授業科目『地球科学A』
本授業科目について
本授業科目は「現在の地球の姿」を理解することを目標にしています。講義はプリント(毎回配布)を用いて行ないます。教科書はとくに使いませんが、『教養の地学 改訂版』(1985)の目次の順番に説明を行ないますので参考にしてください。
『地球科学一般』のページの『リンク』に、地球科学関係のホームページを集めています。また、『文献(おもに図書)』は私の手持ちの市販本リストです。広島大学附属図書館に無いものは、お貸ししますのでご連絡ください。
地球科学の市販本で、もっとも推薦したいのは『新版地学教育講座 全16巻』(1994-1996)です。より専門的な内容を知りたい場合は『岩波講座 地球惑星科学(全14巻)』(1996-1998)がよいでしょう。
配布プリント|補足説明
プリントは図表のみ。
第1回(4/18) なし
第2回(4/25) 2枚〔『教養の地学 改訂版』(1-6p)、『図説地球科学』(20-22p、246-249p)、『地球をはかる』(51p)〕
第3回(5/2) 2枚〔『教養の地学 改訂版』(7-8p)、『図説地球科学』(195p)、『理科年表』、『古生物学事典』(364-365p)〕
第4回(5/9) 2枚〔『教養の地学 改訂版』(9,10,13,14p)『地震の事典』(13p)、『地震と火山』(16,17p)、『図説地球科学』(2,3,6,7,29-32,211,212,219p)〕
第5回(5/16) 2枚〔『宇宙・地球:その構造と進化』(87,102p)、『地球の理』(29,65-67p)、『地球内部の構造と運動』(見返し)、『図説地球科学』(5,192-194,209p)〕
第6回(5/23) 2枚〔『教養の地学 改訂版』(21p)、『図説地球科学』(49-51,53,61,62,101,104p)、『地球惑星科学入門』(82,83p)〕
第7回(5/30) 2枚〔『教養の地学 改訂版』(25,28p)、『図説地球科学』(17,18,40,86,89,90p)、『地球システム科学入門』(59-62p)、『固体地球 改訂新版』(61,63,67p)、『理科年表 平成10年』(719,750p)〕
第8回(6/6) 2枚〔『教養の地学 改訂版』(38p)、『理科年表 平成10年』(720,743p)、『岩石と地下資源』(見返し,65,70,78,98,116,118,133,134,152p)、『図説地球科学』(93,98,134,135p)、『地球:その実像』(142p)〕
第9回(6/13) 2枚〔『教養の地学 改訂版』(40,41,43p)、『地球システム科学入門』(17,18p)、『地球と宇宙・地球編(改訂版)』(21,22,55,56,58p)、『大気とその運動』(2,5,7,11p)、『人工衛星の生いたち』(20,23,25,35p)〕
第10回(6/20) 2枚〔『教養の地学 改訂版』(44-48,52p)、『地球システム科学入門』(21,24,38-41,44,46,47,49p)、『地球と宇宙・地球編(改訂版)』(78-81,83p)〕
第11回(6/27) 2枚〔『地球の水圏−海洋と陸水』(7,67,70,71,88,92,94,119,121,126,146,169,170,183,186p)、『大気とその運動』(48,147p)〕
第12回(7/4) 2枚〔 『地球』(226,228,230,232,234,236,238,243,247,256,284)、『地球科学入門−プレート・テクトニクス』(5,175,176p)
第13回(7/11) 2枚〔『新しい地球史 46億年の謎』(11,14,18,24,26,28,30,40,43,48,50,52,54,64,65,75,79,128,129,131,133,136,137,148,150,151,158,163,164,171)〕
第14回(7/18) 2枚〔『日本列島の誕生』(x,3,11,56,63,72,140,152,197-210p)〕
第15回(7/25) 〔試験〕
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第2回(4/25)
- エラトステネス(Eratosthenes)
『BC275〜BC195(生没年諸説あり)ギリシア キレネに生まれた。アレクサンドリアおよびアテネに学び、天文・地理・数学・哲学などの著作がある。<Geographica>の断片は後世に伝わる。地球科学の分野では初めて地球の大きさを半径7,300kmと決定し、測地学の祖といわれる。』(『新版地学事典』から引用、143p)
『276B.C.頃-195B.C.頃。ギリシアの数学者、天文学者。アレキサンドリアおよびアテネに学び天文、地理、数学、哲学、文法学などの著述がある。素数を求める方法(エラトステネスの篩)を創始し、赤道の周囲を初めて科学的に測定し、約45000kmという値を得た。著書“地理学”(3巻)の断片は後世に伝わった。』(『岩波理化学辞典第4版』から引用、144p)
- ジオイド(geoid)とは(『新版地学事典』から引用、522p)
『地球を取り巻く重力ポテンシャルの等ポテンシャル面のうち、大洋では平均海水面と一致し、大陸ではその下にトンネルを掘って平均海水面を延長させてできる面をいう。測地学上、物理学的に定義された地球の形としてはふつうジオイドを考える。命名は
J.B.Listing による。地球内部の物質分布は、地球の形や構造によって不均一なので、ジオイドは不規則な形をしている。この不規則さは、地球楕円体を実際の地球に対して適当な位置に置いたときの地球楕円体面とジオイド面との間の距離Nをもって表される。Nの地理的分布をジオイドの凹凸(undulation
of geoid)という。一般に、大陸ではNは正の値、大洋では負の値となる。ジオイドの凹凸は、三角測量と天文測量の結合による方法、重力異常分布から計算する方法、人工衛星の軌道観測から地球外部のポテンシャル場を求めてNを推定する方法、などによって求められる。第一の方法で求めたジオイドのうち、日本では、熱海景良(1933)、川畑幸夫(1935)の求めたジオイドが有名。Nは最大の中部山地でも+6mほどである。最大の正のNは、ニューギニア付近で+60m、最小はインド西部で-60m。人工衛星による結果では、W.K.Kaula(1963)のものがよく引用される。最大・最小のNの値とその地理的位置はだいたい
V.A.Votila(1962)のジオイドと一致している。汎世界的なジオイドの凹凸は、測地学上はもちろん、地球内部、それもマントル上層部などの大規模な物質分布の不均一さを示すものとして、地球内部構造論上からも重要である。』
- 「メートル」の由来とその定義(『地球をはかる』から引用、15p)
『長さや距離の単位は、古来から各国でさまざまなものが用いられてきた。1492年コロンブスがアメリカ大陸に到着したことに端を発して、航海術が発達し、人びとの交流がさかんになると、各国ごとに長さの単位が異なるための不都合があれこれと生じ、国際的に尺度を統一する必要にせまられてきた。このため、当時すでに測量作業の実績のあったフランスが、この仕事の推進役となり、1790年に長さの単位の制定計画がフランス議会に提案され、翌年「メートル法」が採択された。
このとき、何を基準として長さの単位をきめるべきかを検討の結果、永久不変と万国共通という意味から、パリを通る子午線の、赤道から北極までの1000万分の1をもって1メートルとすることが決定された。メートルの名称は、ギリシア語の
metron、またはラテン語の metrum に由来し、いずれも“計器”または“計る”という意味である。
実際の測量は、北フランスのダンケルクとスペインのバルセロナ間の子午線ぞいに、1792年から1799年まで7年間かけて実施された。測量に従事したのはメシェン(P.Mechain)とドゥランブル(J.B.Delambre)の2人の技術者で、動乱期のフランスを縦断する、生死をかけた難事業であった。この測量でえられた両地点間の緯度の差は、9゚39'27''.81で、この値をもとに1メートルの長さが割り出された。
これにもとづいて、1799年に最初のメートル原器(メートルデザルシブとよばれる)が純白金でつくられた。その後1875年にメートル条約が16カ国の間で結ばれた段階で、より安定な白金90%とイリジウム10%の合金からなる新しいメートル原器がつくられた。この原器は30本製作されたが、このうちメートルデザルシブに一番近いNo.6のものが「国際メートル原器」とされ、以後この原器の0゚Cにおける長さが1メートルの定義となった。
時代とともにより高い精度が要求されるようになったため、1960年になって新しい定義におきかえられた。それは、「クリプトン86原子の準位2p10と5d5との間の遷移に対応する光(つまりクリプトン元素の出すオレンジ色の光)の、真空中における波長の1650763.73倍に等しい長さ」という定義である。これならば、メートル原器にたよらなくても、いつでも高い精度で1メートルを再現できる。
この定義は24年間つづいたが、1983年、いっそう高い精度を求めて、次のような定義に変わった。すなわち、「真空中で光が1/299792458秒間にすすむ距離」ということになった。これは時間の計測の立場からの定義ともいえる。つまり、1秒の長さがセシウム原子時計を使って正確に決められるようになったことにもとづいているのである。
メートルの定義は、そもそもは地球の実測からはじまったわけであるが、今日の定義は正確さを求めてのこととはいえ、私たちの日常の感覚からはだいぶ離れたものになってきたようである。』
第3回(5/2)
- アイソスタシー(isostasy)とは
『山脈の下の物質は軽く、山脈は浮力によってそびえ立っているという考えは、古く18世紀にさかのぼる。1735年、P.Bouguerは南米大陸の子午線測量のとき、アンデス山脈の質量が鉛直線に及ぼす影響が計算より小さいことに気がついた。J.E.Pratt(1855)は地表上の、ヒマラヤ山脈による鉛直線偏差を計算し、観測値が計算値の1/3しかないことを示した。この矛盾を説明するためにエアリー説(1855)とプラット説(1859)が生まれた。地球内部に山脈の圧力と浮力とが釣り合っている補償面が存在するというこの現象をisostasyと命名したのはC.E.Dutton(1889)。日本では古くからこれを地殻均衡説と訳してきた。J.H.HayfordとW.Bowie(1912)は、プラット説に基づいて重力異常を説明し、均衡面の深さを113.7kmとした。W.Heiskanen(1938)はエアリー説に基づいて補償面の深さを20〜40kmとした。地殻均衡が成立していれば重力の均衡異常はゼロとなる。地球表面上90%は地殻均衡が成立。地震波の観測から判明するモホ面はエアリー-ハイスカーネン説による補償面と一致するので、これは地殻の厚さを定義していると考えられる。プラット-ヘイホード説の均衡面は地震観測からわかる地震波の低速度層と一致している。一方、1931、41年Vening
Meineszは広域均衡異常(regional isostatic anomaly)という考えを述べ、地殻は垂直方向のみでなく水平方向にも補償されているとした。』(『新版地学事典』から引用、3p)
『地表付近の密度分布が地表の起伏を補償する関係になっていて、地下のある深さの面ではそれより上の質量がどこでも同じで、圧力が等しく、全体として均衡を保っているという説。均衡を保つ面を均衡面という。重力異常や鉛直線偏差の観測によって、山の下では質量が不足し、その不足は山の質量をうち消すだけ存在することが知られ、そのことからこの説が生まれた。エアリー(G.B.Airy)は密度の大きい物質の上に密度の小さい物質の層があり、層の厚さが地表の起伏と反対の関係になると考えた。モホロヴィチッチ不連続面の深さが地表の起伏と反対の関係になっていることはこの考え方に一致する。一方、プラット(J.H.Pratt)は、均衡面の上にはそれぞれの場所で地表までの高さに反比例する密度の物質が存在すると考えた。中央海嶺のように熱膨張によって地形が盛り上がっているところでは、プラットの考えが成り立っていると考えられる。』(『岩波理化学辞典第4版』から引用、1-2p)
- 重力(gravity)とは(『岩波理化学辞典第4版』から引用、588p)
『地球上に静止している物体が地球から受ける力。地球の万有引力が主であるが、地球の自転にもとづく遠心力も加わる。遠心力は赤道上で最大であるが、最大値でも引力の1/290にすぎない。航海中の船で重力測定をするときなどにはコリオリ力も問題になる。地球上の各点での重力分布は、ふつう重力加速度で表わされ、標準重力と重力異常の和で与えられる。天文定数としては、地球の質量を単位にとった地心重力定数(大気を含めた地心引力定数)として、
GE=3 986 005×10^8m^3/s^2
を採用している。なお、重力という言葉は、地球に限らず一般の万有引力の意味で用いることがある。重力定数や重力場などはその例である。』
- 万有引力(universal gravitation)とは(『岩波理化学辞典第4版』から引用、1015p)
『質量と質量が引き合う力で、すべての物体の間にはたらく。2質点の間の力はそれらを結ぶ直線に沿い、相手への向きにはたらき、大きさFは
F=Gmm'/r^2
であたえられる。m、m'は両質点の質量、rは相互距離で、質点(物体)のほかの性質、状態や中間の媒質に無関係である。Gは普遍定数で、万有引力定数とよぶ。ひろがりのある物体間の力は、質点とみなせる微小部分に分けて上の法則を適用し、その合力として算出される。この法則は1665年ニュートンによって地上の重力と天体運行を決める天体間にはたらく力を統一するものとして発見された。現在は重力という言葉を用いることも多い。重力の相対論的理論が一般相対論である。』
第4回(5/9)
- 地球磁場(geomagnetic field)(『新版地学事典』から引用、806-807p)
『地球圏で生成される磁場。地球磁場の強さを表すのに、以前はガウスやガンマを使っていたが、最近は磁気誘導(magnetic
induction)もしくは磁束密度(magnetic flux density)の単位であるテスラ(T)を用いる。また、微小な変化を表すときはテスラの10^-9倍であるナノテスラ(nT)が使われる。地球磁場には、地表より下に起原をもつ内部磁場(internal
field)と地表より高い所に起原をもつ外部磁場(external field)とがある。外部磁場は主に電離層や磁気圏を流れる電流によりつくられ、内部磁場よりも弱く、一般に変化が速いと考えられている。内部磁場は地殻起原の磁場・誘導磁場・核起原の磁場に分けられる。地殻起原の磁場は地震や噴火時のような変化を除くと、大部分は岩石の残留磁化に起因しており、ほとんど時間変化しない。地殻起原の磁場は数nTから1,000nT程度の強さであり、地域によって大きく異なる。誘導磁場は、外部磁場の変動などによって地殻や海で誘導される電流に起因する磁場である。核起原の磁場は流体鉄を主成分とする外核でダイナモ作用によってつくられていると考えられ、時間とともに変化する。この磁場は他起因の磁場と比較すると非常に強く、全地球磁場の9割以上を占めていることから主磁場(main
field)と呼ばれる。主磁場は現在地表では約11゚傾いた地芯双極子磁場に近い形をしており、赤道付近では約3万nT、磁極付近では約6万ナノテスラの強さをもつ。マントル起原の磁場は存在しないと考えられている。これはマントルでは構成物質がキュリー点を超えているために残留磁化をもたないことと、運動速度が遅いためにダイナモ作用がないことによる。』
- 地磁気(geomagnetism、geomagnetic)(『新版地学事典』から引用、812p)
『地球圏の磁気(magnetism)。地球磁場にかかわる諸現象を地磁気現象と呼ぶ。地磁気自体は物理量を指すものではなく、実際の物理量は地球磁場の強さや磁気モーメント等によって表される。しかし、慣用的には地球磁場とほぼ同じ意味に使われることが多く、例えば、地磁気ポテンシャル(geomagnetic
potential)という言葉では、地磁気は「地球磁場の」という意味で使用されている。』
- ダイナモ理論(dynamo theory)
『ダイナモ(発電機)に類似した機構で地球、太陽、銀河などの磁場を説明する理論で、最も有力とされている。磁場は電流によって作られるが、抵抗による電流の減衰に抗して磁場を維持するための起電力として電磁流体の運動による電磁誘導を考える。必要な起電力を得るためには流体の運動には複雑な条件が課される。微分回転は磁場の子午面内成分から子午面に垂直な成分を作りだす。一方、対流運動は子午面に垂直な成分と子午面内の成分とを転換する。電気伝導性をもつ流体のこのような運動に伴う電磁誘導を起電力にして磁場をつくる作用をダイナモ作用という。ダイナモ作用が成立するためには一般に3次元的で非軸対称な運動が必要とされ、軸対称の運動や2次元的な運動だけでは磁場を維持できない。これを反ダイナモ理論という。太陽や銀河の磁場は微分回転と対流運動とが結合した機構がはたらいていると考えられている。地球磁場では対流運動だけがはたらいているという説もある。ダイナモ作用を考察するときに生成された磁場の流体運動への反作用を無視する理論を運動学的ダイナモ理論、考慮にいれるものを力学的ダイナモ理論という。地磁気についてのダイナモ理論には、磁場の日変化を説明するのにスチュアート(B.Stuart)が提出した電離層ダイナモ理論や、地磁気の成因、その異常分布、永年変化を説明するためにブラードが提出した核ダイナモ理論がよく知られている。』(『岩波理化学辞典第4版』から引用、737p)
『地球や惑星の固有磁場を、内部の電磁流体プロセスによって説明する理論。地球や惑星内部の導電性の流体(地球の場合は外核)の運動が磁場と相互に作用し、磁場を維持することが可能となる。1940年代にW.M.ElsasserやE.C.Bullardなどにより基本的概念が提唱された。1954年にBullard-Gellman(ブラード-ゲルマン)ダイナモモデルが一世を風靡したが、後に不完全であることがわかった。ダイナモ理論では、磁場をトロイダル磁場(toroidal
magnetic field)とポロイダル磁場(poloidal magnetic field)に分けて扱うことが多い。前者は惑星内部で閉じた、例えばリング状の磁場で、惑星外部からは観測できない。後者は、例えば地球の双極子磁場のように惑星外部でも観測できる磁場である。ダイナモプロセスにおいて重要な素過程はω効果(ω-effect)とα効果(α-effect)である。前者は惑星の自転から生じるもので、この効果によりポロイダル磁場から強いトロイダル磁場が効率よく生成される。後者は渦運動による磁場のねじれが重要で、ポロイダル磁場からトロイダル磁場が、またトロイダル磁場からポロイダル磁場が生成される。』(『新版地学事典』から引用、748p)
- 磁性体(magnetic substance)(『新版地学事典』から引用、542p)
『磁場中で巨視的な磁気モーメントを示す物質の一般的な呼び方。すべての物質はなんらかの磁気モーメントを示すが、普通の磁石に引きつけられるような物質を強磁性体(strongly
magnetic substance)、精密な測定をしなければ磁化の程度がわからないものを弱磁性体(weakly
magnetic substance)とするのがわかりやすい(近角聡信、1978)。微視的には、原子の磁気モーメント(スピン)が完全にそろっている状態をフェロ磁性あるいは狭義の強磁性(ferromagnetism)、完全に反平行にそろっているため磁化が打ち消されていることをアンチフェロ磁性あるいは反強磁性(antiferromagnetism)という。スピン相互の打消しがアンチフェロ磁性のように完全でなく強い磁化が現れることをフェリ磁性(ferrimagnetism)という。スピンの配列のわずかなずれから磁化が現れるキャント磁性(cant
magnetism)、らせん磁性(helimagnetism)などを示す鉱物も知られている。スピンの配列にまったく規則性のない状態を常磁性もしくはパラ磁性(paramagnetism)という。スピンによる磁化が現れず、電子の軌道運動による外部磁場の打消しが卓越する場合を反磁性(diamagnetism)という。磁性体の定義には、巨視的な定義と微視的なそれとが混在している場合があるので注意を要する。常温では、金属鉄やカマサイトはフェロ磁性、磁鉄鉱・マグヘマイト・磁硫鉄鉱などはフェリ磁性、イルメナイトはアンチフェロ磁性、赤鉄鉱はキャント磁性を示す。フェロ(フェリ)磁性体、アンチフェロ磁性体は温度を上げると磁気的に相転移して常磁性体となり、それぞれの転移温度をキュリー温度(Curie
temperature)、ネール温度(Neel temperature)という。(参)近角聡信(1978)、強磁性体の物理(上)、裳華房。』
第5回(5/16)
- P波(『地震の事典』から引用、212p)
『震源から発生する地震波の一種で、縦波または疎密波ともよばれる。地震波のうちではもっとも速度が大きく、地震記録に最初に現れるところから、“最初の”を意味するラテン語“Primae”の頭文字をとってP波とよばれるようになったのである。
地震記録上の最初の位相であるためその到着時刻を正確に読みとることができ、地球の内部構造の研究にとってはもっとも重要な情報の一つである。また、P波の押し・引きの分布を各地で調べることによって、発震機構を推定することができる。』
- S波(『地震の事典』から引用、133p)
『震源から発生する地震波の一種で、横波あるいはねじれ波ともよばれる。地震記録上でP波のあとにみられるので、“第二の”を意味するラテン語“Secundae”』の頭文字をとって名付づけられた。震源が比較的近くにある場合は、地震の主要動はこれによってひきおこされることが多い。横波の性質をもつので、液体である地球の核(外核)や海水の中を伝わることはできない。』
- 表面波(『地震の事典』から引用、214p)
『地球の表面に沿って伝わる地震波。レイリー波とラブ波の二種類がある。
レイリー波はJ・W・S・レイリーが1885年にその存在を理論的に証明したもので、地表における振動は、その伝搬方向に沿った垂直面内で楕円形をしている。そのため、上下動地震計と水平動地震計の両方に記録される。
ラブ波は、A・ラブにより1911年に理論的に証明されたもので、層構造をした弾性体の場合にのみ存在する表面波である。その地表における振動方向は水平で伝搬方向と直交しているため、水平動地震計だけに記録される。
地震記録上の表面波は、一般にS波のすこしあとからはじまり、分散という性質のために、ある程度長くつづく。浅い地震を遠方で長周期地震計を用いて観測したとき、記録上でいちばん卓越するのは一般に表面波であり、地震の規模が大きい場合は、地球を何周もした表面波が数時間にわたってつぎつぎと記録されることもある。』
- 震源(『地震の事典』から引用、174p)
『地震は地下の岩石が急激に破壊されることによってひきおこされる。その破壊がおこった場所が広い意味での震源である。実際の破壊の場所はある広がりをもっているから、この広がりをとくに表現するときには震源域という語が使われる。
多くの観測点におけるP波などの到着時刻をもとに震源の位置や地震発生の時刻を決めることを震源決定という。こうして決められた震源の位置は、広がりをもたない一点になる。この位置は、震源域で最初に破壊がはじまった場所と考えられる。
震源決定によって決められた震源は、観測値にもとづく推定値にすぎないことに注意しなければならない。観測値の組み合わせや、計算に使用する標準走時表がちがえば、やや異なった震源が求められることもめずらしくない。観測網から遠く離れた震源の正確な決定はむずかしく、見かけ上は精度がよいようでも、大きな系統的誤差を生じることがある。』
- 震央(『地震の事典』から引用、174p)
『震源の真上にあたる地表上の点。実際の震源はある深さをもっているから、地図上に表現された震源は正しくは震央とよぶべきである。震央は、走時曲線をつくるときの距離の原点とされる。』
- 走時曲線(『地震の事典』から引用、186-187p)
『地震波が震源から観測点まで伝わるのに要する時間(走時)と震央距離との関係を表す曲線。実際の観測で得られるグラフはとびとびの点の集まりだから、走時曲線というよりはむしろ走時図とよぶほうが適切な場合もある。走時曲線の解析は、地球の内部構造を知るためのもっとも強力な手段である。しかし、自然地震の走時曲線には震源の位置や時刻(震源時)の誤差がかならずつきまとうので、とくに地殻のような地球全体からみれば微小な部分をくわしく調べるには限度がある。こうした誤差のない人工地震を用いてくわしい地殻構造を調べるのが爆破地震学である。
自然地震や人工地震の多くの走時データにもとづいてつくった走時曲線の表は標準走時表とよばれ、震源決定などに使われる。』
第6回(5/23)
- 全地球の元素組成推定値(wt%)(『地球化学』から引用、239p)
元素 |
Mason
(1966) |
Ganapathy and Anders*1
(1974) |
Ringwood*2
(1966) |
Fe |
34.63 |
35.73 |
31.90 |
Ni |
2.39 |
2.01 |
1.73 |
Co |
0.13 |
0.09 |
− |
S |
1.93 |
1.65 |
− |
O |
29.53 |
28.45 |
29.45 |
Si |
15.20 |
14.66 |
17.29 |
Mg |
12.70 |
13.47 |
15.53 |
Ca |
1.13 |
1.66 |
1.80 |
Al |
1.09 |
1.31 |
1.40 |
Na |
0.57 |
0.14 |
0.90 |
Cr |
0.26 |
0.47 |
− |
Mn |
0.22 |
0.05 |
− |
P |
0.10 |
0.21 |
− |
K |
0.07 |
0.02 |
− |
Ti |
0.05 |
0.08 |
− |
計 |
100.00 |
100.00 |
100.00 |
*1 原報の総和が100%になるように再計算した。
*2 原報では核は全地球の31%としてあるが32.4%として再計算。微量な元素は無視してあるので個々の数値はやや高めである。 |
第7回(5/30)
- 重要な鉱物の地殻での存在度(Wedepohl、1971)(『造岩鉱物学』から引用、13p)
鉱 物 |
体積% |
斜長石 |
42 |
カリ長石 |
22 |
石英 |
18 |
角閃石 |
5 |
輝石 |
4 |
黒雲母 |
4 |
マグネタイト、イルメナイト |
2 |
オリビン |
1.5 |
アパタイト |
0.5 |
- 地殻の岩石の平均的な鉱物組成(『Nesbitt
and Young, 1984』から引用、1534p)
|
A |
B |
C |
D |
E |
石英(quartz) |
21.0 |
25.4 |
24.42 |
23.2 |
20.3 |
斜長石(plagioclase) |
41.0 |
39.25 |
39.25 |
39.9 |
34.9 |
ガラス(glass) |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
12.5 |
正長石(orthoclase) |
21.0 |
4.57 |
8.6 |
12.9 |
11.3 |
黒雲母(biotite) |
4.0 |
15.29 |
11.23 |
8.7 |
7.6 |
白雲母(muscovite) |
0.0 |
9.77 |
7.61 |
5.0 |
4.4 |
緑泥石(chlorite) |
0.0 |
0.0 |
3.31 |
2.2 |
1.9 |
角閃石(amphiboles) |
6.0 |
0.0 |
0.0 |
2.1 |
1.8 |
輝石(pyroxenes) |
4.0 |
0.0 |
0.0 |
1.4 |
1.2 |
かんらん石(olivines) |
0.6 |
0.0 |
0.0 |
0.2 |
0.2 |
酸化鉱物(oxides) |
2.0 |
1.37 |
1.37 |
1.6 |
1.4 |
その他(others) |
0.5 |
4.7 |
4.7 |
3.0 |
2.6 |
A Wedepohl(1969, 表7-11)により概算された上部大陸地殻の平均鉱物組成
B カナダ楯状地のメソノルム(mesonorm)(Shaw et al., 1967)
C 緑泥石を含むように集成したカナダ楯状地のメソノルム(付記を参照)
D 上部大陸地殻の平均鉱物組成の概算値(計算方法の詳細は付記を参照)
E 露出した地殻の平均組成の概算値(計算方法の詳細は付記を参照) |
- 鉱物の定義と分類は『鉱物の定義と分類』のページを参照。
第8回(6/6)
第10回(6/20)
- 深層水大循環(『地球の水圏−海洋と陸水』から引用、88-94p)
『(2) 深層水大循環
化学トレーサーによる深層水循環の実証−放射性トレーサー 深層水循環はどの程度の時間規模の現象なのであろうか。アメリカのおこなった大洋縦断地球化学計画(Geochemical
Ocean Sections Study、略称GEOSECS)は、1969年から1978年にかけて、全世界の海洋を網羅する大海洋観測を実施した。水温、塩分、溶存酸素、栄養塩、アルカリ度などの海水の化学分析をおこなうとともに、集められた多数の海水試料を使って、炭素14、トリチウムなど放射性トレーサーも測定された。これによって、全海洋における各種成分の分布が明らかとなり、物質の挙動、海水の循環に関する知識は飛躍的に増大した。
トリチウム(3H〔注:質量数3の水素、数字は左肩の位置に書く〕)は上層大気中で宇宙線によって生成する放射性各種であるが、それが雨水や微粒子(エアロゾル)にとり込まれて海水に加わる。ところが、1954〜1963年の大気圏核実験による大気汚染で、その濃度は急増し、海洋へのトリチウムの供給量は1963年が最大であった(ワイズ・ロイザー、1980)。つまり海洋に入った時間がわかっていて、その後時間の経過とともに、汚染された海水がどのように動いていったのかを観測するのに都合がよかった。図2-48(略)は大西洋西側におけるトリチウムの鉛直断面図である。一見して、大西洋の北緯20度より北の海域における等濃度線が深層にまでおよんでいるが、南緯50度までの南大西洋では、表層混合層の下部までしかそのような傾向がないことがわかる。北大西洋高緯度海域は、表層水が沈降して深層水を形成しているのである。その潜り込みは5000mまで追跡できるが、トリチウムは表層の濃度の約1/10となる。単純に見積もってみても、5000mまで潜り込むのに約40年かかっていることになる。残念ながらトリチウムは半減期が短かすぎて、その後の北大西洋深層水の動きを説明できないが、放射性炭素14C〔質量数14の炭素、数字は左肩の位置に書く;以下同じ〕は半減期が5730年なので、1970年代後半には全海洋における分布が明らかにされ、海水の年齢がわかった。
図2-49(略)は14C年齢の緯度方向の鉛直分布である。北大西洋高緯度の海水の14C年齢は、表層から深層まで50年より若く、南に向かって徐々に古くなる。大西洋の中層には南に舌状に張り出す比較的若い海水があり、“北大西洋深層水”と名づけられている1つの水塊である。南極からは平均して1000年の年齢をもった“南極底層水”が、大西洋の底層を北上しながら、若い北大西洋深層水と鉛直に混合し、みしろ見かけ上若くなっている傾向が認められる。もう1つの水塊である“南極中層水”は、北大西洋深層水より軽いので、その上層である深度約1km付近を北上する。この水も、上下の新しい海水との混合によって北上しながら、見かけ上の年齢は若くなる。
太平洋において、大西洋といちじるしく異なっている点は、北太平洋の高緯度には年齢で50年よりも若い海水は表層混合層にしかなく、深層に潜り込むような傾向が見いだされないことである。そして、深層水は南極周辺で形成され、その若い南極底層水が北上しながら、太平洋の2〜4kmの中深層にひろがる古い“太平洋深層水”と上下に混合し、年齢をかさねていくようすがみえる。その分、太平洋深層水は南太平洋では若がえり、北太平洋の深度2km層あたりには、年齢2000年以上の、世界でももっとも古い海水が存在していることになる。海水の14C年齢は、新しい海水と古い海水の混合によって決まる、平均的な年齢であることを銘記しておかなければならない。
図2-50(略)は表層水の年齢を現在としてみた、深度3kmに海水の年齢分布である。深層水の誕生する海域であるグリーンランド沖の海水の年齢がもっとも若く、南にいくほど古い。南極周辺は、大気二酸化炭素の溶解した若い14Cを含んだ海水が沈降するために、どこでも500年より若い。その海水はインド洋へ、そして太平洋へとひろがっていき、この深度においては北緯20〜40度の海水の年齢がもっとも古く、約2000年の年齢をもっていることがわかる。また等年齢線の傾向から、大西洋では新しい“大西洋深層水”が、むしろアメリカ大陸よりに南下していること、インド洋や太平洋では、大陸を左に見て深層水が北上するように理解できる。
トレーサーとしての酸素、栄養塩 海水中の溶存酸素は、大気から溶解するか、光合成によって遊離するかの2通りの方法によって表層水中に加わる以外、供給の道はない。グリーンランド沖や南極周辺海域でいく分過飽和に溶解した酸素は、深層水循環の道程において、表層水から落下してきた生物起源有機物の酸化分解に消費され、時間とともに減少するのみである。図2-51(略)は水深3km面における溶存酸素の水平分布である。北大西洋深層水の溶存酸素濃度は南に向かって低くなり、その傾向はインド洋、南太平洋、そして北太平洋へとつながっていく。この分布から、北大西洋の深層水は若く、インド洋、太平洋の深層水はそれよりも古いことがわかる。また栄養塩類も基本的には、溶存酸素が減少した分、硝酸塩やりん酸塩は海水中に回帰し、珪素は生物の遺骸から溶解する。つまり、年齢の古い海水中は溶存酸素濃度が低く、AOU、硝酸塩、りん酸塩、珪酸塩の濃度は高い。各水塊のAOUや珪酸塩濃度の代表値と海水の14C年齢との関係は図2-52(略)となる。Δ14CとAOU・珪酸塩のあいだには、海水の年齢が古いほどAOUおよび珪酸塩濃度が大きくなるという、一定の関係にあることがわかる。Δ14Cは1950年を基準(核実験以前の自然大気の14C濃度)として、それよりも海水がどれだけ古いかを表した値で、マイナスの数字が大きい方が年齢が古いことを表す。またその起点は北大西洋にあり、北大西洋起源水がもっとも若く、もっとも小さいAOUと珪酸塩濃度をもち、北太平洋深層水がもっとも古くて、もっとも高いAOUと珪酸塩濃度を示すことがわかる。その途中経路に存在する各水塊の代表値は、この直線上にほぼプロットされるのである。これは、みかけの酸素消費量、そして珪酸塩濃度がともに海水の古さのトレーサーとして考えてよいことを表している。
海洋ベルトコンベアー 海洋全体では、深層水の形成が北大西洋高緯度海域と南極海でおこなわれ、その深層水は大西洋からインド洋と太平洋の深層にひろがっていき、もっとも年齢の古い海水は北太平洋の中層にあり、平均年齢は2000年である。ブロッカー(W.S.Broecker、1991)は、この海水の大循環をベルトコンベアーにたとえて、図2-53(略)のような大胆な海洋大循環を提唱している。大西洋で沈降してベルトコンベアーとなった深層水の流れは、インド洋北部海域と太平洋で湧昇し、表層水と混合しながらもとの出発点にもどるのである。たとえば、大西洋の表層で大気二酸化炭素を溶かし込んだ表層水は、深層にひろがっていき、やがて太平洋で湧昇して表層に現われる。表層から落下してベルトに乗る陸起源の微細な砕屑物質もあるであろう。また生物粒子は、ベルトが移動するにつれて変質しながら運ばれる。このように海洋大循環は、海水のみならず海水が抱き込んだ物質も運ぶのである。』