宇野木早苗(2004):内湾の環境や漁業に与えるダムの影響海の研究13(3)、301-314.


要旨
 内湾に注ぐ川の上流・中流に建設されたダムが海域に与える影響は、沿岸開発に伴う流入負荷の増大や埋立・干拓・浚渫などの地形変化の影響と区別することが困難であるため、話を聞くことはあるが、わが国でその実態が明らかにされている例はほとんどない。本報では、三つのダムが建設されている球磨川が八代海に注ぐ場合を中心にして漁師の証言とともに、ダムが海域に与える影響を具体的に理解することに努めた。この結果、ダム内における大量の砂の堆積と汚濁負荷の生成が、海域の環境に大きな影響を与えていることが分かった。さらに、経年的に見た漁獲量の減衰率とダムの堆砂率の逆相関関係、球磨川系水の湾内における広がり方、および海域に与えられる汚濁負荷分布の特徴などを総合して、海域における海面漁業の著しい衰退に、ダムが重要な要因になっていることが結論された。したがって、沿岸漁業者が、既設3ダムの2.2倍の貯水容量をもつ球磨川支流の川辺川ダムが八代海に与える影響を、懸念することも理があることと思われる。なお、わが国で最初と思われるが、ダムと海の関係を数値シミュレーションで求めた水質予測結果を基に、再現性の不備と計算条件の問題点を明らかにした。とくに、いまの問題では、河川水の流入に伴う海域の密度成層と密度流の再現が本質的に重要であるが、それが満足されていないことを指摘した。

キーワード:ダム;環境;漁業;球磨川;八代海』

1.はじめに
2.漁師の証言
 2.1. 消えていく藻場と干潟
 2.2. 姿を消したり、少なくなった魚介類
 2.3. ダムの放水の影響
 2.4. 漁師の現状
3.ダムの堆砂による海岸の砂の激減
4.ダム湖起源の汚濁負荷
5.漁業衰退の原因となったダム
 5.1. 漁獲の減少は同じ湾内でも海区によって著しく異なる
 5.2. 加入負荷量によっては海面漁獲量の減少は説明できない
 5.3. 球磨川の影響を受けやすい海区ほど漁獲量の減少は著しい
 5.4. ダムに砂が溜まるほど海面漁獲量は減少している
 5.5. 既設ダムは海域の漁業に重大な影響を与えて来た
6.ダムが海域に与える影響予測の問題点
 6.1. 夏の海を計算したはずなのに結果はむしろ冬の海の再現
 6.2. 河川が注ぐ内湾の密度流が再現できているか
 6.3. 水質の計算は再現性を満たしていない
 6.4. ダムが関わる影響予測に考慮すべき重要項目が欠けている
 6.5. ダムからの取水の影響
謝辞
References
Abstract



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