Abstract
『T.はじめに
地学の文明に対する寄与は、資源・環境・および安全の3つの分野にまとめる事ができるであろう。このうち資源は、いうまでもなくエネルギー・鉱物等の地下資源の探査・開発による寄与であり、環境はその維持や改造に、また安全とは地震・噴火・地辷り等の予知や予防に関することであり、それぞれにおいて地学が重要な寄与をする余地が大きいとみられる。
しかし、資源問題として現在議論されている内容は、多くの場合“資源の安定供給を確保するための問題”であり、そのような“資源論”が主として国際経済学の立場から議論されている。
元来、資源問題は本質的に量の問題と配分の問題という二面性をもっており、常に両面からのアプローチと解析が必要であるにもかかわらず、従来ともすれば配分の問題だけが国際経済学者によってとりあげられ、量の問題が地学者によって議論される事は少なかったという傾向がある。
一方、安定供給をめぐる最近の考え方として、世界の資源供給力を増加させれば日本への供給も保証されるであろうという考え方がでてきている。これは供給量をふやすことにより、原材料の量によってシステムの大きさがコントロールされるのを防ごうという発想であり、資源問題において地学が大きく寄与する事を期待する議論につながるものともいえよう。しかし探査を通じて世界の資源供給力を増強するという形でしか、地学は資源問題にかかわる事ができないのであろうか。本論では、地学の寄与する余地は必らずしも探査ばかりではないという事例を述べ、資源問題における地学のフレームワークを考えるための資料としたい。この分野には地学の新しい地平が秘められている可能性があるのではなかろうか。
なお、地下資源は文字通り土着のものであり、従って資源問題とか資源論は常に国家の枠組みを考慮して議論されざるを得ないので、必然的にinterdisciplinaryな性格を有している。』
U.地殻の金属含有量からの検討−地球化学的アプローチ−
V.国別の生産量にかかわる問題−地理学的アプローチ−
(1)偏在性について
(2)国土面積と生産量の関係
(3)単位面積当りの鉱物生産額
W.地学周辺の分野からの資源論−主に統計資料によるアプローチ−
(1)需給バランス及び価格の変動と鉱量の関係
(2)資源は不足するのか
『X.結び
以上レビューしてきた諸研究は、地球化学的アプローチともいうべき地殻中の平均元素含有量を基礎として生産量や埋蔵量を検討したものと、地理学的アプローチともいうべき国土面積を基礎として各国の生産量を検討したもの、及び主に統計的手法によるものとに3大別できる。
このような研究が比較的最近になって始まり、急激に広い分野の研究者をまき込んで行なわれている理由は、資源論の学際的性格に起因し、各分野の研究者がそれぞれの立場からcontributeできるという資源論または資源問題の普遍性がその主な理由と見られる。また、鉱物資源の供給可能量についての悲観的な予測が多い事もこの種の研究をさかんにしている理由であろう。
資源の供給可能量についての悲観的な立場の議論は、『鉱物が地球から採取・抽出されるに従って、残りの鉱物を採取・抽出するのは漸次困難になり、より多くの資材・エネルギーを必要とするようになる』という考えに立つものである。
これについては、前述の新島(1973)のように新しいテクノロジーの開発によって問題を解決できるという考え方があった。
然し、このようなテクノロジーに希望を託す考え方は、化石燃料のような供給可能量の有限性がはっきりしている鉱種から漸次否定されてきており、これにからんで第16図(略)のようなショッキングな図も提出されている。
ついでSkinner(1976)によって前述のように採掘品位を下げても供給可能量は増加しないのではないかという疑問が提出され、テクノロジーの進歩が資源の供給可能量を増加させてくれるであろうという希望をもつ事ができなくなりつつある。このSkinner(1976)の提出した問題点については、彼自身がのべているように充分なチェックが必要であろう。
また、資源及び資源論を従来の鉱種別の枠組みから、物性や機能別の枠組みにくみかえて、代替可能ないくつかの鉱種を、所要エネルギーを基準として比較する事が重要ではないかと思われる。
最後に『地史の中には過去ばかりでなく、現在も未来もあるという事を認識して、ライエルやダーウィンの長期的な視点に立ち戻れば、地球の歴史、進化・絶滅、資源などについての深い知識を内蔵する地質学が再び知的リーダーシップのひとつとなるであろう』というHubbert
M.K.(1977)の言葉を引用しておきたい。
なお、本稿をまとめるに当り、立見辰雄先生には未刊行の論文を引用する許可をいただきました。また、金属鉱業事業団資料センターの皆様、とくに大迫次郎氏には、資料の蒐収、解釈などについて、議論していただき、また御手伝いしていただきました。以上の方々に厚く御礼申しあげます。』
引用文献