中條(1997)による〔『エンジニアのためのプラスチック教本』(1-2p)から〕


第1章 プラスチックとは
1.1 プラスチックの定義

 まず、ポリマーおよびプラスチックの定義について述べる。
 表1.1に、JIS K6900に示されている関連材料の定義をまとめて示した。なお同表の欄外には参考までにIUPAC(国際純正および応用化学連合)のポリマーの定義を示した。この定義は微妙な表現があるので英文のままに記載しておいた。
表1.1 JIS K6900の定義

用語

意味

対応英語
高分子 分子量の大きい(たとえば1万以上)化合物で、物性に対する分子量の影響が比較的小さいものをいう。 high polymer
重合体 特定な化学構造単位の反復繰返しによってできている化合物をいう。 polymer
合成樹脂 合成によってつくられた高分子物質で、プラスチック、塗料、接着剤などの主原料である。これに対して植物または動物から得られた樹脂状物質を天然樹脂という。 synthetic resin
プラスチック 高分子物質(合成樹脂が大部分である)を主原料として人工的に有用な形状に形づくられた固体である。ただし、繊維、ゴム、塗料、接着剤などは除外される。 plastic
付)IUPACのポリマーの定義
“A substance composed of molecules characterized by the multiple repetition of one or more species of atoms or groups of atoms (constitutional unit) linked to each other in amount sufficient to provide a set of property that does not vary markedly with the addition or removal of one or a few of the constitutional unit”

 IUPACおよびJISの高分子の定義はいずれも、物性に対する分子量の影響が比較的小さいという表現を含んでいるが、分子量範囲の厳密な表現もなく、性質の種類に関する限定もなく、性質の変化に関する定量的な表現もない。これは、鉄、塩化ナトリウム、メタンなどの他の物質が組成や性質を厳密に限定しうることに比べると大きな差異である。
 また、ポリマーの範囲で分子量の影響が比較的少ない物性としては引張強さ、弾性率、ガラス転移温度などがある。衝撃強さは高分子量まで相当分子量依存性があるし、溶融粘度に至っては分子量依存性は非常に大きい。
 このようなポリマー自体の定義のあいまいさは宿命的なものであるが、そのあいまいさこそがポリマーをベースとする多種多彩な産業(プラスチック、繊維、エラストマー、紙、塗料、接着剤など)が展開されてきた最大の要因であるといえるのである。
 上述のように、ポリマーの分子量範囲とはとくに限定されていないが、JISの定義に示されている分子量1万以上というのはほぼ一般に容認されている。そこで、「ポリマーとは分子量1万以上の、主として共有結合でつながった化合物」と理解しておくのが実用的に妥当であろうと考える。
 JISでは高分子と重合体を区別しているが、ここでは一括してポリマーという言葉を使用する。また、合成樹脂およびプラスチックの定義はJISに示されているとおりで、科学的というより技術的な概念である。すなわち、基本的に実用性に重点がおかれた概念であることに特に留意しておく必要がある。』