経済産業省(2009):総合資源エネルギー調査会鉱業分科会クリーンコール部会報告書:「我が国クリーンコール政策の新たな展開2009」.115p.


目次

はじめに..............................................................................................4

第1章国内外における石炭利用を巡る現状認識...................................6
1.世界的な石炭利用の拡大.......................................................... 6
2.我が国のエネルギー供給に占める石炭の位置付け...................11
3.気候変動問題と化石燃料利用................................................. 15
4.世界最大の石炭輸入国である我が国と産炭国との関係........... 19
5.石炭に関する適切な情報発信の必要性の高まりと人材対策.... 23

第2章世界的な石炭クリーン利用に係る政策動向と我が国の取り組み.26
1.世界的な石炭のクリーン利用に対する政策動向..................... 26
2.我が国のクリーン・コール・テクノロジーの開発・利用の状況.................................................................................... 40
3.我が国のクリーン・コール・テクノロジーの海外技術移転の現状.................................................................................... 53
4.将来に向けた石炭のクリーン利用を進めていく上での課題.... 60

第3章世界的な石炭生産の動向と我が国の石炭安定供給確保の取り組み状況.............................................67
1.我が国の石炭資源確保政策の現状.......................................... 67
2.世界の産炭国における石炭生産・利用の政策動向.................. 68
3.我が国の石炭安定供給確保と主要産炭国との協力関係の現状と今後の方向.................................................... 71
4.将来に向けた石炭安定供給を確保していく上での課題........... 80

第4章我が国の新たなクリーンコール政策の在り方 ............................84
1.基本的な考え方−グローバルな視点での我が国石炭利用の位置付け−........... 84
2.ゼロ・エミッション石炭火力発電の実現................................ 85
3.Clean Coal for the Earth 計画の推進〜日本から世界へクリーン石炭利用技術の普及〜.... 98
4.石炭安定供給確保のための産炭国との重層的な協力関係の強化............................................................................102
5.我が国石炭利用の係る情報発信と人材育成の強化.................108

おわりに........................................................................................... 112


はじめに

 気候変動問題への対応が地球規模の課題となっている現在、化石エネルギーの利用に伴う温室効果ガスの排出抑制に関する関心が世界的に高まっている。世界的には電源構成の70%近くが化石エネルギーであり、その中でも石炭の割合は40%以上を占めている。
 しかしながら、気候変動問題への対応の観点からは、化石エネルギーの中で石油、天然ガスと比べ燃焼時の単位当たり二酸化炭素排出量の大きい石炭利用の効率化が国際的な課題となっている。
 我が国は世界最大の石炭輸入国であるとともに、長年にわたり石炭利用技術の効率化に取り組んできており、世界最高水準の製鉄技術や発電効率を有する設備の開発・運営を実現する等世界有数の環境に配慮した石炭利用国家である。
 資源に乏しい我が国にあって、経済性、供給安定性に優れた石炭を原子力とともに石油代替エネルギーの柱の一つとして位置づけ、その利用促進に努めてきているとともに、世界最高水準の環境に適合した石炭利用技術の開発・利用を実現してきている。
 すなわち、我が国は、エネルギー政策の基本である経済性、供給安定性に優れた石炭を環境適合性にも配慮した利用を実現しており、まさしく3Eを同時達成した石炭利用を実現してきている。
 本部会では、世界的なエネルギー需給と石炭利用の状況や気候変動問題解決に向けた国際的な化石燃料のクリーン利用の必要性に係る議論を踏まえつつ、我が国のエネルギー政策における石炭利用の意義、実績をレビューするとともに、将来に向けた世界的な気候変動問題の制約下での我が国の石炭利用分野における役割や方向性に関し議論するとともに、石炭輸入大国として石炭の安定的経済的な確保に向けた対応のあり方につき議論し、石炭の利用・開発両面における我が国のとるべき対応の方向と官民の役割について提言する。


第1章国内外における石炭利用を巡る現状認識

1.世界的な石炭利用の拡大
 石炭は、石油や天然ガスのように中東地域に偏在する化石エネルギー資源と異なり世界的に広く存在し、その埋蔵量も石油の可採年数が約40年、天然ガスが約60年に比べ石炭は130年以上と長期に亘り安定的に利用できる資源であることから、世界的に極めて一般的に利用されている資源であり、世界のエネルギー情勢を理解する上で石炭抜きに議論することはできない状況にある。
 すなわち、石炭は他の化石燃料に比して世界に広く存在することから、多くの国において石炭は経済性かつ安定供給性に優れた国産資源として利用されている。具体的には、世界各国の石炭生産国では電力用燃料や鉄鋼用原料として利用されており、昨今の経済成長を背景として、大幅にその需要が増加しており、世界の一次エネルギー消費に占める石炭の割合は2000年の22.8%から2006年には26.0%に拡大、2007年の世界の発電電力量に占める石炭火力の割合は41.0%とその重要性が高まっている。
 2006年の世界の石炭消費量(褐炭を含める)は61.1億トンと見込まれており、国別には、中国38%、米国17%、インド8%で全体の60%以上を占めている。
 また、石炭は、その品質が極めて多種多様で発熱量、含水分、灰分、揮発分、硫黄分などバラツキが大きく、一般的には石炭化度により、無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭等に分類され、石炭消費量の伸びを炭種別にみると、瀝青炭(無煙炭を含める)の伸びが高く、これは石炭消費の多い上位3カ国に瀝青炭の埋蔵量が相対的に多いことに起因すると考えられる。一般的には、褐炭、亜瀝青炭のような低品位炭は、その経済性や輸送コストの関係から基本的に国産資源として自国消費されることが多い。
 将来的な、世界の一次エネルギー需要は、2006年から2030年にかけて、世界全体で約45%増加すると見込まれている。その中で、石炭消費は、約60%拡大、一次エネルギー全体では26%から29%へシェアを拡大すると見込まれている。
(図1-1-1 世界の一次エネルギー需給見通し 略)
 現在の世界の石炭消費は、第1位中国(23億t)、第2位米国(10億t)、第3位インド(5億t)であり、2006年から2030年までに、中国の石炭消費は2倍、インドは2.5倍、米国は15%拡大し、特に、中国は現在世界の石炭消費の38%を占めるが、2030年には50%に拡大する見込みである。この結果、2030年には中国、インド、米国の3カ国で、世界の石炭消費の75%を占めると見込まれている。
 また、2006年の二酸化炭素の排出量は、中国、インド、米国の3カ国で126億トン、世界の排出量280億トンの45%を占める。
(表1-1-2 世界の一次エネルギー需給見通し 略)
 また、この石炭需要の伸びの主な要因は、中国、インドをはじめとする世界的な電力需要の増大であり、その新たな電源開発を支えるのが自国に豊富に賦存する石炭を活用した石炭火力発電である。2005年から2030年にかけての石炭消費の増加量39.9億トンの8割以上が、発電利用によるものである。世界の発電電力量に占める石炭火力の割合は、世界平均で40%を上回っており、石炭資源が豊富な中国、インドはこの比率が70%を超え、米国も50%を上回っている。
(図1-1-3 主要国の発電電力量構成比(2006 年) 略)
 2030年に向けて、世界の発電電力量の石炭火力の割合は、40%から45%へ拡大し、石炭火力発電は、今後とも世界の電源構成の主力であると見込まれる。今後の石炭火力発電の導入については、中国をはじめ、先進国の米国、ドイツ、イギリスでも、我が国以上に多くの石炭火力発電所の新設計画が存在する。
 産油国の集まる中東でも、石炭火力発電が拡大傾向にあり、経済性に優れた石炭を輸入・活用し、高価なLNGを輸出にあてるという戦略が取られている。
(図1-1-4 世界の発電電力量別の電源構成 略)
(表1-1-5 各国の石炭火力発電新設計画 略)
 このような世界的な石炭消費の拡大を背景として、石炭の生産についても2000年の45億トンが2006年には61億トンに達しており、特に消費量の大きい中国とインドの生産量の拡大は顕著で、中国の生産量は同期間において約2倍の23億トンに拡大している。また、インドネシアの生産量が同期間に年率21%で拡大したことも特徴的で、輸出量の拡大が顕著であり、今や一般炭では豪州を抜き世界最大の輸出国に成長している。

【石炭資源の特徴と世界における石炭資源の位置づけ】
<可採年数が長く、資源量が豊富>
 石炭の可採埋蔵量は、石油、天然ガスに比べて豊富であり、2005年末において可採年数が130年以上と、石油の42年、天然ガスの60年に比べて最も大きく、長期にわたり安定的に利用できる。
<賦存地域も分散し、安定的>
 石炭は、非常に多くの国々で産出、利用されている地産地消資源で、多くの国で発電、製鉄業に活用されており、世界的なエネルギー資源の中でも中心的資源である。
 経済発展に伴い電力需要は不可避的に増大する中で、世界各国の石炭生産・石炭需要が拡大しており、経済発展の基盤を支えている。
<石炭価格は低位で安定>
 国際的に広く取り引きされている石油・天然ガスに比し、安価でありかつ価格安定性が高いという特徴を有する。また、賦存地域も分散していて安定的な供給が期待される。


2.我が国のエネルギー供給に占める石炭の位置付け
 我が国は、戦後の経済復興に当たり唯一の国内資源であった石炭の生産拡大を図り、これを重点的に発電と製鉄に活用し、そこで得られた電力と鉄鋼を石炭産業や他の製造業に重点的に供給しつつ民生の発展にも活用してきた、いわゆる「傾斜生産方式」を国内経済振興の機軸とした。そのため、外貨依存の抑制等の観点から、国内石炭産業を育成するため、1951年の石油の輸入自由化以降も重油ボイラーの設置規制等がなされた。「炭主油従時代」である。
 その後、国内産業の発展に伴う資源エネルギー需要の急激な拡大とエネルギーに対するコスト削減の要請から、重油燃料の自由化路線への転換により、石油利用が急激に拡大した。そのため、1959年には国内石炭産業は不況構造業種に指定され、その後の8次にわたる石炭産業構造調整へ移行することとなる。「油主炭従」時代である。
 1973年に起こった石油危機により、我が国のエネルギー政策は、石油代替エネルギー政策が機軸となり、石炭、天然ガス、原子力、新エネルギー等の石油代替エネルギーの利用が促進されることとなる。IEAにおいても1979年にはベースロード用の石油火力発電所の新設が禁止され、その後の石油火力発電所の新設が抑制され、安価な海外炭を活用した石炭火力発電所が増設されてきている。「石油代替エネルギー」の時代である。
 2000年以降の世界的な電力需要の拡大と石油価格の急激な上昇から化石燃料における石炭の経済性が再認識され、世界的な石炭利用の拡大と同様に、我が国においても石炭は発電構成においてベースロードとしての役割を担っている。
 2008年5月の長期需給見通しでは、一次エネルギー供給に占める石炭の割合は、2005年とほぼ同様の20%であり、今後とも我が国の重要なエネルギー資源の地位を占め続ける見通しである。

【我が国にとっての石炭資源の重要性】
 あらゆるエネルギー資源に乏しく、その100%近くを海外に依存している我が国にとって、石油、天然ガスに比し、長期に利用可能である石炭は、供給安定性が長期に維持できるエネルギー資源。
 我が国がほぼ全量を海外に依存する石油、天然ガスが、中東やロシア等に偏在しているのに比し、石炭は我が国に近いアジアに広く賦存し、豪州という先進国から多くを調達できる極めて供給安定性が高い資源。
 価格的にも、国際的に広く取り引きされている石油・天然ガスに比し、安価で価格安定性があることから、高い経済性を有する。
 我が国の一次エネルギー供給全体の80%を海外の化石燃料に依存しており、供給安定性、経済性に優れた石炭を利用していくことは、我が国の産業競争力に影響を及ぼすエネルギー価格を安定的に維持していく上で極めて重要である。


(図1-2-1 燃料別の価格の推移 略)
(図1-2-2 燃料別の確認埋蔵量 略)
(図1-2-3 燃料別の資源埋蔵量の分布 略)

3.気候変動問題と化石燃料利用
 2008年7月に開催された北海道洞爺湖サミットは、地球環境サミットと称せられ、首脳宣言において、気候変動問題が大きく取り上げられ、2050年までに世界の温室効果ガスの排出量の50%削減を達成するとのビジョンを共有することが合意された。
 このような気候変動問題への国際的な対応の必要性から、化石燃料のクリーン利用に対する要請が極めて高まっている。
 石油、天然ガス、石炭は、基本的に炭化水素資源であり、燃焼させエネルギーを獲得する際には、二酸化炭素が発生することから、これが大気中に放出されることが、地球温暖化の原因となっている。特に、石炭は、他の炭化水素資源に比し、水素、酸素含有量が小さく、炭素比率が高いことから獲得される単位エネルギー当たりの二酸化炭素発生量が多いという課題を有している。
 そのため、現在、サミット等の世界主要国の首脳間の合意として、化石燃料のクリーン利用、とりわけ石炭のクリーン利用、クリーン・コール・テクノロジーの利用が国際的な要請となっている。
 具体的には、高効率な石炭火力発電技術と、石炭火力発電所から発生する二酸化炭素の回収・貯留技術(Carbon Dioxide Capture and Storage:CCS)であり、特にCCSに関しては国際的な連携と早期の実用化のため、2010年までに世界で20の大規模な実証試験を実施することが国際合意になっている。
 すなわち、先進各国においても化石燃料利用は今後ともエネルギー安全保障を守る上で極めて重要であることから、気候変動問題への対応上も、化石燃料のクリーン利用とCCSという技術革新により、その解決を図っていくことが必要である。
 我が国においても、このような国際的な気候変動問題解決に関する合意を具現化するために、世界の温室効果ガスの排出を2050年までに半減するという長期目標を達成するため、2008年7月に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」において、我が国は、2050年までに二酸化炭素排出を現状から60〜80%削減という目標が掲げられている。
 この「低炭素社会づくり行動計画」においては、この削減目標を実現する上での革新的な技術開発の重要性が掲げられており、その中で石炭利用の高度化が大きく取り上げられ、石炭のクリーン燃焼技術に関して、ガス化複合発電の発電効率の向上とCCS技術を併せたゼロ・エミッション石炭火力の実現を目指すこととしている。
 さらに、このような2050年に向けた削減目標に対して、経済産業省は「Cool Earth−エネルギー革新技術計画」を設定し、21の技術での目標達成を目指しており、その中で、「高効率石炭火力発電」と「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」がクリーン石炭利用の擬態的な技術開発目標として掲げられている。
 この「Cool Earth−エネルギー革新技術計画」で掲げられた21の技術で、二酸化炭素半減目標の約6割の削減をすると期待されているが、高効率火力発電、CCSの2つの技術だけで、その削減量の12%程度を担うことが期待されている。

【我が国のエネルギー政策と気候変動問題】
 ここで、我が国のエネルギー政策と気候変動問題との関係を振り返っておくことが石炭を含めた化石燃料クリーン化を進める我が国の役割を論じる上で重要と考える。
 我が国は、エネルギー資源に乏しいことから、エネルギー自給率が低く、エネルギー資源のほぼ100%を海外に依存しているため、気候変動問題に対応していく上で、我が国のエネルギー政策は、経済性(Economy)、供給の安定性(Energy Security)、環境適合性(Environment)の3つのEをバランスよく同時達成していくことが基本である。先に述べているとおり、資源エネルギーに乏しい我が国が、国内で利用する化石燃料のほぼ全量を海外に依存している中で、石炭は、経済性、供給安定性に優れた燃料資源であり、我が国のエネルギー供給のベストミックスを実現する上で石炭が一定の役割を担い続けることが重要である。また、環境適合性に関しても、我が国の石炭利用技術は、世界最高の発電効率を有しており、
発電設備容量としても3,700万kWと世界有数の石炭火力発電の規模を有している。さらに将来に向け、国内石炭火力発電の効率化のための新たな革新的な高効率石炭火力発電技術とCCSに取り組んで行く計画である。
 世界的にも石炭は極めて広範な国で使われかつ自国資源として活用する国が太宗であり、経済性、供給安定性に関しては大変優れた燃料資源である。環境適合性に関しては、開発途上国のみならず先進国でも、我が国に比し発電効率が低い石炭火力発電所が多いのが現実であるが、我が国が有する世界最高水準の石炭火力発電技術を海外に移転するとともに、導入が促進されることにより世界的な石炭利用に係る3つのEの同時達成を実現することが可能になる。その役割を担える代表的な石炭利用国は日本であると言える。さらに将来に向けても、重電メーカーや電力が国の支援を受けつつ、より高効率な石炭火力発電技術の開発・利用に着実に取り組むとともに、その技術を逐次海外に移転していく上での我が国に対する期待は世界的に大きい。
 そのため、気候変動問題との関係でも、我が国の石炭利用は世界をリードしており、今後とも世界の石炭利用が環境適合性を確保する上でも、我が国の石炭クリーン利用を進展させていくことが重要と考える。
 我が国の世界最高レベルの発電効率を有する石炭火力を、石炭の消費の多い米国、中国、インド等に適用するだけでも、我が国の二酸化炭素排出量に相当する13億トン程度の二酸化炭素削減が可能だという試算もある。


(図1-3-1 石炭火力発電からの二酸化炭素排出量(2004 年))

【気候変動問題に対応したエネルギー政策と我が国の石炭利用】
 気候変動問題に対応すべく、2050年に向け温室効果ガス排出を半減させることが国際的なビジョン。
 そのため、エネルギー政策としては3Eの同時達成が我が国及び世界的な課題。
 経済性、供給安定性に優れた化石燃料、とりわけ我が国にとっては石炭をクリーン利用することが、3E達成上不可欠。
 現在、我が国の石炭火力発電は世界最高水準の発電効率を達成し、石炭利用分野での3E達成において世界をリードしている。
 よって、世界的にも経済性、供給安定性が極めて高く、将来に向け利用拡大が見込まれる石炭の3E達成に貢献できるのは我が国が一番手。
 さらに、より効率的な石炭火力発電等の革新的技術開発に取り組み、国内で利用していくとともに、海外に移転していく上での我が国への期待大。また、CCSについても、技術開発に取り組み、国内外での実証試験等を実施。


4.世界最大の石炭輸入国である我が国と産炭国との関係
 石炭は、世界的には生産された国の国内産業で消費される「地産地消」資源である。
 2006年の世界の石炭生産量が61億トンであるが、貿易量は8.7億トンであり、全体の生産量の17%程度である。我が国は、2006年において世界全体の貿易量の21%を占める約1.8億トンの石炭を輸入しており、世界最大の石炭輸入国になっている。
 我が国の石炭輸入の歴史を振り返ると、1950年頃の原料炭の輸入に始まり、1960年代には開発輸入が開始された。石油危機以降の70〜80年代は開発ラッシュの時代となり、原料炭輸入量は7,000万トン水準に達し、その後はほぼ現在まで7,000万トン代で推移してきている。原料炭輸入相手国としては、80年代に米国、カナダの北米炭が50%近くを占めていたが、現在では豪州炭が60%近くを占めている。
 一方、一般炭輸入に関しては、世界的にも石油危機以降の1980年代以降、電力用一般炭の世界貿易が急速に拡大し、1980年の一般炭貿易量は、欧州、大西洋市場を中心に1億2,500万トンであったが、日本、韓国、台湾を主な輸入国とする太平洋貿易が急速に拡大、2006年には世界全体では6億4,300万トンにまで増加している。この間の原料炭の貿易量は、1億3,900万トンから2億2,300万トンへと拡大を遂げたものの、一般炭に比べその伸び率は小さく、如何に一般炭貿易の拡大が著しいか理解できる。すなわち、石油危機以降、石油代替エネルギーの中心的な役割
を石炭が担ってきており、国内炭の減少に伴い安価な海外炭の利用が進み、一次エネルギー供給に占める石炭の比率は安定的に20%を占めてきている。その間、電力事業者による開発輸入への取り組みや石油会社による石炭開発権益確保など、安定供給確保への取り組みが強化されてきている。現在までに電力構成に占める石炭の比率は、石油危機後、着実に拡大してきており、石油危機時に石油火力が70%、石炭が8%であった時代から、現在は石油火力が10%、石炭が25%と石油代替が進展している。
 このように、我が国では、第二次石油危機以降、石油の代替燃料として、経済性、供給安定性に優れた海外炭が主に発電用燃料として利用され始めたことから一般炭の輸入量が増加し、原料炭と無煙炭を合わせた2006年度の輸入量は約1億8,000万トンに達している。一方、我が国の石炭生産は、現在では北海道のみであり、生産量は約130万トンで推移している。したがって、石炭の海外依存率は99%以上となっているが、豪州を中心とする開発輸入への取り組みの成果により、現在、我が国の石炭輸入量の約40%は開発権益炭であり、他の化石燃料に比し、供給安定性に優れたエネルギー資源である。
 現在、世界の石炭輸出国は、豪州、インドネシアが2大石炭輸出国であり、2国で貿易量の約5割を占めている。我が国の石炭輸入は、この2カ国に大きく依存しており、2006年度において豪州に59%、インドネシアに18%依存している。特に、豪州からの安定的な石炭供給の実績は十分に評価すべきと考えられるとともに、最近の傾向としては、中国からの輸入量の減少、インドネシアからの輸入量の拡大が特徴的である。
 このような我が国への石炭輸出に影響を及ぼす産炭国側の状況につき、我が国は以下のような点に注視すべきと考える。
(1)産炭国の経済産業構造の変化に対応した石炭利用に対する考え方の変化
 産炭国では、経済発展に伴う電力需要の拡大から、発電用石炭の需要が伸びることが見込まれ、自国の需要を優先する輸出抑制策をとる動きが、中国、インドネシアにおいて顕在化している。また、石油、天然ガス等の他の化石燃料の資源制約に比べ、量的に豊富な石炭を他用途利用することにより、国内エネルギー需給の安定化を図ろうとする動きもある。さらに、豪州のような先進産炭国では、石炭のクリーン利用、ひいてはCCSも含めた技術の開発・実証に積極的に貢献しようとする産炭国も出てきている。
(2)産炭国の輸送インフラ問題
 これまで産炭国における石炭輸送に係る鉄道、港等のインフラは、他の資源開発の場合と異なり、公的な資金負担で整備されている場合が多い。例えば、豪州における鉱物資源の鉄道輸送インフラを見ても、鉄鉱石と石炭では整備に関わる官民の役割が全く異なる。最近の石炭需要の急増に対応した産炭国における輸送インフラ整備に係る官民分担が議論されている。
(3)石炭輸入国の拡大
 世界各国の経済発展に伴う電力需要の拡大を背景として、電力向けの石炭需要の急増は、アジア太平洋の石炭貿易市場において、従来の輸入国である日本、韓国、台湾に加え、インド、中国の輸入量が拡大してきており、今後の我が国の石炭安定供給確保を図る上で懸念材料となっている。
(4)国際海事機関(IMO)の石炭海上輸送に係る規制強化の動き
 石炭海上輸送においては、国際海事機関(IMO)が石炭等の運送要件について、安全実施基準(BCコード)の強制化を打ち出しており、輸送能力確保、輸送コストの面で大きな影響が懸念される。

【世界の石炭市場における我が国の位置づけ及び産炭国との関係】
 世界の石炭貿易量は生産量の20%であり、基本的には地産地消資源。
 その中で我が国は世界最大の石炭輸入国。アジア太平洋の一般炭貿易市場は、日本、韓国、台湾で主に形成。
 これまでの開発輸入への取り組みから、全体の石炭輸入量の40%が開発権益炭であり、安定供給に貢献。
 最大の石炭輸入国として、貿易市場や産炭国政策には注視が必要。
 (1) 産炭国の経済産業構造変化に対応した石炭利用に対する考え方の変化
 (2) 産炭国の輸送インフラ問題
 (3) アジア太平洋市場におけるインド・中国による石炭輸入の拡大
 (4) 国際海事機関(IMO)の石炭海上輸送に係る規制強化の動き


5.石炭に関する適切な情報発信の必要性の高まりと人材対策
 近年、気候変動問題の解決に向けた国際的議論の中で、化石燃料のクリーン利用とCCSという革新的技術開発を促進するという国際的な合意がなされている。その中で、既に世界最高水準の発電効率を達成している我が国の石炭火力発電技術を適切に世界に移転していくとともに、より高効率な石炭火力発電技術の開発と導入に取り組んでいくことが、世界的な石炭クリーン利用を拡大させていく上で極めて重要であると考えられる。
 このような世界的に期待を集めている我が国の石炭火力発電に対する最近の日本国内の論調に関しては、懸念を抱かざるを得ない。
 そのため、本部会においても、我が国の石炭利用のエネルギー政策上の重要性、国民に対する情報発信の状況や今後のあり方につき、審議を行った。
 (財)石炭エネルギーセンター(以下、JCOAL。)が実施をしたセミナー(2008年12月:エコプロダクツ2008/石炭セミナー「石炭ってエコなの?」)におけるアンケート調査によると、石炭に対するイメージとしては、「きたない、危険、古い」や「昔使っていたエネルギー」といったように石炭に対する認識そのものが薄いのが現状である。一方で、このアンケートでは58%の方がセミナーに参加して石炭のイメージは変わったと答えている。「参加して目からうろこが落ちた」という意見もあり、このような広報活動の重要性を物語っている。
 また、部会においても、エネルギー全般に対する理解を深める上での、広報の重要性を指摘する意見も多く出され、調達の安定性、経済性の両面で優れる石炭の利用は、今後も重要であるため、クリーンな石炭利用技術の開発が如何に重要であるかとの情報発信を大いに官民挙げて取り組む必要があるとの意見が多く提出された。
 さらに、近年の大学改革等の流れの中で、石炭のみならず資源に関する大学学部の縮小が相次ぎ、我が国の石炭利用の将来を支える資源開発や石炭利用に係る人材の確保、育成に対する懸念が高まっている。
 生産技術面では、これまで国内炭鉱を重視し、海外開発に対応した人材育成にあまり目が向けられてきていない状況にあるが、石炭資源の殆ど全てを輸入に依存している我が国では、将来に向け海外の石炭資源開発を担う人材育成が一層重要になっている。しかしながら、大学教育における資源系学部学科の縮小、現場経験を有する炭鉱技術者の高齢化、海外での石炭開発に対応した技術を習得する場が国内にないなどの様々な要因によって、資源開発に係わる若年層の技術者が不足しているのが現状である。このため、資源開発に資する人材の育成や社会人の再教育も重要となる。
 石炭利用面においても、今後高効率石炭火力発電技術やCCSといった革新的技術開発を官民挙げて推進していく必要があり、その技術開発、さらには国内での運用、海外への技術移転を担える人材の育成確保が重要である。


おわりに

 気候変動問題の解決に向けた早急な対応が必要な中、石炭利用に関する様々な議論がなされているが、我が国のエネルギーセキュリ
ティや経済的なエネルギー供給構造の実現に関する議論が欠落している場合が多い。また、世界的なエネルギー情勢を見ても、経済成
長を維持する上で、世界各国は自国にある石炭を使わざるを得ない状況にあり、世界は石炭利用を拡大しようとしている。
 そのような中で、我が国は世界最高水準の効率的な石炭利用技術を有しており、世界の石炭利用を環境適合型に転換させることに貢
献することができる。
 世界が経済成長のため石炭利用を拡大させる中で、世界最高水準の発電効率の石炭火力を有する我が国は、我が国を環境に優しい石
炭火力の実証の場として位置づけ、アジアのみならず、世界へ技術を普及し、地球環境問題に貢献していくことが我が国の道と考える。
 また、エネルギー資源に乏しい我が国は、石炭についてもほぼ100%を海外に依存し、世界最大の石炭輸入国である。これまで、
開発輸入に対する官民の取り組み等により、石炭の安定供給確保に関しては特段大きな問題は生じていないが、中国、インド等の石炭
輸入の急増など、豪州とインドネシアに80%近くを依存する我が国の石炭供給構造に対する懸念も提示されている。そのため、産炭
国との重層的な関係強化と官民連携した新規石炭供給源の開拓に対する取り組みも改めて強化すべきと考える。
 さらに、これまで原子力等に比し、国内での石炭火力発電所の立地は円滑に実現している中で、我が国における石炭利用の重要性や
世界の石炭事情について、官民あげて情報発信していくことの重要性が改めて認識され、今後、十分に官民連携のもとで積極的に広報
活動を展開していく必要がある。
 人材育成に関しても、海外での石炭資源開発への取り組み強化や石炭のクリーン利用技術の開発促進を担う人材の育成・確保が必要
であり、政府の主導的な役割が期待されている。
 今回のクリーンコール部会の報告は、現在我が国が抱えている石炭を巡る官民の課題が体系的網羅的に整理されており、今後、官民
協力による課題解決に向けた対応が期待される。
 また、本部会を今後定期的に開催することにより、適切なフォローアップがなされることを期待する。


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