斎藤(1988)による〔『図説地球科学』(154-160p)から〕


目次

−17− 地質年代表
地質年代表とは

 地球上に起こったあらゆる地質現象を年代順に配列し、客観的に比較できるように、地球史の年表がつくられている(図17.1:略)。人間の歴史年表が細かく区分されているように、この年表と代・紀・世・期といくつかの段階に時代区分がなされている。この区分は、地層の積み重なりの順序(層序)を基準とし、そこに含まれる化石群の変化の大小によってなされている。地球上で風化・侵食がはじまって以来、地層は絶えずどこかで形成されており、次つぎと厚く積み重なった地層は時間経過の最も連続的な記録であって、同時に地層に含まれる化石は地表環境と生物群の変遷を表わしている。すべての時代にわたって地層が連続する地域は現実には存在しないので、この年表は世界各地の層序と化石の膨大な量の蓄積の結果、試行錯誤をくり返しながら、いわばつぎはぎの尺度をまとめてつくられてきたものである。地質年代表は、世界共通の尺度として、地球上の地質現象を相互に比較できるようにした点で、地球科学にはたした役割は大きい。ただし、地層と化石による時代区分はより新しいか、より古いかだけを示す相対的なもので、現在から何年前かといったことはわからない。また、化石がほとんど産出しない先カンブリア時代については、この方法で有効な時代区分をすることはできない。年表の各時代が現在から何年前で何年間に相当するかを明らかにし、先カンブリア時代の詳しい時代区分を解決したのが、放射性同位体の壊変を利用した年代測定である。
 放射年代は数値が得られるので、“絶対年代”といわれることもある。これは適当な表現ではない。地層と化石を基準とする年代は、上に述べたような意味では相対的なもので相対年代とよばれるが、ある特定の場所に、ある特定の地層が形成された時という歴史的な時の流れを表わしている。ある細かい時代区分には、その1回限りの“時”に対応して世界でただ1つの“物”、つまり特定の地層がある。基準となる層を模式層といい、それが存在する場所を模式地という。固有の物と名称に裏打ちされている“時”は、数値は直接わからなくても確かなことなのである。
 図17.1の年代表の右側では、新しい時代が拡大されていて、その分、古い時代が寸づまりになっている。昔のことほど情報が失われてしまうという当然のことを反映している。図17.2(略)がこの事情をよく示している。古い時代を理解するためには、より新しい時代に関する知見にもとづいた推量によって、情報量の不足を補ってやらなければならない。地質学は常に、現在の地球におこっている現象の理解にともなって進歩してきたのである。

地層と地質年代
 “地層の生成”(第15章)で述べたように、地表の風化・侵食作用で生じた物質は、水や風などの力により重力にしたがって低い方へと運搬される。その物質は、運搬力が失われた場で沈殿し、ほぼ水平に拡がる堆積物をつくる(初源堆積水平の法則)。こうして形成された1つの地層(単層)は、構成物質が均質であるか、または上下方向に粒度が変わっても同質であり、これが地層を調べるときの単位となる。次つぎに単層が形成されていくと、それは前の単層の上に順次積み重なり、各単層の間には平行な境目すなわち層理面ができる。それは堆積の中断を表わすが、地質時代の長さからみれば瞬間的な時間の刻み目なので、地層はほぼ連続的に堆積したと考えることができる。このような積み重なりの層序関係を整合といい、当然のことながら下位の地層ほどより古く、上位の地層ほどより新しいことになる(地層累重の法則)。このことは、同時に地層に含まれている化石にも、新旧の時間の根拠を与える。
 このように時間を記録している地層を調べる分野を層序学といい、それはまず野外で地層を観察し、各単層の厚さ・岩質・構成粒子の大きさ・堆積構造・含まれる化石などを記載し、さらに地層の積み重なりの様子を明らかにすることにはじまる。ある地点での観察結果は、柱状図として示すことが多い(図17.3:略)。ある特定地域内に発達するすべての地層を調べ、各地点の柱状図を総合することによって、そこでの層序が組み立てられる。その層序は、岩質あるいは堆積環境の共通性にもとづいて、他地域の層序と比較しやすいようにいくつかに層序区分される。この層序区分は地層の岩質の特徴(岩相)にもとづいているので、岩相層序とよばれている。同時にその地域内の各地層の分布が確かめられるので、地層の分布は火成岩や変成岩とともに地形図に地質図として表現され、地質断面図を作成することにより相互の前後関係を明らかにし、その地域の地史を読み取ることができる。このとき一連の地層と他の一連の地層とが、不調和な関係に積み重なっている場合がある(図17.4:略)。この例では下位の地層が堆積した後で傾斜し、さらに火成岩の貫入をうけ、隆起して侵食による削剥作用をうけたことを表わしている。そこに形成されたはずの地層の一部、つまり記録の一部が失われている。このような、上下が連続していない層序関係を不整合という。不整合は地質時代における変動の記録ではあるが、記録の消失という点で、年代表の確立にとっては不都合な現象である。
 堆積物の性質は形成される場所や環境によって異なり、地層の拡がりにも限りがあるので、世界中に共通な岩相層序というものはあり得ず、ひとつの岩相層序が示すのはある特定地域の特定の時間経過である。したがって、ある岩相層序を他地域のそれと比べて同時性を確かめ(対比という)、また新旧を確かめ年代表を確立するためには、他の手段が必要となる。それに古くから最も有効に利用されてきたのが化石である。同じ時代の地層であれば同じ種類の化石が含まれているという経験則にもとづいて、古生物群集の類似性から地層の同時性を認識してきたのである(化石による地層同定の法則)。このことは、岩相が違っていても特定の地質時代の地層には特定の化石が発見されるということで、古生物群の変遷が時間経過を代表することを意味する(図17.5:略)。
 世界中にわたって地層を対比する場合、地理的な分布が広くてかつ生存期間が短い化石が有効である。このような化石を示準化石という。示準化石といっても1つの時間面を示しているわけではないので、化石を利用して地層を細分し詳細な対比を行ない、より詳しい時代区分をするために、連続した地層中で1つ1つの種がどこからどこまで産出するか、すなわち化石種の出現・絶滅時期を層序の中で確かめる。その結果、ある特定の種が特徴的に出現する部分が、層序の中に識別される。これが地質時代を区分する基本的な単位で、帯(Zone)とよばれている(図17.6:略)。このような分帯による層序区分は、化石によって地層を他地域と共通の時間単位にしたがって区分するので、生層序区分という。いくつかの帯がまとめられて、より長い時間に対する区分である1つの階(Stage)となり、さらに大区分の統、系、界とまとめられている(図17.1参照)。大区分ほど古生物群の大きな変化にもとづいてなされている。これをもとにして、抽象的な概念の時間を表わす年代区分単位が設定されており、階から界に相当する区分が期、世、紀、代である。前にも述べたように、このようにして認識された時間の概念には、特定の場所の地名などに由来する固有名詞が必ずきまっている。その場所のほとんどが、地質学の体系が完成されたヨーロッパにある。

地質時代に入れる数値
 相対的な新旧を表わす生層序の年代区分に放射年代の目盛を刻むためには、堆積岩を直接年代測定することができないので、地層の中に挟まれている火山灰・溶岩などや地層に貫入している深成岩の年代を測定して、それと地層との前後関係をもとにして、地層の年代を推定する。その場合、火成岩の上下限が層序学的にせまく限られていることが望ましい。しかし、そのような試料は限られているため、最近では中生代後期から新生代については放射年代測定で年代が確かめられた地磁気の逆転史と、生層序を確立した地層の地磁気の逆転史を対応させることによって年代区分をしている。この意味では地層を地磁気の逆転史で区分することも可能であって、それを古地磁気層序という。年代層序区分と岩層層序・生層序・古地磁気層序区分との関係を、図17.7(略)に示す。(斎藤靖二)』



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