西山(1993)による〔『資源経済学のすすめ』(71-81p)から〕


1 鉱物資源の量と評価
 これまでに、静態的耐用年数と現実の動きの間に大きなくい違いが出ており、静態的耐用年数が長年にわたって大きな変化をしていないことを理解した。それでは、何に起因してこのようなくい違いが起こっているのかを吟味すると、その多くは耐用年数の計算基準となっている資源量や埋蔵量のなかにありそうである。この点について検討しよう。
 必ずしも定着した定義があるわけではないが、通常概念としては、鉱石とは有用元素が現在の経済状態で抽出可能な程度に含まれている岩石をいい、これから採掘される鉱石量を埋蔵量としている。さらに経済状況が少し好転すれば抽出可能になる鉱石も存在するので、これらを含めて資源量として扱われている。この資源量という言葉が埋蔵量とともに頻繁に使われるようになったのは、産業規模の大きくなった最近のことである。
 ここで、注意しなければならないのは、このようにして定義された量は相対的なものであって、物理的諸量や化学組成のような絶対的な基準をもっていないことである。しばしば資源量や埋蔵鉱量はあやまって非常に限られた量として理解されているが、それはあくまでも現在の技術力と現在の価格で経済的に採掘できるものである。社会情勢、経済状況、あるいは政治体制が変われば、また技術革新によっても、資源量や埋蔵量は変化するものである。
 たとえば、南極には優良な石炭の存在が知られ、もし日本にあればすぐにでも開発可能であるが、自然条件が厳しく安価な輸送手段がないので埋蔵量には加算されていない。また逆に、交通の便はよくても10センチメートルや20センチメートルの薄い炭層は、採掘に経費がかかるのでこれも埋蔵量に含まれないのが普通である。さらに、最近では世界最大の産油国であり、種々の鉱物資源を多量に産出してきたソ連が崩壊し、いくつかの新しい独立国家が誕生した。この大変革にともなってこれまでの油田や鉱床は再評価されることになり、新しい埋蔵量に加えられる石油や鉱石、埋蔵量からはずされる石油や鉱石が出てくる。自由世界では、採掘によって利益をあげる条件が整っていないかぎり、埋蔵鉱量としては加算されないのが原則である。
 このように、資源量や埋蔵量にはあいまいな要素を含んでいるので、現在採掘可能なもの、将来採掘される可能性のあるもの、さらに、これから発見の期待できる量など広い範囲にわたる物質を、まず一定の基準にしたがって分類、定義しておく必要がある。
 資源を評価するには、経済性と存在の信頼性の二つが柱である。古くは存在の確からしさに重点をおき、埋蔵量のなかをさらに細分し、確定鉱量、推定鉱量、予想鉱量にわけてきた。しかし、現在では、経済性を重視して、埋蔵量のほかに、経済限界以下の物質、地球科学的観点から発見の期待される物質までを含めて議論されることが多い。そうしないと、ふくれあがった需要に対応できないからである。また、すでに述べたように資源問題は自然科学だけでなく、社会科学、人文科学の分野でも、頻繁に話題にされるようになってきた。したがって資源や埋蔵量の定義、分類も、鉱業関係者だけでなく、だれにでも容易に理解できるものが望ましい。
 このような事情から、各国または国際機関では、いくつかの資源分類方法が考案されている。それらのなかで現在鉱物資源関係者の間でもっともよく使われ、まとまっていると思われるのは、1980年にアメリカ合衆国でつくられた分類体系である。この分類規準では、地質学的存在の信頼性を横軸にとり、確認、予測、潜在などに細分し、縦軸には経済評価をとって経済的、準経済的(将来において価格の上昇や採掘技術の改革があれば採算可能となるもの)、経済限界下の三段階に表示している。さらに、その間にできる、それぞれの項目に該当する言葉が決められている(図5.1A:略)〔参考〕。
 このような詳細な分類は、資源問題を考えるには便利である。しかしながら、現実の鉱床を評価する資源技術者にとっては煩雑すぎて、直面している鉱床をどの項目に入れるべきか迷うことが多い。そこで、もう少し簡略化し、埋蔵量ベースと予測埋蔵量ベースの二つに区分して表示する方法も提案されており、長期的な資源供給を考えるには実用的な区分となっている。また、新しい資源分類として資源量だけでは不十分で、在庫量、リサイクル量や備蓄量もこの分類表にとりいれて体系化しようという試みもある(図5.1B:略)。鉛資源のように再生資源が消費量の半分近くを占める資源や、タングステンのようにアメリカの備蓄量が世界の年生産量を超えている資源もあり、在庫量やリサイクル量を資源の分類にとりこんでおかないと判断を誤ることもある。
 一方、石油資源で使われている分類は、鉱物資源の場合と原則的には同じで、横軸に地質学的存在の信頼性を、縦軸に経済評価をとっている。しかし、石油資源では準経済的資源量と経済限界下の扱いが少し異なり、回収量が重要な役割を示している。すでに述べたように、石油では原油の一部しか回収できず、一次回収および二次回収により採油された後に、多量の原油が残ってしまう。すなわち、原油の粘性、表面張力、毛細管圧力などの物理的な性質を変えて原油の流動性を高め、回収率を増進することによって生産可能になる準経済的資源が多量に存在している。このほかに、鉱物資源と同様、原状では経済性はないが、状況が変化すれば新しく採油が可能になると思われる油田もある。また、経済限界下の資源量は、このような回収法を使ってもまだ回収不可能な原油の量である。
 なお、石油資源関係の論文には、しばしば可採埋蔵量あるいは究極可採埋蔵量という言葉が使われているが、すでに述べたように、埋蔵量という言葉のなかにすでに採掘可能なという意味が含まれているので、基本的には可採の文字は不要で、単に埋蔵量だけで十分である。

2 資源の枯渇と地殻存在度
 すでに述べたように、埋蔵量、資源量ともに時代により科学技術の進歩により変化する、あいまいなものである。絶対量としては扱うことはできない。そこで、どうしても何らかの動かない基準を導入して、この埋蔵量や資源量の総量を推し測っておく必要がある。
 このような目的からしばしば用いられている規準に、地殻の平均組成(元素の地殻存在度)がある。地殻存在度は長年にわたって行われてきた膨大な分析値をもとに算出されているもので、現在では多くの元素について、大きな変動はないものとみなされている。しかし、ごく微量の元素のなかには、研究者によってかなり大きなひらきのある数値が発表されている元素もある。
 これまでの研究によると、この地殻存在度と鉱石量あるいは鉱石量ベース(埋蔵量あるいは埋蔵量ベースに現在までに生産された量を加えたもの)を両対数グラフに表示すると、多くの資源が限られた狭い範囲のなかにはいってくることが知られている。たとえば、古くから使われているなじみの深い16種の資源を選び、横軸に地殻存在度を、縦軸に1991年の鉱石量をとってみると、多くの元素の鉱石量は(地殻存在度)×10^13.54(トン)と(地殻存在度)×10^11(トン)の二つの直線に挟まれた、きわめて小さな領域に入る(図5.2:略)。埋蔵量では4.2万〜646億トン、地殻存在度では0.004ppmから50万ppmと広い幅をもった元素群が、それぞれの鉱石量と地殻存在度の比をとると350倍以内におさまってしまう。これはおどろくべきことである。私たちの生活に密接に関連した金属が、地殻における元素の現出頻度という地球化学のもっとも基本的な事項に、知らないところで深いかかわりあいができている。
 つぎに、元素数をさらに増やし、近年急速に用途が増えてきた金属を加えて36種の金属に広げてみるとどうなるであろうか。すでに述べたなじみの深い金属に比べると新金属の分布は幅が広くなり、タリウムやガリウム、インジウム、タンタルのように(地殻存在度)×10^11(トン)の直線から離れた金属もあらわれてくるが、ほとんどの金属が二本の直線の間に入る。離れて存在する金属は、地殻存在度に比べて発見されている鉱石量が少ないことになるが、これらの金属は利用の歴史も浅く、現状では差し迫った探鉱の必要性がないために、鉱石の発見が遅れているのであろう。したがって、需要が増加し、探鉱が刺激されれば新しい鉱床の発見が期待されよう。
 ところで、ここで、もう一つ注目すべきことがある。それはすべての金属の鉱石量が(地殻存在度)×10^13.54(トン)の値を超えていないことである。アンチモン、金、銅、クロムをはじめ多くの元素が図5.2の二つの直線の間に集まっており、あたかも(地殻存在度)×10^13.54(トン)の直線は鉱石量と地殻存在度の間に横たわる一つの境界のようになっている。そこで、これを一つの限界値とみなすと、この直線から大きく離れている資源の供給は、探鉱さえ怠らなければ、たとえ今後需要が増えても供給の心配はしばらくしなくてもよいことになる。一方、困るのは限界値の近傍に存在する資源である。当然のことながら、ここに設けた限界値を単なる偶然にできた障害と見るか、越えがたいものとして見るかによって大きく結論は異なるが、後者をとれば、すでに述べた耐用年数が維持できなくなる時期のきわめて近い金属が存在することを意味している。このなかには銅、鉛、亜鉛をはじめ伝統的に多量に使ってきている、広い用途をもった金属が含まれている。

3 地殻存在度と鉱床の規模および資源量
 特定の鉱物あるいは元素がどうして異常濃集したかについては、鉱床学で研究されている。それによると、鉱床のタイプは地質学的におよそ10個足らずのタイプに区分され、それらの鉱床形成に関与した物理化学的現象の多くは、現在の地表あるいは地表近くで観察されている現象と大きくは変わらないものと推察されている。きわめて特殊な環境のもとにつくられたと考えられている鉱床は意外に少ない。したがって、分布の偏在などから一見気まぐれな存在にみえる鉱床も、それなりに地球科学的制約を受け、規則性が見られている。
 たとえば、鉱石量の場合と同じように、対数グラフに地殻存在度と最大既知鉱床の大きさをとって調べると、有用元素がほぼ直線的にならぶことが知られている。このことは、地殻存在度の大きい元素は、規模も大きい鉱床が存在し、また最大規模の鉱床はすでに発見されていることを示唆している。すなわち主要な金属については、現在の鉱床の概念を打ち破るような大規模な異常濃集地帯(大鉱床)が将来、発見される可能性はきわめて薄いことになる。最大既知鉱床の大きさの代わりに鉱床の数をとってもやはり直線的な関係が得られる。
 ここまでは、おもに埋蔵量および埋蔵量ベースについて検討してきた。つぎに、現在経済限界以下にある物質を含めた資源量と、地殻存在度との関係を見てみよう。まず、極端な例として、地殻に存在する有用金属がすべて採掘可能となった場合を想定してみると、ほとんどの元素において現在の埋蔵鉱量の100万倍から10億倍に増加する。どの種の資源をとっても実質的に無限に存在すると考えてもさしつかえない量である。
 それでは、有用金属が回収可能な鉱石と、役にたたない岩石との境が、どのへんにあるだろうか。現在採掘されている鉱石の最低品位と、地殻に含まれている平均品位を比較してみよう。
 鉄では近年高品位の鉱石が世界の各地で生産されるようになっているが、長い採掘の歴史をもった西ヨーロッパの堆積鉱床では、品位が25〜35%鉄の低い鉱石もなお少量ながら生産されている。つまり鉄では今掘られている鉱石の最低品位は、地殻存在度5%に対して5倍濃集した25%ということになる。また、銅では、もっとも重要な鉱床は斑岩銅鉱床で、大規模な露天掘りにより採掘がすすめられ、新しい溶媒抽出法(SXEW)を採用した鉱山では、最低採掘品位は0.3%銅くらいまでに下がってきている。この品位を地殻存在度55ppmで割ると55倍となる。
 このようにして、その他の有用元素について鉱石の最低品位と地殻存在度との関係を調べると、アルミニウムや鉄では低く数倍、銅、ニッケル、亜鉛、白金、ウラン、銀、鉛、金では50〜2000倍、タングステン、水銀では1万倍以上、地殻存在度より濃集することによって、はじめて稼行できる鉱石となっていることがわかる(図5.3:略)。
 地殻には十分な量の資源が潜在していることと、多くの資源におい鉱石になるためには地殻存在度に比べ異常に濃集する必要があることが明らかになった。それでは、現在確保している埋蔵量が枯渇し、やむなく価格の上昇を犠牲にして条件の悪い鉱石も採掘するようになったと仮定すると、望むだけの鉱石量が得られることになるであろうか。
 この問題についてはB・J・スキナーによる興味深い洞察がある。』



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