(株)フジ・テクノシステム・(社)日本工業技術振興協会(編)(1991)による〔『レアメタル事典*』(4-6p)から〕


1.レアメタルの定義
 近年、エレクトロニクス、ファインセラミックスなどをはじめとするいわゆる先端技術産業の発展は目覚ましいものがある。これらの先端技術は、レアメタルと呼ばれる一群の金属元素を原料とする機能性材料によるところが多く、その重要性は今後ますます高まることが予想される。しかしながら、このレアメタルなる名称はかなり一般的に用いられているにもかかわらず、極めてあいまいな概念で具体的な金属元素などについて特定されているわけではない。以下、従来レアメタルの概念として定義されていたいくつかの要素について述べる。
 レアメタルの古典的な定義として著名なのは、34の元素群を対象金属とした1954年刊行の“Rare Metals Handbook”で、編者C.A.Hampelは、この分野の研究の先駆者であるJ.W.MardenとC.G.Finkが電気化学協会のシンポジウムなどにおいて、この用語を長い間使用していたため、Rare Metalをこのハンドブックに冠したと述べ、“Less Common Metals”、“Unusual Metals”、“Extraordinary Metals”などの用語に比べて誤解されにくいとしている。また、その定義として以下のいずれかに該当するものとしている。
(1)自然界における供給量ないし地殻中における賦存量が少ない場合、
(2)対象となるある金属がかなり広く存在していても、採掘の対象となる鉱床の品位が低く、化合物の形であれ、元素の形であれ、所要の元素を少量抽出するために大量の無価値な物質を取り扱うなり、処理しなければならない場合、すなわち、経済的に望ましい品位の鉱石を含む鉱床が非常に少ない場合、
(3)対象となる元素の化学的・物理的な性質が、純粋な元素への転換の極めて困難なものである場合、
(4)その元素の入手が可能であるとしても、現行の他の素材に競合して新規需要を創出するに足る魅力的な特性ないし用途がない場合、などである。更に、Hampelは1961年の改訂版ではレアアース研究の進展に伴い、36の元素群を対象として取り上げている(1)
 我が国では、「新金属」あるいは「特殊元素」と呼ばれている元素がほとんど同意語として使用されてきたし、現在でも使用されている。なお、この新金属(New Metals)という用語は1951年ごろIron Age誌で用いられたものと言われる(2)。また、「特殊元素」については昭和43年の科学技術庁資源調査会報告「特殊元素に関する調査報告」(3)および日本鉄鋼協会から昭和52年に刊行された「特殊元素の開発および利用に関する基礎資料」(4)においてレアメタルのほぼ同意語とみなしている。
 レアメタルの対象としての元素群をいくつかの事例について具体的に挙げると、表-1のようになる。
表-1 レアメタル対象としての金属群
元素名 レアメタル金属群 元素名 レアメタル金属群
亜鉛〔Zn〕*
アンチモン〔Sb〕*
イッテルビウム〔Yb〕*
イットリウム〔Y〕*
インジウム〔In〕*
エルビウム〔Er〕*
カドミウム〔Cd〕*
ガドリニウム〔Gd〕*
ガリウム〔Ga〕*
金〔Au〕*
クロム〔Cr〕*
ケイ素〔Si〕*
ゲルマニウム〔Ge〕*
コバルト〔Co〕*
サマリウム〔Sm〕*
ジスプロシウム〔Dy〕*
ジルコニウム〔Zr〕*
スカンジウム〔Sc〕*
ストロンチウム〔Sr〕*
セシウム〔Cs〕*
セリウム〔Ce〕*
セレン〔Se〕*
タリウム〔Tl〕*
タングステン〔W〕*
炭素〔C〕*
タンタル〔Ta〕*
チタン〔Ti〕*

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ツリウム〔Tm〕*
テルビウム〔Tb〕*
テルル〔Te〕*
ニオブ〔Nb〕*
ニッケル〔Ni〕*
ネオジム〔Nd〕*
白金〔Pt〕*
バナジウム〔V〕*
ハフニウム〔Hf〕*
パラジウム〔Pd〕*
バリウム〔Ba〕*
ビスマス〔Bi〕*
ヒ素〔As〕*
プラセオジム〔Pr〕*
プロメチウム〔Pm〕*
ヘリウム〔He〕*
ベリリウム〔Be〕*
ホウ素〔B〕*
ホルミウム〔Ho〕*
マンガン〔Mn〕*
モリブデン〔Mo〕*
ユーロピウム〔Eu〕*
ランタン〔La〕*
リチウム〔Li〕*
リン〔P〕*
ルテチウム〔Lu〕*
ルビジウム〔Rb〕*
レニウム〔Re〕*
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*:本節対象金属
◎:超希少元素(元素の存在度1ppm以下、科学技術庁資源調査会報告第100号)
○:希少元素(元素の存在度1〜1,000ppm、科学技術庁資源調査会報告第100号)
●:豊富元素(元素の存在度1,000ppm以上、科学技術庁資源調査会報告第100号)
◆:先端科学技術からみた希少元素の種類(科学技術庁資源調査会報告第100号)
■:埋蔵量の偏在している希少元素の種類(科学技術庁資源調査会報告第100号)
▲:生産量の偏在している希少元素の種類(科学技術庁資源調査会報告第100号)
△*:備蓄対象希少金属(鉱業審議会レアメタル総合対策特別小委員会)
△:備蓄対象外希少金属(鉱業審議会レアメタル総合対策特別小委員会)
★:1961版 Rare Metals Handbook(C. A. Hampel)の対象希少金属
◇:希少金属と先端技術(通商産業省通商政策局国際経済部編)の対象希少金属
□:レアメタルの高純度化等による新機能創製のための基盤技術(科学技術庁)の対象希少金属

@ C.A.Hampel編:“Rare Metals Handbook”(1961)(1)
 Ca、Ba、Sr、Be、Bi、B、Cd、Cr、Co、Nb、Ga、Ge、Hf、In、Li、Mn、Mo、白金族金属、Pu、レアアース、Re、Rb、Cs、Se、Si、Ta、Te、Tl、Th、Ti、W、U、V、Zr
の34種類(ただし白金族6元素、レアアース16元素は一種類とした)
A 通商産業省通商政策局国際経済部編:“希少金属と先端産業”(1982)(5)
 @の元素群から核燃料、需要の本格化していない元素などを除く一方、先端技術に関連するNiを加えた、
 Ba、Be、Bi、Co、Cr、Ga、Ge、Li、Mo、Nb、Ni、レアアース、Se、Si、Sr、Ta、Te、Ti、V、W、Zr、Hf
の22種類(ただしレアアース17元素は一種類とした)
B A.N.Zeilikmanら(1966)とM.A.Filyら(1970)の著書に基づいた分類(6)
 ZelikmanらとFilyらの著書にレアメタルとして記載されている元素群を、物理的・化学的性質、製錬法、賦存量などに基づいて分類したものを表-2に示した。
表-2 レアメタルの選択・分類
(学振非鉄冶金第69委員会、第6回非鉄冶金シンポジウム講演資料)
分類 元素名
Light Metals Li、Rb、Cs
Be
Ta
Ua
Refractory Metals Ti、Zr、Hf
V、Nb、Ta
Mo、W
Wa
Xa
Ya
Za
Trace Elements Ga、In
Ge
Se、Te
Re
Vb
Wb
Yb
Za
Rare Earth Metals Sc、Y
Lanthanides(La〜Lu)
Va
Radioactive Metals Ra
Ac、Actinides
Po
Ua
Va
Yb

C 科学技術庁資源調査所編:“主要な希少元素の資源の有効利用に関する調査報告”(1986)(7)
* 資源面からみた注目すべき元素群: He、Li、B、C、Be、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、Mg、K、As、Se、Sr、Zr、Nb、Mo、白金族金属、In、Te、Hg、レアアース、Ta、W、Au、Bi
の29種類(ただし白金6元素、レアアース16元素及びHf、Zrの2元素はそれぞれ一種類とした)
* 先端科学技術面を支える材料面からみた注目すべき元素群: He、B、C、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、As、Zr、Nb、Mo、白金族金属、In、Sn、Te、Ba、レアアース、Ta、W、Pb
の26種類(ただし白金族6元素、レアアース16元素及びHf、Zrの2元素は一種類とした)
D 鉱業審議会レアメタル総合対策特別小委員会編:“レアメタルの総合対策について”(1987)(8)
 通商産業大臣の諮問機関である「鉱業審議会レアメタル総合対策特別小委員会」では、1987年8月に31鉱種のレアメタルについて、「新素材の現状と見通し」(1984年3月−産業構造研究会)、「基礎新素材研究会中間報告」(1984年7月−基礎新素材研究会)、「Mineral Facts and Problem」(1985年版−U.S.Bureau of Mines)などを参考にし、2000年における市場規模を1985年と対比して予測したが、その対象レアメタルは、
* 備蓄対象となっている元素: Ni、Cr、W、Co、Mo、Mn、V
* 備蓄対象以外の元素: Nb、Ta、Sr、Sb、Pt、Pd、Ge、Ti、Li、Ga、B、Se、Te、Rb、Zr、Hf、In、Cs、Ba、Re、Tl、Bi、レアアース、Be
の備蓄対象元素を含めて31種類(ただしレアアース17元素は一種類とした)
E 科学技術庁:“レアメタルの高純度化による新機能創製のための基盤技術の開発”(1987)(9)
 昭和62年度から5ヵ年計画で進められている「レアメタルの高純度化による新機能創製のための基盤技術の開発」では、機能別の最重要元素として、
* 電子的機能元素: Ga、As、W、B、Nd、Mo、Zr
* 光学的機能元素: Nd、La、Nb
* 磁気的機能元素: Nd、Sm、Co、Tb、Dy、La
* その他の機能元素: Mo、Ti、B、Dy、Gd
の15種類を高純度化の対象レアメタルとして摘出。
 以上、いくつかの文献から具体的な元素名を挙げてみたが、「レアメタル」を定義どおりMetalにかかわって狭義に解釈すればかなり限定されるが、それでも他の非金属元素との境界は必ずしも明確でない。また、Metalに限定すること自体も実態とは異なる。国の資源備蓄対策上の扱い、希少価値を有するが故に高価であるなど、レアメタルとみなされる元素の割合が多くなってきている。更に、近年ではその産出がまれなことではなく、高純度化により元素それ自体が特殊機能をもつか、または、少量の添加により特殊機能を与え得る、従来は必ずしもレアメタルとして取り扱われなかった半金属、半導体、非金属の一部もレアメタルの範囲に入れられるようになってきている。
 なお、最近刊行された新素材用語辞典(10)ではレアメタルの要件として、
(1)賦存量が少ない元素、
(2)広く分布しているが、採掘可能の鉱床の品位が低いため製錬コストが高くつく元素、
(3)元素の形に還元するのが困難な化学的・物理的性質をもち、製錬が技術的に難しい元素、
これらのいずれかに当てはまるものとしている。
 本書(基礎編)では、辞典としての性格を考慮し、単体ないし、合金・化合物の形で、機能性材料などに用いられる希少元素および重要な副資材としての元素を幅広くカバーするという方針をとり表-1に示す元素群を対象に選定した。今後もレアメタルの定義は、資源の埋蔵量・生産量・可採年数などの変化、資源の偏在性、資源保有国の政情・経済情勢、国の経済・社会の発展、生産コスト、先端技術の動向などにより、時代とともにかなり幅広く定義されていくであろう。』

参考・引用文献(関係分のみ)
(1)
 C. A. Hampel: Rare Metals Handbook, Reinhold, p.2 (1961)。
(2) 森山除郎:高純ケイ素の製造の歴史(1)、水曜会誌、第20巻第8号、p.473(1987)。
(3) 科学技術庁資源調査会:特殊元素に関する調査報告(1968)。
(4) 日本鉄鋼協会:特殊元素の開発および利用に関する基礎資料(1977)。
(5) 通商産業省通商政策局国際経済部編:稀少金属と先端技術、日刊工業新聞社、p.2、pp.101-232(1982)。
(6) 明石和夫:レアメタルの製錬とその周辺技術の進歩に関する展望、学振非鉄冶金第69委員会第6回非鉄シンポジウム講演資料、p.1-2、p.42、p.59(1981)。
(7) 科学技術庁資源調査会:主要な稀少元素の資源有効利用に関する調査報告−先端科学技術の開発促進のために−、科学技術庁資源調査会報告、第100号、p.14、pp.41-45、p.61、pp.84-86(1986)。
(8) 松川圭男:レアメタル資源の現状と問題点、資源処理技術、Vol.34、No.4、pp.12-18(1987)。
(9) 工業レアメタル、No.93、Annual Review '88、新市場編、pp.1-8(1987)。
(10) 青柳全編:新素材用語辞典、日刊工業新聞社、pp.254-255(1986)。



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