言え、その性質・分布・量を変え得る資源である。最近の遺伝子工学の発展は、このような点に新らしい問題をつけ加えつつある。
 これに対して、鉱物・化石エネルギー資源をなす岩石や鉱物は、生物とはまったく異なる次のような特質を持っている。
 1. これらは、すでに天然に与えられてしまっているもので、私たちがいかに努力しても、それらの性質・分布・量を人為的に変える事は出来ない。
 2. 一度掘り出したら、そこから2度と同じものを得る事は出来ない。
 もちろん岩石や鉱物も、ごく長い時間を単位にとって考えれば、その一つ一つに生成−発展−死滅の歴史が秘められていて、決して一定不変のものではない。しかし通常の時間的感覚で考える限り、一般的には鉱物・化石エネルギー資源は生物資源とはまったく対照的な特質を持つものと知らなければならない。このような意味で、鉱物・化石エネルギー資源は“非再生資源”であり、あるいはまた言葉通りでの“限りある資源”でもある。またこれらの大部分は地中深くに存在していて、生物資源とは違ってなかなか手の届き難い場所にあり、これを探すのにもまた掘り出すのにも大変な手間がかかる。

 3. 資源問題の捉え方
 (1) 捉え方の多様性
   自然物への人間の働きかけの仕方には、種々の方法がある。ある天然物質や天然エネルギーを私たちの生活に実際に利用しようとすれば、その前にまず、そのものの持つ諸性質が具体的にかつ詳しく判っていなければならない。これは、働きかけの仕方としては自然科学的な側面と言えよう。仮にある物質中の特定成分を抜き出して利用しようとすれば、そこには技術的な問題が生じる。これは技術的・工学的な側面をなす。さらに、これが実際に広く行われるためには、経済的・社会的側面が関わって来る。場合によっては、法律的・政治的問題の起る事もあろう。このような事情で、資源問題は多くのそれぞれに異質な側面を持っている。しかも厄介な事に、これら各側面が複雑に搦み合っている場合も多い。
 従って、資源に関して何か一つの具体的問題を考えようとする場合、一般的には、それに関してどれか一つの側面だけを取り上げたからと言って、その全体を正しく解いた事にはなり難い場合も多いだろう。しかし実際上は、上の各側面が常に同じ程度の強さで搦み合っているわけではないから、具体的な問題ごとにその」解決の主点がいずれかの側面に置かれる事の多いのが普通の場合だろう。要は問題ごとに、どの側面が重要なのかを正しく理解し、どこに論点を置くかを互いに予め明らかにしておく事だろう。いずれにせよ、資源問題の要点はまず現状を正しく見極めてその中の問題点を摘出し、その上でその将来を可能な限り正確に予測・評価する事にあると言って良いだろう。
 このように、資源問題には常に将来の予測・評価という事が入って来る。だが困った事にこの“将来”の具体的長さの採り方が、同じ問題に対してすら人により場合によりしかも断り無しに、しばしば非常に違っている。ここ5−6年せいぜい10年ぐらい先までの事を頭において論ずる人もあれば、20−30年先までの事、あるいはもっと長く50−100年先までの事まで考えて論ずる人もいる。もちろん問題の性質によっては、それぞれに意味があるのに違いない。しかし、5−10年先までの事だったら正しい結論でも、仮に30−50年先まで考える場合にはそれとは違った結論に達する場合も十分に有り得る。このような事情から、ある一つの具体的問題を論ずる場合にも、この事に関する無理解・誤解に基づいて、時に無駄な議論となったり、場合によっては誤った結論を生じている例もあるように見受けられる。これを避けるためには、今ここではどのくらい先の事まで論じようとしているのかを、問題ごとに予めはっきりさせておき、それを互いに理解し合った後に議論する事が望ましい。
 (2) ここでの立場   ここでは、鉱物・化石エネルギー資源について、これに関する多くの問題の中から“地球科学的な側面”に視点を絞って考えてみる事としよう。すでに述べたように、資源問題の取り扱い方には多くの側面があり、それぞれに重要である。自然科学的な側面はその中で最も基本的なもので、これに関する最少限の正しい知識無しに他を考える事は出来ない。何よりもまず第一に、利用対象となる自然物そのものの持つ諸性質を十分にかつ正しく理解する事が、他の側面から考える際にも基礎条件になると考えられる。建物の土台をまずしっかりと構築しよう。また期間的には少なくとも30−50年、場合によっては50−100年先の事まで一応頭の中に入れておく事としよう。これを言いかえれば、私たちの子供や孫の世代の時代の事まで考えに入れるという事である。
 なお便宜上、多くの場合各種金属の源なる鉱物資源を例にとる。これは、鉱物中のある特定成分を抜き出して利用する例の一つで、その大部分は鉱床を採掘の対象とするものである。このようにここに挙げる例は限られるが、それらに対する基本的な考え方そのものは、より広く一般に他の鉱物・化石エネルギー資源の場合にも通ずるものと信じる。また必要に応じて技術的その他の面にも僅かながら触れる場合もある。

U. どのくらい使っているか、使ってきたか
 1. 大量生産−大量消費−大量廃棄
 (1) 現況の一端
   現代産業の大きな特徴の一つは大量生産−大量消費であり、それに伴って最近では、大量廃棄もまた重要な問題となって来た。鉱物・化石エネルギー資源の開発・利用の場合もその例外ではない。いくつかの実例を挙げて、その一端をのぞいてみよう。
 生産: 現在私たちは、鉱種として70−80種ばかりの各種鉱物・化石エネルギー資源を利用して生活している。これらはいずれも鉱山や採石場などから掘り出されている。1983年度でのある調査(Mining Magazine, Jan. 1984)によると、年間鉱石生産量が300万トン(1日当りおよそ1万トン程)以上の大鉱山の数は、同年には世界全体で露天掘り鉱山194、坑内掘り鉱山68、計262鉱山あったという。年間鉱石生産量15万トン(1日当りおよそ500トン程)以上のものまで算えると、その総計は1200に近い。しかも上の計算は、限られた29鉱種のものについてだけで、これらに化石エネルギー・採石関係まで加えれば、その総数はもっと増える。
 それでは、世界各地に散らばる数多くの鉱山から毎年新たに掘り出される鉱石(採掘の直接目的となる有用鉱物をある程度以上たくさんに含んでいる鉱物集合体)はいったいどのくらいの量になるのだろうか。上に算えた鉱山のほかに石炭鉱山や砕石場までも含めて、それから掘り出される鉱石・石炭・石材・砂利・砂などの総量は、おそらく年間100億トン前後にも達しているだろう。これをいくつかの金属・非金属鉱石について具体的数値を挙げてみよう。
 1978年度での全世界鉱石生産量(鉱石そのものの重量で表わす場合もあるし、またその中の目的成分含有量で示される事もある)は、
 鉄鉱石−約9.0億トン(鉱石中含鉄量にして約4.8億トン)
 銅鉱石−約760万トン(ただし鉱石中含銅量;仮に採掘された鉱石の全世界平均品位を銅1%とすれば、鉱石量にして約7.6億トン、実際に採掘された銅鉱石のそれはもう少し低いと推定されるので、鉱石量はもっと多くなる)
 アルミニウム鉱石−約8,100万トン
 ウラン鉱石−約3.4万トン(ただし鉱石中含ウラン量、共産圏諸国を除く;仮に採掘された鉱石の全世界平均品位をウラン0.2%とすれば、鉱石量にして約1,700万トン)
 燐鉱石−約1.2億トン
などと記録されている(USBM, Minerals Yearbook 1978/79, Vol.1)。これらの例で言えば、これら各種鉱石の全世界年生産量は、鉱石量にしていずれも数1,000万トンないしは数億トンの桁に達している。しかもこれらの値はいずれも近年増し続けて来ており、鉄鉱石の場合には鉱石量にしてすでに10億トンに近い。今仮に東京の新宿地区に立ち並ぶ高層ビルの一つを升としてこれを測れば、建物の大きさもまた鉱石の比重もそれぞれ違うので正確には言えないが、その一つに鉱石をいっぱい詰めておよそ100−150万トン前後と見つもって良いだろう。従って各鉱種ごとの全世界鉱石年生産量は、それぞれについてこの升で測って数10杯ないし数100杯分に相当するほどの、実に莫大な量となる。また、これらの最終製品である各種金属としての年生産量を示すと、1978年度には次のように記録されている(USBM, Minerals Yearbook, 1978/79, Vol.1)
 粗鋼−約7.1億トン
 電気銅−約870万トン
 金属アルミニウム−約1,500万トン

図U-1 鉱石および金属の年生産量(1978)*1
*1 USBM(1980) Minerals Yearbook 1978/79, Vol. 1.
*1 OECD-NEA-IAEG(1980) Uranium Resources, Production and Demand 1978年度(除社会主義諸国)
国名略号−Aust. オーストラリア、Bel.-Lux. ベルギー・ルクセンブルグ、Braz. ブラジル、Can. カナダ、Chile チリ、Cz. チェッコスロバキア、FDR 東ドイツ、Fr. フランス、FRG 西ドイツ、Gr. ギリシャ、Guin. ギネア、Hun. ハンガリー、Ind. インド、It. イタリー、Jam. ジャマイカ、Jpn. 日本、Lib. リビア、Mor. モロッコ、Nam. ナミビア、Nig. ナイジェリア、Nor. ノルウェイ、Peru ペルー、Phil. フィリッピン、Pol. ポーランド、PRC. 中華人民共和国、S.Af. 南アフリカ共和国、Sur. スリナム、Sw. スウェーデン、Tun. チュニジア、UK イギリス、USA アメリカ合州国、Yug. ユーゴスラビア、Zair ザイール、Zam. ザンビア、Oth. その他。(別ウィンドウに拡大

 図U-1はこのような実状を円グラフで示したものである。いずれの場合にも上位10ヶ国の国名と生産量とを掲げておいた。なお、鉄・銅・アルミニウムの場合には、鉱石の年生産量と金属のそれとを左右に対置してある。これら両者を比較すると、各鉱種ごとに、a) 鉱石も金属も共に多く産する国(自国の産業を国内資源で賄い得る国)、b) 鉱石のみを多く産する国(鉱業一次産品のみの産出に限られる国)、c) 金属のみを多く産する国(国内産業を維持するのに多くの鉱石・精鉱を輸入しなければならない国)の三つのグループに分けられる事に容易に気付かれるだろう。それぞれの鉱種によって組み合せは異なるが、ここに挙げた3鉱種に対していずれも(a)グループに入る国はソ連邦のみと言ってよく、常に(c)グループに属しているのは日本・西ドイツなどである。(b)グループに属する国の多くがいわゆる発展途上国である事も一目瞭然だろう。このような関係は、鉱物資源を考える際の大切な問題点の一つである。これの社会的・政治的意味合いについては、例えばM.H.Govett(1976)、Z.Mikdashi(1976)、R.W.Aradら(1979)、G.Choutaqui(1979)やM.Tanzar(1980)などによって論じられており、ここでは重要な問題点の一つである事を指摘しておくのみに止める。
 わが国は、国土の狭いわりには多種の鉱物・化石エネルギー資源を持ち、これまでに一度も産出した事のない鉱種は、ダイアモンド・ボーキサイトなどの比較的僅かのものに限られている。またかつては、銅・銀などの世界的な輸出国であった事すらある。しかし、最近では国内産業の著るしい発達に伴なって、その生産量が国内消費量に見合う鉱種は、石灰石など非金属鉱物資源の中のごく僅かのみになってしまった。どこにでもあると思われて来た砂利や砂などですら、最近ではその将来が心配されている。表U-1にわが国の金属および非金属鉱物資源と採石関係の生産量・需要量および埋蔵鉱量についての最近の資料を掲げておく。
表U-1 日本の鉱物資源(除化石エネルギー資源)(1980)

金属鉱物資源

非金属鉱物資源

採石
鉱種 単位 鉱石生産量(1980)*1 需要(1980)*2 埋蔵
鉱量*2
(含有量)
(1980)
鉱種 単位 精鉱生産量*1
(1980)
需要(1980)*2 埋蔵鉱量*2
(1980)
区分 単位 生産量*1
(1980)
粗鉱品位(%) 精鉱量 含有量 内需 自給率(%) 内需 自給率(%)*3
Fe ×106t 34.3 0.477       4.18 石灰石 ×106t 185 180 100 53.8×109t

石材

×106t 124
Mn ×106t 13.7 0.080   1.77*4 4.1*3 0.659 ドロマイト ×106t 6.21 6.21 94.4 1.34×109t

砕骨材

×106t 367
Cr ×103t 20.1 13.6   883*4 1.4*3 104 頁岩粘土 ×106t 0.313*7

1.73

86.4
6.39

工業用原料

×106t 18.6
Ti ×103t       11.8 0   木節粘土 ×106t 0.414*7 10.8

砕石

×106t 404
Ni ×103t       35.4 0*5   蛙目粘土 ×106t 0.233 27.5

砂利

×106t 405
Co ×103t       1.74 0*5   カオリン ×106t 0.228 0.793 28.6 77.8  
W ×103t 0.6 1.9   4.85*4 25.9*3 20.4 ダイアスポア ×103t 1.72      
Mo ×103t       11.6*4 0.5*3   ろう石 ×106t 1.26 1.34 86.2 79181
Cu ×106t 1.2   0.053 1.32 13.7*6 0.961 ろう石クレー ×106t 0.374 0.392    
Pb ×106t 1.3   0.045 0.275 31.8*6 0.755 陶石 ×106t 0.273      
Zn ×106t 4.8   0.238 0.704 45.5*6 4.21 長石 ×103t 29.8 33.9*8 83.5  
Sn ×103t 1.3   0.549 30.3 4.0*5   珪石 ×106t 14.5 14.5 99.3 791.07×10*9t
Cd ×103t       1.06 100*3   珪砂 ×106t 4.72 5.30 88.0 79251
Bi t       261 100*3   重晶石 ×103t 55.9 92.3 56.4 790.862
Sb ×103t       1.40 1.9*5   蛍石 ×103t 433 0  
Hg t       324 51.8*5   石綿 ×103t 793.3 79298 791.1  
Au t 5.2g/t   3.18 134 9.6*6 36 タルク ×103t 122 568*8 22.2  
Ag ×103t 75   0.268 1.86 37.6*6   黒鉛 t 79300 7923.3×103t 791.4  
Al ×106t       4.94 0*5   硫化鉄鉱
 〔回収硫黄
 〔化学石膏
×106t
×106t
×106t
0.823
1.13
6.11
0.530
0.854
5.65
100
100〕
100〕
 
*1 通産省(1981)資源統計年報、昭和55年。*2 資源エネルギー庁(1982)鉱業便覧、昭和56年。*3 生産/(生産+輸入)。*4 精鉱。*5 (国内鉱出+その他出)/(生産+輸入)。*6 (生産−海外鉱出)/(生産+輸入)。*7 粗鉱。*8 (生産+輸入)。

 消費: 各種鉱物資源の年消費量は、世界的にかつおおずかみに眺めれば、それらの年生産量にほぼ見合う量とみなしてよい。もっとも最近では、各種資源の再利用度がしだいに高まって来ており金属の場合に特に著るしい。例えば鉄の場合には、1978年度での鉄鉱石生産量は4.8億トン(鉱石中含鉄量)であったのに対して、同年での粗鋼生産量は7.1億トンであった。その差2.3億トンの大部分は屑鉄・屑鋼の再利用によっている。
 鉱物資源の大量消費の実状を示すもう一つ別の資料を挙げておこう表U-2。この表では、多くの鉱物・化石エネルギー資源の年消費量の大きさをすべてその中での元素量で示してある。これによると、元素量として年間100万トン以上消費されているものは17種もの多くを算え、さらにこのほか工業用鉱物8種もこれに加わる。またそのうち1億トン以上にも達しているのは炭素と鉄とである。なおこのほか、石材・砂利・砂などの消費量もそれぞれ億トンの桁に達している。
表U-2 元素量で表わした鉱物・化石エネルギー資源の年消費量(1977)
年消費量(t) 主に金属合金として使われるもの 主に化合物の形で使われるもの 工業用鉱物(精鉱量)
109   C  
108(億) Fe    
107 Mn、Al Na、K、P、S、Ca カオリン
106(100万) Cr、Ti、Cu、Pb、Zn Si、B、Cl 石綿、蛍石、重晶石、長石、ベントナイト、酸性白土、滑石-パイロフィライト
105 Ni、Sn、Zr Mg、Br 雲母、ヒル石、石墨、カイアナイト類
104(万) Co、W、Mo、V、Nb、RE、Cd、Sb、Ag、U As、Sr、I モナザイト
103(千) Hg、Bi、Au Se、Li  
102(百) Ta、Pt族    
101 Be、Ge、In    
100 Re    
(数値資料:USBM(1979) Minerals Commodity Summaries, 1979)

 廃棄: 鉱物・化石エネルギー資源の開発・利用に当っては、鉱床探査・鉱石採掘から最終製品の産出に到るまでに多くの鉱業諸工程を必要としており、それぞれの工程で大量かつ多種の廃棄物を生じる。その1例を銅の露天掘り鉱山について示してみよう。
 アメリカ合州国ユタ州にあるビンガム鉱山は(写真U-1)、今世紀初頭から連続して生産の行われて来ている世界最大級の規模を持つ銅−モリブデン鉱石の露天掘り鉱山である。ここでは、1978年度には毎日およそ9.3万トンの鉱石(その銅平均品位はおよそ0.6%、モリブデン平均品位はおよそ0.035%MoS2を採掘していたが、これを掘り出すためには同時に、毎日約35万トンの無価値な岩石(ズリまたは廃石)をも取り除かなければならなかった。採鉱に続く選鉱の工程では、採掘した鉱石の90%以上にも相当する分が無価値の尾(び)鉱として捨てられた。最後の製錬の工程でも、同様に大量かつ多種の廃棄物を生じた。毎日鉱石・廃石合せて45万トン近くもの鉱石・岩石を掘り起しながら(新宿付近の高層ビルの一つを升としてこれを測れば、そのおよそ半分ないし3分の1前後に相当する)、最終的に利用される分、この場合には金属銅と金属モリブデン、は重量にしてその1%にも満たない僅かの量にすぎない。また上に挙げた固態廃棄物(ズリ・尾鉱や鉱滓など)のほかに、各工程で利用された水は廃水となり、あるいは製錬の工程ではある種の成分が廃ガスとなっていずれも周辺地域に排出される。この鉱山の記録によれば、1904年から1977年までの74年間に採掘された鉱石・廃石の総量は35億7,350万トン(そのうち鉱石はおよそ12億6,000万トン)とされている。この結果生じたすり鉢型の露天掘りの穴の大きさは、1978年夏には楕円形の長径約3.7キロメートル、深さ約0.8キロメートルにも達していた。

写真T-2 斑岩銅鉱石を採掘する アメリカ合州国 ユタ州 ビンガム鉱山 露天掘り採鉱場別ウィンドウに拡大

 先に記したように、最近での年鉱石生産量15万トン以上の鉱山(化石エネルギー・採石関係を除く)の数は世界全体で1,200に近く、化石エネルギー・採石関係までこれに加えれば、その総数はたいへんな数となる。これら多数の鉱山・採石場および関連する選鉱・製錬工場から毎年生じる固態・液態・ガス態の各種廃棄物の量がいかに莫大となり、従ってそれらの環境および生態系に及ぼす影響の著るしいだろう事は、容易に想像がつこう。
 鉱業の規模の小さかった時代には、特殊の例を除けばこの廃棄物の影響はまだ局所的な問題であり、しかもその多くは自然界が本来持っている浄化能力によって、何とか大きな問題とならずにすんで来た。しかし近年のように大量生産−大量消費−大量廃棄の時代となると、もはやこれは一般的にかつ常に何処にでも起る問題となり、その規模も局所的のみならず、より広域的さらには地球規模的のものまで現われるようになってしまった。特に放射性廃棄物のように、地域的に広いばかりでなく時間的には何世代もの後々にまで影響の及ぶものまで生じて来ている。
 これらの事は、鉱物・化石エネルギー資源の開発・利用の場合にも、その最初の段階からこれに伴って生じる廃棄物の処理とそれの自然環境および生態系への影響とを、十分考えに入れて事を行う必要がある事を意味している。これは資源問題を考える際に避けて通る事お出来ない重要な問題の一つとなった。しかし一方、将来とも私たちは、多種類の鉱物・化石エネルギー資源をしかも多量に利用せずには、すでに45億を超し21世紀初頭には60億をも超そうと予測されるわれわれ全人類の生活を保ちかつ発展させて行く事が出来ないのもまた確かであろう。これら両者の間をいかに上手に調節して行くか、これを至急に解決する事は現在の私たちに課せられた重要な責務の一つと考えなければならないだろう。
 (2) 鉱石・精鉱の動き   鉱物・化石エネルギー資源の地理的分布は、周知のように著るしく偏よっている。その理由は、まず第1に、世界各地あるいは各国国土の地質環境が、それぞれの場合ごとに著るしく異なっている事、一方第2に、鉱物・化石エネルギー資源の種類や規模は、それぞれの出来方(成因)の違いを反映して、地質環境ごとにそれぞれに異なっている事にある。これらはいずれも、自然に与えられた条件であって、私たちの力では何とも変えようもない。このような事情から、その消費を自国内産の鉱石のみに頼ってすべてを賄い得る国は、世界中に一つも無い。鉱物・化石エネルギー資源に特に豊富な国としてよく知られているソ連邦やアメリカ合州国ですら、ある種の鉱物資源に不足しあるいはまったく欠けている。日本やイギリスの現状はこの点で最も厳しい。この関係は、各国について必要とする鉱物・化石エネルギー資源の輸入依存度(あるいは逆に自給率)を調べるとよく判る表U-3、日本の場合はなお表U-4も参照)
表U-3 鉱物資源輸入依存率(%)

鉱種
日本*1
1978
EEC*2
1974-76
UK*2
1974-76
USA*3
1978
USSR*4
1979
Fe 92 79 89 29 (20)
Mn 91 100 100   (20)
Ni 100 100a 100a 77 (9)
W 64 >99 99.5 56 12
Cu 87 81 82 13 (30)
Pb 63 53 46 9 (10)
Zn 58 <68 100 66 (6)
Sn 96 87 65 79 21
Au 82     53  
Al 100 61b 62b 93 55
P 100 99 100    
K 100 20 57 64 (42)
*1 資源エネルギー庁(1981) 鉱業便覧・1980 輸入(金属および鉱石・精鉱中含有分)/(生産+輸入)。
*2 金属鉱業事業団(1979) 海外鉱業情報, 9, 286-294。輸入量/消費量、a:スクラップを除く、b:ボーキサイト鉱石・アルミナ・アルミニウム金属のすべてを含む。
*3 USBM(1980) Minerals Commodity Summaries 1980。
*4 Mining Journal(1980) Mining Annual Review 1980。輸入量/消費量、( )内は輸出能力を示す。

 この事を別な観点から眺めると、鉱石あるいは精鉱(選鉱工程での目的産物、採掘目的である特定の有用鉱物の濃集度を人為的に高めてある)などの鉱産物第1次産品の生産地から消費地への動き、すなわち鉱産物の輸出入が、全世界にわたって極めて複雑かつ大量である事を意味している。例えば鉄鉱石の場合には、1978年度での鉄鉱石世界全生産量は約8.4億トンであったが、そのうちのおよそ42%、約3.5億トンが各生産国から世界各地に輸出された(USBM, Minerals Yearbook 78/79, Vol.1,3)
 特にわが国は、鉱産物の輸入については世界的に極立った地位を占め、毎年世界各地から多種かつ大量の鉱石・精鉱を輸入して、現在の豊かな生活を保つ基礎条件の一つとしている。表U-4わが国の最近における鉱種別鉱石精鉱輸入量と輸入先(上位3ヶ国)に関する資料を掲げる。これによると、1980年度の場合表に掲げた29鉱種に対しては、アジア−11ヶ国、アフリカおよび南アメリカ−各4ヶ国、北アメリカ−3ヶ国、オセアニアおよびヨーロッパ(含ソ連邦)−各2ヶ国の合計26ヶ国から輸入している。
表U-4 日本の鉱種別鉱石・精鉱輸入量および輸入先(1980)

鉱種

輸入量(×103t)

主な輸入先(%)

輸入依存率(%)
Fe 133,721.3 オーストラリア(44.9)、ブラジル(21.3)、インド(12.3)  
Mn 1,796.5 南ア共和国(42.3)、オーストラリア(34.1)、ガボン(8.8) 95.9
Cr 950.0 南ア共和国(42.9)、フィリピン(21.9)、インド(17.9) 98.6
Ni 3,950.3 ニューカレドニア(50.6)、インドネシア(33.1)、フィリピン(16.2) 100
Co   (輸入ラテライト型ニッケル鉱石・精鉱中に含まれている) 100
W 3.5 韓国(22.8)、カナダ(19.4)、オーストラリア(16.0) 74.1
Mo 20.4 アメリカ合州国(51.9)、カナダ(30.4)、チリ(12.4) 99.5
Ti 409.1 マレーシア(42.4)、オーストラリア(27.2)、インド(12.1) 100
Cu 3,103.6 フィリピン(29.6)、カナダ(22.7)、アメリカ合州国(9.5) 86.3
Pb 258.6 カナダ(63.7)、ペルー(16.8)、オーストラリア(9.9) 68.2
Zn 804.9 オーストラリア(33.8)、カナダ(32.2)、ペルー(24.4) 44.5
Sn*1 35.1 マレーシア(59.4)、インドネシア(20.4)、タイ(19.8) 96.0
Sb 7.0 ボリビア(86.5)、南ア共和国(6.4)、タイ(6.3) 98.1
Hg*1 0.092 アルジェリア(65.8)、メキシコ(30.5)、スペイン(3.7) 48.2
Au   (各種非鉄金属精鉱中に含まれている) 90.4
Ag 3.4 韓国(100) 62.4
Al 5,707.7 オーストラリア(65.1)、インドネシア(21.5)、マレーシア(11.4) 100
燐鉱石 2,762.4 アメリカ合州国(57.4)、モロッコ(23.4)、ヨルダン(11.4) 100
石綿 305.4 カナダ(40.1)、南ア共和国(29.7)、ソ連邦(13.7) 98.9
黒鉛 69.6 韓国(37.5)、中国(30.5)、北朝鮮(12.8) 98.6
蛍石 487.5 中国(45.8)、南ア共和国(27.1)、タイ(26.0) 100
カオリン 565.5 アメリカ合州国(79.9)、韓国(10.7)、ブラジル(3.9) 71.4
ばんど頁岩 80.8 中国(100)

13.6
その他粘土 140.3 アメリカ合州国(64.2)、中国(27.3)、南ア共和国(6.8)
長石・ネフェリンなど 5.6 中国(46.5)、インド(25.0)、カナダ(18.0) 16.5
タルク 441.8 中国(67.9)、オーストラリア(17.1)、北朝鮮(7.6) 77.8
珪砂 710.0 オーストラリア(84.7)、サラワク(11.7)、マレーシア(2.2) 12.0
ドロマイト 215.0 台湾(56.9)、韓国(42.0)、アメリカ合州国(0.9) 5.6
石膏・硬石膏 32.8 モロッコ(96.1)、アメリカ合州国(3.7)、中国(0.2)  
数値資料:(通産省(1981) 資源統計年報、昭和55年)
*1 金属としての輸入量、Sn−金属塊(除合金)、Hg−金属。

 また世界的な観点からすれば、1978年度には鉄鉱石の全世界輸出量約3.5億トンのうち実に32.9%(約1.1億トン)が日本向けであった。同様の値(ただし1975年度)を他のいくつかの鉱種について示すと次のようになる−マンガン鉱石32.6%、アルミニウム鉱石15.5%、鉛精鉱22.5%、亜鉛精鉱26.0%。ここに挙げた5鉱種については、日本は全世界鉱石・精鉱輸出量のうちそれぞれ3分の1ないし5分の1程度を占める莫大な量を1ヶ国で輸入していた事になる。実際には、このほか製品(粗金属・金属・加工品など)としての輸入量も結構大きい。言いかえれば、現在の日本は世界各地から多種多量の鉱産物を輸入してその産業を支えている。仮に何らかの理由でこれらが止ってしまったら、いったいどういう状況になるのだろうか。10年ほど前に起きた2回にわたるいわゆる石油ショックの時の事を想い出してみれば、その影響の大きい事は誰にでも想像がつこう。

 2. 人類の歴史の中でこれまでの使い方を眺める
 (1) どのくらい使って来たか
   人類が一番初めに作った鉱物質の道具は、自然に転がる岩石の破片を材料とした石器だった。土器の原料としての粘土の利用もその起源は随分古い。金・銅・錫・鉛・銀・鉄など各種金属の利用の始まりも、古く数1000年以前にまで遡ると言われる。これらとは対照的に、この100年ぐらいの間に初めて大量に利用されるようになった鉱物資源の種類もまた極めて多い。マンガン・タングステン・モリブデン・ニッケル・コバルトなどの金属が主に製鋼原料として利用され、またアルミニウム・マグネシウムが軽金属材料として利用されるようになったのは、19世紀も後半になってから以降の事だった。最近のほんの20−30年間に初めて広く使われ出した鉱物資源の例を挙げる事も極めて容易である。

図U-2 最近における鉱物資源生産量の指数関数的生長
A−鉄鉱石、B−銅鉱石(別ウィンドウに拡大

 もちろん、これら各種鉱物資源の最初のうちの使用量は、今にくらべてごく僅かであった。しかし、時代の経過と共にこれはどんどん増していった。一般的に言って、各種鉱物資源年消費量(年生産量)の急激な上昇の境い目は、18世紀半ばごろからの産業革命の時期とみなして良いだろう。特にこの100年間ほどでの急上昇は極めて著るしい。図U-2にその例を示す。同図A・B中の滑らかな曲線は、生産量の年変化の一般的傾向をおおまかに示すために画かれたものである。ここに掲げた鉄・銅のほかどの鉱種をとっても、この種の曲線は常に右上りとなる。ただ、その勾配や立上り点の位置は、鉱種によってそれぞれに違っている。この勾配の大きさを示す各種鉱石生産量の年生長率の値としてローマクラブ報告第4号(Colombo,U. & Gabor,D., 1976)に挙げられた第2次世界大戦後との25年間(1948-1973年)での各種鉱石生産量の平均の年生長率は、鉱石中の含有金属量の値(燐鉱石の場合は鉱石量)で示すと、
 鉄−6.1%、マンガン−5.5%、ニッケル−6.7%、タングステン−1.9%、モリブデン−7.5%、銅−4.7%、鉛−3.4%、亜鉛−4.3%、錫−1.05%、アンチモン−1.4%、水銀−1.4%、銀−2.2%、アルミニウム−8.3%、燐鉱石−6.7%
となっている。ただし、1970年代のオイルショック以降は、その後の社会・経済状勢の変化を反映して、多くの鉱種についてこの率は少し下って来ている。
 ある人の試算によると(Pelissonnier,H., 1972,1975)、銅の使用量は世界全体として、
 18世紀末まで−およそ240万トン
 1800−1912年間−ほぼ1240万トン
 1913−1962年間−ほぼ1億1200万トン
と見積られ、1972年までの総使用量はおよそ1億8,000万トンと推定された。最近の統計によれば、1973−1979年間の銅鉱石生産量は鉱石中銅含有量にして約5,380万トンなので、1979年末までの世界総使用量はおよそ2.34億トンと見積ることが出来よう。これらの値を基にして計算しなおすと、ここ数1000年間での銅の総使用量のうちおよそ99%は最近の僅か200年間のうちに使われ、さらにごく最近の20年間ほど(全体の長さのうち最後のおよそ0.5%にも満たない短い期間)に使った量は、全体のほぼ45%にも達している事になる。もしこれらを人類の歴史の中で眺めなおすと、これまでのおよそ200万年の期間のうち最後の200年(1万分の1)あるいは20年(10万分の1)というごく短い期間内での出来事にすぎず、この点では一瞬のうちの出来事とすら言い得よう。このような傾向は、少なくとも定性的には、他のすべての鉱物資源・化石エネルギー資源に共通している。
 私たちは生れてからこの方ずっと、この大量生産−大量消費の仕組みの中にどっぷり浸り切って暮して来ているために、最近でのこの情況はごく当り前の出来事であるかのように簡単に思い込んでしまっているが、上のように長い期間をとって考えなおしてみると、人類の歴史の中ではこれはむしろ異常な出来事と思いなおしてみる必要があるのではないだろうか。しかも、この豊かな生活を享受しているのは、全世界総人口のうち20%にも満たない割合いしか占めていないいわゆる先進工業国の人々だけである。さらに、最近での各種鉱石生産量の年生長率は、先に記したように著るしく高い。この勢いが今後何10年も先まで変わりなく続いて行くとするならば、いったいどれだけの鉱物資源量が必要なのだろうか。また。その必要量を将来共十分に探し出し掘り出す事が出来るものなのだろうか。これらについては後でより詳しく考えてみる事にしよう。
 (2) 生産量・消費量の指数関数的生長とその将来
 上の事をまた別な観点から見なおしてみよう。最近での鉱物資源年生産量の急上昇を示す図U-2、A・B中の滑らかな曲線は、数学的には指数関数曲線として表わし得る。すなわち、

 Pt=Po×eat                            (1)
  Po:ここに考える期間の始まりの時期での年生産量(トン)
  Pt:それからt年後の時期での年生産量(トン) 
  e:自然対数の底数
  a:生産量のt年間での平均年生長率(%)の100分の1
  t:ここに考える期間(年)

 式(1)を基にすると、次のようにいろいろな事が判る。まず、このt年間での累積生産量をQt(トン)とすると、式(1)から、

 Qt=〔toからtまでの積分記号〕Pt dt=(Po/a){eat−1}   (2)

が得られる。また、ある時期toに知られていた埋蔵鉱量R(トン)がすっかり掘り尽されてしまうまでの年数te(年)は、この間の生産量の年生長率の値(100a%)がそのままずっと保たれると仮定すれば、式(1)から、

 R=〔toからteまでの積分記号〕Pt dt=(Po/a){eate−1}  (3)  

なので、求める年数teは(3)式を変形して次のようになる。

 te=〔ln{(aR/Po)+1}〕/a                      (4)

 ここで銅を例にとって試算してみよう。この場合には、鉱石中の含銅量で表わして、

 P1978=7.53×106 トン、R1980=494×106 トン

であり、仮に、

 R1978=R1980、a1978-2000=0.036

と仮定または予測すれば(以上の数値はすべてUSBM, Minerals YearbookおよびUSBM(1981)による)、これらの値を式(4)に代入して計算すると、次の結果を得る。

 te=34(年)

つまり銅については、

 a) 1980年以降銅に関して新らしい埋蔵鉱量の追加は無い(新たに有用鉱床はまったく発見されない)
 b) 1980年以降30-50年間程度の期間での銅鉱石生産量の年生長率は、ここに予測された値(3.6%)がそのまま保たれる

ことを仮定すれば、1980年度に見つけてあった銅鉱石の埋蔵鉱量のすべては、僅か34年後の2012年にはまったく掘り尽されてしまう事になる。しかし、(a)の仮定は現実的ではない。鉱床探査は今でも毎年引続いて世界各地で行われており、その結果毎年何がしかの新らしい有用鉱床が見つけられていて、埋蔵鉱量もつけ加えられている。そこで、(b)はそのままにしておくが、(a)の代りに、

 a') 1980年度での埋蔵鉱量は与えられた値の3倍とする−実際にはR1980はそのままだが、1980年以降のある期間内にそれの2倍に相当する量(2R)だけ新たに有用鉱床が探査・発見されて、結果として埋蔵鉱量は合計3Rにまで増す事が出来たと考える事になる。これは、銅に関しては私たちの努力次第で十分に可能性のある量と考えられる。

と仮定しなおして計算すると、この場合にはte=58(年)となるが、それでも2036年には無くなってします。さらに(a)の代りに、

a'') 1980年度での埋蔵鉱量は与えられた値の5倍とする−上と同様に考えて、1980年以降のある期間内に4Rに相当するだけの量を持つ有用鉱床を探査・発見出来たと考えるのが実際的である。ただしこの値は、これまでに何人かの研究者が見積った銅の総鉱物資源量のいずれよりも大きく、相当楽観的な見積りと言ってよいだろう。

と仮定しなおせばte=71(年)を得るが、これですら2049年には無くなってしまう事を示している。今後50-70年間という値は、せいぜい2-3世代の長さであって、決して安心出来る長さとは考えられない。なおこれらの年数は、銅鉱石生産量の年生長率平均値の見積り(前述の(b)項)が変われば、当然の事ながら変って来るのは言うまでもない。
 このようにして計算される年数は、いずれも鉱物資源の予測耐用年数(寿命)と呼ばれる。これらの数値は上のようにいくつかの仮定をおいて試算されたものにすぎないから、その結果がどれほど正しいものかどうかは、どんな種類の仮定をおいたか、また仮定事項のそれぞれにどんな具体的数値を見積ったか、などという事自体の確からしさにかかっている。従って、この種の試算結果の利用に際しては、試算の結果得られた数値だけで1人歩きする事は出来ず、その経過をも十分吟味して判断する必要がある。
 指数関数的生長の一つの大きな特徴は、時の経過と共に数値が急激に上昇して行く事である。初めのうちは大した事はないと思っていた値も10-20年後あるいは30-50年後には、実に莫大な値に達してしまう。鉱物資源の問題に戻れば、上の1例が示しているように、最近での鉱物資源の年生産量(年消費量)とその生長率とが共に大きいために、今後毎年有用鉱床を相当量新たに発見し続け得るとしてすら、その指数関数的生長の結果として、ある種の鉱物資源の枯渇がそれほど遠くない時期(おそくも私たちの子供や孫の時代)に訪れるかも知れないという可能性がある事を示している。その年数は、個々の鉱種によってもちろん違うが、早いものでは30-50年以内というものすらあるかも知れない。私たちは新らしい有用鉱床を今後引き続いて何時までも、かつわれわれが必要とする量だけ、常に発見し得るものなのだろうか。あるいは、現在の生長の勢いを弱め得て、その結果として寿命を延す事が出来るのだろうか。もしもこれらの事に失敗したら、鉱物資源の枯渇によって私たちの将来の生活はたいへんな破局を迎える事にもなりかねない。図U-3は、この最悪の事態が起きたとした時の様子を、鉱石の年生産量の変化という事を利用してごく模式的に示したものである。

図U-3 人類の歴史の中で鉱物資源生産量の年変化を眺める別ウィンドウに拡大)』


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