(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構による太陽光発電ロードマップ(PV2030+)から


太陽光発電ロードマップ(PV2030+)

「2030年に向けた太陽光発電ロードマップ(PV2030)に関する見直し検討委員会」報告書の公開


太陽光発電ロードマップ(PV2030+)
「2030年に向けた太陽光発電ロードマップ(PV2030)に関する見直し検討委員会」報告書

2009 年6 月
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー技術開発部
2030年に向けた太陽光発電ロードマップ(PV2030)に関する
見直し検討委員会

はじめに

委員名簿

T 概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
U 本論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
V 資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99


T 概要
1.見直しの目的と背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
2.ロードマップ(PV2030)策定後の環境変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
3.見直しの方向性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
4.2050 年に向けた太陽光発電の目指す姿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
5.実現に向けた課題と対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
6.技術開発の内容と目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
7.実現に向けた方策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
8.当面の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

あとがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

Outline of the Roadmap PV2030+ (plus)
1.Introduction ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
2.Changes in the circumstances after the formulation of PV2030・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
3.Direction of the review of PV2030・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
4.Goal of PV power generation toward 2050・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
5.Issues to achieve the goals・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
6.Details and goals of technology development ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
7.Measures to achieve the goals ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
8.Immediate activities ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20


U 本 論
第1章 太陽光発電の現状
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
第2章 技術開発とロードマップ(PV2030)の進捗状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
2.1 日本(NEDO 技術開発機構)の技術開発プロジェクトの状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
2.2 ロードマップ(PV2030)実現への進展概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
2.3 技術の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
2.4 太陽光発電システムの経済性の改善状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
第3章 ロードマップ(PV2030)策定後の環境変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
3.1 エネルギー資源問題の顕在化と対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
3.2 地球環境問題への顕在化と太陽光発電の普及拡大政策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
3.3 欧州を中心とした爆発的な市場拡大と新興国の台頭・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
3.4 欧米での技術開発の強化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
第4章 太陽光発電が目指す姿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
4.1 目指す姿の見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
4.2 太陽光発電の段階的な普及と利用形態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
4.3 見直した目指す姿と生産・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
4.4 海外市場への対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42
第5章 目指す姿の実現に向けた課題と対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
5.1 経済性改善に対する課題と対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
5.2 利用及び用途の拡大に対する課題と対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
5.3 基盤整備・環境整備に対する課題と対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
5.4 産業発展と国際競争力確保に対する課題と対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
5.5 革新技術の必要性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
第6章 技術開発目標と技術開発の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
6.1 技術開発の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
6.2 技術開発課題と内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48
6.3 2050 年に向けた超高効率太陽電池の開発の方向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50
第7章 今後の取り組み方向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52
7.1 技術開発の実施に関する課題と対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52
7.2 産官学の連携と分担について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52
7.3 今後の取り組みスキーム(技術開発スキーム) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53
第8章 当面の取り組みと分担・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
8.1 技術開発への取り組みと産業界による環境整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
8.2 太陽光発電の利用環境の整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60
8.3 具体的な技術開発プロジェクトの実施・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62
8.4 太陽光発電利用環境整備の技術開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63

付録
(付録1) 太陽電池に対する開発課題と方針
付録1-1 太陽電池製造技術開発課題一覧表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
付録1-2 結晶系シリコン太陽電池に関する技術開発の方向性について・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73
付録1-3 薄膜シリコン太陽電池に関する技術開発の方向性について・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・75
付録1-4 化合物薄膜太陽電池に関する技術開発の方向性について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77
付録1-5 集光型太陽光発電に関する技術開発の方向性について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
付録1-6 有機系太陽電池(色素増感型/有機薄膜型)に関する技術開発の方向性について・・・ 81
付録1-7 超高効率太陽電池への取り組み方向について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83
(付録2) 太陽光発電システム技術に対する開発課題と方針
付録2-1 太陽光発電システム技術課題一覧表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85
付録2-2 太陽光発電システムの大量普及時の利用形態と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88
付録2-3 太陽光発電システムの信頼性について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90
付録2-4 系統電源との協調に関する課題について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92
付録2-5 太陽光発電大量普及時の電力系統との関係に関する将来展望・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94
付録2-6 電力貯蔵用蓄電池の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96

あとがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98


V 資 料
<資料>

資料1:2030 年に向けた太陽光発電ロードマップ(PV2030)の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100
資料2:ロードマップ(PV2030) 策定後の太陽光発電(産業技術)の変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 103
資料3:NEDO の太陽光発電技術開発の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105
資料4:海外における技術開発状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 109
資料5:国内の太陽光発電設置分野と設置可能量の見積もり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115
資料6:普及拡大に向けた課題のリストアップ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117
資料7:Grid Parity に向けた技術開発の方向性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120


はじめに

 太陽光発電ロードマップ(PV2030)(以下、ロードマップ(PV2030)と記述)は2004年に国の太陽光発電技術開発の推進を目的として策定され、これまで我が国の太陽光発電に関する技術開発指針として広く利用されている。策定後の4年間の太陽光発電を見通すと、フィードイン・タリフ制度の導入などで市場は大きく拡大、欧米では日本への対抗を視野に技術開発計画を刷新して開発を実施、東アジア諸国を中心とする多数の企業の参入などがあり、太陽電池の生産量は年率40%以上の伸びで拡大しているが、その市場構造には大きな変化が起きている。太陽光発電発展の中心は我が国から欧州に移りつつあり、我が国が技術開発、市場形成、産業形成の各要素に亘り世界を牽引していた状況から技術的優位性、国際的競争力が薄れつつある。
 一方で、太陽光発電そのものはエネルギー資源問題と環境保全の双方に有効な一次エネルギー源として年々重要性を増しており、2100年頃には世界の一次エネルギー供給の過半を太陽エネルギーの利用(発電)で賄うとの予測もあり、また、温暖化への対応では2008年6月の洞爺湖サミッ
トで「2050年までに温暖化ガスの排出を半減する」との長期目標がグローバルに共有され、これに対する重要技術の1つとして太陽光発電の貢献が要請されている。これに対応して政府の長期エネルギー需給見通しが改訂されるとともに、2030年までの太陽光発電導入目標(53GW相当)が
設定され、対応施策として2008年度からNEDO「革新的太陽光発電技術研究開発」プロジェクトが始まり、2009年からは住宅用太陽光発電システムに対する導入補助制度も復活する。 しかしながら太陽光発電はまだ経済性・利便性に課題があるため、系統電力と競合出来る状況を早期に実現することが重要で、発電量変動に対応した利用技術などの開発も重要となっている。さらに太陽光発電は環境問題に対する国際的貢献ツールとして、また将来の産業としても重要な役割を担っており、我が国が再び世界をリードする状況を確立することも必要である。
 これらの実現には技術開発の効果的な推進が不可欠で、今回、2009年に予定していたロードマップ(PV2030)の見直しを1年早めて実施することとした。環境問題などに対する国際的貢献も視野に、太陽光発電普及の加速的進展や将来の発展のために解決すべき課題とそれに対する開発シナリオを明確にすることを目的に見直しを実施した。
 2004年に策定したロードマップ(PV2030)と同様に、有識者による検討委員会(委員長:黒川浩助東京工業大学特任教授)を構成し、委員会幹事と事務局を(株)資源総合システムが担当して実施した。また、ロードマップ(PV2030)の見直し後の名称を「太陽光発電ロードマップPV2030+(プラス)」とした。


1.見直しの目的と背景
 太陽光発電ロードマップ(PV2030)は「太陽光発電を2030年までに主要なエネルギーの1つに発展させること」を目標に、2004年に策定され、これまで我が国の技術開発指針として広く利用されてきた。ロードマップ(PV2030)策定後、原油価格が100ドル/バレルを超え、また、温暖化に伴う諸現象が各地で観測されるなど、エネルギー資源の枯渇や地球温暖化への懸念が顕在化しつつあり、太陽光発電はこれに対する重要な技術として大きな期待がかけられている。ロードマップ(PV2030)策定当時、我が国の住宅向けシステムへの導入補助が世界の太陽光発電産業と市場を牽引していたが、その後ドイツで導入されたフィードイン・タリフ(FIT)制度が発展し、これが各国に波及することで太陽光発電の発展の中心は欧州に移っており、最近では東アジア諸国での生産も急増している。さらに技術開発においても欧米各国では技術開発計画を刷新して技術革新に努めている。このように太陽光発電は我が国が技術開発、産業形成等に対して世界を牽引していた状況からグローバルな発展段階に移っており、このため我が国産業の地位は相対的に低下している。
 今回、このようなロードマップ(PV2030)策定後の4年間の状況変化を踏まえ、「太陽光発電が2050年までにCO2削減の一翼を担う主要技術になり、我が国ばかりでなくグローバルな社会に貢献できること」をコンセプトに、太陽光発電の更なる利用拡大と我が国産業の国際競争力維持を目指して見直しを行った。


7.実現に向けた方策
 前項まで述べたように、太陽光発電が汎用エネルギー源となるまでには経済性改善と性能向上を中心にさらに数段の技術革新が必要である。即ち、太陽光発電が基盤的な電源となるためには、系統電力との比較において経済性を確立することが必要であり、技術開発も目指すGrid Parityレベ
ル(経済性の水準)に応じた段階的な取り組みが必要である。
(1) 第1段階のGrid Parity(23円/kWh程度)を目指す技術開発は、主として産業界が分担・実施する分野である。ここでは、既に開発した製造技術の工業化や技術改善が中心課題であり、また太陽光発電システムの信頼性確立、標準化・簡素化や設置工事の低コスト化などに関連する技術開
発も必要である。
(2) 第2段階のGrid Parity(14円/kWh程度)を目指す技術開発では、低コスト高効率太陽電池製造技術(75円/W)の技術革新とモジュールやシステムの長寿命化、自律型システムの設計・利用技術などが中心課題となる。ここでは成果の実用化までを含むトータルの開発計画を作成し、その中核となる技術について技術開発プロジェクトを構成して、セルのみならず材料や周辺機器の各々の専門的知見も活かされるような体制により、産学官が連携して実施することが重要である。
(3) 第3段階のGrid Parity(7円/kWh程度)及び将来の汎用電源を目指す技術開発は、発電コスト7円/kWh程度あるいはそれ以下、変換効率も30〜40%以上の高い技術水準を目指す技術開発で、要素技術開発やシーズ探索研究のテーマとして大学・国研を中心に実施すべきである。
(4)基盤整備に関する技術開発は、第2段階のGrid Parityが実現する頃までには完成しておくことが必要である。また、これのベースとなる大学・国研等の研究機関による基礎的な技術開発や海外での実証研究には、国による継続した研究開発が必要である。


8.当面の取り組み
 当面の数年間は太陽光発電の普及定着のための時期であり、太陽光発電の普及拡大とわが国産業の国際競争力確保に向けた課題を以下のように短期的な課題、中長期課題、超長期課題、及び基盤整備に関する課題に分けて取り組む必要がある。その概要を図5に、また今後の技術開発プロジェクトのイメージを図6に示す。ここでは、これらの多様な取り組みを産学官が分担/連携して、並行し実施する必要がある。

(図5<当面の技術開発スキーム> 略)
 また個別の太陽電池の性能とモジュール製造コスト、寿命の目標は、表4のように設定する。
(図6<今後の技術開発プロジェクトのイメージ> 略)
(表4<セル・モジュールの性能(変換効率%)、モジュール製造コスト(円/W)、寿命(年)> 略)


あとがき

 太陽光発電ロードマップ(PV2030)は2004年に策定され、これまで我が国の太陽光発電に関する技術開発指針として広く利用されてきた。今回の見直しではこの4年間の状況変化を踏まえ、「太陽光発電が2030年までに主要なエネルギー技術の1つに認知される」状況から、「2050年までには1次エネルギー需要の5〜10%を賄う」状況へと発展することを想定し、用途に対応したGrid Parityを段階的に実現するとともに太陽光発電の周囲にある産業や社会システム(利用環境)との調和も考慮して解決すべき課題と取り組みの方向を示した。この太陽光発電ロードマップ(PV2030+)が今後の太陽光発電発展に大きく貢献出来ることを期待したい。


第1章 太陽光発電の現状

 世界の太陽電池の生産量は図1-1に示すように、年率40%以上で成長し2007年には約3,700MWになった。太陽電池の生産規模が大幅に拡大し、量産技術が確立した。この中で我が国は920MWを生産し世界の太陽電池生産を牽引するものの、シェアは大幅に低下、欧州と中国・台湾を中心とする新興地域での生産量が増大している。この生産増大はフィードイン・タリフ(FIT)制度の導入による欧州市場の拡大が大きく寄与しているが、原料シリコンに深刻な需給ひっ迫と価格高騰が発生し、太陽電池のコストダウンと生産量の抑制を招いた。薄膜系太陽電池(Si、CIS、CdTe)はこのシリコン不足を追い風に実用化が進み、2007年の薄膜系太陽電池生産量は全生産量の11%を占めるまでになり、特に安価なCdTe太陽電池の発展が著しい。
 また、多数のベンチャー企業が太陽光発電事業へ参入し、太陽電池製造企業数は100社を超えるとともに、GW規模の生産能力を目指す企業も複数社出現している。特にドイツ、中国などでの発展が著しく、世界のトップ企業にもQ-Cells、Suntechなど新興企業が入っており、工場規模も年産700MWを超えている。国内ではセルメーカーが10社に増加し、薄膜シリコン、CISも実用化段階に入った。
 2007年の世界の太陽光発電システム導入量の80%以上が系統連系システムであり、今後も引き続き系統連系システムが普及を牽引すると見られ、用途としては住宅用システムばかりでなくFIT制度による投資対象としての大規模発電所も増加している。
(図1-1<太陽電池の年間生産量及び導入量の推移> 略)
 世界の太陽光発電システム累積導入量は2007年度末で7GWを超えた。最大の導入国はFIT制度による普及促進策が寄与したドイツの約4GWであり、単年度の導入量でも1.1GWと世界最大の導入国になっている。我が国の累積導入量は約1900MWであるが、ここ数年、欧州各国はFIT制度の導
入により大きな市場を形成しており、特にスペインは単年度導入量では我が国を越えている。また、米国ではソーラーアメリカ計画(SAI)が発動され、併せて州レベルでの導入支援策が強化されるなど市場は拡大に転じており、さらに原油の高騰、環境問題から、インド、マレーシアなどのアジア諸国や、中東諸国でも太陽光発電の導入が進められている。我が国では新築オール電化住宅向け太陽光発電システムはほぼ自立した市場になってきたが、国の補助制度が終了した2004年以降の年間導入量が200〜290MWと停滞している。総じて太陽光発電システムの現状は市場が政策によりバックアップされている状態は変わっていないと言えよう。
 太陽光発電の設置価格は原材料の値上がりにより横這い傾向にある。世界の代表的市場での太陽電池モジュールと太陽光発電システム設置価格は図1-2に示したとおり、現状では4〜8ドル/Wの範囲にある。またIEA―PVPS*のデータからは系統連系型システムで概ね5.5〜7.5ドル/W(2007年ベース)の範囲にあるが、独立型システムでは蓄電池などが必要なため10ドル以上と高価である。我が国では住宅用システムの価格は68万円/kW程度(発電コスト換算:46円/kWh程度)であるが、2007年は原料シリコンはじめ各種材料の価格高騰により前年度に比べてわずかだが上昇している。これに対して海外では安価なCdTe太陽電池が大規模用途に進出しており価格低下を先導している。
(図1-2<太陽電池モジュール及びシステムの代表的な市場での価格推移> 略)


あとがき

 太陽光発電ロードマップ(PV2030)は、2004 年に策定され、これまで我が国の太陽光発電に関する技術開発指針として広く利用されてきた。
 本稿を纏める時点では策定後5 年が経過したが、この間、エネルギー資源問題や地球温暖化に対応できる技術として太陽光発電への期待は大きく拡大し、市場はグローバルな発展を遂げている。しかし、海外諸国の急速な発展に伴い我が国産業の地位は相対的に低下しつつある。
 今回の見直しでは過去4 年間の状況変化を踏まえ、「太陽光発電が2030 年までに主要なエネルギー技術の1 つに認知される」状況から「2050 年までには1次エネルギー需要の5〜10%を賄う」状況へと発展することを想定し、検討対象期間を2050 年まで拡大して、太陽光発電の更なる利用拡大と我が国産業の国際競争力強化のための技術開発方向について検討した。
 ここでは、太陽光発電の利用拡大に対し、経済面ではGrid Parityを段階的に発展させるとともに、利用面では太陽光発電の周囲にある産業や社会システム(利用環境)との調和も考慮して解決すべき課題とアプローチについて検討し、当面の取り組みの方向を示した。また、先端技術の開発と途上国への技術支援を主体とする国際競争力確保に向けた方策についても検討した。
 他方、最近、政府は環境問題やエネルギー問題の顕在化に対応して、太陽光発電に対して種々の導入促進施策を計画・実施しつつある。太陽光発電ロードマップ(PV2030+)は、これらの政策立案や実現に向けた施策検討に対して基礎情報を与えるとともに、その実現に向けて技術開発面からのサポートを行うものである。本ロードマップが我が国の太陽光発電の発展に大きく貢献できることを期待したい。
 本報告書を纏めている時点で、政府から日本型FIT 制度とも言うべき住宅向けの導入補助が開始されると発表され、我が国の太陽光発電が大きく発展することへの期待が膨らんでいる。しかしながら、このような局面においてこそ、基盤を整え、技術を高め、人材を育て、明日の発展に備える地道で継続した努力が望まれる。
 なお、本ロードマップは、今回を第1 次の見直しとして捉え、今後も国内外の最新の技術動向・開発動向等を踏まえ適切に見直し、その結果を以降の技術開発に反映させていくことが必要である。



図2 太陽光発電の今後の発展に対するロードマップ(PV2030+)のシナリオ


図6 今後の技術開発プロジェクトのイメージ

(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構による太陽光発電ロードマップ(PV2030+)から


戻る