横山(1999)による〔『エネルギー活用事典』(40-41p)から〕


バイオマス
特質
 バイオマスとは、太陽エネルギーによる光合成で自らを作り出すことのできる植物体で、集合した一定量がエネルギーとして利用できるものを表す。植物起源であることから植物を意味するphytoにちなんでファイトマス(phytomass)と呼ぶこともある。バイオマスという言葉は元来は生態学の専門用語であったが、最近では植物起源の再生可能エネルギー資源という意味合いで使われている。ただし、再生可能であるのは利用した量を植林などで補完する限りにおいてであり、無制限に伐採を行えば枯渇してしまうことは明らかである。バイオマス資源利用に当たっては、持続的なバイオマス資源とするべく継続的で適切な管理が求められる。バイオマスは再生可能であるという大きな利点がある反面、化石燃料に比べてエネルギーレベルが低い、食糧生産と競合する、過剰伐採により環境破壊につながるなどの問題点も有している。
 人類は古くからバイオマスと深いかかわをもっており、エネルギー利用に限っても暖房や炊事用はもとより、炭を作って還元剤として製鉄に利用されてきたことはよく知られている。現在では世界の一次エネルギーの中でバイオマスエネルギーの占める割合は15%前後であるとされているが、発展途上国では38%と非常に高い割合である。バイオマスは再生可能エネルギーの中で唯一の有機性の、言い換えれば炭素を含むエネルギー資源である。バイオマスは持続的に利用する限り、すなわち字樹木を伐採して燃焼してエネルギーとして利用しても、その分に見合うだけ植林すれば、大気中の二酸化炭素のバランスを壊すことがない。この性質(炭素ニュートラル)から、バイオマスを化石燃料の代替として利用し、化石燃料の削減を図ることで温暖化対策技術のひとつとして注目されている。
バイオマスエネルギープランテーション
 大規模にユーカリなどの成長の速い樹種を植林して6年から10年間隔で伐採と植林を繰り返して、伐採した木材から発電するシステムをエネルギープランテーションという。この場合の、原料である木材などのバイオマスを新型バイオマスと称して、旧来の薪、炭などの伝統的な利用と区別することもある。仮にこのバイオマスの年間の生長量(生産量)を、1ヘクタール当たり乾燥重量当たり10トン(炭素換算で約5トン)とする。ちなみに、成長の速い樹木は50m^3以上もの値が報告されているのでこの仮定は妥当であろう。このバイオマスを6年サイクルで伐採と植林を繰り返して、生産されたバイオマスを石炭代替の火力発電に用いるケースを想定する。1ヘクタール当たり炭素で約5トンがバイオマスとして固定されるが、これを燃焼して発電に供すると、植林や施肥、伐採、輸送に必要なエネルギーうぃ考慮しても、約3トン分の炭素が石炭代替として利用できる。従って、持続的なプランテーションを可能にすれば、半永久的にプランテーションからエネルギーが生産されることになる。
エネルギー変換技術
 化石燃料の代替として、バイオマスの利用技術も各方面で研究されている。エネルギー変換の熱化学的方法による分野では、直接燃焼による発電をはじめ、バイオマスのガス化による合成ガスからメタノールやガソリン製造、熱分解によるエチレンやアセチレン、燃料油の製造、高効率発電を目指した木材の複合ガス化発電、植物油の改質によるディーゼル油代替燃料の製造技術などがある。一方、アルコール発酵を代表とする生物化学的な分野では、アルコール発酵は代表である。酵素のセルラーゼの生産性を高める菌株の改良、固定化酵母による連続発酵やフラッシュ発酵システム、セルロースの糖化と発酵を同時に行うSSF(Simultaneous Saccharification and Fermentation)と呼ばれるプロセスの開発などがある。この他嫌気性消化によるメタン製造や、エネルギー利用の範疇には入らないがコンポスト化技術も最近再び注目されている。
表2-13 バイオマスの分類

バイオマス
木本性植物(樹木)
草本性植物(サトウキビ、ネピアグラス等)
水生植物(ホテイアオイ、ウキクサ等)
海藻(マコンブ、ジャイアントケルプ等)
微小藻類(クロレラ、ドナリエラ等)
生物系廃棄物(動物の糞尿)

表2-14 バイオマスの特質
長所 短所
・再生可能(renewable)である
・地域的に偏在しない
・自然環境に対してインパクトが少なく、生態系と調和のとれた利用が可能
・地球規模で見た場合CO2バランスを壊さない
・有機資源である
・クリーンなエネルギーである
・エネルギーレベルが低い
・含水率が高い
・供給に季節性がある
・食糧と競合する
・過剰伐採により森林生態の破壊につながる
図2-8 バイオマスのエネルギー変換技術
バイオマス 燃焼 発電
熱化学的変換 熱分解 ガス、炭、油類
ガス化 低、中カロリーガス 発電
メタン
メタノール
液化 油類
生物化学的変換 アルコール発酵 エタノール
嫌気性消化 メタン
コンポスト化



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