梶原・正路(1997)による〔『エネルギー・資源ハンドブック』(1013、1021-1026p)から〕


1章 鉱物資源の分類
 特定の元素あるいは元素群(鉱物あるいは鉱物群)が濃集している地質体を鉱床という。鉱床における各元素の濃集の程度は、地殻存在度(平均的化学組成:重量百分率数値をクラーク数ともいう)に対する濃縮率(濃縮クラーク数ともいう)で示す。鉱床の経済的価値はこの濃縮率に大きく依存する。稼行されてきた金属鉱山の最低品位に注目すると、鉱床とは各種金属元素が地殻存在度に対しておよそ10^1〜10^5倍濃集している地質体であるといえる(図1.1:略)。これら既知金属鉱床の量的最大規模と分布数は、おおむね地殻存在度と相関している(図1.2:略)。すなわち、地殻存在度の高い元素ほど、より大規模な鉱床をより多く形成しているといえる。』

2章 金属資源
 鉱床を採掘の対象とするときの物質の種類を鉱種という。金属資源は、通常、元素の段階まで分離して利用される。表2.1に、主な鉱種とその代表的な鉱石鉱物を用途と併せて示す。また表2.2に、金属鉱床の型と鉱種との関係をまとめて示す。

2.1 鉱種の概要
 金属鉱床を構成する希少鉱石元素は、その主な化学的存在状態(化学種)に注目すると、大きく三つのグループに分けられる。第一のグループは、自然金属状態で産するものである。金と、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミニウムなどの白金属元素がその代表である。第二のグループは、硫黄と結び付いた化合物、すなわち硫化物および硫塩鉱物を形成するものである。これには、銅、亜鉛、鉛、ニッケル、モリブデン、銀、ヒ素、アンチモン、ビスマス、カドミウム、コバルト、水銀など多くの元素が含まれる。第三のグループは、酸素と結び付いた化合物、すなわち酸化物およびケイ酸塩(あるいはリン酸塩、炭酸塩など)、として産するものである。これに含まれる代表的元素は、クロム、タングステン、スズ、タンタル、ベリリウム、バナジウム、ニオブ、および一連の希土類元素などである。これら三つのグループを構成する元素は、それぞれ、前章で述べた親鉄元素、親銅元素、親石元素とおおむね比較される。同一のグループに属する元素は、互いに地球化学的性質が類似しているため、しばしば相伴って挙動する。例えば、硫化物鉱石を主とする鉱床には第二のグループの元素が濃集する。したがって、共存する元素の組合せやそれらの量比は、濃集過程や機構(鉱床の型)あるいは鉱床生成場の地質学的背景(鉱床区)によって異なる。
 鉱石は一般に複数の鉱物(鉱石鉱物と脈石鉱物)の集合体である。これらは、一定の物理化学的条件の下で同時に形成された鉱物の組合せ、一定の時間的順序に従って晶出生成した鉱物の組合せ、あるいはこれらの重複した複合的な鉱物の組合せなどからなる。このような』鉱石の形成履歴は、鉱石の構造・組織の観察を通じて解析される。各種の有用金属元素は、それぞれ独立の鉱石鉱物の主成分として、また、ある特定鉱物中の原子を置換した固溶体副成分として濃集する。

2.2 鉱種各論
 金属鉱床の型と鉱種との間には一定の関係がある。以下、代表的な鉱種(鉱種群)について、それらを供給している鉱床型を概観する(表2.2参照)。
〔1〕金、銀
 これらは、自然金属(自然金、自然銀、エレクトラム)、硫化物および硫塩鉱物(輝銀鉱、濃紅銀鉱など)として、しばしば密接に伴って産す。金の主な供給源は、鉱脈型鉱床砂鉱床である。特に、西太平洋造山帯に分布する第三紀ないし第四紀の浅熱水成鉱脈鉱床(日本の菱刈、フィリピンのレパントなど)と大陸地域に分布する先カンブリア代の砂鉱床(南アフリカのウィットウォータースランド含金礫岩など)が重要である。このほか、斑岩型鉱床、正マグマ成鉱床、黒鉱型鉱床の銅、亜鉛あるいは鉛鉱石に微量の金が含まれており、製錬の副産物として回収される。斑岩型鉱床の金品位は低い(通常1g/t以下)が、採掘鉱量が膨大であるので重要な稼行対象となる。銀の主な供給源は浅熱水成鉱脈鉱床とゼノサーマル型鉱脈鉱床である。また、スカルン型鉱床や黒鉱型鉱床の鉛亜鉛鉱石からも副産物として銀が回収されている。
〔2〕銅
 世界の産銅量の過半が斑岩型銅鉱床から、1〜2割が銅帯型鉱床から供給されている。斑岩型銅鉱床の初生鉱石(主に黄銅鉱からなる)の品位はそれほど高くはないが、採掘鉱量が膨大であるため、また、地表風化によって濃集した高品位の二次的な鉱石(斑銅鉱、輝銅鉱、銅藍、赤銅鉱などからなる)が発達しているため、重要な供給源となっている。このほか、マグマ不混和型鉱床、含銅頁岩鉱床、黒鉱型鉱床(大陸に分布する変成した塊状硫化物鉱床も含む)、キースラガー型鉱床、鉱脈型鉱床も重要な供給源である。
〔3〕鉛、亜鉛
 鉛と亜鉛は硫化物鉱石中に密接に伴って産する。鉛の主要鉱石鉱物である方鉛鉱は少量の銀、ビスマス、アンチモンを含み、亜鉛の主要鉱石鉱物である閃亜鉛鉱は少量のカドミウム、ガリウム、ゲルマニウムを含む。これらの微量元素は製錬の副産物として回収される。ミシシッピー渓谷型鉱床が世界の鉛・亜鉛産出量の過半を供給している。ほかに、黒鉱型鉱床、中熱水成鉱脈鉱床、スカルン型鉱床も重要な供給源である。含銅頁岩は銅の鉱床であるが、1〜2%の亜鉛が含まれている。カナダやオーストラリアの原生代大陸地殻のリフト帯に産する塊状硫化物鉱床(変成した黒鉱型鉱床と考えられている)も重要な供給源である。
〔4〕鉄
 世界の鉄産出量の大部分は、先カンブリア時代の大陸盾状地に分布する縞状鉄鉱層から供給されている。主な鉱石鉱物は磁鉄鉱、赤鉄鉱およびこれから二次的に生成した針鉄鉱である。ほかに、産出量は少ないが、正マグマ成鉱床、カーボナタイト鉱床、スカルン型鉱床、および砂鉱床からも供給されている。
〔5〕アルミニウム
 アルミニウムのほとんどすべてが風化残留鉱床から供給されている。長石や准長石に富む岩石(例えば閃長岩など)が風化作用を受けると、アルミニウムに富む風化土壌、ボーキサイトが生成する。主な鉱石鉱物はギブサイト、ベーマイトである。風化作用の激しい高温多雨のアフリカ、オセアニアが主な産地である。
〔6〕スズ、タングステン、モリブデン
 これらの元素は地球化学的挙動が似ており、しばしば密接な随伴関係を示す。特に、酸性マグマの活動に伴うマグマ成鉱床(ペグマタイト鉱床)や熱水成鉱床(深熱水成鉱脈鉱床、斑岩型鉱床、スカルン型鉱床)に濃集する。それぞれの主要鉱石鉱物は、スズ石、鉄マンガン重石・灰重石、輝水鉛鉱である。灰重石中にはしばしば著量のモリブデンが固溶する。マレー半島からビルマ東部にかけて、世界最大のスズ鉱床帯が発達している。この地帯には、スカルン型鉱床、鉱脈型鉱床、およびそれらを起源とする砂鉱床が多数分布しており、いずれもスズの重要な供給源となっている。南米ボリビアのラパス、オルロ、ポトシを結ぶ地域にも多数の鉱脈型スズ鉱床が分布する。中国は世界最大のタングステン産出国である。湖南省南嶺山脈地域や江西省大余地域に分布する鉱脈型鉱床がその主な供給源である。
 モリブデンは、南北アメリカ大陸に分布する中生代以降の斑岩型鉱床(斑岩銅の随伴物と斑岩モリブデン)から、主に供給されている。
〔7〕ニッケル、クロム
 ニッケルの主要供給源は、正マグマ成鉱床(特にマグマ不混和型鉱床)と風化残留型鉱床である。前者は、針ニッケル鉱やニッケルおよび銅含量の高い磁鉄鉱などを主な鉱石鉱物とし、大陸盾状地の超塩基性岩体中に産する。カナダのサドベリーやマニトバ、オーストラリアのカンバルダなどに分布する。後者は、ガーニエライトと呼ばれる、超塩基性岩を原岩とするニッケルに富む風化土壌である。原岩の構成鉱物であるカンラン石や輝石に固溶していた微量のニッケルが、蛇紋石などの風化変質鉱物中に残留濃集したものである。主な鉱石鉱物はケイニッケル鉱である。
 クロムの鉱石鉱物はクロム鉄鉱である。その大部分は正マグマ成結晶分化型鉱床から供給され、少量が砂鉱床から回収されている。安定地塊に発達する超塩基性ないし塩基性の層状分化岩体およびオフィオライト中の超塩基性岩中に産する。南アフリカのブッシュフェルト複合岩体、ジンバブエのグレートダイク岩体に伴う鉱床や、カザフスタン共和国の超塩基性岩体に伴う鉱床群が著名である。
〔8〕レアメタル
 レアメタルと呼ばれる元素群は、一般に地殻存在度がきわめて低いか、地殻存在度は高いが鉱床中での濃縮率が低いという特徴を持つ。希土類元素(REE)、リシウム、ベリリウム、ニオブなどがこれを構成する。
 REEは原子番号57(ランタニウム)から71(ルテシウム)までの15元素からなるが、通常は原子番号39のイットリウムも含める。REEの主な鉱石鉱物は、モナズ石、ゼノタイム、バストネサイト、ジルコンなどである。これらはペグマタイト鉱床カーボナタイト鉱床、およびそれらを起源とする砂鉱床から供給されている。リシウムは、ペグマタイト鉱床中のリシア雲母やリシア輝石から回収されている。また、大陸乾燥地帯の内陸塩湖水もリシウムの供給源として重要である。ベリリウムの主要鉱石鉱物は、緑柱石とバートランド鉱である。これらは、ニオブ・タンタル鉱物、スズ鉱物、タングステン鉱物、リシウム鉱物などとしばしば共存して、ペグマタイト鉱床や深熱水成鉱脈鉱床に産する。ニオブの鉱石鉱物としては、コロンバイト、パイロクロアが主要である。これらは、カーボナタイト鉱床、ペグマタイト鉱床、およびそれらを起源とする砂鉱床に産する。特にブラジルのカーボナタイト鉱床が主要な供給源となっている。』



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