はじめに..............................................................................................4
第1章国内外における石炭利用を巡る現状認識...................................6
1.世界的な石炭利用の拡大..........................................................
6
2.我が国のエネルギー供給に占める石炭の位置付け...................11
3.気候変動問題と化石燃料利用.................................................
15
4.世界最大の石炭輸入国である我が国と産炭国との関係...........
19
5.石炭に関する適切な情報発信の必要性の高まりと人材対策.... 23
第2章世界的な石炭クリーン利用に係る政策動向と我が国の取り組み.26
1.世界的な石炭のクリーン利用に対する政策動向..................... 26
2.我が国のクリーン・コール・テクノロジーの開発・利用の状況....................................................................................
40
3.我が国のクリーン・コール・テクノロジーの海外技術移転の現状....................................................................................
53
4.将来に向けた石炭のクリーン利用を進めていく上での課題.... 60
第3章世界的な石炭生産の動向と我が国の石炭安定供給確保の取り組み状況.............................................67
1.我が国の石炭資源確保政策の現状.......................................... 67
2.世界の産炭国における石炭生産・利用の政策動向.................. 68
3.我が国の石炭安定供給確保と主要産炭国との協力関係の現状と今後の方向....................................................
71
4.将来に向けた石炭安定供給を確保していく上での課題........... 80
第4章我が国の新たなクリーンコール政策の在り方 ............................84
1.基本的な考え方−グローバルな視点での我が国石炭利用の位置付け−........... 84
2.ゼロ・エミッション石炭火力発電の実現................................ 85
3.Clean Coal for the Earth 計画の推進〜日本から世界へクリーン石炭利用技術の普及〜.... 98
4.石炭安定供給確保のための産炭国との重層的な協力関係の強化............................................................................102
5.我が国石炭利用の係る情報発信と人材育成の強化.................108
おわりに...........................................................................................
112
気候変動問題への対応が地球規模の課題となっている現在、化石エネルギーの利用に伴う温室効果ガスの排出抑制に関する関心が世界的に高まっている。世界的には電源構成の70%近くが化石エネルギーであり、その中でも石炭の割合は40%以上を占めている。
しかしながら、気候変動問題への対応の観点からは、化石エネルギーの中で石油、天然ガスと比べ燃焼時の単位当たり二酸化炭素排出量の大きい石炭利用の効率化が国際的な課題となっている。
我が国は世界最大の石炭輸入国であるとともに、長年にわたり石炭利用技術の効率化に取り組んできており、世界最高水準の製鉄技術や発電効率を有する設備の開発・運営を実現する等世界有数の環境に配慮した石炭利用国家である。
資源に乏しい我が国にあって、経済性、供給安定性に優れた石炭を原子力とともに石油代替エネルギーの柱の一つとして位置づけ、その利用促進に努めてきているとともに、世界最高水準の環境に適合した石炭利用技術の開発・利用を実現してきている。
すなわち、我が国は、エネルギー政策の基本である経済性、供給安定性に優れた石炭を環境適合性にも配慮した利用を実現しており、まさしく3Eを同時達成した石炭利用を実現してきている。
本部会では、世界的なエネルギー需給と石炭利用の状況や気候変動問題解決に向けた国際的な化石燃料のクリーン利用の必要性に係る議論を踏まえつつ、我が国のエネルギー政策における石炭利用の意義、実績をレビューするとともに、将来に向けた世界的な気候変動問題の制約下での我が国の石炭利用分野における役割や方向性に関し議論するとともに、石炭輸入大国として石炭の安定的経済的な確保に向けた対応のあり方につき議論し、石炭の利用・開発両面における我が国のとるべき対応の方向と官民の役割について提言する。
第1章国内外における石炭利用を巡る現状認識
1.世界的な石炭利用の拡大
石炭は、石油や天然ガスのように中東地域に偏在する化石エネルギー資源と異なり世界的に広く存在し、その埋蔵量も石油の可採年数が約40年、天然ガスが約60年に比べ石炭は130年以上と長期に亘り安定的に利用できる資源であることから、世界的に極めて一般的に利用されている資源であり、世界のエネルギー情勢を理解する上で石炭抜きに議論することはできない状況にある。
すなわち、石炭は他の化石燃料に比して世界に広く存在することから、多くの国において石炭は経済性かつ安定供給性に優れた国産資源として利用されている。具体的には、世界各国の石炭生産国では電力用燃料や鉄鋼用原料として利用されており、昨今の経済成長を背景として、大幅にその需要が増加しており、世界の一次エネルギー消費に占める石炭の割合は2000年の22.8%から2006年には26.0%に拡大、2007年の世界の発電電力量に占める石炭火力の割合は41.0%とその重要性が高まっている。
2006年の世界の石炭消費量(褐炭を含める)は61.1億トンと見込まれており、国別には、中国38%、米国17%、インド8%で全体の60%以上を占めている。
また、石炭は、その品質が極めて多種多様で発熱量、含水分、灰分、揮発分、硫黄分などバラツキが大きく、一般的には石炭化度により、無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭等に分類され、石炭消費量の伸びを炭種別にみると、瀝青炭(無煙炭を含める)の伸びが高く、これは石炭消費の多い上位3カ国に瀝青炭の埋蔵量が相対的に多いことに起因すると考えられる。一般的には、褐炭、亜瀝青炭のような低品位炭は、その経済性や輸送コストの関係から基本的に国産資源として自国消費されることが多い。
将来的な、世界の一次エネルギー需要は、2006年から2030年にかけて、世界全体で約45%増加すると見込まれている。その中で、石炭消費は、約60%拡大、一次エネルギー全体では26%から29%へシェアを拡大すると見込まれている。
(図1-1-1 世界の一次エネルギー需給見通し 略)
現在の世界の石炭消費は、第1位中国(23億t)、第2位米国(10億t)、第3位インド(5億t)であり、2006年から2030年までに、中国の石炭消費は2倍、インドは2.5倍、米国は15%拡大し、特に、中国は現在世界の石炭消費の38%を占めるが、2030年には50%に拡大する見込みである。この結果、2030年には中国、インド、米国の3カ国で、世界の石炭消費の75%を占めると見込まれている。
また、2006年の二酸化炭素の排出量は、中国、インド、米国の3カ国で126億トン、世界の排出量280億トンの45%を占める。
(表1-1-2 世界の一次エネルギー需給見通し 略)
また、この石炭需要の伸びの主な要因は、中国、インドをはじめとする世界的な電力需要の増大であり、その新たな電源開発を支えるのが自国に豊富に賦存する石炭を活用した石炭火力発電である。2005年から2030年にかけての石炭消費の増加量39.9億トンの8割以上が、発電利用によるものである。世界の発電電力量に占める石炭火力の割合は、世界平均で40%を上回っており、石炭資源が豊富な中国、インドはこの比率が70%を超え、米国も50%を上回っている。
(図1-1-3 主要国の発電電力量構成比(2006 年) 略)
2030年に向けて、世界の発電電力量の石炭火力の割合は、40%から45%へ拡大し、石炭火力発電は、今後とも世界の電源構成の主力であると見込まれる。今後の石炭火力発電の導入については、中国をはじめ、先進国の米国、ドイツ、イギリスでも、我が国以上に多くの石炭火力発電所の新設計画が存在する。
産油国の集まる中東でも、石炭火力発電が拡大傾向にあり、経済性に優れた石炭を輸入・活用し、高価なLNGを輸出にあてるという戦略が取られている。
(図1-1-4 世界の発電電力量別の電源構成 略)
(表1-1-5 各国の石炭火力発電新設計画 略)
このような世界的な石炭消費の拡大を背景として、石炭の生産についても2000年の45億トンが2006年には61億トンに達しており、特に消費量の大きい中国とインドの生産量の拡大は顕著で、中国の生産量は同期間において約2倍の23億トンに拡大している。また、インドネシアの生産量が同期間に年率21%で拡大したことも特徴的で、輸出量の拡大が顕著であり、今や一般炭では豪州を抜き世界最大の輸出国に成長している。
【石炭資源の特徴と世界における石炭資源の位置づけ】
<可採年数が長く、資源量が豊富> 石炭の可採埋蔵量は、石油、天然ガスに比べて豊富であり、2005年末において可採年数が130年以上と、石油の42年、天然ガスの60年に比べて最も大きく、長期にわたり安定的に利用できる。 <賦存地域も分散し、安定的> 石炭は、非常に多くの国々で産出、利用されている地産地消資源で、多くの国で発電、製鉄業に活用されており、世界的なエネルギー資源の中でも中心的資源である。 経済発展に伴い電力需要は不可避的に増大する中で、世界各国の石炭生産・石炭需要が拡大しており、経済発展の基盤を支えている。 <石炭価格は低位で安定> 国際的に広く取り引きされている石油・天然ガスに比し、安価でありかつ価格安定性が高いという特徴を有する。また、賦存地域も分散していて安定的な供給が期待される。 |
あらゆるエネルギー資源に乏しく、その100%近くを海外に依存している我が国にとって、石油、天然ガスに比し、長期に利用可能である石炭は、供給安定性が長期に維持できるエネルギー資源。 我が国がほぼ全量を海外に依存する石油、天然ガスが、中東やロシア等に偏在しているのに比し、石炭は我が国に近いアジアに広く賦存し、豪州という先進国から多くを調達できる極めて供給安定性が高い資源。 価格的にも、国際的に広く取り引きされている石油・天然ガスに比し、安価で価格安定性があることから、高い経済性を有する。 我が国の一次エネルギー供給全体の80%を海外の化石燃料に依存しており、供給安定性、経済性に優れた石炭を利用していくことは、我が国の産業競争力に影響を及ぼすエネルギー価格を安定的に維持していく上で極めて重要である。 |
ここで、我が国のエネルギー政策と気候変動問題との関係を振り返っておくことが石炭を含めた化石燃料クリーン化を進める我が国の役割を論じる上で重要と考える。 我が国は、エネルギー資源に乏しいことから、エネルギー自給率が低く、エネルギー資源のほぼ100%を海外に依存しているため、気候変動問題に対応していく上で、我が国のエネルギー政策は、経済性(Economy)、供給の安定性(Energy Security)、環境適合性(Environment)の3つのEをバランスよく同時達成していくことが基本である。先に述べているとおり、資源エネルギーに乏しい我が国が、国内で利用する化石燃料のほぼ全量を海外に依存している中で、石炭は、経済性、供給安定性に優れた燃料資源であり、我が国のエネルギー供給のベストミックスを実現する上で石炭が一定の役割を担い続けることが重要である。また、環境適合性に関しても、我が国の石炭利用技術は、世界最高の発電効率を有しており、 発電設備容量としても3,700万kWと世界有数の石炭火力発電の規模を有している。さらに将来に向け、国内石炭火力発電の効率化のための新たな革新的な高効率石炭火力発電技術とCCSに取り組んで行く計画である。 世界的にも石炭は極めて広範な国で使われかつ自国資源として活用する国が太宗であり、経済性、供給安定性に関しては大変優れた燃料資源である。環境適合性に関しては、開発途上国のみならず先進国でも、我が国に比し発電効率が低い石炭火力発電所が多いのが現実であるが、我が国が有する世界最高水準の石炭火力発電技術を海外に移転するとともに、導入が促進されることにより世界的な石炭利用に係る3つのEの同時達成を実現することが可能になる。その役割を担える代表的な石炭利用国は日本であると言える。さらに将来に向けても、重電メーカーや電力が国の支援を受けつつ、より高効率な石炭火力発電技術の開発・利用に着実に取り組むとともに、その技術を逐次海外に移転していく上での我が国に対する期待は世界的に大きい。 そのため、気候変動問題との関係でも、我が国の石炭利用は世界をリードしており、今後とも世界の石炭利用が環境適合性を確保する上でも、我が国の石炭クリーン利用を進展させていくことが重要と考える。 我が国の世界最高レベルの発電効率を有する石炭火力を、石炭の消費の多い米国、中国、インド等に適用するだけでも、我が国の二酸化炭素排出量に相当する13億トン程度の二酸化炭素削減が可能だという試算もある。 |
気候変動問題に対応すべく、2050年に向け温室効果ガス排出を半減させることが国際的なビジョン。 そのため、エネルギー政策としては3Eの同時達成が我が国及び世界的な課題。 経済性、供給安定性に優れた化石燃料、とりわけ我が国にとっては石炭をクリーン利用することが、3E達成上不可欠。 現在、我が国の石炭火力発電は世界最高水準の発電効率を達成し、石炭利用分野での3E達成において世界をリードしている。 よって、世界的にも経済性、供給安定性が極めて高く、将来に向け利用拡大が見込まれる石炭の3E達成に貢献できるのは我が国が一番手。 さらに、より効率的な石炭火力発電等の革新的技術開発に取り組み、国内で利用していくとともに、海外に移転していく上での我が国への期待大。また、CCSについても、技術開発に取り組み、国内外での実証試験等を実施。 |
世界の石炭貿易量は生産量の20%であり、基本的には地産地消資源。 その中で我が国は世界最大の石炭輸入国。アジア太平洋の一般炭貿易市場は、日本、韓国、台湾で主に形成。 これまでの開発輸入への取り組みから、全体の石炭輸入量の40%が開発権益炭であり、安定供給に貢献。 最大の石炭輸入国として、貿易市場や産炭国政策には注視が必要。 (1) 産炭国の経済産業構造変化に対応した石炭利用に対する考え方の変化 (2) 産炭国の輸送インフラ問題 (3) アジア太平洋市場におけるインド・中国による石炭輸入の拡大 (4) 国際海事機関(IMO)の石炭海上輸送に係る規制強化の動き |
気候変動問題の解決に向けた早急な対応が必要な中、石炭利用に関する様々な議論がなされているが、我が国のエネルギーセキュリ
ティや経済的なエネルギー供給構造の実現に関する議論が欠落している場合が多い。また、世界的なエネルギー情勢を見ても、経済成
長を維持する上で、世界各国は自国にある石炭を使わざるを得ない状況にあり、世界は石炭利用を拡大しようとしている。
そのような中で、我が国は世界最高水準の効率的な石炭利用技術を有しており、世界の石炭利用を環境適合型に転換させることに貢
献することができる。
世界が経済成長のため石炭利用を拡大させる中で、世界最高水準の発電効率の石炭火力を有する我が国は、我が国を環境に優しい石
炭火力の実証の場として位置づけ、アジアのみならず、世界へ技術を普及し、地球環境問題に貢献していくことが我が国の道と考える。
また、エネルギー資源に乏しい我が国は、石炭についてもほぼ100%を海外に依存し、世界最大の石炭輸入国である。これまで、
開発輸入に対する官民の取り組み等により、石炭の安定供給確保に関しては特段大きな問題は生じていないが、中国、インド等の石炭
輸入の急増など、豪州とインドネシアに80%近くを依存する我が国の石炭供給構造に対する懸念も提示されている。そのため、産炭
国との重層的な関係強化と官民連携した新規石炭供給源の開拓に対する取り組みも改めて強化すべきと考える。
さらに、これまで原子力等に比し、国内での石炭火力発電所の立地は円滑に実現している中で、我が国における石炭利用の重要性や
世界の石炭事情について、官民あげて情報発信していくことの重要性が改めて認識され、今後、十分に官民連携のもとで積極的に広報
活動を展開していく必要がある。
人材育成に関しても、海外での石炭資源開発への取り組み強化や石炭のクリーン利用技術の開発促進を担う人材の育成・確保が必要
であり、政府の主導的な役割が期待されている。
今回のクリーンコール部会の報告は、現在我が国が抱えている石炭を巡る官民の課題が体系的網羅的に整理されており、今後、官民
協力による課題解決に向けた対応が期待される。
また、本部会を今後定期的に開催することにより、適切なフォローアップがなされることを期待する。