(社)日本エネルギー学会(1999)による〔『よくわかる天然ガス』(23-25、27、30-31p)から〕


1.4 非在来型の天然ガス
 1.はじめに

 天然ガスとは、自然界において地下に存在し、地表条件下で気体状を呈する物質の総称であり、通常は炭化水素を主成分とする可燃性ガスを指す。可燃性天然ガスの主成分はメタンで、その他にエタン、プロパン、炭酸ガス、窒素、ヘリウム等が含まれる。在来型の天然ガスは比較的浅い堆積層の油・ガス田から採取され、産出の状態から水溶型、油溶型(随伴ガス)、遊離型(構造性ガス)に分類されている。これらが現在天然ガスとして利用されているものであるが、最近では、従来開発の対象とならなかった非在来型の天然ガスが注目されるようになった。
 在来型天然ガスと非在来型天然ガスは、しばしば成因によって区分されるが、経済性や技術的可能性に基づいて区分される場合もあり必ずしも統一されていない。非在来型天然ガスの大きな特徴は、蓄積と濃縮のされかたにあり、一般的に坑井から回収するに際して最初から特殊な回収技術を利用しないと回収できないか、あるいは坑井掘削以外の方法で回収を図る必要のある天然ガスといえる。現在、非在来型天然ガスとみなされているものには、メタンハイドレートコールベッドメタンタイトフォーメーションガス深層天然ガス等がある。
 近年これらが注目されるようになったのは、米国の影響が大きい。米国における天然ガス埋蔵量は1968〜1979年にピークを迎えた後、このまま在来型の資源だけに頼っていてはR/P比が6〜7年となってしまうことが予想された。このような背景と1973年の石油価格の高騰に刺激されて米国は、これまで手をちけて来なかった非在来型天然ガスの開発に取り組み始めた。政府は開発を促進させるため、非在来型の石油・天然ガスなどに対する税制上の優遇措置をとった(1992年で切れたが)。これが功を奏し、現在では非在来型天然ガスが全天然ガス生産量の20%を占めるに至っており、開発技術、生産量いずれの面でも世界的にみて抜きんでた存在となっている。
 カナダは米国と同様に非在来型天然ガスが豊富に埋蔵されているとみられるが、在来型天然ガスが豊かにあるので、非在来型を早期に開発しようという姿勢はない。一方、スウェーデンやスイスなど貧資源国は環境保全、国防等各々の抱えている事情から新しいエネルギー源を深層ガスに求めて超深度掘削プロジェクトを推進している。
 このように各々の国における天然ガスの需給事情が異なることから非在来型天然ガスに対する考え方は多様である。ここでは、各種非在来型天然ガスの研究開発状況を主として米国を中心に国別に見て行くことにしたい。

 2.非在来型天然ガスの開発動向
 2.1 メタンハイドレート
 ある特別な状況下で水分子はガス分子を取り込むことが出来るような篭状構造をつくる。メタンハイドレートとは、メタンがこのような篭状構造に取り込まれてできた氷状の固体物質であり、分子式はCH4・5.75H2Oと表わされる。一般に低温・高圧の条件で安定であり、純粋なメタンハイドレートは1m^3あたり標準状態のメタンを約170m^3含んでおり、この濃縮度合いは他の非在来型ガスに比べて最も高い。
 天然には、図1.4-2(略)に示すように凍土が発達する極地域、および大陸・島弧の縁辺海域に分布する。
 メタンハイドレート中のメタン量(the amount of methane)についてはこれまで様々な評価が行われてきたが、例えばKvenvoldenによれば、陸域・海域合わせて2.01×10^16m^3と見積られている(1988)。在来型天然ガスの究極可採資源量が、3.29×10^14m^3(1995)といわれているので、量としてはかなりのものであることがわかる。しかし、資源としてのメタンハイドレートは、まだ基礎調査の段階であり、開発可能性はこれから評価されて行くであろう。』

 2.2 コールベッドメタン
 コールベッドメタン(Coalbed methane、CBM)とは、石炭の生成・熟成に伴って発生したメタンを主成分とするガスが、炭層中の石炭に保持されているものをいう。一部は石炭中の微細な孔隙や亀裂などに存在するが、大部分は石炭に吸着した状態で存在するといわれる。石炭に対する吸着量は、圧力が高い(深度が深い)ほど、また、炭化度が高いほど多くなる傾向がある。
 CBMを経済的に回収するためには、石炭層の浸透率を高めること、坑井からの回収率を高めることがポイントになる。石炭層の浸透率を高めるために水圧破砕法、リーチング法等による坑井刺激が行われ、また坑井からの回収率を高めるために多層仕上げ法、水平掘削法等の坑井仕上げ技術が用いられる。ただし、石炭層や地質の状況が炭田によってそれぞれ違うので、それらを把握した上で適切な技術を選択する必要がある。
 世界の主要な石炭資源保有国は、中国、旧ソ連、米国、カナダ、オーストラリア等であるが、CBM資源量はほぼ石炭資源量に比例していると考えられる。しかし、CBM資源量に関する地質学的な調査は、米国以外にあまり行われておらず評価データにはかなりの幅があるが、世界的にみたCBM資源量(resources)は少なくとも84兆m^3程度はあると見積もられている。』

 2.3 タイトフォーメーションガス
 ここでいうタイトフォーメーションとは、浸透率が非常に小さい硬質な地層(米国では0.1md以下とされている)をさしている。このような浸透性が極めて低い地層中に含まれているガスをタイトフォーメーションガスといい、例えば、タイトサンドガスやシェールガス等がある。地質学的にみれば、これらのガス貯留層は在来型に非常に類似しているが、主な違いは採取の速度である。タイトフォーメーションの浸透性の悪さが採取速度を遅くし経済性を悪化させている。
 米国の可採鉱量は5.7〜15.6兆m^3と見積られており、政府から税制優遇措置を受けて盛んに開発が進められている。このような地層は米国、カナダをはじめヨーロッパや中国等にも存在するといわれているが、ここでは開発が進んでいる米国の例を主に取り上げる。
 タイトサンドガスは、米国西部のロッキー山脈やカナダ西部のアルバータ盆地などを中心に分布している浸透性の低い硬質な砂岩層に存在する。タイトサンドの浸透率が極めて低いため、水圧破砕のような採取技術の工夫が必要である。米国の生産実績は、1994年に705億m^3に達している。
 シェールガスは、シェール(頁岩)に貯留されているガスである。頁岩は、一般に在来型の天然ガスをシールする非浸透層とみなされているが、有機物を多く含む頁岩の場合は油や天然ガスの根源岩にもなり得る。米国東部のアパラチア地域などには有機物を豊富に含む頁岩(デボニアンシェール)が存在する。この頁岩は部分的には熟成したガス根源岩になっており、自然に発生した亀裂の中に大量のガスを含んでいる。シェールガス採集の歴史は思いのほか古く19世紀初頭から行われてきた。タイトサンド同様、浸透率が極めて低いため採取技術の工夫が必要である。米国のアパラチア堆積盆、ミシガン堆積盆、イリノイ堆積盆の資源量(resources)は合わせて約10兆m^3と見積もられており、シェールからの年間生産量は1994年に73億m^3に達している。

 2.4 ジオプレッシャードガス
 ジオプレッシャードガスは水溶性ガスの一種で、水柱圧に加えて上部堆積物の荷重の全部あるいは一部を受けた異常高圧水に溶存している。上層の岩質によっては全圧力が静水圧よりも2〜3倍高いため、通常の水溶性ガスよりも水中のガス濃度が高い。
 米国のガルフコースト北部にはジオプレッシャードガスが存在しており、DOEが中心になって1970年代から1980年代にかけて研究が行われた。それによれば、1m^3の水に3〜10m^3のメタンが溶けているといわれる。生産に際しては大量の水の汲み上げが必要となるため、経済性を高めるためにはジオプレッシャードガスに含まれる3つのエネルギー、すなわちガス、水の高圧流の運動エネルギー、高温のかん水の熱エネルギーを有効に利用する必要があり、まだ具体的な生産計画はない。
 資源量(resources)は、米国だけで160兆m^3と見積もられているが、炭化水素を胚胎する盆地における異常高圧層ガスは米国では珍しくなく、世界的にも同じようなガス資源があるにちがいないといわれる。

 2.5 深層天然ガス
 深層天然ガスとは、文字どおり深部にある、ないしは深部から上昇してくるガスを指しており、その成因は有機成因説と無機成因説に大別される。従来、石油・天然ガス開発の分野において考え方の基本となってきたのは有機説であり、現在も主流となっている。一方、無機説も古くからあったが、1980年代に入ってGoldらが地球深層部に非生物起源のメタンが大量に存在するはずであると説いて再び注目されるようになった。現在、米国、スウェーデン、スイス、カナダ等において調査されている他、ドイツ、旧ソ連において学術目的の超深部掘削プロジェクトが実施され、深部ガスについても測定されている。』



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