力武・萩原(1976)による〔『物理地学』(40-43、48-49p)から〕


2.3 重力と地球の構造
2.3.1 国際重力式

 重力解析の方法には、歴史的にみて二つの流れがある。古典的な解析法と、いわゆる近代測地学の名でよばれる新しい解析法である。理論的にはやや不備である古典的な解析法は、厳密さを要求する測地学のための手段とはなりえない。しかし、そう厳密なことを求めない地球物理学的な目的のためには、古典的な方法の実用性は今日にいたるまでその価値を失ってはいない。この節では、地球の構造を探るという地球物理学的な興味から、まず古典的な重力解析を紹介しよう。
 重力と地球の構造との対応をつけるためには、まず、地球上における標準的な重力をきめてやる必要がある。地球の形は大まかにいって回転楕円体である。回転楕円体の形は近似的にスフェロイドとして式(1.8)によって与えられている。標準的な重力もおそらく近似的には式(1.8)に近いような形で与えられるに違いない。
 結果だけを書くと、標準的な重力を与える式は
     γ=γe(1+f*sin2Φ−f**sin22Φ )    (2.16)
の形をとる。ここに、γeは赤道における標準的な重力である。とくに、右辺第2項の係数は扁平率との間に
     f+f*≒5m/2     (2.17)
の関係をもつ。ここに、mは赤道における遠心力と重力の比であり、
     m=ω2・a/γe     (2.18)
である。式(2.17)をクレローの定理(Clairaut's theorem)という。また、極における標準的な重力をγpと書くと式(2.16)より
     f*=(γp−γe)/γe     (2.19)
となることがわかる。γeをaにγpをbに対応づければ、これは式(1.1)の扁平度の定義にあたるものである。そこで、f*を重力扁平度(gravity flattening)という。f**はf*の10-3程度の量である。
 1930年、ストックホルムで開かれた第4回IUGG総会では、国際楕円体とともに国際重力式(International Gravity Formula)を次のようにきめた。それはgal単位で
     γ=978.049(1+0.0052884sin2Φ−0.0000059sin22Φ)     (2.20)
である。これによって、ジオイド上の標準的な重力が定まったわけである。物理測地学では、測地基準系1967によって式(2.20)は廃止され、正規重力式に置き換えられたが、地球物理学や物理探査(geophysical exploration)の方法としての重力解析では、今日でもこの式を採用している。

2.3.2 重力補正と重力異常
 測定されたままの重力の値はその測定点の高さや、地形の影響をうけているので、ほかの場所で測定された重力の値と比較するためには、測定値に適当な補正を加えてこのような影響を取り除いてやる必要がある。
 地球を球とし、その質量Mがその中心に集中していると仮定すれば、重力の大きさは地球の中心から測定点までの距離rの2乗に反比例する。すなわち
     g=G・M/r2     (2.21)
である。地球の半径をR、地球上の重力をg0とすれば、地表から高さh(h<<Rとする)の地点における重力gは、式(2.21)をhについてテーラー展開して(h/R)2以上の高次の項を省略して
     g=g0−2g0・h/R     (2.22)
と求められる。g0とRに実際の値を用い、重力と高さの単位をそれぞれmgalとmとすれば式(2.22)は
     g0=g+0.3086 h     (2.23)
と書きかえられる。つまり、高度1m上るごとに約0.3mgal重力は小さくなる。
 式(2.23)の計算は高度hにおいて測定された重力をジオイドの上へひきなおす働きをする。この計算をフリーエア補正(free-air reduction)という。また、ジオイド上にひきなおされた重力から、標準的な重力を引いてやれば、場所による重力のちがいがわかるであろう。
     冏=g−γ+0.3086 h    (2.24)
フリーエア異常(free-air anomaly)という。
 実際に山地で重力測定するとき、山の高さについてフリーエア補正をしても、測定点とジオイドとの間には、まだ山の質量が残っていて、その引力を補正してやらなければならない。図2.7(略)において、まず重力測定点Pを通りジオイド面に平行な面を考える。もしも起伏がほとんどない高原状の地形を仮定すれば、これらの面ではさまれる厚さhの無限平板によって地形を近似してもよかろう。密度ρの無限平板による引力は2πGρhである。gをmgal、hをm単位とすれば、2πGは0.0419の値をとるので、この補正を式(2.24)に加えて
     冏=g−γ+0.3086 h−0.0419ρh     (2.25)
とする。
 18世紀の中頃、ペルーの海岸地方の重力値と高原の上の都市キトーの重力値を比較するために、ブーゲーが上記の補正をはじめて使った。彼の名を記念して、この補正をブーゲー補正(Bouguer correction)、式(2.25)をブーゲー異常(Bouguer anomaly)という。
 急な地形では無限平板に置き換える近似だけでは不足である。実際の地形と無限平板との差についての補正をする必要がある。そのためには、地形図を正方形の網の目でおおい、その網の目における地形の高さを読みとって、コンピューターのデータとしてあらかじめ用意しておかなくてはならない。地形はそれぞれの網の目の上に立つ四角柱で分割され、すべての四角柱の影響を加え合わせて地形補正(terrain correction)をする。地形の密度を1として計算した地形補正をTとすれば式(2.25)は
     冏=g−γ+0.3086 h−0.0419ρh+ρT     (2.26)
となる。Tは常に正の値をとる。地形補正は高い山では数十mgalになることもある。
 広い範囲を重力測定する場合、ブーゲーと地形補正の密度として、平均的な花崗岩の密度2.67g/cm3を採用する。物理探査のように狭い範囲を取り扱う場合には、ρの値をいろいろ変えてブーゲー異常図をつくり、地形との相関が最も小さいようなブーゲー異常図を採用する。あるいは、i番目の測定点におけるブーゲー異常を冏iとして、這冏i2を最小にするようにρを選ぶ。このようにして求められたρは、東北日本ではだいたい2.2〜2.5g/cm3、西南日本では九州地方を除いて2.5〜2.8g/cm3程度である。
 海上におけるブーゲー補正は、海水を除去して、そこを地殻で埋めたと考えればよいので、海の深さをDとして、2πGD(ρ−ρw)となる。ここに、ρwは海水の密度である。しかし、多くの場合、ブーゲー異常が海底地形に似た正の大きな値をとるので、海上重力測定ではブーゲー異常を用いず、フリーエア異常を用いる。』

2.3.4 アイソスタシー
 ヒマラヤ山脈のような大きな山脈があれば、ジオイドは山脈の質量によってもり上がる。したがって、垂直線偏差は山脈から外へ向うはずである。しかし、1850年頃、インドで測定された垂直線偏差の結果はまったくその予想を裏切った。垂直線偏差にはヒマラヤ山脈の影響がほとんど現われなかったのである。
 エアリー(G. Airy, 1801-1892)はこの測定結果を次のように解釈した。海水に浮かぶ氷山の海上に現われている部分は小さくても大きい根をもち、それは浮力によってつり合っている。ちょうど氷山と同じように、山も深い根をもっている。この関係を式で表わせば次のようである。
 図2.12(略)において、つり合いの条件は
     ρ1(h1+h2)=ρ2h2     (2.38)
である。かりに、ρ1=2.7g/cm3、ρ2=3.0g/cm3とすれば、高さh1の山の根の深さは、その9倍にも達することがわかる。
 これに対して、山は高さによって場所ごとに違った密度の岩石で構成されるとする考え方もあった。いずれの説に従うにしても、地殻はマントルの上に浮いているのであり、浮力によってつり合っている。この状態をアイソスタシー(isostasy)という。
 アイソスタシーが成立するといっても、ヒマラヤ山脈のような大山脈全体について成立するのであって、一つ一つの山について成立するわけではない。地震波の伝ぱんや爆破による人工地震によって、海洋とか大陸とか、大規模な構造には、アイソスタシーがよく成り立っていることが知られている。しかし、弧状列島、海溝、海嶺、海洋中に孤立した島などの小さい構造には、アイソスタシーが成り立たないことも事実である。
 アイソスタシーが成立すると、ブーゲー異常と山の高さとの間には
     冏=a−bh     (2.39)
のような関係がある。およそ、a=0〜100mgal、b=0.1mgal/m程度である。高い山地でブーゲー異常が負になることは、下に密度の小さい物質があることの証拠であり、アイソスタシーを暗示している。ブーゲー異常からアイソスタシーの傾向を引き去ったものをアイソスタシー異常(isostatic anomaly)といい、アイソスタシーからのずれ、つまり地殻の不均衡を表わす量とされる。』



戻る