渡辺(1973)による〔『黒鉱々床の地球化学に関する2、3の問題点』(1-2p)から〕


1.まえおき

2.黒鉱鉱床概説
i)黒鉱鉱床に関する定義

 日本の諸鉱山では、従来外観とくに色などによって鉱石を区別する慣習があった。東北地方の諸鉱山の露頭部に産出した銀鉱の一種に、土鉱と呼ばれた泥状・砂状の鉱石があり、茶褐色から灰白色であったので、「白物」とか「赤物」と呼ばれた。また鉱床の一部に伴う赤鉄鉱などを含む部分を「赤物」などとも呼んでいた。これに対し、土鉱の下部にしばしば黒色緻密な鉱石があり、これは「黒物」と呼ばれていたが、往時、これを利用する技術もなくかえって厄介物扱いされていた。しかし、小坂鉱山元山には、多量の「黒物」があり、しかもその中には、少量の金・銀の外に、銅・鉛・亜鉛などが相当含まれていることが知られ、土鉱の減少とともに黒物の積極的活用が研究された。1900年頃、小坂では黒物鉱石の生鉱自溶法による銅鉱処理法に成功し、それからは全国的に黒物鉱石が注目された。しかしまたそれについての総合的知識はなかった。その頃鉱務課の技師であった平林武は、全国的に「黒物」の総合調査を行ない、「黒鉱鉱床調査報文」を2回に亘って発刊した。
 平林武(1908)は、黒物の鉱床学的特長をつかみ、新に学術用語としての「黒鉱」を次のように説明した。「黒鉱とは閃亜鉛鉱、方鉛鉱及び重晶石の周密なる混合鉱石とす」と定義し、併せて鉱物共生上の特質を明確にした。また彼は黒鉱には上記の3主成分鉱物のほかに、黄銅鉱および黄鉄鉱が混在し、金銀も含有されていることを附記した。
 黒鉱に伴って、黄鉄鉱・黄銅鉱を少量含む灰白色の珪質の「珪鉱」や石膏を主成分とする「石膏鉱石」などが、産出する。このことは相当古くから知られていた。これらの鉱石の分類に関する用語は、採鉱・選鉱・製錬などのためにも便利な技術用語である。また、黒鉱と黄鉱の中間型の鉱石については「半黒鉱」なる用語が近年鉱山現場でよく使われている。その后1919〜現在迄の長期に亘って黒鉱の鉱床学的研究を行ってきた木下亀城(1944)は、標式的の黒鉱が、日本の第三紀に広く発達する斜長石英粗面岩、若しくは、これに関連ある安山岩質の火山岩と成因的に密接な関係があることを認め、「黒鉱」を厳密に規定するためには鉱石の成分鉱物・組織・構造だけではなく成因的関係をも併せ掲げるべきであると考えた。そして「黒鉱とは第三紀火山岩と成因的関係を有する鉱床より産する鉱石にして、閃亜鉛鉱・方鉛鉱及び重晶石の周密なる混合をなすものとす」と定義した。さらに、この種の鉱石を産する鉱床を「黒鉱鉱床」と呼ぶことを提案した。すなわち、「黒鉱鉱床とは第三紀火山岩と成因的関係を有する鉱床にして、黒鉱・黄鉱・珪鉱及び石膏の一種若くは数種を産出するものである」と詳しく定義し、標式的黒鉱を産出する鉱床に限り「黒鉱鉱床」と呼び、黒鉱と成因的関係のある硫化鉄鉱または珪質硫化鉄鉱等の鉱床をなどを「黒鉱式鉱床」と呼ぼうと提案した。しかし、その后も多くの研究者は黒鉱鉱床なる名称を広く莫然と使っていたが、大橋良一(1962)は「黒鉱型鉱床(Kuroko-type deposits)は海底に火山作用でできた層状の沈澱鉱床を指す。」と定義した。その后この考えに関連して、堀越叡(1965)は、「黒鉱型鉱床(kuroko-type mineral deposit)とは、カルクアルカリ岩系火成活動に関係のある噴気堆積型鉱床で、その主成分鉱物は中位pHと低Ehの条件で安定なものから成る」と成因的に厳密に規定しようとした。確かにこの規定は鉱床学的にははっきりしていると云えるが、個々の鉱床にあてはめようとすると、条件が詳細すぎて使いにくい。
 しかし、I.M.A.-I.A.G.O.D.のExcursionのGuidebook 3(1970)で、編者は、黒鉱鉱床(Kuroko-deposits)は「いわゆるグリーンンタフ地域に産出する層準規制型の多金属の硫化物・硫酸塩鉱床(strata-bound polymetallic sulfide-sulphate deposits)」であると規定している。
 本文では余り詳細に成因的な規定をしないで、「グリーンタフ地域にある黒鉱を伴う鉱床群を広く黒鉱鉱床」としてとり扱った。さらにそれらの成因を鉱床学的に、地球化学的に検討するために、今迄の文献で黒鉱型・黒鉱式鉱床と呼ばれているものも併せてこの資料に入れた。』

ii)黒鉱と黒鉱鉱床の鉱業的特長
3.地質鉱床の概要
iii)分布
iv)地質的特長
v)黒鉱鉱床の生成史
vi)黒鉱鉱床の構成鉱物
4.黒鉱鉱床成因論と関連した研究
vii)成因論概説
viii)黒鉱鉱床の生成温度・圧力
ix)黒鉱鉱床の同位体地質学的研究
x)黒鉱鉱床に伴う粘土鉱物と母岩の変質作用
xi)黒鉱鉱床地域の放射能異常
xii)黒鉱鉱床の微量化学成分
5.黒鉱鉱床と類似鉱床との比較
xiii)現世の海底重金属の堆積物
xiv)変成鉱床
6.むすび
黒鉱鉱床文献集


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