関根(注)(1986)による〔『鉱物資源の量的評価と元素の地殻存在度』〕

関根良弘先生は2004年(平成16年)5月24日に逝去されました。(1924年〜2004年、享年80歳)


目次
1.資源用語の問題
2.資源量評価の手法
3.資源モデル
4.ライフサイクル・モデル
5.量−質モデル(Lasky法則)
6.地殻存在度モデル
7.地殻中の元素分布
8.多変数モデルと人工知能
文献


『 現代の工業化された文明社会は、極めて巧妙・繊細に組立てられた巨大な組織体であって、その骨格を構成する鉱物資源の充当性(resource adequacy、供給の適切さ)に問題が起ると、危機が訪れることは既に幾度か経験した。その多くは政治的・社会的・経済的・国際的な事象によることが多かった。1960年代末期から、将来の経済発展に対し、鉱物資源のあり方が制約条件となりかねない事が強く意識されるようになり、鉱物資源の将来像の描き方に関し、資源評価の種々の方法が研究されてきた。
 金属・非金属・石炭・石油・天然ガスの個々の種別ごとに、問題の取扱い方は大幅に異なるが、ここでは鉱物資源の評価法、とくに資源量や賦存量を予測し、資源可能性について地域評価を行う方法などを、金属鉱石を中心に近年の状況や考え方を紹介する。

1.資源用語の問題
 鉱石・鉱床・埋蔵量などの地質・資源に用いられる専門用語は、一応定義づけられているが、厳密な意味を規定しないで用いられる場合が多く、とくに一般社会では定義の条件が示されないため、しばしば誤解を生じている。「埋蔵量」と称する数値が、埋蔵鉱量・可採鉱量、鉱石量・精鉱量・含有金属量のいずれに相当するのか、また埋蔵鉱量分類のどのカテゴリーまで含まれるのか明らかでない事が多い。
 埋蔵鉱量の分類の基本的考え方は、世界各国でほぼ共通であるが、各国の歴史的経緯により具体的にはかなり異なっている。一般的には現行経済・技術水準で稼行価値のある鉱体について、産状と探鉱密度により確かめられた鉱石賦存の確からしさの程度に基づいて、確定−推定−予想の3段階に区分されている。これらは既知鉱体で、現行条件で稼行価値のある埋蔵鉱量(reserve)である。
 現行経済条件では経済性の低いもの、技術および他の制約で当面は稼行対象とならないもの、および未発見で将来の探査に期待されるもの、などを如何に取扱うべきか? McKelvey(1973)は、これらを資源〔量〕(resources)と称し、埋蔵鉱量分類とともに、A-1図に示す如く、統一的に分類した。これはMcKelvey boxと呼ばれる。Govett-Govett(1976)のA-2図の分類法も本質的に同じである。これらは埋蔵鉱量区分の意味が視覚的に捉え易い。
 米国鉱山局(USBM)・地質調査所(USGS)は1976年に従来の分類・表記法を再定義し、さらに1980年に改訂した。その訳文を@・Aに掲げる。これは米国政府統計・公的報告書の基準として使われる。この中に「埋蔵鉱量ベース(reserve base)」の新用語があるが、Schurr-Netschert(1960)が用いた「資源ベース(resource base)」に基づく。
 Harris(1978)の資源用語をA-3図に示す。これらは、未知の資源量・賦存量の量・数・質が、経済的活動量・条件と技術的・社会的制約条件とによって、どのように変化するかを考察する際に、意義が深い。
 これらの用語の意味を略述する。
 資源ベース(RB) ある地域・全世界の地殻中に存在する既知のものと未知のものとの金属(鉱物)の全体。技術的有用・無用や経済的条件に全く無関係。自然物そのもので、その絶対量は不可知。
 鉱物賦存〔量〕(m)資源ベースの一部分で、ある一定の(最低の)品質・規模・深度の特性条件によって規定される金属濃集部分(鉱物鉱床 mineral deposit)中の金属量。自然物のもので、経済・技術条件に無関係。社会・経済活動の経過によっても不変。その絶対量は不可知。
 資源〔量〕(rs) もし発見されれば現在・近未来の技術条件、現行よりも有利な一定の経済条件で可採となる鉱床の金属量。これは鉱物賦存量の一部分で、賦存量・経済条件・技術条件の関数。
 経済的資源〔量〕(rs') 現行の経済・技術条件で利益を生む可採鉱床の金属量。資源量の一部分。
 潜在供給〔量〕(ps) 無制約市場におけるある特定の経済条件下で、最適探査費(支出)(optimum exploration expenditure, EX*)で発見され得る資源量(rs)。既知鉱床と発見期待鉱床の金属量。EX*は、発見されるべき鉱床の実現在価値(non negative net present value)の合計額に等しい。実探査費支出額(EX)は発見された各鉱床に割当てられる。EX>EX*ならば、より多数の鉱床が発見されるが、それぞれの鉱床により多額のEXが割当てられるから、EXの著増は全体としての損失となる危険がある。時間の経過とともに単位量当りのEXは増加する。概念的にEX*は、既知の低品位鉱床と、高品位ではあるが発見困難な鉱床との、何れかを二者択一(trade-off)する最適支出である。潜在供給量(ps)とは、最適探査費の投入で発見され、探査・開発・生産のコストをcoverして経済的に可採の鉱床の金属量である。一定条件下での未知の在庫(inventory)、すなわちstock量である。
 埋蔵鉱〔量〕(R) 既知の経済的資源量。埋蔵鉱量の範囲内の区分などは、ここでは触れない。
 供給〔量〕(Supply、St) ある時点において潜在供給量(ps)のうち既知のもの。累積生産量(cumulative production)と埋蔵鉱量(reserve)との合計で、flow量でなくてstock量である。
 以上の各区分の関係を要約する。経済限界下資源〔量〕をrs''、既知にK、未知にUを下付する。
 (1) RB>=m>=rs>=rs'
 (2) rs=rs'+rs''
 (3) rs>=ps>=St
 (4) rs'=rs'K+rs'U、   rs''=rs''K+rs''U
     rsK=rs'K+rs''K、  rsU=rs'U+rs''U

2.資源量評価の手法
 鉱物資源論で直接的に注目されるのは、資源の充当性(resource adequacy)・経済的稀少性(economic scarcity)である。埋蔵鉱量の数値の大きさは短期的には重要であるが、長期的な経済・産業・国際的政策のためには、その経済・技術の限界条件を変化させられる形の評価法が望ましい。経済・政策的には潜在供給量・需要量(demand)・価格(price)が、資源的・技術的には資源ベース・鉱物賦存量・資源量が、考察の対象となり、それぞれの変動条件により、どのような関係が成立するかを求めるのが資源評価の骨子である。
 経済市場への鉱物資源供給の適切さを左右するのは、地質(自然的)・技術的・経済的・社会−政策的な要因である。鉱物資源産業が他の産業・製造業と根本的に異る特性は、(1)対象物が天然産・未知で、危険資金を投入して鉱石を発見しなければ、後続の工程は全く存立し得ない、(2)生産工程の数が極めて多く、各段階の工程ごとに使用される技術群も、その原理も全く異る、ことである。金属が市場に供給されるまでの生産工程の各段階と、各工程に影響を与える自然的条件・地質的要因を次図に示す。
金属生産の主要工程
探査

(1)位置−

−深度(2)

開発

−鉱量(6)

(5)品位−

採鉱
選鉱
(破砕・選別)

−粒度(4)

(3)鉱物種−

製錬
精錬
市場

 地質的要因は、(1)元素農集部(鉱床)の地理的位置および分布状況、(2)それの賦存する地下深度、(3)鉱石を構成する鉱物種と鉱物組成比、随伴する鉱物・元素種、(4)鉱石鉱物の粒度、(5)鉱石・鉱床の平均品位と品位分布、(6)鉱量、である。
 発見を期待する鉱量は賦存量(m)および資源量(rs)に包含されている。ただしそれらの絶対量は不明である。何らかの方法で、ある範囲・地域、ある条件で、mまたはrsを推測できれば、それに他の人為的変動条件を課することにより評価が可能となる。「何らかの方法」とは、まず、mもrsも純自然状態のものであるから、地球科学(地質・地球化学・地球物理)の理論を応用して、発見期待の鉱床(元素農集部)の数・量・質を推測できるかどうか、その方法は何か、ということになる。ここで最も重要なことは、定性的な解答ではなくて定量的な解答が求められていることである。原理的には、元素農集部(鉱床)の既知の定量的データから、未知部の定量的推定を行うことである。近年の解析方法の特徴は、鉱物資源の産状を確率現象と見做し、既存の定量的データを統計的推測方法によって解析することである。データの収録と処理にはコンピューターが駆使される。基礎となるデータの高精度と、定性的データの定量化とが必要である。

3.資源モデル
 鉱物資源の充当性を解析・予測する方法は、研究者・作業目的・対象鉱種・鉱床型・対象地域・アプローチの方法によって異なり、それらのモデルは千差万別である。
 最近、Harris−Agterberg(1981)は鉱物資源の評価方法の問題を総括して論じた。さらにHarris(1984)は、従来発表された極めて多数の研究・解析・評価の事例を詳細に議論した。次の5種類のモデル群に大別されよう。
(1)経済的資源モデル(Economic Resource Models)
 生産量・発見量その他の諸要素量の過去−現在のある期間の、時系列変化をトレンド分析し、将来量を予測する。Hubbertの単純ライフサイクル(時系列傾向)モデルは後述するが、他に、計量経済学的需給モデル(需給関係の変化など経済的要因を因子とし、過去の期間の生産量の変化をパラメターとして将来の生産量を予測する)、発見率モデル(一定量の累積(試錐)作業量に対する累積発見量の関係から、潜在供給量(ps)に相当する究極可採埋蔵鉱量を推測する。原油・ウラン・非鉄金属の例あり)、発見プロセス・モデル(探査試錐が一定面積大の原油プールを発見する確率は、体積盆地全体に対する産油地域の面積比に等しいとするモデル)などがある。
(2)量−質モデル(Quantity−Quality Models)
 ある種の金属鉱床では、量−鉱量(tonnage)と質−品位(grade)との間に一定の関係があるとして評価するモデルである。かってLaskyが斑岩銅鉱床について議論し、後にLaskyの法則と呼ばれるに至った。他の成因型・鉱種における法則の妥当性など類似の解析が多い。後に説明する。
(3)地質的資源モデル(Geological Resource Models)
 充当度の評価法としては上述の経済的資源モデルとは反対極にあり、経済的因子を含めないで自然の産状の因子のみに依存するモデルである。これは大きく、@地質家の熟練、地質過程−地質現象の判断、地質条件の変数化、鉱物産状(鉱山数・鉱床数・金属量・鉱量分布・金属評価額など)の数量的データを統計的・確率論的に操作して、既知データを集めた基準地区(control area)のパラメターを、モデルに代入して検討地域(study area)の評価を行う主観的確率分析(subjective probability analysis)モデルと、A地殻中の単位面積(容積)当りの金属量・鉱床数などの度数分布(frequency distribution)を決定論的に取扱う地殻存在度(crustal abundance)モデルとがある。
 前者@の代表的な例は、Harris(1973)の行ったメキシコSonora州66千平方kmの地域評価で、10人の当該地域の探査地質家の主観的確率判断を求め、Monte Carlo法で解析して銅鉱の期待賦存量を算出した。B-1・2図(略)に示す地質家の鉱床賦存予測地と、B-3・4図(略)に示すそれらの鉱床数・規模・品位の確率値とから計算して、各地区ブロック(cell)ごとの資源賦存量をB-5図の如く求めた。Barry−Freyman(1970)のカナダB.C.州−Yukon州の11鉱種の賦存量評価、Ellisほか(1975)の米国政府ERDA(後のDOE)による26人の地質家によるDelphi法を用いたニューメキシコ州のウラン賦存量評価など多数の例がある。
 確率論的処理を行わない最も単純な推測方法は地質類推法(geological analogy models)である。1974年に資源エネルギー庁鉱業課(1974)の依頼により、当時金属鉱業事業団調査部内で行ったわが国の銅・鉛・亜鉛資源の量的評価には、この地質類推法を用いた。
 後者Aの地殻存在度モデルはさらに、多元素種を同時一括して評価したモデル群(その代表例はMcKelvey(1960)のモデルで後述)と、単一元素ごとに金属濃集の度数分布を確率的に組立てるモデルとに分けられる。この後の方は最近発展してきた極めて重要な手法で、むしろ次の(4)に含められる。
(4)統計地学(地球統計学)的モデル(Geostatistical Models)
 鉱物資源の産出(occurrence)に関するいろいろの様相を確率論的に取扱うモデルであるが、鉱床の産状の物理的要素の各々に適当なベクトル量を与えて、金属賦存量を確率論的に求める方法である。統計地学・地球統計学・地質統計学などは、geostatisticsの訳であるが、日本語の定訳はない。この用語は、地質(地球化学・地球物理・鉱床・資源・鉱山などの分野を含める)に応用される統計学、および適用すること、統計データを収録・処理することを意味するが、コンピューター化の進展と共に浮び出てきた数理地質学(mathematical geology、国際学会と会誌あり)とともに、埋蔵鉱量の評価・計算方法(例えば、新井、1985;Rendu、1985など参照)や資源賦存の予測、探査プロジェクトの評価法(例えば、正路、1985など参照)などの分野で、今や正統的な方法となりつつある。
 一定地域・一定深度までの鉱床または鉱化岩体中の金属賦存量(m)は、岩石重量(W)×確率(p)×平均品位(q)の積で示される。確率(p)が最も問題であるが、単変数・両変数(品位と鉱量など)・多変数の確率密度分布(関数)で規定される。この関数のパラメターに、直接・間接に地殻中の当該元素の存在度(Clarke数など)の度量が用いられると、CAG(crustal abundance geostatistical)モデルと呼ばれる。
 これらに用いられる分布関数の種別や確率モデルの違いによって、モデルの種別も多岐にわたる。また経済的因子の組み込み方によってもモデルの形は異なる。これらの問題については後で触れる。
(5)複合モデル(Compound Models)
 統計地学的方法を用いた資源賦存量(m)の純地質的モデルと、純(計量)経済学的モデルとを結合させたモデルである。
 例えば、鉱床数・金属量・鉱床規模・品位などの確率分布から賦存量(m)を算出し、それに経済的・技術的(技術を経済因子に連関させ)因子を操作して、資源量(rs)や潜在供給量(ps)などを求める。また、生産物の価格、探査作業の効率、作業コスト因子を操作して、一定の条件下で発見されるべき鉱床を求める探査モデル(exploration model)や、さらに発見されるべき鉱床に探査費(EX)と開発資本コスト・生産操業コストとを割当て、一定の条件下で発見各鉱床の経済的feasibilityを判断するための、DCF法(Discounted cash flow)を組込んだ開発生産(exploitation)モデルも組立てられている。経済・技術条件やcut-off品位などを変化させて、潜在供給量の可能性を評価することができよう。
 以上の各項で述べた如く、資源評価モデルは多種多様であり、問題の捉え方と解析方法によって、ユニークな方法・モデルも出現するであろう。
 C-1〜7図(略)はMasters(1986)の図を借用した。これは上述の発見率モデルに関する例で、究極資源量を予測している。またC-8・9図(略)にSinger(1986)の図を借用して、世界の塊状硫化鉱床・斑岩銅鉱床の鉱量の分布モデル、品位の分布モデルを示した。何れも累積度数曲線で示されている。これらを用いての種々の解析方法が論ぜられているが、さらにこれを解説した関(1986)の記事も参考になろう。Singerのこれらモデルは後の第7章で触れる。

4.ライフサイクル・モデル
 経済活動の動態は、生産量・発見量などの時系列変化に反映し、そのモデルは傾向(trend)曲線の方程式で示される。経済活動の内容は多数の経済変数の時間経過による変化で表わされる。年変化の傾向を示す適切な変数を選び、組立てられた関数によって生産量などの将来が推測される。
  St=t時点における既知鉱量(供給量)。
    =累積生産量と埋蔵鉱量の和。stock量。を
  bt=(t-1〜t)期間中の発見鉱量
  Qt=(t-1〜t)期間中の生産量
とすると、生産量の時系列変化はstock量の変化と関係がある。その関係は、
  Qt=St−St-1−bt
である。過去の生産量のデータを図にプロットし適合する曲線f(t)を描く。F(t)=t時点までの可採資源量(Stに相当)として、F(∞)をt=0→∞期間中の総可採資源量(究極生産量)とすると、F(∞)−Stの差が当該時点における未知の(将来のために存在している)可採資源量である。F(∞)はf(t)のt=0→∞のときの曲線と基底線との間の面積に相当する。ただし生産量の時系列曲線は対称〜非対称ベル型を描き、また経済的可採資源量はやがては涸渇すると前提する。この種のモデルは短期的には鮮鋭な結論を示すが、長期的には、経済と技術の質的な大変化をどのように考えるかという点が問題である。しかし、この種のモデルに価格・技術の変動因子を組込んだモデルも案出されている。
 対称ベル型曲線は、一次微分のlogistic(正規型 normal、ガウス型 Gaussian)曲線であり、非対称ベル型曲線は、gompertz(歪んだ skewed ベル型)曲線である。変曲点(flex point)は前者では曲線の中央に来るが、後者では左方(正に歪む時)または右方(負に歪む時)にずれる。
 米国のM. King Hubbertは、1962年に、アラスカを除く米国内の原油年産量・年発見量をプロットし、その変化に適合する曲線を求めた。B-6図(略)に示すように、発見量の頂点は1957年であって既に最盛期を過ぎており、発見量・生産量の変化曲線logitic曲線とすると、1957年までの累積発見量は85.3×10^9 bblで、究極可採量F(∞)は2倍の170.6×10^9 bblとなる。従って1962年までの累積生産量曲線に基づくF(∞)曲線を描くと、その変曲点すなわち原油生産量の頂点は、1957年から12年後の1969年に来て、それ以後漸減すると予測した。この1962年時の予測に対して、現実の生産量の頂点は1968年に到来し、予測とのずれは僅か1年であった(Hubbert、1969、1974)。彼の研究は大きな関心を呼んだ。この種または類似の解析法は各方面で応用されたが、他方では曲線型の必然性、究極可採量−既生産量の可採埋蔵量の絶対値の見積りの大きさを含めて、多くの反論・批判も出されたという。

5.量−質モデル(Laskyの法則)
 G.S.Lasky(1950)は、米国の10大斑岩銅鉱床の各々および全合計に関して、累積鉱量(t)の対数とそれぞれの平均品位(q)との間には、B-7図(略)に示すような直線関係のあることを示した。すなわち、K1、K2を定数として、
  q=K1−K2logt
これを書き直すと、C1=K1/K2、C2=1/K2として、
  logt=C1−C2・q
この式は、負の指数(negative exponential)関係を意味する(B-7図・8図は、通常の座標系の場合とは異なって、横軸の品位は原点に向って増加することに注意)。
 さらにこの10鉱床から「仮想的平均の」鉱床を求めて、その「典型的」な斑岩銅鉱床における鉱量−品位関係は、B-8図(曲線A)の
  q=12.9−1.4 logt
であり、これから
  logt=9.2148−0.7143q となる。
8図において、曲線Aは「典型的」鉱床の全鉱量の平均品位に対する関係を、曲線Bはcut-off品位に対する鉱量の変化を、曲線Cは含銅量の変化を、曲線Dは含銅量の変化率を示す。
 鉱量−品位の関係の捉え方には、(1)ある鉱床の埋蔵鉱量とcut-off品位との関係、(2)ある鉱床の一定のcut-off以上の埋蔵鉱量とその鉱量の平均品位との関係、(3)一連の鉱床群における(1)および(2)に対応する関係、(4)資源量における推定品位との関係などの場合があるが、Laskyの発見は関心を呼び、他の鉱種・鉱床型の場合や、累積でなく原数値で関係を求めるなど種々の研究が行われてきた。
 Musgrove(1965、1971)は、鉛鉱床の低品位鉱量の可能性の問題にLasky関係を援用し、さらに未知資源量を推定するモデルにまで一般化して、累積生産量と埋蔵鉱量についての累積和とその平均品位との関係から、品位を遙かに低下させた場合の鉱化岩の鉛量を推定した。
 Cargill−Root−Bailey(1980、1981)によれば、米国の水銀鉱床の累積生産量・品位の時系列データは、Lasky関係とは少し異なり、I-1図(略)に示す如く、log−log関係をもっている。(ただし、この図で縦軸の品位は%で表示されている。)この関係は、
  logq=b0+b1・logt
  q=A・t^b1、A=10^b0
ただし、qは絶対数で示す平均品位、tは累積鉱量(10^6kg)とする。彼等はさらに銅鉱石・石油・天然ガスの資源量・賦存量の解析へも拡張した。
 Singer−DeYoung(1980)によれば、Ni・Cu・Mo・W鉱床の成因型など11群の鉱床群について、それぞれの場合の鉱量(T)、平均品位(G)、金属量(M)の間の関係で、相関関係の程度はまちまちであり、また各々の分布も一様でないが、全体としては近似的に対数正規分布に近い(正または負に歪んだ分布の一部と考えられる)。その相関の程度、Lasky関係の状況をE-6表(略)に示す。これらの関係を元の地殻存在度レベルにまで外挿しても、地殻中の資源量を推定するための合理性に乏しいという。
 Agterberg(1980)は、カナダ・アパラチア地域およびAbitibi地域のAu・Cu・Pb・Zn資源の問題を論じ、指数分布は対数正規(lognormal)分布への近似であろうと論じ、上記地域の場合には対数正規関係のモデルが適用できる事を示した。しかしEllis−Harris−Van Wie(1975)によれば、米国New Mexico、Wyoming州のウラン鉱床の場合にはLasky関係を示さないという。
 Lasky法則の中にひそむ問題の一つは、品位値の分布における分散(variance)の問題である。これは品位分析のサンプルのSupportの大きさの影響である。SupportとはMatheron(1971)がとなえた用語で、基礎測定(品位分析など)が行われた物理的単位量(サンプルなど)のことである。Supportの大きさが品位の変化(分布)に与える影響は、Matheron−De Wijsによるvariance−volume関係で示される一般法則の特殊例とみることができる。品位の分散(σ^2)、周囲の環境の容積(V)、Supportすなわちサンプル容積(v)とすると、
  σ^2=γ・ln(V/v)
であり、品位の分散はサンプルの大きさに逆比例し、同時に固有の条件γに従って変化する。De Young(1981)は、品位と鉱量とは統計学に独立で、品位分布が対数正規のときの、平均品位と鉱量との関係を調べた。その関係は、標準偏差(standard deviation、σ)の大きさで異なり、ある場合には指数関数であるが、一般的には指数関係でない。
 Lasky法則を応用するとき、更に低品位の資源量を推定するときには、実際の鉱量・品位の分布に適合する適切な関数(モデル)を選ぶ事と、その関数で外挿できる限界を認識する事が必要である。
 E-4図(略)において、ケース(1)は鉱量(t)と平均品位(q)とが単純な直線(linear)関係のときの鉱量の対数(ln t)とqとの関係を意味する。
  t=K1+K2q、 K1、K2は定数。
故に、この図のような場合にはt−qの直線モデルを用いて解析する。ケース(2)は、tとqとの間の真の指数関係を示す。
  t=A・e^(K2q)
  ln t=K1+K2q、 ln A=K1
この場合には、ln tとqとの間の直線関係を適用して解析を行う。ケース(3)では、ln tとqとは直線関係でない。これを直線モデルに変換するには2方法がある。(a)データはln tとqとの間の指数関係を示すものと考え、
  ln t=A・e^(K2q)
とし、次いで再度、対数変換を行ない直線の関係式を得る。
  ln(ln t)=K1+K2q、  ln A=K1
(b)この曲線は、tとqとの両方の指数関係を示すものと考え、次いでその両辺の対数をとる。
  t=Aq^K2、  K2<0
  ln t=K1+K2 ln q、  ln A=K1、  K2<0
現実には種々のパターンを示すものが多いが、その大半は、ここに示した3ケースの何れかに含められる。
 次に、モデルの適用限界の問題をみよう。E-5図(略)において、鉱床の鉱量を(a)図の鉱量−品位のヒストグラムで代表させる。即ち鉱量の総計は7個のブロックの高さの和で示される。鉱床の品位は最低(0.005)から最高(0.25)の間の鉱石で、鉱床の総平均品位は0.09であるとする。(b)図は各々のcut-off品位以上の部分の累積鉱量の分布を示す。品位分布は(a)図と同じ。(b)図の横軸(cut-off品位)下の数値は各累積鉱量区分毎の平均品位である。(c)図は各区分の累積鉱量の対数値を平均品位に対してプロットしたもので、量−質曲線である。全鉱量(t7)の平均品位(q7)は上述の如く0.09である。従って、(c)図で累積鉱量−累積品位曲線は(q7、t7)点で終らなければならない。品位曲線をq7(鉱床の総平均品位)以下に、鉱量をt7以上に延長する事は、架空のこととなる。7組の累積鉱量−平均品位から累積金属量を計算(m=t・q)し、品位に対してプロットすると(d)図の曲線となる。平均品位はq7以下にならないから、累積金属量もその地点までしかプロットされない。この鉱床の総平均品位はterminal(終着の)平均品位と称すべきであり、この位置で金属量は最大となる。この点が、資源量評価のとき低品位へ外挿することのできる限界となる。

6.地殻存在度モデル
 McKelvey(1960)は、米国の埋蔵鉱量とそれらの元素の地殻存在度(crustal abundance、%表示、Clarke数)との間に一定の関係があることを示して、金属の未知可採量を地殻存在度から大まかに推定できると論じた。ある鉱石元素の地殻存在度をA(%)とすると、米国内26鉱種の埋蔵(金属)鉱量(R、米トン)はD-1図(略)に示す如き、
  R=A×10^K
の関係があり、26全鉱種にはK=6〜11、約13鉱種ではK=9〜10の狭い範囲の直線関係がある。地殻存在度の低いminor〜rare元素で埋蔵金属量−存在度の相関が高い(直線関係)。元素の地殻中の品位(濃度)分布は、L.H.Ahrensによれば対数正規分布で、その最多量値は平均地殻存在度の付近にあって、鉱石品位領域ではLasky法則に従うと論じた。さらに米国におけるこの関係から、米国との面積比(17.3倍)をもとに全世界の埋蔵金属量を推定した。
  RW=17.3A×10^(9〜10)
 関根(1962)は日本における類似問題を検討した。D-2図(略)に示す如く、日本の埋蔵金属量はR=A×10^(8〜9)で、米国よりも1桁少ない。米国面積は日本の21.2倍(その後に州になったアラスカを含めれば25.2倍)であるから、その差は当然である。しかし単位面積値(URV、unit regional value)では日本の方が高い。埋蔵鉱量値は時間経過で変動するから、数値そのものに大きな意味はない。資源賦存の可能性の観点から、McKelveyが考慮しなかった既採掘金属量(1958-59年までと政府統計以前の推定値を含めた)を埋蔵鉱量に加えた推定賦存金属量(現在の用語では供給量、St)と地殻存在度とをD-3図(略)の如くに示した。日本の金属生産の長い歴史、高い探査・開発密度を考えて、将来の資源量の可能性を含む潜在供給量(ps)の限界を仮定した。
  潜在供給量、 V=A×10^(9〜9.5)
これの単位面積値は、VW=(2.7〜8.5)A×10^3となり、日本程度の面積地で高探鉱密度に基づくこの値(VW)は、世界の将来の潜在供給量の目安となろう。また当面の世界の埋蔵鉱量は世界・米国・日本の面積比からR=(17.3〜365.1)×A×10^(9〜10)と考えられる。特に、McKelvey(1973)は、日本のような狭い国土地域でMcKelvey関係の成立つことに驚いた。
 Erickson(1973)は、米国の新しい埋蔵鉱量・可採資源量データと、Lee−Yao(1965)の元素存在度を用いて、F-2表(略)に示す如く地殻全体・海洋地殻・大陸地殻・楯状地・褶曲帯・米国地殻・同1km厚地殻における主要鉱石元素含有量を推定した。米国の埋蔵鉱量はD-4図(略)に示す如く、R=2.7×A×10^10となる。(メートル制では2.45となる。開発史の古い鉛の埋蔵金属量(31.8×10^6 t)と存在度(13ppm)を基準とした)。世界の埋蔵金属量は面積比(17.3倍)から、R=2.45×A×10^6×17.3=42.4A×10^6となる。探査・開発史の古いPb・Mo・Cu・Ag・ZnはR=2.45A×10^6に近いが未知資源量を考えると、R=A×10^7が漸近線(asymptote)と考えている。
 Govett−Govett(1976)は、16鉱種の世界埋蔵金属量はD-5図(略)の如く、R=(6.8〜100)A×10^5、埋蔵金属量と年間生産量(P)との間には、D-6図(略)の如く、R=(10〜300)P、生産量と地殻存在度との間には、D-7図(略)の如く、P=(1〜28)A×10^4の関係が認められると述べている。
 立見(1979)は、実鉱床地区の元素濃集の程度の因子を導入し、当該ブロックに含有される鉱石元素の総量に対する濃集部(鉱化部)の金属量の割合を鉱化度(mineralization factor、F)と名付けた。平均鉱化度の数値は、カナダ Bell Copper、ドイツ含銅頁岩、アンデス斑岩銅鉱地域の実例や、日本・北米の既知資源量などからE-1図(略)の如く推定される。総鉱床(含有金属)量は次の式で示される。
  R=M×n×A×10^(-6)×F
ただし、R−大陸地殻上部のある元素の総鉱床(金属)量
     M−全大陸地殻上部の質量、15.1×10^18t(Lee−Yao)など
     n−可採部の割合、0.2〜0.3(大陸地殻平均35km厚の20〜30%、7〜10.5kmまで)
     A−元素の大陸地殻存在度、ppm
     F−大陸地殻上部での平均鉱化度、10^(-4)〜10^(-5)と推定。
従ってE-2図(略)の如く、R=(3.2〜4.8)A×(10^7〜10^8)とした。著者は、元素ごとの鉱化度の設定、新型の資源、海洋地殻、海底資源、造岩主元素、海水溶存元素などの問題があるが、上式のうち最少値のR=3.2A×10^7位が妥当な見積りと考えた。
Harris−Agterberg(1981)は以上に述べた諸般の事情を総括した。Erickson(1973)の米国埋蔵量R=2.45A×10^6、Ovchinikov(1971)の世界32鉱種平均によるR=3.3A×10^6を各々の面積で割った単位面積値(URV)は、
  URV(米国)=0.313A トン/km^2
  URV(世界)=0.022A トン/km^2
で、世界のURVが1桁少ないことに要注意。
 Agterberg−Divi(1978)は、カナダ・アパラチア地方の銅・鉛・亜鉛ポテンシャルを対数正規モデルで論じたが、そのURVを他の地域と次のように比較し、供給量における日本・アパラチアの近似性に注目した。因みに、カナダ・アパラチア地方の面積は36.2万平方kmで、日本とほぼ同じである。
  A(ppm) 埋蔵鉱量 埋蔵鉱量 供給量 供給量
米国-McKelvey 日本-関根 日本-関根 カナダ-アパラチア
Cu 63 2.9 4.0 17.6 13.0
Pb 12 0.9 1.9 3.5 23.8
Zn 94 2.5 8.9 53.8 50.8

 Garrett(1978)によれば、カナダ全域の10鉱種について、(1)1975年までの生産量、(2)埋蔵鉱量、(3)条件付資源量、(4)推測資源量、(5)Supeculativeな新型資源量、を累加して地殻存在度に対してプロットすると、E-3図(略)となり、McKelvey関係が適当でないと考えられる。図の中の2本の斜線は、上記のURV(米国・世界)にカナダ面積(997万平方km)を乗じたモデルであり、各種鉱量とURVと地殻存在度との間に密接な関係は認めがたい。
 本章で示した元素の地殻存在度モデルには次のような問題点がある。
1.埋蔵鉱量・供給量などと存在度との直線的関係は、1桁以上の幅広く(相関は低く)極めて大まかであり、誤差が大きすぎる。
2.各鉱石元素が地殻の中で、同じ度数分布を有する事が前提とされるが、これは立証されていない。
3.Cut-off品位の値が各鉱種・各鉱床型で同じ経済的・技術的意義を有する事が前提とされるが、これは議論されていない。
4.資源量(m)の究極値として漸近線の妥当性が議論されていない。
5.資源量予測として、外部条件(経済的・技術的)の変化に対するシミュレーションが出来ないために、議論がこれ以上に進展しない。
 また、本章の主題や関連事項に関して、佐藤(1982-83)の興味ある解説、西山(1984)の紹介、さらにフランスの学派の鉱床濃集に関する研究の矢島(1976)による紹介がある。

7.地殻中の元素分布
 地球化学なる用語が、ドイツ人化学者でBasel大学教授、オゾンの発見者C.F.Schonbeinにより命名されたのは、1838年であったが、地殻の全体の化学的性状が具体的に論ぜられるようになったのは1910年代からである。当時すでに各種岩石の化学分析が行われ、莫大なデータが蓄積されていた。
 Richardson−Sneeby(1922)は、火成岩の主要な元素酸化物の濃度分布は、正規分布を示すことを明らかにした。1924年に、Clarke−Washingtonは米国地質調査所の岩石分析データから5159例を選び、地殻上部10哩(16km)が火成岩95、頁岩4、砂岩0.75、石灰岩0.25の割合から構成されるとして、その化学組成・微量元素の平均含有量(存在度)を発表した。後にA.E.FersmanがこれをClarke Numberと命名した。この種の研究はその後多くの研究者に引継がれた。そのあらましをF-1表(略)に一覧する。研究者によって元素存在度の値にかなりの差が認められる。Krauskopf(1979)の地殻・花崗岩・玄武岩・頁岩・海水中の元素存在度をG表(略)に、また参考のためにMason(1982)の海水・陸水中の元素の特徴をH表(略)に掲げた。
 Ahrens(1953、1954、1957)は、特定の火成岩において、元素の濃度の度数分布に適合する曲線は対数正規曲線であり、また火成岩中の元素のabundance〔mean・medianで示される〕は、常に最も卓越したconcentrarion〔mode値〕よりも大きく、その差は極めて微小か、または極めて大きく、その濃度の分散の大きさにより規定されると論じ、地球化学の根本法則と称した。対数正規分布とは、一般的には例えばI-2図(略)の頁岩中のリチウムのような場合である。
 〔Ahrensの第2則は、正に歪んだ正規分布を意味する。Mode(モード、最確値)、mean(平均、平均値)、median(中央値、中位数)の著しく歪んでいない正規分布での関係はmode≒mean−3(mean−median)で、歪度(skewness、SK)=(mean−mode)/標準偏差(σ)≒3(mean−median)/σ。正規曲線の形は尖度(kurtosis)にも規定される。尖度(β2)は、平均値のまわりの第4次と第2次のモーメントで規定され、β2=μ42^2=μ4/σ^4、(σは標準偏差、σ^2は分散)。β2=3.0のときがmesokurticで真正の正規曲線、β2>3ならばleptokurticで尖んがり、β2<3ならばplatykurticで平たくなる。〕
 Ahrensの対数正規−根本法則説には賛否両論が激しく続いた。Chayes(1954)は、Ahrensの統計処理法を不適当とし、概念的に低存在度元素は対数正規かもしれねが、主要元素は明らかに正に非対称の分布を示さないと反論した。Miller−Goldberg(1955)は、元素の統計的分布は次の4独立因子の関数であり、その分布は特定の1種類に限定されないとした。(1)生成・沈澱の化学環境、(2)岩型・鉱物群にかかわる元素の性質と種数、(3)地質過程の時間経過、(4)反応の可逆性−非可逆性。
 Vistelius(1960)は、濃集作用の脈動による増加分が、濃集物の大きさと濃度とに正比例すると仮定すると、最終濃集物の濃度分布は対数正規得ること、また個々の地球化学過程は「中心極限定理(central−limit theorem)」に支配されて正規分布であるが、地球化学プロセスを通しては結合(joint)分布であり、正に歪んだ分布であると論じた。黒雲母花崗閃緑岩1kgを5gサンプル200個に分割し、P2O5分析値をプロットした。その度数分布は正規曲線に適合した。また火成岩4788分析例のNa2O値のヒストグラムは著しく歪み、玄武岩200個のNa2Oもやや弱く正に歪んでいた。
 先に、累積鉱量とその平均品位の間には指数分布のLasky法則があると述べたが、元素の分布と同様に、鉱床の品位分布も対数正規分布であるとする見解がある。現行の経済・技術でcut-off以上の高品位鉱となるためには、地殻存在度の数100〜数万倍の濃集が必要である。これは、Vistelius流の多段階重複濃集過程で、「正に歪」むであろう。資源モデルや埋蔵鉱量計算に貢献しそうである。
 鉱石の品位分析を統計学的に初めて取扱ったDeWijs(1951)は、ボリビアPulacayo鉱山の錫品位は二項分布(binomial)、鉱量は対数二項分布(log−binomial)と論じた。Kriging法と呼ばれる鉱量計算における多変数線型回帰法(multivariate linear regression)を開発したKrige(1951、1952)は、南アフリカWitwatersrand金鉱床の金品位が対数正規分布を示す事を活用して、品位管理に貢献した。Sichel(1952)も南ア金品位の対数正規分布を品位分析データの統計処理法の改善に用いた。
 1960年代に空間における各分布点での変数を統計的に解析するVariogramの理論を樹立したフランスのMatheronは、広範囲の鉱床で鉱量が品位の対数に対して正規分布を示すことを明らかにしている。
 Singer−Cox−Drew(1975)は、世界各地の斑岩銅鉱103鉱山、アフリカ層状銅鉱18鉱山、各地の塊状硫化鉱146鉱山の既生産量+埋蔵鉱量と品位との関係を論じた。その品位・鉱量の散布図をI-6図(略)に示す(参考、日本の鉱床例を小十字記号で示す、1小坂元山、2別子、3足尾、4生野、5尾去沢)。鉱量−品位の相関係数、単変数(univariate)分析、正規・対数正規のbeta検定(歪度・尖度の検定)、適合度(goodneness-of-fit)のchi二乗検定を行ない、(1)品位に影響する地質因子よりも、鉱量に影響する因子の方が明確らしい、(2)品位分布・鉱量分布は概ね対数正規、(3)各型鉱床で鉱量−品位間に明確な相関関係はない、(4)塊状硫化鉱は高品位小規模塊状と大規模網状・鉱染の集合のため−0.42の負相関、(5)以上の全型集合では−0.7と負相関(1%水準で有意)と結論した。
 品位・鉱量の分布のみならず、Allais(1957)はアルジェリアSahara地域の探査計画の経済評価において、鉱産地数はポアソン(Poisson)分布、経済価値は対数正規分布で解析した。また、Slichter−Dixon−Myer(1962)は探査計画のための統計学として、米国西部の全鉱種3145鉱山、中西部の285鉱山、南西部の1259鉱山と、それらのCu・Au・Agごとの鉱山群において、鉱山数は負の二項分布・指数分布と考えられるが、評価額は対数正規分布を示すと論じた。
 鉱量・品位の分布をもとに賦存量モデルを組立てたBrinck(1971、1967)の世界の銅資源量の評価モデルの例をI-5図(略)に示す。このモデルに品位の対数正規分布・対数二項分布を用い、コスト因子を組込み、資源量・潜在供給量の経済分析を対数二項モデルで行った。その計算ソフトはIRISと称し、同一金属量を与える鉱量−品位の組合せを描かせられる。これによって、I-5図の如きIRIS diagramとして品位・金属量・鉱量・コストの相互条件が図示される。
 縦軸は品位(ppm表示)、横軸は賦存全金属量(トン)で共に対数尺、緩傾斜の上向凸曲線はIRIS線と称し、鉱化岩の鉱量と品位の組合せによる等金属量曲線、斜めのU字型曲線は等コスト曲線(米ドル/lb Cu表示)で、図上で指定される鉱量・品位の鉱床に関する探査・開発・操業コスト条件を示している。これらからコスト別の全賦存量・潜在供給量の品位・金属量・鉱量・鉱床数を読み取ることができる。ウラン資源についても同型のモデルが作られている(Brink、1967)。
 以上に述べた如く、元素の地殻存在度付近(上・下に1〜2桁位)における分布、および鉱石品位領域では、多くの元素が対数正規分布をなすと考えられるが、これらの両者の間の領域では分析例が少なく、外挿して議論されているに過ぎない。鉱石品位部分は、地殻中の当該元素の母集団分布の極高品位端に相当すると考えるのが通例であるが(I-3A・3B・4A図:略)、母集団が対数正規分布であるとしても、稀少鉱石元素ではI-4B図(略)の如くbimodal、豊富元素ではunimodalと考えるSkinner(1976)、あるいはDelissonnier、Michelらのフランス学派の如くmultimodal(矢嶋、1976を参照)と考える研究者もあり、鉱床の成因型ごとに、岩石種・岩系ごとに異なった濃度に度数ピークをもつのかもしれない。またVisteliusの結合分布の考えの如く、個々の分布が重複して不均等な母集団分布を示すものかもしれない。
 最後にウランの分布例を示す、I-7図(略)は、Holland−Peterson(1981)の米国大陸地殻1km深度までのウラン濃集の品位−鉱量図である。左上から、(1)平均的大陸地殻の岩石、Lee−YaoのU存在度2.2ppm、(2)高ウラン花崗岩、(3)瀝青質黒色頁岩、(4)西部の含燐頁岩層、(5)埋蔵鉱量と資源量、最右下端は最高品位の富鉱体。それぞれの未来における資源可能性と意義は別にして、その分布で現実の品位−鉱量関係は複雑であるが、7図ではきれいなbimodal〜multimodalのようには見えない。破線で示される包接線と埋蔵量・資源量分布との間にはgapがあり、100〜1000ppmの領域のデータが少なく、指数関係のようにも見え、品位−鉱量の真の関係か否か問題であろう。地殻中のウラン分布が対数正規か否か、また全濃度範囲でどのような分布を示すのか。I-8図(略)において包接線が対数正規曲線であるか否かが検討された。濃度100ppm以上の領域で包接線に適合する関係式は、xをウラン濃度(ppm)とすると、ウランのトン数(ΔT)は、
  log ΔT≒20.3−3.5 log x
であり、これは対数正規曲線の形ではない。平均的大陸地殻の岩石中のウラン分布に適合するモデルは、
  log ΔT≒16.1−0.5[(logx−0.5)/σ]^2
であって、標準偏差(σ)が0.6の対数正規であるが、鉱石領域に適合するものは0.8である。しかし、大陸地殻と鉱石領域との両者に適合する対数正規曲線は得られない。またこの包接線は意味は明らかでない。この事から、低品位〜極低品位領域に向って資源量を予測するとき、鉱石元素が対数正規分布を示すと仮定して鉱量を計算することは注意を要するという。

8.多変数モデルと人工知能
 鉱物資源の産状・賦存に関する因子を数量化し統計的に、または確率論的に、取扱うことが、統計地学的モデル化であるから、それは既述の主観的確率分析モデルも、前章の地殻・鉱石中の元素の種々の確率分布(正規・対数正規・ポアッソン・二項・対数二項など)を基礎とするモデルをも包含する。更に探査・開発・cut-off品位・資源価値など総合評価となれば、経済・技術条件も必然的に組込まれ、関係する要因は多種・複雑になり、多変数解析方法が活用される。
 Harris(1965、1966)は、地質変数(geological variables)と鉱山数・資源量・鉱床数・金属量などとの関係に関して、多重識別(multiple discriminant)分析、因子分析(factor analysis)、ベイズ(Bayes)の確率分析法などを用いて、各区画の金属量クラスに対する確率を求めた。Bayesのclassification分析はDeGeoffroy−Wignall(1971)によりカナダGrenville地帯の解析に使用された。Sinclair−Woodsworth(1970)のカナダB.C.州Terraceの資源ポテンシャル評価の条件付期待モデル、Agterbergら(1972)のカナダAbitibi地域の銅亜鉛資源の評価では、多重回帰(multiple regression)分析が活用された。
 地質家による地質過程−現象−データの主観的・定性的な分析・総合・判断でなく、地質(地球化学・地球物理)データ(geodata)を定量化・数量化・数値化し、それによって必要な解析・評価を行うのが現在の主流であろう。その例は正路(1985)によっても紹介されている。このような発展方向は統計地学的モデルから、さらに一歩進んで定式化された地質的推測(formalized geological inference)と呼ばれ、地質的意志決定(decision-making)の過程を含むことになる。大型コンピューターに全てのgeodataと他の限界条件とをinputしておいて、随時必要な判断を取り出すことのできる「人工知能」(artificial intelligence)の活躍となろう。既に鉱物資源探査プロジェクトの有望性判断のために、ベイズの決定理論に基づく理由付けの開発から案出された、意志決定のためのソフトがStanford大学国際研究所からPROSPECTORとして発表されている。最近の状況については菅野(1985)の紹介が参考になろう。

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