金沢・神谷(1993)による〔『地球規模的及び広域的鉱物資源評価法の概説』(77-78、88p)から〕


Abstract

要旨
 多くの鉱物資源評価法のうち、地球規模的及び広域的評価法を対象とする地質学的モデルの代表例について、その評価式を中心に基礎的概念をまとめた。地球規模的評価については、1)地殻存在度モデルと2)地球統計学的モデルがある。それぞれの評価式は
 1) Mi=w・ki・Ai
 2) Mi=w・pi・qi
と表現でき、ここで、Mi:地殻中の評価する元素(例えば金属量)、w:地殻の質量、Ai:i元素の地殻存在度、Ki:元素iについての比例定数、またqi:元素iの品位、pi:その品位の確率密度関数である。
 一方広域的評価手法では、1)URPV法(単位地域生産地法)と2)鉱床モデルがあまり探査されていない地域の評価に有効である。前者は類似法の一種で、評価する地域をよく調査された地域と地質学的に比較する方法である。後者は評価地域を鉱床タイプごとに区分けし、次式
 M=N・T・Q
中の、N:鉱床数、T:平均鉱量、Q:平均品位を評価する。T、Qの見積にあたっては鉱床タイプごとの品位・鉱量モデルを使用する。
 地殻存在度モデルとURPV法は比較的実行が簡単であるが、前者モデル1)式の比例定数kiや後者手法の地質学的対比が難しいため、幾分不正確な要素を持つ。地球統計学的モデルと鉱床モデルには、品位の確率密度関数や品位・鉱量モデル等を構築しなければならない困難さがあるが、より正確な評価が可能である。

1.はじめに
 鉱物資源評価(Mineral Resource AssessmentあるいはAppraisal)に関する論文が近年増加している。これは各国の鉱物資源およびその評価手法への関心が高まっていることを示している。一口に鉱物資源評価と言っても、1つの鉱山から地球規模にいたるまでのスケールの違いや鉱物資源の何を評価するのかによって、さまざまな手法が考えられている。この解説では、表題にあるようなスケールにおける資源量評価について、有効であると考えられるモデル、手法について概説する。そのために必要な資源用語、資源モデルの分類と概念、評価手法の分類、資源評価の確率・統計学的取扱いについても概説する。』

2.資源用語について
3.評価の対象、資源モデル及び手法
4.資源の確率モデルの基礎
 4.1 基礎モデル
 4.2 鉱床モデル
 4.3 地球統計学的モデル
5.地球規模的鉱物資源評価の例
 5.1 立見による総鉱物資源量の見積り
 5.2 Brinckによる地球統計学的アプローチ
6.広域的鉱物資源評価の例
 6.1 中国の鉱物資源評価
 6.2 アラスカの金属資源評価

7.まとめ
 地球規模的及び広域的鉱物資源評価にそれぞれ有効な方法について概説した。これを第5表にまとめる。地球規模的では、1)元素の地殻存在度モデルと、2)地球統計学的モデルがある。前者は、地殻の鉱物資産は元素の地殻存在度と比例する、という経験則に基づく、これを式で表せば、鉱物資産Miは
 Mi=w・ki・Ai
ここで、w:評価する地殻の重量、ki:元素iについての比例定数、Ai:元素iの地殻存在度、ただし、立見のモデルでは、比例定数kiのかわりに、鉱化度fiを用い、元素ごとの鉱化度について、吟味している。
第5表 評価モデルのまとめ
Table 5 Summary of geological models for global and regional mineral resource assessment.
 

地球規模的評価
モデル
評価式(量)
評価のポイント
元素の地殻存在度モデル
M=w・k・A
比例係数k(または鉱化度f)
地球統計学的モデル
M=w・p・q
品位分布の確率密度関数
 

広域的評価
モデル
評価式(量)
評価のポイント
単位面積生産値(URPV)法
単位面積当たりのM
類似地域の区分
鉱床モデル
M=N・T・Q
品位-鉱量モデルの使用、専門家の判断
特徴

比較的容易に実施できるが不正確である。

より正確であるが、実施が難しい。


 2)の地球統計学的モデルでは、基本式
 Mi=w・pi・qi
を用いる。ここで、qiは元素iの品位、piはその品位の確率密度関数を表す。このモデルの有効性は、確率密度関数piをいかに地殻の実態に合うモデルに近づけていくかにある。
 広域的評価では、1)URPV法と2)鉱床モデルが有効である。前者は類似法の一種で、評価する地域をよく調査された地域と比較する時、「地質学的に似た地域は鉱物資源量も同じである」という仮定をおく。非常に荒っぽいやり方ではあるが、中国のような大きな国の資源評価には第1次近似として有効であろう。ただし、評価地域が基準地域と異なる鉱床タイプをもつ場合には危険性を伴う。
 2)の鉱床モデルでは、基本式
 M=N・T・Q
を使用する方法である。このモデルでは鉱床タイプごとに地域を区分けし、それぞれに品位−鉱量モデルを使用する。このモデルの長所は、鉱床タイプの分類が精密化し、それに付随する品位−鉱量モデルが増えるほど、評価の正確さが増してくる。鉱床数Nについては専門家による判断を入れているが、最終的判断は専門家に委ねる部分が必要かと考えられる。

文献
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