鹿園(1992)による〔『地球システム科学入門』(38-42p)から〕


目次

(b)炭素サイクル
 地球表層部付近でのさまざまな物質の循環のなかでも水とともに炭素について考えることは重要である。それは、@地球温暖化にとって二酸化炭素が本質的な役割を演ずる、A炭素は地球の大気、海水、生命の起源にとって欠かせない元素である、および、B他の元素(たとえば、硫黄、酸素など)の循環に大きな影響を与える、という理由による。この炭素サイクルを考えるためには、はじめに各リザーバー(サブシステム)中に含まれている炭素の量を知る必要がある(表2-12)。また各リザーバー間の炭素の移行率は本質的に重要であるのでそれらも表2-13にまとめた。炭素の各リザーバー中での存在状態は異なっている。それらは、大気圏:二酸化炭素、生物圏:有機化合物、海洋:炭酸イオン、岩石圏:炭酸塩、炭素などである。
表2-12 主なリザーバー中に含まれる炭素量(1015g)(H.D.ホランド著/山県 登訳、1978:大気・河川・海洋の化学、産業図書)
1 気圏
2 陸の生物圏
3 陸の死んだ有機物
4 海の生物圏
5 海の死んだ有機物
6 海水中に溶解
7 岩石圏の再循環した元素状炭素
8 岩石圏の再循環した炭酸塩中の炭素
9 初生炭素

690
450
700
7
3,000
40,000
20,000,000
70,000,000
90,000,000


表2-13 リザーバー間の炭素移行率(ホランド、1978:前出)

リザーバー間の移行

プロセス

移行率
(1015g/年)
から
1
2
1
4
2
4
3
5
7
8
7
6
1
8
6
7,8,9
2
1
4
1
3
5
1
1
1
1
1
7
6
6
8
1
陸の純光合成
陸の有機物の速い分解
海の純光合成
海の有機物の速い分解
陸の死んだ有機物の蓄積
海の死んだ有機物の蓄積
陸の死んだ有機物の分解
海の死んだ有機物の分解
化石燃料の燃焼
セメント工業
元素状炭素の酸化
元素状炭素の堆積
炭酸塩への正味の流量
炭酸塩の風化
炭酸塩の堆積
変成、火山作用による脱ガス

48
23
35
5
25
30
25
30
4.2
0.7
0.09±0.02
0.12±0.03
0.06±0.04
0.16±0.04
0.22±0.04
0.09±0.03
リザーバーの番号は表2-12と同じ。
 各リザーバー間での炭素の移行の主な反応として次のものがあげられる。(1)光合成反応、(2)有機物の酸化反応、(3)鉱物−水溶液反応。(1)、(2)、(3)は、たとえば、以下の反応として表される。
 (1) CO2+2H2O→CH4+2O2     (2-1)
 (2) CH4+2O2→CO2+2H2O     (2-2)
    CaCO3(方解石)+2H+→Ca2++CO2+H2O     (2-3)
 (3) CaCO3(方解石)+CO2+Mg2++H2O→CaMg(CO3)2(ドロマイト)+2H+     (2-4)
注:上記(2-1)と(2-2)式は誤植と思われる(CO2+H2O→CH2O+O2、CH2O+O2→CO2+H2O)。また、(2-3)は(3)の例か。
式(2-3)、(2-4)の反応が化学平衡に達することは普通はない。しかし、式(2-3)、(2-4)については地質学的時間スケールで考えると化学平衡からはあまりはずれていない。このほかに鉱物−水溶液反応として、
    Mg3Si4O10(OH)2(滑石)+3CaCO3(方解石)+3CO2
     =3CaMg(CO3)2(ドロマイト)+4SiO2(石英)+H2O     (2-5)
という反応も重要である。25℃で式(2-5)の反応の化学平衡の二酸化炭素分圧(PCO2)は約10-4(気圧)であり、これは現在の大気中の二酸化炭素の分圧と似ている。この二酸化炭素の分圧は上の反応式(2-4)から明らかなように、マグネシウムイオン濃度にも関係している。このマグネシウムは海嶺で海水が地下にもぐり海水からとられるので、大気中の二酸化炭素の分圧は海底下での海水・熱水の動きともからむ。この熱水の循環は地球内部からの熱によりもたらされるので、大気中の二酸化炭素の分圧は地球内部からの熱の供給具合にも関係しているといえる。
 表2-12に示したように岩石圏中の炭素量は、気圏、生物圏、海洋中の炭素量に比べて圧倒的に多い。量的には多いが、岩石圏から他のサブシステムへの移行率や移行速度はたいへん小さい。一般的に無機的な反応は生物がからむ反応や有機物が分解する反応よりもたいへん速度が遅い。海水や大気圏に移行するうちの大部分の炭素は陸や海の有機物の分解による。この有機物の分解は83×1015g/年、石炭・石油の燃焼による炭素量は4.2×1015g/年と見積られている(表2-13)。したがって、人間活動による二酸化炭素の放出量は有機物の分解による量の1/20くらいである。このようにして大気や海水に移行した炭素は生物の働きにより生物圏に移行する。岩石圏からは、熱水、火山ガス、風化、続成、変成作用などにより水圏、大気圏へ炭素が移行する。これらの移動量を図2-13(略)にまとめた。このように炭素は地球表層部付近で各サブシステム間で絶え間なく循環をしているといえる。そしてその環境に応じて異なった存在状態をとるのである。
 この炭素サイクルは酸素サイクルや硫黄サイクルとも関係している。このことは以下の反応を考えれば明らかである。
    CH4+2O2=CO2+2H2O     (2-6)
    H2S+O2=SO2+H2O     (2-7)
式(2-6)の反応より、炭素サイクルは酸素サイクルと関係していることがわかり、式(2-7)より硫黄サイクルと酸素サイクルが関係していることがわかる。よって式(2-6)、(2-7)より硫黄サイクルと炭素サイクルが関係することも明らかである。図2-14(略)には炭素−酸素サイクルの模式図を示した。』



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