竹本・稲木(1993)による〔『有機工業化学』(135、140-141p)から〕


5章 高分子
5.1 はじめに

 石油化学工業の発展に伴い多種多様の石油化学製品が生産されている。プラスチック、合成繊維、ゴム、塗料など高分子化学製品の全石油化学製品に占める割合は80%以上にもなり、現在、高分子化学工業は化学工業の重要な分野となってきている。
 高分子化学工業は、木材、皮革、樹脂、ゴムなどの動植物から生産されるセルロース、タンパク質といった天然高分子を処理、加工して利用する工業から出発した。ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの合成高分子を生産する高分子化学工業は害二次世界大戦以後に発展したが、石油化学工業の発展による安価な原料の大量生産と関連して、さらに大きく伸びてきた。
 合成高分子化学工業は、プラスチックや合成繊維、ゴムなどとして使用されている汎用の合成高分子の生産技術から始まり、金属代替としてのプラスチック(エンジニアリングプラスチック)へと発展してきた。さらに、高強度、耐熱性などの高度の性能をもつプラスチック、繊維、また特殊な機能をもつ機能性高分子へと進展している。
 この章では、高分子化学工業について、プラスチック、合成繊維、ゴムなどに使われている合成高分子、特殊な機能をもった機能性高分子、ならびに紙、天然繊維などの天然高分子を中心に説明する。』

5.3 プラスチック
 合成高分子はプラスチック、繊維、ゴムなどとして、また塗料、接着剤の基材としてわれわれの身の回りで広い用途がある。合成高分子には以下に述べる多くの種類があるが、それぞれの用途に適した高分子が用いられている。しかし、実用的には多くの特性が、ときには相反する性質が要求されるために、1種類の高分子では対応できず、多種類の高分子の混合物や、共重合体として供されている。また、可塑剤、着色剤、安定剤、難燃剤、充填剤なども添加されている。たとえば、アクリル繊維はアクリロニトリルを主成分とするが、塩化ビニルやその他のビニルモノマーとの共重合によって、耐熱性、染色性、紡糸の際の溶剤への溶解性が改善され、優れた繊維となっている。
 プラスチックは天然および合成樹脂を原料とした成形品を意味すると定義され、繊維、ゴム、塗料、接着剤以外のものである。広くプラスチックといわれているものは、ほとんど合成樹脂を原料としている。プラスチックは一般に広範な用途をもち、日用品、電気および機械部品、建築材料、医用高分子材料をはじめ多くの分野にその利用が及んでいる(図5.2)。
図5.2 プラスチックの分類と用途
 

樹脂(略号)

用途

プラスチック

熱可塑性樹脂

ビニル重合系
(汎用樹脂)
ポリエチレン(PE) フィルム、シート、成形品、繊維
ポリプロピレン(PP) 成形品、フィルム、パイプ、繊維
ポリスチレン(PS) 成形品、発泡材料、ABS樹脂
塩化ビニル(PVC) パイプ、ホース、シート、板
塩化ビニリデン(PVDC) フィルム、繊維
フッ素樹脂 耐薬品機械部品、防食ライニング
アクリル樹脂 板、成形品(建築材、ディスプレイ)
ポリ酢酸ビニル樹脂 塗料、接着剤、チューインガム

重縮合、開環重合系
(エンジニアリングプラスチック)
ポリアミド樹脂 機械部品
アセタール樹脂 機械部品
ポリカーボネート(PC) 機械部品、ディスプレイ
ポリフェニレンオキシド 電気、電子部品
ポリエステル FRP(成形品、板)、化粧版、フィルム
ポリスルホン 耐熱成形品、電気、電子部品、食器
ポリイミド 耐熱性フィルム、接着剤

熱硬化性樹脂
フェノール樹脂 積層品(板)、成形品
ユリア樹脂 接着剤、繊維、紙加工用
メラミン樹脂 化粧版、塗料
アルキド樹脂 塗料
不飽和ポリエステル樹脂 FRP(成形品、板)
エポキシ樹脂 塗料、接着剤、絶縁材
ケイ素樹脂 成形品(耐熱、絶縁)、オイル、ゴム
ポリウレタン樹脂 発泡体、合成皮革、接着剤