資源エネルギー庁(編)(2001)による〔『エネルギー2001』(14-24p)から〕


2.エネルギー政策について
2-1 エネルギー政策の基本的考え方

 エネルギー資源に乏しく、その太宗を海外に依存する我が国においては、引き続きエネルギーの安定供給の確保は極めて重要な政策課題である。また、環境保全の観点から、エネルギー起源のCO2の排出抑制への取組も不可欠となっている。こうした状況を踏まえ、我が国においては「環境保全や効率化の要請に対応しつつ、エネルギーの安定供給を実現する」ことを基本目標としている。これらの観点から見たエネルギーを取巻く近年の動向は次のとおりである。
 第一に、近年の我が国のエネルギー需給動向について見れば、需要面では、1980年代半ば以降、原油価格の低位安定、豊かさを求めるライフスタイル等を背景に、民生・運輸部門を中心として、ほぼ一貫して増加基調で推移している(1986〜1999年度の年平均伸び率は民生・運輸部門3.1%、需要全体2.4%)。また、供給面を見れば、1980年代半ば以降、石油依存度は50%台半ばの水準で下げ止まり傾向にあり、石油輸入の中東依存度は1980年代半ばまでの低下傾向から反転し、現在は石油危機時を上回る水準まで上昇している(1973年度 77.5%、1999年度 86.2%)。(以上1999年度数値は速報値。)
 さらに、アジア地域において、今後、化石燃料を中心としたエネルギー需要の相当の増加が見込まれる中で、石油をはじめとしたエネルギーの域外依存度の大幅な拡大が懸念されている(3-2(2)参照)。
 第二に、地球環境保全とりわけ地球温暖化問題は、近年、国際的に極めて大きな問題となっている。特に、化石エネルギーの燃焼などエネルギー使用に伴い発生するCO2が地球温暖化の大きな原因とされている。1997年12月、京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において、我が国は2008年〜2012年の期間の温室効果ガス排出量を1990年比で6%削減するとの目標にコミットしたところである。
 第三に、上記の課題に加えて我が国産業の国際競争力強化の観点から、ひいては国民生活の向上の観点から、エネルギー分野においてもエネルギーコストの低減を図るべく、自由化等を通じた需給両面の経済効率の向上も求められている。

2-2 総合的なエネルギー政策の検討について
 近時のエネルギー情勢を見ると、需要面では、景気低迷の中で、98年度のエネルギー消費は、産業部門が大きくマイナスとなったことに伴い、第2次石油ショック以来、16年ぶりにマイナスに転じた。また、景気低迷にもかかわらず、逆に、民生・運輸部門の需要は大きく伸長している。供給面では、原子力発電の立地計画の長期化や原油価格の大幅な上昇などが見られる。これら需給両面における各種の情勢の変化を踏まえた上で、エネルギー政策全般について、1年程度の期間をかけて幅広い検討を行うこととしており、平成12年4月より、通商産業省大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会等において検討を行っているところである。2000年7月にとりまとめられた「今後のエネルギー政策の検討のための論点整理」は以下のとおり。(略:資源エネルギー庁の『審議会等』の総合エネルギー調査会関係資料を参照

2-3 長期エネルギー需給見通し
 1960年代半ば、我が国の経済の急速な成長に伴うエネルギー消費の急増、石炭に変わる石油の重要性の増大といったエネルギー供給構造の変化等の中で、総合的なエネルギー政策を確立することが必要であるとの指摘が高まり、1965年に通商産業大臣の諮問機関として総合エネルギー調査会設置法により、総合エネルギー調査会が設置された。
 同調査会は、1967年に第一回目の長期エネルギー需給見通しを含む第一次答申を提出した。当時は、低廉な石油輸入によるエネルギー供給体制を基本とし、石油供給の低廉、安定、自主が重要な課題とされた。
 その後、1975年の第三回目の長期エネルギー需給見通し以降は、二度の石油危機を経て、石油依存度の低減、省エネルギーの必要性が重視されるに至ったが、長期エネルギー需給見通しの役割としては、基本的にはエネルギー需給の将来像を示しつつ、エネルギー安定供給へ向けた取り組みを促すというものであり、エネルギー需給の想定は、実勢を踏まえた自然体の見通しに近いものであった。
 しかしながら、1990年の長期エネルギー需給見通し以降は地球環境問題への対応の必要性という考え方が導入され、我が国の長期的なエネルギー政策の努力目標としての性格をも併せ持つようになった。

2-4 現行「長期エネルギー需給見通し」の概要
 「長期エネルギー需給見通し」については、総合エネルギー調査会等で行われている総合的なエネルギー政策の検討(2000年4月〜)の課題の一つであるが、現行の「長期エネルギー需給見通し」は以下のとおりである。
 1997年12月のCOP3の合意を契機として、総合エネルギー調査会需給部会において、21世紀に向けたエネルギー需給の在り方について審議が行われ、1998年6月に2010年度のエネルギー需給の姿とそのための政策を内容とする「長期エネルギー需給見通し」が取りまとめられた。その中では、エネルギーの安定供給を確保しつつ、2%程度の経済成長と2010年度のエネルギー起源CO2の1990年度比安定化とを両立させることを目標としている。

需要構造の変革

○省エネルギー法の改正によるトップランナー方式の考え方の導入等、競争環境整備型の省エネ対策を実施

供給構造の変革

○地球温暖化防止とエネルギー・セキュリティ向上に資する原子力、新エネルギー等の非化石エネルギーを最大限導入
○化石エネルギーについても、環境負荷のより小さい天然ガスの導入促進

エネルギー産業の効率化

○エネルギー産業に対する規制緩和を推進し、効率化を進めることは、構造転換コストの軽減に貢献

(1) 現行のエネルギー需要の展望
 これまで講じられた対策を維持し、追加的な政策努力を講じない場合(基準ケース)は、2010年度のエネルギー需要は1996年度比16%増の456百万klに達する見込みであるが、国民各層の努力を経済合理性の範囲内で最大限引き出す競争的枠組みを産業、民生、運輸の全部門にわたって構築し、それらが所期の成果をあげた場合(対策ケース)、原油換算で56百万kl相当の省エネルギーが達成され、2010年度のエネルギー需要は1996年度比1.8%増の400百万klとなる見込みである。
 省エネルギー対策のポイントは以下のとおりである。
 (ア) 自主行動計画等に基づく対策 <産業部門>
    ・経団連自主行動計画等の公的な場におけるフォローアップ
    ・省エネ法改正
 (イ) エネルギー消費機器等の効率改善、住宅、建築物の省エネ性能の向上等 <民生、運輸部門>
    ・トップランナー方式の導入による機器等の大幅な効率改善
    ・住宅、建築物の省エネルギー性能の向上
 (ウ) ライフスタイルの変革 <民生、運輸部門>
    ・ライフスタイルの変革を促す広報活動
    ・物流効率化、交通対策、テレワーク等
 (エ) 技術開発の推進 <全部門>
 (オ) 関連インフラの整備等 <全部門>

(2) 現行のエネルギー供給の展望
 国産あるいは準国産エネルギーとしての位置付けを有する非化石エネルギーの導入に引き続き最大限の努力を行うことは、エネルギー安定供給の観点から極めて重要であるとともに、環境負荷低減の観点からも不可欠である。
 また、化石エネルギーについても、今後ともエネルギー源の中で主要な位置付けを占めていくことから、その安定供給の確保に引き続き努めるとともに、環境特性、コストについても考慮しつつ、化石エネルギーの供給構成を見直して行くことが重要となっている。

表T−2 現行の長期エネルギー需給見通し
最終エネルギー消費の現行見通し(単位:原油換算億kl)

年度

項目

1996年度

2010年度

基準ケース

対策ケース
  構成比   構成比 年平均
伸び率
  構成比 年平均
伸び率
産業部門 1.95 49.6 2.13 46.7 0.6 1.92 47.9 ▲0.1
民生部門 1.02 26.0 1.31 28.7 1.8 1.13 28.3 0.8
運輸部門 0.96 24.5 1.12 24.6 1.1 0.95 23.7 ▲0.1
合計 3.93 100 4.56 100 1.1 4.00 100 0.1
一次エネルギー総供給の現行見通し

年度

項目

1996年度

2010年度
基準ケース 対策ケース
一次エネルギー総供給 5.97億kl 6.93億kl 6.16億kl
エネルギー別区分 実数 構成比% 実数 構成比% 実数 構成比%
石油
 石油(LPG輸入除く)
 LPG輸入
3.29億kl
3.10億kl
1,520万t
55.2
51.9
3.3
3.58億kl
3.37億kl
1,610万t
51.6
48.6
3.0
2.91億kl
2.71億kl
1,510万t
47.2
44.0
3.2
石炭 13,160万t 16.4 14,500万t 15.4 12,400万t 14.9
天然ガス 4,820万t 11.4 6,090万t 12.3 5,710万t 13.0
原子力 3,020億kWh 12.3 4,800億kWh 15.4 4,800億kWh 17.4
水力 820億kWh 3.4 1,050億kWh 3.4 1,050億kWh 3.8
地熱 120万kl 0.2 380万kl 0.5 380万kl 0.6
新エネルギー等 685万kl 1.1 940万kl 1.3 1,910万kl 3.1



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