(財)日本エネルギー経済研究所計量分析部(編)(2001)による〔『図解 エネルギー・経済データの読み方入門』(47-53p)から〕


3.二酸化炭素排出量について
 地球温暖化問題の顕在化とともに二酸化炭素排出量の計算方法への問合わせが増えている。以下では国際的な温室効果ガス排出量の算出に関する動きを整理した上で、日本における動きに触れ、入手が容易な統計データで算出可能な二酸化炭素排出量の簡便計算法を紹介する。


<国際的動向>
 各国の温室効果ガス排出量については、気候変動枠組条約に基づき、1996年以降我が国も毎年排出・吸収目録(inventory、以下インベントリ)を作成し、条約事務局へ通報している※5。このインベントリの作成に用いている温室効果ガスの算定方法は、基本的には1996年の「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)改正ガイドライン」に基づいているが、国内での研究の成果等を踏まえ、我が国独自の算定方法等を用いている部分もある。
※5 インベントリの内容は以下のガス、区分ごとに排出量(吸収量も含む)を目録として取りまとめている。
 対象年:1990年以降毎年
 対象ガス:温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化ニ窒素、HFC、PFC、SF
6)およびその前駆物質(NOx、CO、NMVOC、SO2
 対象区分:エネルギー、工業プロセス、有機溶剤等、農業、土地利用変化および森林、廃棄物、その他、国際バンカー油(ただし、国際バンカー油(国際船舶用重油)およびバイオマス起源の二酸化炭素排出量は、排出量の合計に含めないこととされている)。

 また、HFC等3ガスの排出量については、実排出量ではなく、潜在排出量のみを通報している※6。なお、温室効果ガスの総排出量に占める二酸化炭素の割合は約9割で、うちさらに燃料の燃焼によるものが9割、すなわち総排出量の約8割程度である。
※6 潜在排出量=(生産量+輸入量−輸出量−破壊量)と定義されるが、ある年に販売された製品からの可能排出量を利用されているかいないかにかかわらず、すべてカウントするために「潜在」量とされる。
 通報したインベントリについては、条約事務局担当者と専門家からなるレビューチームが各国を訪問してレビュー(審査)を行っている。
 また、インベントリのレビューを技術的な観点から、より詳細に行うため、第4回締約国会議(COP4)で「インベントリに関する技術レビューガイドライン」を作成することが決められ、第5回締約国会議(COP5)で決定された。本ガイドラインは2000年および2001年の試行期間に附属書T国※7を対象にしたレビューで用いられ、その後、その結果をもとに見直しを行うことになっている。さらに、2003年からはすべての附属書T国を対象にレビューが開始される。
※7 先進諸国(OECD加盟国)および旧ソ連・東欧諸国を指す。条約の附属書Tに載せられているため、この名称が用いられる。
 1997年12月のCOP3で採択された京都議定書では、先進各国(附属書T国)の排出量削減に関する数値目標が合意された。
 これにより、各国が排出量の算定をより正確に行うことが必要となり、議定書にもそれに関連した規定が置かれている(京都議定書5条、7条、8条)。これによれば、先進各国は、第1約束期間の1年前(2007年)までにインベントリの国内推計システムを整備すること、また、締約国会議においてそれに関するガイドラインを策定すること(5条1項)とされている。

表T-2-10 我が国の部門別温室効果ガス排出量(1996年、二酸化炭素換算)(単位:%)
排出源 合計 CO2 CH4 N2O HFCs PFCs SF6
二酸化炭素 メタン 一酸化ニ窒素 ハイドロフルオロカーボン類 パーフルオロカーボン類 六フッ化硫黄
100.00 89.31 2.20 1.45 2.21 1.21 3.63
1.エネルギー 84.23 83.38 0.33 0.53      
2.工業プロセス 12.13 4.41 0.08 0.60 2.21 121 3.63
3.有機溶剤等 0.03     0.03      
4.農業 1.40   1.23 0.17      

5.土地利用変化および森林

0.00   0.00 0.00      

6.廃棄物

2.20 1.52 0.56 0.12      
(出所) 環境庁資料
(解説) 二酸化炭素(CO
2)が全体の9割を占め、そのうちエネルギーとして燃焼されることによって排出されるのが約8割である。

<国内の動向(地球温暖化対策推進法に基づく排出量の算定)>
 1998年10月に制定された「地球温暖化対策の推進に関する法律」では、国および地方公共団体(都道府県および市町村)は、自らの事務、事業に関する温室効果ガスの排出の抑制などのための実行計画を策定するとともに、その実施状況(温室効果ガスの総排出量を含む)を公表することとされた。また、法第13条では、政府が毎年我が国における温室効果ガスの総排出量を算定し、公表することとされている。
 温室効果ガスの排出量の算定方法については、政令で定めることとされており、1999年4月に「地球温暖化対策の推進に関する法律施行令」を制定した。同施行令では、温室効果ガスが排出される活動の区分ごとに排出量の算定方法を規定している。なお、「排出係数」については、毎年度の排出実態を踏まえ、平成11年度(1999年度)以降、毎年度別に政令で制定することとされている。

 同施行令で示された算出方法の主な特徴は以下のとおりである。
 (ア)我が国全体の排出量のみならず地方公共団体の実行計画にかかわる排出量の算定も対象としていること。
 (イ)排出係数は施行令では示されず、毎年度、別に政令で定めることとされていること。
 (ウ)地方公共団体の実行計画にかかわる排出量を算定する際に用いる排出係数については、地方公共団体が実測等を行い、より適切な排出係数を確認することができた場合には、それを用いてよいとしていること。
 (エ)条約に基づくインベントリでは、吸収源による「吸収量」も対象としているが、施行令で排出源による「排出量」のみを対象としていること。

 上記のように、2000年8月現在排出係数は実測も含めた値の設定方法等について検討途中の段階であるため、同施行令に基づく排出量の算定を目的とした排出係数は定められていない状況である。
 したがって、1994年に出された「気候変動に関する国際連合枠組条約に基づく日本国報告書」が現在のところ、温室効果ガス排出量の算定方法と排出係数を示した唯一の公開資料である。ただし、詳細にわたる手法は公表されていないため、日本国政府の報告書を再現することはできない状態である。
 そこで、原則として政府の推計方法に従ったラフな計算式を以下に示す。図T-2-5(略)はこの計算式に従った我が国二酸化炭素排出量の推移である。なお、ここでは化石燃料を燃焼した場合のエネルギー起源の排出量のみを考慮しており、工業プロセス用(セメント焼成、生石灰、ソーダ石灰ガラス、鉄鋼生産)は考慮していない。
 二酸化炭素排出量には炭素換算によるものと二酸化炭素換算によるものがあり、両者の関係は一定であるが、資料によって用いる単位が異なるため注意が必要である。なお、両者の関係は二酸化炭素(CO2)の分子量が44で、そのうち炭素(C)が12であることから、以下のように表される。

CO2換算トン=炭素換算トン×(44/12)

 上記単位のどちらを使うかは国際機関によっても統一されていないが、傾向としては国連機関がCO2換算、国際エネルギー機関(IEA)が炭素換算を利用しているケースが多い。また、炭素税の議論には炭素換算トン、排出権取引の場合はCO2換算トンを使っていることが多い。また、二酸化炭素以外のガスも含む「温室効果ガス」を扱う場合はCO2換算トンを用いる場合が多い。

<二酸化炭素排出量の算出方法>
 CO2排出量=エネルギー消費量(熱量単位)×CO2排出係数
        =エネルギー消費量(固有単位)×熱量換算係数×CO2排出係数

 二酸化炭素排出量は熱量ベースの化石燃料(石炭、石油、天然ガス)消費量に表T-2-11に示した排出係数(総発熱量ベース)を乗じて求められる。図T-2-5(略)で示した二酸化炭素排出量は以下の式で簡便に求められる。なお、非エネルギー利用※8の全量と産業部門の石油化学原料用ナフサ・LPガス消費の80%を計算から控除している。
※8 「非エネルギー利用」とは、燃料としての利用ではなく、機械油などの用途で用いられる石油製品を指し、アスファルト、グリース、パラフィン、潤滑油が含まれる。
表T-2-11 二酸化炭素排出係数(日本国政府)(単位:Gg-C/10^10kcal)
化石燃料 排出係数 化石燃料 排出係数
石炭
  原料炭
  一般炭(国産)
  一般炭(輸入)
  無煙炭
  (平均)

0.9900
1.0422
1.0344
1.0344
1.0062
石油製品
  軽油
  A重油
  B重油
  C重油
  潤滑油
  その他製品
  製油所ガス
  オイルコークス
  LPG
  (平均)


0.7839
0.7911
0.8047
0.8180
0.8047
0.8693
0.5924
1.0612
0.6833
0.7611
コークス 1.2300
原油 0.7811
石油製品
  ガソリン
  ナフサ
  ジェット燃料
  灯油  


0.7658
0.7605
0.7665
0.7748
天然ガス・LNG 0.5639
(出所) 日本国政府、「気候変動に関する国際連合枠組条約に基づく日本国報告書」、1994年
(解説) 二酸化炭素排出係数として公式に発表された唯一の資料で、IPCCに対する国家通報にも用いられている。これは「炭素換算トン」表示の排出量を計算するための「総発熱量ベース」の係数である。
表T-2-12 日本の二酸化炭素排出量推計値の推移
年度 炭素(C)換算
百万トン
二酸化炭素(CO2)換算
百万トン
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
1998
106.0
207.2
235.7
251.5
246.6
287.2
311.5
303.7
388.7
759.7
864.2
922.2
904.2
1053.1
1142.3
1113.6
(出所) (財)日本エネルギー経済研究所計量分析部編、「EDMC/エネルギー・経済統計要覧」
(解説) CO
2換算は炭素換算の12分の44倍(約3.5倍)である。

 次に国際エネルギー機関(IEA)による二酸化炭素排出量の算出方法を紹介する。基本的な計算式は、すでに述べたとおりであるが、前節のエネルギーバランス表の真発熱量と総発熱量の項で述べたように、IEAが計算に利用するエネルギー消費量は真発熱量ベースである。したがって真発熱量ベースに基づいたCO2排出係数を用いることになる(同じ量の石炭から排出される二酸化炭素の量は同じである。そのため、排出係数は熱量換算係数と逆の大小関係がある)。すなわち、IPCCルールに基づいたIEAのCO2排出係数(表T-2-13)は「総合エネルギー統計」の総発熱量ベースのエネルギー消費量を利用する日本政府の排出係数(表T-2-11)よりも大きくなっている。
表T-2-13 国際エネルギー機関(IEA)のCO2排出係数
(単位:Gg-C/10^10kcal)
化石燃料 排出係数 化石燃料 排出係数
石炭
  無煙炭
  原料炭
  他瀝青炭
  亜瀝青炭
  亜炭
  オイルシェール
  ピート

1.1221
1.0802
1.0802
0.0969
1.1556
1.2184
1.21
  ジェット燃料
  他灯油
  シェール油
  軽油
  重油(残渣油)
  LPG
  エタン
  ナフサ
  オイルサンド
  潤滑油
  石油コークス
  原料油
  製油所ガス
  他石油製品

0.8164
0.8206
0.8374
0.8457
0.8834
0.7201
0.7034
0.8374
0.9211
0.8374
1.1514
0.8374
0.762
0.8374
石炭製品
  BKB & Patent Fuel
  コークス炉コークス
  コークス炉ガス
  転炉ガス

1.0802
1.2351
0.5443
2.7633
一次燃料
  原油
  オリマルジョン
  NGL


0.8374
0.9211
0.7201
天然ガス 0.6406
バイオマス
  固体バイオマス
  液体バイオマス
  気体バイオマス


1.2519
0.8374
1.2812
石油製品
  ガソリン

0.7913
(出所) IEA、CO2 Emission from Fuel Combustion(1999)
(解説) この排出係数はIEAのエネルギーバランス表が真発熱量ベースであるために、それに対応したものとなっている。原典はテラジュール当たりの炭素換算トン表示排出係数で、基本的にIPCCに準拠している。