『3−3 資源枯渇の評価方法とは
我々の生活において資源は必要不可欠であるが、一方で資源の消費は負の影響を与える。
資源消費による環境影響は大きく、
@枯渇性資源の消費によって資源の枯渇性が増大し、人間社会の継続が困難になること
A資源の採取や消費によって土地が改変されたり、有害な物質が排出されたりすることで、生態系や人間健康の維持が脅かされること
ここでは、前者の影響を評価の対象にする。多種多様な資源が利用される中、その利用方法や利用量は様々である。我々はなるべく資源消費による環境影響を小さくしていくことを念頭に置かなくてはならない。そのためには、適切な意思決定を行うための評価手法と、それによって得られる指標が必要である。これまでに様々な評価手法が提案されている。本節では、資源消費による影響の評価手法についてまとめる。
(1)資源枯渇の主な評価手法
資源枯渇の評価手法は以下の5つのアプローチに分類できる。下記の記載は専門性が高いが、あえて代表的な評価手法の紹介として取り上げる。
@埋蔵量、耐用年数の逆数
A超過エネルギー(天然資源の品位が将来低下することにより、入手に必要なエネルギーの増加量)
B鉱物のエクセルギー
CTMR
D持続可能性の概念に基づいた係数
以降、それぞれのアプローチごとに方法論について紹介する。
@埋蔵量、耐用年数の逆数
本手法は、資源の枯渇性について資源間の相対的関係を求めるものであり、資源の採掘や消費によって実際に社会にどのようなインパクトを与えるか定量化するものではない。このアプローチに属するものとして、以下のものが挙げられる。
・可採埋蔵量の逆数
・耐用年数(可採埋蔵量を年間消費量で割ったもの)の逆数
・上記のいずれかを改変したもの
J.B. ギニーは、資源の消費速度を究極埋蔵量の2乗で除したものを資源ごとに算出し、これを、参照物質の場合と比を取ることで、資源の枯渇性を表現するための係数を求めた。
ADPi=(DRi/Ri2)/(DRref/Rref2)
ただし、i は資源種、DRは年間消費量、Rは資源の究極埋蔵量
原田は、「資源枯渇加速度」を相対的に評価するための係数として提案した。これは、資源 i をΔzi だけ消費したときに、資源枯渇の評価関数「資源枯渇速度V」がどれだけ加速されるかを捉えるものである。
V=Di/Ri
δV/δzi=(1/Ri)・〔1+(n/λi)〕
上式より得た資源枯渇加速度 ci を基準物質Feの資源枯渇加速度CFeで除することで評価係数Ci を得る。
ci=(1/Ri)・〔1+(n/λi)〕
Ci=(RFe/Ri)・{〔1+(n/λi)〕/〔1+(n/λFe)〕}
n は技術の適用期間であり、ここでは100年を暫定的に設定している。
このグループに属する手法は、ライフサイクルアセスメント(life-cycle assessment=LCA)が注目されて以来、資源枯渇の影響評価を行うための指標としてよく利用されてきた。指標を構築するために必要なデータは埋蔵量、消費速度などに限られるとともに、資源の希少性を表現することができるものとして優れているといえる。ただし、究極埋蔵量、確認埋蔵量、可採埋蔵量のいずれを使用すべきか、資源の希少性の判断に消費速度を含めるべきか否か、については合意がまだない様である13。
A超過エネルギー
品位の高い資源が優先して採掘される結果、将来は品位の低い資源を活用しなくてはならない。資源の採掘に伴う品位の変化分を求め、その品位の差を補うのに必要なエネルギー量またはそれを利用することによる環境負荷を特性化係数の基礎とする。ミューラー・ヴェンクが提案したものであり、これを改良したものがEco
indicator 99において採用された。
本手法による評価結果は、物理量(MJ)で表現することができ、かつ、評価のコンセプトが明快であることが特徴として挙げられる。その一方で、評価に利用するデータの入手が困難であり、その結果仮定が多く含まれるため、指標の信頼性に疑問が残る。
Bエクセルギーを基にした係数
鉱物のエクセルギー量を指標とするものである。フィンヴェーデン、アイレスは、資源が消費されたときにその失われたエネルギーの質が失われたとして、これをLCAの評価に利用するように提案した。
本指標は、物理的な次元で評価結果を表現することができ、かつ、価値観を含まないで評価を行うことができる点で優れる。その一方で、当該指標が資源の希少性を表現しているとはいえないので、資源枯渇の側面から見て妥当であるかどうかは意見が分かれる14。
CTMR(関与物質総量)
対象とする資源を入手するために関与した物質の総量を指す。世界資源研究所(WRI)によれば、TMRは以下の式で表される。
TMR=Σ(直接物質投入量)+Σ(間接物質投入量)+Σ(隠れたフロー量)
直接投入物質量および間接投入物質量は、人間の経済行為として、それぞれ直接、間接に投入された物質の量である。隠れたフロー量は、直接、間接の経済行為に伴う物質以外にその行為に伴って起きる物質の移動や撹乱の量であり、採掘に伴う岩石や土石の移動、森林の伐採、変更された水系、さらには土地の再生や景観の保護のために必要な物質の総量も含まれる。
本指標によれば、評価結果が物理量(t)で表現することができること、鉱物の品位の違いが間接的に反映されることが長所として挙げられる。一方で、本指標は資源の投入量を表現したもので、資源の枯渇性については取り扱っていない。また、隠れたフローのデータは鉱山ごとに異なり、データがまだ十分に揃っていないことが課題として挙げられる5。
D持続可能性の概念に基づいた係数
持続可能性を考慮したときに利用される代替資源を予め想定しておき、当該資源を入手する際のコストと代替資源を使用したときに発生する環境影響の和を取る。いずれも費用で算出することで、これらの和をとることができる。B.
ステーンがLCIA(Life Cycle Impact Assessment)の手法の1つEPS(Environmental
Priority Strategics for Product Design)において非生物系資源の消費による影響評価手法として提案した。
経済指標で表現することで評価結果を理解することが容易であることが特徴として挙げられる。一方で、代替資源の想定、環境影響の外部費用化など、不確実性が大きくなる要因を多く含むことが問題点として指摘されよう15。
(2)資源枯渇の評価方法の全体像
資源枯渇を定量的に評価するための指標の特徴をまとめると、下記のようである。
@資源消費とその影響を評価するための指標は様々なアプローチが存在する。
A可採埋蔵量の逆数、耐用年数の逆数に関わる指標は、資源の希少性を表現するものとして
適当であるが、専ら量的側面の評価であり、資源の質(品位)の変化に関する情報が含まれない。
Bエクセルギーは物理量で表現されるが、資源間での差が小さく(1桁から2桁程度)、エクセルギーの差よりも消費量の多い資源が重視される傾向がある。また、資源の希少性が反映されない。
CEPSは経済指標で表現できるメリットがあるが、その評価手法と利用されるデータは不確実性が大きいものと考えられる。
D超過エネルギーは、その評価の考え方について説得性が高い一方で、データのアベイラビリティが限られており、網羅性が他の手法に比べて劣る。
ETMRは、資源の品位に関する情報が評価に含まれ、かつ、資源の消費量を網羅的に捉える点で優れているが、隠れたフローの信頼性が低いこと、消費に伴う資源の質の変化について議論することができないことが問題として挙げられる。
Fこのように、いずれも、長所と問題点を併せ持っているため、どれが最も優れているか結論付けることはできない。このような特徴を認識した上で、適切な利用が求められる。』