正路(1997)による〔『エネルギー・資源ハンドブック』(1035-1040p)から〕


4章 土石資源
 地球上に産する土壌あるいは岩石を採掘・破砕したままで、特定の鉱物を分離することなく利用する場合、これを土石資源という。土石資源のうち、何らかの成形が施されているものを石材、それ以外を骨材という。骨材のうち天然産のものを広義の砂利、人工的に破砕されたものを砕骨材という。

4.1 石材
 石材の用途は大きく、道路などの土木用、ビルなどの建築用、墓石、その他などに分けられる。
 直方体に仕上げられた石材を切石といい、道路の縁石、石段、塀などに使う。石質は多様であるが、花崗岩と凝灰岩が多い。切石をプリズム形に2等分した石材を割石といい、舗石や石垣に使う。多くの石垣には、この割石より、間知石といわれる底面の1辺が約30cmの四角錐の石材のほうが使われる。その石質は通常花崗岩あるいは安山岩である。
 最も人の目を引く石材は、墓石とビルの化粧石である。その多くは花崗岩で、一般に御影石と呼ばれる。御影石は、神戸の御影で産する花崗岩につけられた名称であるが、現在はすべての花崗岩質石材がこの名で呼ばれている。花崗岩の分布する地域はほとんどすべて御影石の供給地である。なかでも、瀬戸内海の島々と沿岸の各県、中部地方の瀬戸地域、関東・東北地方の阿武隈山地などは、古来良質の石材の産地として有名である。ある種の花崗岩は赤色を呈する。これは主要構成鉱物の一つであるカリウム長石に微細な赤鉄鉱が包有されていることによる。なかでも、ラパキビ花崗岩と称される粗粒斑状の花崗岩が有名である。このラパキビ花崗岩は、フィンランド語の腐った(rapa)石(kivi)に由来し、米国や中国でも同種の岩石の産出が知られている。最大の特徴は、石英や有色鉱物からなる粗粒の石基中に、正長石に取り囲まれたカルシウム質斜長石の大きな結晶が存在する組織である。日本にはラパキビ花崗岩ほど鮮やかな赤色を示す花崗岩はない。岡山市の周辺にはピンク色の長石を含む花崗岩が産する。これを万成(まんなり)花崗岩という。
 花崗岩は、石英あるいは長石という無色鉱物が多く、黒雲母や角閃石などの有色鉱物が少ない酸性の深成岩である。これに対し、中性の閃緑岩、塩基性の斑糲(はんれい)岩、さらに超塩基性の橄欖(かんらん)岩と岩石中のケイ酸分がしだいに少なくなるにつれて、石英と黒雲母がなくなり、有色鉱物の輝石、橄欖石が増加する。このため、塩基性岩ほど一般に色が黒い。このような中性から塩基性の黒い深成岩である閃緑岩や斑糲岩を石材では黒御影と呼んでいる。超塩基性岩の一種に、ほとんど斜長石のみで構成される灰長岩がある。斜長石の一種であるラブラドライト(カナダ東部のラブラドール島にちなむ鉱物名、和名は曹灰長石)はしばしば細かい結晶が重なった双晶をなす。この双晶面で光が反射されて干渉が起きると、玉虫色を呈する。これをラブラドレッセンスという。これも魅力的な石材の一つである。中国では、玉杯や玉の香炉がみやげ物として生産されている。これらの材料の多くは蛇紋岩である。
 長野県諏訪および佐久地方には、板状節理の発達した複輝石安山岩が産し、これを鉄平石という。これも敷石や化粧石に使われる。塀に多用される大谷石は、栃木県大谷地方に産する緑色凝灰岩の石材名である。同種の岩石は、中新世の海底火山活動に伴う凝灰岩で、東北地方から関東地方にかけて、脊梁山脈の日本海側に広く分布する。熊本県天草下島の中部西海岸沿いに陶石鉱床が分布する。これは岩脈状の流紋岩を原岩とする熱水変質の産物である。鉱床の一部に水酸化鉄が縞状の染みとして沈殿している部分がある。このような部分の鉱石は、陶石としての質は劣るが、縞模様がきれいな場合は、化粧石や壁飾りなどに加工されている。
 石灰岩が変成作用を受けると、その主要構成鉱物である方解石(CaCO3)が再結晶化して、巨晶の石灰岩に変わる。これを大理石という。大理石は、敷石や化粧石に使われるほか、テーブルの上板、配電絶縁盤、表札などに使われる。また、その純白の美しさと適度の硬度および強度のために、彫刻用材料ともなる。特に、古代ギリシャおよびローマの建築および彫刻に使われている石材の多くは、純白の大理石である。このような大理石はスペインからギリシャにかけてのヨーロッパ地中海沿岸に多産する。日本語の「大理石」の名は、中国・雲南省の大理(Dali)にちなんでいる。ここの大理石は黒い石墨の縞の存在で特徴づけられる。褶曲作用による変形で、この縞が自然による無限の曲線美をつくり出している。建築用の化粧石以外に、置物やコップなどに利用されている。
 堆積岩はあまり石材として使われないが、皆無ではない。例えば、米国・カリフォルニア州のスタンフォード大学では、基礎や壁に砂岩を利用した建物がある。日本では、東京大学の安田講堂などに砂岩が利用されている。また、スペイン・グラナダのアルハンブラ宮殿の入口の円柱には円礫岩が使われている。
 ラパキビ花崗岩、御影石、黒御影、大理石など石材名がついて化粧石としても使われる岩石は、世界規模で取引される。一方、安山岩、凝灰岩、砂岩などのように化粧石とはならない石材は、一般に採掘地の近傍でのみ使われる。このため、発展途上国などでは、民家に使われている土石質材料を見ることにより、その地域の地質がある程度わかる。例えば、中国の雲南省では、安山岩、焼成れんが、日干れんががそれぞれ多用されている地域がある。西部の騰冲地域には良質の安山岩が産するので、建物の基礎や塀などにこれが多用されている。雲南省の多くの地域では、褐炭程度の石炭が産する。このような地域では、紅土(ラテライト)と褐炭粉の混合物を成形後焼いて、れんがにしている。このような資源に恵まれていない地域では、現在のところ建築用材料として日干れんがに頼るしかない。
 厳密には岩石を石材として利用しているとはいえないが、岩石を材料とする人工物に、洞窟の壁画、あるいは石仏や磨崖仏がある。このうち、有名な壁画が描かれている洞窟は、ほとんどの場合、天然物である。一方、中国の雲崗、韓国の仏国寺、大分県の臼杵などの石仏が鎮座する洞窟はすべて人工物である。これらの石仏は洞窟と一体として作成されている。というよりむしろ、石仏を彫るために洞窟も掘られたというべきであろう。とにかく、石仏の岩質は周囲の岩盤と同じである。岩石は、中国の雲崗あ砂岩、韓国の仏国寺が花崗岩、大分県の臼杵が凝灰岩である。磨崖仏h天然の崖を利用した浮彫りの一種である。当然、岩質はその場所の岩盤と同じである。磨崖仏が彫られている場所は、宗教上の理由から選ばれたのであり、地質的理由とは無関係であろう。しかし、日本の磨崖仏が彫られている岩石の多くは、砂岩や凝灰岩である。おそらく技術上の問題で、強度が高くて良質の石材となる花崗岩や安山岩は避けられたのであろう。

4.2 骨材
 骨材は、供給源の地質状況から天然骨材人工骨材に、粒度から粗骨材細骨材に大別される。なお、通常天然骨材は広義の砂利、人工骨材は砕骨材といわれる。日本おいては、この15年間両者とも供給量が約3.5億t/年と、ほぼ拮抗している。しかし、図4.1(略)に示すように、厳密には自然骨材供給量が減少し、人工骨材の使用量が増加している。
 広義の砂利(天然骨材)のうち、100mm以上のものを玉石、100mから5mmまでのものを狭義の砂利、5mmから0.15mmまでのものをという(ただし、この粒度はふるいの85%通過分での定義)。砂利の用途の大部分は、建築用コンクリートの粗・細骨材である。砂利は、河川を流れる間に弱い部分が破砕・はく離されているので、良質の骨材となる。かつて、砂利の大部分は、現河川から採取された。しかし、現在は資源の枯渇と、治水および流域保全のため、河川からの採取は大幅に制限されている。これに伴って、海砂利、陸砂利、山砂利の利用が増大している。このうち、陸砂利とは、第四紀の旧河川あるいは氾濫原の堆積物をいう。通常、これらは田畑などの農地の下に存在する。山砂利とは、現在、山、丘陵あるいは台地を構成している未固結ないし弱固結の堆積物をいう。堆積時期は、ほとんどが第三紀後期から第四紀初期である。1980年から1993年の間における砂利と砂の供給量の推移をそれぞれ図4.2(略)と図4.3(略)に示す。
 天然骨材の不足を補うために、岩石を破砕・整粒して、人工骨材が生産される。これを砕骨材(あるいは砕石)、この作業を砕石という。砕骨材の原岩としては、閃緑岩、斑糲岩、橄欖岩、斑岩、ひん岩、輝緑岩、流紋岩、安山岩、玄武岩、礫岩、砂岩、粘板岩、頁岩、凝灰岩、結晶片岩、片麻岩、蛇紋岩など、ほとんどの岩石が利用されている。花崗岩や石灰岩も砕骨材として利用されるが、前者は石材として、後者はセメント原料あるいは製鉄用溶剤としての利用が主である。
 骨材は、粗骨材(100mm目ふるいを通り、5mm目ふるいに85%がとどまり、2.5mm目ふるいにとどまるもの)と細骨材(10mm目ふるいを通り、0.1mm目ふるいをほとんど通らないもの)に分けられる。砕骨材の50%以上は道路に、約25%はコンクリート骨材に使われる。細骨材(砕石砂)は天然砂に比べて生産コストが高いため、骨材全体に対する利用の割合は10%以下である。しかし、天然砂の不足から、砕石砂の消費量は徐々に増加している。1980年から1993年の間におけるこれら砕骨材の供給量の推移を図4.4(略)に示す。
 近年、コンクリート中におけるセメントと骨材の反応が問題となっている。ある種のセメントは、骨材中の一部の鉱物、例えばオパール、トリディマイト、クリストバル石、玉髄などの結晶性の低いケイ酸(シリカ)鉱物や火山ガラス、あるいは雲母や粘土鉱物などの層状ケイ酸塩、さらにドロマイトのような炭酸塩と化学的に反応する。これらを総称してアルカリ−骨材反応、個々の場合をそれぞれアルカリ−ケイ酸、アルカリ−ケイ酸塩、アルカリ−炭酸塩反応という。アルカリ−骨材反応が起きると、コンクリートの体積が膨張し、コンクリートに亀裂が入る。したがって、砕石原料にはアルカリ−骨材反応を起こさない岩石を選ばなければならない。
 骨材の資源経済的特徴として、i)最も多量に利用されている資源であることと、ii)生産地から消費地までの輸送距離が短いことがあげられる。例えば、1992年度に関東地方の1都6県で生産された砕骨材112Mtのうち、81Mtが生産された県で消費されている〔中村 1994〕。すなわち、72%が地元で消費された。これは、iii)多くの骨材資源が、例えば河川砂がなければ砕砂でもよいというように、代替可能であり、それゆえに iv)安価であることによる。

4.3 軽量骨材と重量骨材
 ある種の頁岩は焼成すると膨張する。これを膨張性頁岩という〔岡野 1966〕。頁岩が膨張するためには、i)高温で溶融し、その溶融体の粘性が発生したガスを閉じ込めておける程度に高く、ii)溶融体が形成されたとき、ガスを発生させる物質が含まれていなければならない。i)の条件は岩石の組成でほぼ決まる。すなわち、全岩組成がSiO2-Al2O3-(Na2O+K2O+CaO+MgO+FeO+Fe2O3)三角図でほぼ中央に位置していればよい。ii)の条件は、ある程度の赤鉄鉱(Fe2O3)、黄鉄鉱(FeS2)、あるいは苦灰石(ドロマイト、CaMg(CO3)2)や方解石(貝化石など、CaCO3)が含まれることで満たされる。すなわち
   6Fe2O3 → 4Fe3O4 + O2
   2FeS2 + 5O2 → 2FeO + 4SO2
   CaMg(CO3)2 → CaCO3 + MgO + CO2
   CaCO3 → CaO + CO2
なる反応で、ガスが発生する。あるいは、酸化鉄が頁岩中の炭質物(C)で還元されて、二酸化炭素が発生する反応
   2Fe2O3 + C → 4FeO + CO2
も考えられる。いずれにしろ、発生したガスは、大気中に逃げる前に、液相を風船のようにふくらませる。このため、空隙に富み、見掛け密度の小さい焼結体ができる。これを軽量骨材という。最近のビルディングでは、構造にかかる力は柱で支え、壁は単に間仕切の役目しか果たさないように設計してある。したがって、壁の材料が軽いほど柱にかかる負荷を小さくすることができる。このため、軽量骨材の需要が増している。
 頁岩などを焼いて骨材にする技術は、最初(1913年)アメリカ合衆国で開発された。カリフォルニア州では、ジュラ紀、白亜紀、始新世、鮮新世の海成堆積物が利用されている。これらより古い頁岩は、粘板岩や千枚岩に変わっていて不適当である。一方、新しい中新世のケイ質頁岩は膨張性が悪く、第四紀の泥岩は膨張しない。アイオワ州およびウィスコンシン州では、ペンシルベニア紀(石炭紀に相当)の頁岩が最適とされている。このうち、デスモイネス統の頁岩は、灰色から青色を呈し、純粘土質ないし石灰質で、化石に富む。また、プリーザントン層群の頁岩は暗灰色で、わずかに石灰質である。マクォーケタ層は、ミシガン州、ウィスコンシン州、アイオワ州、イリノイ州に広く分布する粘土質頁岩で、アイオワ州では青緑色を呈し、特に多量の化石を含む。
 日本における膨張性頁岩としては、i)佐世保、唐津、福岡、筑豊、宇部・小野田、常磐、釧路炭田の夾炭層に伴う頁岩と、ii)淡路島から紀伊半島西部にかけて分布する和泉層群(和泉砂岩)、山梨県東部、東京都西部、神奈川県北部に分布する小仏層群、三浦半島から房総半島にかけて分布する葉山層群・保田層群中の頁岩がある。これらのうち、夾炭層に伴う頁岩はすべて古第三紀、他方の頁岩は白亜紀ないし古第三紀の堆積物である。また、後者の頁岩を胚胎する層はすべて砂岩を主体とするという特徴を持つ。
 原子炉の防護壁には放射線を遮へいする役目がある。放射線の遮へい能力は、単純には物質の密度が高いほど優れている。そこで、原子炉の防護壁用コンクリートにはなるべく高い密度の骨材、すなわち重量骨材が要求される。通常骨材として多用されている花崗岩や安山岩の密度は3g/cm^3以下である。塩基性岩になると密度は増加する。しかし、超塩基性の橄欖岩でも3.5g/cm^3を超えることはない。さらに密度の高い骨材が要求される場合は、高品位の磁鉄鉱鉱石などが使われる。純粋の磁鉄鉱(Fe3O4)の密度は5.2g/cm^3である。したがって、ほとんど磁鉄鉱のみからなる鉱石は4.5g/cm^3かあるいはそれ以上の密度を持つ。磁鉄鉱は、砂鉄鉱床の主な鉱石鉱物であることからも明らかなように、化学的に安定な鉱物である。この点からも骨材材料として優れている。

参考文献
〔岡野 1966〕 岡野武雄:軽量骨材資源、pp.180、ラティス(1966)
〔中村 1994〕 中村紘一:“砕石産業の育成”、資源と素材、110、13、pp.1004-1010(1994)



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