梶原・正路(1997)による〔『エネルギー・資源ハンドブック』(1027-1034p)から〕


3章 工業鉱物資源
 工業鉱物資源は、通常、鉱物の段階まで分離され、その濃縮率と純度を高めて利用される。表3.1に主な鉱種と鉱床型の関係を示す。また表3.2(略)に用途を含めた資源経済的資料をまとめて示す。天然物に代わって人工合成物が利用されているものも多い。

3.1 鉱種の概要
 工業鉱物資源は、金属や元素以外の利用を目的として、特にその物理的・化学的性質の利用を目的として採掘される一群の鉱物からなる。金属鉱物資源に対して、しばしば一括して非金属鉱物資源と称されることもある。特定の鉱物組成を持つ岩石、特定の化学組成を持つ単一鉱物、特定の物理的性質を持つ単一鉱物などが対象となる。これらは、化学種に注目すると、ケイ酸塩鉱物資源(ケイ石、長石、陶石、カオリン、粘土、ろう石、ゼオライトなど)、炭酸塩鉱物資源(石灰石など)、硫酸塩鉱物資源(重晶石、石こうなど)、リン酸塩鉱物資源(リン灰石など)、塩化物鉱物資源(岩塩、カリ塩など)、単体元素鉱物資源(硫黄、黒鉛、ダイヤモンドなど)などに分けられる。主に、化学肥料、窯業原料、化学工業原料、あるいは加工工業材料などとして利用される。
 金属鉱物資源の場合と同様に、これらの工業鉱物資源の生成過程にも、さまざまな地質作用が関与している。したがって、鉱種と鉱床型との間には一定の関係が見られる(表3.1参照)。

3.2 鉱種各論
 工業鉱物資源のうち、特に重要ないくつかの鉱種について以下に詳述する。
〔1〕ケイ石
  ケイ石とは、石英の単結晶から石英集合体に至るまでのケイ酸原料の総称である。陶磁器用(SiO2:99%、Fe2O3<0.05%)、高級ガラス用(SiO2:99.8〜99.9%、Fe2O3<0.02%)、板ガラス用、製鋼用脱酸剤、研削剤、耐火剤などに用いられる。供給源としては、ペグマタイト、熱水成石英脈、ケイ岩、チャート、フリントがある。ペグマタイト産石英の品質が最も良い。ブラジルのミナスジェラス地方に産する熱水成鉱脈の石英は不純物(流体含有物など)がきわめて少なく、「ブラジル石英」と呼ばれている。熱水成含金石英脈のうち、金品位は低いが石英以外の脈石鉱物の少ないものはケイ酸鉱として採掘され、銅製錬の融剤として利用される。ケイ岩は石英質砂岩または石英質堆積岩の変成岩で、結晶粒度が比較的大きく一般に品質が良い。チャートは主に潜晶質石英と玉髄質石英からなる緻密な堆積岩である。フリントもチャートと同義であるが、ヨーロッパの白亜紀のチョーク層中に産するものにつけられた名称である。
〔2〕長石
 主要造岩鉱物の一つである長石は、正長石(KAlSi3O8)、曹長石(NaAlSi3O8)、灰長石(CaAl2Si2O8)、およびバリウム長石(BaAl2Si2O8)を端成分とする固溶体鉱物の総称である。陶磁器の素地、釉薬(Fe2O3:0.6%以下)、ガラス・ほうろう用などに用いられる。供給源はすべてペグマタイト鉱床であったが、同資源の枯渇に伴い、花崗岩などの長石に富む火成岩、熱水成鉱脈鉱床に産する長石、あるいはそれらからもたらされた長石質の砂礫も利用されている。
〔3〕陶石
 陶磁器の原料として利用される。焼成して白色になる岩石を陶石と総称する。一般に石英(70%)と絹雲母(30%)で構成されているが、これら以外にカオリナイトやパイロフィライトをかなり含むものもある。陶石鉱床の大部分は流紋岩などの酸性火山岩を起源とする熱水変質岩である。
〔4〕石灰石
 鉱石として採掘される石灰岩を石灰石という。日本が自給できる数少ない資源の一つである。石灰石は、生物遺骸の沈積または化学的沈殿により形成された。炭酸カルシウムを主成分とする堆積岩である。顕生代(特に石炭紀〜ジュラ紀)に広くかつ大量に分布している。石灰石鉱床は、有機的堆積鉱床に分類されるもの(生物遺骸源石灰岩)が主であるが、化学的堆積鉱床(蒸発岩に伴う石灰岩)や、スカルン型鉱床(再結晶した石灰岩)も重要な供給源である。
〔5〕カオリン
 カオリン族鉱物は、4種の含水アルミニウムケイ酸塩粘土鉱物(カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト)からなる。カオリン鉱床は、このうちのカオリナイトとハロイサイトを主成分とする。耐火物原料、製紙原料、顔料などに用いられる。成因的には熱水成と堆積成に分けられる。熱水成カオリン鉱床は、花崗岩、安山岩、火山砕屑岩が熱水変質を受けて生成したものである。しばしば、金、水銀、硫化鉄などの金属鉱脈鉱床を伴う。堆積成カオリン鉱床には、陸成層や浅海成層中に産する機械的堆積型と、花崗岩や凝灰岩などの火山砕屑岩類を熱源とする風化残留型がある。
〔6〕粘土
 粘土は、きわめて細粒の砕屑性堆積物の総称である。可塑性、吸湿性を示し、赤熱すると、固結する性質がある。一般に、粒径(ストークス則をあてはめて求められる球相当直径)が2ミクロン以下の粒子の集合体として定義される。粘土はそれを構成する主要粘土鉱物の種類により、カオリナイト質粘土、モンモリロナイト質粘土(アタパルジャイト質粘土、ベントナイト、酸性白土)に分ける。このうち、カオリナイト質粘土は前述した。モンモリロナイトは水を吸って膨張する性質(膨潤性)と、ケイ酸四面体層の間にある陽イオンが交換される性質(陽イオン交換能)がある。この層間陽イオンがナトリウムの場合著しく膨潤するのに対して、カルシウムやマグネシウムの場合あまり膨潤しない。前者からなる粘土をベントナイト、後者からなるそれをアタパルジャイト質粘土という。層間陽イオンが水素の場合も非膨潤性で、この粘土を酸性白土という。酸性白土は、吸湿性、脱色性が強い。これらのモンモリロナイト質粘土は、酸性火山岩や火山砕屑岩の火山ガラスが続成作用や海底風化作用を受けて生成する。
〔7〕ろう石
 ピロフィライト(葉ろう石)を主成分とし、石英、カオリン、ダイヤスポア、絹雲母などを伴う鉱石の総称である。酸性火山岩や火山砕屑岩の熱水変質作用により形成される。日本はろう石の主要生産国である。
〔8〕岩塩、カリ岩塩
 岩塩の主要構成鉱物はハライト(岩塩)である。カリ岩塩はシルビン、カーナル石、カイナイトを主構成鉱物とするが、常に、ハライトが混在する。蒸発岩が主な供給源である。孤立した海盆で海水の蒸発が進行すると、一般に、炭酸塩(方解石)、硫酸塩(石こうまたは硬石こう)、岩塩、カリ岩塩が順次飽和濃度に達して沈殿する。岩塩およびカリ岩塩は海水蒸発の末期の産物であり、これらを生成するには特定の地形と気候条件が必要である。北米およびヨーロッパは、特にペルム紀の地層中にこの種の大規模な蒸発岩鉱床が発達している。
〔9〕リン
 リン資源をなす主要鉱石鉱物はリン灰石である。最も重要な供給源は、大規模な堆積成リン鉱層である。これらは、カンブリア時代末期(中国)、ペルム紀(米国西部)、第三紀初期(モロッコ)に集中している。比較的温暖な地質環境下において、貧酸素的でpHの高い浅海堆積盆で生成したとされるが、その過程と機構には不明な点が多い。このほか、カーボナタイトに伴うリン灰石鉱床やグアノからも供給される。グアノは、海鳥の排泄物が雨量の少ない海洋島や海岸付近に堆積し、礁性石灰岩などと反応して固化した有機源のリン鉱床である。南米のペルーなどに見られる。
〔10〕硫黄
 単体硫黄の資源としては、蒸発岩に伴うものおよび火山噴気成昇華物に由来するものがある。規模的には前者が重要である。これは、地表付近に上昇してきた岩塩ドームの頂部でバクテリアによる硫酸塩(石こう、硬石こう)の還元が行われ、その結果二次的に濃集した自然硫黄鉱床である。バクテリアの繁殖には原油の有機物が寄与しており、このため、この種の鉱床の出現は石油地帯の蒸発岩分布域(北米のメキシコ湾岸沿い)に集中している。硫黄資源の供給は、近年では、石油精製や金属精錬の副産物によって代替されている。
〔11〕ダイヤモンド
 ダイヤモンドは単体炭素鉱物の一つであり、その生成には地下200kmの上部マントルに相当する条件(温度1600℃以上、圧力4GPa以上)が必要である。このため、ダイヤモンドの初生鉱床は、上部マントルから急速に地表付近に貫入して急冷した、キンバレー岩と呼ばれるパイプ状の頂塩基性岩体を母岩としている。ダイヤモンドを含むキンバレー岩(平均品位0.1〜0.2ppm程度)は主に南アフリカやシベリアのヤクートに分布する。これらには古生代末〜中生代にかけて貫入したものが多い。また、キンバレー岩が風化浸食されることによって生成した砂鉱床も重要なダイヤモンドの供給源である。シベリアのヤクート地域やナンビアに重要な砂鉱床がある。
〔12〕黒鉛
 黒鉛とは、ダイヤモンドと同質異像の関係にある単体炭素鉱物であり、石墨ともいう。黒鉛鉱床は石炭層あるいは炭質物に富む堆積岩が変成作用を受けて形成されたものである。片麻岩、結晶片岩、結晶質石灰岩、スカルン中に、またこれらに貫入したペグマタイト中に、鉱染状、脈状、レンズ状などの鉱石として濃集する。先カンブリア時代の変成岩中に多産する。
〔13〕沸石
 沸石は、無限に広がる三次元の網目結晶構造で特徴づけられるアルカリおよびアルカリ土類元素の含水アルミニウムケイ酸塩鉱物群(方沸石、菱沸石、グメリン沸石、ソーダ沸石、モルデン沸石、輝沸石、濁沸石、灰十字沸石など)の総称である。陽イオン交換能が高く、復水性(脱水した水の一部が可逆的に復水する性質)がある。製紙填料や分子ふるいなどに利用される。沸石鉱床の多くは中性ないし塩基性火山岩類の熱水変質作用によって生成したものである。また火山性堆積岩の低度変成作用あるいは続成作用によって生成したものもある。
〔14〕蛍石
 蛍石はカルシウムのフッ素化合物であり、ガラス工業、製鉄用溶剤、フッ酸原料などに用いられる。蛍石鉱床としては、北米のイリノイ、ケンタッキー州境地域に産するペルム紀石灰岩中の熱水成鉱脈鉱床、層状交代鉱床が最も著名である。しばしば酸性マグマの後期晶出鉱物としてペグマタイト中に黄玉、電気石などとともに濃集する。また熱水成金属鉱床の脈石鉱物として、石英、方解石、重晶石などとともに産する。
〔15〕けいそう土
 けいそう土とは海成または淡水成のけいそうプランクトンの遺骸からなる多孔質の軟質堆積岩である。ろ過助剤、軽量填材などとして利用される。海洋では、けいそうは温帯北部から極域にかけて繁殖し、その遺骸は極周圏の海底のけいそう軟泥を構成している。けいそう土の鉱床は中生代末から新生代に形成されたものが多く、世界各地に多産する。
〔16〕アスベスト
 アスベスト(石綿)は繊維状のクリソタイル、アモサイト、クロシドライトの鉱石である。断熱性、耐化学性、耐摩耗性、軽量などの特徴から広い用途に利用されていたが、近年は発がん性があるとして、使用が大幅に制限されている。クリソタイルの鉱床は超塩基性岩から水和変質した蛇紋岩中に産する。主産国はカナダ、ロシア、南アフリカ、ローデシアである。アモサイトおよびクロシドライトの鉱床は先カンブリア時代の変成した含鉄チャートや縞状鉄鉱層中に層理平行脈として産す。南アフリカ、オーストラリアなどの盾状地に多産する。』



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