通商産業省資源エネルギー庁(編)(1990)による〔『2000年の資源ビジョン』(45-54p)から〕


これまでの資源政策について

1 探鉱促進政策(国内、海外)

 我が国の資源探鉱政策は国内探鉱、海外探鉱について、委託費、補助金、出融資、税制等により助成を行っている。具体的には、予算では三段階方式による国内探鉱助成、海外探鉱に対する助成金の交付等、財政投融資では内外探鉱融資及び海外探鉱出資、税制では減耗控除制度、海外投資等損失準備金制度といったメニューがある。また、ODA事業として資源開発協力基礎調査等を実施しており、予算面では年々充実してきている。これは間接的に我が国への資源の安定供給に寄与しているほか、発展途上国との人的ネットワーク形成に役立っている。
 金属鉱業事業団は1963年の設立以来、これら内外探鉱施策の実施機関としての役割を果たしてきた。

 諸外国の資源政策に目を転じると、主要先進国における探鉱・開発促進施策は大きく2つのグループに分けられる。一つは、日本を含め、西ドイツ、フランス、イギリスのような小資源大消費型であり、もう一つは、アメリカ、カナダ、オーストラリアのような大資源型の国である。前者のグループは、海外での事業展開により自国への資源の安定供給を図らざるを得ない国であり、国内資源開発の支援、政府機関による海外資源情報の収集・提供、海外探鉱・開発の支援といった施策が採られている。一方、後者のグループでは補助金、出融資よりもむしろ情報活動が施策の中心となっており、我が国の資源エネルギー庁地質調査所及び金属鉱業事業団に相当する部署が世界的規模で鉱物資源関連情報の収集・提供活動を行っている(参考5-3)。
 [参考5-3] 主要国の資源政策
5-3 主要国の資源政策
国名 日本 西ドイツ フランス イギリス
情報収集 〔国内〕
地質調査所
・資源の評価、成因研究、鉱物の研究
・研究成果等からの情報提供
〔海外〕
金属鉱業事業団
・各国鉱業事情の調査
・データベースシステムによる情報提供
・関係図書、文献等の収集、提供
〔国内〕
地球科学天然資源研究所
・鉱物資源、鉱業関係の情報収集
・資源埋蔵量、生産量等の統計、分析調査
・データバンクの設立
〔海外〕
地球科学天然資源研究所
・同上
〔国内〕
BRGM(地質・鉱山研究所)
・調査、探鉱情報の収集、保存、公開
・データバンクの設立、公開
・専門誌、一般普及書の出版
〔海外〕
BRGM(地質・鉱山研究所)
・同上
〔国内〕
地質調査所
・鉱業関係の情報収集
・政府機関、一般向け助言
〔海外〕
地質調査所
・同上
基礎調査 〔国内〕
金属鉱業事業団
・地質構造調査を実施
〔海外〕
金属鉱業事業団
・地質構造調査を実施
・地質構造調査事業への助成
・深海底鉱物資源の賦存状況調査を実施
〔国内〕
地球科学天然資源研究所
・探鉱プロジェクトを実施
〔海外〕
地球科学天然資源研究所
・同上
ドイツ技術協力公社
・鉱物資源部門でのプロジェクト実施
〔国内〕
BRGM(地質・鉱山研究所)
・個別鉱床に対する埋蔵量の確認、開発可能性調査
〔海外〕
BRGM(地質・鉱山研究所)
・自己資金による探査
・協力援助基金の補助金による探査
〔国内〕
地質調査所
・鉱物予察計画
・大ブリテン国土地質調査
・広域地化探予察計画
〔海外〕
地質調査所
・地質調査及び地質図作成
企業探鉱 〔国内〕
通商産業省
・中小鉱山への助成
金属鉱業事業団
・大手鉱山等への融資
〔海外〕
金属鉱業事業団
・探鉱事業への出融資
海外経済協力基金
・探鉱事業への融資(発展途上国に限定)
〔税制〕
・減耗控除制度
・海外投資等損失準備金制度
〔国内〕
経済省
・探鉱融資
 (無利子融資(成功払い))
〔海外〕
経済省
・同上
〔国内〕
産業・郵電・観光省
・金属計画による補助金(成功償還)
〔海外〕
産業・郵電・観光省
・同上
〔海外〕
英連邦開発公社
・プロジェクト融資
開発 〔国内〕
(財)金属鉱業緊急融資基金
・鉱山経営安定化のための融資
〔海外〕
金属鉱業事業団
・開発事業への債務保証
日本輸出入銀行
・開発事業への融資
〔税制〕
・海外投資等損失準備金制度
〔海外〕
ドイツ開発公社
・発展途上国の企業に対して出融資
復興金融公庫
・発展途上国のプロジェクトへ融資及び補助金
・西独企業への融資
〔国内〕
国土整備地方振興庁
・低開発地域の開発融資
BRGM(地質・鉱山研究所)
・開発出資
〔海外〕
BRGM(地質・鉱山研究所)
・開発出資
〔国内〕
・企業への間接援助(融資?)
〔海外〕
英連邦開発公社
・プロジェクト投融資
国名 アメリカ カナダ オーストラリア  
情報収集 〔国内〕
地質調査所
・鉱物資源に係る資料の収集
・出版、公表
鉱山局
・鉱物資源の探査、価格、輸出入に関する統計、情報の収集
・出版、公表
〔海外〕
地質調査所
・同上
鉱山局
・同上
イースト/ウエストセンター
・資源情報の収集、提供
・データベースシステムの構築、提供
〔国内〕
鉱物政策局
・鉱物産業資料の収集、統計資料作成
・データベースシステムの設立
・世界の鉱物市場。生産高等の情報提供
〔海外〕
鉱物政策局
・同上
〔国内〕
鉱物資源局
・鉱物資源の探査、開発に係る地質情報の収集
・出版及び情報提供
〔海外〕
鉱物資源局
・同上
基礎調査 〔国内〕
地質調査所
・鉱物資源に係る地質調査、研究
鉱山局
・鉱山に関する調査、研究
〔国内〕
地質調査所
・鉱床賦存の基本的調査、研究
CANMET
・鉱山関係技術の調査、開発、研究
〔国内〕
鉱物資源局
・鉱物資源賦存状況の把握のための地質及び地球物理調査、研究
各州政府
・地質図の作成
・ボーリング調査による有望地域調査
企業探鉱 〔税制〕
・探鉱費の控除
〔国内〕
地域産業開発省
・地質、地化学探査、物理探査等に対する補助金
・鉱石処理等、技術、調査、研究に対する補助金
連邦政府の出資
・探鉱企業に対し出資
〔税制〕
・探鉱費の全額損金算入
・海外探鉱費の定率控除
〔国内〕
・探鉱費の成功払融資
〔税制〕
・探鉱費の税額控除
開発 〔税制〕
・定率減耗控除
〔国内〕
連邦政府の出資
・開発案件に対し出資
〔税制〕
・減耗控除
・加速償却
・開発費の定率損金算入
・海外探鉱費の税額控除
〔国内〕
連邦政府
・鉱工業全体に対する中長期出融資
〔税制〕
・鉱山施設の取得価格の税額控除

(出典)鉱業課調べ



(1) 国内探鉱関係
 国内探鉱は、予算による3段階方式の探鉱助成制度が中心となっている。すなわち、広域地質構造調査(委託費)による広範囲の地質構造の概要把握、精密地質構造調査(補助金)による精密な地質構造の把握、中小鉱山振興指導事業費補助金及び国内探鉱融資制度による企業探鉱助成というスキームが採られている(参考5-4)。
 国内探鉱関係予算の推移を見ると(参考5-5)、1970年度から1975年度にかけて年間10億円規模から30億円規模へと飛躍的に増加している。それ以降はおおむね一定の水準で推移しているが、鉱山数の減少、従業員数の減少等を勘案すれば3段階方式による探鉱助成の内容は着実に充実してきていると考えることができる。
 これまでの成果としては、黒鉱鉱床の深沢・餌釣鉱山(秋田県)、温川鉱山(青森県)、更に世界的な高品位金鉱床である菱刈鉱山(鹿児島県)の発見等商業生産に結びつく成果が上がっている(参考5-6)。
 しかしながら、国内探鉱資金融資については、鉱山数の減少による探鉱の停滞に加え、企業の資金不足の解消、市中金利の低下等により政策金融としての魅力が小さくなっており、その融資実績は1975年以降減少を続けており、菱刈鉱山の発見を契機とした金を対象とする融資以外は極めて少ない金額となっている(参考5-7)。
 税制の面では、アメリカ、フランス等の制度を参考にして1965年に創設された減耗控除制度がある。この制度により着実に探鉱準備金が積み立てられ、市況変動にもかかわらず、比較的安定的な新鉱床探鉱が行われている。減税効果はピーク時には73億円(1970年度)、近年においても20億円程度に上っており、鉱山の探鉱リスク軽減に大きく貢献している(参考5-8)。
 [参考5-4] 国内鉱業開発促進施策の概要
 [参考5-5] 国内探鉱関係予算の推移
 [参考5-6] 広域地質構造調査及び精密地質構造調査の成果
 [参考5-7] 国内探鉱資金融資実績
 [参考5-8] 減耗控除制度の利用実績

(2) 海外探鉱関係
 海外探鉱関係の施策は、1968年にスタートしており、予算による海外地質構造調査及び海外共同地質構造調査、海外探鉱出融資(財投)、海外減耗控除制度(税制)による探鉱促進策が採られている(参考5-9)。
 特に、レアメタル及びウランについては成功払い融資制度(「特別貸付」)が採られており、探鉱リスク軽減の観点からは効果的な制度となっている。
 いずれの制度も民間企業の自主的な探鉱意欲が前提となるため、1980年前後から対象プロジェクト数が減少を続けており、予算規模も減少してきている(参考5-11)。また、これまで商業生産に至ったペルー北部のワンサラ鉱床及び企業化への移行の可能性のある数鉱床の発見等の成果を挙げているが、今後さらに大きな成果を挙げることが望まれる状況にある(参考5-12)。ただし、最近になって海外鉱山開発意欲が多少復活しはじめており、プロジェクト数増加の兆しが見られる。
 [参考5-9] 海外鉱物資源探鉱開発促進施策
 [参考5-10] 石油公団、動燃、NEDOとの比較
 [参考5-11] 海外地質構造調査、海外共同地質構造調査の推移
 [参考5-12] 海外地質構造調査、海外共同地質構造調査の成果
 [参考5-13] 海外探鉱資金融資実績の推移

(3) 資源開発協力基礎調査(ODA)
 発展途上国においては、技術力、資金力の不足から基礎的な地質調査が行われていない国が多い。このため、1970年度から我が国に対する要請に対応した調査協力事業を実施している。対象とするプロジェクトも定型的な調査である「資源開発調査」のほか、「鉱物資源基本図調査」、「レアメタル総合開発調査」、「地域開発計画調査」などメニューは充実してきており、また、予算額も着実に増加してきている(参考5-14)。
 資源開発調査について見ると、これまで25か国55地域を実施し、うち3件が現地政府系機関によって開発され、商業生産を実施している。資源開発協力基礎調査によって発見された鉱床の経済性を鉱量及び品位(参考5-15)によれば、世界的に有数の鉱山と比肩しうるものではないが、それなりのものが発見されている。しかしながらこれらが必ずしも新規の鉱山につながっていないのは、当該発展途上国のインフラ等を総合的に判断した場合には必ずしも経済性がないケースが多いためと見られ、インフラ面を含めた総合的な評価の実施及びインフラ整備に係るODAとのリンケージが重要になっていると言えよう。また、「要請主義」を前提としつつも、極力有望なプロジェクトを優先的に実施することが望ましく、事前調査を強化すべきである。

 なお、探査関係以外の資源関係ODA事業としては、@専門家派遣、A研修生の受け入れ、B研究協力、Cプロジェクト方式技術協力などが行われている。このうち研修生の受け入れについて見ると、毎年100名程度を受け入れており、これまで20年間に40か国、約2000名を受け入れ、発展途上国との人的ネットワーク形成に寄与してきた。
 [参考5-14] 資源開発協力基礎調査等
 [参考5-15] 資源開発協力基礎調査の成果

(4) 深海底鉱物資源開発
 我が国は、レアメタルの安定供給を図るため、マンガン団塊を始めとする深海底鉱物資源の開発を推進している。
 我が国においては、1975年以降、マンガン銀座において探査活動に着手するとともに、1982年には深海底鉱業暫定措置法を制定、同年、開発の推進母体となる深海資源開発株式会社(DORD)を設立し開発体制の整備を図ってきた。
 国連海洋法条約は、深海底及びその資源を人類共同の資産であるとし、深海底における活動は国連機構(「国際海底機構」)の全面管理下に置き、その開発を規制しようとするものである。
 我が国は、1983年国連海洋法条約に署名したが、批准していない。同条約は、60カ国の批准の一年後に発効することとなっているが、1990年現在発効していない(1990年3月末の批准国数42)。
 マンガン銀座における鉱区登録に関し、我が国は、1984年に米系コンソーシア(ロッキード系、USスチール系、インコ系、ケネコット系)の構成国との行政協定を締結する一方で、1987年には、国連海洋法条約の枠の中でハワイ南東沖において深海資源開発株式会社が先行投資者として7.5万km^2の鉱区を取得したところである。
 その際、条約の附帯決議により、条約発効前は、先行投資者に対し、年間固定費、要員訓練、国連用鉱区の探査協力等の義務が課されることとなる。また、条約発効後は、開発主体に対して生産制限、生産賦課金、国際海底機構に対する技術移転等の義務が課されることとなる。我が国としては、現在、これらの義務が、経済情勢の変化等を踏まえた現実に即したものとなるよう国連海洋法条約準備委員会等における外交交渉に積極的に参加しているところである。
 1985年からメキシコ沖の東太平洋海域で海底熱水鉱床、1987年から中部・西部太平洋海域でコバルト・リッチ・クラスト鉱床の調査活動を行っている。他方、1985年より、資源開発協力基礎調査事業の一環としてSOPACに対し、クック諸島、キリバス共和国、ツバルにおいてマンガン団塊及びコバルト・リッチ・クラスト鉱床の探査協力を実施している。
 工業技術院の大型プロジェクト制度によりマンガン団塊採鉱システムの開発を、公害資源研究所及び金属鉱業事業団でマンガン団塊の製錬技術の開発をそれぞれ実施している。採鉱技術については、要素技術の開発は終了し、今後は海洋での実験に向けて所要の機器の製作を推進している。また、採鉱に伴う環境影響調査についても1989年より着手している。

2 経営安定化対策
 国内で産出する主な非鉄金属(銅、亜鉛、タングステン、金)についてその価格に一定のバンドを設定し、その下限を下回った場合には国内鉱山の確認探鉱、保安対策、減員・減産対策といった費用に対して財団法人金属鉱業緊急融資基金が超低利融資(長プラマイナス4.2%)を、上回った場合には拠出を求める緊急時対策の制度である(参考5-16)。市場金利との差額については民間企業の拠出金を充てるほか、一般会計から利子補給を行っている。
 経営安定化融資は、1978年度の補正予算で成立して以来、678億円の融資を行ってきた。特に、最近の円高後の1985年度から1988年度にかけて344億円の融資を行い、いくつかの優良な国内鉱山の存続に寄与してきた。一方、最近の非鉄金属価格の上昇により1989年度は銅、亜鉛について拠出基準を上回った。
 鉱山は一度閉鎖したら再開には多くの費用を必要とするため、一時的に価格が下がり経営が困難になった場合にも支援して存続を図ることが経済合理性にかなう場合があり、この制度は資源の有効利用の観点からは一定の効果があったと考えられる。
 [参考5-16] 金属鉱業経営安定化対策の概要と実績

3 技術開発
 1975年度以来、金属鉱業事業団に委託して探鉱関係の技術開発を実施している。1989年度から予算を大幅に増額し、鉱床の深部化、潜頭化に対応するための新たな技術開発(深部電気探査法、ガス地化学探査法、変質鉱物簡易同定技術)を開始したところである。
 また、リモートセンシング技術の発展を踏まえて資源探査衛星の開発が行われており、1992年には我が国初の資源探査衛星(ERS-1)が打ち上げられる予定となっている。
 深海底鉱物資源については、マンガン団塊採鉱システム研究所(研究組合)が工業技術院の大型プロジェクト制度によりマンガン団塊採鉱システムの開発を、公害資源研究所及び金属鉱業事業団でマンガン団塊の製錬技術の開発をそれぞれ実施している。
 なお、レアメタルについては1985年度から1989年度にかけてレアメタル高度分離精製技術の開発を地域大プロにより実施した。また、レアアースについては1988年度より超電導用レアアースの回収技術等の開発を開始している。
 [参考5-17] 鉱業関係技術開発の概要

4 備蓄
 非鉄金属の備蓄制度は経済安全保障の観点から各国で実施されている。特に、アメリカではレアメタルだけでなく、銅、亜鉛といったベースメタルについても安全保障備蓄を行っている。我が国ではベースメタルを対象とした輸入安定化備蓄、レアメタル備蓄の2つが行われてきた。
(1) 輸入安定化備蓄
 ベースメタル(銅、亜鉛、アルミニウム)を対象に、1976年から1986年にかけて(買入は1982年度まで)非鉄金属輸入安定化備蓄を実施した(参考5-18)。これは、需要の低迷により製錬業者の保有する地金在庫が増加したため、諸外国からの鉱石の安定的な引き取りに支障が生じたために実施されたものであった。制度的には現在も存続しているが、備蓄物資は1987年以降ゼロになっている。
 [参考5-18] 輸入安定化備蓄の実施状況

(2) レアメタル備蓄
 国民生活上の重要性が高く、かつ、リスクの高い国への依存度が高いニッケル、クロム等7鉱種のレアメタルについて、経済安全保障の観点に立ち1982年度からレアメタル備蓄を実施している。現在、1991年度末60日分(国家備蓄42日分、民間備蓄18日分)を目標に、積み増しを行っているところである(参考5-19)。市中金融機関から借入を行って購入し、予算で利子補給を行うスキームとなっており、現在10数億円程度の利子補給を行っている。
 レアメタル備蓄は、海外主要国においても実施されているが、価格安定化備蓄か安全保障備蓄なのかという性格付けにつき問題が提起されてきており、この性格付けいかんによって備蓄物資の放出スキームや今後の積み増しのあり方が変わってくる。
 したがって、その性格付けに加えて、対象鉱種、備蓄目標、受益者負担のあり方などについても再検討が必要となっている。
 [参考5-19] レアメタル備蓄の実施状況

5 関税
 非鉄金属の地金には関税が賦課されているが、東京ラウンド等過去の関税交渉を通じて段階的に引き下げられてきており、現在の実行関税は、銅地金15円/kg、亜鉛地金8円/kgの従量税となっている。そのほか副産物として生産されるいくつかの金属について従価税がある。銅、鉛、亜鉛については価格が低くなると保護効果が強くなり、価格が上がると保護効果が小さくなるスライド関税制度が採られている(参考5-20)。
 国内鉱山数の大幅な減少により、関税の存在理由をかつてのように国内鉱山保護で説明するのは困難になってきている。他方、我が国鉱山・製錬業界が鉱害対策に多額の費用を要しているため、国内鉱山が減少した今でもハンディキャップの調整のために関税を維持すべきであるという主張もある。
 他方、ユーザーサイドからは、電線、伸銅品等の関税と地金関税のイコールフッテイングの確保が主張されている。
 いずれにせよ、現在、GATTウルグアイ・ラウンドにおいて関税引き下げ交渉が行われており、非鉄金属についてもその対象となっている。
 [参考5-20] 関税の現状

6 鉱害対策
 我が国では多雨地域であること等から、鉱山は休廃止した後も放置すれば重金属等の有害物質を含んだ坑廃水を排出し続ける危険性がある。このため、1971年に休廃止鉱山鉱害防止工事費補助金制度が創設され、鉱害防止義務者不存在等の休廃止鉱山における鉱害対策事業が実施されることとなり、1981年には、同制度において鉱害防止義務者存在分の坑廃水処理についても、自然汚染分、他者汚染分について補助金が交付されることとなった。また、1973年には計画的な鉱害防止事業の推進のため、金属鉱業等鉱害対策特別措置法が制定され、稼働鉱山においても休廃止後の鉱害防止対策に要する費用を稼行中に積み立てておく制度が採られるとともに、金属鉱業事業団に鉱害部門が発足し、鉱害防止調査指導業務、鉱害防止資金貸付・債務保証業務、鉱害防止技術開発業務等の鉱害対策関連事業が実施される等鉱害対策に関する政策的対応が幅広く進められてきている。
 しかし、鉱山・製錬各社においては過去に操業していた鉱山のための鉱害対策費用として年間100億円以上を負担しており、これは国際競争力等の面で大きなマイナス要因となりかねない。特に、鉱山保安法に基づく命令等により旧鉱業権者が無期限に実施している坑廃水処理について、その期間を限定すべきではないかという意見が提起されている。この問題についてはPPP原則との関係等もあり、慎重な対応が必要である。

7 一次産品の国際協定等
 我が国固有の資源政策ではないが、国際的な枠組みの中で資源問題を処理しようとするスキームがいくつかあるので、これらについても簡単に触れておく。
(1) 国際商品協定等
 発展途上国経済の多くは非鉄金属を含む一次産品の輸出に依存していることから、これら諸国の工業化、経済発展のためには一次産品輸出の安定・拡大が重要である。例えば、最近の銅の価格上昇により、銅の輸出国であるチリ、ペルーの銅輸出額は増加し、工鉱業生産が増加している。このため、一次産品についてはハバナ憲章以来、自由貿易の例外として市場規制によって価格を安定させ、生産国、消費国双方の利益均衡を図るべきとの考え方がある。GATTにおいても第20条で国際商品協定が自由貿易原則の例外とされている。すなわち、同条は、一般的例外の一つとして、「締約国団に提出されて否認されなかった基準に合致する政府間商品協定又は締約国団に提出されて否認されなかった政府間商品協定のいずれかに基く義務に従って採られる措置」を挙げている。
 現在、小麦、砂糖、コーヒー等9品目の一次産品について国際商品協定が存在し、これらの中には一次産品価格安定のために緩衝在庫や輸入割当といった方法で市場介入を行う統制協定とその他の協定とがあり、緩衝在庫機能を持つものは錫、ココア、天然ゴムである(参考5-21)。
 しかしながら、これらの商品協定は、対象品目が限られているほか、対象品目について必ずしも当初の目的が達成されていない。
 非鉄金属関係では「国際すず協定」があるが、すず理事会(ITC)による錫の緩衝在庫操作が1982年以来のすず価格下落のため、1985年の財政破綻した。このため、現在、債権者(銀行、ブローカー)からITC及び加盟国に対する訴訟が起こされ、最近ようやく和解により決着することとなった。

 なお国際商品協定とは異なるが、生産国、消費国による国際的な商品研究会として、「国際鉛・亜鉛研究会」、「UNCTADタングステン委員会」などがある。また、銅についてはUNCTAD等において「国際銅研究会」設立の動きがあるが、未解決の問題が多く残っている。また、ニッケルについても研究会設立の動きが進行中である。
 [参考5-21] 国際商品協定等の概要

(2) 生産国機構
 生産国による一種の国際カルテルである生産国機構としては石油輸出国機構(OPEC)が代表的であるが、非鉄金属関係では、1968年に設立された「銅輸出政府間協議会(CIPEC)」(注)、「水銀生産国グループ(IGMPC)」、「タングステン生産者協会(PTA)」、「すず生産国同盟(ATPC)」などがある(参考5-22)。
 ただし、これらの生産国機構は、市場占有率が低い(1988年のシェアは、銅38.5%、すず45.4%など)、代替可能性があるなどの理由によりOPECほどの影響力は持たなかった。
 (注) 1989年6月、オーストラリア、インドネシアはCIPECから脱退。
 [参考5-22] 生産国機構の概要

(3) 一次産品共通基金
 1976年、UNCTAD総会で「一次産品総合計画(IPC)」が採択された。同計画の目的は、一次産品の価格安定、輸出所得改善等であり、その中心は価格安定策(一次産品の緩衝在庫に対する資金融資)、一次産品の多様化・加工度向上のための研究開発等を目的とする「一次産品共通基金(CF:Common-Fund)」(参考5-23)の設立である。
 一次産品共通基金は1980年に協定が採択され、1989年6月に協定が発効した。基金の本部はアムステルダムに置かれており、我が国は6,067万ドル(義務拠出3,367万ドル、任意拠出2,700万ドル)を拠出している。ただし、同基金の運営のための諸手続規定制定作業等が残っており、機能開始までには若干時間を要する。
 [参考5-23] 一次産品共通基金の概要

(4)その他
 ほかに地域的な制度として、ロメ協定の定める鉱産物輸出所得安定制度(SYSMIN)がある。
 また、固体鉱物及び地熱の探査を行うための国際的な基金として、1973年に設けられた国連天然資源探査回転基金がある。これは発展途上国の鉱物資源開発を促進し、経済社会発展に寄与することを目的としており、成功プロジェクトからの還付金を基金に加えることにより回転させることを想定している(参考5-24)。この制度によりこれまでに25か国、28地域で探査が行われ、エクアドル、ペルー等において有望な鉱床を発見している。中でもエクアドルの金プロジェクトは、基金案件として初めて開発に移行することが確実視されている。
 なお、同基金と金属鉱業事業団は1987年以後年1回定期協議を持ち、プロジェクト情報の交換を行っている。
 [参考5-24] 国連天然資源探査回転基金の概要』



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