立見(1979)による〔『総鉱物資源量見積りのための1つの試み』(227-228、237p)から〕


Abstract

まえおき
 鉱物資源の将来を考えるのに当って基本的な資料となるべきものの1つに、“総鉱物資源量”(total mineral resources、究極的に将来とも利用し得ると予期される鉱物資源の総量)の見積りがある。この見積りのための要因の中には、鉱業技術の発展についての予測、例えば将来採掘は地下何kmまで可能となるか、また地殻中大量に存在する珪酸塩鉱物の構成々分が技術的・経済的にどこまで分離・抽出・利用できるようになるか、などの諸条件も入って来て、これとて純粋に地球科学的観点からだけでは論じられない。しかしその基本は、岩石・鉱床の性質や成因についての地球科学的な知識と理論とにあり、この意味で、総鉱物資源量の見積りの第一義的責任は、地球科学者と探査技師とに負わされている。
 この見積りについては、もちろんこれまでにもしばしば議論されて来ており(例えば、Friedensburg、1957;McKelvey、1960;Erickson、1973;Skinner、1976など)、わが国でもかつて関根(1962)によって論じられた。近年では、既知鉱床の平均の大きさ・品位や最大規模、既採掘量や埋蔵鉱量(reserve)の大きさ、あるいは与えられた地殻内での元素の分布状態や存在量などについての諸量を基にして、数量的に鉱物資源量を推算しようとする試みが進んでいる(例えば、Brink、1967、1972;Bauchau、1971;Pelissonnier、1972、1975など)。これらのうちフランス学派の研究結果の一端は、最近矢島(1976)によって紹介された。個々の鉱種についての各種鉱物資源量の見積りは、例えばアメリカ合州国鉱山局や同地質調査所の出版物(例えば、Probst and Pratt、1973;USBM、1976など)その他に発表されている。
 この鉱物資源量の見積りには、大きく分けて2つの進め方があろう。その1つでかつ基本的な方法は、これまで多くの既知鉱床地域で実際に探査した結果得られた量(埋蔵鉱量−reservesと確認経済限界下資源量−identified subeconomic resources)と、これまでの知識・理論を基にして未探査地域に存在の予期される量(潜在資源量−undiscovered resources)とを、全世界について積算する方法である。他は、これまでに得られた岩石・鉱床や鉱化作用についての地球科学的な一般的知識・理論と、地殻の一般的性質についてのそれらとを結びつけて、ごくおおまかにではあるが、1つの限界量を推算する方法である。前者を仮に“積み重ね方式”というなら、後者は“大網方式”とでも言い得よう。ここに述べるのは、後者の方式による1つの試みである。
 ここでは便宜上、実例はすべて金属をとり出す源となる鉱物資源についてのみ考え、それらの鉱物資源量は特記しない限り元素量で表わすことにする。なお、鉱物資源およびその量の区分と呼び方については多くの案があるが、ここでは便宜上、最近アメリカ合州国鉱山局と同地質調査所とが協議して決めた方式(USGS、1976;立見、1978)による区分・名称を使うこととする。』

鉱化度
大陸地殻上部での総鉱床量の見積り

結語
 これまでに述べたことは、鉱物総資源量見積りのための第一歩として、大陸地殻上部に自然の状態で存在する鉱床中に濃集している元素量(総鉱床量)がどれほどかを見積ることであった。この結果を、第1近似としての範囲ですらより正確に推算するためには、すでに記したように、各元素に共通の平均の鉱化度(F)ではなくて、各個に対する平均の鉱化度(Fi)をより正しく見積るのに必要な資料を整えることが、今後まず第1になされなければならないと考えられる。なお、海洋地殻中の鉱床を考慮に入れても、総鉱床量としてここに得た値の桁数にはまず変りはないと思われる。
 少なくとも銅・鉛・亜鉛・錫・金・銀などのような金属元素の場合には、相当長期間の将来を考えても、それらの鉱物資源は鉱床のみに限られると考えられるので(Skinner、1976;立見、1978)、これらの元素に対してここに得た総鉱床量(自然物としての鉱床中に濃集して存在している量)は、資源の立場から言えばそれらの総資源量の限界量を示すものと言ってよいだろう。総鉱床量から総資源量を推算するためには、長い将来を見透した上での技術的・経済的その他各種の境界条件を考えて計算しなければならない。換言すれば、総鉱床量>=総資源量である。このような観点で第5表(略)を見ると、この種の元素、特に銅・亜鉛などの場合には、現時点で推算されている総資源量の値は他にくらべてその限界量にごく近いとみなさなければならないかも知れない。
 これまでは最初に断わったように、金属の源となる鉱物資源、しかもそれらの鉱床のみに限って論じて来た。金属に話を限っても、なお鉱石中の副成分の利用や屑鉄など既使用分の再利用の問題があり、また造岩鉱物中の構成々分の利用も考えに入れる必要がある。さらに鉱物資源を一般的に論じるためには、岩石または鉱物それ自身の性質を利用する場合を含めなければならず、当然のことながらこれまでの議論だけではもちろん不十分である。
 なお、総鉱床量から総鉱物資源量を見積るためには、前記のように工学的・社会科学的その他種々の条件を入れて推算する必要があるが、それにしても第5表または第3図(略)を眺めると、多くの元素に対して一見相当の余裕があるようにも見受けられるかも知れない。しかし実際には、仮に相当長期間にわたる将来とも十分な資源量が見積られるとしても、これを実用化するためには、開発以降の諸過程に多大なエネルギーと物資とを必要とし、これらの方面からの制約の加わる場合のあることが十分に考えられる。単に目的の鉱物資源の量のみでは、資源問題は片付かない。さらに重要なことは、生産量の著しい増大に伴って、鉱物資源開発利用の諸過程において生じる各種廃棄物の処理や環境破壊の問題も今後ますます加わって来ると予想される。これらの点まで考慮に入れると、鉱物資源活用の将来を論じるには、極めて幅広い観点からの考慮が必要であろう。』

謝辞

文献



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