力武・萩原(1976)による〔『物理地学』(6-9pから)〕


1.2.3 ジオイドと地球楕円体
 地球の表面はなめらかな楕円体ではない。8kmをこえる高い山もあれば、10kmより深い海溝もある。山の高さや海の深さはいったいどの面を基準にしてきめられるものであろうか。この基準になる面の形を求めることは「地球の形」をきめる最も基本的な問題である。
 液体の中に空気の泡を入れたレベル(level)を用いて、われわれは水平面をきめることができる。地表上の各地できめられた水平面は、一般にそれぞれの高さが違うので、つなぎ合わせることはできないが、もしも世界中をおおう平均的な海水面を考えれば、それはつなぎ合わさった水平面といってよいであろう。実際の海水面は、潮汐や波、海流、風、あるいは水温や塩分の違いなどにより、一定とはいえないが、長い年月の平均をとれば、回転楕円体に近い一つの曲面を定めることができる。このような面を平均海水面(mean sea-level)という。陸地ではこの面を内陸に延長したものを想定する。いいかえれば、陸地に細い運河を掘って、海水を導いたと考えればよい。このような面をジオイド(geoid)とよぶ。当然のことながら、大洋の部分ではジオイドは平均海水面と一致している。
 ジオイドはその性質上重力の方向、つまり、鉛直線(plumbline)に垂直である。たとえば、浅い地表の下になにか重い物質が埋まっていたとしよう。すると図1.4(略)のように、その物質の影響で重力の方向はわずかに傾くであろう。つまり、ジオイドはその物質の上でわずかにもり上がるのである。山地では、山体の質量によって、図1.4と同じような状況となり、ジオイドは一般にもり上がる。このように、ジオイドは全体としては回転楕円体に近いとはいえ、多少の凹凸をもった曲面であることが知られるのである。
 ジオイドに最もよく合うようにきめられた回転楕円体を地球楕円体(earth ellipsoid)という。地球上のいろいろな緯度のところで緯度差1゚にあたる子午線の弧長を測定し、そのデータに基づいて地球楕円体を決定する。この原理をもう少し詳しく説明するためには、回転楕円体についての幾何学を簡単に紹介しておかなければならない。
 回転楕円体を直角座標で表わすと
     (x2+y2)/a2+z2/b2=1     (1.2)
となる。ここに、aは赤道半径、bは極半径であり、一般に回転楕円体の中心Oからグリニチ子午線(Greenwich meridian)と赤道との交点の方向にx軸を、東経90゚の赤道の方向にy軸を、北極に向けてz軸をとるのが習わしとなっている。
 式(1.2)を球座標によって表わしてみよう。図1.5(略)のように、回転楕円体上の1点Pの位置をOP(注:下線は原著では上)=r、地心緯度(geocentric latitude)ψ、および経度λで表わすと
     x=r cosψcosλ
     y=r cosψsinλ     (1.3)
     z=r sinψ
となる。
 測地学にとっては、地心緯度のかわりに地理緯度(geographical latitude)を用いるほうが都合がよい場合が多い(図1.5参照:略)。地理緯度をΦとすると、式(1.3)にかわって
     x=N cosΦcosλ
     y=N cosΦsinλ     (1.4)
     z=(b2/a2)N sinΦ
となる。ここに
     N=a2/(a2・cos2Φ+b2・sin2Φ)1/2     (1.5)
である。また、Φとψとの間には
     tanψ=(1−e2)tanΦ     (1.6)
の関係がある。ここに
     e2=(a2−b2)/a2=f(2−f)     (1.7)
離心率(eccentricity)とよばれる量である。
 式(1.3)および(1.6)を(1.2)に代入して、fに関するべき級数に展開すると
     r=a{1−f sin2Φ+5/8・f2・sin2(2Φ)+O(f2)}     (1.8)
となる。これは回転楕円体を球座標で表わした式にほかならない。
 fは小さい量であるので、式(1.8)において、f2あるいはf3より高次の項を省略することもできる。そのときの幾何学的図形は近似的に回転楕円体であるが、厳密には両者の間にわずかな差がある。そこで、これらを区別して、高次の項を省略したものをスフェロイド(spheroid)とよぶ。よく楕円体とスフェロイドとを混同して用いている教科書を見かけるが、測地学の基準となる面は楕円体であってスフェロイドではない。
 さて、回転楕円体の面上の線分をdsとし、これに対する緯度差をdΦとする。そこで、式(1.4)と(1.5)より
     δs/δΦ={(δx/δΦ)2+(δy/δΦ)2+(δz/δΦ)21/2
           =a2・b2/(a2・cos2Φ+b2・sin2Φ)3/2      (1.9)
となる。この式は地球楕円体を決定するために重要な式である。地球上のいろいろな緯度のところで緯度差1゚の子午線の弧長が測定してあれば、それぞれのΦに対して式(1.9)の左辺が既知となる。そこで、式(1.9)を用いた最小自乗法によって、aおよび(bにかわって)e2あるいはfを定めることができる。
 19世紀に入ってから、三角測量の網はヨーロッパ諸国に広げられ、これらの測量の結果に基づいて地球楕円体が求められた。その例を表1.2に与える。この表にみるように、地球楕円体の大きさは、データの分布する範囲や密度によって食い違いがある。各国がばらばらに適当な楕円体を採用したのでは不便であるので、国際的に統一した楕円体を用いようという動きが起こった。1924年、マドリッドで開かれた第2回IUGG(International Union of Geodesy and Geophysics:国際測地学および地球物理学連合)総会において、ヘイフォード楕円体(Hayford's ellipsoid)を国際楕円体(International Ellipsoid)として採用することに決定し、各国にこの楕円体を測量の基準として採用するように勧告した。
表1.2 子午線の弧長より求められた地球楕円体
著者 年代 赤道半径(a)[m] 扁平率(1/f)
ベッセル
クラーク
ヘルマート
ヘイフォード
クラソフスキー

1841
1880
1907
1909
1943

6377397
6378249
6378200
6378388
6378245

299.2
293.47
298.3
297.0
298.3

 各国の測量の結果はすべてこの国際楕円体の上に投影されるべきであるが、実のところ採用された楕円体は国によってまちまちである。ひとたび、国の測量基準を定めてしまうと、新しい基準に改めることはなかなか困難である。日本、ドイツ、フランスではベッセル楕円体で、イギリスやアメリカではクラーク楕円体を採用している。国際楕円体はおもに新興諸国で採用されることとなった。やがて、ソ連における長距離の弧長測量と重力測量から、1943年にはクラソフスキー楕円体(Krassoesky's ellipsoid)が提唱され、ソ連をはじめ東欧諸国はこの楕円体を採用した。
 1957年の人工衛星の出現以来、その軌道解析の結果から重力ポテンシャルが求められるようになると、国際楕円体も適当でないことが明らかになり、ついに改訂されなければならない運命になった。今日では測地基準系1967(Geodetic Reference System 1967)を経て、あらたに測地基準系1980として
     a=6,378,137 m、f=1/298.257
が採用されている。この基準系については2章でふたたび述べることにする。』



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