園田(1993)による〔『有機工業化学』(4-6p)から〕


1.3 有機化学工業の原料資源
 有機化学工業の原料資源は図1.1(略)に示すとおりであり、現在の主要化学製品の大部分は輸入した石油から得られるナフサを出発物として合成されている。石油のような貴重な炭化水素資源は燃料として燃やすのではなく、物として利用できる製品の原料、すなわち合成化学の原料として使用すべきである。また石油危機を契機として石油資源の限界と価格の高騰を経験した結果、将来に向かって石油以外の原料資源の開発や、廃資源、廃材料、廃棄物の再利用(リサイクル)が大きな課題であり、そのための研究および技術開発がなされている。これらの努力は新しいエネルギー源の開発とあい呼応して進められ、その成果が上がりつつある。
 将来の炭素資源として注目されるのは資源量が石油の50倍もあるといわれる石炭である。石炭の液化による液状炭化水素の製造は、将来石油に代わる燃料および合成化学原料の確保のための重要な課題であり、その開発が進められている。
 また石炭をはじめ天然ガスその他の炭化水素資源は、いずれも一酸化炭素、二酸化炭素、メタノール、メタンなど炭素数1個の化合物(C1化合物という)に変換できる。ここにC1化合物を原料として、燃料のほか種々のC2以上の有用な化合物の合成に大きな期待が寄せられ、“C1化学”と称して重要視されている。すぐれた触媒の開発が鍵であり、すでにメタノールと一酸化炭素からの酢酸の合成などが工業的に実施されている。また一酸化炭素と水素(合成ガス)からエチレンやグリコールなどを製造する技術の開発は、現在の石油化学工業の体系に石炭原料を組み込む方法として、すでにその基礎が確立されている(3.9および4.3節参照)。
 再生不可能な石油、石炭などのいわゆる化石資源に対し、再生可能な資源として注目されているものにバイオマス(biomass)がある。バイオマスとは、自然界の光合成依存物質循環系(植物→微生物→有機および無機質→植物)に含まれるすべての生物有機体を指し、すでに食料、木材、燃料などとして利用しているのも含まれる。地球上で毎年再生されるバイオマスの量は約1,250億tとも言われ、これらをエネルギーや有機化学工業用原料資源として積極的に利用するための化学(バイオマス化学)や微生物的、各種物理的、化学的変換(バイオマス変換)処理を行う技術の開発が進められている。たとえばサトウキビ、ワラ、トウモロコシからのアルコールの生産や、アオサンゴ、ホルトソウ、ホホバなどゴム樹類からの炭化水素、また都市ゴミ、汚泥からのメタン、藻類からの水素、タンパク質の生産など、将来に向けての可能性は大きい。』