松本ほか(1994)による〔『メタンハイドレート』(197-200p)から〕


第8章 推定される資源量
■メタンハイドレートの資源量推定方法

 一般の炭化水素鉱床とは異なり、メタンハイドレート鉱床の場合、資源量試算に必要な要素の中に未解明の研究課題が数多く残されているために、現段階ではメタンハイドレートについて精度の高い資源量評価をする手法が見当たりません。しかし、すでに発見され開発・生産されているシベリアのメソヤハ・ガス田などにおける生産データや、ロシアや米国でのメタンハイドレート資源量の試算例を参照しながら、以下では、陸域と海域とに分けて、資源量評価法についての概要を説明します。
従来の試算値
 世界のメタンハイドレートの資源量に関しては、海域および陸域に分けた試算が外国で行われています。おおむね天然ガスとして、陸域では数十兆立方メートル、海域で数千兆立方メートルのオーダーの資源量の試算値が得られています。これらの試算方法としては、古典的かつ簡単な面積法または容積法を採用しています(表8-1)。
 最近では、1992年8〜9月に京都市で開催された第29回万国地質学会議において、米国のクラソン博士は海域のメタンハイドレートの資源量について発表しました。彼は、南海トラフなど代表的な世界12ヵ所の海域について、メタンハイドレート層の厚さを1メートルと仮定した場合と10メートルと仮定した場合に資源量計算(天然ガス換算)を行っています。厚さが1メートルの場合は12海域の合計で21兆立方メートル、10メートルの場合は150兆立方メートル、そして、残りの海域については200〜1500兆立方メートルと試算しました(表8-2)。なお、南海トラフについてはハイドレート層の厚さを1メートルの場合に4200億立方メートル、10メートルの場合は4.2兆立方メートルと算出しました。
表8-1 代表的なメタンハイドレートの資源量試算値(天然ガス換算、m^3)
  陸域 海域 全域
トロフィミック他(1977) 5.7×10^13 (5〜25)×10^15  
マクイーバー(1981) 3.1×10^13 3.1×10^15
メイヤー(1981) 1.4×10^13  
ドブリーニン他(1981) 3.4×10^16 7.6×10^18
クベンボルデン(1988)   2.01×10^16
クベンボルデンとクレイプール(1988)   2.91×10^16  
クラソン(1992)   (2.21〜16.5)×10^16
地質調査所/エネ総工研(1992)   (2.5〜5)×10^14
(注) フリーガス量を除く。
表8-2 地域別メタンハイドレートの資源量試算値

海域
ハイドレートの厚さ1m ハイドレートの厚さ10m
m^3 m^3
ラブラドル海 0.71×10^12 7.1×10^12
ボリチモアキャニオン 1.08×10^12 10.8×10^12
ブレークアウターリッジ 1.88×10^12 18.8×10^12
メキシコ湾 2.57×10^12 25.7×10^12
コロンビア海盆 3.42×10^12 34.2×10^12
パナマ海盆 0.85×10^12 8.5×10^12
中米海溝 2.62×10^12 13.4×10^12
北カリフォルニア 0.14×10^12 1.4×10^12
アリューシャン海溝 0.28×10^12 2.8×10^12
ボーフォート海 6.85×10^12 20.7×10^12
南海トラフ 0.42×10^12 4.2×10^12
黒海 0.08×10^12 0.8×10^12

合計
21.0×10^12 149.0×10^12
(クラソン、1992)
 一方、陸域では、すでに生産を行っているシベリアなどの特定の地域において、個別ガス田の資源量を細かく計算しています。その算出方法は、フリーガス量、ハイドレートガス量、および溶解ガス量について個別に計算し、最後に合算する方法を採用しています。
 わが国では、地質調査所や(財)エネルギー総合工学研究所などにおいて、少量の溶解ガス量を無視して、フリーガス量とハイドレートガス量に分けて海域のメタンハイドレートの資源量計算が行われています。世界の海域のハイドレートガス資源量は250〜500兆立方メートル、フリーガス資源量は110兆立方メートルという値が得られました。得られた値は、これまでに諸外国において試算された値よりも少なくなっていますが、この理由は、ハイドレート生成ゾーン下部に経済性があることを考慮した集積係数(塊状のハイドレートの集積度)を使用していることによります。
 一方、日本周辺海域のハイドレート資源量については6兆立方メートル、フリーガス資源量は2.7兆立方メートルと試算されました。このうちの60%は南海トラフの陸側斜面の資源量です。ただし、現段階では十分な探鉱資料が揃っていないために、得られた資源量は一応の目安として取り扱う必要があります。なお、南海トラフの資源量については後で詳しく触れます。』



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