『−1− 地球の内部構造
地震波の伝播と地球の構造
地球の内部構造を探るための最も質のよい情報は、地震の観測から得られる。ある地点で地震が発生すると、そのまわりに地震波が伝播していく。地表におかれた各観測点には、震源からの距離に応じて、一定の時間後に地震波が到達する。様々な観測点における地震波の到達時間を、距離に対してプロットしたものが走時曲線である。図1.1(略)に、走時曲線の概要を、地球の内部構造と対比して示す。ここで、距離は、震源と観測点を地球の中心から見込む角度(各距離)で表わしている。地震波の伝わる速度は、深さの関数としてほぼ決まるので、球対称の地球を考える。地震波には、観測点に最初に到達するP波と、遅れて到達するS波があるが、ここには、P波の走時曲線をあげる。
観測された走時曲線を用いて、地震波速度の深さ分布が計算できる。代表的な2つのモデルを図1.2(略)に示す。図1.1に示した走時曲線のとびと重なりは地震波速度の不連続な変化を反映している。このことから地震波速度は、どの深さでもなだらかに変化しているわけではなく、いくつかの不連続を含んでいることがわかる。これらの不連続面を境にして、地球内部は、4つの大きな区画、すなわち地殻、マントル、外核、内核に区分される。さらにA〜Gの7層に細分化することもできる。地球の内部構造を模式的に図1.3(略)に示す。
内核と外核
図1.2で、マントルの底、2900kmより深い部分では、S波のデータが欠けている。弾性論によれば、P波は縦波、S波は横波であり、S波は、媒質が固体の場合にだけ存在する。そこで、図1.2は、外核が液体であることを示している。外核は、硫黄やニッケルなどを少量含む鉄が融解してできたものと考えられている。この外核内部の流体運動で、地球の磁場を説明することもできる。いっぽう内核の方は外核とほぼ同じ成分をもつ固体であると考えられる。いいかえれば、地球内部の温度分布は、外核と内核の境で、融点と交差する。内核のS波速度は、外核の存在のために正確に決めるのが難しい。
マントル
地球の体積の80%以上は、マントルによってしめられている。マントルは、珪酸塩鉱物や金属の酸化物で構成されると考えられている。これらの物質の融点は鉄よりずっと高いので、マントルは、固体であって、S波が伝播する。ただし、マントル上部には、低融点成分がとけ出して、少量の溶解相ができている部分もある。それが寄せ集まって、火成活動のマグマの源にもなる。マントルは、地震波速度の急増するC層(遷移層)を境にして、B層(上部マントル)とD層(下部マントル)に分かれる。C層の速度の急増は、20゚不連続面とよばれる走時曲線の折れ曲がりと対応している。後に、図1.5(略)で示すように、この速度の急増は、密度の急増をともなっている。
地表で採取される鉱物の内、マントルに存在すると思われるものに、カンラン石、輝石、ザクロ石などがある。そこで、マントルB層は、主として、このような鉱物から構成されていると考えられる。そこに含まれる主要な元素は、酸素、珪素、マグネシウムと鉄である。一方、室内実験により、カンラン石や輝石に高圧力をかけ加熱すると、ある圧力以上で密度の高い別の構造をもつ結晶に順番に変化していく。そこで、C層における地震波速度の急増は、このような相転移に対応しておこると考えられる(図8.1参照:略)。圧力をふやしていって、カンラン石や輝石が最終的にたどり着くのは、酸化物の結晶とペロブスカイト構造をもつ結晶の混合物である。したがって、これが、D層を構成する物質と考えられる。このようなマントルの物質構成は、図1.2の地震波速度の分布をうまく説明する。B層とD層の内部における速度の微増は、主として、圧力が増加するためにおこる。C層の速度が急増するのは、この圧力効果に、相変化の効果が重なるためである。
地殻
固体地球の一番外側を形成するのが地殻である。地殻の厚さ、地震波速度には、地域性があるので、図1.2には、地殻の速度はかきこまれていない。地殻とマントルの間には、地震波速度に段差があり、走時曲線の上でも明確な折れ曲がりができる。そこで、地殻とマントルの速度の不連続は、古くからモホロビチッチ面(略してモホ面)として知られていた。
図1.4に示すように、地殻の構造は、大陸と海洋の間で画然とした差異をもつ。大陸地殻に対しては、代表的な厚さとして、30kmが仮定されることが多いが、それよりかなり厚い地殻も、かなり薄い地殻も存在する。大陸地殻の内部は、カコウ岩質の岩石からなる上層と、玄武岩質の岩石からなる下層で構成されると単純化できる。しかし、どこでも2層に分かれるとは限らず、さらに多層構造が考えられる場所もある。いっぽう海洋地殻の厚さは、大部分の地域で6〜7kmである。海洋地殻の内部には、玄武岩質の火成岩と堆積物とのちがいや、海水による変質の度合により、場所によって、明瞭な多層構造をとる。構成元素の立場から見ると、地殻は、マントルより、Siを多く含み、Ca、Al、アルカリ金属などが多く、代りに、Mgが少ない。
大陸 | 海洋 | ||||
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30km ↓ |
(6km/s) |
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(7km/s) |
7km ↓ |
(プレート) |
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(7km/s) |
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(8km/s) |
↑ 80km ↓ |
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↑ 120km ↓ |
(8km/s) |
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(7.8km/s) |
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(7.8km/s) |