授業科目『陸域環境学II』
本授業科目について
本授業科目は「地下資源(とりわけエネルギー資源)の現在の利用状況を把握するために必要な情報や、さらには資源枯渇問題や地球環境問題に対処する方法を考えるうえで必要な情報について、その入手のしかたから利用のしかたまでを理解する」ことを目標にしています。
『新・エネルギーデータの読み方 使い方』(1994)の内容に沿って、インターネット入手資料や参考資料も併用し、講義を行ないます。
『エネルギー資源』のページの『リンク』に、エネルギー資源関係のホームページを集めています。また、『文献(おもに図書)』は私の手持ちの市販本リストです。広島大学附属図書館に無いものは、お貸ししますのでご連絡ください。また、『資源一般』、『原子力エネルギー』、『鉱物資源』などのページも見てください。
配布プリント|補足説明
- レポートについての注意
メールにより提出してください。このさい、初めてメールを使う人は、確実にメールが相手に届くようにメーラー設定を行った後、レポートを送ってください。とくに、『文字化け』には注意してください。テキストファイルが無難です。
私がメールを受けとった時には、その旨の返事を送信しますので、確認してください。これが送られない場合は、文字化け等で私が確認できなかったことを意味します。したがって、レポートを提出しなかったことになりますので、注意してください。
第1回(4/18) なし
第2回(4/25)
『新・エネルギーデータの読み方 使い方』(1-31p、194-197p)
プリント2枚〔『EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2000年版)』(309-312p)、『総合エネルギー統計(平成10年度版)』(428-430p)、『エネルギーの工学と資源』(3,7p)、『エネルギー変換(増補版)−パワーエネルギーからエネルギーセンサーまで−』(6,8,9p)〕
第3回(5/2)
『新・エネルギーデータの読み方 使い方』(32-95p)
プリント(2枚)『エネルギー2000』(10-13p)
プリント(3枚)『総合エネルギー統計(平成10年度版)』(266-271p)
プリント(5枚)『世界の資源と環境1998-99』(332-341p)
第4回(5/9)
プリント(9枚)『エネルギー2000』(48-64p)
プリント(1枚)『エネルギー2000』(222-223p)
第5回(5/16)
プリント(4枚)『エネルギー2000』(14-21p)
プリント(4枚)『エネルギー2000』(98-105p)
プリント(2枚)『エネルギー2000』(184-187p)
プリント(4枚)『BP Amoco Statistical Review of World Energy 1999』(Primary
energy:37-40p)
プリント(3枚)『米国エネルギー省エネルギー情報局』(世界一次エネルギー生産量)
第6回(5/23)
プリント(1枚)『総合エネルギー統計(平成11年度版)』(390-391p)
プリント(4枚)『マルチ石油学入門』(99-105p)
プリント(2枚)『1999/2000 資源エネルギー年鑑』(246-249p)
プリント(9枚)『石油はいつなくなるのか』(54-59,6671,76-77,86-87,96-97p)
プリント(3枚)『Oil Market Report』(11
April 2000の43,52,53p)
プリント(1枚)『International Petroleum
Encyclopedia 1996』(85p)
プリント(1枚)『ECCJ(英語ページ)のEnergy
Conservation Handbook, International Oil Situation』(12.3
Changes in crude oil spot prices)
第7回(5/30)
『新・エネルギーデータの読み方 使い方』(96-147p)
プリント(5枚)『BP Amoco Statistical Review of World Energy 1999』(Oil:7,10,12,14,15p)
プリント(3枚)『BP Amoco Statistical Review of World Energy 1999』(Natural
gas:22,25,28p)
プリント(4枚)『石油地質学概論−第二版−』(1-6p)
プリント(6枚)『有機工業化学−第2版−』(20-25,50-51,105-106p)
プリント(2枚)『化学系実験の基礎と心得』(84-87p)
第8回(6/6)
プリント(6枚)『EIA/International
Energy Annual 1998』(85-87,91-93p)
プリント(2枚)『BP Amoco Statistical Review of World Energy 1999』(Coal:32,33p)
プリント(1枚)『エネルギー2000』(260-261p)
プリント(3枚)『エネルギー2000』(114-115,120-121,248-249p)
プリント(2枚)『エネルギー2000』(254-257p)
プリント(3枚)『エネルギー2000』(158-163p)
第9回(6/13)
『新・エネルギーデータの読み方 使い方』(148-192p)
プリント(7枚)『原子力市民年鑑 2000』(64-65,70-73,178-179,190-191,276-277,302-303p)
プリント(4枚)『1999/2000 資源エネルギー年鑑』(445-451p)
プリント(5枚)『電気事業連合会の原子力図面集』(32-34,95,158p)
第10回(6/20)
プリント(3枚)『原子力市民年鑑 2000』(244-248p)
プリント(1枚)『電気事業連合会』(『料金制度』の『2.電気料金改定の概要』の『改訂の内容』)
プリント(1枚)『EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2000年版)』(42-48p)
プリント(1枚)『EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2000年版)』(66-73p)
第11回(6/27)
プリント(5枚)『1999/2000 資源エネルギー年鑑』(642-651p)
プリント(1枚)『通商産業省工業技術院のニューサンシャインプログラム』
プリント(1枚)『エネルギー2000』(188-189p)
プリント(3枚)『石油連盟の石油データ編の石油と税金』
プリント(4枚)『図説 日本の財政(平成11年度版)』(233-238p)
プリント(3枚)『日本の統計 2000年版』(204-209p)
第12回(7/4)
プリント(7枚)『エネルギー2000』(31-43p)
プリント(5枚)『IPCC地球温暖化第二次レポート』(4-9,48-51p)
プリント(17枚)『地球温暖化と日本』(1-3,37-40,105-109,137-139,173-176,215-216,227-229p)
第13回(7/11)
プリント(2枚)『Energy Studies』(28-31p)
プリント(5枚)『環境年表 2000/2001』(526-531,552-555p)
第14回(7/18)
プリント(1枚)『産業のバイオリズム』(付表)
プリント(12枚)『エネルギー活用事典』(524-547p)
第3回|第4回|第5回|第7回|第9回|第10回
第3回(5/2)
- 世界資源研究所(World
Resources Institute、World
Resources 1998-99)(『世界の資源と環境1998-99』から引用、355p)
『世界資源研究所(WRI)は、地球の環境と開発の問題に関する政策研究と技術的支援を行う独立した機関である。WRIの使命は、現在そして将来の世代がニーズを満たし希望をかなえながら暮らせる環境を守れるような生活様式へと人間社会を移行させていくことである。人々は新しい考え方に触れて目覚め、知識によって力を得、理解の深まりの中で変革に向かって動き出すものである。そのため、WRIは客観的情報と現実に即した提案を提供し−そして他機関がそうすることを支援し−環境を損なわずに社会的に公正な発展を育む政策と制度的変革の実現を目指している。
WRIが特に関心をもつのは、地球全体にかかわる重要な環境問題であり、またその環境問題が、経済開発とすべてのレベルでの社会的公正さとの間にどのような相互作用をもっているかという問題である。その焦点となるのは、これまでの人間活動による重荷が積み重なった結果、本来バランスのとれていた環境の仕組みが崩れかけているグローバル・コモンズである。また、世界最大の規模で生産・消費をし、汚染を発生させているうえ、多くの国々の動向を左右する存在である米国の政策も焦点の1つである。さらに、自然環境の荒廃が開発の展望をあやうくする、貧困と飢餓の階層を膨張させている開発途上国の問題にも重点をおいている。
その政策研究及び他機関との共同作業のすべてにおいて、WRIは知識と行動の間に橋を架け、開かれた参加型の意思決定に向けて、科学的研究と経済・制度分析、そして実際の経験から得られた識見が活かされるように努めている。この目的のため、WRIは政策を研究し、情報を収集してこれを普及し、体制を強化し、技術的能力を高め、政府や民間部門の意思決定者、NGO、教育者に情報を提供している。WRIの活動はさまざまだが、どれもすべて同じ方向を目指している。つまり、持続可能性への道を阻む障害を分析し、それを乗り越える方法を提言し、その提言が深く理解されて確実に実行されるよう活動しているのである。
WRIの研究は、社会科学・自然科学分野に専門知識をもつ約120人の学際的スタッフで行い、さらに50か国を超える国々の助言者、研究協力者、国際研究員、パートナー機関などのネットワークによって強化されている。WRIは独立した非営利団体で、民間助成財団、政府機関及び国際政府間機関、民間企業、関心ある個人から資金援助を受けている。』
- 国連環境計画(United Nations Environment
Programme)(『世界の資源と環境1998-99』から引用、356p)
『国連環境計画(UNEP)は1972年に設立され、国連総会から広範にわたる困難だが重要な任務を与えられた。すなわち、環境保全のための行動を活発化させ、調整し、政策指針を示すことである。UNEP創設のそもそものきっかけとなったのは、先進諸国で環境汚染に反対する、主として民間団体による活発なロビー活動であった。汚染問題に対するUNEPの取組みは現在もなお続いている。しかし環境問題への認識が深まり、再生可能な自然資源の浪費や誤った利用が生み出す問題まで含めて考えられるようになるにつれ、設立後早い時期から、環境に健全な持続可能な開発を推進していくことにUNEPの目的の重点がおかれるようになった。
ケニアのナイロビに世界本部をおき、世界各地にの7つの地域事務所、連絡事務所をもつUNEPは、約280人の科学者、法律家、事務官、情報処理専門家からなるスタッフが計画を実行する。計画は理事58か国の代表で構成する管理理事会で策定し、2年ごとに見直される。理事国は時期をずらした4年の任期で、国連総会で選出される。
UNEPの使命は、各国及び人々の意識を高め、情報を提供し、力を与えることによって、将来世代の生活の質を損なうことなく現在のそれを高められるよう環境保全活動を先導し、またパートナーシップを育むことである。すなわち、UNEPの活動は、主要な環境問題に関する行動を活発化し、評価結果を応用して健全な環境管理を国レベル、国際レベルで促進し、これらの活動と知見を広く科学者から政策決定者、産業経営者、そして学生・生徒に至るまで幅広く周知させることである。UNEPの計画は多数の国連機関、各国政府、政府間組織、非政府組織、専門機関の協力のもとに運営されている。
近年、UNEPは地域の活動の強化と、より総合されたアプローチに力を入れている。その活動は現在5つの分野に分けられる。自然資源の持続可能な管理と利用、持続可能な生産と消費、人間の健康と福祉にとってよりよい環境、グローバリゼーションと環境、世界的・地域的サービスと支援である。計画の実施は、計画、環境情報と評価、政策・政府諸機関間組織と対外関係の3つの部門を通じて実施される。
環境情報と評価の部門では、幅広い分野のパートナーと共同で次の活動を行っている。世界の環境状態の継続的見直しと報告、環境への脅威についての早期警告、政府関連評価にふさわしい共通の方法及びツールの開発、環境に関する意思決定のための情報アクセスの改善、途上国の情報利用能力の強化。』
- 国連開発計画(United Nations Development
Programme)(『世界の資源と環境1998-99』から引用、357p)
『国連開発計画(UNDP)は134か国に配した事務所を独自のネットワークで結び、世界174の国や地域の人々に協力して、貧困の撲滅、環境の再生、雇用の創出、女性の地位の向上に取り組んでいる。このような活動を展開しているUNDPには、健全な政治体制の整備や市場開発、また戦争や人道的危機後の社会の再構築といった面での支援も要請される。
UNDPの重要な使命は、国々が貧困の撲滅と公正の確立を最優先しつつ、持続可能な人間開発を達成するための能力を強化するのを支援することにある。
各種プロジェクトの実施においては、専門知識をもった開発途上国やNGOの人々、国連の各専門部局、各分野の研究機関から人員を動員する。UNDPの全スタッフの85%は支援を必要としている国々に配置されている。
1996年には主要なものからそうではないものまでを含め総額20億米ドルを超える資金がUNDPに寄せられた。UNDPへの資金の拠出は任意であるが、世界のほぼすべての国が拠出している。さらに、援助を受ける側の国の政府がプロジェクトにかかる総費用の半分以上を人材派遣、施設、機械、機器の提供を通して負担していることも重要な点である。
UNDPは年間お1人当たりGNPが750米ドル以下の国々で、主要なプロジェクト向け資金の87%を費やしている。世界の最貧困層に属する人々の90%がこれらの国々で暮らしているのである。
UNDPが1990年より毎年発行し、どこにも属さないコンサルタントチームが草案をまとめている「人間開発報告書」は、より人間志向の開発を進めるための、新しく、現実的で、合理的な概念、方法、政策手段を国際社会が形成するのに役立っている。
UNDPの1997〜2000年にかけてのプロジェクト計画では環境がその主要テーマの1つとなっている。この期間に実施されることが承認されているほぼすべての国別プロジェクトに環境関連目標が含まれており、環境に与える影響という観点からあらゆる活動がチェックされる。持続可能な開発と自然資源管理に関する能力強化を図る諸プロジェクトは、食料の安全保障、森林、水資源、エネルギー、都市開発に関する取組みからの支援を受けている。
世界銀行と国連環境計画(UNEP)とともに、UNDPは地球環境ファシリティ(GEF)の管理組織の1つである。20億米ドルを財源とするGEFは、オゾン層の破壊、地球温暖化、生物多様性の消失、海洋汚染といった地球的規模の問題に対して各国が行動を起こすのを支援するための基金である。UNDPはさらに、HIV/AIDSに対する地球的規模のプロジェクトのスポンサーとなっている国連の6機関の1つでもある。』
- 世界銀行(The World Bank
Group)(『世界の資源と環境1998-99』から引用、358p)
『世界銀行グループは市場の開放と経済の強化を支援する。その目標は世界中のすべての地域の人々、特に世界で最も貧しい人々の生活の質を高め、繁栄を拡大することにある。
第一級の財務状態と世界の資本市場へのアクセスが、世界銀行の幅広い分野にわたる投資を可能にしている。その分野は、健康から教育、環境、社会基盤、政策の改革にいたる。
世界銀行グループは、次の機関により構成される。
・国際復興開発銀行(IBRD)
1944年に設立。中所得開発途上国に対する開発融資の世界最大の提供者であるとともに、他の出資者からの同様な融資の主要な促進者でもある。IBRDの資金は、主に国際資本市場からの借り入れによる。
・国際開発協会(IDA)
1960年設立。無利子の貸付を35〜40年の償還期限で行い、最貧といわれる国々を援助している。IDAは各国政府の拠出金をその資金としている。
・国際金融公社(IFC)
貸付と持ち分金融を通じ、またさまざまな助言を行うことで、開発途上国の民間企業を支援している。
・多数国間投資保証機関(MIGA)
投資家に対し、非商業的なリスクに対する保証を行い、開発途上国政府に対しては外資導入の支援をする。
・投資紛争解決国際センター(ICSID)
仲裁・調停を通じ途上国への海外投資を促進する。
世界銀行には、その54年間の歴史を通して、世界中の人々の生活の質を高め、持続可能な開発という目標を達成するという共通の目的のために、地球規模のパートナーシップが築かれ、180か国を超える国々が参加している。』
第4回(5/9)
- 経済成長率(rate of economic growth)(『有斐閣経済辞典(第3版)』から引用、293p)
『経済諸量、特に国民所得、資本ストック、国民総生産などの成長の速度である。しかし、なんらの限定も付けずに経済成長率というときには、実質国民所得または実質国民総生産の年間増加率が意味されることが多い。』
- 実質国内総生産(real gross domestic product; real GDP)(『有斐閣経済辞典(第3版)』から引用、506p)
『特定年次の価格体系を基準とし、これを不変とみなして評価替えした国内総生産(GDP)の価値額をいう。不変価格表示の国内総生産とも呼ばれる。実質国内総生産は、まず名目国内総生産を構成する各需要項目について、対応するデフレーターで割り、次にこれら実質需要項目を合計して算出される。経済成長率には、普通、実質国内総生産の増加率が用いられる。』
- GDPデフレーター(GDP deflator)(『有斐閣経済辞典(第3版)』から引用、1307p)
『国内総生産(GDP)をある特定年次(基準年次)における価格体系で評価し直すために用いられる価格指数。名目(当年価格表示の)GDPで割ることによって結果的に算出される。実際には、GDPに含まれる財・サービスを複数の構成要素に細分し、各構成要素ごとにその名目値をパーシェ物価指数で除す(デフレートする)と、構成要素の実質値合計で名目GDPを除すとGDPデフレーターが求められる。このように、結果として間接的に求められる価格指数をインプリシット・デフレーターという。』
- 実質国民総生産(real gross national product; real GNP)(『有斐閣経済辞典(第3版)』から引用、507p)
『特定時点(基準年次)の価格体系を前提にして不変価格表示した国民総生産のこと。経済活動の純成果を異年次にわたって比較するには、当該年次の価格で評価された名目国民総生産から物価変動の影響を除去する必要があり、そのために不変価格表示をする。』
- GNPデフレーター(GNP deflator)(『有斐閣経済辞典(第3版)』から引用、1308p)
『名目GNPを実質GNP除すことによって得られるGNPのデフレーターであるが、GDPと異なり、GNPには、海外からの要素所得の純受取という固有の物価指数を持たない名目フロー部分があるため、この部分を実質化する方法に選択の余地がある。日本の国民経済計算では、その部分をGDPデフレーターを使って実質化するので、結果的にGNPデフレーターとGDPデフレーターとは同じものになる。』
- エクセルギーとは(『エクセルギー工学』から引用、16-18p〔亀山秀雄〕)
『1.エクセルギー概念の誕生
一般に使われるenergy(エネルギー)は、1717年に物理学者Bernoulliがギリシャ語で“仕事”を意味するergonに“中へ”を意味する接頭語enを付けたものといわれ、“仕事をする潜在的能力”を意味している。この言葉は、エネルギー保存の法則(熱力学第一法則)といわれるように、本来の“仕事の能力”の意味とは別の意味で理解されている。すなわち、エネルギーには“熱エネルギー”、“力学的エネルギー”、“電気的エネルギー”、“化学的エネルギー”などいろいろな形態があるが、それらすべての種類のエネルギーをひとまとめにして、相互に変換しても全体として増えも減りもしないという量的意味に使用されている。たとえば、300゚C(573K)の水蒸気のもつ1kJの熱エネルギーも40゚C(313K)の温水のもつ1kJの熱エネルギーも同じ1kJのエネルギーとみなしている。したがって、水蒸気が水と接触して冷えてお湯になっても、1kJの熱エネルギーであれば、どちらも同じ熱エネルギーは保存されていることになる。ところが、仕事をする能力という本来のergonという言葉からすると、300゚Cの水蒸気はタービンで仕事を取り出せるが40゚Cのお湯では給湯に使える程度で、ほとんど仕事を取り出せない。水蒸気が冷えてお湯になれば仕事の能力が失われているというのがエネルギーを実際に扱う者の実感である。現在使用されているエネルギーの概念では、この区別ができず、工学的にエネルギーの有効利用を考える場合に不便である。もっと明確に仕事の能力を表現する概念が必要とされる。そこで、本来の仕事の能力の意味を考察する中で、エクセルギーの概念が生まれた。その歴史を文献1)〜3)から見てみることにする。
エクセルギーの概念の誕生は、最大有効仕事の研究と関係している。Sadi Carnotは、1824年に発表した「火の動力についての省察」において熱エネルギーのうち仕事に変わりうる部分に限界があることを述べている。William
Thomson(後のKelvin卿)は、1950年(ママ)に発表した「熱の原動力について」において、得られる最大仕事の概念をmotivityという語で表現した。Maxwell,J.C.は、1971年(ママ)の「熱の理論」のなかでavailable
energyという語を使用して取り出しうる仕事を議論している。1873年にGibbs,J.W.は、このavailable
energyの概念に解析的基礎を与えた。Gouyは1889年にenergie utilisableという語で最大仕事を論じ、Stodolaは、1898年にtechnishe
Nutzarbeitを流れから得られる最大仕事として定義している。Jouguetは、1907年にこの2人の考えを総合して環境の値をゼロとおくことを提案した。たとえば、平地にある環境中の水の仕事能力はゼロである。これらの、最大仕事に関する研究を踏まえて、Keenanは、1932年に1つの系から得られる最大仕事をb=h-Tosとして定めた。1951年の論文で最大仕事(availability)と実際に取り出された仕事の差は不可逆性によるもの(irreversibility)とした。そして、従来の熱から仕事への変換率を表すefficiencyに対して、最大有効仕事に対する実際の取り出す仕事の割合をeffectivenessとした。Rantは、1953年にそれまでに使われていたいろいろな最大有効仕事の表現を統一するために、ギリシャ語で“仕事”を意味するergonに“外へ”を意味する接頭語exをつけ、さらに愛称の接尾語ieを付けて、ex
erg (on) ie → exergie (エクセルギー)を提案した。そして、エネルギーは、(1)他のエネルギー形態(仕事)に変わりうる部分と(2)変わりえない部分とがあり、前者をexergie(有効エネルギー)と呼び、後者をanergie(無効エネルギー)と呼ぶとして、エネルギーとエクセルギーの関係を明確にした。すなわち、エネルギー(有効エネルギーと無効エネルギーの合計)は保存される(熱力学第一法則)が、有効エネルギーはエネルギー変換の過程で保存されず、次第に無効エネルギーに変化していく(熱力学第二法則)ことになる。文献3)の中西のまとめによれば、エネルギーとエクセルギーの特徴は次のようになる。
エネルギー:
(1) 系のパラメータにのみ依存し、外界(周囲媒体)のパラメータに依存しない。
(2) 絶対値はゼロとならない。
(3) いかなる場合も保存則に従い、消滅することはない。
エクセルギー:
(1) 系のパラメータ以外に周囲媒体のパラメータにも依存する。
(2) ゼロとなる(系が最初から周囲媒体と完全に平衡の場合)。
(3) 可逆プロセスにおいてのみ保存則に従う。現実の非可逆プロセスでは一部または全部が消滅する。
現在は、available energy、availabilityの表現は米国を中心に、Exergi(独)、exergy(英)の表現は、ヨーロッパを中心に受け継がれている。日本では、エクセルギーを利用可能度、有効エネルギーと呼ぶこともある。最近はどこでもexergy(エクセルギー)がよく使用されるようになってきた。(略)
文献
1) Haywood,R.W.: J. Mechanical Eng. Sci., 16(4), 258-267
(1974)
2) 中西重康:エクセルギーによる総合管理手法.熱管理と公害、26(10)、10-15 (1974)
3) 斉藤孝基:エネルギー利用上の熱力学的問題(1).機械の研究、30(10)、1021-1026 (1978)』
- 熱力学第1法則(first law of thermodynamics)(『岩波理化学辞典第4版』から引用、954-955p)
『巨視的現象に適用されたエネルギー保存の法則をいう。19世紀の中ごろ、J.R.マイヤー、ジュール、ヘルムホルツらの研究によって確立した。物質や場からなる系が状態1から状態2まで変化するとき、その間に外力が系になす仕事A、外界から吸収する熱量Q、および外界からの物質の流入による質量的作用量Zのそれぞれは、一般には状態変化の途中の過程によって異なる値をもつが、熱力学第1法則は、総和A+Q+Zは途中の過程にはよらず、最初と最後の状態によって定まることを主張する。この主張は、系の状態によって定まるエネルギーの存在を意味する。すなわち、状態1、2における系のエネルギーをE1、E2とすれば、
A+Q+Z=E2−E1
が成り立つ。このうちで仕事Aの形は力学、電磁気学などから知られる。質量的作用量Zの形は、たとえば系が均質な外界に接しながら微小変化をおこなうときには、系中のi種分子の数の増化(ママ)を凾mi、それに対応する外界の化学ポテンシャルをμi(e)とすると、Z=Σμi(e)儂iと定義される。したがって現象論の立場からすれば、熱力学第1法則は、微小変化に対して、完全微分dEを与える量として既知のA+Zに加えて熱量Qを定義し、同時に状態量としてのエネルギーEを定義するものともみられる。この定義の形式からみれば、エネルギーの付加定数は不定である。外力の中に系の全体としての運動だけを変える部分がある場合には、仕事Aからそれに対応する部分を取り除き、エネルギーEのかわりに内部エネルギーUを考えるのがふつうである。』
- 熱力学第2法則(second law of thermodynamics)(『岩波理化学辞典第4版』から引用、955p)
『巨視的な動的現象が一般に不可逆変化であることを主張する法則。互いに同等な種々の表現がある。クラウジウスは‘熱が高温度の物体から低温度の物体に他の何らの変化をも残さずに移動する過程は不可逆である’(クラウジウスの原理)といい、トムソン(ケルビン卿)は‘仕事が熱に変わる現象はそれ以外に何の変化もないならば不可逆である’(トムソンの原理)と述べた。また‘第2種永久機関をつくることはできない’といってもよいし、カラテオドリ(C.Caratheodory)に従って‘熱的に一様な系の任意の熱平衡状態の任意の近傍にその状態から断熱変化によっては到達できない他の状態が必ず存在する’(カラテオドリの原理)といってもよい。これらの主張は互いに同等であり、数学的にはエントロピー関数の存在と、断熱変化ではエントロピーが決して減少しないという形に定式化される。エントロピーの概念を用いれば、熱力学第2法則の内容はまた、‘孤立系のエントロピーは不可逆変化によってつねに増大する’(エントロピー増大の原理
principle of recrease of entropy)(ママ)とも表現される。』
- 熱力学第3法則(third law of thermodynamics)(『岩波理化学辞典第4版』から引用、955p)
『絶対零度におけるエントロピーに関する法則で、ネルンストの熱定理またはネルンスト-プランクの定理ともいう。ネルンストは多数の実験事実からの帰納として、同一物質の異なる相の間での転移が等温変化でおこるとき、そのエントロピーの変化を儡とすれば、絶対温度T→0の極限で儡→0になることを一般法則として主張したが(1906)、プランクはさらに進んで、熱平衡状態にある物質や場からなる系のエントロピーSの値はT=0においてつねに0となると仮定した。これは、有限回数の過程によっては絶対零度の状態に到達することはできないという形に表すこともできる。絶対零度に近づくにしたがい、比熱や膨張率が0に近づくことなどはこの法則から熱力学的に導かれる。また化学反応などの平衡定数を熱力学的に決定することもこの法則によって可能となる。
この法則は量子統計力学の立場からは当然の帰結とみなされる。すなわち、熱平衡状態にある系はT=0において基底状態にあるが、その状態の縮退度をWoとすると、この状態のエントロピーSoはボルツマンの原理によってklogWoとなる。Wo=1すなわち基底状態が縮退をもたないとすれば、上式によりSo=0となることは明らかであるが、この議論は厳密な証明にはならない。正しくは基底状態付近の量子状態の分布を吟味する必要がある。もし絶対零度でも高度に縮退した状態が可能であれば、Soは有限の値となりうる。氷の中の水素結合の分布や、0Kでのガラス状態、またオルト水素とパラ水素の転換が凍結状態にある水素分子結晶などはその例であるが、これらは物質系が準安定状態に落ちこみ、有限な時間のうちには安定な熱平衡状態に達しないからだとみることもできる。』
第5回(5/16)
- 『長期エネルギー需給見通し』について
資源エネルギー庁のホームページのエネ庁便りの中の『審議会等』にある『総合エネルギー調査会 需給部会 中間報告 (H10.6.11)
』および『総合エネルギー調査会 需給部会 中間報告書 参考資料 第1章 、第2章 、第3章、第4章、第5章 (H10.6.11)
』に掲載されている。
また、図書としては『21世紀、地球環境時代のエネルギー戦略〜成長と環境の対峙を超える『価値ある』選択〜 総合エネルギー調査会需給部会中間報告』が全文を編纂したものである。
- 『エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)』の改正概要(平成10年6月5日公布、平成11年4月1日施行)〔(財)省エネルギーセンターのホームページ(省エネ法令集)から引用〕
『1.法律改正の目的
内外におけるエネルギー消費量の著しい増加、大量のエネルギー消費が環境に及ぼす影響に対する懸念の高まり等のエネルギーをめぐる経済的社会的環境の変化に応じた燃料資源の有効な利用の確保に資すること。
特に、平成9年12月に開催された地球温暖化防止京都会議の議論を背景に、二酸化炭素の約9割の発生起源であるエネルギーに関し使用量抑制が求められており、その対応策として、エネルギーの徹底した使用合理化の推進が必要。
※ エネルギーの使用の合理化に関する法律
エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)は、内外におけるエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応じた燃料資源の有効な利用の確保を目的として、工場、建築物、機械器具についてのエネルギーの使用の合理化に関する所要の措置のエネルギーの使用の合理化を総合的に進めるために必要な措置等を講じている。
2.法律改正の要旨
(1) トップランナー方式の導入による自動車・電気機器等のエネルギー消費効率の更なる改善の推進(機械器具に係る措置の強化)
自動車の燃費基準や電気機器(家電・OA機器等)の省エネルギー基準を、各々の機器において、エネルギーの消費効率が現在商品化されている製品のうち最も優れている機器の性能以上にするというトップランナー方式の考え方を導入し、併せて、担保措置を強化(現行の勧告に加え、勧告に従わなかった場合の公表、命令、罰則(罰金))。
(2) 工場・事業場におけるエネルギー使用合理化の徹底(工場に係る措置の強化)
1) エネルギーを多消費工場である現行エネルギーを管理指定工場において、計画的なエネルギー使用合理化の取組を促すため、合理化に関する将来の計画の提出を義務付ける措置を創設。
2) 中規模エネルギー消費工場・事業場において、省エネルギーを徹底するための措置(エネルギー管理員の選任、省エネルギー講習受講義務、エネルギー使用状況の記録義務)を創設。
(3) その他
1) 太陽光発電、風力発電等によって得られる電気を、使用の合理化の対象となるべきエネルギーから除く。
2) 罰金と過料の金額の見直し。
3) 経済的社会的環境の変化を勘案して、本法の措置を必要に応じ見直すべき旨の規定の明確化』
- EMEs(Emerging Market Economies)について(『BP
Amoco Statistical Review of World Energy 1999』から引用、41p)
『South & Central America, Central Europe, FormerSoviet Union,
Africa, Middle East and Non-OECD Asia Pacific. In this Review,
the term ‘Other EMEs’excludes Central Europe and Former Soviet
Union.』
新興市場(emerging markets)(『有斐閣経済辞典(第3版)』から引用、626p)
『タイ、マレーシア、メキシコなど、1990年代に入って急成長を遂げて投資先として有望とされる開発途上諸国をいい、先進国から巨額の民間投資資金が流入しているが、94年のメキシコ、96年のタイと、過熱経済への不信から資金の引揚げが起こり、通貨危機が発生した。IMFなどによる金融支援策が打ち出されているが、同時に新興市場国の金融システムの確立や適正な経済運営が求められている。』
- European Union membersについて(『BP
Amoco Statistical Review of World Energy 1999』から引用、41p)
『Austria, Belgium, Denmark, Finland, France, Germany, Greece,
Republic of Ireland, Italy, Luxembourg, Netherlands, Portugal,
Spain, Sweden, UK』
第7回(5/30)
- メジャーズについて(『石油はいつなくなるのか』から引用、174,190-191p)
『OPECが攻勢をかける以前の世界の石油業界は、国際石油会社(いわゆるメジャーズ=International Majors
Oil Companies)と呼ばれるいくつかの大企業によって支配されていた。これらのメジャーズは、かつて世界の石油の探鉱・開発・精製・輸送・販売に至る石油産業のすべての段階を支配し、こうした経営は「垂直的一貫総合経営」(Fully
Vertical Integration)と呼ばれ、メジャーズの著しい特徴とされてきた。
メジャーズとは通常、エクソン(Exxon Corp.)、モービル(Mobil Corp.)、テキサコ(Texaco Inc.)、ソーカル(Standard
Oil Co. of Calfornia=Socal)、ガルフ(Gulf Oil Corp.)の米系5社と、イギリス、オランダ系のロイヤル・ダッチ・シェル(Royal
Dutch Shell Group of Companies)とブリティッシュ・ペトロリウム(British Petroleum
Co.=BP)の2社の合計7社をいう。もっとも、このうちソーカルは、1984年、同じメジャーズの1社であるガルフを買収し、社名をシェブロン(Chevron)と改名した。しかし、これまで一般的には右の7社をもって“セブン・シスターズ”(「7人の魔女」)と呼び習わされてきた』
7大メジャーズの原油供給力(1996年、1000バレル/日)〔(注)原図を簡略化〕 |
|
原油供給 |
原油処理 |
製品販売 |
原油供給−
原油処理 |
エクソン |
1,615 |
3,792 |
5,076 |
-2,177 |
モービル |
854 |
2,142 |
3,222 |
-1,288 |
ソーカル |
シェブロン |
1,043 |
1,488 |
2,346 |
-445 |
ガルフ |
テキサコ |
787 |
1,486 |
2,501 |
-699 |
ロイヤル・ダッチ・シェル |
2,305 |
3,771 |
5,971 |
-1,466 |
BP |
1,241 |
1,738 |
1,909 |
-497 |
合計(A) |
7,845 |
14,417 |
21,025 |
-6,572 |
世界合計(B) |
62,525 |
59,040 |
62,323 |
3,485 |
A/B(%) |
12.5 |
24.4 |
33.7 |
|
出所:各社のAnnual Reportから作成、ただし世界合計は旧共産圏を除く |
第9回(6/13)
- BAU
Business As Usual:自然体ケースのこと。これは最近の傾向や現在の政策が継続された場合にエネルギーの需要、供給、価格がどのように変化するか、その動向を予測するもの。
第10回(6/20)
- 宇宙線(『山と空と放射線』から引用、212-214p)
『A二次宇宙線と標高との関係
宇宙空間を飛び回っている放射線を宇宙線というが、厳密にいうとこれを一次宇宙線、一次宇宙線が地球の上層大気成分と衝突した結果として二次的に生ずる放射線を二次宇宙線という。
一次宇宙線の主成分は陽子だが、陽子より重い原子核も混じっていて、陽子1000個に対して約100個のヘリウム原子核、約8個の炭素〜酸素にいたる原子核、3〜4個のさらに重い鉄にいたる原子核、といった割合で構成されている。一次宇宙線はその起源によって銀河宇宙線と太陽宇宙線に分けられる。銀河宇宙線は寿命の尽きた星が大爆発して消滅する、いわゆる超新星の爆発に由来するとされているが、その起源はまだ十分に解明されていない。また、太陽宇宙線は太陽表面での爆発、いわゆる太陽フレアに由来するとされている。
一次宇宙線が地球の上層大気に降り注ぎ、大気を構成するチッ素、酸素、アルゴンなどの原子核と衝突した結果として核反応が起こり、新たに生じた陽子、中性子、パイ中間子、ミュー粒子、電子などの放射線が二次宇宙線である。地球は厚い大気におおわれているため、一次宇宙線が地球の大気をとおり抜けて直接地上に降り注ぐことはなく、地上に降り注いでいる宇宙線はすべて二次宇宙線である。
二次宇宙線の存在は、放射線測定器を積み込んだ気球を空高く上げれば簡単に確認できる。ビクター・ヘスが宇宙線を発見したのも、1911〜13年に空高く上げた10個の気球による高空観測がきっかけだった。気球を上げるのがめんどうならば、放射線測定器をカバンのなかに入れ、航空機に乗って測定すれば確認できる。離陸直後には大地放射線が次第に航空機に届かなくなるため放射線は全体として弱くなるが、航空機の高度が高くなるにつれて二次宇宙線が増えるため、すぐに地上の何十倍もの強さの放射線を確認できるはずである。あるいは放射線測定器をリュックサックに入れて背負い、高い山に登っても確認できる。放射線医学総合研究所の古川雅英と松本雅紀らがちょうどこれと同じことを富士山でやっている。
古川と松本らは1994年8月4日に富士宮口新五合目から登山を開始し、八合目で一泊したのち、5日早朝に山頂に到着し、御殿場口に下山している。この間ずっと二次宇宙線の測定をしている。私もまたチョモランマで二次宇宙線の測定を行なった。その結果は第2部の図2-2〜図2-4(略)に示したとおりである。
これらの図から明らかなように、二次宇宙線は標高が高くなるにつれて強くなる。もっとも、そうはいっても限りがあって、標高2万メートルより高くなると、二次宇宙線の強さは標高が高くなってもほとんど変わらないか、逆に弱くなる。それを示したのが図4-1である。標高が2万メートルより高くなると二次宇宙線の強さがほとんど変らないか弱くなる理由は、大気成分が薄くなるからである。大気成分が薄くなれば、一次宇宙線と大気成分との核反応の結果として二次的に生じる二次宇宙線が減るのは当然のことである。』