鹿園(1997)による〔『地球システムの化学』(220-222p)から〕


目次

6-3 硫黄(S)サイクル
 Sは蒸発岩(5×10^21g)、堆積物(主に頁岩、2.7×10^21g)、変成岩、火成岩(7×10^21g)中に多い。海水(1.3×10^21g)や大気(3.6×10^12g)などの流体中のS量は、これら岩石中のS量より圧倒的に少ない。海水中のS量は、淡水や大気中のS量に比べると多い。Sは蒸発岩中では硫酸塩(CaSO4、CaSO4・2H2O、MgSO4など)、堆積物中では黄鉄鉱(FeS2)、石膏(CaSO4・2H2O)、有機硫黄化合物、海水中では硫酸イオン(SO42-、NaSO4-、KSO4-)、大気中ではSO2、H2Sなどとして存在している。

6-3-1 短期的サイクル
 大気中ではS(SO2、H2S、有機硫黄化合物(硫化ジメチルDMS、(CH3)2S、二硫化炭素CS2、硫化カルボニルCOS)はすぐ酸化したり、雨水により除かれるので、大気中でのSの滞留時間は短い。SO2はH2SO3さらにH2SO4や硫酸ミストとなり、酸性雨として大気から除かれる。このSの短期的サイクルに対しては微生物の働きが特に重要である。たとえば、植物プランクトンにより生成されるDMSが海洋から大気へ移行する(Lovelock et al., 1972)。このSの移行率は4±2×10^13g/yである。土壌中ではバクテリア活動が酸化還元反応を促進し、土壌−水間のSの移行速度に大きく影響を与える。たとえば、硫酸還元バクテリアと酸化硫黄バクテリアは、以下の反応の促進をする。
   SO42-+2H+→H2S+2O2     (6-45)
   H2S+2O2→SO42-+2H+     (6-46)
上の反応によって、pHが小さくなると、他の元素の岩石、土壌からの溶解が促進される。

6-3-2 長期的サイクル
 Sサイクルの各リザーバー間の移行を図113(略)に示す。Sの長期的サイクル(Holser and Kaplan, 1966; Holland, 1978; Lasaga, 1981a)を支配するプロセスとして重要なのは、海洋からのS化合物(黄鉄鉱、蒸発岩中の硫酸塩)の生成、陸上での硫化物の酸化、硫酸塩の溶解生成、プレートの沈み込み、マントル、地殻からの火山ガス、熱水の噴出、海洋地殻の熱水変質などの岩石−流体間のSの移行である。このさいにSの同位体分別が生じる。また、各リザーバー中のS量も変化する。以上のフラックスの変化により、過去の地質時代において、海水や鉱床の硫黄同位体組成(δ34S〔注:数字はSの左肩に書かれる〕)が変化してきた(図115:略)。この海水のδ34Sの変化は各時代の蒸発岩のδ34Sより求めることができる。この海水のδ34Sは主に海水からの黄鉄鉱の生成、蒸発岩の生成、熱水の噴出、河川の流入によって決められる。たとえば、バクテリアの働きで黄鉄鉱が生成され、軽い硫黄が取られると海水のδ34Sは大きくなる。熱水の噴出で軽いS(δ34S=+数‰)が海水に供給されると海水のδ34Sは小さい値になる。』



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