関根(1962)による〔『鉱石元素の濃集と地殻における現出頻度との関係』(17-18、24-25p)から〕


Zusammenfassung

1.問題点
 ある地域において、新鉱床地区の探査ならびに新鉱体の探鉱の際には、意識的にせよ無意識的にせよ、対象地域内に、既知開発鉱床と同様な性質・同程度の規模の鉱床地区・鉱体の存在すべきことを予想しているのであつて、新鉱床の存在の可能性については、既知鉱床の性状に基づく賦存の規則性を根拠にした判断に俟つばかりでなく、つぎの観点からの考察も必要かつ重要であると考えられる。すなわち、巨視的・地球化学的立場からみて、地殻上部におけるある地域内の鉱石濃集の程度、換言すれば濃集の数と量と含有率が確率論的にどの位のものか、その蓋然性と地質条件との関係はどうかということであろう。鉱石元素の濃集という地球化学的観点に立つてみると、ある種の元素は、地質現象の過程で著しく濃集し、鉱石を形成しているのに、他の多くの元素は広く分散して存在している。元素の濃集に関する挙動のこの差異の原因については、元素の個有の性質と地球化学的挙動とに基づいて、地質現象の種々の環境と段階とに応じて差異を生じているものと考えられているが、とくにこの元素の濃集の程度とその可能な限界の経済的・資源的な意義に関しては、これまで充分に考察されておらず、不明の点が多い。
 ごくまれな特殊な場合を除けば、一般に鉱物資源は減耗資源である。近代鉱工業発展の期間における毎年の、または一定期間毎の、ある国またはある広地域の埋蔵鉱量は、採掘量の著しい増加にもかかわらず、一般的には増加の傾向を辿ってきた。このことは、経済体制・企業形態・市場価格の影響や、新用途開発による需要増加の影響を別にしても、合理的な探査・探鉱技術の進歩によつて獲得された新発見鉱量と、採鉱・選鉱・製錬技術の飛躍的進歩による限界品位の低下から生来した鉱量*の増加を意味している。しかしながら、後者の面での時間的経過を詳しく検討すると、各専門分野での技術の飛躍的な向上によつて間接的に鉱量が増加するとはいえ、最近のその増加鉱量は、探査・採鉱によつて獲得される鉱量に比較して、必ずしも期待され、あるいは充分な増加の傾向を進んでいるとは限らず、とくにわが国などでは、予想し得る時間内での採掘・処理技術の進歩による(低品位鉱・未利用資源・副成分資源などの)鉱量*の増加は楽観を許さない状況にあると考えられる。
 したがつて埋蔵鉱量の増加は、平行脈・衛星鉱体・新鉱床・新鉱床地区などの探査・発見・探鉱に期待されなければならない。この面での獲得鉱量の増加も、最近においては採掘量の増加に比較して必ずしも充分とは言えない状況であることは、埋蔵鉱量統計調査の結果(本邦鉱業の趨勢など)からも明らかである。予想される探査・探鉱技術の向上と投下できる探査経費によつて、どの程度までの新鉱床の発見と獲得鉱量の増加とが可能であるかの問題が、急速に大きくなつてくるが、この可能性は明らかに有限である。技術的・経済的な条件を別にして、この有限性の問題は、ある面積内での鉱物資源賦存の可能性の問題に還元される。したがつて鉱物資源**の将来の見通しに関する重要な問題点の1つは、面積の大小はしばらく措くとして、ある地域が、種々の鉱物資源について、どの程度の鉱物濃集の賦存可能度(Vorratswurdigkeit, reservability)を有するかということである。すなわち鉱物濃集の性状の定性的側面のみでなく、定量的検討と予測とが必要となつてくるのである。
 最近、国際地質学会議の世界地質図委員会において、またアジア極東地域においてもECAFEによつて、作成されてきた地域地質図・鉱物分布図および鉱床生成図などの実用的意義もまた以上に述べた問題点と、地域面積は広大ではあるが、密接かつ重要な関連を有するものである。
 上記の問題の考察に当つては、資料の不足と、多くの不確定な要素のために、ただちに効果的な成果を期待することは困難であるが、この種の問題の考察の中に包含されるべき根本的な考え方のいくつかについては、すでにBlondel and Lasky(1956)、Lasky(1950a)、Lombard(1959)やNolan(1955)によつて論ぜられており、またU.S.G.S.のMcKelvey(1960)がきわめて興味ある見解を発表している。
 筆者は、先に大町北一郎・岡野武雄とともに、わが国の鉱床の分布を鉱床地質学の立場から編集して鉱床生成図の初次段階のMaps of Mineral Province of Japanを作成した(Sekine, Ohmachi and Okano, 1960)。その際、鉱石元素の濃集の程度、異種鉱床間の規模の比較方法や、鉱床規模と鉱石元素の現出頻度との関係などについて予察的な討論を行なつたが、問題点のみが提起されたにすぎなかつた。その後、筆者は資料を集めこの種の問題の一端をわが国の状況に関連して考察したので、以下に記して参考に供する次第である。
* Blondel and Lasky(1956)の“marginal resources”に含まれるべきもの。
** 資源(resources)の定義ならびに埋蔵量(reserves)との関係についてはBlondel and Lasky(1956)により論ぜられている。

2.埋蔵鉱量と元素の現出頻度
3.鉱石元素の濃集について

4.要約
 1.地球上のある地域における鉱物資源の探査・開発には、当該地域の地質条件の解明が重要であるが、同時に、既知鉱床における金属濃集の数・量・含有率などの資料から、鉱物資源賦存の可能度を推定することは、他の地域での可能性を予測する際にも、経済的・資源的立場から有効である。また元素の濃集の数量的関係を明らかにする端緒をうることは、地球化学的・鉱床学的にも重要である。
 2.McKelveyは、米国における既知埋蔵金属量(R)と元素の地殻中の現出頻度(A)との間に、重要な多数の元素に関してR=A×10^9〜10^10の関係のあることを認め、この関係の意義と各鉱種鉱石・資源の特長との関連性を論じた。わが国の20余の鉱種について同様に考察すると、その中の多くの元素についてはR=A×10^8〜10^9のほぼ直線的な関係が成立つ。
 3.元素の種類によつてはこの直線的関係からずれるものがあるが、この挙動の差は、元素の地球化学的性質、元素濃集の地質環境・生成条件、利用と開発度、処理技術の発達水準、探査の程度などの種々の要因と関連がある。
 4.わが国・米国および世界の既知埋蔵金属量の統計から、各単位面積当りの埋蔵金属量を比較すると、多くの鉱種について鉱石濃集の地理的分布の不均質性が明らかになり、かつわが国の地質環境は鉱物資源賦存に富んでいることがわかる。
 5.わが国の埋蔵金属量と既採掘金属量から推定した推定賦存金属量(V)は、元素の現出頻度(A)とV=A×10^9〜10^9.5の関係を示し、日本の鉱業発展の状況から、この等式が鉱物資源の賦存可能限界を示すと考えられ、この関係から世界の単位面積当りの鉱物資源(含有金属量)の賦存可能度限界はVW=A×(2.7〜8.5)×10^3と考えられる。
 6.米国および日本の既知埋蔵金属量から、世界の未開発地域および全世界の埋蔵金属量を推定することが可能である。この場合にはそれぞれの面積比、元素の現出頻度との関係ならびに地質構造環境と鉱床生成条件の差を考慮に入れなければならない。地質環境・鉱床生成条件は地殻の構造単位ごとに差異を有しており、これが鉱物資源の濃集に本質的な役割を演ずる。このことは鉱床生成図の作成の際にも充分に考慮されなければならない。』

謝辞
文献



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