曲(2002)による『環境影響評価法の条文解釈』から
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中華人民共和国 環境影響評価法の条文解釈

目次

環境問題に根源から取り組む(前書きに代えて)
中華人民共和国環境影響評価法の条文解釈
 緒論
 第一章 総則
 第二章 計画に対する環境アセスメント
 第三章 建設プロジェクト環境アセスメント
 第四章 法的責任
 第五章 附則




環境問題に根源から取り組む(前書きに代えて)

曲 格平(2002年12月26日)

 20世紀90年代以来、我が国の環境と資源保護の立法は高速発展段階に入った。1993年〜2002年の10年間、制定・改正と正式に実施した、環境と資源に関する法律は22部、そのうち全国人民代表大会環境・資源保護委員会が起草を担当したものは7部あり、うち大気汚染防止法については2度の改正を行った。1998年の土地管理法と森林法の改正から、2000年の大気汚染防止法改正と、2002年のクリーナープロダクション促進法、環境影響評価法の採択に至るまで、これら環境と資源を保護する立法活動は、我が国の環境・資源保護立法の発展の方向性における重大な変化を明確に提示すると共に、環境と資源に対する持続可能な利用への方向転換を行い、持続的な発展を可能にする法律体系の構築という方向へと邁進するものである。

 4年あまりの努力を経て採択された環境影響評価法は、10年来の我が国の環境立法における最も重大な進展を表すものである。この法律は、努めて法案決定の根源から環境汚染と生態破壊を防止することを求めるものであり、事業評価から戦略的評価へと進入し、我が国の環境と資源立法が新たな段階に入ったことを示すものである。

一、歴史的教訓は汲み取る価値がある

 我が国は最も早くから環境アセスメント制度を実施した発展途上国の1つである。20世紀70年代中期、環境アセスメントの概念は中国に入り始めた。1979年、全国人民代表大会常務委員会で『中華人民共和国環境保護法(試行)』が採択され、建設プロジェクトに対する環境アセスメントが法律制度として確定された。20年あまりの実践を経て、建設プロジェクトに対する環境アセスメントに関連する法規が次第に補完され、法律、特別法規、部門規約で構成される建設プロジェクト環境アセスメントの法規体系が構築され、建設プロジェクトの汚染防止と産業推進の合理的な配置と立地の最適化、ならび汚染対策施設の建設等方面で積極的な役割を発揮し、環境汚染と生態破壊の規制上、最も高い成果を収める措置となった。

 しかし、国内外の環境と発展の歴史的経験が証明するように、建設プロジェクトと比べ、政府のある政策と計画が環境にもたらす影響は、更に広範囲に及び、継続時間はより長く、影響が発生した後の処置も更に困難である。20世紀以来、如何なる体制の国家であっても、政府の職能がとても大幅に拡張され、政府の影響が届かない所はなく、政府行為の環境に対する影響は人々が関心を寄せる問題となった。各種利益集団の働きかけの下、少なからずの国家の政府が、環境に深刻なダメージを与える政策と計画を策定してきた。例えばアメリカ政府は、かつて大量の金銭を投じて森林伐採に充て、更にこの政策は相当長い期間実施され、世論から厳重な批判を浴びるところとなった。西部開発初期、計画と指導に乏しかったことから、農民が大量に入り込み、生態環境はかつて災害とも言えるほどの深刻な破壊を受けた。旧ソ連政府も重工業発展政策に大量な投入を行い、経済の畸形的発展をもたらしただけでなく、深刻な環境災害をも引き起こした。1954年より、その勢い勇んだ中央アジア地域開発計画を実施するために、トルクメン−カラクーム砂漠に全長1,400kmのカラクーム運河を修築し、毎年アムダリア川から導水して砂漠西部350万haの荒漠牧草地帯と100万haの新開墾農業区に灌漑を行うという計画、また700万haの牧草地帯の水供給条件を改善し、運河沿線地区をトルクメニスタン(旧トルクメン共和国)の綿花を主とした一農業拠点にするという計画を立てた。ところがこのような大規模な開発計画が、科学的論証と環境への影響研究抜きで着工されたのだった。その結果、アムダリア川からの導水が過多だったことと地下水の採水が過量だったことから、アムダリア川下流の水位が急速に下降し、湖面に明らかな変化が起こり、カスピ海の海岸線が以前より10〜20kmも後退した。カスピ海の水面が縮小した後、周辺地域の地下水位もそれに伴って下降した。水源が減少した結果、カスピ海周辺地域は枯渇地帯となり、風力の作用で深刻な暴砂嵐が発生、砂漠化が一挙に進んだ。同時に、湖水の枯渇によりアルカリ土壌が剥き出しになり、「白風暴」(塩分を含んだ暴風)が続々と発生し、未曾有の生態災害を引き起こし、この雄壮偉大な計画はやむなく失敗に終わった。

 一部国際援助活動の計画も、かつて似た様な状態を引き起こしたことがある。例えば20世紀60年代のアフリカ−サハラ地区で干ばつが続き、食物が深刻に不足し、餓死者が至る所に溢れた。国連は人畜飲用水の解決のため、砂漠化対策の国際行動計画を実行に移した。20年近い時間、国際機関は計6億2,500万米ドルを援助し、大量の深井戸を掘った。これら井戸を中心に、固定的な生活居住区を建設し、遊牧を定住に転換させた。家畜の数量は増加したが、畜産品の生産量は減り、緑の植生は喪失された。その結果、5年間足らずの開発・利用の後、井戸を中心とした砂漠化圏の発生を招き、生態環境は急激に悪化した。このため、国連は1987年にこの計画を中止した。

 我が国もこういった方面での失敗が数多くあり、学ぶべき教訓は深刻である。

 50年代の大躍進政策、鋼鉄大製錬、森林・草原を毀しての農地開墾、「囲湖造田[1]」といった一連の誤った政策が、大面積に及ぶ災害的な生態と経済の結果を招いた。三江平原では、1956〜1958年に10万人の復員将兵による北方大荒野の開拓進軍、1969年〜1973年に都市部知識青年45万人参加の生産建設兵団による荒野開墾運動を経て、大規模な農業開発が行われた。しかし開発計画の科学的論証性の欠如、経済効果に対する盲目的な追求、無闇で気まぐれな開発により、三江平原の農業開発は生態環境に一連の悪影響を生み、自然資源の減少や生態系のアンバランス、河川表流水の減少、地下水位の低下、森林被覆率の低下、降水量の減少、土壌の塩類化、砂漠化、土壌流失の深刻化等一連の環境問題が発生し、人口・資源・環境間の矛盾が日増しに明るみに出た。

 政策上の失敗がもたらした生態環境問題は、建国早期に出現した現象だけでなく、80〜90年代にも依然発生している。80年代中期に提出された「大鉱山を大々的に開発し、小鉱山を拡大せよ。水が有ればそれを速く流し、国家・集団・個人は一同に鉱山に上れ。」という政策は、かつて全国各地のむやみやたらな鉱物資源乱掘の気風を大いに助長した。深刻な資源の浪費と環境破壊を引き起こし、国家は数年後やむなく強硬措置を採ってこれら小規模鉱山を封鎖するに至った。80年代は、国家政策の支持のもと、製紙、電気メッキ、皮革、染色、コークス化等の業種は軒並み急成長したが、これらの成長が同時に重度に深刻な環境汚染の結果をもたらしたため、国家はやむなく是正措置を採った。1996年8月、国務院は環境を重度に汚染する企業に対し、期限付きの取り締まりを行う決定を出した。1997年末までに、全国で取り締まりや業務停止命令を受けた、製紙等環境を重度に汚染した小企業は計6万5,000社あまりに上った。これらの措置により、良好な環境効果が得られ、全国の汚染物質排出総量を目覚しく減少させた。「九五[2]」期間中、同類企業8万5,000社あまりを閉鎖処分に科した。しかし、これら企業を取り締まることは、一方で国家・地方・個人投資者に巨額の損失をもたらす。中国農業銀行一行だけでも、この取り締まり行動のために回収不能となった貸付金は、利息込みで50数億元にも達した。

 水資源の不適切な開発・利用が生態にもたらした破壊の結果は更に突出している。新疆ウイグル自治区のタリム川流域は、水を堰き止めてダムを建築したために、下流域に流入する水の量が80%以上も減少し、生態環境が急激に悪化した。タリム川流域はかつて世界最大の天然原生コヨウ林の分布を誇っていたが、水不足のため、コヨウ林は一面また一面と枯れて死んでしまった。統計によると、中・下流域のコヨウ林面積は既に50年代当時の580万haから152万haに激減し、砂漠化面積が代わって66%から80%以上に跳ね上がった。干ばつ、大風、黄砂は年々増加し、無降霜期間は短縮し、自然災害の発生率は顕著に上昇した。内モンゴル自治区内を流れる黒河上流域の開発利用計画も、局部的利益だけを見て全体的利益を無視したため、下流域の広範囲にわたって生態環境が急激に悪化した。エチナ(額済納)旗の総面積300?に及ぶ東・西居延海一帯はかつて、中国西北辺境を遮る天然のグリーンバリアとも言える大草原であり、林や草が青々と生い茂り、「風吹けば/草がうな垂れ/牛羊が見える」の一句に詠われた豊饒の地であった。しかし、20世紀60年代初頭から上流域でのダム建設に伴う堰き止めが始まり、居延海へ流れ込む水量が大幅に減少し、西居延海が先に枯れ、続いて20世紀90年代から東居延海も徹底的に枯渇し、エチナのオアシス面積はかつての6,440?から3,200?へと激減し、一方ゴビ砂漠の面積は460?あまり拡大し、1,700数万ムー[3]あった梭梭(Haloxylon ammodendron)林は300万ムーのみを残す荒林となり果て、コヨウ林も毎年1万2,000ムーの速度で消滅している。荒漠と牧草地の植生面積が大幅に減少したため、以前は30年に一度発生していた黄砂が、2000年春にはなんと19回も発生し、我が国北方の黄砂発生源の1つとなった。荒漠化が進んだことで、多くの地域が生存条件を失い、数多くの生態難民(Ecological Refugee)を生んでしまった。

 幸い、タリム川流域と黒河流域で現在水門開放措置が採られているため、状況は徐々に好転し始めている。

 国内外の教訓が再三証明しているように、経済発展の過程における重大な生態環境の損失と破壊を防止するために、関連政策と計画に対し、環境アセスメントを行い、「先に評価、その後建設」を実行することは十分に重要なことである。このため、第9期全国人民代表大会常務委員会の立法計画に、環境影響評価法が含まれることとなった。

二、立法過程は認識を統一する過程である

 環境影響評価法は1998年に起草され始めてから2002年10月の採択までに、前後にわたって4年あまりの時間を費やした。この4年間で、討論・弁論・論証が反復されたが、そのうち一部の弁論は鋭いものであった。

 1つは「フライング説」。環境アセスメントは元々西側の先進国の法律であり、一方中国は発展途上国なのだから、現在この法律を敢えて制定することは「フライング」であるというものである。このような見解は、各方面から意見を収集する際にも、人民代表大会常務委員会の審議中でも提出された。法律は先見性を有すべきものである。しかし一般の見方では、法律とは現実社会の一種のニーズであり、現実社会がそれを必要としない限り、もっぱら「フライング」的立法を行うことは当然適切であるとは言い難い。ところで、これは本当に「フライング」なのだろうか?やはり先に、中国の現実がどこまでこの法律を必要としているか、見てみることにしよう。現代化の建設の過程で深刻な生態環境問題が発生し、現代化の建設プロジェクトのスムーズな進行を妨げ、広大な人民の生活と安全をも脅かしていることは誰もが知っている。ならば、その根源は何かと言えば、紛れもなく国民経済の重大な政策と計画を策定する際、環境にもたらし得る影響を考慮しなかったことに帰結する。持続可能な発展戦略を実施し、国民経済の健全な運行を保障し、このような法律の制定を切実に要求することは、決して時期尚早ではなく、正に時期に適ったことなのである。国務院は2001年に回答した国家環境保護(保全)「十五[4]」計画の中で、「重大な経済・技術政策と発展計画および重大な経済と流域開発計画に対する環境アセスメントの実施を模索し、総合的な政策決定を規範化・制度化する」ことを明確に要求した。これは環境影響評価法の制定を要求する上での最も新しい根拠である。

 2つ目は、「実践の基礎がないため、目下この法律を制定することは時期尚早である」という見解である。これに対し、我々の調査研究結果は、世界で既に数多くの国家がこの法律を制定した、或いは関連する法律の中でこの方面の規定を作ったことを示した。そのうち、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、オランダ等国家は既に戦略的環境アセスメントの展開において比較的長い歴史を持っており、実施の結果も全て非常に良好である。一方中国は、戦略的環境アセスメントにおいてテストケースの経験を持っている。1993年、国家環境保護総局は『建設プロジェクトの環境保全に対する管理業務をより良く行うための若干意見』の文中で、地域環境アセスメントの基本原則と管理手順を提出している。1998年国務院発布の『建設プロジェクト環境保護(保全)管理条例』でも、「流域開発、開発区建設、都市新区建設・旧区改修等の地域的開発については、建設計画を策定する際、環境アセスメントを行わなければならない」と規定されている。国家の関連規定に基づき、バオトウ(包頭)鋼鉄会社、太原鋼鉄会社、馬鞍山鋼鉄会社、金山石油化学会社等の一部大型工業企業が、「八五[5]」、「九五」発展計画を結合し、環境アセスメント5ヵ年計画を実施した。これら企業が行った環境アセスメントは本法律の調整対象には属さないものの、性質と方法においては本法律の規定する計画に対する環境アセスメントと類似しており、参考価値のあるものである。資源と流域の開発方面でも、類似の戦略的環境アセスメントが展開された。西部大開発戦略の実施過程で、国家は「西気東輸」[6]、「西電東送」[7]、「青蔵鉄路」[8]等重大な計画に対し、環境アセスメントを実施している。これらの状況が表明しているように、計画に対する環境アセスメント上、我が国も一定の実践基礎を持っており、関連法律を制定することは実行可能である。また、実戦経験の多い少ないに至っては、法律を制定するか否かの主要な根拠とはなり得ない。社会のニーズこそが最も基本的な根拠である。不断の実践と総括、不断の改正と補充、これは法律が不完全なものから比較的完全なものへ、未熟なものから成熟したものへと成長していく上での必然的な過程であり、我が国のその他多くの法律も皆こうした発展段階を経て来たのである。

 3つ目は、「どういった計画が環境アセスメントの実行対象範囲に収められる必要があるのか?」という問いに絡んだ見解である。数多くの部門が、自らが策定した計画には既に環境に対する影響が考慮されており、文中には特設の環境保全の章や一節が盛り込まれているし、相応な措置も規定してあるのだから、改めて環境アセスメントを行う必要はない、と考えている。にもかかわらず、我々の経済建設の実践中、計画の不適当さによる生態環境問題が時折出現している。都市計画においては比較的早くから環境問題が注目され、計画の中に「環境保全の章節」が単独で列記されている。しかし、我々の見る環境保全の章節は、その多くが汚水処理やゴミ処理、緑化といった方面の内容を規定するものであり、都市の規模や発展の方向性、特に産業構造、配置、クリーナープロダクション、エネルギーのクリーンな使用、都市の発展と周囲の生態との結合といった規定は殆ど考慮されていない。国土整備計画においても、一部の生態問題は往々にして無視されている。例えば、湿地の保護政策措置が明確に規定されていない。このため、多くの湿地が耕地に開墾され、一部の地方ではその生態環境に悪影響を及ぼすに至っている。水利計画の方面でも問題は少なからず存在しているが、これについては先に一部列挙したので、ここでは敢えて多言しない。国民経済の各種計画に対し環境アセスメントを行い、根源から環境問題を掴む、この立法の考え方は全国人民代表大会常務委員会の認可を得た。これを受け、環境影響評価法は、国民経済に関連する計画に対し、必ず環境アセスメントを実行しなければならないという規定を作った。

 4つ目は、政策に対して環境アセスメントを行うには条件が未熟、法律・規定を作ることには反対だ、という見解である。アンケートの中で、数多くの地方が政策に対する評価を法律に盛り込むことに賛成しており、地方は、政策上の随意性こそが生態環境問題を引き起こす重要な原因であり、この根源から掴んでいかなければ、環境問題が規制を受けることは難しい、と認識している。しかし、国務院の関係部門は、政策の関与する範囲は広大であり、不確実性も高く、政策の制定にも明確なプロセスがなく、法律規定を作ったとしても、その貫徹と実行は難しい、と認識している。

 再三の討論を経て、我々は、「二段階に分けてはどうか」という提案を受けた。つまり、先に計画に対する環境アセスメントを法律に盛り込み、政策に対するアセスメントをしばらく先送りにし、一部地方を選んでテストケースを行い、経験を培い、条件が成熟したら改めて補充という形で盛り込めばいい。ましてや、国家の数多くの重大な発展政策は全て計画を通じて実施されるのだから、計画に対する環境アセスメントという部分さえ押さえてしまえば、政策の環境に対する悪影響をほぼ制御できたも同様である、というものである。

三、環境問題は根源から掴まねばならない

 産業革命以来、人々は環境汚染と生態破壊を防止する措置を探求してきた。数百年にわたる努力を経て、生まれた措置の方法は幾千幾万、しかし、いつも対策・整備をしながら汚染を出し、一難去ってまた一難。環境問題発生の根源から防止措置を採り、環境問題を起こさせない、或いは発生しても対策・整備措置を採ってその問題を最低限度まで減少させ得るような良い方法はないだろうか?しかしこのような理想論に近い措置が、本当に現れたのである。これこそが、「戦略的環境アセスメント」制度である。

 環境影響評価法は、土地利用に関する計画、地域・流域・海域の建設と開発・利用の計画、工業・農業・牧畜業・林業・エネルギー・水利・交通・都市建設・観光・自然資源の開発等一連の計画を環境アセスメントの対象範囲に取り込むと共に、必要なプロセスや法的責任も相応に規定した。つまり、国民経済の主要な計画は全て包括されたと言っても良い。もしこの法律が適切に実施されたなら、我々は生態環境問題の発生を根本から抑制することができ、環境問題を行動の前に封じ込め、持続可能な発展戦略に頼れる保障を持たせることができる。

 我々が「戦略的環境アセスメント」を重大な戦略措置と呼ぶのには訳があり、それは一事業の全局から、発展の根源から、環境に対する影響に注意を払い、防止の政策或いは技術措置を採るからである。これにより、生態環境方面の後顧の憂いを残さない或いは殆ど残さないようにすることが出来る。例えば、エネルギーの開発と利用は大気環境質を決定するカギとなる要素であるが、もし国家と各地方政府がエネルギーに関する都市計画を制定する際、環境への影響を充分に考慮し、環境保全の要求に照らして正確にエネルギー構造とその利用方法を確定するならば、我が国都市部の大気環境質の改善に基本的な保障がもたらされることになる。例えば、天然ガス等クリーンエネルギーの供給源を積極的に開発し、同時に「電気をガスに代える」ことと石炭のクリーンな使用を大いに推進する等々。もしこのような計画が立てられたなら、また段階を分けて実施されたなら、我が国の都市部大気環境質の改善は期待できる。

 環境汚染抑制と環境質の改善において、工業計画は重要な役割を持つ。我が国は既にクリーナープロダクション促進法を発布し、各種の工業活動は全てこの法の規定に従わなければならないことになった。クリーナープロダクションは工業発展が必ず由るべき道であり、工業新文明の基本的しるしである。クリーナープロダクションの実現には多方面にわたる努力が必要である。しかし、私は特に以下の点が重要であると考える。1つ目は、工業構造を正確に選択すること。沿海の多数地域にとっては、環境キャパシティが既にごく限られているため、工業の発展にはゼロ汚染或いは軽微汚染の生産品を選択しなければならない。水不足の地区にとっては、高度に水を消耗する工業生産品を避けなければならない。2つ目は、工業技術の選択において、原料とエネルギーの消耗が低く、汚染物質の排出が少量な工業技術を選択し、時代遅れの、旧式の、淘汰されつつある工業技術を再び選択してはならないこと。3つ目は、建設と同時に環境汚染対策につながる補完的施設も建設し、排出物が国家基準を充たすようにすると共に、工業廃棄物の総合利用を行うこと。4つ目は、エコ工業団地を設立し、団地内の各企業からの工業廃棄物と有害排出物を資源として企業間で循環利用させ、ゴミを宝に、害を利に変えること。5つ目は、工業を合理的に配置し、都市の市街区、特に居住区に危害を加えさせないようにすること。同時に、飲料水の水源に対する汚染と景勝区に対する悪影響を回避させること。総じて言えば、クリーナープロダクションは、工業製品が環境基準に符合することを要求するだけでなく、生産の過程に対しても職員の健康と周囲の環境を妨げないよう要求する。もし環境アセスメントが認可され、クリーナープロダクションの要求を各種工業計画と建設プロジェクトに適切に盛り込んだなら、我が国の工業生産はまた1つ新たな段階に入ることだろう。

 我が国の土地の砂漠化が進んでいることを、皆がとても心配している。これは確かに、注目に大きく値する生態環境問題である。土地の砂漠化にストップをかける上で、重要なポイントは草原の保護にある。故に、草原の発展計画に対する環境アセスメントは重要な意義を持つ。草原生態の深刻な退化を変革するには、草原法、防砂治砂[9]法、水土保持法および関連法律を確実に貫徹し、「法が有れば必ず依り、法を執るなら必ず厳正に、法に違ったなら必ず糾弾する」ことを成し遂げることが重要である。私は、以下の業務を重点的に掴むことが必要であると考える。1つ目は、草原の開墾を厳禁し、既に開墾されたものに対しては退耕還林・還草[10]を行うこと。2つ目は、草の量で飼育する家畜の量を決め、キャパシティを超えた放牧問題を切に変革させること。3つ目は、退化・砂漠化・アルカリ化・石漠化[11]が深刻な草原に対し、放牧の禁止または休牧の制度を実行すること。4つ目は、生物の多様性を保護し、絶滅の危機に瀕している貴重な動植物の保護区を設置すること。5つ目は、水源を合理的に開発・利用すること。もしこれらの要求が全て充たされたなら、草原の深刻な退化状況は徐々に抑制され、木々や草の生い茂る新たな局面が実現されることだろう。

 環境影響評価法が関与する計画は非常に広範囲にわたり、私が上に列挙したのはごく一部の計画に過ぎない。ただ、計画の根源から防止措置を採るだけで、数多くの生態環境問題が防止可能であること、たとえ問題が起こったとしても、問題を最小限に食い止めることが出来るということを説明したかったまでである。

四、総合的に政策を決定し、共同で厳しいチェックを行う

 世界環境マネジメントの最も理想的なメカニズムを一括して言えることは、「総合的な政策決定」という一句に尽きるということである。総合的な政策決定とは、私は以下の4方面での協力が含まれるべきだと考える。第一に、関係機関或いは個人が、建設計画或いは事業の提起の段階から、環境への影響に注目し、必要な防止措置を採ると共に、実施において全過程での追跡評価を行い、環境への影響に始終責任を取り、環境保全を自らの事業の一重要組成部分と捉えること。第二に、環境保全行政主管部門は、環境に悪影響を及ぼし得る一切の政策・計画・事業に対し監督を行い、審査・評価を通じ、関係機関或いは個人、ひいては政府の政策決定機関に対し意見を提出し、これら意見を最終的に政府政策決定上の基本的な根拠にさせること。第三に、政策決定の透明度を拡大して民主的なプロセスを構築し、公衆を総合的政策決定の中へと参加させ、論証会・公聴会を通じ、行動計画に対する公衆の意見を広範に求め、合理的な意見を全て吸収・採用すること。第四に、政府は一切の政策・計画・建設プロジェクトの政策決定の組織者・指導者として、民主的な政策決定のプロセスを構築し、関係方面からの意見を真摯に聴聞し、利害を全面的に均衡させた後に決定を下すこと。もし上記の政策決定プロセスに照らして事務を行ったなら、発展が引き起こした大多数の環境問題は全て防止を得ることができるか、もしくは発生したとしても、問題を最小限に食い止めることができる。

 西側の一部国家は、環境マネジメントの総合的政策決定において長期にわたる模索を行った。「戦略的環境アセスメント」制度を実施して初めて、真の総合的政策決定メカニズムが構築できると言っても良い。このようなメカニズムは、一事業の発展政策と計画の初期段階から、早々に環境への影響に注目し、防止措置を採るものである。これにより、全局的且つ広範囲にわたる環境問題の発生を回避し、実践が証明するように、これは非常に効果的な措置である。我が国の30年間にわたる環境マネジメントの実践において、非常に深く感じさせることは、総合的な政策決定に参加することの重要性である。しかし、いつもそのきっかけが見当たらない。現在、環境影響評価法が公布され、環境保全行政主管部門・関係機関・公衆による、総合的政策決定への参加の権利とプロセスが明確に規定され、政府の審査・認可、環境保全行政主管部門による統一管理、計画の環境影響に対する関係機関の責任、および公衆による広範な参加という新たなメカニズムが形成された。これは我が国の環境マネジメントにおける新たな発展であり、意義は重大である。

 法律は、関係部門は特別項目計画[12]の策定に対し、計画が初歩的プランを形成する当初から上部へ報告して審査・認可を待つまでの間、環境アセスメントを実施すると共に、計画を審査・認可する機関にその環境影響報告書を提出しなければならないことを規定している。環境影響報告書は、以下3項目の主要な内容を含むものでなければならない。1、その計画を実施する際、環境にもたらし得る影響に対する分析、予測と評価。2、環境に対する悪影響を予防或いは軽減する対策と措置。3、環境アセスメントの結論。法律は更に、区が設置されている市級以上の人民政府が特別項目計画の案に対する審査・認可を行い、政策決定をする前に、人民政府指定の環境保全行政主管部門或いはその他部門は、関連部門の代表と専門家を召集して審査を行うと共に、書面の審査意見を提出しなければならない、と規定している。この書面の審査意見は権威性を有し、政府が認可をするか否かの基本的根拠となるものである。環境に多大な影響をもたらす計画が実施された後、策定機関は更に環境影響に対する追跡評価を適時に行い、同時に評価結果を審査・認可機関に提出しなければならない。明らかに環境に悪影響をもたらすことが発見された場合、是正措置を直ちに提出しなければならない。

 指摘すべきことは、環境アセスメントに対する審査は、環境保全行政主管部門の重要な職責であるだけでなく、関連部門もこれに積極的に参加し、また計画実施後の影響に対しても責任を負わなければならないことである。虚偽の報告をして、事実に背いた場合、法的責任を追及されなければならない。これら規定は、関係部門に、計画策定段階から計画実施後に至るまでの、自己の全ての行為に責任を持たせ、環境保全を事業発展の組成部分と見なし、自己管理業務の職責とさせるものであり、環境監督管理部門を適当にあしらうための規定ではない。これら規定は積極的な意義を有するものである。

 法律は、公衆の環境アセスメントに対する参加についても明確に規定している。「特別項目計画の策定機関は、環境に悪影響をもたらし得る、また公衆の環境に対する権益に直接関与する計画について、その計画の案を上部に送り報告する前に、論証会・公聴会を開く或いはその他形式を採り、関係機関・専門家・公衆の、環境影響報告書の案に対する意見を求めなければならない」。「策定機関は、関係機関・専門家・公衆の、環境影響報告書の案に対する意見を真摯に考慮し、同時に上部に審査を仰ぐために提出する環境影響報告書の中に、意見の採用或いは不採用についての説明を添付しなければならない」。法律は、建設プロジェクトに対する環境アセスメントに関する記述の中でも、同様の規定をしている。これら規定は全て、公衆と専門家の、計画と建設プロジェクトに対する環境アセスメントにおける参加の範囲・プロセス・方法および公衆の意見の法的地位に対し明確な規定を行うものである。公衆の意見を、環境影響報告書にとって欠かすことの出来ない組成部分にしたのである。これらの規定は、以前の環境保全の法律にはなかったものである。これは、国家が公民の環境に対する権益を非常に重視し、公衆の環境保全に係る政策決定と監督に対する参加を重視していることを物語っている。

 現在打ち出されている環境影響評価法は、依然として不完全である。例えば、政策に対する環境アセスメントや、政策決定者の法的責任等の問題については、規定がなされていない。これについては実践を通じ、不断に改正と補充を行うことで、完全なものにして行くほかない。

 環境影響評価法の実施は、チャレンジ性を多大に有する任務である。これは、計画実施後にもたらされる、環境に対する広範囲と長期間に及ぶ多種の行為が交錯・累積する影響に対し、信憑性の高い評価を下し得る能力を持たせ、国民経済の各項事業が持続可能な発展の方向へと成長して行くことを押し動かすために、政府の計画決定上のパターン化された方法とプロセスに変革を要求するものであり、よりオープンで民主的な政策決定方法とプロセスを確立し、建設プロジェクトに対する環境アセスメントとは違ったワンセットの方法と新技術の形成・発展を要求するものである。

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[1] 人民公社時代以来の政策で、食糧増産のために湖岸を埋め立て耕地とすることを奨励する――訳注

[2] 第9次5ヵ年計画(1996〜2000年)。以下、訳文では「九五」と略称する――訳注

[3] 中国の面積測量単位。1ムー(畝)は1/15haに相当する――訳注

[4] 第10次 5ヵ年計画(2001〜2005年)。以下訳文では「十五」とする――訳注

[5] 第8次5ヵ年計画(1991〜1995年)。以下訳文では「八五」とする――訳注

[6] 新疆ウイグル自治区のタリム盆地の天然ガスを河南、安徽、江蘇、浙江、上海に輸送するプロジェクト。タリム盆地の天然ガス資源の調査・開発、タリムから上海までのパイプライン建設、天然ガス利用施設の建設などが含まれる。以下訳文では「西電東送」とする――訳注

[7] 西南部、西北部の豊富な水力エネルギー資源と石炭資源の開発を通じて、大容量、長距離、超高圧の送電ルートを建設し、東部沿海地域へ輸送するプロジェクト。北部、中部、南部の3ルートに分けられる。北部ルートとは、「三西(山西、陝西、内モンゴル西部)」の坑口発電所と黄河上流部の水力発電所から河北、山東に送電するルート。中部ルートは、三峡ダムを中心に華中と華南に送電。南部ルートは、西南部の水力発電所、坑口発電所及び三峡ダムから広東に送電。以下訳文では「西電東送」とする――訳注

[8]青海省の西寧と西蔵(チベット)自治区の拉薩(ラサ)を結ぶ鉄道。全長1,963q。西寧〜格爾木(ゴルムド)間845kmは1979年に開通している。第10次5ヵ年計画期間には格爾木〜拉薩間1,118kmが新たに建設される。以下訳文では「青蔵鉄路」とする――訳注

[9] 中国語は「防沙治沙」。砂漠化防止と砂による被害抑制のための整備・対処を指す。以下、訳文では「防砂治砂」とする――訳注

[10] 森林(草原)を切り開いて作った耕地を元の森林(草原)に還元すること。以下訳文では「退耕還林・還草とする――訳注

[11] 南方の山地荒漠化の特殊な形式で、荒漠化の一種――訳注

[12] 中国人民共和国環境影響評価法の条文解釈第八条参照。以下同――訳注


緒論

 中国共産党中央の認可を経て、環境影響評価法は第9期全国人民代表大会常務委員会の立法計画に取り込まれた。この立法計画を着実に実行するため、全国人民代表大会環境・資源保護委員会は、王涛副主任委員をグループ長とし、胡敏、江小珂、陳潜、兪沢猷委員を構成員とする『環境影響評価法』起草指導グループを成立させ、起草指導グループは下に全国人民代表大会環境・資源保護委員会の法案室主任孫佑海、王鳳春、蔡微、王?ら同志で結成される起草作業グループを設置した。起草指導グループは、まず国家環境保護総局に本法草案初稿の起草を委託した。起草作業グループはこの基礎に立ち、「法律の枠組み案」と、その後の「意見を仰ぐための法律案」を提出した。「意見を仰ぐための草案」が提出された後、起草指導グループは国務院関係部門から意見を再三にわたり聴聞し、専門家を集めて論証を行うと共に、複数回各地へ赴き調査研究を行い、地方の人民代表大会、政府と関係部門、企業と専門家の意見を聴聞した。起草期間中、全国人民代表大会環境・資源保護委員会は代表団を結成してアメリカ、メキシコに赴き、環境アセスメントの立法と実施の状況について考察を行った。2年あまりにわたる努力を経て、また全国人民代表大会環境・資源保護委員会の2度にわたる委員会全体会議の審議を経て、「草案」が形成された。全国人民代表大会常務委員会はこの法を2000年審議具申の年度立法計画に盛り込んだ。全国人民代表大会環境・資源保護委員会はこの計画を厳格に執行し、2000年11月29日、本法草案を正式に全国人民代表大会常務委員会に具申し、審議を仰いだ。第9期全国人民代表大会常務委員会第19回会議は2000年12月26日、環境影響評価法の草案に対し初審を行った。初審の過程において、全国人民代表大会常務委員会の多数委員は、本法草案が我が国の持続可能な発展に対する切迫したニーズを反映するものであると考え、この法律の制定に賛成し、更に一歩改正した後、本法が早急に公布・施行されることを望んだ。その後、意見を広範に求めることを開始し、国務院の関係部門は、草案の提出する、政府の政策と計画に対し環境アセスメントを行うことについて、異見を唱えた。再三にわたる調査研究、意思疎通と協調と経て、認識と思想を不断に統一し、最終的に関係方面で以下のような共通認識に達した。(1)環境影響評価法を制定することは必要である。(2)政策に対し環境アセスメントを展開するには、時機、条件共に未熟であり、経験を培い、条件が揃うのを待って、改めて規定を設けるべきである。(3)政府の一部経済発展計画に対し環境アセスメントを行うことは、必要でありまた実行可能である。(4)建設プロジェクトに対する環境アセスメントは、国務院現行の行政法規を基礎とし、そのうち重要な規定を法律・法規に格上げする。全国人民代表大会環境・資源保護委員会、全国人民代表大会法律委員会、全国人民代表大会常務委員会法制工作(=活動)委員会は、この基礎に立って草案を改正し、この草案の改稿版を全国人民代表大会第29回常務委員会に具申し、二審を仰いだ。第29回常務委員会の会議上、圧倒的多数の常務委員会構成委員が新改正案に賛成し、全国人民代表大会常務委員会で早急に採択することを願った。李鵬委員長は自らグループ会議に参加し、意見を聴取して討論に参加し、また改正の方法についても具体的な意見を提出した。会議の後、全国人民代表大会法律委員会は、全国人民代表大会環境・資源保護委員会等関係部門と共同で、本法草案に対し再び修正を行い、第30回常務委員会に具申し、三審を仰いだ。10月28日の全体会議上、会議に出席した127名の常務委員会構成委員は表決を行い、賛成125票、棄権2票という高得票で、『中華人民共和国環境影響評価法』を採択し、同日、中華人民共和国国家主席江沢民は、第77号主席令を以って公布し、2003年9月1日から施行するものとした。


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