柳 哲雄・原島 省(2003):瀬戸内海における溶存態無機リン・窒素・珪素分布の特徴とその要因海の研究12(6)、565-572.


要旨
 大阪と別府を結ぶフェリーを用いて得られた瀬戸内海表層における溶存態無機リン(Dissolved Inorganic Phosphorus: DIP)、溶存態無機窒素(Dissolved Inorganic Nitrogen: DIN)、溶存態珪素(Dissolved Silicate: DSi)濃度の観測結果から、1994年〜2000年冬季の平均値を用いて、瀬戸内海におけるDIP、DIN、DSi分布の特徴を比較した。その結果、大阪湾で最も高濃度となり瀬戸内海西部で低濃度となるDIP・DIN濃度分布と異なり、瀬戸内海におけるDSi濃度分布は大阪湾と別府湾で高濃度となることがわかった。その理由は、これらの海域に対する単位容積当たりのDSi負荷量が大きいことに加えて、DSiはDIPやDINと比較すると、植物プランクトンに取り込まれ、懸濁態化された珪素が窒素やリンより分解されにくく、それぞれの灘・湾におけるDSiの平均滞留時間がDIPやDINと比較すると長くなるからである。また備讃瀬戸は単位容積あたりのTP(Total Phosphorus:全リン)、TN(Total Nitrogen:全窒素)、DSi負荷が大きいにも関わらず、DIP、DIN、DSi濃度は低い。それはこの海域の強い潮流が流入したDIP、DIN、DSiをすみやかに隣接海域に輸送するためである。

キーワード:溶存態珪素;瀬戸内海;溶存態無機窒素;溶存態無機リン;滞留時間』

1.はじめに
2.栄養塩濃度測定
3.栄養塩濃度分布と負荷量
4.栄養塩濃度の元素比と基礎生産
5.栄養塩の水平輸送
6.おわりに
謝辞
References
Abstract


図2 瀬戸内海の湾と灘におけるDIN・DIP・DSiの平均濃度.(a) KはSkeletonema coastatumに対する半飽和定数.(b) 瀬戸内海の湾と灘に対する体積当りの単位TV・TP・DSi負荷量.(c) 瀬戸内海の湾と灘におけるSIN/DIP・DSi/DIN・DSi/DIP比.Reはレッドフィールド比.

〔柳 哲雄・原島 省(2003による瀬戸内海における溶存態無機リン・窒素・珪素分布の特徴とその要因から〕

レッドフィールド比(Redfield ratio):植物プランクトンが取り込む炭素と窒素とリンの比率は一定で106:16:1となることが知られており、この比をレッドフィールド比と呼ぶ。ケイ素を加えると、C:N:P:S=106:16:1:16-50。


図3 瀬戸内海におけるDIN・DIP・DSiの収支.ブロック内のカッコ内数字はμmol/Lでの濃度であり、ブロックの外の数字は年間の平均滞留時間である.実線の矢印と破線の矢印は、それぞれ負荷と水平輸送を示す.

〔柳 哲雄・原島 省(2003による瀬戸内海における溶存態無機リン・窒素・珪素分布の特徴とその要因から〕


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