松本ほか(1994)による〔『メタン(Methane Hydrate)ハイドレート』(39-40p)から〕


第3章 メタンハイドレートとは
■正体はどんなもの 
 メタンハイドレートは、水分子とメタンガス分子とから成る氷状の固体結晶です。水分子は内部に5〜6オングストローム(1億分の1センチメートル)の大きさの空隙をもった立体網状構造を作り、その空隙にメタンガス分子が入り込んで(包接されて)います(図3-1:略)。5〜6オングストロームというと非常に小さいと感じるかもしれませんが、結晶にとってはこれは異常に大きなすき間で、結晶の内部にこのような空隙が存在することは、結晶の安定性にとっては不都合なことです。この隙間を埋めるためにガス分子が必要となるのです。このような構造をした化合物を一般に「包接化合物(クラスレート)」と呼び、その骨格となる網状構造を包接格子といいます。
 包接化合物の中には、包接されている分子が包接格子の外へ出ていくとその格子が壊れてしまうものと、包接格子だけでも安定して存在できるものとがあります。前者の代表的なものが、ガスハイドレート・クラスレート(あるいは簡単にガスハイドレート)で、ガス分子がメタンであるものを特にメタンハイドレートと言います。ガスハイドレートの中には、数種類のガス分子を同時に包接しているものもあります。
 後者の代表としては、天然および人工の沸石鉱物(ゼオライト)があげられます。ゼオライトは最近では脱臭剤などとして日常生活でも利用されており、ご存じの方も多いと思います。立体網状構造をもつアルミノ珪酸塩であるゼオライトは、その種類によって内部の空隙の大きさが異なっており、包接する分子の大きさ(種類)も種類によって異なります。この性質を利用して、混合ガスから特定のガスをふるい分ける≠フに使われることがあります。このようなゼオライトを「分子ふるい」と呼んでいます。
 ガスハイドレートの場合も、ガス分子の種類によって格子への入りやすさに差があり、共存するガス相とハイドレート相でガス組成に差があることがあります。第2章で述べたように、ガスハイドレートが発見され、その性質がわかってきたのは、最近の50年ほどのことですが、その性質を利用して、実用化への様々な試みも始まっています。この章では、初めに、ガスハイドレートの結晶構造、性質、特徴、およびその特徴ある性質を利用して、天然ガス資源として以外に、どのような利用法が考えられるかについて述べます。そのあと、天然ガスハイドレートの生成条件、生成しやすい場所、つまり地球上のどのような所に存在する可能性があるのかという問題について考えたいと思います。』



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